説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及びその製造装置

【課題】透明性基板上に透明導電層と、透明導電膜に対向する陰極層と、両電極に挟持され、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成された有機EL層を備えた有機EL素子の製造方法において、有機EL層をウエットコーティング法で作成した場合においても、溶媒を簡便な方法にて除去し、溶媒が残存しても有機EL素子の特性の低下が起きず、高性能な有機EL素子を製造可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも1層の機能層層は、透明導電層の上方にウエットプロセス法により配置され、前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程と、再度乾燥された不活性ガスで置換する工程により、機能層を乾燥する方法であって、機能層を減圧下空間においたのち、該空間に乾燥された不活性ガスを充填しながら、機能層を加熱し、且つ加熱された不活性ガスで雰囲気空間を置換する有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス現象を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子、特に高分子材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造に用いる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機ELと示す)の製造方法および印刷部材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子とは、ふたつの対向する電極の間に有機発光層を含む有機EL層が形成され、両電極間から有機EL層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには有機EL層の膜厚が重要であり、100〜1000nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これを表示ディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。有機EL素子に用いられる有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように薄膜層を形成するのが困難である。
【0003】
これに対し、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶媒に溶解若しくは分散させた塗工液(インク)にし、これをウエットプロセス法にて薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウエットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法等がある。特に高精細にパターニングしたり、画素をR(赤)、G(緑)、B(青)の3色に塗り分けしたりするには、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる(特許文献1、2参照)。
【0004】
この様に、ウエットコーティング法により有機EL素子を製造する方法は非常に有効であるが、溶媒を用いるために乾燥工程にて溶媒を除去する必要がある。その方法としては、減圧乾燥法(特許文献3参照)、加熱乾燥法(特許文献4参照)、加圧加熱乾燥法(特許文献5参照)を用いた方式が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらウエットコーティング法、特に印刷法や液滴吐出法により有機EL素子を製造する場合には200度以上の非常に沸点の高い溶剤を用いることが多く、大気圧若しくは加圧条件下における加熱乾燥では有機EL層から溶媒を十分に除去することが出来ない恐れがあり、その結果有機EL素子の寿命が短くなることがあった。また、乾燥を十分に行うために高い温度をかけると有機EL素子を構成する材料の劣化を招く恐れがあるという問題があった。
【0006】
そのため、一般的に有機EL素子の塗布膜の乾燥は、真空乾燥機を用い減圧下として溶媒の沸点を下げた状態で行うことが多い。材料の中に酸素と反応しやすいものがある場合には、窒素などの不活性ガス雰囲気下で減圧加熱乾燥を行う。またその際には、乾燥工程が終了し有機EL基板を取り出すまでは減圧したままである。ドライポンプを使用した場合その真空度はせいぜい数Pa程度であり、減圧乾燥する時間をどれだけ延ばしても、真空乾燥機内および有機EL素子内の溶媒は有機EL素子の特性を下げない程には減少しない。
【0007】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】特開2003−17261号公報
【特許文献2】特表2003−527955号公報
【特許文献3】特開平9−97679号公報
【特許文献4】特開2002−313567号公報
【特許文献5】特開2005−26000号公報
【非特許文献1】畑一夫、渡辺健一著「基礎有機化学実験」丸善(1966)、115ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、有機EL層をウエットコーティング法で作成した場合においても、溶媒を簡便な方法にて除去し、残存する溶媒量が有機EL素子の特性の低下が起きない量とでき、高性能な有機EL素子を製造可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、溶媒乾燥時に溶媒に汚染された真空乾燥機内に存在する溶媒を含んだガスを新鮮な窒素などの不活性ガスに置換することで、上記課題が解決できることを見いだした。
