説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法

【課題】可とう性があり、良好な発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂基板1の一方の側に、陽極2と、正孔注入層3と、少なくとも発光層4を含む導電性層と、陰極6とを、この順で積層してある有機エレクトロルミネッセンス素子であって、陽極2が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートで形成してあり、正孔注入層3が、導電性材料でウェットプロセスによって形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板等の基板の一方の側に、陽極と、有機化合物からなる発光層を含む導電性層と、陰極とを、この順で形成してあり、陽極と陰極との間にバイアス電圧をかけることにより発光層で発光させる。このような有機エレクトロルミネッセンス素子では、陽極として、酸化インジウム・酸化スズ合金(Indium Tin Oxide、以下「ITO」と称する)等の金属酸化物で形成した透明電極が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、基板としては、割れ易い、重い等の欠点を有するガラス基板に代えて、薄膜化や軽量化が可能で可とう性を有する樹脂基板を用いることが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−228002号公報
【特許文献2】特開2006−310180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来の有機エレクトロルミネッセンス素子において、基板として樹脂基板を用いた場合には、陽極にITO等の金属酸化物を用いているため、有機エレクトロルミネッセンス素子を折り曲げた際に加わる応力によって陽極が破損し易くなり、電極として作用しなくなる虞があった。
【0006】
この種の問題に対しては、ITO等の金属酸化物に代えて、導電性高分子材料で形成した透明電極を陽極に用いることも試みられている。しかし、導電性高分子材料を陽極として用いた場合では層界面の平坦性や導電性等に問題があり、有機エレクトロルミネッセンス素子としての十分な発光特性が得られなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、可とう性があり、良好な発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第1特徴構成は、樹脂基板の一方の側に、陽極と、正孔注入層と、少なくとも発光層を含む導電性層と、陰極とを、この順で積層してある有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートで形成してあり、前記正孔注入層が、導電性材料でウェットプロセスによって形成してある点にある。
【0009】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートは、導電性と可とう性とを有する。このため、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートは可とう性を有する陽極として用いることができる。
本構成によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を折り曲げた際に陽極が破損することを防止できる。
【0010】
また、正孔注入層は、導電性材料でウェットプロセスによって形成してあるため、平坦性及び導電性に優れる。このような正孔注入層であれば、陽極の表面の粗さを改善すると共に、陽極から発光層における導電性のムラを抑えることができるため、正孔注入効率が高くなり、発光効率を向上させることができる。
【0011】
したがって、本発明によれば、可とう性があり、良好な発光特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0012】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第2特徴構成は、前記導電性材料は、1,3,5−トリス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゼンまたはその誘導体である点にある。
【0013】
1,3,5−トリス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゼン及びその誘導体は、HOMOレベルが高い、バンドギャップが大きく電子障壁層となる等の特性に加え、平坦性及び導電性に優れる。
本構成によれば、陽極の表面の粗さを改善すると共に、陽極から発光層における導電性のムラを抑えることができるため、正孔注入効率が高くなり、発光効率を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第3特徴構成は、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネートとの重量比が1:1〜1:10で構成してある点にある。
【0015】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の比率が変化すると導電性も変化する。
