説明

有機−無機ハイブリッド樹脂組成物、それを用いた光学素子、及び該組成物の製造方法

【課題】本発明では、エネルギー硬化型の有機−無機ハイブリッド樹脂組成物のバルク体、特にレンズ成形体が十分な硬度を有する有機−無機ハイブリッド樹脂組成物と、これを用いた複合型の光学素子を提供する。
【解決手段】有機−無機ハイブリッド樹脂組成物は、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子と、光重合開始剤と、熱重合開始剤を含み、光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量をそれぞれa重量部及びb重量部とするとき、以下の条件を満足することを特徴とする。
0.5b≦a≦2b、かつ0.02≦a≦1.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、特にレンズとして適した高屈折率なエネルギー硬化型樹脂組成物及びその構成成分に関するものであって、十分な硬度を有する有機−無機ハイブリッド樹脂組成物及びそれを光学基材上に硬化してなる複合型の光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラ、カメラ付携帯電話、及びテレビ電話を始めとする撮像モジュール等は、撮影用の光学系を備えている。近年、この光学系の小型化、高性能化が大きな課題となっている。これらの光学系の小型化、高性能化においては、成形性に優れ、屈折率が高いレンズ材料が必要となる。そして、このようなレンズ材料への適用が可能な光学樹脂組成物の実現が求められている。
【0003】
屈折率の高い樹脂組成物を実現する方法として、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーに、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物のナノ粒子を分散する方法がある。このような方法で得られた樹脂組成物、すなわち有機−無機ハイブリッド樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物とする)は、屈折率が1.6を超える、従来存在し得なかった光学特性を有する(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、光学レンズのようなバルク体として成形したときの深部硬化性に乏しい。そのため、樹脂組成物を硬化して得た硬化体(光学レンズ)は、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられなかった。このように、特許文献1では、実際の使用に耐えうる硬度を有する樹脂組成物を得ることが困難であった。
【0005】
これは、特許文献1の樹脂組成物では、樹脂組成物に含有される金属酸化物のナノ粒子が、紫外線エネルギーを吸収あるいは散乱することによる。すなわち、紫外線エネルギーは樹脂組成物の硬化に使われるが、この紫外線エネルギーの効率的な利用ができなくなるので、樹脂組成物の良好な硬化が困難となる。
【0006】
樹脂組成物において良好な硬化性を得るためには、樹脂組成物における金属酸化物のナノ粒子の含有率を低くしなければならない。しかしながら、ナノ粒子の含有率を低くすると、所望とする光学特性、特に屈折率の高い樹脂組成物を実現することは困難になる。
【0007】
一方、金属酸化物のナノ粒子の含有率が高い樹脂組成物に十分な硬度を賦与する方法として、高い紫外線エネルギーによる硬化方法が挙げられる。しかし、この硬化方法では、硬化が急激に進行するために、樹脂組成物の硬化体においてレンズの形状を維持することが困難であった。すなわち、樹脂組成物の硬化体を光学素子として使用することが難しくなる。
【0008】
また、樹脂組成物における金属酸化物のナノ粒子の分散状態が悪いと、硬化時に白濁が発生することが知られている。この間題を解決するための材料組成として、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化チタンなどの金属酸化物のナノ粒子と、さらにアルキルアミンを添加する技術が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、金属酸化物のナノ粒子の分散性を向上することで白濁を抑制し、更に光学基材上で樹脂組成物を硬化させることで、光学性能にも優れた複合型の光学素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−133379号公報
【特許文献2】特開2008−81726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2の方法では、樹脂組成物の硬化に寄与しない分散剤が添加されるため、得られる樹脂組成物の硬化性が不十分となる。その上、一般的に分散剤のような添加剤は屈折率が高くないために、所望の光学特性を得ることが困難となる。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明では、エネルギー硬化型の樹脂組成物(有機−無機ハイブリッド樹脂組成物)のバルク体、特にレンズ成形体が十分な硬度を有する樹脂組成物(有機−無機ハイブリッド樹脂組成物)と、これを用いた複合型の光学素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態に係る有機−無機ハイブリッド樹脂組成物は、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子と、光重合開始剤と、熱重合開始剤を含み、前記光重合開始剤と前記熱重合開始剤の含有量をそれぞれa重量部及びb重量部とするとき、0.5b≦a≦2b、かつ0.02≦a≦1.5を満足することを特徴とする。
【0013】
前記有機−無機ハイブリッド樹脂組成物において、前記光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド型であることを特徴とする。
【0014】
前記有機−無機ハイブリッド樹脂組成物において、前記熱重合開始剤の10時間半減期温度が、50乃至100℃であることを特徴とする。
【0015】
また、光学素子が前記有機−無機ハイブリッド樹脂組成物を硬化し、または硬化し積層した複合型光学素子であることを特徴とする。
【0016】
