説明

有機エレクトロルミネッセンス表示パネル

画素間の漏電が無い有機エレクトロルミネッセンス表示パネルを提供する。各々が第1及び第2表示電極並びに第1及び第2表示電極間に挟持かつ積層された少なくとも1層の有機化合物からなる発光層を含む有機機能層からなる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を担持する基板と、からなる有機エレクトロルミネッセンス表示パネルであって、有機機能層群は、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に共通して形成され電荷輸送性を有した少なくとも1層の共通層を含み、共通層は、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子の間に延在するギャップ充填部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電流の注入によって発光するエレクトロルミネッセンスを呈する有機化合物材料からなる発光層を含む1以上の薄膜(以下、有機機能層という)を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)に関し、特に、複数の有機EL素子が基板上に形成された有機エレクトロルミネッセンス表示パネル(以下、有機EL表示パネルという)に関する。
【背景技術】
有機EL素子は、発光層を含む有機機能層を表示電極である陽極及び陰極間に挟んだ形態で基本的に構成され、両電極から注入された電子と正孔の再結合時で生じた励起子が励起状態から基底状態に戻り光を生じさせる。例えば、図1に示すように、透明基板1上に、陽極の透明電極2と、有機機能層3と、陰極の金属電極4とが順次積層されて有機EL素子は構成され、透明基板側から発光を得る。発光を取り出すために、陽極、陰極の少なくとも何れかは、透明又は半透明である必要がある。有機機能層3は、例えば、図1に示すように、透明電極2側から積層された正孔注入層30/正孔輸送層31/発光層32/電子輸送層33など、それぞれの機能を持つ複数の層からなる。これら複数の層のうち、陽極に接する正孔注入層は陽極の一部やバッファー層として、陰極に接する電子注入層は陰極の一部やバッファー層として、扱われることもある。正孔注入層、正孔輸送層は正孔輸送性を有する材料からなり、電子輸送層、電子注入層は電子輸送性を有する材料からなる。これら発光層以外の電荷輸送層は、発光層に対する電荷の注入効率を高め、発光層単層からなる素子に比べて、発光効率を大きく向上させる。実際の有機EL素子では電荷輸送層が無いタイプ、もしくは4層以上のタイプもある。更に、発光層も複数の層、例えば青色発光層/赤色発光層の2層からなる白色発光素子など、からなる場合がある。
このような複数の有機EL素子を用いて、カラー表示が可能な有機EL表示パネルが提案されている。
例えば、多色発光層がパターニングされた複数の発色領域と、正孔注入帯域又は電子注入帯域が多色発光層の全面にわたって形成された有機EL表示パネル構造が提案されている(特許文献1参照)。
一方、特許文献1技術のように正孔注入層として導電性化合物を全面に形成すると、電極間で漏電が生じてしまうという問題を指摘し、画素いわゆる有機EL素子間の漏電を防ぐために、電荷注入層/発光層を画素毎に独立して形成し、これらの層を形成する物質が画素間にまたがることの無いようにして、画素間における漏電を防止する有機EL表示パネル構造が提案されている(特許文献2参照)。
漏電が生じないよう特許文献2技術のように画素毎に独立して電荷輸送層を形成する方法もあるが、特許文献1が指摘するように、電荷輸送層を画素毎に形成するのは、工程が複雑になり、また、不完全に電荷輸送層がパターニングされると、陽極−陰極間のショートが生じてしまい有機EL表示パネルの信頼性が損なわれる、という問題があった。
【特許文献1】 特開2000−150152号公報。
【特許文献2】 特開平11−87062号公報。
【発明の開示】
そこで、本発明の解決しようとする課題には、導電性高分子など、比較的抵抗の低い導電性電荷輸送層を用いて、画素間の漏電の問題が無く、かつ、信頼性の高い有機EL表示パネルを提供することが例として挙げられる。
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネルは、各々が第1及び第2表示電極並びに前記第1及び第2表示電極間に挟持かつ積層された少なくとも1層の有機化合物からなる発光層を含む有機機能層からなる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を担持する基板と、からなる有機エレクトロルミネッセンス表示パネルであって、前記有機機能層群は、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に共通して形成され電荷輸送性を有した少なくとも1層の共通層を含み、前記共通層は、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子の間に延在する高抵抗のギャップ充填部を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
図1は有機EL素子を模式的に示す断面図である。
図2は有機EL表示パネルを模式的に示す部分断面図である。
図3は有機EL表示パネルを模式的に示す部分断面図である。
図4は有機EL表示パネルを模式的に示す部分断面図である。
図5は本発明による実施形態の有機EL表示パネルを模式的に示す部分断面図である。
図6は電流制御方式の階調駆動が適用された有機EL素子へのパルス電気信号を示す図である。
図7は電圧制御方式の階調駆動が適用された有機EL素子へのパルス電気信号を示す図である。