本構成のように、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートを、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネートとの重量比が1:1〜1:10となるように構成すれば、導電性を高くすることができる。このため、陽極として良好に適用することができる。
【0016】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第4特徴構成は、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートに、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、重量比で1:0.5〜1:20の割合で含有する点にある。
【0017】
本構成のように、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートに、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートと前記化合物との割合が重量比で1:0.5〜1:20となるように添加することにより、その導電性を向上させることができる。このため、陽極としてより適用し易くなる。
【0018】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の第5特徴構成は、前記正孔注入層の厚みが1nm〜200nmである点にある。
【0019】
本構成のように、正孔注入層を一定以上の厚みで形成することにより、より平坦化が可能になるため、発光性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法の第1特徴手段は、樹脂基板の一方の側に、陽極と、正孔注入層と、少なくとも発光層を含む導電性層と、陰極とを、この順で積層してある有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートをウェットプロセスによって前記樹脂基板の上に成膜して陽極を形成する工程と、導電性材料をウェットプロセスによって前記陽極の上に成膜して正孔注入層を形成する工程とを含む点にある。
【0021】
本手段によれば、陽極及び正孔注入層をウェットプロセスで作製するため、大面積の素子を作製する場合も良好に作製することができる。また、正孔注入層を平坦化することが
できる。
【0022】
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法の第2特徴手段は、前記陽極を形成する工程において、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートを含む溶液を50℃以上に加熱し、当該加熱した溶液を前記樹脂基板の上に塗布した後、加熱して成膜する点にある。
【0023】
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートを含む溶液は50℃以上に加熱することにより、均一化する。
したがって、本手段によれば、溶液を樹脂基板の上に均一に塗布することができるため、陽極として均質な膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する)の一実施形態について、図面を参照して説明する。但し、本発明はこれに限られるものではない。
【0025】
本実施形態に係る有機EL素子は、図1に示すように樹脂基板1の一方の側である上面に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、陰極6を順に積層して形成してあり、陽極2と陰極6との間にバイアス電圧をかけて発光層5を発光させる。したがって、本実施形態においては、正孔輸送層4と発光層5とが本発明における「導電性層」を形成している。
【0026】
樹脂基板1は、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板等を用いる。樹脂基板1の大きさや形状等は、特に限定されず、用途に応じて任意に設定することができるが、例えば、樹脂基板1の厚みを5μm〜1cmとすると、樹脂基板1の可とう性が向上するため、好ましい。
【0027】
陽極2は、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、「PEDOT」と称する)/ポリスチレンスルホネート(以下、「PSS」と称する)で透明陽極として形成してある。陽極2の厚みは、特に限定されないが、例えば、200〜400nmに形成する。
【0028】
PEDOT/PSSは、化1に示す導電性高分子材料であるPEDOTと化2に示すドーパントであるPSSからなるものであり、導電性と可とう性とを有する。このため、PEDOT/PSSは、有機EL素子を折り曲げた際にも破損しない陽極2として好ましく適用することができる。また、PEDOT/PSSにおけるPEDOTとPSSとの比率は、特に限定されないが、PEDOTの比率が高い方が導電性は高くなる。例えば、PEDOTとPSSとの重量比が1:20のものは、体積抵抗値が100,000Ω・cmであるのに対し、PEDOTとPSSとの重量比が1:6であるものは1000Ω・cmとなり、1:2.5であるものは体積抵抗値が0.1Ω・cmとなる。このため、PEDOT/PSSを陽極2として用いる場合には、PEDOTとPSSとの重量比は1:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:6であることがより好ましく、1:1〜1:2.5であることがさらに好ましい。
