説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える表示装置又は発光装置

【課題】 長寿命な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 陽極と陰極との間に有機材料を含む発光層を備えてなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記陽極と前記発光層との間に、前記陽極から注入されたホールを前記発光層に向かって輸送するためのホール輸送層を設けると共に、該ホール輸送層と前記発光層との間に、該ホール輸送層と前記発光層の各最低空分子軌道のエネルギーレベルより低い最低空分子軌道のエネルギーレベルを有する中間層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える表示装置又は発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化に伴い、一般に使用されているCRT(陰極線管)に比べて消費電力が少ない平面表示素子に対するニーズが高まってきている。このような平面表示素子の一つとして、高効率・薄型・軽量・低視野角依存性等の特徴を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略記する。)が注目されている。
【0003】
現在の一般的な有機EL素子は、陽極であるホール注入電極と陰極である電子注入電極との間に、陽極から注入されるホールを輸送するためのホール輸送層、ホール輸送層によって輸送されたホールを電子と再結合させて発光を行う発光層、および発光層に向かって陰極からの電子を輸送する電子輸送層が順に形成された積層構造を有する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−179142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成を有する有機EL素子では、発光層において電子とホールとが再結合することにより所定の波長の光を発生させるため、十分な発光輝度を得るためには、陰極から発光層に与えられる電子、及び陽極から発光層に与えられるホールが充分に多いことが望まれる。
【0005】
しかしながら、発光層に与えられる電子が多量になると、発光層にて再結合に寄与しなかった余剰電子が生じるため、この余剰電子がホール輸送層中に到達すると、この電子がホール輸送層を構成する有機材料に悪影響を与える危惧がある。
【0006】
例えば、有機EL素子においては、陽極から注入されたホールをホール輸送層の材料として一般的にトリアリールアミン誘導体などのアミン誘導体が用いられるが、アミン誘導体の場合には、アミンの窒素に電子が働いて、分子構成を壊すこととなるため、ホール輸送能力が劣化し、有機EL素子の寿命が低下する不都合を招いていた。
【0007】
本発明の目的は、有機EL素子およびそれを備える表示装置又は発光装置の長寿命化を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極との間に有機材料を含む発光層を備えてなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記陽極と前記発光層との間に、前記陽極から注入されたホールを前記発光層に向かって輸送するためのホール輸送層を設けると共に、該ホール輸送層と前記発光層との間に、該ホール輸送層と前記発光層の各最低空分子軌道のエネルギーレベルより低い最低空分子軌道のエネルギーレベルを有する中間層を設けたことを特徴とする。
【0009】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子においては、陽極と、ホールの輸送を促進するホール輸送層と、中間層と、発光層と、陰極とが順に設けられている。これにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動時においては、陰極から発光層に電子が注入され、陽極から発光層にホールが注入される。その結果、発光層で電子とホールとが再結合し、発光層が発光する。
【0010】
この場合、中間層の最低空分子軌道(LUMO:Lowest Unoccupied Molecular Orbital)は、ホール輸送層と発光層のLUMOよりも低いレベルを有する。これにより、中間層内において発光層を通過してくる余剰電子が中間層内にトラップされる。その結果、ホール輸送層に移動する電子を低減することができ、ホール輸送層の劣化が抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命が長くなる。
【0011】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、発光層の最高被占有分子軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギーレベルと前記中間層のLUMOのエネルギーレベルの差が1.5eV以内である。
【0012】
この場合、中間層のLUMOのエネルギーレベルと該中間層と隣接する発光層のHOMOのエネルギーレベルの差が小さいので、中間層が発光層から電子を引っぱり、該発光層内にホールを発生させる。このホールが、発光層内で電子と再結合し、発光層が発光する。したがって、発光効率が向上すると共に、その分、発光層でのホールと電子の再結合が促進されるので、余剰電子自体を低減させることができ、ホール輸送層の劣化の抑制に寄与する。
【0013】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記陽極とホール輸送層との間に、陽極からのホールをホール輸送層に注入するためのホール注入層を設け、前記ホール輸送層のHOMOのエネルギーレベルと前記ホール注入層のLUMOのエネルギーレベルの差が1.5eV以内である。
【0014】
ホール注入層のLUMOのエネルギーレベルとホール輸送層のHOMOのエネルギーレベルの差が小さいので、ホール注入層がホール輸送層から電子を引っぱり、該ホール輸送層内にホールを発生させる。このホールが、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子内の電場により発光層内に移動し、発光層内で電子と再結合し、発光層が発光する。したがって、発光効率が向上し、余剰電子自体の低減によるホール輸送層の劣化抑制にも寄与する。
【0015】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記中間層と前記ホール注入層とが同一の材料からなる。
【0016】
この場合、中間層とホール注入層として、別々の材料を準備する必要がないため、材料点数を低減でき、また、中間層とホール注入層それぞれの成膜装置を兼用することができる。したがって、製造コストの削減に寄与できる。
【0017】
第2の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、アミン誘導体を含むホール輸送層と、発光層と、電子輸送層とをこの順に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ホール輸送層と前記発光層との間に、式(1)で示される分子構造を有するピラジン誘導体を含む中間層を設けたことを特徴とする。
【0018】
【化1】

