説明

有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法

【課題】 本発明は、混合蒸着法によって発光層を製造する場合において、蒸着源に入れた混合物の組成と略同様な組成を有する有機エレクトロルミネッセンス発光層を製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明の有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法は、りん光発光性ドーパント材料とホスト材料とを含む混合物を、1つの蒸着源から対象物に蒸着させる工程を有し、前記ドーパント材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Tdと前記ホスト材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Thの差の絶対値が、20℃以下であることを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に設けられた有機エレクトロルミネッセンス発光層と、を有する。以下、有機エレクトロルミネッセンスを「有機EL」と記す。
有機EL素子においては、電極から発光層に注入された電子及び正孔が再結合することにより、励起子(エキシトン)を生じる。この励起子が失活するときに、発光層が発光する。
有機EL素子は、低電圧で駆動可能であり、視野角特性にも優れ、更に薄型であるため、ディスプレイ装置や照明装置などに利用できる。
前記有機EL発光層として、一重項励起状態からの蛍光発光を生じる発光層と三重項励起状態からのりん光発光を生じる発光層とが知られている。
りん光発光の発光層は、発光効率に優れているため、近年注目されている。
【0003】
りん光発光の発光層は、りん光発光性を有するドーパント材料と電荷輸送性を有するホスト材料を別々のるつぼから共蒸着することによって形成されている(特許文献1)。なお、ホスト材料は、電荷輸送材料とも呼ばれる。
共蒸着法によって発光層を形成する場合、りん光発光性ドーパント材料の蒸着速度とホスト材料の蒸着速度を制御しなければならない。
しかしながら、この両者の制御は、精密に行うことが困難である。そのため、両者の比率が設計通りの発光層が得られ難いという問題点がある。両者の比率が設計通りでない発光層は、予定した発光特性を発揮し得ない。従って、多数の発光層を量産化する際には、各発光層の発光特性にバラツキが生じ易くなる。
【0004】
一方で、ドーパント材料とホスト材料を予め均質に混合し、その混合物を1つの蒸着源に挿入し、電極に蒸着させる方法が知られている(特許文献1及び2)。この方法によれば、蒸着工程が簡易になるだけでなく、発光特性や色のばらつきが小さい有機EL発光層を形成できる。また、蒸着温度の異なるりん光発光性ドーパント材料を混合し、1つの蒸着源を用いて蒸着させることによって、蒸発時の分子流の制御(例えばクラスターサイズの制御)ができるという報告もなされている(特許文献3)。
しかしながら、ドーパント材料とホスト材料の昇華温度によっては、蒸着前の混合物の組成と蒸着膜の組成とが必ずしも一致しない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−25770号公報
【特許文献2】特開2004−281386号公報
【特許文献3】特開2003−68465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ドーパント材料とホスト材料を含む混合物を1つの蒸着源から蒸着させて有機EL発光層を製造する方法において、蒸着前の混合物の組成と略同様な組成を有する有機EL発光層を製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機EL発光層の製造方法は、りん光発光性ドーパント材料とホスト材料とを含む混合物を、1つの蒸着源から対象物に蒸着させる工程を有し、前記ドーパント材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Tdと前記ホスト材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Thの差の絶対値が、20℃以下である。
【0008】
本発明の好ましい有機EL発光層の製造方法は、前記ドーパント材料の昇華開始温度Tdと前記ホスト材料の昇華開始温度Thが、Td≦Th+20℃の関係を満たしている。
本発明のより好ましい有機EL発光層の製造方法は、前記混合物中、前記ドーパント材料が0.1質量%〜50質量%含まれている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、昇華開始温度の差の絶対値(|Td−Th|)が20℃以下の関係にある、りん光発光性ドーパント材料とホスト材料とを含む混合物を、1つの蒸着源から蒸着させるので、その混合物の組成と略同様な組成を有する有機EL発光層を製造できる。
