説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】基板と、基板に支持された第一電極と、第一電極の上方に配置された有機発光媒体層と、有機発光媒体層の上方に配置された第二電極とを具備する有機EL素子の製造方法であって、抜けが無く厚みの均一な膜の有機EL素子の製造方法を提供する。
【解決手段】有機発光媒体層は有機発光層と発光補助層から構成され、発光補助層は、支持体上に発光補助材料を含むインキを供給して発光補助層を積層し、支持体上に発光補助層を備えた転写体と、発光補助層の不要部に対応する凸部を備えた凸刷版とを、発光補助層と凸刷版の凸部とが対面するように接触させ、転写体から、発光補助層の不要部を除去することによって発光補助層のパターニングを行い、支持体上にパターニング済みの発光補助層を備えた転写体と、基板上に第一電極を備えた被転写体とを、発光補助層と被転写体とが対面するように接触させ、転写体から発光補助層を被転写体上に転写して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと示す)現象を利用した有機薄膜EL素子、特に高分子正孔輸送性材料を含む有機EL素子の製造方法及び有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、透光性基板上の透明電極とそれに対向する電極との間に、有機材料の薄膜を挟んだ自発光型素子である。前述の有機材料は、電荷輸送性を兼ね備えた有機発光層の単層のみの場合もあるが、通常、発光効率や寿命を向上させるために、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層(以上3つを以後まとめて正孔輸送性層と呼ぶ)、正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層のうちのひとつ若しくは複数の層を積層させる事が多い。
【0003】
このように電極間に挟まれる有機材料を複数の層にすると、その層が担う機能に応じた材料を選択することができるという材料設計上の利点がある。また、機能の異なる層を積層する事により、正孔および電子の注入バランスを整えることができ、発光効率・寿命の向上にもつながる。
【0004】
また、正孔輸送性層は、電極の表面の凹凸を覆い隠し平滑にし、有機EL素子のリークを防ぐ目的にも用いられている。
【0005】
この様な正孔輸送性材料として用いられる材料としては、銅フタロシアニン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の低分子材系材料や、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物やポリアニリン等の高分子系材料等が知られている。
【0006】
特に透明電極の凹凸を覆い隠す目的には、高分子系の正孔輸送性材料が広く用いられている。また、これらの材料は極性の高い水やアルコール等に分散若しくは溶解させてから用いることが多い。
【0007】
一般に、これら高分子系の正孔輸送性材料は、溶液に可溶、若しくは分散液に分散させることでスピンコート法、グラビア印刷法などのコーティング法若しくは印刷法により湿式法で製膜することができる。
【0008】
しかしスピンコート法では、不要な部分にまで正孔輸送性材料が塗布されてしまうため、その除去工程を行う必要がある。また塗布すべき基板全体に均一に塗布を行うためには、基板に乗せたい量に比べ大過剰の塗布液を必要とする。グラビア印刷法などの湿式法による印刷では、塗布液を囲う隔壁等との濡れ性の関係により液面が凸状若しくは凹状となり、乾燥後の膜面形状が平らにならない恐れがある。膜面形状が平らでないと、素子駆動時に発光状態にムラが生じてしまう。
【0009】
これに対し、凸版反転オフセット法がある。特許文献1等においては凸版反転オフセット法によって有機発光層を形成した高分子有機EL素子が開示されている。この印刷法では塗膜を半乾燥状態にしてから基板に転写するため、スピンコート法に比べ塗布液の量が少なく済み、また、グラビア印刷法などの湿式法に比べ膜面形状が平らになる利点を持つ

【0010】
特許文献1等で開示された方法では、インク剥離性処理を施した、例えばシリコーン樹脂に有機溶剤と発光材料より成る塗布液を塗布し、反転印刷法によりパターン形成された発光材料を印刷している。しかし、このシリコーン樹脂では水やアルコールなどの極性の高い溶剤をはじいてしまうため、この方法では実際に印刷できるインキは極性の低い有機溶剤よりなるものに限られてしまう。
【0011】
以下に公知の文献を記す。
【特許文献1】特開2003−17248号公報
【非特許文献1】Allan F. Barton, Ph.D., "CRC HANDBOOK of SOLUBILITY PARAMETERS and OTHER COHESION PARAMETERS second edition", CRC Press, 1991.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、発光補助層に抜けが無く均一な厚みで形成でき、その上に欠陥の無い層を形成できる高品質の高分子有機EL素子の製造方法を提供することを可能とせしめることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、ブランケット表面の撥水性をコントロールすることで、上記課題が解決できることを見いだした。
【0014】
