説明

有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ

【課題】本発明の目的は、より高寿命を達成する有機EL素子を提供することであり、特に白色バックライトとして用いることができ、カラーフィルターとの組合せで高輝度を維持しながら低電圧を達成し、かつ寿命が向上した有機EL素子、および有機ELディスプレイを提供することである。
【解決手段】陽極、陰極、および陽極と陰極間に挟持される発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層には発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物が含有され、かつ、発光層中の発光性化合物のうち最も寿命が短い発光性化合物からの発光色の光取り出し及び/又は集光効率が最大であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(無機EL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が挙げられる。無機エレクトロルミネッセンス素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
しかし今後の実用化に向けた有機EL素子には、更なる低消費電力で効率よく高輝度に発光する有機EL素子の開発が望まれている。
【0005】
一方、高輝度化の達成手段の1つとして、透明基板から外側への光取出し技術が検討されている。
【0006】
特に、基板(ガラス基板、樹脂基板、など)から光を放射するような有機エレクトロルミネッセンス用バックライトにおいては、発光層から放射された光の一部が基板と空気との界面において全反射を起こし、光を損失するという問題が発生する。
【0007】
この問題を解決し、光取り出し効率を向上させる手段として幾つかの検討されている。
【0008】
例えば、全反射する界面に、光を回折する構造を設けるもの(例えば、特許文献1)、
基板また、基板の上に透明な中間層を設けてランダムな凹凸を形成し、その上に透明電極、有機層、更に電極等を形成するもの(特許文献2、3)、また、光を拡散させるシートを用いるもの(特許文献4)、低屈折率体の一方の表面に接して透明導電膜を有する構成とすることで光取りだしを向上させるもの(特許文献5)、更には、ITOを含む発光層と基板との間に光拡散のための凹凸構造を有するハードコート層および低屈折率の層を設けることで取り出し効率が向上させるもの(特許文献6)等の手段が知られている。
【0009】
しかしこれらの従来技術は、専ら外部取出し効率のみを目的としており、有機EL素子の実用化において重要な課題である素子の高寿命化に言及する記載はなかった。
【特許文献1】特開平11−283751号公報
【特許文献2】特開平1−186588号公報
【特許文献3】特許第3496492号明細書
【特許文献4】特許第2931211号明細書
【特許文献5】特開2001−202827号公報
【特許文献6】特開2004−4176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、より高寿命を達成する有機EL素子を提供することであり、特に白色バックライトとして用いることができ、カラーフィルターとの組合せで高輝度を維持しながら低電圧を達成し、かつ寿命が向上した有機EL素子、および有機ELディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記課題は以下の手段によって達成される。
【0012】
1.陽極、陰極、および陽極と陰極間に挟持される発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層には発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物が含有され、かつ、発光層中の発光性化合物のうち最も寿命が短い発光性化合物からの発光色の光取り出し及び/又は集光効率が最大であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0013】
2.光取出し及び/又は集光された発光色が、白色であることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
3.発光性化合物による発光が、青色、緑色、赤色の少なくとも3色から構成されることを特徴とする前記2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
4.少なくとも1つの発光性化合物が燐光ドーパントであることを特徴とする前記2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
5.前記2〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子から取り出される白色光から、青色フィルタ、緑色フィルタ、赤色フィルタを介して、青色光、緑色光、赤色光を得ることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、発光層には発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物を含有する有機EL素子において、高輝度、低電圧を維持しながらより高寿命を達成する有機EL素子が得られ、特に白色バックライトとして用いることができ、カラーフィルターとの組合せで長寿命な有機ELディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施するための最良に形態について説明する。
【0019】
本発明は、発光層中に発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物を含有する有機EL素子において、発光層の中で最も寿命が短い発光性化合物の発光色の光取り出しまたは集光効率が最大となるように構成することにより、高輝度、低電圧を維持しながら、より有機EL素子の高寿命を達成するというものである。これら有機EL素子は、特に表示素子において、白色バックライトとして用いることができ、カラーフィルターとの組合せで長寿命な有機ELディスプレイを提供することができる。
【0020】
有機EL素子の場合、発光輝度を高めるには電圧を高くし、注入電流を増やせばよい。輝度と電流密度はほぼ比例しているのに対し、寿命は電流密度の1.5〜2乗に反比例して悪くなるので、できるだけ電流密度を下げて、発光した光を効率よく使いたい。しかしながら、有機EL素子は、一般に透明基板から外に取り出すことができる光が非常に少なく、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないという問題がある。
【0021】
もう一方で、有機EL素子から有効に光を取り出す手段として、光取出し及び/又は集光シートを光取出し側に設置することは前記の如く知られている。
【0022】
また、発光輝度を高めるために発光層の中のドーパント濃度を高めて行くと、発光層の寿命が低下していく傾向があることが知られている。従って、本発明においては、発光色の中で、最小の寿命を有する発光性化合物からの発光色の光取り出し効率又は集光効率を最大とすることで、最小の寿命を有する発光色のドーパント濃度を低減させながら光取り出しを行うことが可能となり、有機EL素子の輝度値を維持しながら、有機EL素子及びこれを用いるディスプレイの寿命を同時に向上させることが可能になる。
【0023】
以下、本発明に係る各構成要素の詳細について順次説明する。
【0024】
《有機エレクトロルミネッセンス素子》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子とは、基板、電極、発光層、及び光取り出し及び/又は集光シートから構成される。
【0025】
《有機エレクトロルミネッセンス素子の発光、正面輝度、色度》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子や該素子に係る化合物の発光色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。本発明の有機エレクロルミネッセンス素子における白色とは、2℃視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、CIE1931 表色系の色度がx=0.33±0.07、y=0.33±0.07の領域内にあることが特徴である。
【0026】
《光取り出し及び/又は集光シート》
光取り出し及び/又は集光シートについて説明するが、以下の各方法の中から、発光層の中で最も寿命が短い発光性化合物の発光色の光取り出しまたは集光効率が最大となる光取り出し又は集光効率が最大となる方法を適宜、適用することが出来る。
【0027】
バックライト用の有機エレクトロルミネッセンス素子においては、通常、全方位に光が放射され視野角が変わっても明るさが変わらないような特性が望ましいが、使用形態によっては、正面輝度をより高くし、大きな視野角(斜め方向から観察する角度)においては輝度を低下させることが望ましい。そのために、有機エレクトロルミネッセンス素子の上に、放射角を制御する拡散板、プリズムシートが組み合わされる。また、基板(ガラス基板、樹脂基板など)から光を放射するような有機エレクトロルミネッセンス素子においては、発光層から放射された光の一部が基板と空気との界面において全反射を起こし、光を損失するという問題が発生する。この問題を解決するために、基板の表面にプリズムやレンズ状の加工を施す、もしくは基板の表面にプリズムシートやレンズシートを貼り付けることにより、全反射を抑制して光の取り出し効率を向上させる。