さらに、本発明の製造方法は、両材料を予め混合した混合物を1つの蒸着源から蒸着させるので、その蒸着の制御も簡易である上、発光特性や色のばらつきが小さい有機EL発光層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る有機EL素子の概略断面図。
【図2】本発明の他の実施形態に係る有機EL素子の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[りん光発光性ドーパント材料]
本発明の製造方法に用いられるりん光発光性ドーパント材料は、ドーパント材料の昇華開始温度とホスト材料の昇華開始温度の差の絶対値が20℃以下となる(すなわち、下記式1の関係を満たす)ものである限り、特に限定されない。
【0012】
式1:|Td−Th|≦20℃。
本明細書において、Tdは、りん光発光性ドーパント材料の昇華開始温度(℃)を表す、Thは、ホスト材料の昇華開始温度(℃)を表す。これらの昇華開始温度は、真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの測定値であり、具体的な測定方法は、下記実施例に記載した通りである。
【0013】
りん光発光性ドーパント材料は、その昇華開始温度が190℃〜240℃のものを用いることが好ましく、200℃〜230℃がより好ましく、205℃〜225℃がさらに好ましい。
【0014】
りん光発光性ドーパント材料は、三重項励起状態からの発光が観測され得る化合物である。かかるりん光発光性ドーパント材料としては、例えば、遷移金属錯体が挙げられる。
この遷移金属錯体の遷移金属は、周期律表の第一遷移元素系列、第二遷移元素系列及び第三遷移元素系列にそれぞれ含まれる金属原子から選択できる。中でも、遷移金属錯体としては、パラジウム錯体、オスミウム錯体、イリジウム錯体、白金錯体、金錯体が好ましく、イリジウム錯体及び白金錯体がより好ましく、イリジウム錯体がさらに好ましい。イリジウムの場合には、3価のものを用いることが好ましい。
【0015】
前記遷移金属錯体の配位子は、前記遷移金属と錯体を形成できるものであれば特に限定されない。前記配位子としては、例えば、芳香族炭化水素環誘導体、芳香族複素環誘導体、含窒素芳香族複素環誘導体などが挙げられる。
前記配位子としては、含窒素芳香族複素環誘導体が好ましく、さらに、置換基としてアリール基を有する含窒素芳香族複素環誘導体がより好ましい。前記アリール基の置換位置は、含窒素芳香族複素環の炭素原子のいずれかであり、特に、含窒素芳香族複素環の窒素原子に隣接する炭素原子であることが好ましい。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などが挙げられる。
【0016】
含窒素芳香族複素環としては、例えば、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、フタラジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどが挙げられる。
中でも、前記配位子は、フェニルピリジン誘導体、フェニルキノリン誘導体、フェニルイソキノリン誘導体が好ましい。ドーパント材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0017】
[ホスト材料]
本発明の製造方法に用いられるホスト材料は、上記式1の関係を満たしている限り、特に限定されない。
【0018】
ホスト材料としては、電荷輸送性を有する材料が用いられる。
前記ホスト材料としては、例えば、カルバゾール骨格を有する化合物、フルオレン骨格を有する化合物、ジアリールアミン骨格を有する化合物、ピリジン骨格を有する化合物、ピラジン骨格を有する化合物、トリアジン骨格を有する化合物、アリールシラン骨格を有する化合物などが挙げられる。電荷輸送機能に優れていることから、その分子中にカルバゾール骨格を有するホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
好ましくは、下記式2の関係を満たすホスト材料が用いられ、より好ましくは、下記式3の関係を満たすホスト材料が用いられる。
式2:Td≦Th+20℃。
式3:Td≦Th+15℃。
【0020】
ホスト材料は、その昇華開始温度が170℃〜220℃のものを用いることが好ましく、180℃〜210℃がより好ましく、185℃〜205℃がさらに好ましい。