【0019】
第1の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、好ましくは、前記ピラジン誘導体は式(2)で示される分子構造を有する材料を含む。
【0020】
【化2】

【0021】
式(2)で示される分子構造を有する材料は、LUMOのエネルギーレベルが低いため、これを中間層として用いる場合、中間層のLUMOを、ホール輸送層と発光層のLUMOよりも低いレベルに設定することができる。これにより、中間層内においても発光層を通過した電子がトラップされる。それにより、発光層から中間層を通過してホール輸送層に移動する電子を低減することができる。その結果、このような電子によるアミン誘導体を含むホール輸送層の劣化が低減され、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命が長くなる。
【0022】
第3の発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、アミン誘導体を含むホール輸送層と、発光層と、電子輸送層とをこの順に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記ホール輸送層と前記発光層との間に、式(3)で示される分子構造を有する材料を含む中間層を設けたことを特徴とする。
【0023】
【化3】

【0024】
式(3)で示される分子構造を有するピラジン誘導体は、LUMOのエネルギーレベルが低いため、これを中間層として用いる場合、中間層のLUMOを、ホール輸送層と発光層のLUMOよりも低いレベルに設定することができる。これにより、中間層内においても発光層を通過した電子がトラップされる。それにより、発光層から中間層を通過してホール輸送層に移動する電子を低減することができる。その結果、このような電子によるアミン誘導体を含むホール輸送層の劣化が低減され、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命が長くなる。
【0025】
第4の発明に係る表示装置は、上記の第1乃至第3のいずれかの発明に係る1又は複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えたことを特徴とする。
【0026】
第5の発明に係る発光装置は、上記の第1乃至第3のいずれかの発明の1又は複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた発光装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える表示装置又は発光装置によれば、ホール輸送層に侵入する電子を低減することができるので、ホール輸送層の劣化が抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える表示装置又は発光装置の長寿命化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)素子およびそれを備える表示装置又は発光装置について図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置の一画素を構成する有機EL素子を示す断面図である。
【0030】
図1に示すように、ガラスまたはプラスチック等からなる透明の基板1上に、例えば酸化シリコン(SiO2 )からなる層と窒化シリコン(SiNx )からなる層との積層膜11が形成される。
【0031】
積層膜11上の一部にTFT(薄膜トランジスタ)20が形成される。TFT20はチャネル領域12、ドレイン電極13d、ソース電極13s、ゲート酸化膜14およびゲート電極15からなる。
【0032】
例えば、積層膜11上の一部にポリシリコン層等からなるチャネル領域12が形成される。チャネル領域12上には、ドレイン電極13dおよびソース電極13sが形成される。チャネル領域12上にゲート酸化膜14が形成される。ゲート酸化膜14上にゲート電極15が形成される。
【0033】
TFT20のドレイン電極13dは後述の陽極2に接続され、TFT20のソース電極13sは電源線(図示せず)に接続される。
【0034】
ゲート電極15を覆うようにゲート酸化膜14上に第1の層間絶縁膜16が形成される。ドレイン電極13dおよびソース電極13sを覆うように第1の層間絶縁膜16上に第2の層間絶縁膜17が形成される。ゲート電極15は電極(図示せず)に接続される。
【0035】
なお、ゲート酸化膜14は、例えば窒化シリコンからなる層と酸化シリコンからなる層との積層構造を有する。また、第1の層間絶縁膜16は、例えば酸化シリコンからなる層と窒化シリコンからなる層との積層構造を有し、第2の層間絶縁膜17は、例えば窒化シリコンからなる。
【0036】
第2の層間絶縁膜17上に、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBがそれぞれ形成される。赤色カラーフィルタ層CFRは、赤色の波長領域の光を透過させ、緑色カラーフィルタ層CFGは、緑色の波長領域の光を透過させ、青色カラーフィルタ層CFBは、青色の波長領域の光を透過させる。なお、図1においては、青色カラーフィルタ層CFBを例示する。青色カラーフィルタ層CFBは、400nm〜530nmの波長領域の光を70%以上透過させることが好ましく、80%以上透過させることがより好ましい。
【0037】
赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBを覆うように第2の層間絶縁膜17上に、例えばアクリル樹脂等からなる第1の平坦化層18が形成される。
【0038】
第1の平坦化層18上に有機EL素子100が形成される。有機EL素子100は、陽極である陽極2、ホール注入層3、ホール輸送層4、橙色発光層5、青色発光層6、電子輸送層7および陰極である陰極8を順に備え、ホール輸送層4と橙色発光層5との間には中間層10が設けられている。第1の平坦化層18上に陽極2が各画素ごとに形成され、画素間の領域において陽極2の周辺部を覆うように絶縁性の第2の平坦化層19が形成される。なお、陽極2は、例えばインジウム−スズ酸化物(ITO)等の透明な金属酸化膜とプラズマCVD法(プラズマ化学的気相成長法)により形成されたCFX (フッ化炭素)との2層構成が用いられる。
【0039】
このホール注入層3は、例えば、下記式(2)に示されるヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(Hexaazatriphenylenehexacarbonitrile)(以下、HAT−CN6と略記する)等の有機材料からなる。また、例えば、下記式(3)に示される2,3-ジフェニル-1,4,6,11-テトラアザ-ナフタセン(2,3-Diphenyl-1,4,6,11-Tetraaza-Naphtacene)(以下、DTNと略記する)等の有機材料を用いても良い。
【0040】
HAT−CN6のLUMOレベル(以下、LUMOレベルは絶対値で表すこととする。)は4.4eVであり、HOMOレベル(以下、HOMOレベルは絶対値で表すこととする。)は7.0eVである。また、DTNのLUMOレベルは3.9eVであり、HOMOレベルは6.5eVである。なお、LUMOレベル、HOMOレベルを絶対値で表すことにより、LUMO、HOMOのエネルギーの値が小さいほどレベルが高いものとする。
【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
ホール注入層3の上には、ホール輸送層4、中間層10、橙色発光層5、青色発光層6および電子輸送層7が順に形成される。さらに、この電子輸送層7上に、例えば、アルミニウム等からなる陰極である陰極8が形成される。
【0044】
ホール輸送層4は、例えば、下記式(4)に示されるN,N'-ジ(1-ナフチル)-N,N'-ジフェニル-ベンジジン(N,N'-Di(1-naphthyl)-N,N'-diphenyl-benzidine)(以下、NPBと略記する)等のアミン誘導体がが用いられる。このNPBに代表されるアミン誘導体は電子を受け入れると分子構造が非常に不安定になりホール輸送能力の劣化を招くものである。
【0045】
NPBのLUMOレベルは2.6eVであり、HOMOレベルは5.4eVである。なお、LUMOのエネルギーの値が小さいほどレベルが高いものとする。
【0046】
【化6】