本発明の実施形態に係る有機−無機ハイブリッド樹脂組成物の製造方法は、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーに、0.5b≦a≦2b、かつ0.02≦a≦1.5の条件で、光重合開始剤をa重量部、熱重合開始剤をb重量部分散させ、さらに、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子を分散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機−無機ハイブリッド樹脂組成物によれば、高屈折率で、硬化性に優れた有機−無機ハイブリッド樹脂組成物やこれを用いた光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記課題に対し鋭意研究を重ねた結果、本願発明者は、高い屈折率を実現する樹脂組成物(有機−無機ハイブリッド樹脂組成物)の構成として分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子と、光重合開始剤と、熱重合開始剤を含む樹脂組成物が、良好な硬化性を有することを見出した。
【0019】
更に、本願発明者は、本実施形態で使用する光重合開始剤及び熱重合開始剤の種類とそれらの混合比を適正な値に限定して硬化することで、レンズを始めとする光学材料に求められる高い屈折率と硬度を併せ持つ樹脂組成物を得ることを見出した。
【0020】
また、本願発明者は、硬化の進行しにくい樹脂組成物の構成成分と光重合開始剤および熱重合開始剤といった異種の重合開始剤を特定の割合で混合し、光硬化と熱硬化を段階的に行って硬化することで、実際の使用においても十分な硬度を有する、硬化性に優れた樹脂組成物が得られることを見出した。
【0021】
本実施形態に係る樹脂組成物は、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーに、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子と、光重合開始剤と、熱重合開始剤を含み、光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量をそれぞれa重量部及びb重量部とするとき、以下の条件を満足する。
0.5b≦a≦2b かつ 0.02≦a≦1.5 (1)
この樹脂組成物は表1においてT1で示される樹脂組成物であって、実施例1〜7における樹脂組成物が対応する。
【0022】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、光重合開始剤が、アシルフオスフィンオキサイド型である。
この樹脂組成物は表1においてT2で示される樹脂組成物であって、実施例3、4における樹脂組成物が対応する。
【0023】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、熱重合開始剤の10時間半減期温度が、50乃至100℃である。
この樹脂組成物は表1においてT3で示される樹脂組成物であって、実施例4における樹脂組成物が対応する。
【0024】
また、本実施形態に係る光学素子は、上記の樹脂組成物を硬化してなる光学素子である。
この光学素子は表1においてT4で示される光学素子であって、実施例5における光学素子が対応する。
また、本実施形態に係る光学素子は、上記の樹脂組成物を硬化し積層した複合型光学素子である。
この光学素子は表1においてT5で示される光学素子であって、実施例6、7における光学素子が対応する。
【0025】
本実施形態に係る樹脂組成物の硬化方法は、紫外線と熱の両方によって樹脂組成物の硬化を行なう方法である。この硬化方法では、形状保持の観点からは、先ず紫外線を照射して1次硬化した後に、所定の温度下で所定時間、熱により2次硬化する硬化方法が好ましい。
【0026】
分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−(メタ)アクリロイルオキシ−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシ−4−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−シクロへキシルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を任意の割合で混合して用いてもよい。分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートを金属酸化物のナノ粒子と複合化することで、十分な硬度を有する樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0027】
有機モノマーとしては、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーの他にも、光及び熱重合開始剤によって重合可能な成分が添加されていてもよい。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート、及びメタクリレートのうち少なくともいずれか一方を含むものを意味する。これらの(メタ)アクリレート物質から一種、もしくは複数の成分を選択し、混合して用いてもよい。また、これらの(メタ)アクリレートは、モノマーであってもオリゴマーであっても良い。
【0028】
ここで樹脂組成物とは、エネルギー硬化可能な液体の有機モノマー中に金属酸化物のナノ粒子が均質に分散された液体または固体を指す。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物に用いられる金属酸化物のナノ粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、または酸化ビスマスを挙げることができる。分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、上記酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうちのいずれか一種から選ばれる金属酸化物のナノ粒子との組み合わせによって、より硬化性の高い樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
