説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動回路および駆動方法

【課題】パッシブ駆動型有機EL表示装置の消費電力を低減する。
【解決手段】走査電極駆動回路11は、選択した走査電極には接地電圧よりも低い電圧(−Va)を印加し、残余の走査電極には接地電圧よりも高い電圧Vbを印加する。データ電極駆動回路12は、発光すべき有機EL素子に対応したデータ電極には定電流源の出力側電圧Vcを印加し、残余のデータ電極には接地電圧を印加する。選択した走査電極に負の電圧(−Va)を印加して線順次駆動を行えば、残余の走査電極に印加する正の電圧Vbを下げられる。よって、発光すべき有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子の充放電による消費電力を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略称する)素子を用いた表示装置に関し、より詳細には、パッシブ駆動型有機EL表示装置の駆動回路および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型素子として、有機EL素子を用いた表示装置が研究開発されている。中でも、パッシブ駆動型有機EL表示装置は、視認性が良く薄型であるために、携帯電話の背面用表示装置などに実用化されている。
【0003】
従来の有機EL表示装置の駆動回路および駆動方法は、例えば特許文献1に開示されている(図13〜図16を参照)。有機EL表示装置は、データ電極X1 〜Xm と、走査電極Y1 〜Yn と、これら電極の交点に設けられた有機EL素子E1,1 〜Em,n とを備えている。1個の有機EL素子は、ダイオードおよびコンデンサの並列接続回路と電気的に等価である。図13〜図16では、発光している有機EL素子はダイオードで、発光していない有機EL素子はコンデンサで表されている。
【0004】
有機EL素子E1,1 〜Em,n は、走査電極駆動回路1およびデータ電極駆動回路2a、2bによって駆動される。走査電極駆動回路1に含まれるスイッチSY1 〜SYn は、走査電極Y1 〜Yn に印加される電圧を、電源電圧Vccと接地電圧(ゼロ電圧)との間で切り替える。データ電極駆動回路2aに含まれるスイッチSX1 〜SXm は、データ電極X1 〜Xm に定電流源の出力側電圧を印加するか否かを切り替える。データ電極駆動回路2bに含まれるスイッチSZ1 〜SZm は、データ電極X1 〜Xm に接地電圧を印加するか否かを切り替える。これら3種類のスイッチの状態は、発光制御回路(図示せず)から出力された制御信号(図示せず)によって切り替えられる。なお、一般に、定電流源の出力側電圧は有機EL素子のインピーダンスや電極の配線抵抗によって変動するが、ここでは、説明を簡単化するために、定電流源の出力側電圧は常に電源電圧Vccに等しいとする。
【0005】
例えば、1行目に配置された有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させた後に、2行目に配置された有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させる場合には、走査電極駆動回路1およびデータ電極駆動回路2a、2bは以下のように動作する。有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させるときには、走査電極駆動回路1ではスイッチSY1 は接地電圧側に、スイッチSY2 〜SYn は電源電圧Vcc側に接続し、データ電極駆動回路2a、2bではスイッチSX1 、SX2 、SZ3 〜SZm がオン状態となり、それ以外のスイッチはオフ状態となる(図13を参照)。このとき有機EL素子E1,1 、E2,1 のアノード電圧はカソード電圧よりも十分に高くなるので、図13に示す方向に電流が流れる。これにより、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光する。
【0006】
それ以外の有機EL素子は、発光する有機EL素子と同じ行に配置されたもの(第1グループ:G1)と、発光する有機EL素子のいずれかと同じ列に配置されたもの(第2グループ:G2)と、発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置されたもの(第3グループ:G3)とに分類される。第1および第2グループ内の有機EL素子ではアノード電圧はカソード電圧に一致し、第3グループ内の有機EL素子ではアノード電圧はカソード電圧よりも低くなる。このため、第1〜第3グループ内の有機EL素子は、いずれも発光しない。このとき、第3グループ内の有機EL素子には逆方向に電圧Vccが印加される。これにより、第3グループ内の有機EL素子は電圧Vccによって充電される。
【0007】
次に、走査電極駆動回路1ではスイッチSY1 〜SYn は接地電圧側に接続し、データ電極駆動回路2a、2bではスイッチSX1 〜SXm がオフ状態となり、スイッチSZ1 〜SZm がオン状態となる(図14を参照)。これにより、第3グループ内の有機EL素子に充電されていた電荷は、すべて放電される。
【0008】
次に、有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させるときには、走査電極駆動回路1ではスイッチSY2 は接地電圧側に、スイッチSY1 、SY3 〜SYn は電源電圧Vcc側に接続し、データ電極駆動回路2a、2bではスイッチSX2 、SX3 、SZ1 、SZ4 〜SZm がオン状態となり、それ以外のスイッチはオフ状態となる(図15を参照)。このようにスイッチの状態が変化すると、有機EL素子E2,2 、E3,2 には図15に示す複数のルートで電流が流れ込み、有機EL素子E2,2 、E3,2 は高速に充電される。これにより、有機EL素子E2,2 、E3,2 は短時間で発光を開始し、有機EL表示装置は図16に示す定常状態に瞬時に移行する。以上の一連の動作によって、線順次駆動が行われる。
【0009】
これ以外にも、特許文献2には、図13と同様の構成を有する有機EL表示装置において、発光すべきでない有機EL素子に対応したデータ電極には有機EL素子の発光開始電圧よりも低い所定の電圧VL を印加することが開示されている。
【特許文献1】特許第3314046号明細書
【特許文献2】特許第3609299号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された有機EL表示装置では、発光すべき有機EL素子に電圧Vccを印加すると、発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子(すなわち、第3グループ内の有機EL素子)に逆方向に電圧Vccが印加される。このため、第3グループ内の有機EL素子は、電圧Vccによって充電される。充電された電荷は、走査電極とデータ電極とが共に接地電圧に接続されたときに放電される。
