説明

有機エレクトロニクス材料、インク組成物、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、表示素子、照明装置、及び表示装置

【課題】電荷輸送性化合物と、イオン性化合物とを含み、低駆動電圧の有機エレクトロニクス材料を提供することを目的とする。
【解決手段】電荷輸送性化合物とイオン性化合物とを含有し、該イオン性化合物の少なくとも一つが下記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有することを特徴とする有機エレクトロニクス材料である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロニクス材料、当該有機エレクトロニクス材料を用いたインク組成物、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子とも表す)、表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0004】
近年、有機EL素子の低駆動電圧化、寿命改善を目的として、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4−ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4-bromophenylaminium hexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris(pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。
【0008】
このように、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させることが重要であると考えられる。
【0009】
また、特許文献4には、電荷輸送膜用組成物として、特定のアミニウムカチオンラジカルからなる組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3748491号公報
【特許文献2】特開平11−251067号公報
【特許文献3】特許第4023204号公報
【特許文献4】特開2006−233162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記各特許文献において本発明におけるイオン性化合物を電子受容性化合物として利用した記載はない。
また、有機EL素子の駆動電圧を改善する目的で、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされているが、特性はいまだ十分なものではなかった。
【0012】
本発明は、上記した問題に鑑み、電荷輸送性化合物と、イオン性化合物とを含み、低駆動電圧の有機エレクトロニクス材料を提供することを目的とする。さらに、該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、および該有機エレクトロニクス材料を用いた有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、電荷輸送性化合物とイオン性化合物とを含む有機エレクトロニクス材料、さらに該有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機薄膜が、有機EL素子の低駆動電圧化に有用であることを見出し、本研究を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(23)の事項をその特徴とするものである。
【0014】
(1)電荷輸送性化合物とイオン性化合物とを含有し、該イオン性化合物の少なくとも一つが下記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有することを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【0015】
【化1】

【0016】
(2)前記イオン性化合物の対カチオンが、遷移金属錯体カチオン、又は長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンであることを特徴とする前記(1)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0017】
(3)前記長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンが、炭素原子、窒素原子、ヒ素原子、アンチモン原子、ビスマス原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、臭素原子、又はヨウ素原子を含むカチオンであることを特徴とする前記(2)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0018】
(4)前記電荷輸送性化合物が、芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェン化合物を少なくとも一つ含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0019】
(5)前記芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェン化合物が、ポリマー又はオリゴマーであることを特徴とする前記(4)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0020】
(6)前記ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量が、1,000以上100,000以下であることを特徴とする前記(5)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0021】
(7)前記電荷輸送性化合物が、一つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0022】
(8)前記重合可能な置換基がオキセタン基、エポキシ基、及びビニルエーテル基のうちのいずれかであることを特徴とする前記(7)に記載の有機エレクトロニクス材料。
【0023】
(9)さらに、重合開始剤を含むことを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料。
【0024】
(10)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴とするインク組成物。
【0025】
(11)前記(1)〜(9)いずれかに記載の有機エレクトロニクス材料を、基板上に塗布し、成膜した層を有することを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
【0026】
(12)成膜した前記層を重合したことを特徴とする前記(11)に記載の有機エレクトロニクス素子。
【0027】
(13)前記重合した層上に、さらに別の層を成膜し、多層化したことを特徴とする前記(12)に記載の有機エレクトロニクス素子。
【0028】
(14)前記基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする前記(11)〜(13)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス素子。
【0029】
(15)前記(1)〜(9)いずれかに記載の有機エレクトロニクス材料より形成された層(以下、重合層と表す)を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【0030】
(16)少なくとも基板、陽極、正孔注入層、重合層、発光層および陰極を積層してなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、前記重合層が、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料により形成された層であることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【0031】
(17)少なくとも基板、陽極、重合層、正孔輸送層、発光層および陰極を積層してなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、前記重合層が、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の有機エレクトロニクス材料により形成された層であることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【0032】
(18)有機エレクトロルミネセンス素子の発光色が白色であることを特徴とする前記(15)〜(17)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0033】
(19)基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする前記(16)〜(18)のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0034】
(20)基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする前記(16)〜(18)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0035】
(21)前記(15)〜(20)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えたことを特徴とする表示素子。
【0036】
(22)前記(15)〜(20)のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えたことを特徴とする照明装置。
【0037】
(23)前記(22)に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴とする表示装置。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、電荷輸送性化合物と、イオン性化合物とを含み、低駆動電圧の有機エレクトロニクス材料を提供することを目的とする。さらに、該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物、および該有機エレクトロニクス材料を用いた有機エレクトロニクス素子、有機EL素子、表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<有機エレクトロニクス材料>
本発明の有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性化合物とイオン性化合物とを含有し、該イオン性化合物の少なくとも一つが下記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有することを特徴としている。
【0040】
【化2】