図8は本発明による他の実施形態のパッシブマトリクス型有機EL表示パネル製造工程における有機EL表示パネルの基板一部を模式的に示す部分平面図である。
図9は本発明による他の実施形態のアクティブマトリクス型有機EL表示パネル製造工程における有機EL表示パネルの基板一部を模式的に示す部分平面図である。
図10は 本発明による他の実施形態のセグメント型有機EL表示パネル製造工程における有機EL表示パネルの基板一部を模式的に示す部分平面図である。
図11は 本発明による他の実施形態の有機EL表示パネルを模式的に示す部分断面図である。
発明を実施するための形態
本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
本発明は、画素いわゆる有機EL素子間の漏電を、駆動条件(駆動方法、駆動電圧、表示階調数)、電極の形状の新しい視点から定量的にとらえ直し、全く新しい考えを導入することにより成されたものである。
図2〜図4に、各々が第1及び第2電極間に積層された有機機能層からなる有機EL素子を備えた有機EL表示パネルの断面を示す。1は基板を、12は第1電極を、36は第1電荷輸送層を、32は発光層を、37は第2電荷輸送層を、36a及び37aは抵抗の低い低抵抗電荷輸送層を、14は第2電極を示す。図2のように低抵抗電荷輸送層36aが第1電極12に接する位置にある場合に、画素間の漏電(矢印)は顕著となる。図3に示すように、低抵抗電荷輸送層36aが電極に接しなくとも、発光層32及び第1電極12間にある場合は、各界面の接合状態にもよるが、漏電経路(矢印)が存在する。
図4のように、発光層32及び反対側の第2電極14電極間に低抵抗電荷輸送層がある場合は、大きな問題とはならない。図4に示した漏電経路のうち、第2電荷輸送層37から第1電荷輸送層36への部分が逆接合となり、抵抗が非常に高くなるので、漏電する電流量が微少になるからである。
導電性高分子など比較的抵抗が低い材料を正孔注入層などの電荷輸送層に用い、複数の画素にわたって形成すると、図2〜図4に示すように、画素間に延在する電荷輸送層のギャップ充填部GFにおいて漏電が生ずるが、駆動方法によって、生じる問題は異なる。
例えば、画素を定電圧駆動する場合、駆動回路の電流容量に十分な余裕があれば、漏電が生じても、画素に流れる電流は漏電がない正常な場合と同じになるので、画素の輝度は正常な画素の場合と同等となる。しかし、漏電により隣接する画素の電極に、発光に寄与しない余分な電流が流れ込み、消費電力を増大させる。
一方、画素を定電流駆動する場合、漏電が生じると、画素に流すべき電流が、漏電により隣接する画素の電極に流れ込み、正常な場合に比べ漏電した分その素子に流れる電流が減り、輝度が低くなる。特に、階調表示を行う場合、ある階調nで表示すべき画素の輝度が低くなり、(n−1)階調の正常な画素よりも暗くなると、階調の単調増加性が損なわれ、正確な階調表現ができなくなってしまう。定電圧駆動において駆動回路の電流容量が十分でない場合は、定電流駆動と同様に正確な階調表現ができなくなる。
そこで、本発明では、駆動条件や階調表現に着目し、導電性電荷輸送層による漏れ電流によって、階調表現が逆転しないように、導電性電荷輸送層、特に画素間に延在するそのギャップ充填部GFのシート抵抗を適正化している。
また、本発明では、導電性電荷輸送層による漏れ電流によって、消費電力が大幅に増大しないように、導電性電荷輸送層のシート抵抗を適正化している。
漏れ電流は、隣接する画素の電極間にある導電性電荷輸送層を通して流れるので、画素間にある導電性電荷輸送層(ギャップ充填部GF)の抵抗R_gapによって、漏れ電流の大きさが決まる。
図5に本発明による有機EL素子の構造例を示す。1は基板を、12は第1電極を、38及び39はベタ形成電荷輸送層を、32は発光層を、37は第2電荷輸送層を、14は第2電極を、GFはギャップ充填部を示す。
第1電荷輸送層に相当するベタ形成電荷輸送層38及び39が複数の第1電極にわたって形成されている。これら2つのベタ形成電荷輸送層を合わせたシート抵抗ρs_ctlは、ベタ形成電荷輸送層38及び39のシート抵抗ρs_ctl1及びρs_ctl2の並列和で表され、次式となる。
1/ρs_ctl=1/ρs_ctl1+1/ρs_ctl2 式(1)
ベタ形成される電荷輸送層が3層以上になる時は同様に並列和を取ればよいし、ベタ形成される電荷輸送層が単層の場合はそのシート抵抗をρs_ctlとすればよい。また、ρs_ctl1とρs_ctl2の値が大きく違う場合、例えば100倍以上の差があり、ρs_ctl1>100・ρs_ctl2である場合は、ρs_ctl=ρs_ctl2として計算して、差し支えない。また、電荷輸送層がベタ形成されるので、画素間に延在するそのギャップ充填部のシート抵抗も一様である。
隣接する他の画素との抵抗R_gapは、次式として求められる。
R_gap=a・ρs_ctl 式(2)
(ただし、R_gapは隣接する画素間のギャップ充填部の抵抗を、aはギャップ充填部の形状から求められる係数をそれぞれ示す)
実際の第1及び第2電極で画定される発光部の形状は複雑であり、aの値は単純には決まらず、個々の画素又は電極形状に合わせてギャップ充填部の抵抗R_gapを計算する必要がある(後述)。
一般に、有機EL素子の発光輝度は画像データに応じた表示階調を得るために制御されるが、実際の駆動は大きく分けて図6及び図7に示すようにパルス状の電気信号を素子に与えることにより行われる。輝度制御には、図6(A)(B)のような素子への駆動電流を制御する電流制御方式(定電流駆動)と図7−(A)(B)のような駆動電圧を制御する電圧制御方式(定電圧駆動)とがある。具体的には図6(B)、図7(B)に示すように、輝度データに応じて駆動電流量、駆動電圧を変化させることによって素子の輝度を変化させることが行われる。一方、図6(A)、図7(A)に示すように、駆動電流、駆動電圧を一定レベルとし輝度データに応じて電流供給時間、電圧供給時間を変化させることによって素子の輝度を変化させることも可能である。