【0011】
第3グループ内の有機EL素子における充放電によって、電源電圧Vccの2乗に比例する電力が消費される。ところが、第3グループ内の有機EL素子における充放電は、有機EL素子の発光とは無関係である。このように、特許文献1に開示された有機EL表示装置では、発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子における充放電によって、電源電圧Vccの2乗に比例する電力が無駄に消費されている。
【0012】
特許文献2には、この問題に対する1つの解決策として、発光すべきでない有機EL素子に対応したデータ電極には有機EL素子の発光開始電圧よりも低い所定の電圧VL を印加することが開示されている。しかしながら、有機EL素子の特性や有機EL表示装置の構成によっては、特許文献2に開示された方法以外の方法が好ましい場合がある。
【0013】
それ故に、本発明は、従来とは異なる方法で、発光とは無関係な消費電力を削減できる有機EL素子の駆動回路および駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、複数の走査電極と複数のデータ電極との交点に設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動回路であって、
前記走査電極のうち、選択された走査電極には接地電圧よりも低い第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧よりも高い第2の電圧を印加する走査電極駆動回路と、
前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第3の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するデータ電極駆動回路とを備える。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、すべての前記データ電極に接地電圧を印加し、
前記走査電極駆動回路は、その間、選択された走査電極には前記第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧を印加することを特徴とする。
【0016】
第3の発明は、第2の発明において、
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に印加される電圧を、前記第3の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含むことを特徴とする。
【0017】
第4の発明は、第1の発明において、
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には特定の電圧を印加せず、残余のデータ電極には接地電圧を印加することを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において、
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に対して、前記第3の電圧を印加するか、接地電圧を印加するか、あるいは、前記第3の電圧も接地電圧も印加しないかを切り替えるスイッチを含むことを特徴とする。
【0019】
第6の発明は、第1の発明において、
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第4の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加することを特徴とする。
【0020】
第7の発明は、第6の発明において、
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に印加される電圧を、前記第3の電圧と前記第4の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含むことを特徴とする。
【0021】
第8の発明は、第1の発明において、
前記第1の電圧の絶対値が前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光開始電圧よりも小さいことを特徴とする。
【0022】
第9の発明は、複数の走査電極と複数のデータ電極との交点に設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動方法であって、
前記走査電極のうち、選択された走査電極には接地電圧よりも低い第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧よりも高い第2の電圧を印加するステップと、
前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第3の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップとを備える。
【0023】
第10の発明は、第9の発明において、
前記第3の電圧を印加する前に、選択された走査電極には前記第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極およびすべての前記データ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備える。
【0024】
第11の発明は、第9の発明において、
前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には特定の電圧を印加せず、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備える。
【0025】
第12の発明は、第9の発明において、
前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第4の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備える。
【発明の効果】
【0026】
上記第1または第9の発明によれば、発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子は第2の電圧によって充電される。したがって、第2の電圧を下げることにより、発光とは無関係な消費電力を削減し、有機EL表示装置の消費電力を削減することができる。
【0027】
上記第2、第3または第10の発明によれば、選択する走査電極を切り替えるときに、有機EL素子に充電された電荷を放電しながら、発光とは無関係な消費電力を削減することができる。
【0028】
上記第4、第5または第11の発明によれば、より少ないコストで、発光とは無関係な消費電力を削減することができる。
【0029】
上記第6、第7または第12の発明によれば、有機EL素子を短時間で発光させながら、発光とは無関係な消費電力を削減することができる。
【0030】