【0041】
[イオン性化合物]
前記イオン性化合物は、対カチオンと対アニオンとからなり、該対アニオンは上記一般式(1)〜(4)のいずれか1種または2種以上である。
【0042】
対カチオンとしては、遷移金属錯体カチオン、又は長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンが好ましい。また、長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンは、炭素原子、窒素原子、ビスマス原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、またはヨウ素原子を含むカチオンが好ましく、入手が容易なことから窒素原子、硫黄原子、リン原子、ヨウ素原子を含むカチオンがより好ましく、安定性の観点から窒素原子がもっとも好ましい。
【0043】
(遷移金属錯体カチオン)
遷移金属錯体カチオンとしては、例えば、(η−シクロペンタジエニル)(η−トルエン)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−キシレン)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−1−メチルナフタレン)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−クメン)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−メシチレン)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−ピレン)Cr、(η−フルオレニル)(η−クメン)Cr、(η−インデニル)(η−クメン)Cr、ビス(η−メシチレン)Cr2+、ビス(η−キシレン)Cr2+、ビス(η−クメン)Cr2+、ビス(η−トルエン)Cr2+、(η−トルエン)(η−キシレン)Cr2+、(η−クメン)(η−ナフタレン)Cr2+、ビス(η−シクロペンタジエニル)Cr、ビス(η−インデニル)Cr、(η−シクロペンタジエニル)(η−フルオレニル)Crおよび(η−シクロペンタジエニル)(η−インデニル)CrなどのCr化合物、更に(η−シクロペンタジエニル)(η−トルエン)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−キシレン)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−1−メチルナフタレン)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−クメン)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−メシチレン)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−ピレン)Fe、(η−フルオレニル)(η−クメン)Fe、(η−インデニル)(η−クメン)Fe、ビス(η−メシチレン)Fe2+、ビス(η−キシレン)Fe2+、ビス(η−クメン)Fe2+、ビス(η−トルエン)Fe2+、(η−トルエン)(η−キシレン)Fe2+、(η−クメン)(η−ナフタレン)Fe2+、ビス(η−シクロペンタジエニル)Fe2+、ビス(η−インデニル)Fe、(η−シクロペンタジエニル)(η−フルオレニル)Feおよび(η−シクロペンタジエニル)(η−インデニル)FeなどのFe化合物が挙げられる。
【0044】
(窒素カチオン)
窒素カチオンとして、NH、第一級窒素カチオン、第二級窒素カチオン、第三級窒素カチオン、第四級窒素カチオンが例示される。ここで、第一級窒素カチオンとはNが水素原子3つと結合し、その他の結合が水素以外の原子と結合した化合物を示し、第二級窒素カチオンとはNが水素原子2つと結合し、その他の結合が水素以外の原子と結合した化合物を示し、第三級窒素カチオンとはNが水素原子1つと結合し、その他の結合が水素以外の原子と結合した化合物を示し、第四級アンモニウムカチオンとはNが水素以外の原子と結合した化合物を示す。
【0045】
具体的にはn−ブチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリイソプロピルアンモニウム、トリ−n−ブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、N,N−ジメチルシクロヘキシルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチル−n−プロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、トリメチル−n−ブチルアンモニウム、トリメチルイソブチルアンモニウム、トリメチル−t−ブチルアンモニウム、トリメチル−n−ヘキシルアンモニウム、ジメチルジ−n−プロピルアンモニウム、ジメチルジイソプロピルアンモニウム、ジメチル−n−プロピルイソプロピルアンモニウム、メチルトリ−n−プロピルアンモニウム、メチルトリイソプロピルアンモニウム等のアンモニウムが挙げられる。
【0046】
また、N−メチルアニリニウム、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジメチル−4−メチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−ジフェニルアニリニウム、N,N,N−トリメチルアニリニウム等のアニリニウムが挙げられる。
【0047】
