説明

有害節足動物防除性繊維及びその製造方法、並びに該繊維を使用した繊維製品

【課題】ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することが可能であり、薬効が長期間持続する有害節足動物防除性繊維とその製造方法及びそれを使用した繊維製品を実現する。
【解決手段】本発明の有害節足動物防除性繊維は、バインダー樹脂と、一般式(1)
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させることにより得られる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害節足動物防除性繊維及びその製造方法、並びに該繊維を使用した繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニ等のヒョウヒダニ類はその虫体、死体、糞等がアレルギーの原因物質となり、人体にアトピー性皮膚炎、喘息等さまざまな害を与える。また、ミナミツメダニやクワガタツメダニ等のツメダニ類はヒョウヒダニ類やコナダニ類を餌として繁殖し、しばしば人を刺す。イエダニの本来の宿主はネズミや鳥であるが、這い出したダニが人を刺咬吸血する。これらのダニ類を防除するためには、殺ダニ剤や殺虫剤のような有害節足動物防除化合物をエアゾール、くん煙剤等に製剤し、ダニ類の発生場所に処理する方法が一般的であった(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
有害節足動物防除化合物は多数知られているが、その中でエトキサゾール(「2−(2,6−ジフルオロフェニル)−4−(2−エトキシ−4−tert−ブチルフェニル)−2−オキサゾリン」)に代表されるジヒドロオキサゾール系化合物はダニ類に対し優れた防除活性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平4−17952号公報(1992年3月26日公告)
【非特許文献1】「都市害虫百科」、1993年発行、朝倉書店発行、P.180〜200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有害節足動物防除組成物をダニの発生源に処理する方法は、手間がかかる上に、ダニ類が棲息している場所に有害節足動物防除化合物が充分到達できないことがあるという問題を生じる。また、長期の残効性が期待できないという問題を有していた。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することが可能であり、有害節足動物防除化合物の効力を長期間持続させることができる有害節足動物防除性繊維及びその製造方法、並びに該繊維を使用した繊維製品を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、バインダー樹脂と、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させることにより得られる有害節足動物防除性繊維またはそれを用いた繊維製品が、ダニに代表される有害節足動物を長期間にわたり防除できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る有害節足動物防除性繊維は、上記課題を解決するために、バインダー樹脂と一般式(1)で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させることにより得られることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る有害節足動物防除性繊維製品は、上記課題を解決するために、上記本発明に係る有害節足動物防除性繊維を用いることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る有害節足動物の防除方法は、上記課題を解決するために、本発明に係る上記有害節足動物防除性繊維製品を用いることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る有害節足動物防除性繊維の製造方法は、上記課題を解決するために、バインダー樹脂と、下記一般式(1)
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸透し、次いで該繊維を乾燥させることを特徴としている。
【0015】
上記方法によれば、ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することが可能である有害節足動物防除性繊維を製造することができる。更には、該有害節足動物は、防除性繊維有害節足動物防除化合物が繊維に強固に付着しているため、長時間その薬効が持続する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る有害節足動物防除性繊維は、以上のように、バインダー樹脂と、一般式(1)で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させることにより得られることを特徴としている。
【0017】
このため、繊維表面に有害節足動物防除化合物をバインダー樹脂とともに付着させていることにより、ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することができる。ダニ類に代表される有害節足動物は、カーペットの内部や裏、畳の内部、布団の内部等暗くて湿度の高い場所に生息しやすいので、そのような場所に本発明の繊維を配置すれば、効率よく防除できることになる。また、有害節足動物防除化合物が繊維表面に強固に付着しているため、この薬効は長期間持続することになる。
【0018】
従って、上記構成によれば、ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することが可能であり、有害節足動物防除化合物の効力を長期間持続させることができる有害節足動物防除性繊維を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。尚、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0020】
本実施の形態に係る有害節足動物防除性繊維は、原料繊維表面に、下記一般式(1)
【0021】
【化3】