上記第8の発明によれば、発光すべきでない有機EL素子が発光することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(第1の実施形態)
図1〜図4は、本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の構成と動作を示す図である。有機EL表示装置は、図1〜図4に示すように、m個のデータ電極X1 〜Xm と、n個の走査電極Y1 〜Yn と、(m×n)個の有機EL素子E1,1 〜Em,n とを備えている。走査電極Y1 〜Yn は互いに平行に設けられ、データ電極X1 〜Xm は互いに平行に、かつ、走査電極Y1 〜Yn に直交するように設けられる。データ電極X1 〜Xm と走査電極Y1 〜Yn とは(m×n)箇所で交差し、有機EL素子E1,1 〜Em,n は(m×n)個の交点のそれぞれに設けられる。
【0032】
有機EL素子E1,1 〜Em,n の駆動回路は、走査電極駆動回路11とデータ電極駆動回路12とを備えている。走査電極駆動回路11は、各走査電極Yj (jは1以上n以下の整数;以下、同じ)について3個のスイッチSDj 、SUj 、SGj を含み、これらのスイッチを用いて走査電極Yj を駆動する。スイッチSDj は、走査電極Yj を接地電圧(ゼロ電圧)よりも低い電圧(−Va)に接続するか否かを切り替える。スイッチSUj は、走査電極Yj を接地電圧よりも高い電圧Vbに接続するか否かを切り替える。スイッチSGj は、走査電極Yj を接地電圧に接続するか否かを切り替える。
【0033】
データ電極駆動回路12は、各データ電極Xi (iは1以上m以下の整数;以下、同じ)について2個のスイッチDUi 、DDi を含み、これらのスイッチを用いてデータ電極Xi を駆動する。スイッチDUi は、データ電極Xi を定電流源の出力側電圧に接続するか否かを切り替える。スイッチDDi は、データ電極Xi を接地電圧に接続するか否かを切り替える。
【0034】
走査電極駆動回路11は、走査電極Y1 〜Yn に印加される電圧を電圧(−Va)と電圧Vbと接地電圧との間で切り替えることにより、走査電極Y1 〜Yn の中から1個の走査電極を選択する。これにより、1行分の有機EL素子が選択される。データ電極駆動回路12は、データ電極X1 〜Xm に印加される電圧を定電流源の出力側電圧と接地電圧との間で切り替える。これにより、選択された1行分の有機EL素子に対して、1行分の表示データが供給される。有機EL素子E1,1 〜Em,n の各行について走査電極駆動回路11およびデータ電極駆動回路12が上記のように動作することにより、有機EL表示装置は画面表示を行う。
【0035】
以下、走査電極Y1 〜Yn のうち、走査電極駆動回路11によって選択された走査電極を「選択走査電極」といい、残余の走査電極を「非選択走査電極」という。また、データ電極X1 〜Xm のうち、発光すべき有機EL素子に対応したデータ電極を「点灯データ電極」、残余のデータ電極を「非点灯データ電極」という。選択走査電極と点灯データ電極との交点に設けられた有機EL素子は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。発光しない有機EL素子は、以下の3つのグループに分類される。
第1グループ:発光する有機EL素子と同じ行に配置されたもの
第2グループ:発光する有機EL素子のいずれかと同じ列に配置されたもの
第3グループ:発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置されたもの
【0036】
走査電極駆動回路11およびデータ電極駆動回路12に含まれるスイッチの状態は、以下のように変化する。まず走査電極駆動回路11では、スイッチSD1 〜SDn のうち選択走査電極に対応したものと、スイッチSG1 〜SGn のうち非選択走査電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。このときデータ電極駆動回路12では、スイッチDD1 〜DDm がオン状態となり、スイッチDU1 〜DUm はオフ状態となる。次に走査電極駆動回路11では、スイッチSD1 〜SDn のうち選択走査電極に対応したものと、スイッチSU1 〜SUn のうち非選択走査電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。このときデータ電極駆動回路12では、スイッチDU1 〜DUm のうち点灯データ電極に対応したものと、スイッチDD1 〜DDm のうち非点灯データ電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。
【0037】
例えば、1行目に配置された有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させた後に、2行目に配置された有機EL素子を発光させる場合には、走査電極駆動回路11およびデータ電極駆動回路12は以下のように動作する。有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させるときには、走査電極Y1 が選択走査電極、走査電極Y2 〜Yn が非選択走査電極、データ電極X1 、X2 が点灯データ電極、データ電極X3 〜Xm が非点灯データ電極となる。また、有機EL素子E1,1 、E2,1 以外の有機EL素子は、図1に示すように、第1〜第3グループG1〜G3に分類される。
【0038】
有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させるためには、まず走査電極駆動回路11では、スイッチSD1 、SG2 〜SGn がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路12では、スイッチDD1 〜DDm がオン状態となり、スイッチDU1 〜DUm はオフ状態となる(図1を参照)。図1に示す状態では、有機EL素子E1,1 〜Em,n は発光しない。
【0039】
次に走査電極駆動回路11では、スイッチSG2 〜SGn がオフ状態に変化し、スイッチSU2 〜SUn がオン状態に変化する。このときデータ電極駆動回路12では、スイッチDD1 、DD2 がオフ状態に変化し、スイッチDU1 、DU2 がオン状態に変化する。この結果、走査電極駆動回路11では、スイッチSD1 、SU2 〜SUn がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路12では、スイッチDU1 、DU2 、DD3 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図2を参照)。図2に示す状態では、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0040】
