説明

月経痛緩和剤

【課 題】主に経口摂取することにより月経に伴う痛みを緩和し、女性特有の月経随伴症を改善してQuality of life (生活の質、QOL)の向上効果をもたらすことが可能となる月経痛緩和剤を提供すること。
【解決手段】鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤、それを配合した飲食品、および鉄結合型ラクトフェリンを1日に10〜6,000mg摂取することにより月経痛を緩和する方法とすることで、月経に伴う痛みを緩和し、女性特有の月経随伴症を改善してQOLの向上効果をあげることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に経口摂取することにより月経に伴う痛みを緩和し、女性特有の月経随伴症を改善してQuality of life (生活の質、以下「QOL」という)の向上効果をもたらすことが可能となる月経痛緩和剤に関する。本発明の月経痛緩和剤は、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分として含有することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
現在、外部から強い精神的なストレスを受ける社会環境の中で人々は暮らしている。精神的なストレスは、運動競技や各種試験等の個人の成果が求められる場面、対人関係等のコミュニケーションが必要とされる場面、または月経や更年期等、老若男女を問わずあらゆる階層の人々に密接に結びついている。
女性特有の生理現象である月経に伴う月経随伴症は、今日の目覚しい医学の進歩にも関わらずほとんど改善されていないのが実情である。月経痛は、月経随伴症の主要な原因の一つであり、思春期から成熟期の長期間に渡り多数の女性に対するストレッサーとして影響を及ぼしている。男女雇用均等、社会制度の変化に伴って女性の社会進出は著しく、月経随伴症改善といった女性のQOL向上は、現代社会の重要な課題のひとつである。
【0003】
月経痛の原因は、子宮等の器官の異常や精神的なストレス、貧血や筋肉の急激な収縮を促す冷え等多様であるものの、医師の治療を要する疾患に該当するとの認識は少なく、月経周期を有する女性の約3分の1が鎮痛剤服用により対処するといわれている。医師が処方する場合でも、一般的には非ステロイド系抗炎症剤内服である。精神ストレスが原因とされる場合には、精神安定剤等が処方される。その他の鎮痛剤には、モルヒネ等麻薬に類するオピオイド系鎮痛剤、中枢へ作用するとされているパラセタモール(アセトアミノフェン)があるが、いずれも何らかの副作用を示す可能性があり、QOL向上には結びついていない。
【0004】
副作用のない食品に対して、鎮痛効果を求める試みが報告されている。痛覚刺激モデルを用いた動物実験で、乳汁中に含まれるラクトフェリンを髄腔内投与よって痛覚反応が弱まると、非特許引用文献1に記載されている。ラクトフェリンは、オピオイド受容体に結合しないことが分かっているため、外因性オピオイドである麻薬のように依存性に陥る危険はない。しかしながら、食品成分本来の経口摂取では同様の効果は報告されていない。
ラクトフェリンはタンパク質であり、経口摂取後、胃の消化作用によって分解されるとの認識が一般的である。ラクトフェリンの鎮痛作用を期待し、経口医薬品に多く見られる腸溶性加工を施したラクトフェリンの検討も進められており、この腸溶性加工ラクトフェリンを経口投与することによって、月経痛緩和のための鎮痛剤服用率が有意に低下することが示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−44879号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ブレイン・リサーチ(Brain Res.),65巻,239頁,2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1にあるように、ラクトフェリンには優れた鎮痛作用がある。しかしながらその効果を得るためには、特許文献1のように、胃液によるラクトフェリンの分解を回避するため、医薬品に汎用されている腸溶性に加工する特殊な技術が必須とされている。腸溶性に加工することにより高価な医薬品や特殊用途のサプリメントへの応用に限定され、一般的な飲食品への応用は困難であることが問題となっている。また、腸溶性に加工されたラクトフェリンの鎮痛効果は十分であるとは言えず、より明確な効果を有する月経痛緩和剤が求められている。
従って、本発明は、副作用がなく、特殊な腸溶性加工技術を用いることなく、日常的な摂取が可能な一般的な飲食品で月経痛を緩和し、月経随伴症を改善してQOLを向上するために有効な月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤、及び、この機能を賦与した飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする月経痛緩和剤。