【0022】
[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物を、バインダー樹脂とともに付着させることにより得られる。
【0023】
上記一般式(1)において、Xはハロゲン原子又はメチル基である。上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、より好ましくはフッ素原子である。
【0024】
上記一般式(1)において、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子である。上記アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6の範囲内の直鎖若しくは分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0025】
また、上記アルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜6の範囲内の直鎖若しくは分岐状のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。
【0026】
上記有害節足動物防除化合物は、一般式(1)で表される構造を有する化合物であれば特に限定されないが、Xがフッ素原子、Yが低級アルキル基又は低級アルコキシ基、m及びnが2である、一般式(1)で表される構造を有する化合物がより好ましい。
【0027】
特に効力、作用機構、安定性等の点からエトキサゾール(Xm:2,6−ジフルオロ、Yn:2−エトキシ,4−ターシャリーブチル)が好ましい。
【0028】
上記有害節足動物防除化合物の付着量は、上記原料繊維に対して0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。付着量が0.001質量%未満では薬効が落ちる傾向となり、0.5質量%を超えるとコストが高くなる。上記有害節足動物防除化合物は原料繊維表面に薄膜状に付着していることが好ましい。
【0029】
本実施の形態に係る有害節足動物防除性繊維では、耐洗濯性を向上させるため、バインダー樹脂を、上記原料繊維に対して0.01質量%以上、10質量%以下の範囲内で付着させることが好ましい。0.01質量%未満では耐洗濯性が落ちる傾向となり、10質量%を超えると風合いが硬くなる等の影響が出やすい。
【0030】
上記バインダー樹脂としては、N−メチロール(尿素)系、スルホン系、エポキシ系、グリオキサゾール系、ポリカルボン酸系、アクリル系及びウレタン系等の樹脂が使用できるが、アクリル系及びウレタン系が接着性及び風合いの点からより好ましい。アクリル系樹脂としては、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を含むものが使用しやすい。
【0031】
下記一般式(1)
【0032】
【化4】

【0033】
[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物を原料繊維に付着させる加工の際には、バインダー樹脂と、該化合物の水乳濁液とを使用する。本発明において「水乳濁液」とは、バインダー樹脂及び/又は該化合物が水中にて乳化状態若しくは懸濁状態で分散させたものを意味する。
【0034】
上記有害節足動物防除化合物はそのままでは通常水に乳化若しくは分散しない。このため、通常は、乳剤、懸濁剤等の界面活性剤(更に必要により有機溶剤)を含有する適当な製剤に調製した後、水に希釈して使用する。また、バインダー樹脂もそのままでは水に乳化若しくは懸濁しないので、同様に、乳剤、懸濁剤等の界面活性剤(更に必要により有機溶剤)を含有する濃厚液を水に希釈して使用する。
【0035】
バインダー樹脂と上記有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬させる際には、原料繊維に対する上記有害節足動物防除化合物の濃度は、0.001〜0.5%owf(owfはon the weight of fiberの略)の範囲内とすることが好ましく、0.001〜0.1%owfの範囲内とすることがより好ましい。また、原料繊維に対するバインダー樹脂の濃度は、通常0.01〜10%owfの範囲内とすることが好ましく、0.01〜1%owfの範囲内とすることがより好ましい。尚、上記「%owf」とは、一般的に、浸染において、被染物に対する染料、助剤の使用量の質量%を意味し(例えば、「染色事典」、1982年3月25日、朝倉書店発行、P.47参照)、本明細書では、原料繊維の質量に対する、有効成分(上記場合では、有害節足動物防除化合物若しくはバインダー樹脂)の質量%を意味する。
【0036】
防除対象となる有害節足動物としては、コナヒョウヒダニやヤケヒョウヒダニ等のヒョウヒダニ類、ミナミツメダニやクワガタツメダニ等のツメダニ類、ケナガコナダニ等のコナダニ類及びイエダニ等のダニ類が主要なものであるが、その他にイガ類、カツオブシムシ類のような直接繊維や繊維製品を加害する昆虫類が挙げられる。更には、ノミ類、ゴキブリ類、シロアリ類、アブラムシ類等の昆虫や、ムカデ、ゲジ、ダンゴムシ等の節足動物も防除対象とすることができる。
【0037】
本実施の形態に係る有害節足動物防除性繊維は、いかなる製品にも使用することができるが、綿、糸、繊維シート等であることが好ましい。繊維シートとしては、例えば、不織布、織物、編物等が挙げられる。具体的な製品用途としては、カーペットの基布、車両の内装材、インテリア材(椅子張り、椅子のクッション材、カーテン、壁紙等)、畳の内部シート及び布団、ぬいぐるみ、クッション等の詰物体の中綿等に適用できる。
【0038】
本実施の形態に係る有害節足動物防除性繊維の製造方法は、バインダー樹脂と、下記一般式(1)
【0039】
【化5】

