説明

有機エレクトロルミネセンス素子

【課題】発光スペクトルを改善して色純度を高め、印刷用途に用いた場合でも、混色が生じにくい有機エレクトロルミネセンス素子を提供する。
【解決手段】基板1上に電極層2、光吸収層3、電荷注入輸送層4、発光層5、電荷注入輸送層6、電極層7が積層されている。発光層5は、例えばホスト材料に蛍光色素をドーピングする等により可視光領域において特定の色を発光するように構成されている。電極層2と電極層7との間に電圧を印加すると、発光層5から発光が行われるが、この光が可視光を吸収する光吸収層3を通過すると、発光の一部、特に発光スペクトルの裾野部分が吸収されて、スペクトルがシャープになり、色純度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光スペクトルを改善し、色純度を向上させた有機エレクトロルミネセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)の発光は、発光層の発光材料に依存するために、発光スペクトルがブロードなものとなっている。一般的に、発光層としてホスト材料に蛍光色素を有するゲスト材料をドーピングした材料を用いることにより有色の発光が得られる。
【0003】
例えば、光の3原色(赤、緑、青)を発光させる有機エレクトロルミネセンス素子の各発光スペクトルの代表例を図8に示す。青色の発光スペクトルを実線で、緑色の発光スペクトルを破線で、赤色の発光スペクトルを一点鎖線で示す。
【0004】
また、人間には、赤、緑、青の各色を感じる視細胞が存在し、この各視細胞の感度は所定の波長をピークにして所定の分布幅の分布曲線を有するので、色々な色を感じることができる。図8〜図10では、可視光領域(400nm〜750nm)のうち、各視細胞の感度分布曲線が交差するところを基準にして、青色領域と緑色領域と赤色領域の3領域に分割し、その境界を太い破線で示す。図の向かって左側から青色領域、緑色領域、赤色領域となる。
【0005】
図8に示す有機EL発光特性では、青色の発光スペクトル分布は青色領域だけではなく、緑色領域にまで分布しているので、緑色も感じることができ、緑色領域での分布強度が高いほど青色と緑色との混色の度合いが高まる。また、緑色の発光スペクトルの分布は、緑色領域だけではなく、青色領域及び赤色領域にまで及ぶので、この部分でも混色を生じる。赤色の発光スペクトルについても、同様に、赤色と緑色の混色が発生する。図8では、特に青色の発光スペクトルに関して、発光スペクトルの一部が緑色領域に分布している面積が大きいので、青色と緑色との混色が強く感じられる。
【0006】
また、プリンターのプリントヘッドに用いた場合には、感光するフィルムの分光特性等により混色に変化が生じる。図9は、フィルムの分光特性を表し、実線が青感層の感度曲線を、破線が緑感層の感度曲線を、一点鎖線が赤感層の感度曲線を示す。フィルムの感度では、特に緑色感度のピークと赤色感度のピークとが近く、図8に示す発光特性を有する有機EL素子により感光させた場合、青色と緑色との混色に加えて、緑色と赤色との混色も発生しやすい。
【0007】
図10は、図8の各色の発光スペクトルで図9のフィルム分光特性を有するRGB感光体を感光させた場合、他の色に露光する領域を斜線で示す。青色発光スペクトルによる感光は、青色に露光する部分と、斜線を付けた緑色に露光する部分が存在する。緑色発光スペクトルによる感光は、左から斜線を付した青色露光の領域と、緑色露光の領域と、斜線を付した赤色露光の領域が存在する。赤色発光スペクトルによる感光は、斜線を付した緑色露光と、赤色露光の領域が存在する。図の斜線を付した領域の大きさと図9のフィルム分光特性により、混色の度合いが変化する。
【特許文献1】特開2005−67026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の有機エレクトロルミネセンス素子では、青、緑、赤の発光スペクトルの半値幅が広く、また、各スペクトル分布の裾野が他の色領域に跨っているので、カラーディスプレイ等に用いた場合に、色純度が不十分で、シャープな色を再現できないという問題があった。また、プリンター等の印刷用途に用いた場合、写真上で青と緑、緑と赤の各感光領域の混色が発生するので、画質が鮮明にならないという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、発光スペクトルを改善して色純度を高め、印刷用途に用いた場合でも、混色が生じにくい有機エレクトロルミネセンス素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、第1の電極層と、発光層と、第2の電極層とを順に少なくとも備え、可視光領域に発光ピークを有する有機エレクトロルミネセンス素子において、前記発光層と前記第1の電極層又は第2の電極層との間に可視光領域の一部の光を吸収する光吸収層を形成したことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子である。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、前記光吸収層が、フタロシアニン類で構成されていることを特徴とする請求項1の有機エレクトロルミネセンス素子である。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、前記フタロシアニン類が、銅フタロシアニンであることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネセンス素子である。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、前記発光ピークの存在領域が、青色又は緑色のいずれかの領域であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【0014】