スイッチの状態が図2に示すように変化してから所定の時間が経過すると、有機EL表示装置は図3に示す定常状態となる。図3に示す状態でも、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0041】
2行目に配置された有機EL素子を発光させるときには、走査電極Y2 が選択走査電極、走査電極Y1 、Y3 〜Yn が非選択走査電極となる。まず走査電極駆動回路11では、スイッチSD2 、SG1 、SG3 〜SGn がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路12では、スイッチDD1 〜DDm がオン状態となり、スイッチDU1 〜DUm はオフ状態となる(図4を参照)。図4に示す状態では、有機EL素子E1,1 〜Em,n は発光しない。これ以降、1行目と同様の処理が行われる。
【0042】
図1に示す状態では、選択走査電極Y1 には電圧(−Va)、非選択走査電極Y2 〜Yn およびデータ電極X1 〜Xm には接地電圧が印加されている。このため、選択走査電極Y1 に対応したm個の有機EL素子では、アノード電圧がカソード電圧よりもVaだけ高くなる。したがって、選択走査電極Y1 に対応したm個の有機EL素子は、電圧Vaによって充電される。ただし、両端の電圧がVaとなっても有機EL素子が発光しないように、電圧(−Va)には、絶対値が有機EL素子の発光開始電圧Vthよりも小さい電圧が使用される。よって、図1に示す状態では、有機EL素子E1,1 〜Em,n は発光しない。
【0043】
図2に示す状態では、選択走査電極Y1 には電圧(−Va)、非選択走査電極Y2 〜Yn には電圧Vb、非点灯データ電極X3 〜Xm には接地電圧が印加され、点灯データ電極X1 、X2 には定電流源の出力側端子が接続される。定電流源を流れる電流は一定であるので、スイッチの状態が図2に示すように変化した直後の点灯データ電極X1 、X2 の電圧は、各点灯データ電極に対応したn個の有機EL素子の容量結合によって、次式(1)に示す値になる。
Vb’={(n−1)/n}×(Vb+Va)−Va …(1)
このようにスイッチの状態が変化した直後の点灯データ電極X1 、X2 の電圧Vb’は、電圧Vbにほぼ等しくなる。一方、スイッチの状態が変化した後も、非点灯データ電極X3 〜Xm の電圧は接地電圧のままである。
【0044】
図2に示す状態では有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、以下のとおりである。有機EL素子E1,1 、E2,1 では、アノード側には電圧Vb’、カソード側には電圧(−Va)が印加されるので、両端の電圧は(Vb’+Va)となる。ここで電圧Vbには、電圧(Vb’+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電圧が使用される。このため、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光する。
【0045】
第1グループ内の有機EL素子(有機EL素子E1,1 、E2,1 と同じ行に配置された有機EL素子)では、アノード側には接地電圧、カソード側には電圧(−Va)が印加されるので、両端の電圧はVaとなる。上述したように、電圧(−Va)の絶対値は発光開始電圧Vthよりも小さいので、第1グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0046】
第2グループ内の有機EL素子(有機EL素子E1,1 、E2,1 のいずれかと同じ列に配置された有機EL素子)では、アノード側には電圧Vb’、カソード側には電圧Vbが印加されるので、両端の電圧は(Vb’−Vb)となる。電圧(Vb’−Vb)は負で発光開始電圧Vthよりも小さいので、第2グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0047】
第3グループ内の有機EL素子(有機EL素子E1,1 、E2,1 と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子)では、アノード側には接地電圧、カソード側には電圧Vbが印加されるので、両端の電圧は−Vbとなる。電圧(−Vb)は負で発光開始電圧Vthよりも小さいので、第3グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0048】
図3に示す定常状態における定電流源の出力側電圧をVcとする。図3に示す状態では有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、以下のとおりである。有機EL素子E1,1 、E2,1 では、アノード側には電圧Vc、カソード側には電圧(−Va)が印加されるので、両端の電圧は(Vc+Va)となる。ここで、データ電極駆動回路12内の定電流源には、電圧(Vc+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電流源が使用される。このため、有機EL素子E1,1 、E2,1 は、定電流源から供給される電流に応じた所定の輝度で発光する。
【0049】
第1および第3グループ内の有機EL素子のアノード側およびカソード側には、図2と同じ電圧が印加される。このため、第1および第3グループ内の有機EL素子は、引き続き発光しない。
【0050】
第2グループ内の有機EL素子では、アノード側には電圧Vc、カソード側には電圧Vbが印加されるので、両端の電圧は(Vc−Vb)となる。ここで、電圧Vbには、電圧(Vc−Vb)が発光開始電圧Vthより小さくなるような電圧が使用される。このため、第2グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0051】
このように本実施形態に係る駆動回路(すなわち、走査電極駆動回路11およびデータ電極駆動回路12)によれば、発光すべき有機EL素子には発光開始電圧Vthよりも高い電圧を印加し、その他の有機EL素子には発光開始電圧Vthよりも低い電圧を印加することができる。したがって、所望の有機EL素子を正しく発光させることができる。
【0052】
以下、本実施形態に係る駆動回路が奏する効果について説明する。本実施形態に係る駆動回路によれば、第1〜第3のグループ内の有機EL素子には、それぞれ、電圧Va、電圧(Vc−Vb)および電圧(−Vb)が印加される。第1〜第3グループ内の有機EL素子はこれら3種類の電圧によって充電され、充電された電荷は選択する走査電極を切り替えるときに放電される。
【0053】
本実施形態に係る有機EL表示装置における消費電力を検討するときには、第1グループには高々1行分の有機EL素子しか含まれず、第2および第3グループには(n−1)行分の有機EL素子が含まれていないことから、nが十分大きいときには、第1グループ内の有機EL素子における充放電の影響を無視してもよい。また、消費電力を削減するために電圧Vbには電圧Vcとほぼ同じ電圧が使用されるので、第2グループ内の有機EL素子における充放電の影響も無視することができる。したがって、本実施形態に係る有機EL表示装置で発光とは無関係に消費される電力は、第3グループ内の有機EL素子(すなわち、発光する有機EL素子と異なる行かつ異なる列に配置された有機EL素子)の充放電によるものであると言える。
