説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】高電流効率又は高発光効率の燐光発光性の有機EL素子を提供する。
【解決手段】陰極と陽極との間に、複数の発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、発光層の各層が、三重項エネルギーギャップ値が2.78eV以上3.7eV以下のホスト材料と、重金属を有する金属錯体からなる三重項寄与の発光性ドーパントを含み、正孔輸送性に優れたホスト材料からなる発光層と、電子輸送性に優れたホスト材料からなる発光層とが積層していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)に関し、さらに詳しくは、高効率な有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物質を使用した有機EL素子は、固体発光型の安価な大面積フルカラー表示素子としての用途が有望視され、多くの開発が行われている。一般にEL素子は、発光層及び該層を挟んだ一対の対向電極から構成されている。
EL素子における発光は、両電極間に電界が印加されると、陰極側から電子が注入され、陽極側から正孔が注入され、さらに、この電子が発光層において正孔と再結合し、励起状態を生成し、励起状態が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出する現象である。
【0003】
従来の有機EL素子の構成としては、様々なものが知られている。例えば、ITO(インジウムチンオキシド)/正孔輸送層/発光層/陰極の素子構成の有機EL素子において、正孔輸送層の材料として、芳香族第三級アミンを用いることが開示されており(特開昭63−295695号公報参照)、この素子構成により、20V以下の印加電圧で数百cd/mの高輝度が可能となった。
【0004】
また、燐光性発光ドーパントであるイリジウム錯体を発光層にドーパントとして用いることにより、輝度数百cd/m以下では、発光効率が約40ルーメン/W以上となることが報告されている(筒井ら、「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・フィジックス」,1999年,第38巻,P.1502−1504)。
しかし、このような燐光型有機EL素子の多くは、緑色EL発光であり、多色化、さらには、該燐光型有機EL素子の高効率化が問題とされている。
【0005】
有機EL素子をフラットパネルディスプレイ等へ応用する場合、発光効率を改善し、低消費電力化することが求められているが、上記素子構成では、発光輝度向上とともに、発光効率が著しく低下するという欠点を有しており、そのためフラットパネルディスプレイの消費電力が低下しないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高電流効率又は高発光効率の燐光発光性の有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の有機EL素子が提供される。
1.陰極と陽極との間に、複数の発光層を含む有機EL素子であって、発光層の各層が、三重項エネルギーギャップ値が2.52eV以上3.7eV以下のホスト材料と、重金属を有する金属錯体からなる三重項寄与の発光性ドーパントを含むことを特徴とする有機EL素子。
2.発光層の各層のホスト材料が異なることを特徴とする1に記載の有機EL素子。
3.複数の発光層のホスト材料のうち、少なくとも一つはカルバゾリル基を有する有機化合物であることを特徴とする1又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
4.複数の発光層のホスト材料のうち、少なくとも一つはカルバゾリル基と3価窒素へテロ環を有する有機化合物であることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
5.発光層を形成するホスト材料のイオン化ポテンシャル又は電子親和力の値が各層で異なることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の有機EL素子。
6.発光層間において、各発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャル又は電子親和力の差が0.2eV以上であることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の有機EL素子。
7.発光層が隣接積層していることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の有機EL素子。
8.発光層を形成するホスト材料の光学エネルギーギャップ値が、陽極側から陰極側に向かって同等又は小さくなっていることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の有機EL素子。
9.正孔輸送性に優れたホスト材料からなる発光層と、電子輸送性に優れたホスト材料からなる発光層とが積層していることを特徴とする1〜8のいずれかに記載の有機EL素子。
10.発光層の少なくとも1層が、複数種の発光性ドーパントを含有することを特徴とする1〜9のいずれかに記載の有機EL素子。
11.発光層のうち、最も陰極に近い陰極側発光層に、発光性ドーパントとは異なる第1のドーパントを含有することを特徴とする1〜10のいずれかに記載の有機EL素子。
12.第1のドーパントが、金属錯体であることを特徴とする11に記載の有機EL素子。
13.第1のドーパントの電子親和力が、素子内に電子輸送層を含む場合は、電子輸送層を形成する電子輸送材料の電子親和力と、陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあり、素子内に電子輸送層を含まない場合は、陰極材料の仕事関数と、陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあることを特徴とする11又は12に記載の有機EL素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高電流効率又は高発光効率の燐光発光性の有機EL素子、特に青色発光領域の有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の有機EL素子の図である。