また、請求項5記載の発明は、前記有機エレクトロルミネセンス素子の発光は、RGB感光体の感光に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可視光を吸収する光吸収層を設けているので、可視光領域に発光ピークを有する発光スペクトル形状をシャープにして半値幅を狭くすることができ、色純度を向上させることができる。
【0016】
また、RGB感光体の感光用の光として用いれば、青、緑、赤の各色の混色を防止することができ、画質を鮮明にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明による有機エレクトロルミネセンス素子の断面構造を示す。
【0018】
基板1上に電極層2、光吸収層3、電荷注入輸送層4、発光層5、電荷注入輸送層6、電極層7が積層されている。発光層5は例えば発光材料(ホスト材料)に蛍光色素をドーピングする等により可視光領域(400nm〜750nm)において特定の色を発光するように構成されている。電極層2と電極層7の各層は、第1の電極層又は第2の電極層のいずれかに相当し、電極層2が陽極であれば、電極層7が陰極となり、電極層7が陽極であれば、電極層2が陰極となる。
【0019】
また、発光層5の発光をどちらの電極層側から取り出すかによって、取り出す側の電極層をITO等の透明電極にする。本実施例では、光吸収層3の方へ光を取り出すことになるので、電極層2が透明電極となる。電荷注入輸送層4、6は、電極層2、7から電荷の注入率を良くし、発光層5へ円滑に電荷を移動させるために設けられるもので、正孔注入輸送層、電子注入輸送層のいずれかに相当する。
【0020】
例えば、電荷注入輸送層4が電子注入輸送層であれば、電荷注入輸送層6が正孔注入輸送層となる。さらに、この電荷注入輸送層4、6は、各々、電荷注入層と電荷輸送層の2層構造とすることもできる。
【0021】
本実施例では、基板1は、発光層5の発光を取り出す側に該当するので、ガラス基板等の光を透過する透明基板が用いられる。また、光吸収層3は可視光を吸収する材料、例えばフタロシアニン類の材料により形成されている。
【0022】
電極層2と電極層7との間に電圧を印加すると、発光層5から発光が行われるが、この光は、可視光領域に発光ピークを有し、所定の発光スペクトル分布を有する。そしてこの光が可視光を吸収する光吸収層3を通過すると、発光の一部、特に発光スペクトルの裾野部分が吸収されて、スペクトル形状がシャープになり、色純度を向上させることができる。
【0023】
上記実施例では、発光層5の両側に電荷注入輸送層4、6を形成するようにしているが、可能であれば、これらも省略して基板1上に電極層2、光吸収層3、発光層5、電極層7の順に積層する構成としても良い。
【0024】
また、光吸収層3は、発光層5と電荷注入輸送層4との間、発光層5と電荷注入輸送層6との間、電荷注入輸送層6と電極層7との間等、発光層4と電極層2又は電極層7との間であれば、どこに形成するようにしても良い。ただし、発光を妨げないように、光吸収層3と光吸収層3の前後に形成される層との整合性が取れるような材料を選択する必要があり、発光層5と電荷注入輸送層6との間や電荷注入輸送層6と電極層7との間に光吸収層を設けた場合は、光の取り出し方向が電極層7側になるので、電極層7をITO等の透明電極にする必要がある。
【0025】
さらに、光吸収層3を独立して設けるのではなく、電荷注入輸送層4、6と兼用して光吸収層3を形成するようにしても良い。例えば、光吸収層が正孔注入層の役割も兼ねた有機エレクトロルミネセンス素子の断面構造を示すのが、図2である。
【0026】
ガラス基板等で構成された基板10上に、電極層11、光吸収層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、電極層17が積層されている。製造方法については、基板10上の電極層11をパターニング、エッチング、絶縁膜形成等の前処理を経て、真空蒸着装置で、光吸収層12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15、電子注入層16、電極層17を順に成膜するという既知の工程により製造される。
【0027】
電極層17は陰極であり、電極層11は陽極となる。電極層11はITO等の透明電極で形成されている。正孔輸送層13はナフテル・フェニル・ベンチジン(NPB)等により構成される。
【0028】
発光層14は、アルミニウム錯体(Alq3)に蛍光色素材料を適量ドープすること等により形成される。電子輸送層15にはアルミニウム錯体やオキサジアゾール類等が、電子注入層16にはリチウム等のアルカリ金属やリチウム錯体等の材料が用いられる。電極層17は、アルミニウム等の金属で構成される。
【0029】
光吸収層12は、フタロシアニン類のうち、銅フタロシアニン(CuPc)で形成されており、可視光領域において所定の吸収係数を持っている。フタロシアニン類は、芳香族性を担うπ電子と呼ばれる電子が可視光を吸収する(Q帯)特性を有するが、このQ帯(吸収帯)の波長をフタロシアニン(Pc)と結合する金属を選択することにより動かすことができる。
【0030】
この金属として、本実施例では銅(Cu)を用いるようにしており、発光層14で発光した光は、光吸収層12を通過するときに、一部の光が吸収され、発光スペクトル形状が変化して電極層11、基板10を透過して外部に照射される。また、銅フタロシアニンは、正孔注入層の材料としても適しているもので、光吸収層12は正孔注入層としての役割を兼ねている。
【0031】