請求項1においては、基板と、基板に支持されたパターン状の第一電極と、第一電極の上方に配置された有機発光媒体層と、有機発光媒体層の上方に配置された第二電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記有機発光媒体層は少なくとも有機発光層と発光補助層から構成され、当該発光補助層は、
1)支持体上に発光補助材料を含むインキを供給して発光補助層を積層し、
2)前記支持体上に発光補助層を備えた転写体と、前記発光補助層の不要部に対応する凸部を備えた凸刷版とを、前記発光補助層と前記凸刷版の凸部とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記発光補助層の不要部を凸部に転写して除去することによって発光補助層のパターニングを行い、
3)前記支持体上にパターニング済みの発光補助層を備えた転写体と、少なくとも基板上に第一電極を備えた被転写体とを、前記発光補助層と前記被転写体とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記パターニング済みの発光補助層を前記被転写体上に転写する凸版反転オフセット法により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0015】
請求項2においては、前記凸版反転オフセット法により形成される発光補助層は第一電極と有機発光層との間に配置されることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0016】
請求項3においては、前記発光補助材料を含むインキはHildebrandの溶解度パラメーターが20MPa1/2以上の溶剤を50%以上含む溶剤に正孔輸送性の化合物を溶解もしくは分散して調整されたものであることを特徴とする請求項2または3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0017】
請求項4においては、前記支持体表面は水の接触角が90度以下であることを特徴とす
る請求項1乃至3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0018】
請求項5においては、請求項1乃至4記載の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では発光補助層を形成する発光補助材料をインキに加工し、これを凸版反転オフセット法により積層して発光補助層を形成するものであり、特にHildebrandの溶解度パラメーターが20MPa1/2以上の溶剤を50%以上含む溶剤を用いて発光補助材料をインキ化することで、発光補助材料を均一に溶解若しくは分散させるこことができ、欠陥のない発光可能な有機EL素子を得ることができる。
【0020】
表面の水に対する接触角が90度以下である支持体を用いることで、支持体に対するインキの濡れ性が向上し、支持体上に均一なインキ塗布膜を形成することが可能となり、凸版反転オフセット法により印刷することでより効果があがる。
【0021】
また、膜厚均一性に優れた凸版反転オフセット法により発光補助層を形成することができることから、発光補助層の上方に形成される有機発光層や第二電極も平坦に、均一な厚みで形成することができる。従って、発光補助層の膜厚が不均一であるために発生する発光ムラだけでなく、その上方に形成される層の欠陥に由来する有機発光素子の発光欠陥も防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の製造方法で提供される有機エレクトロルミネッセンス素子は少なくとも基板と、基板に支持されたパターン状の第一電極と、第一電極の上方に配置された有機発光媒体層と、有機発光媒体層の上方に配置された第二電極とを具備し、前記有機発光媒体層は少なくとも有機発光層と発光補助層から構成される。有機エレクトロルミネッセンス素子とは第一電極と第二電極に挟まれた有機発光層に直流電流を流すことで一方から正孔(ホール)を、他方から電子を供給し、有機発光層での正孔と電子の再結合によって生じる発光を画像表示や照明として利用する発光素子であり、正孔や電子の移動を補助する層が発光補助層である。発光補助層には正孔注入電極(陽極)と有機発光層との間に設けられる正孔輸送性化合物を含む正孔輸送層、正孔注入層、電子ブロック層や、電子注入電極(陰極)と有機発光層との間に設けられる正孔ブロック層、電気輸送層及び電子注入層が挙げられる。
【0023】
本発明では発光補助層を形成する発光補助材料をインキに加工し、これを凸版反転オフセット法により積層して発光補助層を形成するものであり、特にHildebrandの溶解度パラメーターが20MPa1/2以上の溶剤を50%以上含む溶剤を用いて発光補助材料をインキ化することで、発光補助材料を均一に溶解若しくは分散させることができ、溶け残り若しくは分散不良による粒塊の混入を避けられ、欠陥のない発光可能な有機EL素子を得ることができる。特に本発明を有機発光層の下方に形成される層、通常は正孔輸送性の化合物を含む正孔輸送層、正孔注入層および電子ブロック層のいずれかあるいは全てに適用すれば、膜厚均一性に優れた凸版反転オフセット法により発光補助層を形成することができることから、発光補助層の上方に形成される有機発光層や第二電極も平坦に、均一な厚みで形成することができる。従って、発光補助層の膜厚が不均一であるために発生する発光ムラだけでなく、その上方に形成される層の欠陥に由来する有機発光素子の発光欠陥も防ぐことができる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明による有機EL素子の一例を図に基づいて説明する。図1は、本発明による有機EL素子の一例を断面で示した説明図である。
【0026】