(2)鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする経口用月経痛緩和剤。
(3)鉄結合型ラクトフェリンの1日当たりの摂取量が10〜6,000mgであることを特徴とする月経痛緩和剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の月経痛緩和剤を配合した飲食品。
(5)鉄結合型ラクトフェリンを1日に10〜6,000mg摂取することにより月経痛を緩和する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤及び鉄結合型ラクトフェリンを配合した飲食品は、月経痛を緩和するために有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】非摂取群における月経開始から4日間における痛みのVAS値の推移を示した説明図である。
【図2】月経痛が顕著である月経開始から3日間における痛みの程度を示すVAS値を示した説明図である。
【図3】月経痛が顕著である月経開始から3日間における月経随伴症を示すMDQスコア(痛み因子)を示した説明図である。
【図4】月経痛が顕著である月経開始から3日間における月経随伴症を示すMDQスコア(集中力因子)を示した説明図である。
【図5】月経痛が顕著である月経開始から3日間における月経随伴症を示すMDQスコア(行動変化因子)を示した説明図である。
【図6】月経痛が顕著である月経開始から3日間における生活に及ぼす影響を示すVRS値を示した説明図である。
【図7】月経痛が顕著である月経開始から3日間に鎮痛剤を服用した被験者の割合を示した説明図である。
【図8】鎮痛剤を服用した被験者における服用頻度の割合を示した説明図である。
【図9】月経に伴う被験者の血中赤血球数の変化量を示した説明図である。
【図10】月経に伴う被験者の血中ヘモグロビン濃度の変化量を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めてきたところ、鉄結合型ラクトフェリンを摂取ないし経口摂取することで月経痛が緩和され、月経随伴症に伴うQOL低下を抑制し、月経時の鎮痛剤服用率の低下が促されることを見出した。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリン1分子当たり鉄3〜200分子を結合させることにより、耐熱性・耐消化性の向上を図った食品素材である。鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリンと比較して体内における安定性が高いことから、腸溶性等特殊な加工の必要がなく、少ない量で効果を発揮することができる。また、溶解性及び保存安定性に優れ、幅広い用途特性を有することから、一般的な飲食品をはじめ、サプリメントへの応用も容易であり、本発明を完成するに至った。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ラクトフェリン類は、通常1分子当たり2原子の鉄をキレート結合する能力を有しており、これはラクトフェリン類1g当たり鉄1.4mgを保持することに相当する。それに対して、本発明で用いる鉄結合型ラクトフェリンは、ラクトフェリン類1分子当たり少なくとも3原子の鉄を、好ましくは3〜200原子の鉄を安定に保持できるようにしたものである。このような鉄結合型ラクトフェリンとすることにより、多量の鉄をラクトフェリン類に保持させることができる。
このような鉄結合型ラクトフェリンは従来から知られており、例えば、ラクトフェリンを水に溶解し、これに鉄化合物を添加してラクトフェリン類と鉄とを反応させて溶液中の鉄を非遊離状態にして得られる鉄−ラクトフェリン(特開平4-141067号公報)、ラクトフェリン溶液に鉄塩を添加し、アルカリを加えて溶液のpHを上げて得られる鉄を安定に保持するラクトフェリン粉末(特開平7- 17875号公報)、ラクトフェリンのアミノ基に重炭酸イオンを介して鉄が結合した耐熱性鉄−ラクトフェリン結合体(特開平6-239900号公報)あるいは、炭酸及び/または重炭酸とラクトフェリンとを含む溶液に鉄を含有する溶液を混合して得られる鉄−ラクトフェリン複合体(特開平7-304798号公報)等を例示することができる。また、鉄−ラクトフェリン分解物も例示することができる。
【0013】
本発明において用いる鉄結合型ラクトフェリンは、前記いずれの鉄結合型ラクトフェリンであっても良い。鉄結合型ラクトフェリンとは、鉄とラクトフェリンとが結合した状態のものであって、鉄とラクトフェリンが結合しているか、あるいは他の物質を介して鉄とラクトフェリンが結合しているものであって、いわゆる、鉄がイオン状態で存在していないものであればいかなるものでも良い。特に前記の「鉄−ラクトフェリン結合体」または「鉄−ラクトフェリン複合体」であることが望ましい。これらの鉄結合型ラクトフェリンは、鉄の収斂味や金属味等が全くないという特徴も有しているので、風味上の問題もない。