ホスト材料としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体などが挙げられる。具体的には、ホスト材料としては、1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン、4,4’−ビス[9−ジカルバゾリル]−2,2’−ビフェニル、及び2,6−ビス(N−カルバゾリル)ピリジンなどが挙げられる。
前記1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼンは、一般に「mCP」と略称され、前記4,4’−ビス[9−ジカルバゾリル]−2,2’−ビフェニルは、一般に「CBP」と略称されている。
【0021】
[有機EL素子]
図1は、本発明の有機EL素子の1つの構成例を示す参考図である。
図1において、有機EL素子10は、第1電極11と、第2電極12と、第1電極11と第2電極12の間に設けられた1つの有機EL発光層19と、を有する。
第1電極11と有機EL発光層19の間に電子輸送層13が設けられ、且つ、第2電極12と有機EL発光層19の間に正孔輸送層14が設けられている。第1電極11と電子輸送層13の間に、電子注入層15が設けられ、且つ、第2電極12と正孔輸送層14の間に正孔注入層16が設けられている。
通常、第1電極又は/及び第2電極は、基板上に設けられる。図1においては、第2電極12が基板17上に設けられている。
以下、本明細書において、有機EL発光層を「発光層」と略記する場合がある。
【0022】
図2は、本発明の有機EL素子の他の構成例を示す参考図である。
図2において、有機EL素子20は、第1電極21と、第2電極22と、第1電極21と第2電極22の間に設けられた発光層29と、を有する。この構成例においては、発光層29は、複層構造である。すなわち、発光層29は、第1発光層291と第2発光層292とを有する。第1発光層291と第2発光層292の間には、必要に応じて、分離層28が設けられる。なお、発光層29は、2層構造に限られず、3層以上でもよい。
【0023】
第1電極21と発光層29の間に電子輸送層23が設けられ、且つ、第2電極22と発光層29の間に正孔輸送層24が設けられている。第1電極21と電子輸送層23の間に、電子注入層25が設けられ、且つ、第2電極22と正孔輸送層24の間に正孔注入層26が設けられている。図2においては、第2電極22が基板27上に設けられている。
【0024】
ただし、図1及び図2は、第1電極が陰極で且つ第2電極が陽極である場合の有機EL素子の構成例をそれぞれ示している。
第1電極が陽極で且つ第2電極が陰極である場合には、第1電極と発光層の間に正孔輸送層が設けられ且つ第1電極と正孔輸送層の間に正孔注入層が設けられ、一方、第2電極と発光層の間に電子輸送層が設けられ且つ第2電極と電子輸送層の間に電子注入層が設けられる。
【0025】
(電極)
上記第1電極及び第2電極は、それぞれ導電性を有する膜からなる。
第1電極及び第2電極の形成材料は特に限定されない。第2電極又は第1電極を陽極として使用する場合、電極形成材料としては、インジウム錫酸化物(ITO);酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO);金;白金;ニッケル;タングステン;銅;などが挙げられる。
一方、第1電極又は第2電極を陰極として使用する場合、電極形成材料としては、アルミニウム;リチウムやセシウムのようなアルカリ金属;マグネシウムやカルシウムのようなアルカリ土類金属;イッテルビウムのような希土類金属;アルミニウム−リチウム合金やマグネシウム−銀合金のような合金;などが挙げられる。
【0026】
なお、発光層からの光を外部に出射させるために、第1電極及び第2電極の一方又は両方は、透光性を有する必要がある。従って、第1電極及び第2電極のうち少なくとも一方は、例えば、透光性を有する電極形成材料からなる導電膜;透光性を有すように非常に薄い導電膜(例えば、厚み数nm〜数十nm程度);などから形成される。透光性を有する電極形成材料としては、例えば、ITOや酸化亜鉛のような金属酸化物が挙げられる。
第1電極及び第2電極の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。
【0027】
(有機EL発光層)
上記発光層は、上記[りん光発光性ドーパント材料]及び[ホスト材料]の欄で説明したりん光発光性ドーパント材料及びホスト材料を含む。発光層は、りん光発光性ドーパント材料及びホスト材料からそれぞれ選ばれる1種又は2種以上を含んでいてもよい。
また、有機EL素子が複数の発光層を有する場合(発光層が複層構造である場合)、全ての発光層が上記りん光発光性ドーパント材料及びホスト材料を含んでいてもよいし、或いは、そのうちの1つの発光層が上記りん光発光性ドーパント材料及びホスト材料を含んでいてもよい。