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、第一電極(透明導電層)と、第一電極(透明導電膜)に対向する第二電極(陰極層)と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層(有機EL層)を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス層(有機EL層)は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記有機エレクトロルミネッセンス層(有機EL層)を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層の形成工程は、
機能層を第一電極の上方にウエットプロセス法により配置する工程、
前記ウエットプロセス法で形成された機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程、
前記機能層がおかれている不活性ガスで置換された雰囲気空間を再度乾燥された不活性ガスで置換する工程、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の製造方法である。
【0011】
請求項1に記載の発明により、透明電極と対向電極と有機発光層を含む有機EL層からなる有機EL素子の製造時において、前記有機EL層のうち少なくとも1層を塗布法により形成した場合、その層を乾燥させる際に不活性ガスを2回以上置換することで、真空乾燥機内に若干量残る溶媒を希釈させ、速やかな乾燥を成し得る製造方法を提供する。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、機能層を減圧下空間においたのち、該空間に乾燥された不活性ガスを充填することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の製造方法である。
【0013】
請求項2に記載の発明により、減圧工程を有することで溶媒を含む真空乾燥機内のガスを速やかに排除せしめる製造方法を提供する。
【0014】
本発明の請求項3に係る発明は、前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、機能層を加熱しながら雰囲気空間を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1、又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明により、有機EL層の温度を制御しながら加熱する加熱ステップを有することで、有機EL層からの溶媒の揮発が促進される。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、乾燥され、且つ加熱された不活性ガスで雰囲気空間を置換することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の製造方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明により、予め加熱した不活性ガスを乾燥機内に導入することで、真空乾燥機内及び基板の温度を下げることなく速やかな有機EL層からの溶媒の揮発を行うことが可能となる。
【0018】
本発明の請求項5に係る発明は、基板と、基板上に形成された第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層を備え、有機エレクトロルミネッセンス層は有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置であって、
第一電極の上方にウエットプロセス法によって機能層を配置することのできる機能層形成機構と、
第一電極を設けた基板がおかれている雰囲気空間を気密状態に保つことのできる気密室と、
気密室内の物質を加熱可能な加熱機構と、
気密室内を減圧可能な減圧部、気密室内へ任意の気体を導入可能な気体導入部を備えた気圧調整機構と、
気密室内に導入される気体を加熱可能な気体加熱機構と、
を備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、有機EL層をウエットコーティング法で作成した場合においても、有機EL層内の残存溶媒を完全に除去することにより、溶媒の除去に伴う有機EL素子の特性の低下が起きず、有機EL素子の初期特性並びに寿命特性を向上する高性能な有機EL素子を製造可能とする製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明による有機EL素子作成の一例を図1に基づいて説明する。
【0021】
図1は、透明導電層からなる第一電極(以下透明導電層と記す)と、対向する陰極層の第二電極(以下陰極層と記す)と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層(以下有機EL層と記す)を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下有機EL素子と記す)を図示したものである。本発明の有機EL素子は透光性基板上にある透明導電層と、対向する陰極層と、両電極に挟持された有機EL層を備え、有機EL層は有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成されている。ここでは例として、透明電極層を陽極、陰極層を陰極とし、透明導電層側から光を取り出す構造のボトムエミッション型の有
機EL素子を挙げる。図1は、支持する透明性基板1上に陽極の透明電極層2、有機発光層を含む単数又は複数の機能層31からなる有機EL層3、陰極の陰極層4を備えた有機EL素子10である。
【0022】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法のうち、機能層の形成方法を以下説明する。
【0023】
有機EL層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記有機EL層を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層は、機能層を第一電極の上方にウエットプロセス法により形成する。前記ウエットプロセス法は、有機発光材料や正孔輸送材料などの機能性材料が溶解又は分散された液である機能性インクを用い、塗布や噴霧、印刷等の方法で形成対象となる透明性電極を形成した基板上に塗布し薄膜形成する。塗布方法は、例えばスピンコート方法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法等がある。