【0047】
本実施の形態において、ホール輸送層4には上記のNPBを代表とする下記式(5)で表されるアミン誘導体を用いることができる。
【0048】
【化7】

【0049】
式(5)において、Ar1〜Ar3は芳香族置換基を示し、互いに同一であってもよいし、互いに異なってもよい。
【0050】
また、本実施形態において、ホール輸送層4には、例えば、下記式(6)に示される4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4”-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine)(以下、MTDATAと略記する)等の有機材料からなる。
【0051】
MTDATAのLUMOレベルは2.5eVであり、HOMOレベルは5.0eVである。
【0052】
【化8】

【0053】
中間層10材料は、LUMOレベルがホール輸送層4に用いられるアミン誘導体を含む材料のLUMOレベルよりも低く、加えて、発光層(橙色発光層5)に用いられる材料のLUMOレベルより低いことが好ましい。
【0054】
本実施の形態において、中間層10は、例えば、下記式(1)で示される分子構造を有するピラジン誘導体であり、好ましくは、前述のホール注入層と同じHAT−CN6や、DTNを用いることが可能である。
【0055】
【化9】

【0056】
HAT−CN6のLUMOレベルは4.4eVであり、HOMOレベルは7.0eVである。また、DTNのLUMOレベルは3.9eVであり、HOMOレベルは6.5eVである。
【0057】
橙色発光層5は、例えば、NPBをホスト材料とし、下記式(7)に示す5,12-ビス(4-ターシャリー-ブチルフェニル)-ナフタセン(5,12-Bis(4-tert-butylphenyl)-naphthacene)(以下、tBuDPNと略記する)を第1のドーパントとし、下記式(8)に示す5,12-ビス(4-(6-メチルベンゾチアゾール-2-イル)フェニル)-6,11-ジフェニルナフタセン
(5,12-Bis(4-(6-methylbenzothiazol-2-yl)phenyl)-6,11-diphenylnaphthacene)(以下、DBzRと略記する)を第2のドーパントとして形成される。
【0058】
また、橙色発光層5としては、上述したMTDATAをホスト材料とし、第1のドーパント及び第2のドーパントを上記と同様としてもよい。
【0059】
この場合、第2のドーパントは発光し、第1のドーパントは、橙色発光層5内で電子を輸送する役目を果たす。ホスト材料NPBはホール輸送性を有し、電子輸送性が小さいので、それを補うために、第1のドーパントを入れている。これにより、橙色発光層5内のホールと電子のキャリアバランスをとり、再結合を促進させている。橙色発光層5は第2ドーパントからの500nmよりも大きく650nmよりも小さいピーク波長を有する橙色光を発生する。
【0060】
tBuDPNのLUMOレベルは3.1eVであり、HOMOレベルは5.4eVである。DBzRのLUMOレベルは3.1eVであり、HOMOレベルは5.2eVである。
【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
青色発光層6は、例えば、下記式(9)に示される2,6-ジ(ターシャリー-ブチル)-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(2,6-di(t-butyl)-9,10-di(2-naphthyl)anthracene)(以下、TBADNと略記する)をホスト材料とし、NPBを第1のドーパントとし、下記式(10)に示す1,4,7,10-テトラ-ターシャリー-ブチルペリレン(1,4,7,10-Tetra-tert-butylPerylene)(以下、TBPと略記する)を第2のドーパントとして形成してもよい。この場合、第2のドーパントは発光し、第1のドーパントはキャリアの輸送を促進することにより第2のドーパントの発光を補助する役割を担う。それにより、青色発光層6は400nmよりも大きく500nmよりも小さいピーク波長を有する青色光を発生する。
【0064】
【化12】