以下、画素の駆動を、(1)定電流駆動で行う場合と、(2)定電圧駆動で行う場合に分けて、本発明を説明する。
(1)画素の駆動を定電流駆動で行う場合−−
定電流駆動は、輝度に応じた一定の電流を画素に流すことにより、素子を駆動する駆動方法である。定電流駆動では、漏電によって、画素に流れる電流が少なくなり、画素の輝度が低下する。更に、画素に流れる電流が少なくなるので、漏電がない場合に比べ、画素の駆動電圧が小さくなる。
よって、漏電がある画素と漏電がなくほぼ正常な画素とが隣接する場合で共にオン状態で発光するとき、人間の目では隣接する画素間の輝度差には敏感であり、漏電画素の輝度が低下し、一定以上の輝度差では表示品質の劣化を感じてしまう。
(1−1)隣接画素輝度差−−
表示装置において、隣接画素間の輝度差を感じさせない画素の漏電とシート抵抗に関して考察する。漏電が生じて輝度が低下した画素が、隣接の正常な画素の輝度とほぼ同様に光らなければならない。漏電画素の輝度は、漏電のない正常な画素の輝度に対して、観察者が変化ありと認識できない隣接画素の輝度の割合以下である必要がある。つまり、次式を満たす必要がある。
L_ng≧f・L (0<f<1) 式(3)
(ただし、Lは正常な漏電のない画素の輝度を、L_ngは漏電が生じている画素の輝度を、fは人間が変化ありと認識できる隣接画素の輝度の割合を、それぞれ示す。)
有機EL素子では、閾印加電圧を越えると、素子を流れる電流と発光輝度は比例する。また、画素の平均輝度は素子が実際に発光している時間に比例する。簡単のため、矩形波で素子を駆動する場合を考えると、漏電の有無にかかわらず、画素の輝度Lは次式で示される。
L=α・I・t 式(4)
(ただし、αは発光効率を、Iは画素に供給される電流を、tは画素の発光時間を、それぞれ示す。)
よって、式(4)より、式(3)は次式のように導かれる。
α・l_ng・t≧α・f・I・t
∴ l_ng≧f・I 式(5)
(ただし、l_ngは漏電が生じている画素に流れる電流を示す。)
一方、漏電が生じている画素からギャップ充填部を通して隣接画素へ流れる電流量をl_leakとすると、l_leak=I−l_ngなので、式(5)から漏れ電流量は次式のように導かれる。
l_leak≦(1−f)・I 式(6)
ここで、人間が輝度変化ありと認識できる隣接画素の輝度差の割合をjとすると、j=1−fなので、漏れ電流量は次式のようになる。
l_leak≦j・I 式(7)
隣接画素間の輝度差が人間の目にわからないようにするためには、漏れ電流量は式(7)を満たす必要がある。
ある画素における漏れ電流量l_leakは、その画素とギャップ充填部を介して隣接する画素の全てがオフ状態で、最も大きくなる。この時、l_leakと電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlとの関係は、次式のようになる。
l_leak・R_gap=V_on_ng−V_off 式(8)
R_gap=a・ρs_ctl 式(9)
(ただし、R_gapは隣接する他の画素間のギャップ充填部の抵抗を、V_on_ngはオン状態で漏電が生じている漏電画素の第1電極電位(第1電極が単純マトリクスの走査電極である場合は走査オン状態の電位)を、V_offは漏電画素に隣接する画素のオフ状態の第1電極電位(第1電極が単純マトリクスの走査電極である場合は走査オフ状態の電位)を、ρs_ctlは第1電極側にベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗を、aはギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)
l_leakがそれほど大きくない時、オン状態の漏電画素の第1電極電位V_on_ngが漏電画素に隣接する画素のオン状態の第1電極電位と略等しいので、式(8)、式(9)から、隣接画素間の電荷輸送層のシート抵抗は次式のように導かれる。
ρs_ctl=(V_on−V_off)/(l_leak・a) 式(10)
(ただし、V_onは漏電画素に隣接する画素のオン状態の第1電極電位をそれぞれ示す。)
式(10)からわかるように、漏れ電流量l_leakはベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlが大きいほど小さくなる。つまり、l_leakが上限となる時、ρs_ctlは下限値を取る。よって、式(6)、式(10)から、l_leakの許容値の上限l_leak_maxと、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlの下限ρs_ctl_minを決めることができる。具体的には、式(7)及び式(10)より、下限ρs_ctl_minは、次式のように導かれる。
ρs_ctl_min=(V_on−V_off)/(j・I・a) 式(11)
よって、本発明による有機EL素子は、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlをこうして求めたρs_ctl_minよりも大きくする。
人間が変化ありと認識できる隣接画素の輝度の割合jの値は、表示装置の用途、観察者により異なる。jの値はどの程度になるか、以下の実験により求めた。実験結果より、jの値は好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下が望ましいことがわかった。このjの値と式(11)から、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlの下限ρs_ctl_min、を決めることができる。