【0054】
本実施形態に係る有機EL表示装置では、第3グループ内の有機EL素子における充放電によって、電圧Vbの2乗に比例する電力が消費される。これに対して、特許文献1記載の有機EL表示装置では、この値は、電源電圧Vccの2乗に比例する。発光すべき有機EL素子に印加される電圧を比べると分かるように、本実施形態における電圧(Vc+Va)は特許文献1記載の電圧Vccに相当する。また、電圧Vbに電圧Vcとほぼ同じ電圧を使用する点を考慮すると、Vcc=Vc+Va=Vb+Vaであるから、本実施形態における電圧Vbを特許文献1記載の電圧Vccよりも低くすることができる。
【0055】
このように、本実施形態に係る有機EL素子の駆動回路は、選択走査電極に接地電圧よりも低い電圧を印加して線順次駆動を行うことにより、発光とは無関係な消費電力を削減し、有機EL表示装置の消費電力を削減することができる。
【0056】
また、特許文献2記載の駆動回路では、データ電極に印加される電圧を3とおりに、走査電極に印加される電圧を2とおりに切り替えるために、データ電極1個あたり3個のスイッチと走査電極1個あたり2個のスイッチとが必要とされる。これに対して、本実施形態に係る駆動回路では、データ電極に印加される電圧を2とおりに、走査電極に印加される電圧を3とおりに切り替えるために、データ電極1個あたり2個のスイッチと走査電極1個あたり2個のスイッチとが必要とされる。
【0057】
したがって、データ電極がm個、走査電極がn個の場合に必要とされるスイッチの総数は、特許文献2では(3m+2n)個であるのに対して、本実施形態では(2m+3n)個である。カラー表示を行う場合には、1つの画素を構成する3つの有機EL素子(それぞれ赤、緑、青に対応)は走査電極が伸びる方向に並べて配置されるので、m>nが成立する。このように、カラー表示を行う場合を始めとして、m>nである場合には、本実施形態に係る駆動回路は、特許文献2記載の駆動回路よりも少ないスイッチで構成することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
図5〜図8は、本発明の第2の実施形態に係る有機EL表示装置の構成と動作を示す図である。本実施形態に係る有機EL素子の駆動回路は、走査電極駆動回路21とデータ電極駆動回路22とを備えている。本実施形態の構成要素のうち第1の実施形態と同じ構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0059】
走査電極駆動回路21は、各走査電極Yj について2個のスイッチSDj 、SUj を含み、これらのスイッチを用いて走査電極Yj を駆動する。データ電極駆動回路22は、各データ電極Xi について2個のスイッチDUi 、DDi を含み、これらのスイッチを用いてデータ電極Xi を駆動する。
【0060】
走査電極駆動回路21は、走査電極Y1 〜Yn に印加される電圧を電圧(−Va)と電圧Vbとの間で切り替えることにより、走査電極Y1 〜Yn の中から1個の走査電極を選択する。データ電極駆動回路22は、データ電極X1 〜Xm を定電流源の出力側電圧に接続するか、接地電圧に接続するか、あるいは、定電流源の出力側電圧にも接地電圧にも接続しないかのいずれかに切り替える。
【0061】
走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路22に含まれるスイッチの状態は、以下のように変化する。まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 〜SDn のうち選択走査電極に対応したものと、スイッチSU1 〜SUn のうち非選択走査電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。このときデータ電極駆動回路22では、スイッチDD1 〜DDm のうち非点灯データ電極に対応したものがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路22では、スイッチDU1 〜DUm のうち点灯データ電極に対応したものと、スイッチDD1 〜DDn のうち非点灯データ電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。
【0062】
例えば、1行目に配置された有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させた後に、2行目に配置された有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させる場合には、走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路22は以下のように動作する。有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させるためには、まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 、SU2 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路22では、スイッチDD3 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図5を参照)。図5に示す状態では、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0063】
次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路22では、スイッチDU1 、DU2 がオン状態に変化する。この結果、走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 、SU2 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路22では、スイッチDU1 、DU2 、DD3 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図6を参照)。図6に示す状態でも、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0064】
有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させるためには、まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD2 、SU1 、SU3 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路22では、スイッチDD1 、DD4 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図7を参照)。図7に示す状態では、有機EL素子E2,2 、E3,2 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0065】