【0065】
【化13】

【0066】
電子輸送層7としては、フェナントロリン誘導体を用いることができる。例えば、下記式(11)に示される2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline)(以下、BCPと略記する)を用いることができる。この場合、BCPは高い電子移動度を有するので、電子を効率よく青色発光層6および橙色発光層5に注入することができる。それにより、駆動電圧が低くなり有機EL素子100の消費電力が低減される。
【0067】
【化14】

【0068】
また、電子輸送層7としては、下記式(12)に示されるトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum)(以下、Alq3と略記する)、あるいは、オキサジアゾール誘導体、シロール誘導体等の他の有機材料を用いてもよい。
【0069】
【化15】

【0070】
上記の有機EL素子100においては、陽極2と陰極8との間に電圧を印加することにより、陽極2からホールが注入され、陰極8から電子が注入される。ホールはホール輸送層4および中間層10を通して橙色発光層5および青色発光層6に輸送され、電子は電子輸送層7を通して青色発光層6および橙色発光層5に輸送され、橙色発光層5および青色発光層6においてホールと電子とが再結合し、橙色発光層5および青色発光層6が発光する。その結果、白色光が得られる。
【0071】
以上のように、基板1上に積層膜11、TFT20、第1の層間絶縁膜16、第2の層間絶縁膜17、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFB、第1の平坦化層18、第2の平坦化層19ならびに有機EL素子100が形成されることにより、ボトムエミッション構造の有機EL装置が完成する。
【0072】
有機EL素子100により発生された光は、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBと透明の基板1とを通じて外部に取り出される。
【0073】
以下、有機EL素子100の駆動時において、移動する電子及びホールに対する中間層10、ホール注入層3の働きについて説明する。
【0074】
図2は、中間層10のLUMOレベルがホール輸送層4及び橙色発光層5のホスト材料のLUMOレベルより低い場合の電子とホールの移動を説明するための図である。なお、図2は、ホール輸送層4及び橙色発光層5のホスト材料が同じ材料からなり、ホール注入層3及び中間層10が同じ材料からなる場合を示しているが、必ずしも同じ材料とする必要はない。
【0075】
上述のように、中間層10及びホール注入層3にHAT−CN6を用いる場合、HAT−CN6のHOMOレベルは7.0eVであり、LUMOレベルは4.4eVである。
【0076】
また、ホール輸送層4及び橙色発光層5のホスト材料にNPBを用いる場合、NPBのLUMOレベルは、2.6eVであり、HOMOレベルは5.4eVである。
【0077】
また、CFX のLUMOレベルは2.0eV以下であり、HOMOレベルは5.8eV以上である。
【0078】
この場合、図2に示すように、中間層10のLUMOレベルが橙色発光層5のホスト材料のLUMOレベル以下であるので、橙色発光層5のホスト材料から電子が中間層10へ移動するが、ホール輸送層4のLUMOレベルが中間層10のLUMOレベル以上であるので、橙色発光層5のホスト材料から中間層10へ移動した電子はホール輸送層4へ移動するのが抑制され、中間層10にトラップされる。
【0079】
また、ホール輸送層4を通過してきたホールは、以下の経路を通るものと考えられる。まず、第1の経路(図2中の経路A)として、中間層10に移動し、さらに橙色発光層5に移動し、橙色発光層5内で電子と再結合する。また、中間層10は薄膜であるため、第2の経路(図2中の経路B)として、トンネル効果により、ホールはホール輸送層4から橙色発光層5に直接移動し、橙色発光層5内で電子と再結合する。さらに、第3の経路として、ホールは中間層10に移動し、トラップされた中間層10内の電子と再結合して消滅する。なお、橙色発光層5のホスト材料からの電子は中間層10内でホールと再結合しない場合でも、中間層10を移動することにより失活する。
【0080】
したがって、ホール輸送層4に進入する電子が低減される。その結果、ホール輸送層4の劣化が低減され、有機EL素子の寿命が長くなる。
【0081】
このように、本実施の形態に係る有機EL素子100によれば、ホール輸送層4と橙色発光層5との間に上記のような中間層10を形成することにより、有機EL素子100の寿命を長くすることが可能となる。
【0082】
また、中間層10として用いられるHAT−CN6のLUMOレベルと、橙色発光層5のホスト材料として用いられるNPBのHOMOレベルの差が1.0eVと小さいことから、中間層10が隣接する橙色発光層5から電子を引き抜き、橙色発光層5内にホールを発生させると考えられる。したがって、橙色発光層5内のホール数が増大し、電子との再結合確率が増大する。
【0083】
したがって、橙色発光層5に対して、電子注入層7からの電子注入量と、ホール注入層3及び中間層10から注入されるホール量のバランスが良くなり、有機EL素子100の発光効率が向上する。
【0084】
一方、ホール注入層3として用いられるHAT−CN6のLUMOレベルと、ホール輸送層4として用いられるNPBのHOMOレベルの差が1.0eVと小さいことから、ホール注入層3がホール輸送層4から電子を引っぱり、ホール輸送層4内にホールを発生させると考えられる(図2中のC)。このホールが、有機EL素子内の電場により橙色発光層5内に移動し、橙色発光層5内で電子と再結合し、発光すると考えられる。
【0085】
したがって、橙色発光層5に対して、電子注入層7からの電子注入量と、ホール注入層3及び中間層10から注入されるホール量のバランスがさらに良くなり、有機EL素子100の発光効率がさらに向上する。
【0086】
すなわち、本実施の形態に係る有機EL素子100においては、発光層内で電子とホールとの再結合が効率よく行われ、発光効率が向上するとともに再結合しない電子によるホール輸送層4の劣化をより防止することにより、寿命を向上させることができる。
【0087】
上記では、発光層として白色光源を構成するための橙色発光層5および青色発光層6が形成されているが、これに限らず、発光層は1つであってもよいし、他の波長の光を発生する発光層をさらに含んでもよい。
【0088】
なお、上記では、実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置の一画素について説明したが、かかる一画素のサイズを大きくすることが可能であり、このような画素を備えた発光装置として用いることも可能である。
【0089】
本実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置は、以下の構成を有してもよい。
【0090】
図3は、他の実施の形態に係る有機EL素子を備える表示装置の一画素を構成する有機EL素子を示す断面図である。図3の表示装置は以下の点で図1の表示装置と構造が異なる。
【0091】
図3の表示装置においては、図2の表示装置と同様に、基板1上に積層膜11、TFT20、第1の層間絶縁膜16、第2の層間絶縁膜17、青色カラーフィルタ層CFB、第1の平坦化層18、第2の平坦化層19および有機EL素子100が形成される。なお、図3においても、青色カラーフィルタ層CFBを例示する。
【0092】