【0029】
【化1】

【化2】

【0030】
また、PEDOT/PSSにエチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を添加すると、PEDOT/PSSの導電性をさらに向上させることができる。PEDOT/PSSとこれらの化合物との割合は、特に限定されないが、重量比で1:0.5〜1:20とすれば、導電性向上の効果が大きいため好ましい。例えば、エチレングリコールの場合、その添加量は、特に限定されないが、図2にはPEDOT/PSS水溶液(固形成分比1.2%)にエチレングリコールを添加した場合の導電性変化が示されており、導電性の観点からは5vol%(PEDOT/PSSとエチレングリコールとの割合が重量比で1:4)以上がより好ましく、製造コスト等を考慮すれば、5〜10vol%(PEDOT/PSSとエチレングリコールとの割合が重量比で1:4〜1:10)が特に好ましい。
【0031】
正孔注入層3は、導電性材料を用い、ウェットプロセスによって形成してある。導電性材料としては、スピンコート法や溶液キャスト法等のウェットプロセスによって形成できるもの、すなわち、溶媒に可溶な導電性材料であれば、特に限定されないが、例えばアミン骨格を有するものは導電性に優れるため好ましく、中でも、1,3,5−トリス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゼン(以下、「TDAPB」と称する)またはその誘導体が特に好ましい。TDAPBの誘導体としては、例えば、化3に示すメトキシ置換TDAPBを好ましく用いることができ、この他、メトキシ基に代えて、エトキシ基、プロポキシ基等の官能基を有するものを用いることもできる。
【0032】
【化3】

【0033】
このような正孔注入層3は、平坦性及び導電性に優れるため、陽極2の上に形成することにより、陽極2の表面の粗さを改善すると共に、陽極2から発光層5における導電性のムラを抑えることができる。このように、正孔注入層3はバッファー層として作用するため、ある程度の厚みを有する方が好ましく、1nm〜200nmに形成することが好ましく、5nm〜200nmに形成することがより好ましい。例えば、PEDOT/PSSからなる陽極2の上に、メトキシ置換TDAPBを用いて厚みが80nmの正孔注入層3を形成した場合には、陽極2の表面が平均表面粗さRa=1.76nm、最大高低差Rz=24.9nmであったのに対し、正孔注入層3の表面では平均表面粗さRa=0.33nm、最大高低差Rz=3.63nmとなり、平坦性が格段に改善されていた。したがって、TDAPBまたはその誘導体を用いれば、陽極2からの正孔注入効率が高くなり、発光効率を向上させることができる。
【0034】
正孔輸送層4は、特に限定されないが、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)や、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)等のジアミン誘導体を用いる。正孔輸送層の厚みは、50nmにしてある。
【0035】
発光層5は、従来の有機EL素子で用いるものが適用でき、特に限定されないが、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)で形成し、その厚みを50nmにする。なお、Alq3は電子輸送層としても働くため、本実施形態においては、発光層5が電子輸送層を兼ねた構成としているが、発光層5とは別に発光層5と陰極6との間に電子輸送層を設けることもできる。この場合、発光層5及び電子輸送層は、従来公知の材料から適宜選択して形成すればよい。
【0036】
陰極6は、例えば、リチウム、マグネシウム、セシウム、アルミニウム、銀等の金属の単体または合金として用いることができる。本実施形態では、フッ化リチウム/アルミニウム/銀で形成してあり、その厚みは0.5nm、15nm、150nmである。
【0037】
このような有機EL素子は、例えば、次のような方法により作製することができる。
まず、樹脂基板1の上に陽極2を形成する。陽極2は、PEDOT/PSSをウェットプロセスによって樹脂基板1の上に成膜して作製することができる。具体的には、PEDOT/PSSを含む水溶液(固形成分比1.2%)を樹脂基板1の上にスピンコート法や溶液キャスト法等によりに塗布した後、100℃〜200℃で1分間〜30分間加熱処理することによって作製することができる。ウェットプロセスに用いる溶液は、特に限定されないが、例えば、50℃以上に加熱すると膜の均一度が高くなるため好ましく、水溶液の場合には、50℃〜100℃で5分間〜1時間加熱することが好ましく、80℃〜100℃で5分間〜1時間加熱することがより好ましい。一例として、図3(a)に示す常温の溶液を用いたものと、図3(b)に示す80℃に加熱した溶液を用いたものとを比較すると、80℃に加熱した溶液を用いたものの方が膜の均一度が高くなる。スピンコート法や溶液キャスト法等の条件は、特に制限はなく、作製する陽極2の厚みに応じて任意に設定することができる。このようなウェットプロセスで行うことにより、大面積の素子を作製する場合に良好に陽極2を作製することができる。
