説明

有機エレクトロルミネセンス装置及びその製造方法

【課題】水分遮断と紫外光遮断とを一手段で実現することができる有機エレクトロルミネセンス装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に発光素子を備える有機エレクトロルミネセンス装置であって、上記有機エレクトロルミネセンス装置は、発光素子を被覆し、屈折率の異なる二以上の層を積層してなる封止膜を備える有機エレクトロルミネセンス装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(EL)装置及びその製造方法に関する。より詳しくは、発光素子を被覆する封止膜を備える有機EL装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の発光素子として注目されている有機EL素子は、一対の電極間に、少なくとも有機物による発光層を備え、更に必要に応じて発光層へ電荷を注入する役割を担う電荷注入層や、該電極から有機層へ電荷を輸送する役割を担う電荷輸送層を備えたものである。この有機EL素子は、薄型化及び軽量化が可能であり、低電圧駆動、高輝度及び自発光等の特性を有することから、現在、盛んに研究及び開発が行われている。
【0003】
しかしながら、この有機EL素子には、実用上改善すべき点がある。一つは、有機EL素子は、水分と非常に反応しやすいため、たとえわずかな水分の浸入でも急速に劣化が起こるという点である。もう一つは、有機EL素子は、紫外光等の高エネルギーの電磁波に比較的弱いため、紫外光に曝されると、有機層や陰極が劣化し、所望の特性を維持することができなくなるという点である。
【0004】
そこで、これらの点を改善するための技術開発が行われている。まず、水分の浸入を遮断する技術としては、例えば、(1)有機EL素子が形成された基板上に、水分を遮断するガラス又は金属製の封止板を、額縁状に接着剤等を用いて貼り合わせ、中空部に乾燥剤を封入する缶封止構造、(2)有機EL素子の全面上に透明でガスバリア性に優れた酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiO)及び酸化アルミニウム(AlO)等の無機薄膜を形成することによって封止を行う薄膜封止構造、及び、(3)有機EL素子上に接着剤等を全面塗布し、ガラス基板等を貼り合わせて封止を行う平板封止等がある。近年では、薄型化及び軽量化を実現することができるとともに強度の点で有利な薄膜封止技術や、薄膜封止と平板封止とを組み合わせた技術の研究及び開発が盛んである。例えば、有機EL素子の構造体の外表面にケイ素(Si)等を含有する無機アモルファス性膜(a−Si1−x膜等)からなる保護層が配設された有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、有機EL素子内への紫外光の侵入を遮断する技術に関しては、紫外光を吸収又は反射する材料を用い、それらを内包又はそれそのものから構成されるフィルターを有機EL装置の構造上に設ける手法や、同じように、紫外光を吸収又は反射する元素若しくは化合物で構成された薄層を有機EL素子上に設ける方法等が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、従来では、上述したとおり、封止手段と紫外光遮断手段とを別個の手段として設けていた。そのため、両方の技術を同時に採用するとなると、有機EL装置を作製する場合に、封止手段及び紫外光遮断手段のそれぞれに別個の材料及び装置が必要となり、材料費の上昇や作製工程数の増加はもちろんのこと、有機EL装置の設計要因が増加することで、信頼性の低下を招くという点で改善の余地があった。
【0007】
特に、基板と反対側の面、すなわち有機EL素子の上面側から光を取り出すトップエミッション構造の場合、有機EL素子の上面に設けられる封止膜及び紫外光遮断フィルター等の構造物には、可視光に対して透明であることが求められる。封止手段と紫外光遮断手段とを別個に設けることは、透過率の点においても不利である。また、紫外光吸収材料を別個に設ける場合にしても、可視光に対して透明な材料を選定する必要があるため、多くの制限が伴うこととなるという点でも改善の余地があった。
【0008】
これに対し、酸素、水分等のガスや紫外線による電気光学層等の劣化を防止するために、基板上に電気光学素子を覆うように紫外線吸収層及びガスバリア層が順に積層された電気光学装置が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。これによれば、封止と紫外光遮断とを実現することができるものの、別個の手段を用いているため、生産性の点で改善の余地があった。
【特許文献1】特開平7−161474号公報
【特許文献2】特開2004―102223号公報
【特許文献3】特開2004−310053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、水分遮断と紫外光遮断とを一手段で実現することができる有機EL装置及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、水分遮断と紫外光遮断とを一手段で実現することができる有機EL装置について種々検討したところ、発光素子を被覆する封止膜の構造に着目した。そして、封止膜が屈折率の異なる二以上の層を積層してなることにより、封止膜によって水分遮断及び紫外光遮断の両方を実現することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、基板上に発光素子を備える有機EL装置であって、上記有機EL装置は、発光素子を被覆し、屈折率の異なる二以上の層を積層してなる封止膜を備える有機EL装置である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明の有機EL装置は、基板上に発光素子を備えるものである。有機EL装置としては特に限定されず、例えば有機EL表示装置、有機EL照明装置が挙げられる。基板としては特に限定されないが、汎用性等の観点から、ガラス基板、プラスチック基板等の絶縁基板が好ましい。発光素子とは、エレクトロルミネセンス現象により発光する素子のことであり、有機EL表示装置に備えられる発光素子は、有機EL素子とも呼ばれる。発光素子の構造としては、陰極と陽極との間に少なくとも発光層が挟持された構造である限り、特に限定されず、(1)陰極、発光層及び陽極が順に積層された構造、(2)陽極、正孔輸送層、発光層及び陰極が順に積層された構造、(3)陽極、正孔輸送層、発光層、電子注入層及び陰極が順に積層された構造等が挙げられる。また、発光素子においては、陽極及び陰極のいずれが上面側(基板と反対側の面側)にあってもよいが、上面側から光を取り出すトップエミッション構造を採用し、開口率の向上を図るためには、発光素子の上面側の電極が透明導電材料で形成されていることが好ましい。
【0013】