その後、有機EL素子100上に、透明の接着剤層23を介してオーバーコート層22、青色カラーフィルタ層CFBおよび透明の封止基板21が順に積層された積層体が接着される。これにより、トップエミッション構造の表示装置が完成する。
【0093】
有機EL素子100により発生された光は、赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBと透明の封止基板21とを通じて外部に取り出される。
【0094】
図3の表示装置において、基板1は不透明な材料により形成されてもよい。また、有機EL素子100の陽極2は、例えば膜厚約50nmのインジウム−スズ酸化物(ITO)と膜厚約100nmのアルミニウム、クロムまたは銀とを積層することにより形成される。この場合、陽極2は、有機EL素子100により発生された光を封止基板21側へ反射する。
【0095】
陰極8は、透明な材料からなる。陰極8は、例えば膜厚約100nmのインジウム−スズ酸化物(ITO)と膜厚約20nmの銀とを積層することにより形成される。
【0096】
オーバーコート層22は、例えば厚み約1μmのアクリル樹脂等により形成される。赤色カラーフィルタ層CFR、緑色カラーフィルタ層CFGおよび青色カラーフィルタ層CFBはそれぞれ約1μmの厚みを有する。
【0097】
封止基板21としては、例えばガラス、酸化シリコン(SiO2 )からなる層または窒化シリコン(SiNx )からなる層を用いることができる。
【0098】
図3の表示装置においては、トップエミッション構造であることによりTFT20上の領域も画素領域として用いることができる。すなわち、図3の表示装置では、図2の青色カラーフィルタ層CFBよりも大きい青色カラーフィルタ層CFBを用いることができる。それにより、より広い領域を画素領域として用いることができるので、表示装置の発光効率が向上する。
【実施例】
【0099】
以下、実施例および比較例の有機EL素子を作製し、作製した有機EL素子の発光特性を測定した。
【0100】
(実施例1)
実施例1においては、図1の構造を有する有機EL素子を次のように作製した。
【0101】
ガラスからなる基板1上にインジウム−スズ酸化物(ITO)層を形成し、更に、該ITO層上に、プラズマCVD法によりCFX (フッ化炭素)層を形成し、ITO層とフッ化炭素層との2層構成の陽極2を作成した。この場合のプラズマCVDにおけるプラズマ放電時間は15秒とした。
【0102】
さらに、陽極2上に、ホール注入層3、ホール輸送層4、中間層10、橙色発光層5、青色発光層6および電子輸送層7を真空蒸着により順に形成した。
【0103】
ホール注入層3は、膜厚10nmのHAT−CN6からなる。ホール輸送層4は、膜厚100nmのNPBからなる。中間層10は、ホール注入層3と同様、膜厚10nmのHAT−CN6からなる。
【0104】
橙色発光層5は、膜厚30nmを有し、NPBからなるホスト材料に、tBuDPNからなる第1のドーパントを10体積%添加し、DBzRからなる第2のドーパントを3体積%添加することにより形成した。
【0105】
青色発光層6は、膜厚40nmを有し、ホスト材料に、NPBからなる第1のドーパントを20体積%添加し、TBPからなる第2のドーパントを2.5体積%添加することにより形成した。
【0106】
電子輸送層7は、電子輸送性の材料を膜厚10nmに成膜することによって形成した。陰極8は、1nmのフッ化リチウム(LiF)膜および200nmのアルミニウム膜を積層することにより、2層構成形成した。
【0107】
(実施例2)
実施例2においては、ホール輸送層4としてのNPBの膜厚が150nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0108】
(実施例3)
実施例3においては、ホール輸送層4としてのNPBの膜厚が80nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0109】
(実施例4)
実施例4においては、中間層10としてのHAT−CN6の膜厚が5nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0110】
(実施例5)
実施例5においては、ホール注入層3としてのHAT−CN6の膜厚が5nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0111】
(実施例6)
実施例6においては、中間層10としてのHAT−CN6の膜厚が5nmである点を除いて実施例5と同じ有機EL素子を作製した。
【0112】
(実施例7)
実施例7においては、電子輸送層7として、膜厚10nmのAlqに代えて、膜厚3nmのBCPを用いた点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0113】
(実施例8)
実施例8においては、ホール注入層3としてのHAT−CN6の膜厚が30nmである点、中間層10としてのHAT−CN6の膜厚が30nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0114】
(実施例9)
実施例9においては、ホール注入層3としてのHAT−CN6の膜厚が50nmである点、中間層10としてのHAT−CN6の膜厚が50nmである点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0115】
(実施例10)
実施例10においては、ホール輸送層4としてNPBに代えてMTDATAを用いた点、橙色発光層5のホスト材料としてNPBに代えてMTDATAを用いた点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0116】
(実施例11)
実施例11においては、ホール注入層3を設けなかった点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0117】
(比較例1)
比較例1においては、中間層10を設けなかった点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0118】
(比較例2)
比較例2においては、ホール注入層3及び中間層10を設けなかった点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0119】
(実施例12)
実施例12においては、ホール注入層3としてHAT−CN6に代えてDTNを用いた点、中間層10としてHAT−CN6に代えて、ホール注入層3の材料と同じDTNを用いた点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0120】
(実施例13)
実施例13においては、中間層10としてHAT−CN6に代えてDTNを用いた点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0121】
(実施例14)
実施例14においては、ホール注入層3としてHAT−CN6に代えてDTNを用いた点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。
【0122】
(実施例15)
実施例15においては、橙色発光層5を設けなかった点を除いて実施例1と同じ有機EL素子を作製した。この素子の場合、青色発光層6のみが発光する青色発光素子となる。
【0123】
以上に示した実施例1乃至15および比較例1及び2の有機EL素子のホール注入層3、ホール輸送層4、中間層10、橙色発光層5、青色発光層6及び電子輸送層7の構成を表1に示す。なお、各材料名の後の括弧書き内に記載された数値は、各材料の膜厚(nm単位)である。
【0124】
【表1】