【0028】
(1)ガラス基板の上に拡散板とプリズムシートを置く構成
ガラス基板/透明導電膜/有機発光層/電極/封止層からなる有機エレクトロルミネッセンス素子で、ガラス基板の発光層とは反対側の基板表面に接するように第1の拡散板を置く。拡散板に接するように第1のレンズシート(例えば、3M製 BEF II)をレンズ面がガラス基板と反対側に向くように配置し、さらに第2のレンズシートをレンズのストライプが第1のレンズのストライプと直交し、かつそのレンズ面がガラス基板と反対側に向くように配置する。次に第2のレンズシートに接するように第2の拡散板を配置する。第1ならびに第2のレンズシートの形状としては、PET基材上にアクリル樹脂で頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものである。頂角が丸みを帯びた形状(3M製 RBEF)、ピッチをランダムに変化させた形状(3M製 BEF III)、その他類似の形状であっても良い。第1の拡散板としては、約100μmのPET基材上に光を拡散するビーズを混ぜた膜を形成したもので、透過率は約85%で、ヘイズ値は約75%である。第2の拡散板としては、約100μmのPET基材上に光を拡散するビーズを混ぜた膜を形成したもので、透過率は約90%で、ヘイズ値は約30%である。ガラス基板に接して配置する拡散板は、ガラス基板に光学接着剤を介して接着されていても良い。また、ガラス基板表面に光を拡散する層を直接塗布する、もしくはガラス基板の表面に光を拡散するための微細な構造が設けられたものであってもよい。以上、ガラス基板で説明したが、基板は樹脂基板であってもよい。
【0029】
(2)基板の表面にマイクロレンズアレイを形成する場合
ガラス基板/透明導電膜/有機発光層/電極/封止層からなる有機エレクトロルミネッセンス素子で、ガラス基板の有機発光層が設けられた面とは反対側の表面にマイクロレンズアレイシートを光学接着剤を介して貼り付ける。マイクロレンズアレイシートは、各々50μmの四角垂(ピラミッドの形状)でその頂角が90度のマイクロレンズを、50μmピッチで整列させた形状をしている。シートの製造方法は、マイクロレンズアレイの母型となる金属の金型と、0.5mmのスペーサをはさんで設置されたガラス平板の間にUV硬化樹脂を注入し、ガラス基板からUV露光することで樹脂を硬化させてマイクロレンズアレイシートを得る。ここで、各々のマイクロレンズの形状は、円錐形状、三角錐形状、凸レンズ形状等が適用可能である。ガラス基板にマイクロレンズアレイシートを貼り付ける構造として説明したが、樹脂基板にマイクロレンズアレイシートを貼り付けるでもよい。また、マイクロレンズアレイシートのマイクロレンズアレイが設けられた面と反対面に透明電極/有機発光層/電極/封止層を設ける、という構成でもよい。
【0030】
(3)基板の表面にマイクロレンズアレイシートを下向きに接着する構造
ガラス基板/透明導電膜/有機発光層/電極/封止層からなる有機エレクトロルミネッセンスデバイスで、ガラス基板の有機発光層が設けられた面とは反対側の表面にマイクロレンズアレイシートを、マイクロレンズの凹凸面がガラス基板側に向くように光学接着剤を介して貼り付ける。マイクロレンズアレイシートは、各々一辺が50μmの四角垂形状の頂点を平坦にした構造をしたマイクロレンズをピッチ50μmで整列した形状をしている。平坦となった頂点部分がガラス基板の表面に接着される。ここで、各々のマイクロレンズの形状としては、円錐形状、三角錐形状、凸レンズ形状等を適用可能である。ガラス基板にマイクロレンズアレイシートを貼り付ける構造として説明したが、樹脂基板にマイクロレンズアレイシートを貼り付けてもよい。
【0031】
光取り出し効率を更に高めるためには、低屈折率層を挿入することが好まく、透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚みで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。また、低屈折率媒質の厚みは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚みが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。以下に本発明の低屈折率層の例を説明するが、本発明では目的効果を損なわない範囲内であれば、これらに限定されない。
【0032】
(1)中空シリカを分散させる場合
ゾル−ゲル法で中空シリカを分散させた低屈折率層を形成したガラス基板の作成方法を説明する。ガラス基板上に以下の手順で低屈折率層を形成する。原料化合物として金属アルコキシド(正珪酸四エチルSi(OC254[略してTEOS])、溶媒としてエタノール、触媒として酢酸、それに加水分解に必要な水を加えた調合液に、低屈折率材料(触媒化成工業製、シリカ粒子(屈折率1.35))をイソプロピルアルコールに加えた液を混合させ、数十℃に保って加水分解と重縮合反応を起こさせ、液体のゾルを生成する。作成されたゾルをスピンコートでガラス基板上に塗布して反応させるとゲルとして固化する。これをさらに150度の雰囲気中で乾燥させて乾燥ゲルとし、その時の膜厚が0.5μmとなるように、溶液の調合とスピンコートの条件を設定する。その結果、膜厚0.5μm、屈折率1.37の低屈折率層が形成される。ここで、溶液の塗布方法としてスピンコートと記述したがディップコート他、均一な膜厚を得られる手法であればよい。基板としてガラス基板の例を示したが、プロセス温度が150度以下であるので、樹脂基板の上に直接塗布することも可能である。また、原料化合物や低屈折率材料としてさらに低い屈折率を選択し、得られる低屈折率層の屈折率が1.37以下にすることでさらなる効果が期待できる。膜厚については0.5μm以上が望ましく、1μm以上であればさらに好ましい。中空シリカの作製方法は、例えば、特開2001−167637号公報、特開2001−233611号公報、特開2002−79616号公報等に記載されている。
【0033】
(2)シリカエアロゲルの場合
透明基板の形成材料としては、ガラス、石英、サファイア、または、ポリエステルポリカーボネートなどの透明な合成樹脂などが挙げられる。低屈折率層は、シリコンアルコキシドのゾルゲル反応により形成される湿潤ゲルを超臨界乾燥することによって得られるシリカエアロゲルによって形成される。シリカエアロゲルとは、均一な超微細構造を持った光透過性の多孔質体である。テトラメトキシシランのオリゴマーとメタノールを混合してA液を調製し、また水、アンモニア水、メタノールを混合してB液を調製した。A液とB液を混合して得たアルコキシシラン溶液を、基板2上に塗布する。アルコキシシランをゲル化させた後、水、アンモニア水、メタノールの養生溶液中に浸漬し、室温にて1昼夜養生する。次に、養生を行なった薄膜状のゲル状化合物を、ヘキサメチルジシラザンのイソプロパノール溶液中に浸漬し、疎水化処理をし、その後、超臨界乾燥を行って、シリカエアロゲルを形成する。スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着法などの手法で透明な陽極を形成する。透明な陽極は、例えばITO(Indium Tin Oxide)、IZO等を用いることが好ましい。この陽極上に、発光層及び陰極を蒸着する。
【0034】
(3)多孔質シリカの場合
低屈折率材料として、撥水性を有するヘキサメチルジシロキサンやヘキサメチルジシラザンを含有した低比誘電率物質の溶液を、基板上に塗布して成膜を行う。ここで用いる低比誘電率物質の溶液には、ヘキサメチルジシロキサンやヘキサメチルジシラザンのような撥水性の物質以外にも、必要に応じてアルコールや酢酸ブチルなどを添加物として加えても良い。そして、焼成処理などにより、上記低比誘電率物質の溶液中の溶媒や水、酸またはアルカリ触媒や界面活性剤などを蒸発させながら多孔質シリカ材料から成る低屈折率膜を形成する。これを洗浄した後に、低屈折率膜上にRFスパッタ法によりSiO2膜からなる透明絶縁膜で中間層を形成する。その後、中間層の上にDCスパッタ法によりITO膜の成膜を行う。
【0035】
更に光取り出し効率を高めるためには、全反射を起こす界面もしくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法を併用するのが好ましい。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といったいわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な1次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0036】
回折格子を導入する位置としては前述のとおり、いずれかの層間もしくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)でも良いが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。このような構造を実現する手段として、透明基板上もしくは第1電極上に、凹凸を付加することで屈折率分布をつけ回折格子としたいわゆる表面レリーフ型の回折格子を形成する方法が考えられる。回折格子はその性質上、回折格子に強く反応する波長とそうでない波長があるため、所望する特定の波長付近の光取り出し効率のみを向上させることが可能となる。
【0037】
(正方格子の場合)