上記有機EL装置は、発光素子を被覆し、屈折率の異なる二以上の層を積層してなる封止膜を備える。紫外光等の電磁波(光)は、通常、屈折率n1の層から屈折率n2(n1≠n2)の層に垂直に入射したとき、二層の界面で一部が反射されることが知られている。本発明では、封止膜は、屈折率の異なる二以上の層を積層してなることから、本来の水分を遮断する機能とともに、紫外光等の特定波長の電磁波(光)を反射する機能をも備える。そのため、このような封止膜で発光素子を被覆することにより、水分及び紫外光等が外部から発光素子に到達するのを抑制することができるため、水分及び紫外光等による発光素子の内部の劣化を抑制することができる。また、紫外光を遮断するのに吸収フィルターや吸収剤を別途設ける必要がないため、製造工程のタクトアップ、信頼性の向上及びコストダウンを実現することができる。更に、封止膜上に塗布された紫外線硬化型樹脂を紫外光で硬化させる工程等がある場合でも、そのような工程中で使用せざるを得ない紫外光も封止膜により遮断することができるため、生産性向上及び信頼性向上の両立が可能である。そして、封止膜により、紫外光を反射することができるため、紫外光を吸収するときと比べて、紫外線硬化型樹脂の硬化効率の向上等を図ることも可能である。また、一般的に、紫外光を吸収すると、熱やラジカルの発生を伴うため、紫外光の吸収剤や有機EL素子そのものの劣化の要因となる。そのため、紫外光を吸収して遮断するよりも、反射して遮断する方が好ましい。
【0014】
上記封止膜は、水分を充分に遮断するべく、透水率が1×10−3g/m・日以下であることが好ましく、封止膜を構成する各層の透水率が1×10−4g/m・日以下であることがより好ましい。封止膜は、紫外光を充分に遮断するべく、紫外光の透過率が40%以下であることが好ましい。なお、透水率の測定方法としては、モコン法等が挙げられ、紫外光の透過率の測定方法としては、分光測定法等が挙げられる。また、本明細書で「紫外光」とは、150〜400nmの波長域の光をいう。
【0015】
上記封止膜は、少なくとも一部の領域で屈折率の異なる二以上の層を積層してなればよいが、発光素子に到達する紫外光等を遮断する観点からは、発光素子上の全域で屈折率の異なる二以上の層を積層してなることが好ましく、製造工程を簡略化する観点からは、封止膜を配置した全域で屈折率の異なる二以上の層を積層してなることがより好ましい。また、封止膜の積層構造は、発光素子の色ごとに異なってもよい。
【0016】
上記封止膜は、任意の波長を複数設定し、複数の波長に適した多層膜とすることにより、反射する光の波長に幅をもたせることができる。多層膜で封止膜を形成することにより、反射率を高め、特定の任意の波長の透過を抑制することができる任意の波長λは、発光素子の劣化を促進する波長を選択することが好ましい。
【0017】
本発明の有機EL装置は、上記基板、発光素子及び封止膜を構成要素として備えるものである限り、その他の構成要素を備えても備えなくてもよく、特に限定されない。
【0018】
本発明の有機EL装置における好ましい形態について以下に詳しく説明する。
上記封止膜は、屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなることが好ましい。本明細書で「屈折率の高い層」とは、その直下にある層すなわちその一つ下にある層よりも屈折率が高い層のことである。「屈折率の低い層」とは、その直下にある層よりも屈折率が低い層のことである。屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層させることにより、封止膜を構成する各層の界面で強い反射を行うことができることから、各層の層厚を適正な値に設定し、反射光の位相を揃えることによって、少ない層数で封止膜の反射率を効果的に高めることができる。
【0019】
上記屈折率の高い層は、封止膜を構成する各層の屈折率の平均値よりも屈折率が高いことが好ましく、屈折率の低い層は、封止膜を構成する各層の屈折率の平均値よりも屈折率が低いことが好ましい。すなわち、封止膜は、該封止膜を構成する各層の屈折率の平均値よりも屈折率が高い層と該平均値よりも屈折率が低い層とを交互に積層してなることが好ましい。
【0020】
上記封止膜は、屈折率の高い層と屈折率の低い層との屈折率差が、0.1以上であることが好ましい。屈折率差が0.1未満であると、屈折率差が充分でなく、充分な高反射率すなわち紫外光遮断効果を得ることができなくなるおそれがある。すなわち、屈折率の高い層と低い層との屈折率差を0.1以上とすることにより、波長λに対する反射率はより高くすることができるとともに、高反射率の波長領域をより広げることができる。
【0021】
なお、反射率を高める観点から、隣接する屈折率の高い層と低い層との屈折率差が、0.1以上であることが好ましい。また、本発明の作用効果の観点から、封止膜は、隣接する屈折率の高い層と低い層との屈折率差が、0.3以上であることがより好ましい。
【0022】
なお、上記屈折率の高い層と屈折率の低い層との屈折率差が大きすぎると、反射率の高い波長領域が紫外領域だけでなく、短波長側の可視光領域にまで広がり、発光素子の発光取り出し効率を低下させてしまうおそれがある。また、屈折率の高い層と屈折率の低い層とで屈折率差を大きく得ようとする場合には、全く材料の異なる膜を形成するか、膜質を大きく変更せざるをえなくなるおそれがある。したがって、隣接する屈折率の高い層と低い層との実際の屈折率差は、有機EL装置の仕様等に鑑みて個別的に決定されることが好ましく、例えば、屈折率差は0.6以下であることが好ましい。
【0023】
上記封止膜は、3以上の層を積層してなることが好ましい。通常、封止膜を構成する層数が多くすることにより、反射率を高くすることができる。また、封止膜を構成する各層の膜厚を設計する際の設計波長λの値を層ごとに異ならせることにより、高反射率の波長範囲を広げることができる。そのため、充分な高反射率すなわち紫外光遮断効果を得るとともに、高反射率の波長範囲を広げるためには、封止膜は、3層以上の積層構造を有することが好ましい。
【0024】
なお、封止膜を構成する層数を多くしすぎると、製造工程数及び製造時間を増加させ、コストアップを招くおそれがある。また、高反射率の波長範囲が広がりすぎてしまい、高反射率の波長領域が紫外領域だけでなく、青色側の可視光領域にも広がるおそれがある。その結果、発光素子がトップエミッション構造を有する場合には、発光取り出し効率を低下させるおそれがある。このような観点から、封止膜を構成する実際の層の数は、有機EL装置の仕様等に鑑みて個別的に決定されることが好ましい。
【0025】
上記封止膜は、紫外光を反射し、可視光を透過することが好ましい。これによれば、発光素子を劣化させる紫外光が発光素子の外部から内部に到達するのを防止することができる。また、発光素子がトップエミッション構造を有する場合、発光素子の内部からの可視発光を、封止膜を透過させて有機EL装置の外部へ取り出す必要がある。そのため、封止膜は、紫外光を反射し、可視光を透過する機能を封止膜に付与することにより、有機EL装置の発光効率の減少を抑制することができる。
【0026】
本明細書で「可視光」とは、400〜800nmの波長域の光をいう。封止膜は、可視光の透過率が80%以上であることが好ましく、可視光の反射率が20%以下であることが好ましい。また、封止膜は、紫外光の反射率が60%以上であることが好ましく、紫外光の透過率が40%以下であることが好ましい。なお、可視光の透過率の測定方法としては、分光測定法等が挙げられ、可視光及び紫外光の反射率の測定方法としては、分光測定法等が挙げられる。
【0027】