本発明に係る基板1としては、透光性があり、ある程度の強度がある基材なら制限はないが、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mmから1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。
【0027】
また、可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機EL素子の製造が可能であり、安価に素子を提供することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、透明導電層2を製膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレンー酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。
【0028】
第一電極としては透明導電層2を利用する。透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質なら特に制限はない。具体的にはインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)を好ましく用いることができる。前記透光性基板1上に蒸着またはスパッタリング法により製膜することができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基材上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはTCNQ−TTF等の有機半導体も用いることができる。
【0029】
上記、透明導電層2は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行ったり、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0030】
本発明における有機EL素子の有機発光媒体層4は、有機発光層と正孔輸送性層のみの積層に限らず、更に正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層等を設けた多層構造であってもよい。
【0031】
正孔輸送層4aに用いる正孔輸送材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニルー1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、中でもポリアニリン、ポリチオフェン、PVK、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物、ポリアニリン等の有機材料が、湿式法による製膜が可能であり、且つ電極表面の凹凸をならし平らにするという点で、より好ましい。また、高い導電性を得るためにこれらの正孔輸送性材料にイオン性のドーパントを混ぜたものでもよい。
【0032】
正孔輸送性材料は溶媒に溶解または分散させ正孔輸送性インキとする。正孔輸送材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶剤などが挙げられる。特に前項で述べたようにイオン性のドーパントが混合した材料を溶解若しくは分散させるためには、水またはアルコール類等のHildebrandの溶解度パラメーター
が20MPa1/2以上の溶剤を50%以上含むものを用いるのが好適であり、100%使用してもよい。特に80%以上100%以下の範囲であると、溶解性若しくは分散性が非常に良好となるため好ましい。また、正孔輸送性インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。なお、正孔輸送性層の形成方法は後述する。
【0033】
Hildebrandの溶解度パラメータは一般的に用いられている溶解度パラメータの一つで、例えば非特許文献1に記載されている。
【0034】
表1に、溶解度パラメータの例を示した。
【0035】
【表1】

【0036】
有機発光層4bに用いる有機発光材料としては、一般に有機発光材料として用いられているものであれば良く、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’―ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’―ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体等の発光性色素や、それらをポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に混合させたものや、PPV系やPAF系、ポリパラフェニレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0037】
有機発光層4bにある有機発光層の形成は、有機発光インキを用いる。有機発光インキとは、上述した有機発光材料が溶媒に溶解または分散したものである。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されてもよい。
【0038】
有機発光層の形成には、真空蒸着法などの乾式法や、スリットコーター、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いたコーティング法、凸版反転オフセット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、孔版印刷法等の湿式法を用いることが出来る。特に、乾式法や凸版反転オフセット法を用いると正孔輸送性層との混色が起きないので好ましい。また、その他の湿式法でも、正孔輸送性材料が水若しくはアルコールなどの極性の高い溶媒にのみ溶解若しくは分散する場合には、トルエンなどの極性の低い溶剤を有機発光インキに用いることが出来る。