回折格子を使った光取り出し効率の向上原理を屈折率分布が正方格子配列になっている場合を例にする。正方格子の一辺の長さaと一致する波長を持った光が、正方形の辺方向に進む場合を考える。このような光は、正方格子配置された屈折率分布を感じて、進行方向に対して180度反対方向にブラッグ回折されると同時、進行方向に対して±90度方向もブラッグ条件を満たしているのでそちらの方向にも回折される。と同時に、屈折率周期分布がある面に対して垂直な方向にもブラッグ回折されるので、本来なら面内のいずれかの方向に逃げてしまう光が、面に対して垂直な方向の回折により取り出されるので、結果として光取り出し効率が向上する。この現象は波長が正方格子の一辺の長さaと等しいか、それに近い波長の光しか生じないために、波長a付近の光取り出し効率を向上することが可能になる。
【0038】
一般に有機ELは、基板に屈折率1.5程度のガラス、第1電極には屈折率が2程度のITO、有機発光層は屈折率が1.9程度、第2電極にはアルミなどの金属が使用されるので、有機発光層で発生した光が感じる平均的な屈折率は1.7程度となる。従って、光取り出し効率が向上する光の真空中での波長はa×1.7程度である。
【0039】
ゆえに、例えば回折格子の格子定数aとして260nm程度に設定すると、260×1.7=442nm付近の光の取り出し効率を向上させることが可能となる。
【0040】
(三角格子の場合)
回折格子が、正方格子に変えて三角格子配列になっている場合について図3に示した。
【0041】
三角格子配列になっている場合でも正方格子と同様である(図3)。格子定数がaの三角格子の場合、光が感じる最小ピッチは三角形の高さ方向の距離(31/2/2)×aである。今、(31/2/2)×aと一致する波長を持った光が、三角形の高さ方向に進む場合を考える。このような光は、三角格子配置された屈折率分布を感じて、進行方向に対して180度反対方向にブラッグ回折されると同時、進行方向に対して±60度、±120度方向もブラッグ条件を満たしているのでそちらの方向にも回折される。と同時に、屈折率周期分布がある面に対して垂直な方向にもブラッグ回折されるので、本来なら面内のいずれかの方向に逃げてしまう光が、面に対して垂直な方向の回折により取り出されるので、結果として光取り出し効率が向上する。しかしながら、この現象でも、波長が三角形の高さ方向の距離(31/2/2)×aに等しいか、それに近い波長の光しか生じないために、光取り出し効率が向上する波長は(31/2/2)×a付近に限られる。有機発光層で発生した光が感じる平均的な屈折率は1.7程度なので、光取り出し効率が向上する光の真空中での波長は(31/2/2)×a×1.7程度である。ゆえに例えば回折格子の格子定数aとして300nm程度に設定すると、(31/2/2)×300×1.7=442nm付近の光の取り出し効率を向上させることが可能になる。
【0042】
通常、発光色は420nm以上500nm未満の発光を青色、500nm以上550nm未満の発光を緑色、600nm以上〜650nm未満の発光を赤色に区分される。発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物からの発光色の中で、発光する材料によって異なる寿命(実質的にドーパントの寿命)に対して、最小の寿命を有する発光色の光波長の取り出し効率又は集光効率を最大とすることが可能になる。
【0043】
ここで正面輝度増幅率とは、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて、正面からの発光輝度(2℃視野角正面輝度)を、先ず、光取出し及び/又は集光シートをもたない状態で有機ELデバイスについて、発光面からの法線に分光放射輝度計の光軸が一致するようにして測定し、波長430〜480nmの範囲で各波長での発光輝度を測定しその積分輝度をとる。また光取出し及び/又は集光シート(またはその効果をもつ構造)を、今度は光取りだし側に有する状態で再度分光放射輝度計により正面から発光輝度測定を各波長について行って同じく積分輝度をとる。
【0044】
(光取出し及び/又は集光シートを有する状態での積分輝度)÷(光取出し及び/又は集光シートをもたない状態での積分輝度)=正面輝度増幅率a
から正面輝度増幅率を計算する。同じく波長510nm〜550nmにおいても同様にして測定、計算を行い、正面輝度増幅率bを、また波長600nm〜640nmにおいても同様にして測定、計算を行い、正面輝度増幅率cを求める。これにより、発光ピークが異なる、即ち発光色が青色、緑色、赤色とそれぞれ異なる発光性化合物からの発光についてそれぞれ正面輝度増幅率を求めることができる。
【0045】
従って、発光性化合物からの発光色の光取り出し及び/又は集光効率が最大であるとは、発光ピークが青色、緑色、赤色とそれぞれ異なった領域にある2種以上の発光性化合物からの発光について、各領域における正面輝度増幅率を比較したとき、正面輝度増幅率が最大である発光色が、該発光性化合物に由来することをいう。
【0046】
次に、以下有機エレクトロルミネッセンス素子の構成について説明する。
【0047】
《層構成》
本発明に係わる有機エレクトロルミネッセンス素子の構成層である発光層は、発光極大波長が各々430nm〜480nm、510nm〜550nm、600nm〜640nmの範囲にある発光スペクトルの発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物を含有する発光層からなる。
【0048】
本発明における層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
(i)陽極/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
ここで、発光層ユニットとは、発光極大波長が各々430nm〜480nm、510nm〜550nm、600nm〜640nmの範囲にある発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物を含有する単数、又は複数の発光層を有するものである。該ユニットは各発光層間に非発光性の中間層を有して複数の発光層を構成しても、単層の中に発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物を含有することで発光ピークが異なる少なくとも2種以上の異なる発光色を形成(ドーパントの共蒸着など)しても良い。
【0050】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、発光極大波長が430nm〜480nmの範囲にある発光層A、510nm〜550nmの範囲にある発光層B、600nm〜640nmの範囲にある発光層Cのように各発光ピークを形成する複数の発光層を構成しても、単層の中に発光ピークが異なる発光性化合物を含有して2種以上の発光色を形成する構成でも良い。また、発光層の数が4層より多い場合には、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。尚、本発明では発光極大波長が430nm〜480nmにある層を青発光層、510nm〜550nmにある層を緑発光層、600nm〜640nmの範囲にある層を赤発光層と以下称する。発光層の積層順は特に制限はない。
【0051】
発光層の膜厚の総和は特に制限はないが、膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、1nm〜5μmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは1nm〜200nmの範囲に調整され、特に好ましくは、10nm〜20nmの範囲である。発光層の作製には、後述する発光ドーパントやホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。各々の発光層の膜厚としては、1nm〜100nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは、1nm〜20nmの範囲に調整することである。青、緑、赤の各発光層の膜厚の関係については、特に制限はない。また、前記の極大波長を維持する範囲で、各発光層に複数の発光性化合物を混合してもよい。例えば、青発光層に、極大波長430nm〜480nmの青発光性化合物と、極大波長510nm〜550nmの緑発光性化合物を混合して用いてもよい。
【0052】
(ホスト化合物)
本発明に係わる有機EL素子の発光層に含まれるホスト化合物は、室温(25℃)でのリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義する。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用してもよい。ホスト化合物を複数種用いることで電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化できる。また、後述する発光ドーパントとして用いられるリン光性化合物等を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となりこれにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量の調整が可能で、照明、バックライトへの応用が可能となる。
【0053】
本発明に係るホスト化合物は、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい一例として挙げられる。また、前記化合物は発光層の隣接層(例えば正孔阻止層等)にも好ましく用いられる。
【0054】
【化1】