また、ピリジニウム、N−メチルピリジニウム、N−ブチルピリジニウム、N−メチル−4−メチル−ピリジニウム、N−ベンジルピリジニウム、3−メチル−N−ブチルピリジニウム、2−メチルピリジニウム、3−メチルピリジニウム、4−メチルピリジニウム、2,3−ジメチルピリジニウム、2,4−ジメチルピリジニウム、2,6−ジメチルピリジニウム、3,4−ジメチルピリジニウム、3,5−ジメチルピリジニウム、2,4,6−トリメチルピリジニウム、2−フルオロピリジニウム、3−フルオロピリジニウム、4−フルオロピリジニウム、2,6−ジフルオロピリジニウム、2,3,4,5,6−ペンタフルオロピリジニウム、2−クロロピリジニウム、3−クロロピリジニウム、4−クロロピリジニウム、2,3−ジクロロピリジニウム、2,5−ジクロロピリジニウム、2,6−ジクロロピリジニウム、3,5−ジクロロピリジニウム、3,5−ジクロロー2,4,6−トリフルオロピリジニウム、2−ブロモピリジニウム、3−ブロモピリジニウム、4−ブロモピリジニウム、2,5−ジブロモピリジニウム、2,6−ジブロモピリジニウム、3,5−ジブロモピリジニウム、2−シアノピリジニウム、3−シアノピリジニウム、4−シアノピリジニウム、2−ヒドロキシピリジニウム、3−ヒドロキシピリジニウム、4−ヒドロキシピリジニウム、2,3−ジヒドロキシピリジニウム、2,4−ジヒドロキシピリジニウム、2−メチル−5−エチルピリジニウム、2−クロロ−3−シアノピリジニウム、4−カルボキサミドピリジニウム、4−カルボキシアルデヒドピリジニウム、2−フェニルピリジニウム、3−フェニルピリジニウム、4−フェニルピリジニウム、2,6−ジフェニルピリジニウム、4−ニトロピリジニウム、4−メトキシピリジニウム、4−ビニルピリジニウム、4−メルカプトピリジニウム、4−t−ブチルピリジニウム、2,6−ジt−ブチルピリジニウム、2−ベンジルピリジニウム、3−アセチルピリジニウム、4−エチルピリジニウム、2−カルボン酸ピリジニウム、4−カルボン酸ピリジニウム、2−ベンゾイルピリジニウム等のピリジニウムが挙げられる。
【0048】
また、イミダゾリウム、1−メチル−イミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム、1−メチル−N−ベンジルイミダゾリウム、1−メチル−3−(3−フェニルプロピル)イミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム等のイミダゾリウムが挙げられる。
また、1−エチル−1−メチル−ピロリジニウム、1−ブチル−1−メチル−ピロリジニウム等のピロリジニウムが挙げられる。
【0049】
また、キノリニウム、イソキノリニウム等のキノリニウムが挙げられる。また、N,N−ジメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N,N−ジエチルピロリジニウムなどのピロリジニウムが挙げられる。さらに、国際公開第03/005076号、国際公開第03/097580号記載のジイモニウム、アミニウムが例示される。
【0050】
この中で、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウムが入手の容易性及び化合物の安定性の観点から好ましく、イミダゾリウムが最も好ましい。
【0051】
一方、炭素原子、ビスマス原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、またはヨウ素原子を含むカチオンとしては、以下のものが挙げられる。
【0052】
炭素カチオンとして、第一級炭素カチオン、第二級炭素カチオン、第三級炭素カチオンが例示される。このなかで、第二級炭素カチオン、第三級炭素カチオンが材料の安定性から好ましく、第三級炭素カチオンがもっとも好ましい。
トリフェニルカルベニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)カルベニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルベニウムカチオンなどのトリアリールカルベニウムが例示される。
【0053】
ビスマス原子を含むカチオンとしては、少なくとも1つ以上の芳香族炭素を有するビスムトニウムが挙げられる。
【0054】
酸素カチオンとして、トリメチルオキソニウム、トリエチルオキソニウム、トリプロピルオキソニウム、トリブチルオキソニウム、トリヘキシルオキソニウム、トリフェニルオキソニウム、ピリリニウム、クロメニリウム、キサンチリウムが例示される。
【0055】
硫黄原子を含むカチオンであるスルホニウムイオンとしては、トリフェニルスルホニウム、トリ−p−トリルスルホニウム、トリ−o−トリルスルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、1−ナフチルジフェニルスルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、トリ−1−ナフチルスルホニウム、トリ−2−ナフチルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−(4−メトキシフェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ビス〔4−{ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホニオ}フェニル〕スルフィド、ビス{4−[ビス(4−フルオロフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メチルフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メトキシフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジ−p−トリルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジフェニルスルホニウム、2−[(ジ−p−トリル)スルホニオ]チオキサントン、2−[(ジフェニル)スルホニオ]チオキサントン、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジフェニルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジフェニルスルホニウム、5−(4−メトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−フェニルチアアンスレニウム、5−トリルチアアンスレニウム、5−(4−エトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−(2,4,6−トリメチルフェニル)チアアンスレニウムなどのトリアリールスルホニウム;ジフェニルフェナシルスルホニウム、ジフェニル4−ニトロフェナシルスルホニウム、ジフェニルベンジルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウムなどのジアリールスルホニウム;フェニルメチルベンジルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチル(1−エトキシカルボニル)エチルスルホニウム、フェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルオクタデシルフェナシルスルホニウム、9−アントラセニルメチルフェナシルスルホニウムなどのモノアリールスルホニウム;ジメチルフェナシルスルホニウム、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ベンジルテトラヒドロチオフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルスルホニウムなどのトリアルキルスルホニウムなどが挙げられ、これらは以下の文献に記載されている。