【図2】実施例3の有機EL素子の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機EL素子は、陰極と陽極との間に、複数の発光層が含まれている。発光層の各層のホスト材料は異なることが好ましい。複数の発光層を有することにより、層間の界面の数が増し、この界面付近での電荷の蓄積が生じるので、再結合確率を向上させることができる。また、後述する発光性ドーパントの存在領域が増えるので、発光領域が広がり、その結果、電流効率を向上させることができる。
【0011】
本発明の有機EL素子は、発光層を形成するホスト材料の三重項エネルギーギャップ値(Eg)が2.52eV以上3.7eV以下、好ましくは2.75eV以上3.7eV以下、より好ましくは2.80eV以上3.7eV以下、さらに好ましくは2.90eV以上3.7eV以下である。このような数値域のホスト材料を用いることで、発光性ドーパントがあらゆる発光色(青〜赤)であっても、素子を効率よく発光させることができる。
【0012】
本発明の有機EL素子は、複数の発光層の各層に、1種類以上の、重金属を有する金属錯体からなる三重項寄与の発光性ドーパントをさらに含む。
このような発光性ドーパントを含むことで、EL光に三重項からの発光が寄与し、その結果、電流効率が高くなる。
【0013】
本発明の有機EL素子では、複数の発光層の各層が隣接積層していてもよく、また、発光層と発光層との間に介在層(例えば、電荷調整層等)を有していてもよい。介在層を構成する材料については、電荷輸送性能を有する材料であれば、特に限定されるものではなく、無機導電性酸化物層や、公知の電荷輸送性材料、発光材料といわれる有機材料が使用可能である。ここで、「電荷輸送性能」とは、後述する正孔又は電子移動度の測定法において、各電荷に起因する信号が測定可能な性能と定義される。また、以下に示すホスト材料、正孔輸送材料、電子輸送材料も使用可能である。介在層の膜厚は、好ましくは発光層の膜厚以下である。
【0014】
各層のホスト材料が異なることが好ましく、より好ましくは、複数の発光層のうち、相対的に陽極に近い発光層のホスト材料は少なくともカルバゾリル基を1つ以上有する有機化合物であり、より好ましくは、該少なくともカルバゾリル基を1つ以上有する有機化合物のホスト材料を有する発光層より陰極側の発光層のホスト材料は、カルバゾリル基と3価窒素へテロ環を有する有機化合物であることが好ましい。
【0015】
発光層間において、各発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャル(Ip)又は電子親和力(Af)の差は、好ましくは0.2eV以上、より好ましくは0.3eV以上である。
これにより、電荷の蓄積が良好になり、高電流効率又は高発光効率が実現する。
【0016】
本発明の有機EL素子では、正孔輸送性に優れたホスト材料からなる発光層と、電子輸送性に優れたホスト材料からなる発光層とが積層していることが好ましく、このようなホスト材料からなる発光層が交互に積層されていることがより好ましい。
これにより、電荷の蓄積が良好になり、高電流効率又は高発光効率が実現する。
【0017】
本発明では、「正孔輸送性に優れる」ことを、「正孔移動度の方が電子移動度より大きい」と定義し、「電子輸送性に優れる」ことを、「電子移動度の方が正孔移動度より大きい」と定義する。
【0018】
正孔又は電子移動度の測定法は特に限定されるものではない。具体的な方法としては、例えば、Time of flight法(有機膜内の電荷の走行時間の測定から算出する方法)や空間制限電流の電圧特性から算出する方法等が挙げられる。Time of flight法では、電極/有機層(電子輸送層又は正孔輸送層を形成する有機材料からなる層)/電極構成から、該有機層の吸収波長域の波長の光照射により、その過渡電流の時間特性(過渡特性時間)を測定し、下記式から正孔又は電子移動度を算出する。
移動度=(有機膜厚)/(過渡特性時間・印可電圧)
電界強度=(素子への印可電圧)/(有機層膜厚)
また、Electronic Process in Organic Crystals(M.Pope,C.E.Swenberg)やOrganic Molecular Solids(W.Jones)等に記載された方法も用いることができる。
【0019】
複数の発光層を形成するホスト材料は、イオン化ポテンシャル(Ip)又は電子親和力(Af)の値が各層で異なることが好ましい。
これにより、電荷の蓄積が良好になり、高電流効率又は高発光効率が実現する。
【0020】
複数の発光層を形成するホスト材料の光学エネルギーギャップ値(Eg)は、陽極側から陰極側に向けて、同等又は小さくなっていること、即ち、N層構成の発光層において、以下の関係を満たしていることが好ましい。
Eg(N)≦Eg(N−1)≦・・・≦Eg(2)≦Eg(1) (I)
Eg(x):陽極側から見て第x層目(xは1以上N以下の整数)の発光層の光学エネルギーギャップ値
【0021】
また、複数の発光層を形成するホスト材料の三重項エネルギーギャップ値(Eg)は、陽極側から陰極側に向けて、同等又は小さくなっていること、即ち、N層構成の発光層において、以下の関係を満たしていることが好ましい。
Eg(N)≦Eg(N−1)≦・・・≦Eg(2)≦Eg(1) (II)
Eg(x):陽極側から見て第x層目(xは1以上N以下の整数)の発光層の三重項エネルギーギャップ値
これら(I)又は(II)の関係を満たすことにより、再結合エネルギーが発光層内に効率よく蓄積され、発光寄与できるので、高電流効率の素子が実現できる。
【0022】
本発明の有機EL素子では、発光層を形成するホスト材料及び発光性ドーパントは、上記条件を満たしている限り特に制限されない。
ホスト材料としては、カルバゾリル基を有する有機化合物が好ましい。また、好ましくは、カルバゾリル基を有する有機化合物の炭化水素系誘導体と、カルバゾリル基を有する有機化合物の電子吸引性置換基誘導体又はカルバゾリル基を有する有機化合物の含窒素系誘導体を、積層又は多層化させることが好ましい。また、前記含窒素系誘導体のほかに、含フッ素系誘導体でもよい。
より具体的には、特開平10−237438号公報、特願2003−042625号、同2002−071398号、同2002−081234号、同2002−299814号、同2002−360134号に記載の化合物が挙げられる。具体的な化合物を以下に例示する。
【化1】