これらの金属酸化物のナノ粒子の樹脂組成物中での含有率は特に規定されるものではないが、上記金属酸化物のナノ粒子はその表面エネルギーの高さに起因して、高濃度になるほど金属酸化物のナノ粒子の凝集が発生し易くなる。このため、金属酸化物のナノ粒子の樹脂組成物中での含有率が高くなるほど、紫外線硬化時に光散乱が発生するので、十分な硬度を有する樹脂組成物を得ることが困難となる。
【0031】
また、当該樹脂組成物中の金属酸化物のナノ粒子の含有率が少ないと所望の光学特性が得られない。
上記を鑑み、光学特性向上の観点から、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ビスマスなどの金属酸化物のナノ粒子の含有率は5乃至50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは15乃至40重量%が好ましい。
【0032】
上記金属酸化物のナノ粒子は、分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと混合し易いように化学的に表面修飾されていることが好ましい。樹脂組成物を構成する金属酸化物のナノ粒子の表面修飾が為されていないと、有機モノマー中への金属酸化物のナノ粒子の分散が均一にならないので、金属酸化物のナノ粒子同士が凝集する。そして、これが原因となって光散乱が生じるので、紫外線硬化時のエネルギーを有効に利用できないことから、硬化性に乏しい樹脂組成物となる。
【0033】
金属酸化物のナノ粒子の表面修飾剤としては一般的には1乃至3官能性金属アルコキシドの使用が挙げられ、各種ケイ素アルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドを使用することができる。しかし、得られる樹脂組成物の硬化性と光学特性の観点から、より好ましくは、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、1,4−ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(2−エチルへキシルオキシ)チタン、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンイソプロポキシオクチレングリコレート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)などを挙げることができ、これらを組み合わせてもよいし、その縮合化合物を表面修飾剤として用いてもよい。
【0034】
上記表面修飾剤を金属酸化物のナノ粒子及びアルコールを始めとする種々の溶媒の存在下、酸又は塩基と共に反応させることで化学的に表面修飾された金属酸化物のナノ粒子を得ることができる。
【0035】
さらに上記金属酸化物のナノ粒子は、その平均粒子径が1乃至20nmであることが好ましい。樹脂組成物を得るためには、添加する金属酸化物のナノ粒子の結晶性が光学特性を向上させる重要な因子となる。平均粒子径が1nm未満の金属酸化物のナノ粒子は、結晶性が乏しい。そのため、樹脂組成物(あるいは、その硬化体)において所望の光学特性を得ることが難しい。
【0036】
また、平均粒子径が20nmよりも大きい場合では、紫外線硬化時に光散乱が発生してしまう。そのため、良好な硬化体を得ることが難しくなる。
【0037】
また、上記のように、本実施形態の樹脂組成物は、光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量をそれぞれa重量部およびb重量部とするとき、以下の条件を満足することが好ましい。
0.02≦a≦1.5 かつ 0.5b≦a≦2b
【0038】
光重合開始剤が0.02重量部よりも少ないと、紫外線照射による1次硬化過程において形状保持可能な硬化物を得ることができず、2次硬化過程においても所望の形状を得ることが困難となる。
【0039】
また、光重合開始剤が1.5重量部よりも多いと、紫外線照射による樹脂組成物の硬化反応速度が大きくなって残留応力の大きな硬化体となる。そのため、得られた硬化体では、環境耐性試験によってクラックが発生し易く、大きな光学歪も持つ。さらに黄着色のある樹脂組成物及び硬化体となる。
【0040】
また、0.5b>aの条件のように光重合開始剤の量が少ない場合では、紫外線照射による1次硬化プロセスにおいては十分な硬化体が得られないため、主硬化反応は熱硬化プロセスとなる。この場合、熱硬化プロセスは樹脂組成物への残留応力が大きくなる。そのため、上記と同様に、得られた硬化体では、環境耐性試験によってクラックが発生したり、ヒケが発生することがある。
【0041】
また、a>2bとなる場合には、紫外線照射による1次硬化プロセスで、硬化体における着色が大きくなるために好ましくない。
【0042】
また、使用する光重合開始剤は、硬化性の観点からアシルフォスフィンオキサイド系の重合開始剤が最適である。
【0043】
アシルフォスフィンオキサイド型の光重合開始剤とは、光吸収によってベンゾイルラジカルとフォスフィノイルラジカルを発生するラジカル開始種であって、これらのラジカル種はフルオレン骨格を分子内に有するアクリレートモノマーと高い反応性を示して樹脂の硬化が効率的に進行する。さらに、アシルフォスフィンオキサイド型の光重合開始剤は、400nm以上の長波長域での光吸収があるため、樹脂組成物中の酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ビスマスなどの金属酸化物のナノ粒子による光吸収阻害が少なく、効率的なベンゾイルラジカルおよびフォスフィノイルラジカルの発生ができる。このため、アシルフォスフィンオキサイド型の光重合開始剤を用いることが、樹脂組成物の硬化において好適である。
【0044】
アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイドやトリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどを例示することができる。これらの光重合開始剤用いることで、十分な硬化性および光学材料としての透明性が得られる。
【0045】
更に、硬化性を向上するために、使用する熱重合開始剤として、10時間半減期温度が50乃至100℃の熱重合開始剤を用いることが好ましい。
【0046】