【0056】
トリアリールスルホニウムに関しては、米国特許第4231951号、米国特許第4256828号、特開平7−61964号、特開平8−165290号、特開平7−10914号、特開平7−25922号、特開平8−27208号、特開平8−27209号、特開平8−165290号、特開平8−301991号、特開平9−143212号、特開平9−278813号、特開平10−7680号、特開平10−287643号、特開平10−245378号、特開平8−157510号、特開平10−204083号、特開平8−245566号、特開平8−157451号、特開平7−324069号、特開平9−268205号、特開平9−278935号、特開2001−288205号、特開平11−80118号、特開平10−182825号、特開平10−330353、特開平10−152495、特開平5−239213号、特開平7−333834号、特開平9−12537号、特開平8−325259号、特開平8−160606号、特開2000−186071号(米国特許第6368769号)など;ジアリールスルホニウムに関しては、特開平7−300504号、特開昭64−45357号、特開昭64−29419号など;モノアリールスルホニウムに関しては、特開平6−345726号、特開平8−325225号、特開平9−118663号(米国特許第6093753号)、特開平2−196812号、特開平2−1470号、特開平2−196812号、特開平3−237107号、特開平3−17101号、特開平6−228086号、特開平10−152469号、特開平7−300505号、特開2003−277353、特開2003−277352など;トリアルキルスルホニウムに関しては、特開平4−308563号、特開平5−140210号、特開平5−140209号、特開平5−230189号、特開平6−271532号、特開昭58−37003号、特開平2−178303号、特開平10−338688号、特開平9−328506号、特開平11−228534号、特開平8−27102号、特開平7−333834号、特開平5−222167号、特開平11−21307号、特開平11−35613号、米国特許第6031014号などが挙げられる。
【0057】
ヨウ素原子を含むカチオンであるヨードニウムイオンとしては、ジフェニルヨードニウム、ジ−p−トリルヨードニウム、ビス(4−ドデシルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、(4−オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、ビス(4−デシルオキシフェニル)ヨードニウム、4−(2−ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウム、4−イソプロピルフェニル(p−トリル)ヨードニウム、イソブチルフェニル(p−トリル)ヨードニウムなどが挙げられ、これらは、Macromolecules,10,1307(1977)、特開平6−184170号、米国特許第4256828号、米国特許第4351708号、特開昭56−135519号、特開昭58−38350号、特開平10−195117号、特開2001−139539号、特開2000−510516号、特開2000−119306号などに記載されている。
【0058】
リン原子を含むカチオンであるホスホニウムカチオンの場合、具体的には、たとえばテトラメチルホスホニウムカチオン、テトラ−n−ブチルホスホニウムカチオン、テトラ−n−オクチルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0059】
また、イオン性化合物として、上記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有しないものとしては、例えば、F、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオン;OH;ClO;FSO、ClSO、CHSO、CSO、CFSOなどのスルホン酸イオン類;HSO、SO2−などの硫酸イオン類;HCO、CO2−などの炭酸イオン類;HPO、HPO2−、PO3−などのリン酸イオン類;PF、PFOHなどのフルオロリン酸イオン類、[(CFCFPF、[(CFCFCFPF、[((CFCF)PF、[((CFCF)PF、[((CFCFCFPFおよび[((CFCFCFPFなどのフッ素化アルキルフルオロリン酸イオン類;BF、B(C、B(CCFなどのホウ酸イオン類、SbF、SbFOHなどのフルオロアンチモン酸イオン類、あるいはAsF−、AsFOH−などのフルオロヒ素酸イオン類、AlCl、BiF6などが挙げられる。
また、全イオン性化合物中、上記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有するものは、10%以上含有することが好ましく、50%以上含有することがより好ましく、80%以上含有することがもっとも好ましい。
【0060】
[電荷輸送性化合物]
本発明において、「電荷輸送性化合物」とは、電荷輸送性ユニットを有する化合物を言う。また、本発明において「電荷輸送性ユニット」とは、正孔または電子を輸送する能力を有した原子団であり、以下、その詳細について述べる。
【0061】
上記電荷輸送性ユニットは、正孔または電子を輸送する能力を有していればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミンやカルバゾール、チオフェンであることが好ましく、例えば、下記一般式(1)〜(58)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