【0023】
また、電子輸送材料として用いることができるカルバゾリル基を有する化合物(後述)も、ホスト材料として用いることができる。
これらの化合物のうち、正孔輸送性に優れたホスト材料としては、特開平10−237438号公報、特願2003−042625号に記載の化合物が挙げられ、電子輸送性に優れたホスト材料としては、特願同2002−071398号、同2002−081234号、同2002−299814号、同2002−360134号に記載の化合物が挙げられる。
【0024】
また、ホスト材料としては、以下のような化合物でもよい。
【化2】

【0025】
発光性ドーパントは、室温で三重項からの発光性ドーパントとして機能することが好ましい。発光性ドーパントに含まれる重金属としては、Ir、Pt、Pd、Ru、Rh、Mo又はReが好適例として挙げられる。また、重金属の配位子としては、例えば、C、Nが金属に配位又は結合する配位子(CN配位子)があり、より具体的には、
【化3】

及びこれらの置換誘導体が好適例として挙げられる。置換誘導体の置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、ポリフェニル基又はナフチル基、フルオロ(F)基、トリフルオロメチル基(CF)基等が挙げられる。
特に、青色発光性の配位子としては、
【化4】

等が挙げられる。
【0026】
尚、本発明の有機EL素子では、高電流効率の素子の実現の点から、発光層の少なくとも1層に、複数種の発光性ドーパントを含有することが好ましい。
【0027】
また、発光層のうち、最も陰極に近い陰極側発光層に、発光性ドーパントとは異なる第1のドーパントを含有することが好ましい。この第1のドーパントは、発光性である必要はなく、該発光層への電子注入性を改善する有機化合物であれば、特に限定されない。第1のドーパントは、電子吸引性の置換基(例えば、シアノ基(CN)、ニトロ基(NO)、キノリル基等)を有する有機化合物が好ましい。
具体的には、含窒素有機化合物(例えば、オキサゾール誘導体等)やそのフッ素置換体、特願2002−071398号、同2002−081234号、同2002−299814号、同2002−360134号に記載のCz−ヘテロ環を有する化合物(Cz:カルバゾリル基)、炭化水素系有機化合物(例えば、スチリル誘導体のアルキル置換体)、電子吸引性基で置換された炭化水素化合物(例えば、スチリル誘導体のシアノ基、フロロ基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダニル基誘導体)、金属錯体等が挙げられる。このうち、特に好ましいのは、金属錯体である。
【0028】
好適な金属錯体の具体例としては、特開平5−258860号公報に記載の有機化合物や、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化5】