上記封止膜は、上記封止膜を構成する層のうち、屈折率が直上及び直下にある層の両方よりも高い又は低い層が下記式(1)の関係を満たし、屈折率が直上及び直下にある層の一方よりも高く他方よりも低い層が下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/4)・(λ/n) (1)
=(m+1/2)・(λ/n) (2)
式(1)及び(2)中、Tは各層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における各層の屈折率を表す。
一般的に、電磁波は、屈折率n1の層から屈折率n2(n1<n2)の層に入射する場合には、屈折率n2の層の表面で反射されたときに、位相がπだけずれるが、屈折率n2の層から屈折率n1(n1<n2)の層に入射する場合には、屈折率n1の層の表面で反射されたときでも、位相がずれない。そのため、封止膜を構成する各層が直上及び直下にある層との屈折率との大小関係に応じて式(1)又は(2)の関係を満たすことにより、波長λの電磁波について、封止膜を構成する層の各界面で反射された反射波の位相を揃えることができるため、封止膜の反射率は、波長λの電磁波に対して高いピークを有する。ここで、波長λを150〜400nmの紫外光波長に設定することにより、封止膜は、紫外光領域の電磁波に対して、高いピークを持つ反射率を有する。したがって、有機EL装置の外部から入射した紫外光が発光素子の内部へ透過するのを防ぐことができるため、発光素子の紫外光による劣化を防ぐことができる。また、可視発光取り出しに対する影響を低く抑えながら、紫外光に対する反射率を確実に高くすることができる。すなわち、発光素子の外部から内部への紫外光の侵入を防止することができるとともに、発光素子の内部から有機EL装置の外部への発光の取り出しを妨げることがない。
【0028】
上記封止膜が屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなる場合、上記封止膜は、上記封止膜を構成する層が下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/4)・(λ/n) (3)
式(3)中、Tは各層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における各層の屈折率を表す。
これにより、波長λの電磁波について、封止膜を構成する層の各界面で反射された反射波の位相を揃えることができるため、反射率を高くすることができる。
【0029】
上記有機EL装置は、封止膜の直上に媒体を備え、上記封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の両方よりも高く又は低く、下記式(4)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/4)・(λ/n) (4)
式(4)中、Tは最上層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最上層の屈折率を表す。
これにより、波長λの電磁波について、媒体と封止膜の最上層との界面で反射された反射波の位相と、最上層を透過して最上層とその一つ下の層との界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、反射率を高くすることができる。
【0030】
本明細書で「最上層」とは、封止膜を構成する層のうち、最も基板と反対側の面側にある層をいう。「媒体」とは、封止膜の直上に設けられかつ発光素子から出射した光を通過させる部材をいい、例えば、封止板と封止膜とを接着する透明接着剤、缶封止構造ガラスに封入された気体(不活性ガス)等が挙げられる。
【0031】
上記封止膜が屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなる場合、封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の両方よりも高く又は低く、式(4)の関係を満たし、最上層の下にある層の少なくとも一層(好ましくは最上層の下にある層の全て)が、式(3)の関係を満たすことが好ましい。これにより、波長λの電磁波について、媒体と封止膜の最上層との界面で反射された反射波の位相と、封止膜を構成する層の各界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、封止膜の波長λの紫外光に対する反射率を更に向上させることができる。また、封止膜の最上層が式(4)の関係を満たす場合、下記式(5)の関係を満たす場合と比べて層厚合計を小さくすることができるため、材料費の削減やタクトタイムの短縮を図ることができる。
【0032】
上記有機EL装置は、封止膜の直上に媒体を備え、上記封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の一方よりも高く他方よりも低く、下記式(5)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/2)・(λ/n) (5)
式(5)中、Tは最上層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最上層の屈折率を表す。
【0033】
これにより、波長λの電磁波について、媒体と封止膜の最上層との界面で反射された反射波の位相と、最上層を透過して最上層とその直下にある層との界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、反射率を高くすることができる。また、封止膜の防湿性能を考える場合、段差被覆率又は異物の埋め込み率が高いことは、その防湿性能を左右する重要な要素の一つであるが、段差被覆率及び異物の埋め込み率は、膜厚を単純に増加させることで向上させることができる場合がある。したがって、封止膜の最上層が(5)式の関係を満たすことにより、式(4)の関係を満たす場合に比べて層厚を増加させることができることから、防湿性能の向上も図ることができる。
【0034】
上記封止膜が屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなる場合、封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の一方よりも高く他方よりも低く、下記式(5)の関係を満たし、最上層の下にある層の少なくとも一層(好ましくは最上層の下にある層の全て)が、式(3)の関係を満たすことがより好ましい。これらにより、媒体と封止膜の最上層との界面で反射された反射波の位相と、封止膜を構成する層の各界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、波長λの紫外光に対する封止膜の反射率を更に向上させることができる。
【0035】
上記封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の両方よりも高く又は低く、下記式(6)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/4)・(λ/n) (6)
式(6)中、Tは最下層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最下層の屈折率を表す。