【0068】
(式中、Eはそれぞれ独立に−R1、−OR2、−SR3、−OCOR4、−COOR5、−SiR678または上記一般式(59)〜(61)(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、aおよびbおよびcは、1以上の整数を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)、または下記置換基群(A)〜(N)で表される基のいずれかを表す。Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基や下記連結基群(A)で例示される基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは前記三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。)
【0069】
置換基群(A)
【化9】

【0070】
置換基群(B)
【化10】

【0071】
置換基群(C)
【化11】

【0072】
置換基群(D)
【化12】

【0073】
置換基群(E)
【化13】

【0074】
置換基群(F)
【化14】

【0075】
置換基群(G)
【化15】

【0076】
置換基群(H)
【化16】

【0077】
置換基群(I)
【化17】

【0078】
置換基群(J)
【化18】

【0079】
置換基群(K)
【化19】

【0080】
置換基群(L)
【化20】

【0081】
置換基群(M)
【化21】

【0082】
置換基群(N)
【化22】

【0083】
連結基群(A)
【化23】

【0084】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。
【0085】
また、本発明において電荷輸送性化合物は溶解度、成膜性の観点からポリマー又はオリゴマーであることが好ましい。
【0086】
また、前記ポリマー又はオリゴマーは溶剤への溶解性、成膜性の観点から数平均分子量が、1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは2,000〜900,000以下、さらに好ましくは3,000〜800,000以下である。1,000より小さいと化合物が結晶化しやすくなり、成膜性に劣ってしまう。また、1,000,000より大きいと溶剤への溶解度が低下し、塗布溶液や塗布インクを作製するのが困難になる。
【0087】
また、前記ポリマー又はオリゴマーは下記一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0088】
【化24】

【0089】
【化25】

【0090】
【化26】

【0091】
【化27】

【0092】
【化28】

【0093】
【化29】

【0094】
【化30】

【0095】
【化31】

【0096】
【化32】

【0097】
【化33】

【0098】
【化34】

【0099】
【化35】

【0100】
また上記ポリマー又はオリゴマーは溶解度を変化させるため、一つ以上の「重合可能な置換基」を有することが好ましい。ここで、上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0101】
上記重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が最も好ましく、具体的には前述の置換基群(A)〜(N)で表される。
【0102】
また、本発明におけるポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、上記繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基として下記構造式群(X)で表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0103】
構造式群(X)
【化36】