[式中、Rはアルキル基、オキシ基又はアミノ基であり、R〜Rは、相互に独立な、水素原子、アルキル基、オキシ基、アミノ基であり、R、R、及びRは、相互に独立な、水素原子、アルキル基、オキシ基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン基、α−ハロアルキル基、α−ハロアルコキシ基、アミド基、スルホニル基であり、Lは、下記式(2)又は(3)の何れかである。
【化6】

[式中、R〜R26は、相互に独立な、水素原子又は炭化水素基を表す。]]
【0029】
式(1)で表される金属錯体の具体例を以下に例示する。
【化7】

【0030】
第1のドーパントの電子親和力は、素子内に電子輸送層を含む場合は、電子輸送層を形成する電子輸送材料の電子親和力と、陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあり、素子内に電子輸送層を含まない場合は、陰極材料の仕事関数と、陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあることが好ましい。これにより、発光層への電子注入性が改善され、その結果、発光効率を向上させることができる。
【0031】
電子輸送材料としては、例えば、上記式(1)で表される金属錯体や、特願2002−071398号、同2002−081234号、同2002−299814号、同2002−360134号記載の有機化合物等が挙げられる。
【0032】
また、カルバゾリル基を有する化合物も電子輸送材料として用いることができる。具体例を以下に例示する。
【化8】