これにより、封止膜だけでなく、封止膜の下にある層も反射層として機能するため、反射率をより向上させることができる。また、封止膜の最下層が式(6)の関係を満たすことにより、波長λの電磁波について、封止膜の最下層とその直下にある層との界面で反射された反射波の位相と、封止膜の最下層とその直上にある層との界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、反射率を高くすることができる。
なお、本明細書で「最下層」とは、封止膜を構成する層のうち、最も基板側にある層をいう。例えば、封止膜の直下にある層としては特に限定されず、発光素子の陰極等が挙げられる。また、封止膜の最上層が式(6)の関係を満たす場合、下記式(7)の関係を満たす場合と比べて層厚合計を小さくすることができるため、材料費の削減やタクトタイムの短縮を図ることができる。
【0036】
上記封止膜が屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなる場合、封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の両方よりも高く又は低く、式(6)の関係を満たし、最下層の上にある層の少なくとも一層(好ましくは最上層の下にある層の全て)が、式(3)の関係を満たすことがより好ましい。これにより、波長λの電磁波について、封止膜とその直下にある層との界面で反射された反射波の位相と、封止膜を構成する層の各界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、波長λの紫外光に対する封止膜の反射率を更に向上させることができる。
【0037】
上記封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の一方よりも高く他方よりも低く、下記式(7)の関係を満たすことが好ましい。
=(m+1/2)・(λ/n) (7)
式(7)中、Tは最下層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最下層の屈折率を表す。
【0038】
これにより、波長λの電磁波について、最下層の直上にある層と最下層との界面で反射された反射波の位相と、最下層を透過して最下層とその直下にある層との界面で反射された反射波の位相とを揃えることができるため、反射率を高くすることができる。また、封止膜の防湿性能を考える場合、段差被覆率又は異物の埋め込み率が高いことは、その防湿性能を左右する重要な要素の一つである。段差被覆率及び異物の埋め込み率は、膜厚を単純に増加させることで向上させることができる場合がある。封止膜の最下層が式(7)の関係を満たす場合、式(6)の関係を満たす場合に比べて、層厚を増加させることができることから、防湿性能の向上も図ることができる。
【0039】
上記封止膜が屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなる場合、封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の両方よりも高く又は低く、式(6)の関係を満たし、最下層の上にある層の少なくとも一層(好ましくは最下層の上にある層の全て)が、式(3)の関係を満たすことがより好ましい。これにより、封止膜とその直下にある層との界面で反射された反射波の位相と、封止膜を構成する各層の界面から反射された反射波の位相とを揃えることができるため、波長λの紫外光に対する封止膜の反射率を更に向上させることができる。
【0040】
上記式(1)〜(7)において、波長λの設定値は、150〜400nmのいずれかとしているが、本発明においては、上記範囲外に設定することも可能である。波長λの設定値は、発光素子に対して最も劣化を及ぼす紫外光の波長又はそのような劣化を及ぼす紫外光の波長領域の中心値であることが好ましく、発光素子を構成する材料にも依るが、例えば、170〜380nmのいずれかであることが好ましい。また、有機EL装置の製造過程で紫外光が発光素子に照射される場合、例えば、封止膜上に紫外線硬化型樹脂で構成される部材を設ける場合には、波長λの設定値は、その紫外線硬化に用いられる紫外光の波長のいずれかであることが好ましく、紫外線硬化型樹脂にも依るが、例えば200〜380nmのいずれかであることが好ましい。更に、有機EL装置の外部へ取り出す必要のある光が比較的短波長である場合には、波長λの設定値は、光の取り出しを妨げない程度に短波長側へずらしてもよく、例えば100〜350nmのいずれかとしてもよい。
なお、波長λの設定値は、200nmであることが特に好ましい。
【0041】
また、封止膜を構成する各層の層厚は、実際の製造では、様々な理由により、波長λを一つの値に設定したときに式(1)〜(7)で求められる理想的な層厚T、T及びTと厳密に一致させ難い場合がある。封止膜を構成する各層の実際の層厚は、理想的な層厚T、T及びTに近いほど好ましいが、理想的な層厚T、T及びTに対して10%程度であればずれていてもよく、この程度の齟齬であれば、本発明の作用効果を発揮することができる。なお、式(1)〜(7)中、mの値が大きいと、封止膜の膜厚が増加し、可視光領域の透過率を充分に確保することができなくなるおそれがあることから、m=0であることが好ましい。また、封止膜を構成する各層の層厚は、各層の屈折率や遮断したい紫外線波長により決定することが好ましいが、防湿性能の確保等の観点からは、100nm以上であることが好ましく、タクトタイム削減等の観点からは、1000nm以下であることが好ましい。
【0042】
上記封止膜は、該封止膜を構成する各層が、二種以上の元素で構成されることが好ましく、上記封止膜を構成する少なくとも一組の層が、二種以上の同一の元素で構成されることがより好ましく、上記封止膜を構成する各層が、二種以上の同一の元素で構成されることが更に好ましい。これによれば、各層を構成する材料の元素の構成比を変化させるだけで、屈折率の異なる層を形成することができる。よって、成膜装置の一元化や成膜時間の短縮化等の利点を得ることができる。
【0043】
上記封止膜は、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(AlO)及び酸化亜鉛(ZnO)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含んで構成されることが好ましい。SiN、SiO、AlO及びZnOは、可視光の透過率も高く、各種の成膜装置で容易に作製することができるという点で優れている。また、防湿性の観点からは、SiN、SiOを用いることがより好ましい。なお、プラズマ誘起化学気相成長法等でSiOを成膜する場合は、膜中に水素を含有した組成になっており、その結晶状態もアモルファス状態で形成されるのが通常である。そのため、そのようなSiOの屈折率はバルクでの一般的な屈折率の値よりも低い値となる。本明細書における「SiO」は、上記のように水素を含有してもよく、また、アモルファス状態でもよい。また、SiN、AlO及びZnOの化合物においても、製造過程に混入した不純物等を含有していてもよい。
【0044】