【0125】
次に、上記した各実施例、及び比較例で使用される材料のHOMOレベル及びLUMOレベルを表2に示す。同表のHOMOレベル及びLUMOレベルは、以下に説明するサイクリックボルタンメトリー測定法(CV測定法)によって測定可能である。
【0126】
まず、NPBについて、イオン化ポテンシャル測定装置(理研計器社製AC−2)を用いて、標準的材料NPBの薄膜におけるイオン化ポテンシャルを測定した。このイオン化ポテンシャル測定で測定したNPBのイオン化ポテンシャルは5.4eVであった。
【0127】
続いて、NPBをCV測定することにより酸化還元電位を測定した。NPBの酸化電位は+0.5V、還元電位は−2.3Vであった。したがって、NPBのHOMOレベルは5.4eV、LUMOレベルは2.6eV(5.4−(0.5+2.3)=2.6)と算出された。また、他の材料の測定では、例えばAlqの場合、酸化電位は+0.8V、還元電位は−2.0Vであった。したがって、NPBを基準にした場合、AlqのHOMOレベルは5.7eV(5.4+(0.8−0.5)=5.7)、LUMOレベルは2.9eV(5.7−(0.8+2.0)=2.9)となった。
【0128】
他の材料についても同様にHOMOレベル、LUMOレベルを算出した。
【0129】
なお、CV測定による酸化電位及び還元電位の測定は以下のように行った。
【0130】
酸化電位は、ジクロロメタンを溶媒にして、支持電解質 tert-ブチルアンモニウムパークロレートを濃度10-1 mol/lになるように入れ、測定材料を10-3mol/lになるように入れて、サンプルを調製した。測定雰囲気は大気中で、室温で測定した。
【0131】
還元電位は、テトラヒドロフランを溶媒にして、支持電解質 tert-ブチルアンモニウムパークロレートを濃度10-1mol/lになるように入れ、測定材料を10-3 mol/lになるように入れて、サンプルを調製した。測定雰囲気は窒素ガス雰囲気下で、室温で測定した。
【0132】
DTN、HAT−CN6、NPB及びMTDATAについて、HOMOレベル、LUMOレベルを上記の方法で測定した結果を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
(評価)
以上のようにして作製した実施例1乃至15および比較例1及び2の有機EL素子の20mA/cm2 での駆動電圧、発光効率及び寿命を測定した結果を表3に示す。なお寿命は測定開始時の輝度10000cd/mが半減するまでの時間であり、駆動電圧は有機EL素子の20mA/cm2 での駆動電圧を測定したものである。
【0135】
【表3】