【0024】
前記本発明の機能層の乾燥方法を以下説明する。
【0025】
前記ウエットプロセス法で形成された機能層を載置されている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換した後、該雰囲気空間内で機能層を乾燥しながら、所定の時間経過後に、前記雰囲気空間を再度乾燥された不活性ガスで置換した後、該再度置換した雰囲気空間内で機能層を乾燥する。すなわち、本発明の機能層の乾燥方法では、ウエットプロセス法で形成された機能層を載置した雰囲気空間内を乾燥された不活性ガスで2度以上置換することにより機能層を乾燥する。前記雰囲気空間内を不活性ガスで置換する方法は、前記雰囲気空間内を減圧下空間においたのち、該空間に乾燥された不活性ガスを充填する。
【0026】
前記充填する不活性ガスは、例えば、乾燥され、且つ加熱した不活性ガスを用いて雰囲気空間内へ置換する。前記不活性ガスを充填と同時に、例えば機能層を加熱しながら雰囲気空間を不活性ガスで置換する。本発明の機能層の乾燥方法では、雰囲気空間内は、載置した機能層への加熱の有無、及び不活性ガスへの加熱の有無を適宜最適化することが重要である。
【0027】
以下に、本発明の有機EL素子を構成する各層を説明する。
【0028】
本発明における透光性基板1としては、透光性があり、ある程度の強度がある基材なら制限はないが、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mmから1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。
【0029】
また、可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機EL素子の製造が可能であり、安価に有機EL素子を提供することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、透明導電層2を製膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。
【0030】
透明導電層2としては、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質なら特に制限はない。具体的にはインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOと記す)を好ましく用いることができる。前記透光性基板1上に蒸着またはスパッタリング法により製膜することができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基
材上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0031】
上記、透明導電層2は、必要に応じてエッチングによりパターニング処理、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0032】
本発明における有機EL層3は、有機発光層のみの単層構造に限らず、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層等の複数の層を積層させてもよい。各層の厚みは任意であるが好ましくは10nm〜100nm、有機EL層3の総膜厚としては100nm〜1000nmであることが好ましい。
【0033】
正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層とは、正孔輸送性及び/若しくは電子ブロック性を有する材料を有する層であり、それぞれ透明導電層2から有機EL層3への正孔注入の障壁を下げる、透明導電層2から注入された正孔を陰極層4の方向へ進める、正孔を通しながらも電子が透明導電層2の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
【0034】
これらの層に用いられる材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料が成膜性の点から好ましい。また、ポリパラフェニレン(PPP)等のポリアリーレン系、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、アリールアミン類、カルバゾール誘導体、アリールスルフィド類、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体等の低分子の正孔輸送性、電子ブロック性を示す材料を混合した物を用いても良い。
【0035】
有機発光層とは、発光性を有する材料を有する層である。有機発光層に用いる発光体としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0036】
正孔ブロック層、電子輸送層とは、電子輸送性及び/若しくは正孔ブロック性を有する材料を有する層であり、それぞれ陰極層4から注入された電子を透明導電層2の方向へ進める、電子を通しながらも正孔が陰極層4の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
【0037】
これらの層に用いられる材料としては、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体の電荷移動錯体、シロール誘導体、アリールボロン誘導体、ビスフェナントロリン等のピリジン誘導体、パーフルオロ化されたオリゴフェニレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の低分子系のものを用いても良いが、成膜性の点から、電子輸送性ポリシラン、ポリシロール、含ボロンポリマー等の電子輸送性を有する高分子系のものが好ましい。また、PPP等のポリアリーレン系、PPV等のポリアリーレンビニレン系等の
導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、前述の電子輸送性若しくは正孔ブロック性を有する材料を混合した物を用いても良い。