【0028】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、発光層には、りん光発光性ドーパント材料及びホスト材料以外の成分が含まれていてもよい。
発光層中、ドーパント材料とホスト材料の含有比は特に限定されないが、好ましくは、ドーパント材料が発光層中に0.1質量%〜50質量%含まれる。
発光層の形成方法は、後述する。
【0029】
(電子輸送層及び電子注入層)
上記電子輸送層は、陰極として機能する電極から注入された電子を発光層へ輸送する機能を有する層である。上記電子注入層は、前記電極から電子輸送層へ電子の注入を補助する機能を有する層である。電子輸送層及び電子注入層は、必ずしも必要ではない。もっとも、有機EL素子には、少なくとも電子輸送層が設けられていることが好ましく、電子輸送層及び電子注入層の双方が設けられていることがより好ましい。
電子輸送層を設けることによって、電子が発光層へ注入され易くなり、更に、発光層からの光が電極の金属によって消光することを防止できる。
【0030】
電子輸送層の形成材料は、電子輸送機能を有する材料であれば特に限定されない。電子輸送層の形成材料としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq3)やビス(2−メチル−8−キノリノラト)(4−フェニルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)のような金属錯体;2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)のような複素芳香族化合物;ポリ(2,5−ピリジン−ジイル)(略称:PPy)のような高分子化合物;などが挙げられる。電子輸送層の形成材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、電子輸送層は、2層以上の多層構造であってもよい。
【0031】
電子注入層の形成材料は、特に限定されず、例えば、フッ化リチウム(LiF)やフッ化セシウム(CsF)のようなアルカリ金属化合物;フッ化カルシウム(CaF)のようなアルカリ土類金属化合物;上記電子輸送層の形成材料;などが挙げられる。電子注入層の形成材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、電子注入層は、2層以上の多層構造であってもよい。
電子輸送層及び電子注入層の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法、コート法などが挙げられる。
【0032】
(正孔輸送層及び正孔注入層)
上記正孔輸送層は、陽極として機能する電極から注入された正孔を発光層へ輸送する機能を有する層である。上記正孔注入層は、前記電極から正孔輸送層へ正孔の注入を補助する機能を有する層である。正孔輸送層及び正孔注入層は、必ずしも必要ではない。もっとも、有機EL素子には、少なくとも正孔輸送層が設けられていることが好ましく、正孔輸送層及び正孔注入層の双方が設けられていることがより好ましい。
正孔輸送層を設けることによって、正孔が発光層へ注入され易くなり、更に、発光層からの光が電極の金属によって消光することを防止できる。
【0033】
正孔輸送層の形成材料は、正孔輸送機能を有する材料であれば特に限定されない。正孔輸送層の形成材料としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)や4,4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:TPD)のような芳香族アミン化合物;1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼンのようなカルバゾール誘導体;高分子化合物;などが挙げられる。正孔輸送層の形成材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、正孔輸送層は、2層以上の多層構造であってもよい。
【0034】
正孔注入層の形成材料は、特に限定されず、例えば、バナジウム酸化物、ニオブ酸化物やタンタル酸化物のような金属酸化物;フタロシアニンのようなフタロシアニン化合物;3,4−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物(略称:PEDOT/PSS)のような高分子化合物;上記正孔輸送層の形成材料;などが挙げられる。正孔注入層の形成材料は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、正孔注入層は、2層以上の多層構造であってもよい。
正孔輸送層及び正孔注入層の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法、コート法などが挙げられる。