【0014】
鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に、原料として使用できるラクトフェリン類としては、哺乳類の乳等の分泌液から分離されるラクトフェリンを例示することができる。これは乳由来の天然成分であるから、摂取した場合の安全性が高く、食経験も長いため長期間連続摂取しても副作用を示さないことが明らかである。従って、経口による摂取が適宜可能である。
さらに、血液や臓器等から分離されるトランスフェリンや卵等から分離されるオボトランスフェリン等もラクトフェリンと同様に使用することができる。これらのラクトフェリン類については、既に大量に調製する方法がいくつも知られており、どのような方法で調製されたラクトフェリン類でもよい。また、ラクトフェリン類は、完全に単離されている必要はなく、他の成分が含まれていても構わない。さらに、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等から遺伝子操作により産生されたラクトフェリン類も使用することが可能である。そして、ラクトフェリン類をトリプシン、ペプシン、キモトリプシン等の蛋白分解酵素により、或いは、酸やアルカリにより分解したラクトフェリン類分解物もラクトフェリン類として使用することができる。
【0015】
また、鉄結合型ラクトフェリンを製造する際に原料として使用できる鉄としては、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、クエン酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄等を例示することができる。
【0016】
本発明の月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤は、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とするものであるが、他の栄養成分、例えばカルシウム、マグネシウム、ビタミンD、ビタミンK、各種オリゴ糖等を併せて配合しても構わない。
【0017】
また、そのままあるいは必要に応じて他の公知の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して、常法により顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、ドライシロップ剤、液剤等の経口製剤とすることができる。賦形剤としては、例えばマンニトール、キシリトール、チルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン、米デンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、デキストリン、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、カルボキシビニルポリマー、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。ドリンク剤の場合、必要に応じて他の生理活性成分、ミネラル、ビタミン、栄養成分、香料等を混合することにより、嗜好性を持たせることもできる。
【0018】
鉄結合型ラクトフェリンは、調製した直後の状態である液状のまま用いることもできるし、更に、凍結乾燥や噴霧乾燥等によって乾燥を行い粉末化したものとしても用いることができる。
【0019】
なお、月経痛緩和効果とは月経に伴う痛み、月経随伴症及び生活に及ぼす悪影響を抑制する効果等を言うが、特に鉄結合型ラクトフェリンの摂取により、月経痛が顕著である月経開始から3日間の痛み、月経随伴症及び生活に及ぼす悪影響を抑制すること等をいう。
【0020】
また、上述のようにして得られる鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とし配合した飲食品であるが、飲食品としてはどのような飲食品でも良く、鉄結合型ラクトフェリン自体であっても良いし、鉄結合型ラクトフェリンを配合した飲食品としても良い。鉄結合型ラクトフェリンは、飲食時にどのような飲食品に添加しても良く、飲食品の製造工程中に製品の原料に配合しても良い。飲食品の例として、チーズ、バター、発酵乳等の乳食品、ドリンクヨーグルト、コーヒー飲料、果汁等の飲料、ゼリー、プリン、クッキー、ビスケット、ウエハース等の菓子、更には、冷凍食品等の飲食品を挙げることができる。