【0040】
[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させる方法であり、該繊維表面に有害節足動物防除化合物をバインダー樹脂とともに付着させることができる。
【0041】
上記水乳濁液に原料繊維を浸漬させる方法は特に限定されず、連続式やバッチ式の何れでもよく、浸漬時の処理温度は通常常温〜60℃の範囲、処理時間は通常30〜60分の範囲であり、乾燥温度は通常80〜130℃の範囲、乾燥時間は通常120〜180分の範囲である。また、本発明に係る有害節足動物防除繊維及びそれを用いた繊維製品に対して、必要に応じてバインダー樹脂に対するキュアリング処理を行う。キュアリング処理の温度は通常120〜170℃の範囲、処理時間は通常1〜30分の範囲である。
【0042】
有害節足動物防除化合物を繊維に担持させる方法としては、該有害節足動物防除化合物の粉状物を直接原料繊維に接触させる方法や、該有害節足動物防除化合物を溶解した有機溶媒に原料繊維を接触させる方法等種々存在する。しかしながら、前者の方法では、有害節足動物防除化合物の薬効の持続性が不充分であり、後者の方法では、処理液に対する有害節足動物防除化合物の原料繊維への付着率が不充分である。これに対して、本発明に係る製造方法により得られる繊維製品は、有害節足動物防除化合物の薬効が長時間持続し、また処理液に対する有害節足動物防除化合物の付着率も満足のいくものである。
【0043】
本実施の形態に係る有害節足動物防除性繊維又は繊維製品には、対象となる有害節足動物の適用範囲を広げるために、他の有機リン系化合物、カーバメイト系化合物、ピレスロイド系化合物、フェニルピラゾール系化合物、ネオニコチノイド系化合物、幼若ホルモン様化合物、キチン合成阻害剤等の殺虫剤や他の殺ダニ剤を併用することができる。また、目的に応じ、ビス−(2,3,3,3−テトラクロロプロピル)エーテル(S−421)、N−(2−エチルヘキシル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(MGK264)、α−[2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ]−4,5−メチルジオキシ−2−プロピルトルエン(PBO)等の共力剤、抗菌剤、防黴剤等を適宜併用してもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0045】
〔参考例1〕
(乳剤の調製)
エトキサゾール5gをジエチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル63g及びジエチレングリコールモノブチルエーテル20gに溶解し、界面活性剤ポリオキシアルキレンアリルフェニールエーテル(n=12)5g、ポリオキシエチレン硬化ひまし油5g及びソルビタンモノオレエート2gを加え、充分撹拌することにより、エトキサゾール5%乳剤を得た。
【0046】
(カーペットの作製)
作製した上記乳剤20gに水を加えて10リットルとし、振とう式試験機(日染社製)により、25℃で1時間振とうした(振とうの振幅:5cm、振動数:20回/分)。その後70℃に昇温し、同温度で30分間振とうした(振とうの振幅:5cm、振動数:20回/分)。この溶液中に、麻番手14番のジュート(麻繊維)100%使いの単糸紡績糸を2kg浸漬させた。浸漬時のエトキサゾールの繊維に対する濃度は0.05%owfであった。浸漬処理後、ジュート紡績糸を絞り、85℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した。なお、エトキサゾールの繊維に対する付着量は0.01質量%であった。
【0047】
得られた乳剤処理後のジュート紡績糸を緯糸に使用し、経糸には乳剤を付着させていないジュート100%使いの紡績糸を使用し、経糸の締糸にはポリエステル100%使いの紡績糸を使用し、立毛部はアクリル繊維80質量%、ナイロン繊維20質量%を使用してカーペットを作製した。このカーペットの地組織部の経糸密度は32本/インチ、緯糸密度は18本/インチの平組織織物、経糸、緯糸とも14/1(麻番手)とした。締糸は3/20(毛番手)とし、立毛部は3/8(毛番手)、パイル長は8mmとした。このカーペットの目付けは1760g/mであった。
【0048】
(防ダニ効果試験)
上記で得られた乳剤処理カーペットと、同様に製造した乳剤無加工カーペットとを、それぞれ縦10cm、横10cmに切り、その各4辺をコピー用紙及びビニールテープで囲い、それぞれの表面にヤケヒョウヒダニ400〜600頭と少量の餌(オリエンタル酵母株式会社製MF粉末)を撒いた。その後26℃、湿度75±5%の恒温室に放置した。1ヶ月後及び2ヶ月後に、カーペットの表面に透明の粘着テープを貼り、カーペットの下側から約60℃の熱をかけてダニを上へ追い出し、粘着テープに着いたダニ数をカウントした。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すとおり、無加工品には多数のダニの成育が認められたが、本参考例1のカーペット(エトキサゾール加工品)にはダニの成育がほとんど認められず、高い防除効果を示した。特に2ヶ月後には無処理カーペットでは著しいダニの増殖が認められたのに対し、本参考例1のカーペット(エトキサゾール加工品)はダニが減少し、時間の経過とともに防除効果が高まる傾向が確認できた。
【0051】
〔参考例2〕
(乳剤処理糸の作製)
85℃の熱風乾燥機で2時間乾燥する替わりに、室温にて一昼夜乾燥したこと以外は、参考例1と同様の操作を行い、乳剤処理後のジュート紡績糸を得た。作製したジュート紡績糸を、40℃及び60℃の恒温室にて保存し、保存0ヶ月及び2ヶ月後にジュート紡績糸に残存している有効成分(エトキサゾール)の分析を行った。
【0052】
(有効成分の分析)
各保存期間のジュート紡績糸を約4g量り取り、ソックスレー抽出器を用いてメタノールによりエトキサゾールの抽出を行った。得られた抽出液をエバポレーターにて濃縮後、メタノールにてメスアップし、高速液体クロマトグラフ法により分析を行った。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、糸に加工されたエトキサゾールは長期間安定に存在することが確認された。
【0055】
〔実施例1〕
本実施例では有害節足動物防除化合物とバインダー樹脂との組み合わせについて検討した。使用したバインダー樹脂は次のとおりである。
【0056】
(1)アクリル系樹脂:山陽色素株式会社製「エマコールCT」
(2)アクリル系樹脂:松本油脂製薬株式会社製「マーポゾールF700」
(3)ウレタン系樹脂:東亜合成株式会社製「KB3000」
(4)ポリオキサゾール系樹脂:DIK株式会社製「バッカミンFM−28」
(5)エポキシ系樹脂:DIK株式会社製「CR−5L」
水1リットルに対し上記樹脂10gを、乳剤20gを希釈することに用いる水に加えたこと以外は、参考例1と同様の操作を行い、上記各バインダー樹脂をそれぞれ含有するカーペットを作製した。
【0057】
得られた各カーペットのサンプルをJIS L 0217 103法に準拠した方法で繰り返し洗濯処理を行なった。洗濯機は家庭用の全自動型を用い、水温は常温(20℃)、水量は33リットル、洗剤は花王社製アタックを20gとし、カーペットのサンプルを入れ、負荷布を加え繊維の総重量を1kgとして、洗い5分、脱水2分、すすぎ2分、脱水2分、すすぎ2分、脱水3分を1サイクルとして、乾燥を入れずに30回繰り返した。終了後、カーペットのサンプルを乾燥させて、繰り返し洗濯後のサンプルとした。以上の結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
*A:最も優れる、B:やや優れる、C:普通、D:やや劣る
洗濯後のカーペットサンプルを用いて参考例1と同様に防ダニ試験を行なったところ、2ヶ月後のダニ数は200頭以下となり、良好な結果が得られた。以上の結果から耐洗濯性を有することが確認された。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の有害節足動物防除性繊維及び該繊維を使用した繊維製品は、ダニ類に代表される有害節足動物の棲息しやすい場所に配置することが可能であり、有害節足動物防除化合物の効力を長期間持続させることができる。このため、有害節足動物防除の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、
下記一般式(1)
【化1】