【0104】
(式中、Rは、それぞれ独立に−R1、−OR2、−SR3、−OCOR4、−COOR5、−SiR678または下記一般式(29)〜(31)(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、aおよびbおよびcは、1以上の整数を表す。)を表す。
【0105】
【化37】

【0106】
また、前記イオン性化合物の配合割合は、前記電荷輸送性化合物の重量を100重量%としたとき、0.1重量%から30重量%の範囲であることが好ましく、0.2重量%から25重量%の範囲であることがより好ましく、0.5から20重量%の範囲であることが特に好ましい。重合開始剤の配合割合が0.1重量%未満であると溶解度の変化が十分でないために積層化が困難になる傾向があり、30重量%を越えると薄膜中に残存する重合開始剤および/または分解物によって素子特性が低下する傾向がある。
【0107】
また、本発明における有機エレクトロニクス材料は、重合反応による溶解度の差を利用し多層構造素子を作製する為に、重合開始剤を含むことが好ましい。
【0108】
この重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射および/または加熱によって重合を開始させるものであることが好ましい。
【0109】
本発明における電荷輸送膜中の重合開始剤の割合は、重合が十分に進行する量であればよく、特に限定されないが、0.1重量%〜50重量%であることが好ましい。これより少ない場合、重合が効率よく進行せず溶解度を十分に変化させることができない。また、これより多い場合には、多量の重合開始剤および/または分解物が残存することで、洗浄による効果が低くなってしまう。
【0110】
また、上記開始剤の他、感光性および/または感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。
【0111】
<有機エレクトロニクス素子>
本発明の有機エレクトロニクス素子は、以上の本発明の有機エレクトロニクス材料を、基板上に塗布し、成膜した層を有することを特徴としている。
【0112】
本発明の有機エレクトロニクス材料を基板に塗布する手法としては、例えば、当該有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物を調製し、それを基板に塗布する手法が挙げられる。当該インク組成物、すなわち本発明のインク組成物は、以下のように調製することができる。
本発明のインク組成物は、既述の本発明の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含み、その他の添加剤、例えば重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤などを含んでいてもよい。前記溶媒としては、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテルを使用することができる。
前記インク組成物において、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の含有量は、種々の塗布プロセスに適用できる観点から0.1〜30質量%とすることが好ましい。
【0113】
本発明の有機エレクトロニクス素子は、基板上に成膜した有機エレクトロニクス材料の層を重合硬化させることにより、種々の溶媒に対して不溶化することができる。従って、重合した層の上に、さらに塗布層を形成する際にその重合した層が溶解してしまうことがないため、各層の成分が混じり合うことなく多層化することができる。
【0114】
[有機EL素子]
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子は、既述の本発明の有機エレクトロニクス材料より形成された層(以下、「重合層」と表す。)を有することをその特徴としている。本発明の有機EL素子は、発光層、重合層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。特に、少なくとも基板、陽極、正孔注入層、重合層、発光層および陰極を積層してなる態様、少なくとも基板、陽極、重合層、正孔輸送層、発光層および陰極を積層してなる態様が好ましい。以下、各層について詳細に説明する。
【0115】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーまたはオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマーまたはオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0116】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)、M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)、又はM.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)参照。)。
【0117】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記の非特許文献3参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0118】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0119】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0120】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-biphenyl)、mCP(1,3-bis(9-carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4'-Bis(Carbazol-9-yl)-2,2’-dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0121】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0122】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0123】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0124】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-. phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole) (PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0125】
[基板]
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、特に好ましい。
【0126】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0127】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0128】
[発光色]
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0129】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0130】
<表示素子、照明装置、表示装置>
本発明の表示素子は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、本発明の有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため文字などの表示に用いる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0131】
また、本発明の照明装置は、既述の本発明の有機EL素子を備えたことを特徴としている。さらに、本発明の表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴としている。バックライト(白色発光光源)として上述の本発明の照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを本発明の照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。
【0133】
[実施例1]
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、電荷輸送性化合物として下記芳香族アミンポリマ1(Mw=38000)(20mg)のトルエン(525μL)溶液と、イオン化合物1の酢酸エチル溶液(イオン化合物1:10μg/1μL、50μL)の混合溶液を2000min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で180℃、10分間加熱した。次いで、得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、CBP+Ir(piq)(40nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着した。
【0134】
【化38】