【0055】
式中、Z1は置換基を有していてもよい芳香族複素環を表し、Z2は、各々置換基を有していてもよい芳香族複素環または芳香族炭化水素環を完成するに必要な原子群を表し、Z3は2価の連結基または単なる結合手を表す。R101は水素原子または置換基を表す。
【0056】
前記一般式(1)において、Z1、Z2により形成される芳香族複素環としては、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、カルバゾール環、カルボリン環、カルボリン環等が挙げられ、更にこれら芳香族複素環を構成する環上の炭素原子が更に窒素原子で置換されている環等が挙げられる。更に、前記芳香族複素環は、後述するR101で表される置換基を有してもよい。
【0057】
前記一般式(1)において、Z2により形成される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。更に、前記芳香族炭化水素環は、後述するR101で表される置換基を有してもよい。
【0058】
一般式(1)において、R101で表される置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチ ルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)等が挙げられる。これらの置換基は、上記の置換基によって更に置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。好ましい置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、フッ化炭化水素基、アリール基、芳香族複素環基である。
【0059】
3で表される2価の連結基としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アリーレンなどの炭化水素基のほか、ヘテロ原子を含むものであってもよく、また、チオフェン−2,5−ジイル基や、ピラジン−2,3−ジイル基のような、芳香族複素環を有する化合物(ヘテロ芳香族化合物ともいう)に由来する2価の連結基であってもよいし、酸素や硫黄などのカルコゲン原子であってもよい。また、アルキルイミノ基、ジアルキルシランジイル基やジアリールゲルマンジイル基のような、ヘテロ原子を会して連結する基でもよい。また、単なる結合手とは、連結する置換基同士を直接結合する結合手である。
【0060】
本発明においては、前記一般式(1)のZ1により形成される環が6員環であることが好ましい。これにより発光効率を高くすることができる。更に、一層長寿命化させることができる。また、本発明においては、前記一般式(1)のZ2により形成される環が6員環であることが好ましい。これにより、より発光効率を高くすることができる。更に、より一層長寿命化させることができる。更に、前記一般式(1)のZ1及びZ2により形成される環を共に6員環とすることで、より一層発光効率と高くすることができるので好ましい。更に、より一層長寿命化させることができるので好ましい。以下、本発明に係る一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0061】
【化2】