次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路22では、スイッチDU2 、DU3 がオン状態に変化する。この結果、走査電極駆動回路21では、スイッチSD2 、SU1 、SU3 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路22では、スイッチDU2 、DU3 、DD1 、DD4 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図8を参照)。図8に示す状態でも、有機EL素子E2,2 、E3,2 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0066】
図5に示す状態では、選択走査電極Y1 には電圧(−Va)、非選択走査電極Y2 〜Yn には電圧Vb、非点灯データ電極X3 〜Xm には接地電圧が印加され、点灯データ電極X1 、X2 はフローティング状態となる。図5に示す状態における点灯データ電極X1 、X2 の電圧Vb’は、各点灯データ電極に対応したn個の有機EL素子の容量結合によって、次式(2)に示す値になる。
Vb’={(n−1)/n}×(Vb+Va)−Va …(2)
第1の実施形態と同じく、電圧Vb’は電圧Vbにほぼ等しくなる。
【0067】
図5に示す状態において有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、図2に示す状態の場合と同じである。すなわち、有機EL素子E1,1 、E2,1 の両端の電圧は(Vb’+Va)となるが、電圧Vbには電圧(Vb’+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電圧が使用される。第1グループ内の有機EL素子の両端の電圧はVaとなるが、電圧Vaは発光開始電圧Vthよりも小さい。第2グループ内の有機EL素子の両端の電圧は(Vb’−Vb)となるが、電圧(Vb’−Vb)は負で発光開始電圧Vthよりも小さい。第3グループ内の有機EL素子の両端の電圧は−Vbとなるが、電圧(−Vb)は負で発光開始電圧Vthよりも小さい。以上のことから、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光するが、第1〜第3グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0068】
図6に示す状態において有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、図3に示す状態の場合と同じである。すなわち、図6における定電流源の出力側電圧をVcとすると、有機EL素子E1,1 、E2,1 の両端の電圧は(Vc+Va)となるが、データ電極駆動回路22内の定電流源には、電圧(Vc+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電流源が使用される。第1および第3グループ内の有機EL素子のアノード側およびカソード側には、図5と同じ電圧が印加される。第2グループ内の有機EL素子の両端の電圧は(Vc−Vb)となるが、電圧Vbには電圧(Vc−Vb)が発光開始電圧Vthより小さくなるような電圧が使用される。以上のことから、有機EL素子E1,1 、E2,1 は定電流源から供給される電流に応じた所定の輝度で発光し、第1〜第3グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0069】
図7および図8に示す状態において有機EL素子E2,2 、E3,2 のみが発光する理由は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0070】
このように本実施形態に係る駆動回路(すなわち、走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路22)は、有機EL素子E1,1 〜Em,n に対して第1の実施形態と同じ電圧を印加する。したがって、本実施形態に係る駆動回路によれば、第1の実施形態と同様に、発光とは無関係な消費電力を削減し、有機EL表示装置の消費電力を削減することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る駆動回路では、データ電極に印加される電圧を2とおりに、走査電極に印加される電圧を2とおりに切り替えるために、データ電極がm個、走査電極がn個の場合に必要とされるスイッチの総数は(2n+2m)個となる。したがって、本実施形態に係る駆動回路によれば、従来よりも少ないコストで上記の効果を奏することができる。
【0072】
(第3の実施形態)
図9〜図12は、本発明の第3の実施形態に係る有機EL表示装置の構成と動作を示す図である。本実施形態に係る有機EL素子の駆動回路は、走査電極駆動回路21とデータ電極駆動回路32とを備えている。本実施形態の構成要素のうち第1または第2の実施形態と同じ構成要素については、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0073】
データ電極駆動回路32は、各データ電極Xi について3個のスイッチDUi 、DDi 、DSi を含み、これらのスイッチを用いてデータ電極Xi を駆動する。スイッチDSi は、データ電極Xi を所定の電圧Vdに接続するか否かを切り替える。一般的に電圧Vdには、定常状態における定電流源の出力側電圧Vcとほぼ同じ電圧が使用される。データ電極駆動回路32は、データ電極X1 〜Xm に印加される電圧を定電流源の出力側電圧Vcと電圧Vdと接地電圧との間で切り替える。
【0074】
走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路32に含まれるスイッチの状態は、以下のように変化する。まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 〜SDn のうち選択走査電極に対応したものと、スイッチSU1 〜SUn のうち非選択走査電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。このときデータ電極駆動回路32では、スイッチDS1 〜DSm のうち点灯データ電極に対応したものと、スイッチDD1 〜DDm のうち非点灯データ電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路32では、スイッチDU1 〜DUm のうち点灯データ電極に対応したものと、スイッチDD1 〜DDn のうち非点灯データ電極に対応したものとがオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。