【0039】
有機発光層形成後、必要に応じて正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層等を設けても良い。これらの層に用いられる材料としては電子輸送性ポリシラン、ポリシロール、含ボロンポリマー等の電子輸送性を有するもの、PPP等のポリアリーレン系、PPV等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン等の高分子に、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体の電荷移動錯体、シロール誘導体、アリールボロン誘導体、ビスフェナントロリン等のピリジン誘導体、パーフルオロ化されたオリゴフェニレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の電子輸送性若しくは正孔ブロック性を有する材料を混合した物を用いても良い。
【0040】
有機発光層若しくは正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層を形成した後に、陰極層を形成する。第二電極である陰極層5としてはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または、電子注入効率と安定性を両立さ
せるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。陰極の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。
【0041】
最後にこれらの有機EL積層体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止をおこなう。
【0042】
凸版反転オフセット法の支持体として用いるブランケットとしては、通常のオフセット印刷に用いられているものを使用しても良いが、高い剥離性を有するものが良く、特にシリコーンゴムを最表層に有するものが好ましい。
【0043】
凸版反転オフセット印刷に用いる正孔輸送性インキが、水若しくはアルコール等のHildebrandの溶解度パラメーターが20MPa1/2以上の溶剤若しくは分散剤を50%以上含む場合、良好なブランケットへのコーティング性を得るためには水の接触角が90度以下の表面を有するブランケットを用いることが好ましい。そのため、ブランケット表面層に表面自由エネルギーを調整するためのフィラーを混入させたり、ブランケット表面にUV−オゾン処理やプラズマ処理を施したりしてもよい。
【0044】
また、有機EL素子の各層は平滑であることが好ましいので、ブランケットの表面平滑性はRaが1nm以下であることが好ましい。
【0045】
次に、正孔輸送性層を形成する際の凸版反転オフセット印刷法について示す。図2は、本発明による有機EL素子の有機発光媒体層を凸版反転オフセット印刷で形成する工程を断面で示した模式説明図である。まず、透明導電層付き透光性基板を用意し、その透明導電層を所定のパターンにエッチングし、透光性基板と透明導電層とを有する透明電極3を得る(図2(a))。次に、図示しないインキ供給手段からブランケット胴6に設置したシリコーンブランケット7の有効面に正孔輸送性インキ41を塗布、乾燥させ塗膜を形成する。
【0046】
次いで、ブランケット胴6を回転させ、インキのネガパターンが形成された除去版23とシリコーンブランケット7を圧着させ、除去版23を固定したステージ(図示せず)をブランケット胴の回転に合わせ移動させる。このとき除去版の凸部に圧着した正孔輸送性インキはブランケットから除去され除去版23の凸部に転移し、ブランケット上には所望の正孔輸送性インキ4aのパターンが形成される(図2(b))。次に、ブランケット胴6を回転させ、透明電極3とシリコーンブランケット7を圧着させ、透明電極3を固定したステージ24をブランケット胴6の回転に合わせて移動させる。このとき、シリコーンブランケット上にある正孔輸送性インキ4aのパターンは透明電極3に印刷される(図2(c))。
【0047】
なお、図2ではブランケット胴の回転に合わせ除去版および被印刷基板のあるステージが移動する機構であるが、ブランケット胴の回転に合わせブランケット胴が移動する機構であっても良い。
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
TSE3466(A)(GE東芝シリコーン製2液型シリコーンゴム主剤)100重量
部と、TSE3466(B)(GE東芝シリコーン製2液型シリコーンゴム硬化剤)10重量部とを混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物をPET基材上にナイフコーターを用い塗布し、70℃で2時間加熱し硬化反応をさせた。これにより、厚さ0.2mmのシリコーンゴム層を有するシリコーンブランケットを得た。このブランケットの水の接触角は105度であった。更にこの表面に20Wにて窒素プラズマを60秒照射し、シリコーンブランケット7を得た。プラズマ処理後の水の接触角は10度であった。
【0050】
透明導材料であるITO付きガラスから成る透光性基板上のITOを所定のパターンにエッチングを行い、透明導電層2を形成し、透明電極3を得た(図2(a))。
【0051】