【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
【化12】

【0072】
【化13】

【0073】
【化14】

【0074】
【化15】

【0075】
【化16】

【0076】
【化17】

【0077】
【化18】

【0078】
【化19】

【0079】
【化20】

【0080】
【化21】

【0081】
【化22】

【0082】
【化23】

【0083】
【化24】

【0084】
【化25】

【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【0087】
【化28】

【0088】
【化29】

【0089】
【化30】

【0090】
【化31】

【0091】
【化32】

【0092】
【化33】

【0093】
【化34】

【0094】
【化35】

【0095】
【化36】

【0096】
【化37】

【0097】
また、本発明に用いられる発光ホストとしては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。公知のホスト化合物は正孔輸送能、電子輸送能を有し且つ発光の長波長化を防ぎ、且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。公知のホスト化合物の具体例は以下の文献に記載されている化合物がある。例えば特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。本発明では発光極大波長が430nm〜480nmの範囲にある発光層A、510nm〜550nmの範囲にある発光層B、600nm〜640nmの範囲にある発光層Cを有するが、前記3層の少なくとも2層のホスト化合物の50質量%以上が、燐光発光エネルギーが各々2.9eV以上であり、且つ、Tg(ガラス転移点)が、各々90℃以上の化合物が好ましく、更に好ましくは100℃以上の化合物である。中でも、有機EL素子保存性向上(耐久性向上ともいう)、発光層界面での化合物の分布のむらを低減させる観点から特に好ましくは、前記化合物の分子構造が同一であることが好ましい。ここで、ホスト化合物の物理化学的特性が同一または分子構造が同一であることが好ましい理由については、後述する非発光性の中間層のところで詳細に説明する。
【0098】
(Tg(ガラス転移点))
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いてJIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0099】
(燐光発光エネルギー)
本発明に係る燐光発光エネルギーについて説明する。
【0100】
本発明に係る燐光発光エネルギーとは、ホスト化合物を支持基盤(単に基板でもよい)上に100nmの蒸着膜のフォトルミネッセンスを測定した時、得られる燐光発光の0−0バンドのピークエネルギーをいう。
【0101】
(燐光発光の0−0バンドの測定方法)
まず、リン光スペクトルの測定方法について説明する。測定する発光ホスト化合物を、よく脱酸素されたエタノール/メタノール=4/1(体積/体積)の混合溶媒に溶かし、リン光測定用セルに入れた後、液体窒素温度77°Kで励起光を照射し、励起光照射後100msでの発光スペクトルを測定する。リン光は蛍光に比べ発光寿命が長いため、100ms後に残存する光はほぼリン光であると考えられる。なお、リン光寿命が100msより短い化合物に対しては遅延時間を短くして測定しても構わないが、蛍光と区別できなくなるほど遅延時間を短く設定するとリン光と蛍光が分離できないので分離が可能な遅延時間を選択する必要がある。また、上記溶剤系で溶解できない化合物は、その化合物を溶解しうる任意の溶剤を使用してもよい(実質上、上記測定法ではリン光波長の溶媒効果はごくわずかなので問題ない)。次に0−0バンドの求め方は本発明においては、上記測定法で得たリン光スペクトルチャートの中で最も短波長側に現れる発光極大波長を0−0バンドと定義する。リン光スペクトルは通常強度が弱いことが多く拡大するとノイズとピークの判別が困難なケースがある。このような場合には励起光照射中の発光スペクトル(便宜上これを定常光スペクトルと言う)を拡大し、励起光照射後100ms後の発光スペクトル(便宜上これをリン光スペクトルと言う)と重ねあわせリン光スペクトルに由来する定常光スペクトル部分からリン光スペクトルのピーク波長を読みとることで決定することができる。また、リン光スペクトルをスムージング処理することでノイズとピークを分離しピーク波長を読みとることもできる。なお、スムージング処理としては、Savitzky&Golayの平滑化法等を適用することができる。
【0102】
(発光ドーパント)
本発明に係る発光ドーパントは、蛍光性化合物、燐光発光体(リン光性化合物、リン光発光性化合物等ともいう)を用いることが出来るが、より発光効率の高い有機EL素子を得るためには本発明の有機EL素子の発光層や発光ユニットに使用される発光ドーパント(単に、発光材料ということもある)は上記のホスト化合物を含有すると同時に、燐光発光体を含有することが好ましい。
【0103】
(燐光発光体(燐光ドーパントともいう))
本発明に係る燐光発光体(燐光ドーパント)は、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)でリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。上記リン光量子収率は第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光発光体は任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。燐光発光体の発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成しこのエネルギーを燐光発光体に移動させることで燐光発光体からの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つは燐光発光体がキャリアトラップとなり燐光発光体上でキャリアの再結合が起こり燐光発光体からの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、いずれの場合においても燐光発光体の励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。燐光発光体は、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。本発明に係る燐光発光体としては、好ましくは元素の周期表で8族〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。以下に、燐光発光体として用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0104】
【化38】