【0075】
例えば、1行目に配置された有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させた後に、2行目に配置された有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させる場合には、走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路32は以下のように動作する。有機EL素子E1,1 、E2,1 を発光させるためには、まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 、SU2 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路32では、スイッチDS1 、DS2 、DD3 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図9を参照)。図9に示す状態では、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0076】
次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路32では、スイッチDS1 、DS2 がオフ状態に変化し、スイッチDU1 、DU2 がオン状態に変化する。この結果、走査電極駆動回路21では、スイッチSD1 、SU2 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路22では、スイッチDU1 、DU2 、DD3 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図10を参照)。図10に示す状態でも、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0077】
有機EL素子E2,2 、E3,2 を発光させるためには、まず走査電極駆動回路21では、スイッチSD2 、SU1 、SU3 〜SUn がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路32では、スイッチDS2 、DS3 、DD1 、DD4 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図11を参照)。図11に示す状態では、有機EL素子E2,2 、E3,2 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0078】
次に走査電極駆動回路21に含まれるスイッチの状態はそのままで、データ電極駆動回路32では、スイッチDS2 、DS3 がオフ状態に変化し、スイッチDU2 、DU3 がオン状態に変化する。この結果、走査電極駆動回路21では、スイッチSD2 、SU1 、SU3 〜SUn がオン状態になり、その他のスイッチはオフ状態となる。データ電極駆動回路32では、スイッチDU2 、DU3 、DD1 、DD4 〜DDm がオン状態となり、その他のスイッチはオフ状態となる(図12を参照)。図12に示す状態でも、有機EL素子E2,2 、E3,2 は発光し、その他の有機EL素子は発光しない。
【0079】
図9に示す状態では、選択走査電極Y1 には電圧(−Va)、非選択走査電極Y2 〜Yn には電圧Vb、点灯データ電極X1 、X2 には電圧Vd、非点灯データ電極X3 〜Xm には接地電圧が印加される。
【0080】
図9に示す状態において有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、図2に示す状態の場合とほぼ同じである。すなわち、有機EL素子E1,1 、E2,1 の両端の電圧は(Vd+Va)となるが、電圧Vdには電圧(Vd+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電圧が使用される。第1グループ内の有機EL素子の両端の電圧はVaとなるが、電圧Vaは発光開始電圧Vthよりも小さい。第2グループ内の有機EL素子の両端の電圧は(Vd−Vb)となるが、電圧Vbには電圧(Vd−Vb)が発光開始電圧Vthよりも小さくなるような電圧が使用される。第3グループ内の有機EL素子の両端の電圧は−Vbとなるが、電圧(−Vb)は負で発光開始電圧Vthよりも小さい。以上のことから、有機EL素子E1,1 、E2,1 は発光するが、第1〜第3グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0081】
図10に示す状態において有機EL素子E1,1 、E2,1 のみが発光する理由は、図3に示す状態の場合と同じである。すなわち、図10における定電流源の出力側電圧をVcとすると、有機EL素子E1,1 、E2,1 の両端の電圧は(Vc+Va)となるが、データ電極駆動回路32内の定電流源には、電圧(Vc+Va)が発光開始電圧Vthよりも大きくなるような電流源が使用される。第1および第3グループ内の有機EL素子のアノード側およびカソード側には、図9と同じ電圧が印加される。第2グループ内の有機EL素子の両端の電圧は(Vc−Vb)となるが、電圧Vbには電圧(Vc−Vb)が発光開始電圧Vthより小さくなるような電圧が使用される。以上のことから、有機EL素子E1,1 、E2,1 は定電流源から供給される電流に応じた所定の輝度で発光し、第1〜第3グループ内の有機EL素子は発光しない。
【0082】
図11および図12に示す状態において有機EL素子E2,2 、E3,2 のみが発光する理由は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0083】
このように本実施形態に係る駆動回路(すなわち、走査電極駆動回路21およびデータ電極駆動回路32)は、定常状態では、有機EL素子E1,1 〜Em,n に対して第1の実施形態と同じ電圧を印加する。したがって、本実施形態に係る駆動回路によれば、第1および第2の実施形態と同様に、発光とは無関係な消費電力を削減し、有機EL表示装置の消費電力を削減することができる。
【0084】
また、本実施形態に係る駆動回路は、データ電極に対して予め所定の電圧Vdを印加する。これにより、発光すべき有機EL素子に印加される電圧が発光開始電圧に到達するまでの時間を短縮し、有機EL素子を短時間で発光させることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る駆動回路は、データ電極に印加される電圧を3とおりに、走査電極に印加される電圧を2とおりに切り替えるために、特許文献2記載の駆動回路と同数のスイッチが必要とされる。しかしながら、特許文献2では、有機EL素子を短時間で発光させるために、有機EL素子に蓄積された電荷をすべてリセットする処理が行われているが、本実施形態ではそのような処理は行われていない。したがって、本実施形態に係る駆動回路によれば、特許文献2記載の駆動回路と比べて、リセット期間をなくして有機EL素子が発光している期間を長くすることにより、輝度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置を示す図である。