【0035】
(基板)
上記基板は、特に限定されず、例えば、ガラス板、セラミック板、合成樹脂製フィルムなどが挙げられる。発光層の光を基板を通じて外部に出射させる場合には、透光性を有する基板が用いられる。透光性を有する基板としては、ガラス板、透明な合成樹脂製フィルムなどが挙げられる。
なお、基板の表面には、有機EL素子を駆動させるための各種配線、駆動回路、及び/又はスイッチング素子などを設けてもよい。
【0036】
上記有機EL素子の電極に電圧を印加すると、第1電極側から注入された電子と第2電極側から注入された正孔とが発光層において再結合する。そして、ドーパント材料が、三重項励起状態から基底状態に戻るときに発光する。
本発明の有機EL発光層及び有機EL素子は、ディスプレイ装置や照明装置に用いることができる。
【0037】
[有機EL素子の製造方法]
本発明の有機EL発光層は、りん光発光性ドーパント材料とホスト材料とを含む混合物を、1つの蒸着源から対象物に蒸着させることによって形成できる。
りん光発光性ドーパント材料とホスト材料は、上記[りん光発光性ドーパント材料]及び[ホスト材料]の欄で説明したものが用いられる。
【0038】
りん光発光性ドーパント材料とホスト材料の混合比率は、特に限定されない。りん光発光性ドーパント材料とホスト材料の合計量を100質量部とした場合、りん光発光性ドーパント材料が、好ましくは0.1質量%〜50質量%である。このような混合比率であれば、混合物の組成と略同様な組成を有する発光層を確実に得ることができる。また、りん光発光性ドーパント材料の混合比率が余りに少ないと十分な発光を期待できず、一方、りん光発光性ドーパント材料が余りに多いと発光効率が低下するおそれがある。
【0039】
混合物の調製にあたっては、所定量のりん光発光性ドーパント材料とホスト材料を均質になるまで混合することが好ましい。
りん光発光性ドーパント材料とホスト材料を含む混合物を1つの蒸着源内に入れ、真空状態で加熱することにより、両材料を蒸発(気化)させ、対象物の表面に蒸着膜(すなわち、発光層)を形成できる。
対象物は特に限定されない。上記有機EL素子の発光層を形成する場合には、蒸着する対象物は、第1電極又は第2電極となる。これらの電極に電子輸送層又は電子注入層が形成されている場合には、対象物は、電子輸送層又は電子注入層となる。
蒸着工程は、従来公知の真空蒸着機を用いて実施できる。
【0040】
混合物の加熱温度の上限は、りん光発光性ドーパント材料の分解開始温度及びホスト材料の分解開始温度のいずれか低い方の分解開始温度であることが好ましい。
具体的な混合物の加熱温度は、ドーパント材料及びホスト材料の種類によって異なるが、例えば、270℃〜350℃である。
【0041】
このように両材料を予め混合した混合物を1つの蒸着源から蒸着させる方法によれば、その蒸着工程の制御も簡易である上、発光特性や色のばらつきが小さい発光層を得ることができる。
さらに、本発明の製造方法は、上記式1の関係を満たすりん光発光性ドーパント材料とホスト材料を用い且つ両材料の混合物を1つの蒸着源から蒸着させるので、蒸着前の混合物の組成と略同様な組成を有する発光層を得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし、本発明は、下記実施例のみに限定されない。
【0043】
[実施例1]
<混合物の調製>
りん光発光性ドーパント材料として、トリス(フェニルピリジン)イリジウム(以下、Ir(ppy)と記す)を用い、ホスト材料として、4,4’−ビス[9−ジカルバゾリル]−2,2’−ビフェニル(以下、CBPと記す)を用いた。
Ir(ppy)の昇華開始温度は、220℃であり、CBPの昇華開始温度は、200℃であった。
これらの昇華開始温度は、真空度6×10−4Paの下、2℃/secの昇温条件で測定対象を400℃まで昇温させ、重量減少が観測され始めたときの温度である。前記昇華開始温度は、測定機器として蒸気圧測定真空熱天秤((株)アルバック製、VAP−9000型)を用いて測定した。
【0044】
<蒸着膜(発光層)の形成>
前記Ir(ppy)と粉体の状態の前記CBPを、Ir(ppy)が0.10質量%となるように配合し、両者が均一になるまで十分に混合した。この混合物を、真空蒸着機の1つの有機用石英るつぼ内に詰めた。真空蒸着機は、チャンバーと、チャンバーの一方壁側に設けられた1つの蒸着源と、この蒸着源に対向して設けられた対象物と、対象物と蒸着源の間に設置された開閉シャッターと、を備えている。前記対象物として、市販のガラス基板を用いた。
【0045】
そして、前記混合物が詰められた前記るつぼを真空蒸着機の前記1つの蒸着源に装填し、チャンバー内を6×10−4Pa以下の真空状態にした。その後、前記蒸着源が、280℃となるように加熱すると共に、開閉シャッターを開放することにより、前記基板の表面に蒸着膜を形成した。その蒸着速度は、2〜10nm/secであった。