{隣接画素の輝度差の実験}
人間が変化ありと認識できる隣接画素の輝度差の割合jの値についての実験を行った。
緑色単色の256×64ドット有機ELパネルの、左半分を輝度100cd/mで発光させ、右半分は輝度を100cd/mから徐々に落として被験者26名に見せた。輝度の変化が認識できた時点で被験者に合図をしてもらい、その時の右半分の輝度を記録、どの程度の輝度差の割合が人間にわかるか調べた。例えば、右半分の輝度が97cd/mの時に被験者が輝度変化の合図した場合、その被験者が認識できた輝度差いわゆる輝度差係数は、3%(j=0.03)ということになる。
表1に、被験者が認識した輝度差と人数を表す。ほぼ輝度差5%(j=0.05)で半数の人が、輝度差8%(j=0.08)では全員が、輝度差を認識することが分かった。
【表1】

(1−2)隣接画素輝度と階調−−
表示装置において、発光部の最大輝度及び最小輝度の間を所定レベルで分割して輝度階調として、例えば、24階調なら1/24、32階調なら1/32などの複数の輝度レベルを分けて表示する場合がある。階調表示において或るレベル以上の漏電画素があると、隣接画素間の輝度差が認識され階調と輝度の逆転が起る。階調と輝度の逆転防止ためには、漏電が生じて輝度が低下した画素が、所望の階調よりも一つ下の階調における正常な画素の輝度よりも明るく光らなければならない。つまり、或る階調において、次式を満たす必要がある。
L_ng(n)>L(n−1) 式(14)
(ただし、L(m)は正常な(漏電のない)画素の階調mにおける輝度を、L_ng(m)は漏電が生じている画素の階調mにおける輝度をそれぞれ示す。)
有機EL素子では、素子を流れる電流と、発光輝度は比例する。また、画素の平均輝度は素子が実際に発光している時間に比例する。簡単のため、矩形波で素子を駆動する場合を考えると、漏電の有無にかかわらず、
L(m)=α・I(m)・t(m) 式(15)
(ただし、I(m)は階調mにおける画素に供給される電流を、t(m)は階調mにおける画素の発光時間を、それぞれ示す。)
式(14)と式(15)より、次式が得られる。
l_ng(n)・t(n)>I(n−1)・t(n−1) 式(16)
漏電による電流量をl_leakとすると、次式が得られる。
l_ng(n)=I(n)−l_leak(n) 式(17)
(ただし、l_leak(n)は階調nの画素における漏電によりギャップ充填部を通して隣接画素へ流れてしまう電流を示す。)
式(16)と式(17)より、次式が得られる。
l_leak(n)・t(n)<I(n)・t(n)−I(n−1)・t(n−1) 式(18)
よって、全ての階調nで、式(18)を満たす必要がある。
ある画素における漏れ電流量l_leak(n)は、その画素とギャップ充填部を介して隣接する画素の全てがオフ状態の時、最も大きくなる。この時、l_leakと電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlとの関係は、次式で表される。
l_leak(n)・R_gap=V_on_ng(n)−V_off 式(19)
R_gap=a・ρs_ctl 式(20)
(ただし、R_gapは隣接する他の画素との間の抵抗、V_on_ng(n)はオン状態、階調nの時、漏電が生じている画素の第1電極電位(n≧1)(第1電極が単純マトリクスの走査電極である場合は、走査オン状態の電位)を、V_offは隣接する画素のオフ状態、第1電極電位(一般に、最低階調時の第1電極電位V_on(O)に等しい。ただし、第1電極が単純マトリクスの走査電極である場合は、走査オフ状態の電位)を、ρs_ctlは第1電極側にベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗を、aはギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)
式(19)、式(20)から、次式が得られる。
ρs_ctl=(V_on_ng(n)−V_off)/(l_leak(n)・a) 式(21)
式(21)からわかるように、漏れ電流量l_leak(n)はベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlが大きいほど小さくなる。つまり、l_leakが上限となる時、ρs_ctlは下限値を取る。よって、式(l8)、式(21)から、l_leak(n)の許容値の上限l_leak_maxと、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlの下限ρs_ctl_min、を決めることができる。
本発明による有機EL表示パネルは、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlを、上記の人間が輝度変化ありと認識できる隣接画素の輝度差の割合jの値に基づいてρs_ctl_minよりも大きくする。
以下、更に具体的な階調表現方法の例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
階調mと輝度の設定により、輝度L(m)は決定される。例えば、m=0〜(K−1)の階調数Kの駆動方法において、最大階調の時の輝度L(K−1)であり、最小階調の時の輝度L(O)をゼロとして、その間の中間階調は階調と輝度を比例させる。つまり、階調をリニアに取るという一般的な設定において、輝度L(m)は次式のように表される。
L(m)=m・L(K−1)/(K−1) 式(22)
(ただし、L(K−1)は階調mにおける階調数K−1の輝度を示す。)
また、式(15)からm=K−1では次式のように表される。
L(K−1)=α・I(K−1)・t(K−1) 式(23)