【図2】図1の続図である。
【図3】図2の続図である。
【図4】図3の続図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る有機EL表示装置を示す図である。
【図6】図5の続図である。
【図7】図6の続図である。
【図8】図7の続図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る有機EL表示装置を示す図である。
【図10】図9の続図である。
【図11】図10の続図である。
【図12】図11の続図である。
【図13】従来の有機EL表示装置を示す図である。
【図14】図13の続図である。
【図15】図14の続図である。
【図16】図15の続図である。
【符号の説明】
【0087】
11、21…走査電極駆動回路
12、22、32…データ電極駆動回路
1,1 〜Em,n …有機EL素子
1 〜Xm …データ電極
1 〜Yn …走査電極
SD1 〜SDn 、SU1 〜SUn 、SG1 〜SGn …走査電極駆動回路内のスイッチ
DD1 〜DDm 、DU1 〜DUm 、DS1 〜DSm …データ電極駆動回路内のスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の走査電極と複数のデータ電極との交点に設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動回路であって、
前記走査電極のうち、選択された走査電極には接地電圧よりも低い第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧よりも高い第2の電圧を印加する走査電極駆動回路と、
前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第3の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するデータ電極駆動回路とを備えた、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動回路。
【請求項2】
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、すべての前記データ電極に接地電圧を印加し、
前記走査電極駆動回路は、その間、選択された走査電極には前記第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に印加される電圧を、前記第3の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含むことを特徴とする、請求項2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には特定の電圧を印加せず、残余のデータ電極には接地電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項5】
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に対して、前記第3の電圧を印加するか、接地電圧を印加するか、あるいは、前記第3の電圧も接地電圧も印加しないかを切り替えるスイッチを含むことを特徴とする、請求項4に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記データ電極駆動回路は、前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第4の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項7】
前記走査電極駆動回路は、前記走査電極に印加される電圧を、前記第1の電圧と前記第2の電圧とに切り替えるスイッチを含み、
前記データ電極駆動回路は、前記データ電極に印加される電圧を、前記第3の電圧と前記第4の電圧と接地電圧とに切り替えるスイッチを含むことを特徴とする、請求項6に記載の駆動回路。
【請求項8】
前記第1の電圧の絶対値が前記有機エレクトロルミネッセンス素子の発光開始電圧よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の駆動回路。
【請求項9】
複数の走査電極と複数のデータ電極との交点に設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子を駆動する、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動方法であって、
前記走査電極のうち、選択された走査電極には接地電圧よりも低い第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極には接地電圧よりも高い第2の電圧を印加するステップと、
前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第3の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップとを備えた、有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動方法。
【請求項10】
前記第3の電圧を印加する前に、選択された走査電極には前記第1の電圧を印加するとともに、残余の走査電極およびすべての前記データ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備えた、請求項9に記載の駆動方法。
【請求項11】
前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には特定の電圧を印加せず、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備えた、請求項9に記載の駆動方法。
【請求項12】
前記第3の電圧を印加する前に、前記データ電極のうち、発光すべき有機エレクトロルミネッセンス素子に対応したデータ電極には第4の電圧を印加するとともに、残余のデータ電極には接地電圧を印加するステップをさらに備えた、請求項9に記載の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−349928(P2006−349928A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175158(P2005−175158)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】