上記封止膜は、屈折率の異なる二種の層を交互に積層してなることが好ましい。このように屈折率の高い層と屈折率の低い層とを一種ずつ交互に積層することにより、封止膜の形成を容易化することができる。なお、成膜装置の一元化や成膜時間の短縮化等の観点から、屈折率の異なる二種の層は、二種以上の同一の元素で構成されることがより好ましい。
【0045】
本発明はまた、上記有機EL装置の製造方法であって、上記製造方法は、封止膜を化学気相成長法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法によって成膜する有機EL装置の製造方法でもある。これらの成膜方法を用いることにより、高速度で大面積に成膜することができる。また、成膜材料の導入量を制御することにより、構成元素の比率を容易に制御することができる。すなわち、上記封止膜材料の構成比率を容易に変更することができるため、封止膜を構成する各層の屈折率の制御を容易に行うことが可能である。
【発明の効果】
【0046】
本発明の有機EL装置によれば、封止膜が発光素子を被覆するとともに、屈折率の異なる二以上の層を積層してなることから、水分遮断と紫外光遮断とを一手段で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下に実施形態を掲げ、本発明を図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0048】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る有機EL装置の断面模式図である。
本実施形態に係る有機EL装置は、ガラス基板100上に発光素子10を備える。発光素子10は、膜厚が略100nmのアルミニウムからなる反射電極11、膜厚が略50nmの酸化インジウム錫(ITO)からなる陽極12、膜厚が略30nmのポルフィリン化合物からなる有機正孔輸送層13、膜厚が略10nmのオキサジアゾール化合物からなる有機発光層14、膜厚が略5nmのMg:Ag合金からなる電子注入層15及び膜厚が略10nmの酸化インジウム錫(ITO)からなる透明電極16がこの順に積層されてなる。
【0049】
また、発光素子10の全体を覆うように、五層の酸窒化シリコン(SiO)層からなる多層封止膜20aが形成されている。各層の層厚及び屈折率を下記表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
多層封止膜20aは、膜厚が略23nmで屈折率が略2.2の第一層(最下層)21a、膜厚が略31nmで屈折率が略1.6の第二層22a、膜厚が略23nmで屈折率が略2.2の第三層23a、膜厚が略31nmで屈折率が略1.6の第四層24a及び膜厚が略23nmで屈折率が略2.2の第五層(最上層)25aが順に積層されてなる。このように、屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層させることによって、波長が200nmの紫外線に対して高い反射率を有する多層反射膜20aが形成されている。そして、多層封止膜20a上に、屈折率が略1.55の透明接着剤30が設けられ、ガラス封止板200が貼り付けられている。本実施形態の有機EL装置は、発光をガラス封止板200側から取り出すトップエミッション型の構造を有している。
【0052】
本実施形態の多層封止膜20aを形成する各層の層厚は、上記式(3)、(4)及び(6)に基づき、紫外線の波長λを200nmとし、mを0として決定されている。第一に、最上層である第五層25aの直上に配置された媒体は屈折率が略1.55の透明接着剤30であり、第五層25aは屈折率が2.2であるため、第五層25aは媒体よりも高い屈折率を有する。また、第四層の屈折率は1.6であるため、第五層25aは、媒体の屈折率及び隣接する下層の屈折率の両方よりも高い。そのため、第五層25aの層厚は式(4)に基づいて決定される。次に、第一層21aから第四層24aまでの層厚を式(3)に基づいて決定する。最後に、最下層である第一層21aの直下にある透明電極16の屈折率は略1.8のITO膜である。また、第一層21aの直上に配置された第二層22aの屈折率は略1.6であるため、最下層である第一層21aは、直下にある層及び直上にある層の両方よりもの屈折率が高い。そのため、第一層21aの層厚は式(6)に基づいて決定している。本実施形態においては、結果として、五層全ての層厚が光学距離で(λ/4)になっている。
【0053】
以下に、本実施形態に係る有機EL装置の製造方法について説明する。
まず、ガラス基板100上に、反射電極11及び陽極12を真空蒸着法、スパッタリング法又はイオンプレーティング法等を用いてこの順に形成する。反射電極11には、反射率の高い材料が選択され、成膜の容易さからも金属材料であるアルミニウムや銀等を用いることが好適である。また、陽極には、仕事関数が大きい酸化インジウム錫(ITO)、及び酸化インジウム・酸化亜鉛系導電膜(Indium Zinc Oxide:IZO(登録商標))等を用いることができる。本実施形態では、反射電極11としては、アルミニウム膜を真空蒸着法により形成し、陽極12としては、ITOをスパッタリング法により形成した。
【0054】
次に、有機正孔輸送層13及び有機発光層14をこの順番に形成する。一般的には、正孔輸送層が、ポルフィリン化合物及びN,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等の芳香族第3級アミン化合物、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等の低分子系の有機材料で形成される場合には真空蒸着法で成膜を行い、ポリアニリンや3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネ−ト(PEDT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾ−ル(PVCz)等の高分子系の有機材料で形成される場合にはスピンコ−ト法やインクジェット法等により成膜を行う。また、有機発光層として、低分子形の材料としては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデェン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾ−ル等のオキサジアゾ−ル化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾ−ル(TAZ)等のトリアゾ−ル誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq)等の蛍光性有機金属化合物等が挙げられ、高分子系の材料としては、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF),ポリスパイロ(PS)、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)DO−PPP、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)等の材料が挙げられる。また、発光層としては、その他に、レベリング剤、発光アシスト剤、添加剤、電荷輸送剤、発光性のド−パント等を含んで形成されていてもよい。成膜方法としては、正孔輸送層と同様に、低分子系の場合には真空蒸着法で、高分子系の場合は、スピンコ−ト法やインクジェット法等により行われる。本実施形態では、有機正孔輸送層13としてポルフィリン化合物を、有機発光層14としてオキサジアゾ−ル化合物を真空蒸着法により形成した。