【0033】
本発明の有機EL素子の構成としては、例えば、以下の(ア)〜(キ)の構成が挙げられる。
(ア)陽極/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
(イ)陽極/正孔輸送層/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
(ウ)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
(エ)陽極/発光層/有機層/発光層/電子輸送層/陰極
(オ)陽極/多層積層発光層/有機層/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
(カ)陽極/正孔輸送層/多層積層発光層/有機層/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
(キ)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/多層積層発光層/有機層/多層積層発光層/電子輸送層/陰極
本発明の有機EL素子における発光層とは、上記発光性ドーパントを含有している有機層と定義される。ここで、発光性ドーパントの添加濃度は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜30重量%(wt%)、より好ましくは0.1〜10重量%(wt%)である
【0034】
本発明の有機EL素子は、基板により支持されることが好ましい。また、基板上には、陽極から順に陰極までの各層を積層してもよく、また、陰極から順に陽極までの各層を積層してもよい。
また、発光層からの発光を効率よく取り出すために、陽極及び陰極の少なくとも一方を、透明又は半透明物質により形成することが好ましい。
【0035】
本発明で用いる基板の材料については、特に制限はなく、公知の有機EL素子に慣用されているもの、例えば、ガラス、透明プラスチック又は石英などからなるものを用いることができる。
【0036】
本発明で用いる陽極の材料としては、仕事関数が4eV以上と大きい金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物が好ましく用いられる。具体例としては、Au等の金属、CuI、ITO、SnO、ZnO等の誘電性透明材料が挙げられる。
陽極は、例えば、蒸着法やスパッタリング法等の方法で、上記材料の薄膜を形成することにより作製することができる。
発光層からの発光を陽極より取り出す場合、陽極の透過率は10%より大きいことが好ましい。
陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選択される。
【0037】
本発明で用いる陰極の材料としては、仕事関数が4eV以下と小さい金属、合金、電気伝導性化合物又はこれらの混合物が好ましく用いられる。具体例としては、ナトリウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/銅混合物、Al/Al、インジウム等が挙げられる。
陰極は、蒸着法やスパッタリング法等の方法で、上記材料の薄膜を形成することにより作製することができる。
発光層からの発光を陰極より取り出す場合、陰極の透過率は10%より大きいことが好ましい。
陰極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。
陰極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選択される。
【0038】
本発明の有機EL素子は、さらに電流(又は発光)効率を上げるために、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層等を設けてもよい。これらの層に用いる材料には特に制限はなく、従来の有機EL用材料として公知の有機材料を用いることができる。具体的には、アミン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、ポリシラン、アニリン共重合体等が挙げられる。
また、正孔輸送材料として、特願2002−071397号、同2002−080817号、同2002−083866号、同2002−087560号、同2002−305375号、同2002−360134号に記載の化合物が挙げられる。
【0039】
本発明では、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層に無機材料を添加してもよい。無機材料としては、例えば、金属酸化物等が挙げられる。
また、好ましくは、該正孔注入層や正孔輸送層に無機材料を用いてもよい。
また、電流(又は発光)効率を上げるために、電子輸送層と金属陰極との間に無機材料を用いてもよい。無機材料の具体例としては、Li、Mg、Cs等のアルカリ金属の弗化物や酸化物が挙げられる。
【0040】
本発明の有機EL素子の製造法については、特に制限はなく、従来の有機EL素子に使用される製造方法を用いて製造することができる。具体的には、各層を真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法等により形成することができる。また、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等の透明ポリマーに、各層の有機材料を分散させた溶液を用いたキャスト法、塗布法、スピンコート法の他、有機材料と透明ポリマーとの同時蒸着等によっても形成することができる。
[実施例]
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例で用いた化合物については、特開平10−237438号公報、特願2003−042625号、同2002−071398号、同2002−081234号、同2002−299814号、同2002−360134号、同2002−071397号、同2002−080817号、同2002−083866号、同2002−087560号、同2002−305375号に記載の方法で製造した。
【0042】
表中の各種パラメータは、以下の方法で測定した。
(1)イオン化ポテンシャル(Ip)
材料にモノクロメーターで分光した重水素ランプの光(励起光)を照射し、放出された光電子放出をエレクトロメータで測定し、得られた光電子放出の照射光子エネルギー曲線からの光電子放出の閾値を外挿法により求めて測定した。測定機器としては、大気中紫外線光電子分析装置AC−1(理研計器株式会社製)を用いた。
(2)光学エネルギーギャップ(Eg)
各材料のトルエン希薄溶液に波長分解した光を照射し、その吸収スペクトルの最長波長から換算して求めた。測定機器としては、分光光度計(U−3400(商品名)、日立製)を用いた。
(3)三重項エネルギーギャップ値(Eg
三重項エネルギーギャップ(Eg(Doapnt))は、以下の方法により求めた。有機材料を、公知のりん光測定法(例えば、「光化学の世界」(日本化学会編・1993)50頁付近の記載の方法)により測定した。具体的には、有機材料を溶媒に溶解(試料10μmol/リットル、EPA(ジエチルエーテル:イソハペンタン:エタノール=5:5:2容積比、各溶媒は分光用グレード)し、りん光測定用試料とした。石英セルへ入れた試料を77Kに冷却、励起光を照射し、りん光を波長に対し、測定した。りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、該波長値をエネルギー値に換算した値をEgとした。日立製F−4500形分光蛍光光度計本体と低温測定用オプション備品を用いて測定した。尚、測定装置はこの限りではなく、冷却装置及び低温用容器と励起光源、受光装置を組み合わせることにより、測定してもよい。
尚、本実施例では以下の式を用いて、該波長を換算した。
換算式 Eg(eV)=1239.85/λedge
「λedge」とは、縦軸にりん光強度、横軸に波長をとって、りん光スペクトルを表したときに、りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸の交点の波長値を意味する。単位:nm。
(4)電子親和力(Af)
該測定値Ip、Egを用いて、Af=Ip−Egより算出した。
【0043】
実施例1
図1に示す有機EL素子を以下のように製造した。
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極(陽極)12付きガラス基板11(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板11を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、この透明電極12を覆うようにして膜厚100nmのN,N’−ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル膜(以下「TPD232膜」と略記する)13を抵抗加熱蒸着により成膜した。このTPD232膜13は、正孔注入層(正孔輸送層)として機能する。
【0044】
TPD232膜13の成膜に続けて、この膜上に膜厚10nmの正孔輸送層(下記HTM)14を抵抗加熱蒸着により成膜した。さらに、正孔輸送層14の成膜に続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料1(下記Host No.1、Eg=3.53eV、Eg=2.86eV、Ip=5.59eV、Af=2.06eV)と発光性ドーパント(下記FIrpic、Eg=2.8eV、Eg=2.7eV、Ip=5.6eV、Af=2.8eV)とからなる層15を抵抗加熱により共蒸着成膜した。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。このHost No1:FIrpic膜15は、発光層として機能する。
さらに、この膜上に、ホスト材料1からなる層16を膜厚1nm成膜した。この膜16は、電荷調整層として機能する。これにより、発光層内で、良好に電荷を蓄積することができ、素子の電流効率が高くなる。
【0045】
続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料2(下記Host No.2、Eg=3.55eV、Eg=2.90eV、Ip=5.71eV、Af=2.16eV)とFIrpicとからなる層17を抵抗加熱により共蒸着成膜した。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。このHost No.2:FIrpic膜17は、発光層として機能する。
【0046】
この後、LiFを電子注入性電極(陰極)18として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層18上に、金属Al(仕事関数:4.2eV)を蒸着させ、金属陰極19を膜厚130nm形成し、有機EL発光素子100を形成した。
【0047】
【化9】