熱重合開始剤の10時間半減期温度とは、ベンゼン溶媒中で測定した各熱重合開始剤についての値であって、これらは熱重合開始剤に固有の値となる。
【0047】
熱重合開始剤としては、t−ブチルペルオキシネオへプタノエート、t−へキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシピバレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)ペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−コハク酸ペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、t−へキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)ペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルペルオキシド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−へキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−へキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルペルオキシ)シクロへキシル)プロパン、t−へキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシマレイン酸、ペルオキシマレイン酸、t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルへキシルモノカーボネート、t−へキシルペルオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサンなどを挙げることができる。
【0048】
色収差補正に優れた複合型の光学素子を得るには、樹脂組成物のd線における20℃の屈折率は、1.6乃至1.9であることが好ましい。
このような樹脂組成物は、屈折率が高いという特異な光学特性を有するために、その硬化体をレンズとして使用することで、カメラなどの光学系を短小化することが可能となる。
【0049】
上記樹脂組成物の硬化体は、高屈折率かつ十分な硬度を有する。よって、この樹脂組成物を任意の球面形状もしくは非球面形状を有するレンズとして硬化することで、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられる光学素子を得ることができる。
【0050】
さらに、光学基材上に上記の樹脂組成物を積層して硬化することで、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられる十分な硬度を有する複合型の光学素子を得ることができる。光学基材としては、任意の球面形状もしくは非球面形状を有するレンズ状を用いることができる。また、このようにすることで、色収差補正に優れた複合型の光学素子を得ることができる。
【0051】
光学基材の材料は、汎用のプラスチックあるいはガラスから適宜選択すればよい。また、樹脂組成物を上記光学基材の一方の面に硬化してもよく、またはこれら光学基材の間に挟んで硬化してもよい。
[実施例1]
(樹脂組成物の調製)
【0052】
重合性官能基を有する有機モノマーとして、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)フルオレン7g及びジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学社)の3gを混合した有機モノマーに、α−アミノアセトフェノン型光重合開始剤であるIRGACURE 907(チバ・スぺシャリティ・ケミカルズ)を0.3重量部、熱重合開始剤としてパーヘキサ5(日本油脂社、10時間半減期温度=104.5℃)を0.6重量部測りとり30分攪拌し、有機モノマー溶液を得た。
【0053】
更に、この有機モノマー溶液の総量との比率が20wt%となるように酸化チタンのナノ粒子を添加して、有機−無機ハイブリッド樹脂組成物を得た。なお、酸化チタンのナノ粒子は、チタンテトライソプロポキシドを塩酸酸性化で加水分解重縮合後、TC−200(マツモト公商社製)1gにより表面修飾したものを用いた。
【0054】
本実施例における光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量は、上記の条件を満たす。
(硬化物の作製)
【0055】
得られた樹脂組成物を直径20mmで厚さ1mmの大きさに保持し、住田光学ガラス社製UVファイバー照射装置LS−165UVを用いて、波長405nmにおける紫外線を照度200mW/cm2として100秒間照射し、さらに80℃で1時間加熱して、硬化体を作製した。得られた結果を表1に記載する。
(硬化性の評価方法)
【0056】
光路長1mmのガラスセル(ガラス壁の厚さ:1mm)に、住田光学社のメタルハライドランプ(LS−165UV)を用い、405nmでの光の照度が200mW/cm2として、上方より紫外線を照射した。紫外線による1次硬化をした後、80℃で1時間、2次硬化をして、樹脂組成物の硬化体を得た。
【0057】
得られた樹脂組成物の硬化体を取り出し、10×1×1mmの短冊状に切出した。これを試料として、TAインスツルメント社製DMA Q−800を用い、周波数1Hzで25℃における弾性率を3点曲げにより測定した。貯蔵弾性率が2GPa乃至3.5GPaのときに硬化体(樹脂組成物)の硬化性を良好とし、それ以外の場合については不良とした。
[実施例2]
【0058】
光重合開始剤を1.4重量部、熱重合開始剤を2.6重量部加えた他は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
次いで、実施例1と同様にして硬化を行って作製した硬化体の特性を評価してその結果を表1に示す。本実施例における光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量は、上記の条件を満たす。
[実施例3]
【0059】