【0055】
次に、有機発光層14上に電子注入層15を形成する。電子注入層15としては、リチウム等のアルカリ金属の化合物等、又は、カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属の化合物等が用いられる。これらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属から構成される化合物は、仕事関数が低いため有機発光層14への電子注入効率が高く、成膜も容易であるため、陰極材料として好適に用いられる。本実施形態では、電子注入層として、Mg:Ag合金で形成した。
【0056】
次に、透明電極16を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を用いて形成する。本実施形態では、透明電極16として、ITO膜をスパッタリング法により形成した。以上の工程によって、発光素子10は完成される。
【0057】
続いて、発光素子10への水分及び酸素の浸入を遮断する必要があるため、発光素子10全体を覆うように封止膜を形成する。まず、プラズマ誘起化学気相成長法(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:PECVD)法を用いて、五つの層から形成される多層封止膜20aを酸窒化シリコン(SiO)により形成した。成膜には、シラン(SiH)ガス、アンモニア(NH)ガス及び酸化窒素(NO)ガスを使用し、それらのガス流量を、多層封止膜20aを形成する各層毎に調節することによって、SiOの酸素と窒素との組成比及び膜厚を変えて形成しながら、連続して五層の酸窒化シリコン膜を成膜する。
【0058】
なお、有機正孔輸送層13を形成する工程から多層封止膜20aを完成する工程においては、水分や酸素による発光素子10の劣化を防止するため、可能な限り水分及び酸素のない雰囲気で行うことが好ましい。例えば、真空チャンバ内で一貫した発光素子を形成したり、露点及び酸素濃度が厳密に管理された不活性雰囲気下のグローブボックス内で作業を行ったりする。本実施形態では、有機正孔輸送層13及び有機発光層14を高分子材料で形成しており、成膜に真空蒸着法を用いていることから、多層封止膜20aも真空チャンバ内で一貫した形成を行った。
【0059】
その後、多層封止膜20a上に、透明接着剤30を塗布して、ガラス封止板200を貼り付けた後、ガラス封止基板200側から紫外線を照射して、透明接着剤30を硬化させる。透明接着剤30としては、例えば、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系、シリコン系等の樹脂材料を用いることができ、本実施形態では、アクリル系の樹脂材料を用いて形成した。
【0060】
次に、本実施形態の多層封止膜による反射の原理について図2を用いて説明する。図2は、実施形態1に係る、有機EL装置中の透明電極16となるITO膜上に、五つの層からなる多層封止膜20aを形成した時の断面模式図を示す。実線による矢印は多層封止膜への入射光を示しており、破線の矢印は反射光を示している。また、図2中の0、π、π/2、3π/2の数字は各層での入射光及び反射光の位相を示している。なお、図2では、入射光は多層封止膜20aの法線方向に対して、角度をもって入射しているように描かれているが、これは説明のためであり、実際は多層封止膜20aに対して垂直に入射する状態を考えている。また、電磁波(光)の位相は、光学距離で(λ/4)進んだ場合にはπ/2進み、光学距離で(λ/2)進んだ場合にはπ進む。
【0061】
まず、多層封止膜20aの第五層(最上層)25aの表面において、入射波の位相が0であるとした場合、透明接着剤30と第五層25aとの界面での反射光の位相は、透明接着剤30より第五層25aの屈折率が大きいために反転し、位相はπとなる。次に、透明接着剤30と第五層25aの界面を透過して、第五層25aに入射した光が第五層25aと第四層24aとの界面に到達するときの位相は、第五層25aの層厚が光学距離で(λ/4)に設定されているためπ/2となる。更に、第五層25aに入射した光が第五層25aと第四層24aとの界面で反射する反射光の位相は、第五層25aより第四層24aの屈折率が小さいために反転せず、位相はπ/2を保持する。次に、この反射光が第五層25aを通過し、再び透明接着剤30と第五層25aとの界面を通過するときには、光学距離で(λ/4)を通過しているため、その位相はπ/2+π/2=πとなる。同様に各層界面からの反射光を考えた場合、多層封止膜20aの最上層である第五層25aと第五層25aの上部に配置された透明接着剤30との界面における全ての反射波の位相は等しくπとなり、お互いに強めあう。その結果、多層封止膜20aは、波長λの電磁波に対して高い反射率を有する。すなわち、低い透過率を持つこととなる。
【0062】
ここで、本実施形態の多層封止膜20a上から、電磁波を入射した時に、多層封止膜20aを通って素子内部へ透過する時の透過率を計算によって求めた結果を図3に示す。図3における縦軸は、任意単位の透過率を示しており、横軸は電磁波の波長を示す。図3に示すように波長200nmを中心とした波長領域のみ、透過率が低下している。つまり、多層封止膜20aによって、波長200nm近傍の紫外線の素子内部への侵入が防止されていることがわかる。このように、本実施形態の多層封止膜20aは、波長が200nm近傍の紫外線に対して遮断効果を有することがわかる。
【0063】
本実施形態によれば、多層封止膜20aにより紫外線を反射することが可能となるため、装置外部からの紫外線による発光素子10の劣化を防止することができる。また、本実施形態の有機EL装置の構造は、多層封止膜20a上に透明接着剤30を塗布してガラス封止基板200を貼り付ける平板封止構造であり、透明接着剤30を硬化する手法として紫外線を用いている。本実施形態においては、多層封止膜20aで紫外線を反射することができるため、透明接着剤30の紫外線硬化工程においても、発光素子10内への紫外線の進入を防止することができ、発光素子10の劣化を防ぐことができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、一つの多層封止膜20aで水分遮断と紫外線遮断とを行っているため、水分遮断と紫外線遮断とを個別の手段で行う形態と比較して、生産性向上及びコスト削減が実現することができる。また、発光素子10の形成から多層封止膜20aの形成を一貫して行っていることから、製造工程中に使用せざるをえない紫外線も遮断することができるため、有機EL素子の信頼性も向上ことができる。
【0065】
更に、本実施形態によれば、多層封止膜を、構成元素の組成比を変化させたSiO膜で形成している。また、二種のSiO膜で形成していることから、製造工程の一元化や成膜時間の短縮化を図ることができる利点も有する。
【0066】
なお、本実施形態では、多層封止膜を五つの層から形成しているが、本発明の効果を有する限り、何層で形成されていてもよく、積層する層数は多い方が多層封止膜の反射率は高まる。しかしながら、層数を多くしすぎると、製造時間の増加を招く可能性があり、コストアップの一因となり得る。そのため、実際の製造においては、適当な層数を導出するのがよい。