【0038】
電子注入層とは、電子注入性を有する材料を有する層であり、陰極層4から有機EL層3への電子の注入障壁を下げる役割を担う層である。この層に用いられる材料としては前述の電子輸送層に用いられるのと同様な材料の他に、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩や酸化物、若しくはこれをPS等の高分子材料に混合した物を用いても良い。
【0039】
これらの層の形成には、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などのコーティング法若しくは印刷法によるウエットプロセス法も利用できるが、例えば有機発光層以外の層にて、高いパターニング精度や膜厚均一性が必要とならない場合には蒸着法にて製膜しても良い。
【0040】
また、これらの層をウエットプロセス法にて作成する場合に、これらの材料を溶解若しくは分散させるための溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、モノクロロベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン等の芳香族環に置換基を導入したものや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等が挙げられる。これらの溶媒は必要に応じて単独若しくは混合して用いてもよく、また、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0041】
有機EL層を塗布形成した後に、基板を真空乾燥機に入れ乾燥させる。通常、有機EL素子の作成は不純物の混入を防ぐためクリーンルームで行われる。有機EL層への油の混入やクリーンルーム環境の汚染を防ぐため、減圧乾燥に使用されるポンプは一般的な油回転ポンプではなくドライポンプが好ましい。
【0042】
有機EL材料には、酸素共存下で過熱することで酸化反応を起こすものがある。その様な材料を用いる場合、真空乾燥機を加熱する前に何度か窒素などの不活性ガスにて真空乾燥機内を置換することが必要となる。
【0043】
不活性ガスにて置換した後に、任意の圧及び温度にて減圧乾燥を行う。その際、有機EL層に含まれる溶媒をできるだけ取り除くために、溶媒の沸点よりも高い温度をかけることが好ましい。しかし、あまりにも高い温度を有機EL層にかけると有機EL素子を構成する材料の熱劣化が生じることがある。そのため、気圧を下げることで溶媒の沸点を下げることが好ましい。尚、溶媒の減圧下における沸点は、沸点換算表(非特許文献1)による概算、クラウジウス‐クラペイロンの式による概算や、気圧‐沸点ノモグラフ(図2)による推定により算出することが出来る(非特許文献1参照)。
【0044】
前述のとおり、加熱乾燥は、できる限り減圧にした条件で行うことが多い。しかし、到達圧には限界があり、その状態で有機EL素子を構成する材料の熱劣化が起きない程度の熱をかけても、溶媒の完全除去は成し得ない。これは、有機EL層から揮発する溶媒の量と、到達圧における真空乾燥機内にガスとして残留する溶媒が有機EL層へ吸着される量とが平衡状態に達してしまうためである。通常のドライポンプを用いた真空乾燥機では、数min〜数hrかけて到達できる圧はおおよそ10Pa程度である。その様な条件では、大気圧での沸点が200℃を超える高沸点溶媒はかなりの量乾燥機内に残存する。その結果、有機EL層にはppmのオーダーで溶媒が残留する。この残存溶媒は有機EL素子の特性に悪影響を及ぼす。
【0045】
この残存溶媒を速やかに減らすためには、真空乾燥を一旦中断し、溶媒に汚染されていない不活性ガスを導入し、再び真空引きすることで真空乾燥機内の溶媒雰囲気を希釈する方法が非常に有効である。この不活性ガスによる置換は必要に応じて何回行っても良い。また、不活性ガス充填中及び充填後に、基板近辺の溶媒を拡散させるため及び真空乾燥機内のガスを攪拌させることを目的に真空乾燥機内にファンを取り付けてこれを回転させても良い。さらに、予熱した不活性ガスを導入すると、真空乾燥機及び基板の温度の下降を防ぐことが出来、乾燥時間の短縮が図られる。
【0046】
乾燥後、必要に応じて有機EL層を構成する材料のガラス転移点以上に基板を加熱してアニール処置を行っても良い。
【0047】
有機EL層乾燥後、陰極層を形成する。対向電極である陰極層4としてはMg、Al、Yb等の金属単体、若しくは発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度挟んで、安定性及び導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。陰極の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。
【0048】
最後にこれらの有機EL層を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止をおこなう。
【0049】
本発明の有機EL素子の製造装置は、基板と、基板上に形成された透明導電層の電極と、透明導電層の電極に対向する陰極層の電極と、両電極に挟持された有機発光層を含む単数又は複数の機能層の多層構造の有機EL素子の製造方法に従って、その順番に逐次処理する製造装置であって、第一電極を設けた基板がおかれている雰囲気空間を気密状態に保つことのできる気密室と、気密室内の物質を加熱可能な加熱機構と、気密室内を減圧可能な減圧部、気密室内へ任意の気体を導入可能な気体導入部を備えた気圧調整機構と、気密室内に導入される気体を加熱可能な気体加熱機構と、を備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置である。
【0050】
前記気密室を減圧できる減圧部では、最初に気密室内を減圧下空間においたのち、次に該気密室に乾燥された不活性ガスを充填する減圧操作を実行する。最初の手順は、減圧下空間を所定圧以下まで減圧した後、次の手順で、所定の不活性ガスを充填して所定圧まで戻す減圧操作を実行する。
【0051】