(ただし、I(K−1)は階調mにおける階調数K−1の画素に流れる電流を、t(K−1)は階調mにおける階調数K−1の画素の発光時間を、それぞれ示す。)
式(22)、式(23)から、次式が得られる。
L(m)=m・α・I(K−1)・t(K−1)/(K−1) 式(24)
式(15)と式(24)の右辺同士を等しいとすると、次式が得られる。
I(m)・t(m)=m・I(K−1)・t(K−1)/(K−1) 式(25)
式(25)から式(18)の右辺は次式のように表される。
I(n)・t(n)−I(n−1)・t(n−1)
=n・I(K−1)・t(K−1)/(K−1)−(n−1)・I(K−1)・t(K−1)/(K−1)
=I(K−1)・t(K−1)/(K−1) 式(26)
よって、式(18)は次式のように表される。
l_leak(n)・t(n)<I(K−1)・t(K−1)/(K−1) 式(27)
式(21)、式(27)を満たすl_leakの上限l_leak_maxと、ベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlの下限ρs_ctl_minと、を求める。
ここで、階調表現を、(a)パルス幅変調で行う場合(電流を流す時間の長さによって階調表現する)と、(b)パルス振幅変調で行う場合(流す電流の大きさによって階調表現する)、に分けて考える。
(1a)パルス幅変調で行う場合−−
パルス幅変調は、パルスの振幅(=電流)を一定にして、パルスの長さ(=電流を印加する時間)によって、階調表現を行う。つまり、次式のように表される。
I(m)=l_const 式(28)
(ただし、l_constは一定の駆動電流を示す。)
式(25)、式(28)から、次式が得られる。
t(m)=m・t(K−1)/(K−1) 式(29)
式(27)、式(28)、式(29)より、次式が得られる。
l_leak(n)<l_const/n 式(30)
式(30)からl_leak(n)が上限となるのは、nが最大、つまりn=K−1の時で、次式のように表される。
l_leak_max=l_leak(K−1)=l_const/(K−1) 式(31)
式(21)、式(28)、式(31)より、次式が得られる。
ρs_ctl_min=(V_on_ng(K−1)−V_off)・(K−1)/(l_const・a) 式(32)
V_on_ng(m)の値は、漏れ電流量から決まる、つまりρs_ctlによって決まるので、式(32)からρs_ctl_minを簡単に夬めることはできない。しかし、漏電がない場合の画素の第1電極駆動電圧V_on(m)は、素子特性から求まる。前述した通り、定電流駆動では漏電がない場合に比べ、漏電がある画素の駆動電圧は低くなるので、第1電極駆動電圧V_on(m)は次式のように表される。
V_on(m)>V_on_ng(m) 式(33)
(ただし、V_on(n)はオン状態、階調nの時、漏電のない画素の第1電極電位(n≧1)(第1電極が単純マトリクスの走査電極である場合は、走査オン状態の電圧)を示す。)
式(32)でV_on_ng(m)の代わりにV_on(m)とおくと、ρs_ctl_minの値は大きくなる、つまり、ρs_ctlの下限が大きくなり条件は厳しくなるので、次式のように表される。
ρs_ctl_min=(V_on(K−1)−V_off)・(K−1)/(l_const・a) 式(34)
この式からρs_ctl_minを求め、ρs_ctlの値をこの値以上にすれば、差し支えない。
(1b)パルス振幅変調で行う場合−−
パルス振幅変調は、パルスのパルスの長さ(=電流を印加する時間)を一定にして、振幅(=電流)によって、階調表現を行う。つまり、
t(m)=t_const 式(35)
(ただし、t_constは一定の駆動時間を示す。)
式(25)、式(35)から、次式が得られる。
I(m)=m・I(K−1)/(K−1) 式(36)
式(27)、式(35)、式(36)より、次式が得られる。
l_leak(n)<I(K−1)/(K−1) 式(37)
式(21)、式(37)より、次式が得られる。
(V_on_ng(n)−V_off)/(ρs_ctl・a)<I(K−1)/(K−1) 式(38)
∴ ρs_ctl>(V_on_ng(n)−V_off)・(K−1)/(a・I(K−1)) 式(39)
式(39)で成立するうち最も条件が厳しい、つまりρs_ctlの値が最も大きくなくてはならないのは、V_on_ng(n)が最大、つまりn=k−1の時で、この時、式(39)を等式にして、次式が得られる。
ρs_ctl_min=(V_on_ng(k−1)−V_off)・(K−1)/(a・I(K−1)) 式(40)
前述したのと同様、式(40)でV_on_ng(m)の代わりにV_on(m)とおくと、ρs_ctl_minの値は大きくなる、つまり、ρs_ctlの下限が大きくなり条件は厳しくなるので、
ρs_ctl_min=(V_on(K−1)−V_off)・(K−1)/(a・I(K−1)) 式(41)
としてρs_ctl_minを求め、ρs_ctlの値をこの値以上にすれば、差し支えない。
(2)画素の駆動を定電圧駆動で行う場合−−
定電圧駆動は、輝度に応じた一定の電圧を画素に印加することにより、素子を駆動する駆動方法である。
定電流駆動では、駆動回路の電流容量が十分であれば、漏電によって、画素に流れる電流が少なくならず、画素の輝度は保たれる。つまり、漏電が生じても、画素の駆動電圧は影響を受けない。つまり、
V_on_ng(m)=V_on(m) 式(50)
一方、定電圧駆動では、漏電によって電流量が増え、その分消費電力が増えてしまう。
消費電力の増加を抑えるためには、素子に流れる電流に対して漏れ電流量を、好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/100以下に抑えるのが望ましい。つまり、