【0105】
【化39】

【0106】
【化40】

【0107】
【化41】

【0108】
【化42】

【0109】
【化43】

【0110】
(蛍光発光体(蛍光ドーパントともいう))
蛍光発光体(蛍光ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。また、従来公知のドーパントも本発明に用いることができ、例えば、国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、特開2001−181616号公報、特開2002−280179号公報、特開2001−181617号公報、特開2002−280180号公報、特開2001−247859号公報、特開2002−299060号公報、特開2001−313178号公報、特開2002−302671号公報、特開2001−345183号公報、特開2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、特開2002−50484号公報、特開2002−332292号公報、特開2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、特開2002−338588号公報、特開2002−170684号公報、特開2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、特開2002−100476号公報、特開2002−173674号公報、特開2002−359082号公報、特開2002−175884号公報、特開2002−363552号公報、特開2002−184582号公報、特開2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、特開2002−226495号公報、特開2002−234894号公報、特開2002−235076号公報、特開2002−241751号公報、特開2001−319779号公報、特開2001−319780号公報、特開2002−62824号公報、特開2002−100474号公報、特開2002−203679号公報、特開2002−343572号公報、特開2002−203678号公報等が挙げられる。
【0111】
《非発光性の中間層》
本発明に係る非発光性の中間層について説明する。本発明に係る非発光性の中間層とは、発光極大波長が各々430nm〜480nm、510nm〜550nm、600nm〜640nmの範囲にある発光層ユニットの各発光層の間に設けられる。
【0112】
非発光性の中間層の膜厚としては、1nm〜50nmの範囲にあるのが好ましく、更には3nm〜10nmの範囲にあることが、隣接発光層間のエネルギー移動など相互作用を抑制し、且つ、素子の電流電圧特性に大きな負荷を与えないという観点から好ましい。
【0113】
この非発光性の中間層に用いられる材料は発光層のホスト化合物と同一でも異なっていてもよいが、隣接する2つの発光層のすくなくとも一方の発光層のホスト材料と同一であることが好ましい。
【0114】
非発光性の中間層は、非発光の各発光層と共通の化合物(例えば、ホスト化合物等)を含有していてもよく、各々共通ホスト材料(ここで共通ホスト材料が用いられるとは、燐光発光エネルギー、ガラス転移点等の物理化学的特性が同一である場合やホスト化合物の分子構造が同一である場合等を示す)を含有することにより、発光層−非発光層間の層間の注入障壁が低減され、電圧(電流)を変化させても正孔と電子の注入バランスが保ちやすいという効果を得ることができる。また、電圧(電流)をかけたときの色ずれが改善されるという効果が得られる。更に非ドープ発光層に各発光層に含まれるホスト化合物とが、同一の物理的特性または同一の分子構造を有するホスト材料を用いることにより、従来の有機EL素子作製の大きな問題点である素子作製の煩雑さをも併せて解消することが出来る。
【0115】
更に、上記のように、共通ホスト材料の最低励起三重項エネルギー準位T1が、燐光発光体の最低励起三重項エネルギー準位T2よりも高い励起三重項エネルギーを有する材料を用いることで、発光層の三重項励起子を効果的に発光層内に閉じ込めるので高効率な素子を得ることが出来る。また青・緑・赤の3色の有機EL素子では、各々の発光材料に燐光発光体を用いる場合、青色の燐光発光体の励起3重項エネルギーが一番大きくなるが、前記青色の燐光発光体よりも大きい励起3重項エネルギーを有するホスト材料を発光層と非発光性の中間層とが共通のホスト材料として含んでいてもよい。本発明の有機EL素子は、ホスト材料はキャリアの輸送を担うためキャリア輸送能を有する材料が好ましい。キャリア輸送能を表す物性としてキャリア移動度が用いられるが、有機材料のキャリア移動度は一般的に電界強度に依存性が見られる。電界強度依存性の高い材料は正孔と電子注入・輸送バランスを崩しやすい為、中間層材料、ホスト材料は移動度の電界強度依存性の少ない材料を用いることが好ましい。また、一方では正孔や電子の注入バランスを最適に調整するために非発光性の中間層は正孔阻止層、電子阻止層として機能することも好ましい。
【0116】
(非発光性の中間層が正孔阻止領域として機能する場合)
正孔阻止領域(層といってもよい)とは広義では電子輸送領域(層といってもよい)であり、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止領域は正孔輸送領域から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光領域の方向に輸送することができる化合物により形成される。正孔阻止領域を構成する材料に求められる物性は電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、及び正孔を効率的に発光領域内に閉じこめるために、発光領域のイオン化ポテンシャルより大きいイオン化ポテンシャルの値を有するか、発光領域のバンドギャップより大きいバンドギャップを有することが好ましい。正孔阻止材料は、スチリル化合物、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ボロン誘導体の少なくとも1種を用いることが好ましい。その他の化合物例として、特開2003−31367号公報、同2003−31368号公報、特許第2721441号明細書等に記載の例示化合物が挙げられる。
【0117】
(非発光性の中間層が電子阻止領域として機能する場合)
一方、電子阻止領域として機能する場合の電子阻止とは広い意味では正孔輸送であり、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料を非ドープ領域に含み、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、非発光性の中間層(単に非発光性層ともいう)は、前記発光層Aが陽極に最も近接する発光層であり、該発光層Aと次に陽極側に近い発光層との間に、前記発光層Aに含有されるホスト化合物に対してイオン化ポテンシャル(イオン化ポテンシャルの測定方法は、阻止層に係る化合物のイオン化ポテンシャルの測定方法と同様である)が0.2eV以上大きい化合物を50質量%以上含有する非発光性層を有することが本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の輝度向上の観点から好ましい。
【0118】
《注入層:電子注入層、正孔注入層》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層で、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0119】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にその詳細が記載されており、具体例として銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等がある。陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にも詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等がある。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材によるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0120】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0121】
正孔阻止層は広義では電子輸送層の機能を有し電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0122】
また、複数の発光色の異なる発光層を有する場合では、このような場合にはその発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と、該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。更には、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対し、そのイオン化ポテンシャルが0.2eV以上大きいことが好ましい。
【0123】
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法で求めることができる。
【0124】
(1)米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)の小数点第2位を四捨五入した値としてイオン化ポテンシャルを求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
【0125】
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
【0126】
一方、電子阻止層とは広義では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係わる正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては好ましくは3nm〜100nmであり、更に好ましくは5nm〜30nmである。
【0127】
《正孔輸送層》
正孔輸送層は正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するもので有機物、無機物のいずれでもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような所謂、p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明ではより高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5nm〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。本発明ではこのようなp性の高い正孔輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0128】
《電子輸送層》
電子輸送層は電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含む。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料は従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えばニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることができる。また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができ、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。また不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開平10−270172号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)などに記載されたものが挙げられる。本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0129】
《支持基盤》
本発明の有機EL素子に係る支持基盤(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)は、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基盤側から光を取り出す場合は、支持基盤は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基盤は、ガラス、石英、透明樹脂フィルムがある。特に好ましい支持基盤は有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。樹脂フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)或いはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。樹脂フィルムの表面は無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(40℃、90%RH)が、0.01g/m2・day・atm以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1992に準拠した方法で測定された酸素透過度(20℃、100%RH)が、10-3g/m2/day以下、水蒸気透過度が、10-3g/m2/day以下の高バリア性フィルムであることが好ましく、前記の水蒸気透過度、酸素透過度がいずれも10-5g/m2/day以下であることが更に好ましい。高バリア性フィルムとするために樹脂フィルム表面に形成されるバリア膜を形成する材料は、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0130】
《バリア膜の形成方法》
バリア膜の形成方法については、特に限定はなく例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。不透明な支持基盤としては、例えばアルミ、ステンレス等の金属板・フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0131】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し効率は1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