次に、シリコーンブランケット7を直径5cmの円筒状のブランケット胴6に巻き付け、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水70%とイソプロピルアルコール30%の混合分散液に分散させたインキをスリットコーターにて塗布した。
【0052】
不要部が凸部になるようパターン形成されたガラス製の凸版の除去版23の凸部と重なるように対面させ、ブランケット胴6によりシリコーンブランケット7を除去版23に回転させながら圧着させ、転写により不要部をシリコーンブランケット7から除去し、パターニングを行った(図2(b))。
【0053】
除去版23に転写されたポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水により洗浄し回収した。
支持体上の正孔輸送性層を透明電極3に合わせ、ブランケット胴6によりシリコーンブランケット7を透明電極3に回転させながら圧着させ、正孔輸送性層4aを転写した(図2(c))。
【0054】
ポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)をトルエンに溶解した有機発光インキを得た。以下同様に、シリコーンブランケット7上に有機発光層インキを塗布して得た厚さ50nmの有機発光層4bを除去版23でパターン化し、正孔輸送性層4aのパターンと重なるように転写した(図2(d))。
【0055】
次いで、陰極層5としてフッ化リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm形成して、高分子有機EL素子を得た。
【0056】
得られた高分子有機EL素子は8Vで100cd/m2のパターン化された均一な発光を示した。
<比較例1>
実施例1において、正孔輸送性層を転写法ではなくスピンコート法で作製したこと以外は、実施例1と同様の条件で、高分子有機EL素子を作製した。
【0057】
得られた高分子有機EL素子は、8Vで100cd/m2のパターン化された発光を示したが、発光面全体にスピンコートによる膜厚ムラ由来と考えられる、同心円上の発光ムラを示した。
<比較例2>
実施例1において、シリコーンブランケットのプラズマ処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の条件で、高分子有機EL素子を作製した。
【0058】
得られた高分子有機EL素子は、短絡が起きており発光しなかった。透明電極側から光学顕微鏡にて正孔輸送性層の形状を観測したところ、至る所にブランケット上でのインキ
ハジキ由来と考えられる細かな穴が無数に観測された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による有機EL素子の一例を断面で示した説明図である。
【図2】本発明による有機EL素子の有機発光媒体層を凸版反転オフセット印刷で形成する工程を断面で示した模式説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1. 透光性基板
2. 透明電極層
3. 透明電極
4. 有機発光媒体層
4a.正孔輸送性層
4b.有機発光層
5. 陰極層
6. ブランケット胴
7. シリコーンブランケット
23. 除去版
24. ステージ
41. 正孔輸送性インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、基板に支持されたパターン状の第一電極と、第一電極の上方に配置された有機発光媒体層と、有機発光媒体層の上方に配置された第二電極とを具備する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、前記有機発光媒体層は少なくとも有機発光層と発光補助層から構成され、当該発光補助層は、
1)支持体上に発光補助材料を含むインキを供給して発光補助層を積層し、
2)前記支持体上に発光補助層を備えた転写体と、前記発光補助層の不要部に対応する凸部を備えた凸刷版とを、前記発光補助層と前記凸刷版の凸部とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記発光補助層の不要部を凸部に転写して除去することによって発光補助層のパターニングを行い、
3)前記支持体上にパターニング済みの発光補助層を備えた転写体と、少なくとも基板上に第一電極を備えた被転写体とを、前記発光補助層と前記被転写体とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記パターニング済みの発光補助層を前記被転写体上に転写する凸版反転オフセット法により形成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記凸版反転オフセット法により形成される発光補助層は第一電極と有機発光層との間に配置されることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記発光補助材料を含むインキはHildebrandの溶解度パラメーターが20MPa1/2以上の溶剤を50%以上含む溶剤に正孔輸送性の化合物を溶解もしくは分散して調整されたものであることを特徴とする請求項2または3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記支持体表面は水の接触角が90度以下であることを特徴とする請求項1乃至3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の製造方法により製造されたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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