【0135】
蒸着後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い有機EL素子を作製した。輝度1000cd/mにおける印加電圧は、15Vであった。なお、輝度と印加電圧の測定は、電流電圧特性をヒューレットパッカード社製の微小電流計4140Bで測定し、発光輝度はトプコン社製SR−3で測定した。ITOを正極、Alを陰極にして電圧を印加して測定した。
【0136】
[実施例2]
実施例1におけるイオン化合物1を、以下のイオン化合物2に変更した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。輝度と印加電圧を実施例1と同様にして測定したところ、輝度1000cd/mにおける印加電圧は、14Vであった。
【0137】
【化39】

【0138】
[実施例3]
実施例1におけるイオン化合物1を、以下のイオン化合物3に変更した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。輝度と印加電圧を実施例1と同様にして測定したところ、輝度1000cd/mにおける印加電圧は、16Vであった。
【0139】
【化40】

【0140】
[実施例4]
実施例1におけるイオン化合物1を、以下のイオン化合物4に変更した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。輝度と印加電圧を実施例1と同様にして測定したところ、輝度1000cd/mにおける印加電圧は、16Vであった。
【0141】
【化41】

【0142】
[比較例1]
実施例1において、イオン化合物1を加えないこと以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。輝度と印加電圧を実施例1と同様にして測定したところ、輝度1000cd/mにおける印加電圧は、25Vであった。
【0143】
以上の実施例及び比較例の結果から、本発明のイオン化合物を添加することにより、有機EL素子を低駆動電圧化できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性化合物とイオン性化合物とを含有し、該イオン性化合物の少なくとも一つが下記一般式(1)〜(4)で表されるアニオンを有することを特徴とする有機エレクトロニクス材料。
【化1】

【請求項2】
前記イオン性化合物の対カチオンが、遷移金属錯体カチオン、又は長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンであることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項3】
前記長周期型周期表の第14族から第17族に属する元素を含むカチオンが、炭素原子、窒素原子、ヒ素原子、アンチモン原子、ビスマス原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、臭素原子、又はヨウ素原子を含むカチオンであることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項4】
前記電荷輸送性化合物が、芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェン化合物を少なくとも一つ含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項5】
前記芳香族アミン、カルバゾール、又はチオフェン化合物が、ポリマー又はオリゴマーであることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項6】
前記ポリマー又はオリゴマーの数平均分子量が、1,000以上100,000以下であることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項7】
前記電荷輸送性化合物が、一つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項8】
前記重合可能な置換基がオキセタン基、エポキシ基、及びビニルエーテル基のうちのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項9】
さらに、重合開始剤を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含むことを特徴とするインク組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料を、基板上に塗布し、成膜した層を有することを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
【請求項12】
成膜した前記層を重合したことを特徴とする請求項11に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項13】
前記重合した層上に、さらに別の層を成膜し、多層化したことを特徴とする請求項12に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項14】
前記基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料より形成された層(以下、重合層と表す)を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項16】
少なくとも基板、陽極、正孔注入層、重合層、発光層および陰極を積層してなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、前記重合層が、請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料により形成された層であることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項17】
少なくとも基板、陽極、重合層、正孔輸送層、発光層および陰極を積層してなる有機エレクトロルミネセンス素子であって、前記重合層が、請求項1〜9のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料により形成された層であることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項18】
有機エレクトロルミネセンス素子の発光色が白色であることを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項19】
基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項20】
基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする請求項16〜18のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えたことを特徴とする表示素子。
【請求項22】
請求項15〜20のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えたことを特徴とする照明装置。
【請求項23】
請求項22に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えたことを特徴とする表示装置。

【公開番号】特開2012−80000(P2012−80000A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225675(P2010−225675)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】