【0132】
《封止》
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段は、例えば封止部材と、電極、支持基盤とを接着剤で接着する方法がある。封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に限定されない。具体的にはガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板は特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。
【0133】
また、ポリマー板は、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウムおよびタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。本発明は素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
【0134】
更にポリマーフィルムは酸素透過度10-3g/m2/day以下、水蒸気透過度10-5g/m2/day以下のものであることが好ましい。また、前記の水蒸気透過度、酸素透過度がいずれも10-5g/m2/day以下であることが、更に好ましい。封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0135】
接着剤は、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化および熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系などの熱および化学硬化型(二液混合)がある。またホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいしスクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0136】
また、有機層を挟み支持基盤と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基盤と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好ましい。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。
【0137】
これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができる。封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙は、気相および液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体や、フッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能であるし、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。吸湿性化合物は例えば金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等があげられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物および過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0138】
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基盤と対向する側の前記封止膜あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜の場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料は、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0139】
《陽極》
有機EL素子の陽極は仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましい。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式など湿式製膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0140】
《陰極》
一方、陰極は、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましい。このような電極物質の具体例は、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50nm〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好ましい。
【0141】
陰極に上記金属を1nm〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0142】
《有機EL素子の作製方法》
本発明の有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。まず適当な支持基盤上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの膜厚になるように蒸着やスパッタリング等の方法により形成させて陽極を作製する。次にこの上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層の有機化合物薄膜を形成させる。この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。更に層毎に異なる製膜法を適用してもよい。製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50℃〜450℃、真空度10-6Pa〜10-2Pa、蒸着速度0.01nm/秒〜50nm/秒、基板温度−50℃〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5nm〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下好ましくは50nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製してもよく、途中で取り出して異なる製膜法を施してもよい。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。また作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2V〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0143】
《用途》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではなく、特に、カラーフィルターと組み合わせた液晶表示装置のバックライト、照明用光源として有効に用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、必要に応じ製膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもいいし、電極と発光層をパターニングしてもいいし、素子全層をパターニングしてもいい。
【0144】
《表示装置》
本発明の用途の一例である表示装置は多色または白色の表示装置に用いられる。多色または白色の表示装置の場合は、発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、印刷法である。蒸着法を用いる場合はシャドーマスクを用いたパターニングが好ましい。また、作製順序を逆にして、陰極、電子輸送層、正孔阻止層、発光層ユニット(上記の発光層A、B及びCの少なくとも3層を有し、各発光層間に非発光性の中間層を有していてもよい)、正孔輸送層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色または白色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2V〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0145】
《照明装置》
本発明の用途の一例である照明装置について説明する。本発明の有機EL素子は、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用しても良いし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用しても良い。動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでも良い。本発明に用いられる白色有機エレクトロルミネッセンス素子においては、必要に応じ製膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもいいし、電極と発光層をパターニングしてもいいし、素子全層をパターニングしてもいい。発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係わる白金錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて、また、本発明に係わる光取りだし及び/又は集光シートと組み合わせて、白色化すれば良い。
【0146】
このように、本発明に用いられる白色の有機EL素子は、CF(カラーフィルター)と組み合わせて、また、CF(カラーフィルター)パターンに合わせ素子及び駆動トランジスタ回路を配置することで、有機エレクトロルミネッセンス素子から取り出される白色光をバックライトとして、青色フィルタ、緑色フィルタ、赤色フィルタを介して、青色光、緑色光、赤色光を得ることで、低駆動電圧で、長寿命のフルカラーの有機エレクトロルミネッセンスディスプレイが出来好ましい。
【0147】
また、これらディスプレイに加えて、各種発光光源、照明装置として、家庭用照明、車内照明、また、露光光源のような一種のランプとして、液晶表示装置のバックライト等、表示装置にも有用に用いられる。その他、時計等のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体等の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等、更には表示装置を必要とする一般の家庭用電気器具等広い範囲の用途が挙げられる。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0149】
実施例1
《有機エレクトロルミネッセンス素子101の作製》
30mm×30mm、厚さ0.7mmのガラス基板上にエッチング処理にて回折格子を作製した。回折格子は三角格子配列で(図3)格子定数a=414nm、各格子形状は円形で格子高さ150nm、格子半径は100nmとした。
【0150】
陽極として、回折格子を作製したガラス基板の回折格子の上部からITO(インジウムチンオキシド)を120nm成膜した基板(支持基盤ともいう)にパターニングを行った後、このITO透明電極を付けた透明支持基盤をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この透明支持基盤を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、CuPc(銅フタロシアニン)、m−MTDATA、α−NPD、CBP、燐光G(緑ドーパント)、燐光R1(赤ドーパント)、燐光B(青ドーパント)、m−Cp、BAlq、Alq3を各々素子作製に最適の量充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0151】
次いで、真空度4×10-4Paまで減圧した後、m−MTDATAの入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基盤のITO電極側に蒸着し40nmの正孔注入層を設けた。更に、表1に記載の混合比で、各層が形成されるように上記材料が装填された蒸着用るつぼに通電を行い、共蒸着または単独蒸着して正孔輸送層、発光層1、中間層1、発光層2、中間層2、発光層3を各々成膜した。更に、BAlqの入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層2上に蒸着して正孔阻止層を作製し、次いで、Alq3の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で正孔阻止層上に蒸着して電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。引き続きフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更に、アルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成した。
【0152】
引続き前記蒸着面側をガラスカバーで覆い、有機EL素子各層を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で封止して有機エレクトロルミネッセンス素子101を作製した。図1に外観図を、また図2には素子の断面図を示し、図1、2において、101はガラス基板を、102はガラスカバー、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極(陽極)を示す。尚、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
【0153】
《有機エレクトロルミネッセンス素子102〜104の作製》
回折格子を作製しない30mm×30mm、厚さ0.7mmのガラス基板を使用し、表1に記載の混合比、膜厚に変更した以外、有機EL素子101と全く同様にして102、103の素子を作製し、同様に封止した。
尚、有機EL素子102は発光層3の膜厚は変えずに燐光性ドーパント量を6質量%から15質量%に増量して素子の赤色発光の強度を強めた素子、また、有機EL素子103は、ホスト化合物と燐光ドーパントの比率は有機EL素子101と同じだが、膜厚を増やした素子とした。
【0154】
【表1】