[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸漬し、次いで該繊維を乾燥させることにより得られることを特徴とする有害節足動物防除性繊維。
【請求項2】
上記有害節足動物防除化合物がエトキサゾールであることを特徴とする請求項1に記載の有害節足動物防除性繊維。
【請求項3】
上記水乳濁液中の上記有害節足動物防除化合物の濃度は、原料繊維に対して0.001%owf以上0.5%owf以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有害節足動物防除性繊維。
【請求項4】
上記水乳濁液中の上記バインダー樹脂の濃度は、原料繊維に対して0.01%owf以上10%owf以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の有害節足動物防除性繊維。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の有害節足動物防除性繊維を用いることを特徴とする有害節足動物防除性繊維製品。
【請求項6】
有害節足動物防除性繊維製品の形態が、綿、糸、不織布、織物、編物、カーペットの基布、壁紙、畳の内部シート又は詰物体の中綿であることを特徴とする請求項5に記載の有害節足動物防除性繊維製品。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の有害節足動物防除性繊維製品を用いることを特徴とする有害節足動物の防除方法。
【請求項8】
上記有害節足動物がダニであることを特徴とする請求項7に記載の有害節足動物の防除方法。
【請求項9】
バインダー樹脂と、
下記一般式(1)
【化2】

[式中、Xはハロゲン原子又はメチル基を表し、Yはアルキル基、アルコキシ基、メチルメルカプト基又はハロゲン原子を表し、m及びnは、それぞれ独立して0から5までの整数を表す]
で示される構造を有する有害節足動物防除化合物とを含有する水乳濁液に原料繊維を浸透し、次いで該繊維を乾燥させることを特徴とする有害節足動物防除性繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−214778(P2008−214778A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50185(P2007−50185)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(505468071)株式会社ノームラトレーディング (2)
【出願人】(505468082)共和染工株式会社 (2)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【出願人】(591057511)ヤシマ産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】