【0048】
実施例2
実施例1において、ホスト材料2:FIrpicからなる発光層の上に、電子輸送層として、膜厚30nmで下記PC−8を抵抗加熱蒸着により導入した以外は、実施例1と同様の工程で実施し、有機EL発光素子を形成した。
【化10】

【0049】
実施例3
図2に示す有機EL素子を以下のように製造した。
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極(陽極)22付きガラス基板21(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板21を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、この透明電極22を覆うようにして膜厚100nmのTPD232膜23を抵抗加熱蒸着により成膜した。このTPD232膜23は、正孔注入層(正孔輸送層)として機能する。
【0050】
TPD232膜23の成膜に続けて、この膜上に膜厚10nmの正孔輸送層(上記HTM)24を抵抗加熱蒸着により成膜した。さらに、正孔輸送層24の成膜に続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料1とFIrpicとからなる発光層25を抵抗加熱により共蒸着成膜した(発光層)。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。
【0051】
続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料3(下記Host No.3、Eg=3.55eV、Eg=2.91eV、Ip=5.40eV、Af=1.85eV)とFIrpicとからなる層26を抵抗加熱により共蒸着成膜した。FIrpicの濃度は7.5Wt%であった。このHost No.3:FIrpic膜26は、発光層として機能する。
【化11】

そして、この発光層26上に膜厚30nmの電子輸送層27(上記PC−8)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
【0052】
この後、LiFを電子注入性電極(陰極)28として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層28上に、金属Alを蒸着させ、金属陰極29を膜厚130nm形成し、有機EL発光素子200を形成した。
【0053】
実施例4
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、この透明電極を覆うようにして膜厚100nmのTPD232膜を抵抗加熱蒸着により成膜した。このTPD232膜は、正孔注入層(正孔輸送層)として機能する。
【0054】
TPD232膜の成膜に続けて、この膜上に膜厚10nmの正孔輸送層(上記HTM)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
さらに、正孔輸送層の成膜に続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料1とFIrpicを抵抗加熱により共蒸着成膜した(発光層)。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。
【0055】
続けて、この膜上に膜厚20nmで、ホスト材料4(下記Host No.4、Eg=3.16eV、Eg=2.78eV、Ip=5.84eV、Af=2.66eV)とFIrpicを抵抗加熱により共蒸着成膜した。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。このHost No.4:FIrpic膜は、発光層として機能する。
【化12】

そして、この発光層上に膜厚30nmの電子輸送層(下記Alq、Af=3.0eV)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
【化13】

【0056】
この後、LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層上に、金属Alを蒸着させ、金属陰極を膜厚130nm形成し、有機EL発光素子を形成した。
【0057】
実施例5
実施例4において、ホスト材料4をホスト材料5(下記Host No.5、Eg=3.57eV、Eg=2.89eV、Ip=5.60eV、Af=2.03eV)に変更した他は、実施例4と同様の工程で素子化した。
【化14】

【0058】
実施例6
実施例4において、ホスト材料4をホスト材料6(下記Host No.6、Eg=3.56eV、Eg=2.87eV、Ip=5.85eV、Af=2.29eV)に変更した他は、実施例4と同様の工程で素子化した。
【化15】