【0155】
【化44】

【0156】
【化45】

【0157】
燐光G(燐光ドーパント):Ir−1
《素子の封止化処理と正面輝度の評価》
前記のごとく作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子の正面輝度が1000cd/m2となる駆動電圧(V)で駆動し、発光寿命(hr)を評価した。
【0158】
寿命は、前記1000cd/m2を与える初期電流値にて駆動し続け、輝度が半減するまでの相対時間をとり、素子101を100とする相対値で表した。
【0159】
また、ここで全ての素子は、2℃視野角正面輝度が1000cd/m2において、CIE1931表色系における色度がx=0.33±0.07、y=0.33±0.07の範囲であり、白色であることを確認した。
【0160】
得られた結果を表2に示す。
【0161】
また有機EL素子101(本発明)の回折格子を設置した場合の、これを設置しない場合と比較して、正面輝度増幅率について測定したところ、B:1.0倍、G:1.0倍、R:1.4倍であった。
【0162】
なお、正面輝度増幅率の測定は、これを用いた有機EL素子について、光取り出し側に、光取出し部材(回折格子)を設置しない以外は同じ構成の有機EL素子を、コニカミノルタセンシング社製分光放射輝度計CS−1000を用いて、2℃視野角正面輝度を、発光面からの法線に分光放射輝度計の光軸が一致するようにして、波長430〜480nmの範囲で測定し、積分強度をとった後、次に光取出し部材を設置して作製した素子(有機EL素子101)を同様に測定して積分強度をとった後、それぞれの積分強度比をとって、正面輝度増幅率Bを求めた。
【0163】
波長範囲をそれぞれ510〜550nm、600〜640nmについてそれぞれ別に同様に測定して、それぞれの波長範囲における正面輝度増幅率G及びRを求めた。
【0164】
【表2】

【0165】
表2の結果から、比較の素子102、103に比べて、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子101は、所定の正面輝度、及び白色発光が得られ、低電圧でしかも連続駆動寿命が改良されていることが判る。
【0166】
以上、青色/緑色/赤色の3色発光の構成において、赤色の正面輝度増幅率が高い特徴を活かした結果、低電圧化と高寿命化の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】有機EL素子の外観図である。
【図2】有機EL素子の断面図である。
【図3】回折格子(三角格子配列になっている場合)の説明図である。
【符号の説明】
【0168】
101 ガラス基板
102 ガラスカバー
105 陰極
107 透明電極
106 有機EL層
108 窒素ガス
109 捕水剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極、および陽極と陰極間に挟持される発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層には発光ピークの異なる2種以上の発光性化合物が含有され、かつ、発光層中の発光性化合物のうち最も寿命が短い発光性化合物からの発光色の光取り出し及び/又は集光効率が最大であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
光取出し及び/又は集光された発光色が、白色であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
発光性化合物による発光が、青色、緑色、赤色の少なくとも3色から構成されることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
少なくとも1つの発光性化合物が燐光ドーパントであることを特徴とする請求項2又は3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子から取り出される白色光から、青色フィルタ、緑色フィルタ、赤色フィルタを介して、青色光、緑色光、赤色光を得ることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−251096(P2007−251096A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76292(P2006−76292)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】