【0038】
次に、陽極2の上に正孔注入層3を形成する。正孔注入層3は、導電性材料をウェットプロセスによって前記陽極の上に成膜して作製することができる。導電性材料として、TDAPBまたはその誘導体を用いる場合には、1,2−ジクロロエタン等に溶解させた溶液を、スピンコート法や溶液キャスト法等によって陽極2の上に塗布した後、50℃〜150℃で1分間〜30分間加熱処理することによって作製することができる。
例えば、メトキシ置換TDAPBを1wt%溶解させた1,2−ジクロロエタン溶液を用いて、2000rpmで60秒、及び4000rpmで60秒の条件でそれぞれスピンコート法を行い、100℃で15分間処理して作製した正孔注入層3の厚みは、それぞれ50nm、20nmとなる。また、メトキシ置換TDAPBを2wt%溶解させた1,2−ジクロロエタン溶液を用いて、2000rpmで60秒の条件でスピンコート法を行った場合には、正孔注入層3の厚みは100nmとなる。
【0039】
正孔注入層3の上には、正孔輸送層4、発光層5、陰極6をこの順で形成する。正孔輸送層4及び発光層5は、有機分子線蒸着法によって形成し、陰極6は、真空蒸着法によって形成することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明に係る有機EL素子として、図1に示す有機EL素子を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
樹脂基板1としてPEN基板を用い、このPEN基板の上に、PEDOT/PSSの水溶液(固形成分比1.2%)(Baytron-P HC V4(商品名))にエチレングリコールを5vol%加え、80℃で15分程度加熱した溶液を、スピンコート法(500rpmで5秒間の後、750rpmで60秒間処理)によって塗布した後、180℃〜200℃のホットプレート上、大気中で15分間処理して陽極2を作製した。このときの陽極2の膜厚は、約300nmであり、導電率は、約450S/cmであった。また、PEDOT/PSSとしてBaytron-PH500(商品名)(PEDOT/PSSの水溶液(固形成分比1.2%))を用い、同様の条件で陽極2を形成した場合には、その膜厚は、約300nmであり、導電率は、約350S/cmであった。
【0042】
次に、作製した陽極2の上に、メトキシ置換TDAPBを1wt%溶解させた1,2−ジクロロエタン溶液を、スピンコート法によって塗布した後、100℃のホットプレート上で、大気中で15分間処理して正孔注入層3を作製した。このときの正孔注入層3の厚みは、2500rpmで60秒の条件でスピンコート法を行った場合には40nmであり、1200rpmで60秒の条件でスピンコート法を行った場合には80nmであった。
【0043】
さらに、正孔注入層3の上に正孔輸送層4としてα−NPD、発光層5としてAlq3を、有機分子線蒸着法によってそれぞれの厚みが50nmとなるように形成し、発光層5の上に、陰極6としてLiF/Al/Agを、真空蒸着法によってそれぞれの厚みが0.5nm、15nm、150nmとなるように形成した。
【0044】
このようにして得られた実施例の有機EL素子と、実施例の有機EL素子とは正孔注入層3を設けていないことのみが異なる比較例1としての有機EL素子とを用い、陽極2と陰極6との間に3Vの電圧をかけて発光面を観察した。その結果、実施例の有機EL素子では、図4に示すように発光にムラがないのに対し、比較例1の有機EL素子では、図5に示すように発光にムラが生じていた。したがって、正孔注入層3により発光特性が改善していることが確認できた。
【0045】
また、実施例の有機EL素子と比較例1の有機EL素子とを用い、電圧を変化させたときの輝度及び電流密度の変化、及び電流密度を変化させたときの輝度及び効率の変化を調べた。その結果、図6に示すように、比較例1の有機EL素子の最大発光輝度が2000cd/m2であるのに対し、実施例の有機EL素子では最大発光輝度が10000cd/m2まで向上することが分かった。また、図7に示すように、実施例の有機EL素子では比較例1の有機EL素子に比べて発光効率が向上することが分かった。なお、正孔注入層3であるメトキシ置換TDAPBの厚みについては、40nm、80nmのいずれの場合も良好な結果が得られたが、80nmの方が効率はより向上することが分かった。
【0046】
(打鍵試験)
実施例の有機EL素子と、実施例の有機EL素子とは陽極2のPEDOT/PSSの代わりにITOを用いたことのみが異なる比較例2としての有機EL素子とを用いて打鍵試験を行い、3Vの電圧をかけた場合の発光面を観察すると共に、電圧を変化させたときの輝度の変化を調べた。
【0047】
まず、実施例及び比較例2の有機EL素子を作製する際に、それぞれ陽極2を打鍵機で打点した有機EL素子を用い、発光面を観察し、電圧と輝度との関係を調べた。その結果、実施例の有機EL素子では、図8,9に示すように、打点の有無による発光特性の変化は見られなかった。これに対し、比較例2の有機EL素子では、図10,11に示すように、1千回打点の時点で陽極2としてのITOが割れ、発光面にひび割れの後が生じ、発光特性が劣化することが分かった。
【0048】