前記気体導入部では、例えば任意の気体を循環させる方法もある。所定の不活性ガスを気密室内へ吸気し、同時に同量の所定の不活性ガスを気密室内から排気する方法で循環させる方法であり、気密室内から排気した所定の不活性ガスのうち、例えば90%をリターンさせ、該リターンの所定の不活性ガスに新しい所定の不活性ガスを混合して、再び気密室内へ導入する。すなわち、排気した不活性ガスの一部不活性ガスを新規の不活性ガスに更新しながら、吸気口と排気口の気圧差(差圧)により循環する。
【0052】
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0054】
ITO付きガラス基板を用意し、そのITOを所定のパターンにエッチングした。次いで、エッチングした透明導電層上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水に分散させた液を、スピンコート法によりITOパターン上に塗布した。この基板を200℃にて3min、大気下にて乾燥させ、さらに10Pa窒素雰囲気下にて10min乾燥させた。乾燥後の厚さは50nmであった。
【0055】
また、ポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン:ガラス転移温度196℃)をトルエン(大気圧での沸点111℃)50%とシクロヘキシルベンゼン(大気圧での沸点240℃)50%の混合溶媒に溶解し、基板上にスピンコート法にて塗布した。
【0056】
有機発光インクが塗布された基板を真空乾燥機に入れ、10Paまで減圧してから乾燥窒素にて置換を行う作業を3回行った。さらにその後改めて10Paまで減圧してから150℃にて1hr乾燥を行った。その後一旦真空引きをとめ、ヒーターにて加熱した窒素ガスを真空乾燥機内に導入し100,000Paまで戻してから改めて10Paまで減圧し、150℃にて1hr乾燥を行った。その後更にこの置換工程を2回行い、ITOパターンの透明電極上に正孔注入層、発光層とが積層された基板を得た。尚、発光層の厚みは70nmであった。
【0057】
さらに、前述の基板に対し、リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm設けて、有機EL素子を得た。得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は3000hrであった。
【0058】
本発明の比較例として実施例2を説明する。
【実施例2】
【0059】
実施例2では、加熱乾燥開始後の窒素置換を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法であり、乾燥時間の合計も4時間で同様とした方法で有機EL素子を作成した。
【0060】
その結果、得られたEL素子に12Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は300hrであった。
【0061】
乾燥時間及び窒素置換回数を変化させた際の、有機EL層に残存する溶媒量を質量分析計にて計量した結果である。その結果を下記の表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
なお、2は、実施例2と同一条件で、乾燥時間のみ短縮であり、
3は、実施例1と同一条件で、窒素置換回数のみ減らした結果である。
【0064】
評価結果では、本発明の実施例1は、良好な結果を得た。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の高分子有機EL素子の断面図である。
【図2】気圧‐沸点ノモグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1…透光性基板
2…(陽極の)透明導電層(第一電極)
3…有機EL層(有機発光層を含む一層又は複数の機能層)
4…(陰極の)陰極層(第二電極)
10…有機EL素子
31…機能層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記有機エレクトロルミネッセンス層を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層の形成工程は、
機能層を第一電極の上方にウエットプロセス法により配置する工程、
前記ウエットプロセス法で形成された機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程、
前記機能層がおかれている不活性ガスで置換された雰囲気空間を再度乾燥された不活性ガスで置換する工程、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、機能層を減圧下空間においたのち、該空間に乾燥された不活性ガスを充填することを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、機能層を加熱しながら雰囲気空間を不活性ガスで置換することを特徴とする請求項1、又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記機能層がおかれている雰囲気空間を乾燥された不活性ガスで置換する工程は、乾燥され、且つ加熱された不活性ガスで雰囲気空間を置換することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
基板と、基板上に形成された第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層を備え、有機エレクトロルミネッセンス層は有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置であって、
第一電極の上方にウエットプロセス法によって機能層を配置することのできる機能層形成機構と、
第一電極を設けた基板がおかれている雰囲気空間を気密状態に保つことのできる気密室と、
気密室内の物質を加熱可能な加熱機構と、
気密室内を減圧可能な減圧部、気密室内へ任意の気体を導入可能な気体導入部を備えた気圧調整機構と、
気密室内に導入される気体を加熱可能な気体加熱機構と、
を備えたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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