【0059】
実施例7
実施例3において、ホスト材料1をホスト材料3に、また、ホスト材料3をホスト材料4にそれぞれ変更した他は、実施例3と同様の工程で素子化した。
【0060】
実施例8
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、この透明電極を覆うようにして膜厚100nmのTPD232膜を抵抗加熱蒸着により成膜した。このTPD232膜は、正孔注入層(正孔輸送層)として機能する。
【0061】
TPD232膜の成膜に続けて、この膜上に膜厚10nmの正孔輸送層(上記HTM)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
さらに、正孔輸送層の成膜に続けて、この膜上に膜厚30nmで、ホスト材料1とFIrpicを抵抗加熱により共蒸着成膜した(発光層)。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。
【0062】
続けて、この膜上に膜厚10nmで、ホスト材料1とFIrpic及びPC−8(Af=2.7eV)を抵抗加熱により共蒸着成膜した(発光層)。FIrpic及びPC−8の濃度はいずれも7.5wt%であった。
【0063】
この後、LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層上に、金属Al(仕事関数4.2eV)を蒸着させ、金属陰極を膜厚130nm形成し、有機EL発光素子を形成した。
【0064】
比較例1
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、この透明電極を覆うようにして膜厚100nmのTPD232膜を抵抗加熱蒸着により成膜した。このTPD232膜は、正孔注入層(正孔輸送層)として機能する。
【0065】
TPD232膜の成膜に続けて、この膜上に膜厚10nmの正孔輸送層(上記HTM)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
さらに、正孔輸送層の成膜に続けて、この膜上に膜厚40nmで、ホスト材料1とFIrpicを抵抗加熱により共蒸着成膜した。FIrpicの濃度は7.5wt%であった。
そして、この発光層上に所定の膜厚(30nm)の所定の電子輸送層(Alq)を抵抗加熱蒸着により成膜した。
【0066】
この後、LiFを電子注入性電極(陰極)として成膜速度1Å/minで膜厚0.1nm形成した。このLiF層上に、金属Alを蒸着させ、金属陰極を膜厚130nm形成し、有機EL発光素子を形成した。
【0067】
(有機EL発光素子の評価)
実施例及び比較例で得られた有機EL発光素子について、電流密度、輝度、効率、色度を、所定直流電圧を印加した条件で測定し、発光輝度100cd/m程度の発光時の電流効率(=(輝度)/(電流密度))を算出した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

この結果より、本発明により、同じ発光色で、従来よりも高電流効率の素子を実現できたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の有機EL素子は、高輝度でも発光効率が高く、消費電力が低いので、情報表示機器、車載表示機器、照明等の分野において利用可能である。具体的には、壁掛テレビの平面発光体やディスプレイのバックライト等の光源として好適に使用できる。
この明細書に記載の文献及び公報の内容を援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極との間に、複数の発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層の各層が、三重項エネルギーギャップ値が2.52eV以上3.7eV以下のホスト材料と、重金属を有する金属錯体からなる三重項寄与の発光性ドーパントを含み、
正孔輸送性に優れたホスト材料からなる発光層と、電子輸送性に優れたホスト材料からなる発光層とが積層していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
複数の発光層のホスト材料のうち、少なくとも一つはカルバゾリル基を有する有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
複数の発光層のホスト材料のうち、少なくとも一つはカルバゾリル基と3価窒素へテロ環を有する有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光層を形成するホスト材料のイオン化ポテンシャル又は電子親和力の値が各層で異なることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層間において、各発光層のホスト材料のイオン化ポテンシャル又は電子親和力の差が0.2eV以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層が隣接積層していることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記発光層を形成するホスト材料の光学エネルギーギャップ値が、陽極側から陰極側に向かって同等又は小さくなっていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層の少なくとも1層が、複数種の前記発光性ドーパントを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記発光層のうち、最も陰極に近い陰極側発光層に、前記発光性ドーパントとは異なる第1のドーパントを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記第1のドーパントが、金属錯体であることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記第1のドーパントの電子親和力が、
素子内に電子輸送層を含む場合は、電子輸送層を形成する電子輸送材料の電子親和力と、前記陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあり、
素子内に電子輸送層を含まない場合は、陰極材料の仕事関数と、前記陰極側発光層のホスト材料の電子親和力の間にあることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−182699(P2010−182699A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118219(P2010−118219)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【分割の表示】特願2005−517938(P2005−517938)の分割
【原出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】