【0136】
以下に、実施例について、比較例と対比させて作用効果を説明する。
【0137】
実施例1と比較例1と比較すると、中間層10が設けられていない比較例1よりも、中間層10としてHAT−CN6を設けた実施例1の方が寿命が長いことが分かる。即ち、輝度が半減するまでの時間が910/480=約190%伸びたことが分かる。

実施例1において、ホール輸送層4として用いられているNPBのLUMOレベルは2.6eV、中間層として用いられているHAT−CN6のLUMOレベルは4.4eV、中間層10と接触する橙色発光層5のホスト材料として用いられているNPBのLUMOレベルは2.6eVであり、中間層10は、ホール輸送層4と発光層5の各LUMOレベルより低いLUMOレベルを有する。
【0138】
このようなLUMOレベルを有する材料からなる中間層10が設けられたことにより、橙色発光層5から流入する電子が中間層10によってトラップされ、この中間層10においてホール輸送層4から移動して来るホールと再結合されるので、電子のホール輸送層4への移動を防止できる。従って、電子によるホール輸送層4の劣化を抑制され、有機EL素子の寿命が長くなったものと推量される。
【0139】
さらに、実施例1の有機EL素子は、このようなLUMOレベルを有する材料からなる中間層10を設けると共に、ホール注入層3が設けられたことによって、ホール注入層3を設けていない実施例11と比較すると、有機EL素子の発光効率と寿命が向上していることが分かる。
【0140】
また、中間層10として用いられているHAT−CN6のLUMOレベルは4.4eV、該中間層10と接触している橙色発光層5として用いられているNPBのHOMOレベルは5.4eVであり、両者のエネルギーレベルの差は1.0eVである。この値は1.5eVより小さいので、即ち、中間層10のLUMOレベルと橙色発光層5のHOMOレベルとが近いレベルにあるので、中間層10に電子が引っ張られて、電子とホールとが分離し、発光層6にホールが発生することになり、発光層での電子との再結合に使用され、発光効率の向上に寄与する。このとき中間層10に引っ張られた電子は、前述のとおりの発光層を経由してきた電子と同様に、ホール輸送層4と橙色発光層5とのポテンシャル障壁間に閉じ込められ、結局、中間層10においてホールと再結合することになる。このような再結合によって生じた励起子は非放射失活する。
【0141】
このように、実施例1の有機EL素子は、その中間層10の存在が、電子をトラップすることができる第1の作用のみならず、橙色発光層5にホールを供給して電子との再結合を促進する第2の作用を生じさせることになるので、これらの作用の協働によって、ホール輸送層4の電子による劣化を抑制できる。即ち、第2の作用によって、橙色発光層5を通過する電子の量を減じつつ、第1の作用によって、橙色発光層5を通過した電子をホール輸送層まで移動しないようにトラップすることができるので、ホール輸送層4の電子による劣化の抑制し、有機EL素子の長寿命か実現するのである。勿論、第2の作用によって、発光効率の向上も望める。
【0142】
さらに、実施例1の場合、ホール輸送層4に用いられているNPBのHOMOレベルは5.4eV、ホール注入層3に用いられているHAT−CN6のLUMOレベルは4.4eVであり、両者のエネルギーレベルの差は1.0eVとなる。この値は、1.5eVより小さいので、即ち、ホール注入層3のLUMOレベルとホール輸送層4のHOMOレベルとが近いレベルにあるので、ホール注入層3に電子が引っ張られて、電子とホールとが分離するため、ホール輸送層4にホールが発生することになり、このホールが陽極3から注入されたホールと相俟って、橙色発光層5に供給され、橙色発光層5での電子との再結合に使用される。このことは、上述のようなホール注入層3を備えない実施例11の発光効率に比べて、上述のホール輸送層を備える実施例1の発光効率が高いことを裏付けている。
【0143】
次に、中間層10とホール注入層3との膜厚に関して、実施例1、実施例4乃至6、実施例8、実施例9の説明を加える。
【0144】
実施例1、実施例6、実施例8及び実施例9は、ホール輸送層4として同じ膜厚のHAT−CN6が用いられており、それぞれの実施例においてホール注入層3及び中間層10の膜厚が異なる。HAT−CN6の膜厚が50nm、5nm、30nm、10nmの順に有機EL素子の寿命が長くなり、10nmで寿命が最大であることがわかる。
【0145】
実施例4、実施例5は、実施例6とそれぞれホール注入層3、中間層10の膜厚が異なり、実施例1とそれぞれ中間層10、ホール注入層3の膜厚が異なる。実施例4、実施例5は、実施例6より有機EL素子の寿命が長いが、実施例1より寿命が短いことが分かる。これらの結果から、ホール注入層3及び中間層10として用いられるHAT−CN6の膜厚は、ともに10nmが好ましいことがわかる。
【0146】
次に、実施例12と比較例2とを比較すると、実施例12の方が有機EL素子の寿命が長く、ホール注入層3及び中間層10として、DTNを用いることによっても、有機EL素子の寿命が向上できることがわかる。
【0147】
次に、実施例13と比較例1とを比較すると、中間層10が設けられていない場合より、DTNからなる中間層10が設けられる方が、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。また、この結果から、ホール注入層3と中間層10が異なる材料からなる場合にも、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。
【0148】
同様に、実施例11と実施例14を比較すると、ホール注入層3が設けられていない場合より、DTNからなるホール注入層3が設けられる方が、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。また、この結果からも、ホール注入層3と中間層10が異なるピラジン誘導体からなる材料からなる場合にも、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。
【0149】