l_leak(n)=b・I(n) 式(51)
とした場合、bの値が、好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/100以下となるのが望ましい。式(21)を変形して、次式が得られる。
l_leak(n)=(V_on_ng(n)−V_off)/(ρs_ctl・a) 式(52)
式(50)、式(51)、式(52)より、次式が得られる。
b=(V_on(n)−V_off)/(I(n)・ρs_ctl・a) 式(53)
全てのnについて、式(53)から求まるbの値を、好ましくは1/10以下、さらに好ましくは1/100以下となるのが望ましい。式(52)でb=1/10とした時のベタ形成した電荷輸送層のシート抵抗ρs_ctlの下限ρs_ctl_min10と、b=1/100とした時のρs_ctlの下限ρs_ctl_min100と、を求める。
本発明では、ρs_ctlを好ましくはρs_etl_min10以上、更に好ましくはρs_ctl_min100以上にする。
ここで、階調表現を、(a)パルス幅変調で行う場合(電流を流す時間の長さによって階調表現する)と、(b)パルス振幅変調で行う場合(流す電流の大きさによって階調表現する)、に分けて考える。
(2a)パルス幅変調で行う場合−−
パルス幅変調は、パルスの振幅(=電圧)を一定にして、パルスの長さ(=電圧を印加する時間)によって、階調表現を行う。電圧が一定であれば、画素に流れる電流I(m)も一定になる。つまり、次式で表される。
V_on(m)=V_const 式(54)
I(m)=l_const 式(55)
(ただし、V_constは一定の駆動電圧を、l_constは電圧がV_constの時に画素に流れる電流(階調によらない)を示す。)
式(53)、式(54)、式(55)より、次式が得られる。
b=(V_const−V_off)/(l_const・ρs_ctl・a) 式(56)
式(56)を変形して、次式が得られる。
ρs_ctl=(V_const−V_off)/(b・a・l_const) 式(57)
式(57)において、b=1/10、1/100として、次式が得られる。
ρs_ctl10=10・(V_const−V_off)/(l_const・a) 式(58)
ρs_ctl100=100・(V_const−V_off)/(l_const・a) 式(59)
これら式より、ρs_ctl_min10、ρs_ctl_min100を求めることができる。
(2b)パルス振幅変調で行う場合−−
パルス振幅変調は、パルスのパルスの長さ(=電圧を印加する時間)を一定にして、振幅(=電圧)によって、階調表現を行う。つまり、次式で表される。
t(m)=t_const 式(60)
(ただし、t_constは一定の駆動時間を示す。)
式(53)より、次式が得られる。
ρs_ctl=(V_const−V_off/(b・a・I(n)) 式(61)
式(61)は式(60)により特に変化を受けない。有機EL素子はダイオードのような特性を持つので、電圧の増加に従って、電流が指数関数的に増加する。つまり、nが小さいほど、V_on(n)/I(n)の値は大きくなる。更に、nが小さいほど、V_off/I(n)の値も大きくなるので、式(61)から条件が最も厳しい、つまりbが最大となるのは、nが最小、n=1の時で、この時、b=1/10、1/100として、次式が得られる。
ρs_ctl10=10・(V_on(1)−V_off)/(I(1)・a) 式(62)
ρs_ctl100=100・(V_on(1)−V_off)/(I(1)・a) 式(63)
これら式より、ρs_ctl_min10、ρs_ctl_min100を求めることができる。
なお、何れの駆動法の場合も、電荷輸送層の抵抗が大きすぎると素子の駆動電圧が高くなり、素子特性が悪化してしまうので、特開平10−92584にある通り、電荷輸送層のシート抵抗は、1016Ω/□より、好ましくは1015Ω/□より、特に好ましくは1014Ω/□より小さいことが望ましい。
本発明による有機EL素子に用いられる電極、有機機能層には既知の材料を用いることができる。特に導電性を有する電荷輸送層には、例えば、金属酸化物、金属窒化物、導電性高分子、などを用いることができる。これらの材料を本発明に適用させるためには、シート抵抗をコントロールする必要がある。シート抵抗をコントロールするためには、膜厚を制御するのが最も簡便な方法である。また、比抵抗をコントロールする方法もある。具体的には、金属酸化物中の酸素量を変化させたり、金属窒化物中の窒素の量を変化させたり、ドーパントにより導電性を付与するタイプの導電性高分子では、ドーパントの量を変化させたり、することで、シート抵抗を制御できる。
{実施例及び比較例}
以下のような手順で、本発明による発光ディスプレイパネルを作製した。
(1)第1電極(陽極)の形成−−
ガラス基板上にITOを150nmスパッタ法により成膜した。次に東京応化製フォトレジストAZ6112をITO膜上にパターン形成した。この基板を塩化第2鉄水溶液と塩酸の混合液中に浸漬し、レジストに覆われていない部分のITOをエッチングした。最後に基板をアセトン中に浸漬しレジストを除去、ライン数480本からなるストライプ状の電極パターンを得た。ストライプ状のITOパターンは、ライン幅120μm、ギャップwは10μm、(ピッチ130μm)であった。また、ITOラインの表示部における長さ1は46.8mmであった。
(2)導電性電荷輸送層の形成−−
(1)の基板を十分洗浄した後、曰産化学工業(株)製のポリアニリン溶液をスピンコートした。続いてスピンコートした膜について、表示部以外の不要部分をアセトンで拭き取った。更に、4つの条件(サンプルA〜D)で基板をホットプレートにて加熱、溶媒を蒸発させて、表示部に20nmのポリアニリン膜を形成した。サンプルA〜Dの加熱条件を表2に示す。