なお、本発明品は鉄を含んでいるため、鉄を補助的に摂取することができることはいうまでもない。すなわち、鉄不足を解消する鉄強化を目的とした飲食品の場合、鉄の酸化促進作用や風味への影響が問題となるが、本発明品により、飲食品に配合しにくい鉄も同時に摂取することができる。
【0021】
月経痛緩和効果を発揮させるためには、鉄結合型ラクトフェリンの摂取量は、体重や年齢等を考慮して適宜決定すればよいが、通常成人の場合、鉄結合型ラクトフェリンを1日当たり、10〜6,000mg、好ましくは100〜2,000mg、更に好ましくは150〜1,000mg、より好ましくは150〜900mg、特により好ましくは150〜300mg未満を摂取できるよう配合量等を調整すればよい。このように低用量でも効果が認められる。本発明の月経痛緩和作用を有する成分は、月経痛緩和剤として、経口用月経痛緩和剤、あるいはそれらを配合した飲食品を経口摂取することによって、月経痛緩和作用を発揮する。本発明の月経痛緩和剤は、消化酵素による分解に抵抗性を示すこと及び胃あれを起こさないため、食前、食間及び食後等、いつでも摂取することが可能である。また、安全性に何ら問題もないため、所要量をまとめて摂取しても、複数回に分割して摂取しても良く、鉄結合型ラクトフェリンを1日に10〜6,000mg摂取することにより月経痛を緩和する方法としても有用である。
【0022】
本発明の月経痛緩和剤として使用する鉄結合型ラクトフェリンは、安全性に何ら問題はなく、無味無臭であり、実用上極めて利用価値が高い。更に鉄結合型ラクトフェリンは粉末で提供することが可能であり、耐消化性、耐熱性、溶解性に優れているため、多くの飲食品に応用することができ、生活における様々なシーンにおいて活用可能である。よって、本発明により、月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤並びにそれを配合してなる飲食品、更には、鉄結合型ラクトフェリンを1日に10〜6,000mg摂取することにより月経痛を緩和する方法を幅広く提供することが可能となり、社会進出著しい女性のQOL向上といった社会的貢献度は非常に大きい。
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製1)
ラクトフェリン(TATUA社製)90g、塩化第二鉄6水和物20g、重炭酸ナトリウム5gを水10リットルに溶解し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。
本溶液を凍結乾燥した後、鉄結合型ラクトフェリン凍結乾燥物の鉄含量を測定した結果、ラクトフェリン1分子当たり鉄を70原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(70 FeLF)粉末とした。これは、そのまま本発明の月経痛緩和剤として使用し得るものであった。
[試験例1]
【0024】
(鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合の月経痛緩和効果)
本試験は、鉄結合型ラクトフェリンを摂取した場合の月経痛緩和効果を調べるために行った。
【0025】
(鉄結合型ラクトフェリン食、対照食)
実施例1で得られた鉄結合型ラクトフェリンを一定量含む飲料を鉄結合型ラクトフェリン食とした。対照食は、鉄結合型ラクトフェリン食とタンパク質量及び見た目の色を合わせるために、卵白粉末及びカラメル色素を用いて飲料を調製した。鉄結合型ラクトフェリン食及び対照食の組成を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
(試験方法)
24歳以上の健常者18名を対象として2群に分け、鉄結合型ラクトフェリン食及び対照食を用いたクロスオーバー試験を実施した。試験期間は3回の月経周期とし、高温期に移行して5日目、10日目から月経開始4日目の心身状態や月経痛の評価に関する心理的評価及び日常生活への影響の程度に関する検査を行った。はじめの月経周期では、各群とも鉄結合型ラクトフェリン食及び対照食の摂食なしに、検査のみを実施した(以下、非摂取群)。次の月経周期から、各群それぞれ鉄結合型ラクトフェリン食または対照食を高温期10日目から月経開始4日まで1日1回摂食し、同様の検査を行った。また、月経開始前と鉄結合型ラクトフェリン食または対照食摂取時の月経が終了した直後の血液を採取し、貧血に関連する項目の検査を行った。
【0028】
(検査内容)
(1)ヴィジュアルアナログスケール法(VAS)による月経痛の評価
VAS法は視覚的アナログスケールとも呼ばれ、臨床の現場で一般的に用いられる「痛み」を評価する手法である。長さが100mmの線を引き、左端点を無痛(no pain)、右端点を最悪の痛み(the worst pain I ever felt)と定義し、その時点で感じている痛みがどの程度であるか記入する。左端点からの長さを痛みの強度として数値化する。VASには100段階評価法と10段階評価法があるが、本試験において100段階評価法を採用した。