さらに、実施例1、実施例12乃至14を比較すると、ホール注入層3及び中間層10として、DTNよりもHAT−CN6を用いた方が有機EL素子の寿命が長いことがわかる。ホール輸送層4及び中間層10と接触する橙色発光層5のホスト材料として用いられるNPBのHOMOレベルが5.4eV、ホール注入層3又は中間層10として用いられるDTN、HAT−CN6のLUMOレベルがそれぞれ3.9eV、4.4eVである。したがって、NPBのHOMOレベルと、HAT−CN6、DTNのLUMOレベルとの差は、それぞれ1.0eV、1.5eVであり、HAT−CN6のLUMOレベルの方がDTNのそれよりも、NPBのHOMOレベルに近いため、上述した第2の作用が大きいので、DTNよりもHAT−CN6を用いた方が有機EL素子の寿命が長いと考えられる。
【0150】
実施例1乃至3を比較すると、ホール輸送層4として用いられるNPBの膜厚が80nm、100nm、150nmのうち、100nmが最も有機EL素子の寿命が長いことがわかる。この結果から、ホール輸送層4として用いられるNPBの膜厚は100nmが好ましいことがわかる。
【0151】
実施例10と比較例2を比較すると、ホール輸送層4としてNPBの代わりに、同じくアミン誘導体であるMTDATAを用いた場合でも、HAT−CN6からなるホール注入層3及び中間層10が設けられれば、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。
【0152】
また、実施例1と実施例10を比較すると、ホール輸送層4としてNPBを用いた方が、有機EL素子の寿命が長くなることがわかる。この結果から、ホール輸送層4の材料としては、NPBの方がより好ましいことがわかる。
【0153】
このように、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子およびそれを備える表示装置又は発光装置によれば、ホール輸送層に侵入する電子を低減することができるので、ホール輸送層の劣化が抑制され、有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の一実施の形態に係る有機EL素子を示す模式的な断面図である。
【図2】中間層10のLUMOレベルがホール輸送層4及び橙色発光層5のホスト材料のLUMOレベルより低い場合の電子とホールの移動を説明するための図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る有機EL素子を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0155】
1 基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 橙色発光層
6 青色発光層
8 陰極
10 中間層
100 有機エレクトロルミネッセンス素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に有機材料を含む発光層を備えてなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記陽極と前記発光層との間に、前記陽極から注入されたホールを前記発光層に向かって輸送するためのホール輸送層を設けると共に、
該ホール輸送層と前記発光層との間に、該ホール輸送層と前記発光層の各最低空分子軌道のエネルギーレベルより低い最低空分子軌道のエネルギーレベルを有する中間層を設けたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光層の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルと前記中間層の最低空分子軌道のエネルギーレベルの差が1.5eV以内であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陽極とホール輸送層との間に、陽極からのホールをホール輸送層に注入するためのホール注入層を設け、
前記ホール輸送層の最高被占有分子軌道のエネルギーレベルと前記ホール注入層の最低空分子軌道のエネルギーレベルの差が1.5eV以内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記中間層と前記ホール注入層とが同一の材料からなることを特徴とする請求項1乃至3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
陽極と、アミン誘導体を含むホール輸送層と、発光層と、電子輸送層とをこの順に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ホール輸送層と前記発光層との間に、式(1)で示される分子構造を有するピラジン誘導体を含む中間層を設けたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

【請求項6】
前記ピラジン誘導体は式(2)で示される分子構造を有する材料を含むことを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

【請求項7】
陽極と、アミン誘導体を含むホール輸送層と、発光層と、電子輸送層とをこの順に備えた有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記ホール輸送層と前記発光層との間に、式(3)で示される分子構造を有する材料を含む中間層を設けたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の1又は複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた表示装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の1又は複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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