形成したポリアニリン膜について、シート抵抗を三菱化学製MCP−HT260により測定した。測定結果をも表2に示す。
加熱条件によりポリアニリン膜のシート抵抗が変化したが、これは、膜の酸化状態が、加熱状態によって異なるためであると考えられる。
(3)他の有機機能層、第2電極(陰極)の形成−−
(2)の基板上に、導電性電荷輸送層以外の有機機能層としてα−NPDを25nm、Alq3を60nm、マスクを用いた蒸着法により表示部に形成した。更に陰極として、Al−Li合金を100nm、ライン幅250μm、ギャップ140μm、(ピッチ390μm)のストライプ120本である形状のマスクを用いた蒸着法により形成した。
形成したα−NPD膜のシート抵抗を、(1)と同様に測定したところ、抵抗が大きすぎて測定不可能であった。測定器の測定範囲から、α−NPD膜のシート抵抗は1×1015Ω/□以上と考えられる。
(4)封止−−
凹みを設け、その凹み部分に乾燥剤を貼り付けたガラス板を、(3)の基板にUV硬化型接着剤を用いて接着し封止、本発明により、480×120画素の単純マトリクスからなる有機EL素子を完成させた。
(5)駆動回路の接続及び調整−−
(4)の素子を、所望の駆動回路に接続し、オン状態の最大階調における画素の輝度L_(K−1)が、100cd/mとなるように駆動回路を調整した。この時、画素について、陽極に印加する電圧V_on(K−1)は10.5V、オフ状態の陽極に印加する電圧V_offは3.5V、オン状態で素子の陰極側にがかる電圧は0V(GND)であった。階調数Kを256、64、16、2とし、階調をリニアに設定した時、種々の駆動方法で素子を発光させると、表3のような駆動電圧と駆動電流となった。




ギャップ充填部形状から決まる係数aは、ギャップ幅D、電極長さMを用いて、a=D/2M=0.010mm/2・46.8mm≒1.07×10−4と計算される。
α−NPDのシート抵抗は、ポリアニリン膜に比べると、2桁以上高いので、作製した素子について第1電荷輸送層のシート抵抗を計算する際には、ポリアニリン膜のシート抵抗のみを考えればよい。
表3の駆動条件における必要なシート抵抗を、本発明によって求め、表3に加えて示す。ポリアニリン膜のシート抵抗が、算出された表3のシート抵抗の下限よりも大きい場合が、本発明の実施例となり、小さい場合は比較例となる。作製した素子と駆動条件により、実施例、比較例の何れに該当するか分類し、表4に示す。なお、定電圧駆動の場合はρs_ctl_min10の値を基準にして判断した。

作製した素子を、定電流駆動し、第1電極ラインが3ラインおきに点灯(最大階調)、非点灯(最小階調)を繰り返すパターンで点灯し、発光状態を観察した。発光状態を光学顕微鏡で観察したところ、特にポリアニリン膜のシート抵抗が低い加熱条件Cによる素子で漏電による輝度の低下が見られた。加熱条件Cによる素子の発光状態では、隣接する非点灯の第1電極ラインに電流が漏れ、輝度が低下する様子が確認できた。
一方、シート抵抗が高い加熱条件Dでは漏電による輝度の低下はほとんど見られなかった。
画素の輝度を、最大階調の一つ下の階調で全点灯(漏電が生じない条件)した場合と、最大階調で第1電極を1ラインごとに点灯(漏電が最も大きくなる条件)した場合と、で測定し比較したところ、表4に示す実施例の条件では、階調の逆転が生じなかった。
上記では、第1電極側の第1電荷輸送層のシート抵抗について述べたが、第2電極側の第2電荷輸送層のシート抵抗についても、同様にして下限値を求めることができる。
本発明による有機EL素子は、電荷輸送層のシート抵抗を、電極の形状など素子の構造や、駆動条件から導き出される、最適なシート抵抗に設定したため、画素を定電圧駆動する場合、漏電により隣接する画素の電極に流れ込む発光に寄与しない余分な電流の量を抑えることができ、消費電力を抑えることができる。定電流駆動した場合のメリットは表示品位が高くなることである。
また、複数の素子に共通して電荷輸送層を形成できるので、工程が簡便である。更に、電荷輸送層が全面に完全に形成されるので、陽極−陰極間のショートが生じることが少ない。
以上のように本発明によれば、導電性高分子など、比較的抵抗の低い導電性電荷輸送層を用いて、画素間の漏電の問題が無く、かつ、信頼性や素子性能の高い有機ELディスプレイを簡便な工程で実現できる。
{電極形状によるギャップ充填部の抵抗}
上記式(2)、式(9)及び式(20)に示した隣接する画素間のギャップ充填部の抵抗とそのシート抵抗の関係を詳述する。有機EL表示パネルの個々の有機EL素子の形状は複雑であり、ギャップ充填部の形状から求められる係数aの値は単純には決まらず、個々の画素又は電極形状に合わせてギャップ充填部の抵抗R_gapを計算する必要があるので、係数aはそれら形状に応じて決定される。
(1)単純マトリクスパネルの場合−−
図8に示すように、パッシブマトリクス型の有機EL表示パネルの複数の画素は、ギャップ充填部GFを介して並べられた陽極ラインL上に配置される。陽極ラインと他の陽極ラインがどの場所でも等距離(ピッチ)に形成されるので、R_gapはライン間距離Dに比例し、ライン長さMに反比例する。また、点灯画素の陽極ラインの両隣のラインがオフ状態で電位差が大きくなり電流が漏れる場合なとの最悪事態を考慮すると、次式のようになる。
R_gap=ρs_ctl・D/2M 式(73)
(ただし、Dはライン間距離を、Mはライン長さをそれぞれ示す)
よって、上記式(2)に鑑み、ギャップ充填部の形状から求められる係数aは次式のようになる。
a=D/2M 式(74)
(2)アクティブマトリクスパネルの場合−−