【0029】
(2)Menstrual Distress Questionnaires(MDQ)法によるPMSの評価
MDQ法は、月経に関連する諸症状の指標としてMoos(1968)により開発された手法である。痛みの因子、集中力因子、自律神経因子、行動変化因子、、水分貯留因子、否定的感情因子、気分高揚因子及びコントロール因子の49項目から構成されており、それぞれ0〜3の4件法で回答を求めた。尚、各因子の質問項目は表2に示した通りである。
【0030】
【表2−1】

【表2−2】

【0031】
(3)バーバルレーティングスケール法(VRS)によるQOLの評価
日常生活への影響(家事・労働の支障頻度、全身症状;頭痛、疲労感、吐き気、下痢及び便秘の頻度、鎮痛剤の使用頻度)の程度をスコアで定義し、数値化する評価法である。スコアの合計をバーバル値として使用した。また、鎮痛剤使用率の評価は、VRSの鎮痛剤の使用頻度スコアに基づいて行った。
【0032】
(4)血液による貧血状態の評価
対照食及び鉄結合型ラクトフェリン食摂取時の月経が終了した直後の血中の赤血球数とヘモグロビン濃度を測定し、月経開始前からの変化量から貧血状態を評価した。
【0033】
(検査結果)
非摂取群における月経開始から4日間における痛みの指標であるVAS値の推移を図1に示した。月経開始4日目のVAS値は、月経開始1日目、2日目及び3日目のVAS値と比較して有意に減少した。即ち、月経痛は月経開始から3日間に顕著に表れ、4日目には収束に向かうことが明らかとなった。
【0034】
非摂取群、対照食摂取群及び鉄結合型ラクトフェリン摂取群の月経開始から3日間における痛みの指標であるVAS値の合計を図2に示した。また、痛みに関わる月経随伴症の指標であるMDQスコア(痛み因子)の3日間の合計を図3に示した。鉄結合型ラクトフェリン摂取群のVAS値及びMDQスコアは、非摂取群及び対照食摂取群と比較して有意に減少した(図2、3)。即ち、鉄結合型ラクトフェリンは、月経痛を緩和する効果があることが明らかとなった。
【0035】
日常の集中力低下に関わる月経随伴症の指標であるMDQスコア(集中力因子)の3日間の合計を図4に示した。鉄結合型ラクトフェリン摂取群のMDQスコアは、非摂取群及び対照食摂取群と比較して有意に減少した。即ち、鉄結合型ラクトフェリンは、月経痛を緩和することにより集中力の低下を抑制する効果があることが明らかとなった。
【0036】
日常の行動意欲や業務効率の低下に関わる月経随伴症の指標であるMDQスコア(行動変化因子)の3日間の合計を図5に示した。鉄結合型ラクトフェリン摂取群のMDQスコアは、非摂取群及び対照食摂取群と比較して有意に減少した。即ち、鉄結合型ラクトフェリンは、月経痛を緩和することにより日常の行動意欲及び業務効率の低下を抑制する効果があることが明らかとなった。
【0037】
月経痛が生活に及ぼす影響をスコア化したVRS値を図6に示した。鉄結合型ラクトフェリン摂取群のVRS値は、非摂取群及び対照食摂取群と比較して有意に減少した。VRS値は生活に支障を及ぼす頻度、月経痛以外の症状の頻度及び鎮痛剤の使用頻度を総合してスコア化した値である。よって、鉄結合型ラクトフェリンは月経痛を主とした月経随伴症を軽減し、生活に支障を及ぼす頻度を抑制している可能性が示唆された。
【0038】
月経痛が顕著である月経開始から3日間に鎮痛剤を使用した被験者の割合を図7に示した。その割合は非摂取群が最も多く、鉄結合型ラクトフェリン摂取群は最も少なかった。また、鎮痛剤を服用した被験者の服用回数の割合(使用頻度)を図8に示した。1日に「1回」、「2回」及び「2回以上服用しても効果が表れない」の3段階に分類して評価した結果、非摂取群及び対照食摂取群において1日に2回以上服用しても効果が表れないケースが認められた。一方、鉄結合型ラクトフェリン摂取群において鎮痛剤の効果が表れないケースは認められなかった。これらのことから、鉄結合型ラクトフェリンは、月経時の鎮痛剤の使用頻度を抑制する効果があることが明らかとなった。
【0039】
これらの結果から、鉄結合型ラクトフェリンは月経痛の緩和、月経痛に伴うQOL低下の改善効果、及び、月経時に鎮痛剤服用率の低下を促す効果があることが明らかとなった。
【0040】
月経に伴う血液中の赤血球数及びヘモグロビン濃度の変化量を図9、10に示した。対照食を摂取した群では、赤血球数及びヘモグロビン濃度は月経開始前と比較して減少して貧血状態になる。一方、鉄結合型ラクトフェリンを摂取した群では、そのような減少は認めらなかった。これらのことから、鉄結合型ラクトフェリンは月経による貧血を抑制することが明らかとなった。
【実施例2】
【0041】
(鉄結合型ラクトフェリンの調製2)