光重合開始剤を、アシルフォスフィンオキサイドであるDAROCUR TPO(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)に変更した他は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。次いで、実施例1と同様にして硬化を行なった硬化体(樹脂組成物)の特性を評価した結果を表1に示す。本実施例における光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量は、上記の条件を満たす。
[実施例4]
【0060】
熱重合開始剤として、10時間半減期温度が73.6℃のジベンゾイルペルオキシド(ナイパーBW、日本油脂社)を用いたほかは、実施例3と同様にして樹脂組成物を調製した。次いで、実施例3と同様にして硬化を行なった硬化体(樹脂組成物)の特性を評価してその結果を表1に示す。本実施例では、熱重合開始剤の10時間半減期温度が50乃至100℃であることを満たす。
[実施例5]
【0061】
実施例1で用いた樹脂組成物を、曲率半径50mmの凹面を有するゼオネックス480R(日本ゼオン社製樹脂)からなる光学基材上に適量を滴下し、上方より、曲率半径100mmの金型を押し当てて樹脂組成物を押し拡げた。ここに、上記光学基材を介して、実施例1と同様にして紫外線硬化した後に光学基材から剥がして、樹脂組成物の硬化体からなるレンズを得た。
【0062】
上記レンズは、光学基材から剥がす際に破壊されることなく、また、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられる十分な硬度を有する光学素子であった。
[実施例6]
【0063】
紫外線硬化した後に光学基材から剥がさずに作製した他は、実施例5と同様の方法により、光学基材上に樹脂組成物を硬化し積層した複合型光学素子を作製した。この複合型光学素子は、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられる十分な硬度を有する複合型光学素子であった。
[実施例7]
【0064】
金型の代わりに曲率半径30mmの凹面を有するOKP4HT(大阪ガスケミカル社製樹脂)を用いた他は、実施例5と同様にして樹脂組成物を硬化して、樹脂組成物が2枚の光学基材に挟まれてなる複合型光学素子を作製した。この複合型光学素子は、樹脂組成物成形体の両面に光学基材が配置されているため、硬化性に優れる。また、カメラを始めとする光学機器への組み込み時の応力に耐えられる十分な硬度を有する複合型光学素子である上、外観に傷がつきにくく、色収差補正に優れる複合型光学素子であった。
[比較例1]
【0065】
光重合開始剤を0.01重量部、熱重合開始剤を0.1重量部加えた他は、実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
次いで、実施例1と同様にして硬化を行って作製した樹脂組成物の特性を評価してその結果を表1に示す。本実施例における光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量は、条件を満たさない。
[比較例2]
【0066】
光重合開始剤を1.7重量部、熱重合開始剤を0.6重両部とした他は、実施例2と同様にして樹脂組成物を調製した。
次いで、比較例1と同様にして硬化を行なって作製した樹脂組成物の特性を評価してその結果を表1に示す。本実施例における光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量は、条件を満たさない。
【表1】

【0067】
本実施形態の樹脂組成物によれば、紫外線の照射および熱を加えて段階的に硬化をすることにより、硬化性に優れるエネルギー硬化型樹脂組成物を得ることができる。この得られた樹脂組成物およびその硬化体は光学特性に優れるので、これを光学素子として、あるいは特に光学基材に積層して用いることができる。これにより、色収差の少ない光学素子を得ることができるため、各種の光学機器の光学系に好適であり、光学系の小型軽量化ができる。
【0068】
なお、本発明は、以上に述べた実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成または実施形態を取ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーと、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子と、光重合開始剤と、熱重合開始剤を含み、
光重合開始剤と熱重合開始剤の含有量をそれぞれa重量部及びb重量部とするとき、以下の条件を満足することを特徴とする有機−無機ハイブリッド樹脂組成物。
0.5b≦a≦2b かつ 0.02≦a≦1.5
【請求項2】
前記光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド型であることを特徴とする請求項1に有機−無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱重合開始剤の10時間半減期温度が、50乃至100℃であることを特徴とする、請求項2に記載の有機−無機ハイブリッド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド樹脂組成物を硬化してなる光学素子。
【請求項5】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の有機−無機ハイブリッド樹脂組成物を硬化し積層した複合型光学素子であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
分子内にフルオレン骨格を有する(メタ)アクリレートモノマーに、0.5b≦a≦2b かつ 0.02≦a≦1.5の条件で、光重合開始剤をa重量部、熱重合開始剤をb重量部分散させ、さらに、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及び酸化ビスマスのうち少なくとも1つの金属酸化物のナノ粒子を分散させることを特徴とする有機−無機ハイブリッド樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2010−241985(P2010−241985A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93390(P2009−93390)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】