【0067】
また、有機EL素子の構造は、電子注入層と有機発光層との間に電子輸送層があってもよいし、正孔注入層と有機発光層との間に正孔輸送層がなくてもよい。また、陽極、有機発光層及び陰極の三層から形成される構成でもよく、特に限定されない。
【0068】
本実施形態では、基板としてガラス基板を用いているが、特に限定されるものではない。ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート等のプラスチック基板でもよいし、プラスチック基板に防湿性のコーティングがなされた基板でもよい。剛体である必要もなく、可撓性を有する基板でもよい。また、トップエミッション構造の有機EL装置を構成する場合は、透過性を有する基板を用いる必要はなく、アルミニウムやステンレス等の金属基板を用いてもよい。
【0069】
本実施形態では、陽極及び陰極の透明電極として酸化インジウム錫(ITO)を用いているが、特に限定されず、IZO、アルミニウム亜鉛酸化物(Aluminium Zinc Oxide:AZO)、ガリウム亜鉛酸化物(Garium Zinc Oxide:GZO)等を用いてもよい。
【0070】
本実施形態の有機EL装置は、トップエミッション構造を有しているが、基板側から光を取り出すボトムエミッション構造であってよい。ボトムエミッション構造の場合、陰極として、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)等の金属を用いることもできる。陰極として金属を使用した場合、陰極単体で紫外線をある程度反射することができるが、本発明を適用することで、紫外線に対する反射率をより高めることが可能となり、より紫外線による素子の劣化を防ぐことができる。
【0071】
本実施形態では、多層封止膜を形成する材料として酸窒化シリコン(SiO)を使用したが、その他の材料であってもよい。例えば、SiN、AlO又はZnO等のように、二以上の元素から構成され、構成元素の構成比を変化させることによって、屈折率を変化させることができる材料が好ましい。しかしながら、本発明の効果を有する限り、特に多層封止膜の材料は限定されない。また、屈折率の設定についても、本実施形態の構成に限定されず、本発明の効果を有する構成であればよい。
【0072】
本実施形態では、多層封止膜の形成方法としてPECVD法を用いたが、形成方法は特に限定されるものではない。二以上の元素から構成される化合物の、構成元素の構成比を変化させ形成することできる方法が好ましく、CVD法以外でも、イオンプレーティング法やスパッタリング法等の方法を好適に用いることができる。
【0073】
(実施形態2)
以下に、実施形態2に係る有機EL装置について説明を行う。なお、本実施形態においては、多層封止膜の構成と形成方法、及び、発光素子が缶封止構造からなっており多層封止膜の上層に位置する媒体が空気であること以外は実施形態1と同様である。
【0074】
実施形態2に係る有機EL装置は、実施形態1と同様に、ガラス基板上に発光素子が形成されている。そして、発光素子の最上層に位置する透明電極上に、イオンプレーティング法を用いて形成された、五層のSiO層からなる多層封止膜が形成されている。下記表2に、実施形態2に係る多層封止膜を構成する各層の層厚及び屈折率を示す。
【0075】
【表2】

【0076】
発光素子の最上層である透過電極上に、五つの層が積層された多層封止膜は、膜厚が略31nmで屈折率が略1.6の第一層、膜厚が略23nmで屈折率が略2.2の第二層、膜厚が略35nmで屈折率が略1.45の第三層、膜厚が略23nmで屈折率が略2.2の第四層及び膜厚が略70nmで屈折率が略1.45の第五層が積層されてなる。このように、屈折率が低い層と屈折率が高い層とを交互に積層させることによって、反射率の高い多層反射膜が形成されている。また、基板上に、水分及び酸素を遮断するガラス封止板を、多層封止膜を形成した発光素子を囲むように、接着剤等を用いて貼り合わせた缶封止構造を有している。そのため、多層封止膜の上層に位置する媒体は窒素であり、屈折率は略1である。
【0077】
実施形態2に係る多層封止膜を形成する各層の層厚は、上記式(3)、(5)及び(7)に基づき、紫外線の波長λは200nm、mは0として決定されている。第一に、最上層である第五層の上部にある媒体は、屈折率が略1の缶封止ガラスに封止された空気であり、第五層の屈折率は1.45であるため媒体よりも高い屈折率を有する。また、第五層の屈折率は、直下に位置する第四層よりも屈折率の低い層であることから、層厚を式(5)に基づいて決定する。次に、第二層から第四層までの層厚を式(3)に基づいて決定する。最後に、最下層である第一層の屈折率は略1.6であり、直上に位置する屈折率が略2.2の第二層よりも屈折率の低い層であって、第一層の直下に位置する層は、屈折率が略1.8のITO膜で形成された透明電極であることより、層厚を式(6)に基づいて決定している。本実施形態においては、結果として、第五層の層厚が光学距離で(λ/2)となっており、第一層から第四層の層厚が、光学距離で(λ/4)となっている。
【0078】
以下に、図4を用いて実施形態1と同様に実施形態2についての反射の原理を説明する。図4は、実施形態2に係る多層封止膜の反射原理を説明するための断面模式図である。実線による矢印は多層封止膜への入射光を示しており、破線の矢印は反射光を示している。また、図2中の0、π、π/2、3π/2の数字は各層での入射光及び反射光の位相を示している。多層封止膜20bは、透過電極16b上に第一層21b、第二層22b、第三層23b、第四層24b及び第五層(最上層)25bが順に積層されて形成されている。まず、第五層25bと第五層25bの上部に位置する媒体である空気の層との界面において、入射波の位相が0であるとした場合、第五層25bと空気の層との界面での反射光の位相は、空気の層より第五層25bの屈折率が大きいために反転しπとなる。次に、第五層25bと空気の層との界面を透過して、第五層25b中に入射した光が、第五層25bと第四層24bとの界面に到達するときの位相は、第五層25bの層厚が光学距離で(λ/2)に設定されていることからπとなる。また、第五層25b中に入射した光が第四層24bとの界面で反射する反射光の位相は、第五層25bより第四層24bの屈折率が大きいために反転し、位相は0となる。次に、第五層25b中に入射し、第四層24bとの界面で反射した反射光が、第五層25bを通過し、再び第五層25bと空気の層との界面を通過するときには、入射光の場合と同様に(λ/2)の光学距離を通過することになるので、その位相は0+π=πとなる。
【0079】
同様に、全ての隣接する層同士の界面による反射光を考えた場合、最上層25bと空気の層との界面における全ての反射波の位相は等しくπとなり、お互いに強めあう。その結果、多層封止膜20bは波長λの電磁波に対して強い反射率、すなわち、弱い透過率を持つ。本実施形態においても、多層封止膜20bそのものに紫外線遮断手段を設けることができ、装置外部からの紫外線による発光素子の劣化を防止することができる。
【0080】