水2リットルに重炭酸ナトリウム400gを添加し、撹拌機で撹拌して調製した重炭酸ナトリウム過飽和溶液中に、水8リットルに市販のラクトフェリン(DMV社製) 90 g と塩化第二鉄6水和物60 gを溶解した溶液を撹拌しながら添加し、鉄結合型ラクトフェリンを含む溶液を調製した。この溶液を分子量 5,000カットの限外濾過膜で脱塩及び濃縮した後、水を加えて容量10リットルの鉄結合型ラクトフェリン溶液とした。本溶液を凍結乾燥した後、鉄含量を測定したところ、ラクトフェリン1分子当たりに鉄を 200原子含んでいたことから、本凍結乾燥物を鉄結合型ラクトフェリン(200FeLF)粉末とした。これはそのまま月経痛緩和剤として使用し得るものであった。本月経痛緩和剤を1日当たり鉄結合ラクトフェリン量として150mg摂取し、試験例1と同様の方法にて試験を行った結果、月経痛緩和効果が認められた。
【実施例3】
【0042】
実施例1で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末とカルシウムとを配合し、タブレットを製造した。すなわち、炭酸カルシウム20%、鉄結合型ラクトフェリン粉末10%、マルトース40%、エリスリトール16%、ソルビトール2%、香料4%、甘味料 0.5%、賦形剤5%、滑沢剤 2.5%の組成で原料を混合し、常法により打錠し、月経痛緩和用タブレットを製造した。
なお、本月経痛緩和用タブレットを用いて1日当たり鉄結合ラクトフェリン量として312mg摂取し、試験例1と同様の方法にて試験を行った結果、月経痛緩和効果が認められた。
【実施例4】
【0043】
実施例2で調製した鉄結合型ラクトフェリンを配合した清涼飲料水を調製した。すなわち、組成が鉄結合型ラクトフェリン粉末0.2%、50%乳酸溶液0.12%、マルチトール 7.5%、香料 0.2%、水 91.98%である原料を混合し、プレート殺菌機を用いて90℃、15秒間殺菌し、月経痛緩和用清涼飲料水を製造した。
なお、本抗精神疲用清涼飲料水を1日当たり150ml摂取し、試験例1と同様の方法にて試験を行った結果、月経痛緩和効果が認められた。
【実施例5】
【0044】
実施例2で調製した鉄結合型ラクトフェリンを、鉄含量が30mg/100gとなるように生乳に配合し、150kgf/cm2で均質処理を行い、プレート殺菌機を用いて 130℃、2秒間殺菌し、月経痛緩和用乳飲料を製造した。
なお、本月経痛緩和用乳飲料を1日当たり500ml摂取し、試験例1と同様の方法にて試験を行った結果、月経痛緩和効果が認められた。
【実施例6】
【0045】
実施例2で調製した鉄結合型ラクトフェリン粉末とカルシウムとを配合したタブレットを製造した。すなわち、炭酸カルシウム25%、鉄結合型ラクトフェリン粉末5%、マルトース40%、エリスリトール16%、ソルビトール2%、香料4%、甘味料 0.5%、賦形剤5%、滑沢剤 2.5%の組成で原料を混合し、常法により打錠し、月経痛緩和用タブレットを製造した。
なお、本月経痛緩和用タブレットを用いて1日当たりの鉄結合ラクトフェリン量として摂取量が150mgとなるように試験例1と同様方法にて試験を行った結果、月経痛緩和効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により、鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする月経痛緩和剤、経口用月経痛緩和剤、及びこれら月経痛緩和剤を配合した飲食品を提供することができ、女性特有の月経随伴症を改善してQOL (生活の質)の向上効果をもたらすことが可能となった。更に同時に鉄を含んでいるため、鉄を補助的に摂取することができ、鉄不足も解消することができる。
本発明の月経痛緩和剤は、体内における安定性が高いだけでなく、少ない量で効果を発揮でき、また、溶解性及び保存安定性に優れ、液状、粉末状とすることもでき幅広い用途特性を有することから、一般的な飲食品をはじめ、サプリメントへの応用も容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする月経痛緩和剤。
【請求項2】
鉄結合型ラクトフェリンを有効成分とする経口用月経痛緩和剤。
【請求項3】
鉄結合型ラクトフェリンの1日当たりの摂取量が10〜6,000mgであることを
特徴とする月経痛緩和剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の月経痛緩和剤を配合した飲食品。
【請求項5】
鉄結合型ラクトフェリンを1日に10〜6,000mg摂取することにより月経痛を
緩和する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−26217(P2011−26217A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171449(P2009−171449)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】