次に、実施例及び比較例2の有機EL素子を打鍵機で打点した後、発光面を観察し、電圧と輝度との関係を調べた。その結果、実施例の有機EL素子では、図12,13に示すように、3万回の打点までは発光特性にほとんど変化はなく、10万回打点後も発光が確認できた。これに対し、比較例2の有機EL素子では、図14,15に示すように、1万回の打点で既に発光にムラが生じており、10万回打点後には発光が確認できなかった。
【0049】
以上により、本発明に係る有機EL素子は、従来の陽極にITOを用いた有機EL素子に比べて耐久性を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る有機EL素子は、フラットディスプレイ等の電子デバイスに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の有機EL素子の概略図
【図2】エチレングリコールの添加量を変化させたときのPEDOT/PSSの導電性の変化を示すグラフ
【図3】スピンコート法によって作製した陽極の表面の状態を示す写真
【図4】実施例の有機EL素子の発光面を示す写真
【図5】比較例1の有機EL素子の発光面を示す写真
【図6】実施例及び比較例1の有機EL素子の電圧を変化させたときの輝度及び電流密度の変化を示すグラフ
【図7】実施例及び比較例1の有機EL素子の電流密度を変化させたときの輝度及び効率の変化を示すグラフ
【図8】実施例の有機EL素子の打鍵試験による発光面の変化を示す写真
【図9】実施例の有機EL素子の打鍵試験による電圧を変化させたときの輝度の変化を示すグラフ
【図10】比較例2の有機EL素子の打鍵試験による発光面の変化を示す写真
【図11】比較例2の有機EL素子の打鍵試験による電圧を変化させたときの輝度の変化を示すグラフ
【図12】実施例の有機EL素子の打鍵試験による発光面の変化を示す写真
【図13】実施例の有機EL素子の打鍵試験による電圧を変化させたときの輝度の変化を示すグラフ
【図14】比較例2の有機EL素子の打鍵試験による発光面の変化を示す写真
【図15】比較例2の有機EL素子の打鍵試験による電圧を変化させたときの輝度の変化を示すグラフ
【符号の説明】
【0052】
1 樹脂基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層(導電性層)
5 発光層(導電性層)
6 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板の一方の側に、陽極と、正孔注入層と、少なくとも発光層を含む導電性層と、陰極とを、この順で積層してある有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートで形成してあり、
前記正孔注入層が、導電性材料でウェットプロセスによって形成してある有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記導電性材料は、1,3,5−トリス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]ベンゼンまたはその誘導体である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートは、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネートとの重量比が1:1〜1:10で構成してある請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートに、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を、重量比で1:0.5〜1:20の割合で含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記正孔注入層の厚みが1nm〜200nmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
樹脂基板の一方の側に、陽極と、正孔注入層と、少なくとも発光層を含む導電性層と、陰極とを、この順で積層してある有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートをウェットプロセスによって前記樹脂基板の上に成膜して陽極を形成する工程と、導電性材料をウェットプロセスによって前記陽極の上に成膜して正孔注入層を形成する工程とを含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項7】
前記陽極を形成する工程において、前記ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネートを含む溶液を50℃以上に加熱し、当該加熱した溶液を前記樹脂基板の上に塗布した後、加熱して成膜する請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−243557(P2008−243557A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81601(P2007−81601)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000194918)ホシデン株式会社 (527)
【Fターム(参考)】