【0046】
得られた蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
なお、蒸着膜の組成は、蒸着膜を有機溶媒(DMSO−d6)に溶解させ、それを核磁気共鳴スペクトル(H−NMR(BRUKER社製、300MHz)により測定した。
【0047】
[実施例2]
Ir(ppy)の量が18.0質量%となるように混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0048】
[実施例3]
Ir(ppy)の量が34.0質量%となるように混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0049】
[実施例4]
Ir(ppy)の量が47.0質量%となるように混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0050】
[実施例5]
Ir(ppy)に代えて、ドーパント材料としてビス(1−フェニルイソキノリン)(アセチルアセトナト)イリジウム(III)(以下、Ir(piq)(acac)と記す)を用いて混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0051】
[実施例6]
Ir(piq)(acac)の量が34.0質量%となるように混合物を調製したこと以外は、実施例5と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0052】
[比較例1]
CBPに代えて、ホスト材料として1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン(以下、mCPと記す)を用いて混合物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0053】
[比較例2]
Ir(ppy)の量が0.01質量%となるように混合物を調製したこと以外は、比較例1と同様にして蒸着膜を形成した。
その蒸着膜の組成の測定結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から明らかなように、ドーパント材料とホスト材料の昇華開始温度の差が20℃を越えている場合には、ドーパント材料の含有比が混合物の組成よりも随分と少ない蒸着膜が形成されることが判る。一方、ドーパント材料とホスト材料の昇華開始温度の差が20℃以下の場合には、予め設定したドーパント材料とホスト材料の比率(混合物の組成)と略同様な蒸着膜が形成できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法によって製造された有機EL発光層は、ディスプレイ装置、照明装置などとして利用できる。
【符号の説明】
【0057】
10,20…有機EL素子、11,21…第1電極、12,22…第2電極、13,23…電子輸送層、14,24…正孔輸送層、15,25…電子注入層、16,26…正孔注入層、17,27…基板、19,29…発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
りん光発光性ドーパント材料とホスト材料とを含む混合物を、1つの蒸着源から対象物に蒸着させる工程を有し、
前記ドーパント材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Tdと前記ホスト材料の真空度1×10−4Pa〜1×10−2Paでの昇華開始温度Thの差の絶対値が、20℃以下である、有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法。
【請求項2】
前記ドーパント材料の昇華開始温度Tdと前記ホスト材料の昇華開始温度Thが、Td≦Th+20℃の関係を満たしている、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法。
【請求項3】
前記混合物中、前記ドーパント材料が0.1質量%〜50質量%含まれている、請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス発光層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195140(P2012−195140A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57693(P2011−57693)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】