また、本実施形態の多層封止膜20b上から、電磁波を入射させた場合の素子内部への透過率を計算によって求めた結果を図5に示す。図5における縦軸は、任意単位の透過率を示しており、横軸は電磁波の波長を示している。本実施形態においても、実施形態1と同様に、波長200nmを中心とした領域のみ、透過率が低くなっている。このように、本実施形態の多層封止膜20bが紫外線の遮断効果を有していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施形態1に係る有機EL装置を示す断面模式図である。
【図2】実施形態1に係る多層封止膜の反射原理を説明する断面模式図である。
【図3】実施形態1に係る多層封止膜の計算によって求めた透過率の波長依存性を示す図である。
【図4】実施形態2に係る多層封止膜の反射原理を説明する断面模式図である。
【図5】実施形態2に係る多層封止膜の計算によって求めた透過率の波長依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
10:発光素子
11:反射電極
12:陽極
13:有機正孔輸送層
14:有機発光層
15:電子注入層
16:透明電極
20a、20b:多層封止膜
21a、21b:第一層
22a、22b:第二層
23a、23b:第三層
24a、24b:第四層
25a、25b:第五層
30:透明接着剤
100:ガラス基板
200:ガラス封止板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に発光素子を備える有機エレクトロルミネセンス装置であって、
該有機エレクトロルミネセンス装置は、発光素子を被覆し、屈折率の異なる二以上の層を積層してなる封止膜を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項2】
前記封止膜は、屈折率の高い層と屈折率の低い層とを交互に積層してなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項3】
前記封止膜は、屈折率の高い層と屈折率の低い層との屈折率差が、0.1以上であることを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項4】
前記封止膜は、3以上の層を積層してなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項5】
前記封止膜は、紫外光を反射し、可視光を透過することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項6】
前記封止膜は、該封止膜を構成する層のうち、屈折率が直上及び直下にある層の両方よりも高い又は低い層が下記式(1)の関係を満たし、屈折率が直上及び直下にある層の一方よりも高く他方よりも低い層が下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/4)・(λ/n) (1)
=(m+1/2)・(λ/n) (2)
式(1)及び(2)中、Tは各層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における各層の屈折率を表す。
【請求項7】
前記封止膜は、該封止膜を構成する層が下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする請求項2記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/4)・(λ/n) (3)
式(3)中、Tは各層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における各層の屈折率を表す。
【請求項8】
前記有機エレクトロルミネセンス装置は、封止膜の直上に媒体を備え、
該封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の両方よりも高く又は低く、下記式(4)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/4)・(λ/n) (4)
式(4)中、Tは最上層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最上層の屈折率を表す。
【請求項9】
前記有機エレクトロルミネセンス装置は、封止膜の直上に媒体を備え、
該封止膜の最上層は、屈折率が媒体及び直下にある層の一方よりも高く他方よりも低く、
下記式(5)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/2)・(λ/n) (5)
式(5)中、Tは最上層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最上層の屈折率を表す。
【請求項10】
前記封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の両方よりも高く又は低く、
下記式(6)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/4)・(λ/n) (6)
式(6)中、Tは最下層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最下層の屈折率を表す。
【請求項11】
前記封止膜の最下層は、屈折率が直下及び直上にある層の一方よりも高く他方よりも低く、
下記式(7)の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
=(m+1/2)・(λ/n) (7)
式(7)中、Tは最下層の層厚を表し、mは0以上の整数を表し、λは150〜400nmの紫外光の波長のいずれかを表し、nはλの波長における最下層の屈折率を表す。
【請求項12】
前記封止膜は、該封止膜を構成する各層が、二種以上の元素で構成されることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項13】
前記封止膜は、該封止膜を構成する少なくとも一組の層が、二種以上の同一の元素で構成されることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項14】
前記封止膜は、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含んで構成されることを特徴とする請求項12記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項15】
前記封止膜は、屈折率の異なる二種の層を交互に積層してなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置。
【請求項16】
請求項1記載の有機エレクトロルミネセンス装置の製造方法であって、
該製造方法は、封止膜を化学気相成長法、イオンプレーティング法又はスパッタリング法によって成膜することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−243379(P2008−243379A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77740(P2007−77740)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】