銅フタロシアニン膜で構成されている光吸収層12の吸収係数の各波長に対する分布を示すのが、図3である。600nm〜640nmの間に吸収のピークが存在していることがわかる。
【0032】
吸収係数をα、光吸収層の膜厚をt、光吸収層への入射光強度をI、光吸収層からの出射光強度をIとすると、I=Iexp(−αt)となる。特定の波長として528nmと565nmを選んで比較した場合の、光吸収層の透過比率(I/I)とCuPc膜厚(光吸収層の膜厚)との関係を示すのが図4である。
【0033】
図3の吸収係数と波長との関係からもわかるように、CuPc膜厚が厚くなればなる程、565nmの波長の吸収度が高まる。上記2つの波長位置に異なる高さのピーク部分が存在する図5(a)のような発光スペクトル分布に対して、吸光度の分布が図5(b)のような所定の膜厚のCuPcを光吸収層として用いた場合、発光スペクトル形状の変化の様子を図5(c)に示す。550nmを過ぎたあたりから急激に吸光度が高まるので、565nmのピーク付近の光は十分に吸収され、破線のような形状になる。
【0034】
この理論を用いて実際に、光吸収層12に260nmのCuPc膜厚を用いて、光の3原色の内、青色の発光に適用した場合の発光スペクトルの変化を図6に示し、緑色の発光に適用した場合の発光スペクトルの変化を図7に示す。なお、図7に示す緑色の発光スペクトル形状は、上記図5(a)で示したスペクトル形状とぼぼ同じものである。
【0035】
図6、図7のいずれにおいても、破線で示すスペクトル分布が光吸収層12を設けていない場合、すなわち改善前のものであり、実線で示すのが、光吸収層12を設けてこの層を通過させた後、すなわち改善後の結果を示す。
【0036】
青色を発光させるためには、発光層14としてDPVBi に、BCzVBi をドープした発光材料等を用いている。また、緑色を発光させるためには、発光層14としてアルミニウム錯体に、クマリンC545Tまたはキナクリドンをドープした発光材料等を用いている。
【0037】
図6に示されるように、破線で表示された改善前の青色発光スペクトル分布が、図3の吸収係数と波長との関係により、発光スペクトル分布の裾野部分等が特に吸光されて、実線のようなスペクトル分布となる。また、図7に示されるように、破線で表示された改善前の緑色発光スペクトル分布が、図3の吸収係数と波長との関係により、550nm以上の波長は特に吸光されて、実線のようなスペクトル分布となる。
【0038】
このようにして、青色の有機EL素子では、発光スペクトル分布において、緑色領域に跨る部分が減少して発光スペクトルがシャープになるので、青色と緑色との混色を減少させることができ、緑色の有機EL素子では、発光スペクトル分布において、特に赤色領域に跨る部分が減少して半値幅も十分改善でき、発光スペクトルがシャープになるので、緑色と赤色との混色を減少させることができる。
【0039】
なお、図6と図7とを比較すればわかるように、本実施例では、緑色の発光スペクトルにおいて、緑色と赤色との混色の改善の度合いの方が大きいことがわかる。特に、RGB感光体では、図9に示すように、緑色の感度ピークが赤色の感度ピークに近づいてくるために、有機EL素子の光を感光用として用いた場合、緑色と赤色の混色も生じやすく、この混色を解消するために、緑色の発光スペクトルをシャープにして、色純度を高めることは効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネセンス素子の断面構造を示す図である。
【図2】本発明の有機エレクトロルミネセンス素子の他の断面構造を示す図である。
【図3】銅フタロシアニンの吸収係数と波長との関係を示す図である。
【図4】光の異なる波長に対して銅フタロシアニン膜の透過比率と銅フタロシアニン膜厚との関係を示す図である。
【図5】光吸収層によって発光スペクトル形状が変化する様子を示す図である。
【図6】青色の発光スペクトル形状が光吸収層により変化する様子を示す図である。
【図7】緑色の発光スペクトル形状が光吸収層により変化する様子を示す図である。
【図8】一般の有機EL発光特性を示す図である。
【図9】RGB感光体の分光特性を示す図である。
【図10】各色の発光スペクトルにおいて混色が発生する波長領域を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 基板
2 電極層
3 光吸収層
4 電荷注入輸送層
5 発光層
6 電荷注入輸送層
7 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層と、発光層と、第2の電極層とを順に少なくとも備え、可視光領域に発光ピークを有する有機エレクトロルミネセンス素子において、
前記発光層と前記第1の電極層又は第2の電極層との間に可視光領域の一部の光を吸収する光吸収層を形成したことを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項2】
前記光吸収層は、フタロシアニン類で構成されていることを特徴とする請求項1の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項3】
前記フタロシアニン類は、銅フタロシアニンであることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項4】
前記発光ピークの存在領域は、青色又は緑色のいずれかの領域であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項5】
前記有機エレクトロルミネセンス素子の発光は、RGB感光体の感光に用いられることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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