アクティブマトリクス型の有機EL表示パネルでは複数の画素がそれぞれ独立し、画素(発光部)毎にFET(Field Effect Transistor)及びコンデンサなどからなるTFT(Thin Film Transistor)回路が設けられる。よって、図9に示すように、発光部の表示電極12Dは基板上にギャップ充填部GFを介して敷き詰められるので、R_gapは、例えば矩形とすればその一辺の長さをLx,Lyとし表示電極間距離をDx,Dyとすれば、次式のように近似される。
R_gap=ρs_ctl/[2・{(Mx/Dy)+(My/Dx)}] 式(75)
よって、上記式(2)に鑑み、ギャップ充填部の形状から求められる係数aは次式のようになる。
a=D/[2・{(Mx/Dy)+(My/Dx)}] 式(76)
(3)セグメントディスプレイパネルの場合−−
図10に示すように、セグメント型の有機EL表示パネルでは任意形状の画素の複数が基板上にギャップ充填部GFを介して配置されるので、セグメント電極12Sはその周囲各点から他のセグメント電極への距離がまちまちである。
セグメントの周囲長をM_segとし、それをn分割する。各々の辺から他のセグメントの距離をDiとして、抵抗が計算でき、それの並列和が、全体の抵抗R_gapになるR_gapは、次式のように近似される。実際には、nを有限の値として計算すればよい。

よって、上記式(2)に鑑み、ギャップ充填部の形状から求められる係数aは次式を満たすように設定する。

{他の実施例}
上記実施例では、ギャップ充填部とともにベタ形成電荷輸送層にポリアニリン膜を素子毎に同一膜厚で形成した単色発光のパネルについて、説明したが、本発明は、多色発光のパネルにも適用できる。ギャップ充填部が共通に成膜されていればよく、素子毎に異なる膜厚で電荷輸送層が形成されていてもよい。
図11に示すように、ガラスなどの透明基板1上のITOなどの第1電極12(陽極)上に、例えば、素子の電荷輸送層として正孔輸送層32R、32G、32Bを形成するが、例えば、赤緑青RGBの各発光部に対して正孔輸送層の膜厚が異なる、例えば、それぞれ50nm,70nm,100nmとなるように成膜する。まず、RGBの各発光領域に成膜すべき膜厚から共通膜厚を差し引いた差分だけ成膜する。すなわち、各発光領域の共通膜厚の50nmを差し引いた膜厚、20nm,50nmをGB発光領域にそれぞれ成膜する。緑発光部Gに対応する発光領域に正孔輸送層材料を20nm、青発光部Bには50nmだけ成膜する。次に、RGB発光領域に共通して50nmの膜厚となるように同一の正孔輸送層材料を一括して成膜する。このようにしてRGBの各発光領域に対して異なる膜厚の正孔輸送層を形成する。正孔輸送層成膜後、それぞれ発光層32R、33G、33Bを成膜し、共通する電子輸送層23を成膜し有機機能層を完成後、例えば金属からなる第2電極(陰極)14を有機機能層上に形成することによって有機EL表示パネルを製作することができる。この場合、有機EL素子における電荷輸送層(正孔輸送層)のシート抵抗は共通なギャップ充填部と異なることになり、膜厚が増加した分、そのギャップ充填部より低くなる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が第1及び第2表示電極並びに前記第1及び第2表示電極間に挟持かつ積層された少なくとも1層の有機化合物からなる発光層を含む有機機能層からなる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子と、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子を担持する基板と、からなる有機エレクトロルミネッセンス表示パネルであって、前記有機機能層群は、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子に共通して形成され電荷輸送性を有した少なくともl層の共通層を含み、前記共通層は、前記複数の有機エレクトロルミネッセンス素子の間に延在するギャップ充填部を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項2】
前記ギャップ充填部のシート抵抗ρs_ctl_minが、式、
ρs_ctl_min≧(V_on−V_off)/(j・I・a)
(ただし、ρs_ctl_minはシート抵抗ρs_ctlの下限を、V_onはオン状態における漏電のない前記有機エレクトロルミネッセンス素子の前記第1及び第2表示電極間電圧を、V_offは隣接する前記有機エレクトロルミネッセンス素子のオフ状態における前記第1及び第2表示電極間電圧を、jは0.08以下の輝度差係数を、lは駆動電流を、aは前記ギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項3】
前記ギャップ充填部のシート抵抗ρs_ctl_minが、式、
ρs_ctl_min≧(V_on(K−1)−V_off)・(K−1)/(l_const・a)
(ただし、ρs_ctl_minはシート抵抗ρs_ctlの下限を、Kは表示する階調数を、V_on(m)はオン状態における階調m(m≧1の整数)の時、漏電のない前記有機エレクトロルミネッセンス素子の前記第1及び第2表示電極間電圧を、V_offは隣接する前記有機エレクトロルミネッセンス素子のオフ状態における前記第1及び第2表示電極間電圧を、l_constは一定値の駆動電流を、aは前記ギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項4】
前記ギャップ充填部のシート抵抗ρs_ctl_minが、式、
ρs_ctl_min≧(V_on(K−1)−V_off)・(K−1)/(a・I(K−1))
(ただし、ρs_ctl_minはシート抵抗ρs_ctlの下限を、Kは表示する階調数を、V_on(n)はオン状態、階調n(n≧1の整数)の時、漏電のない前記有機エレクトロルミネッセンス素子の前記第1及び第2表示電極間電圧を、V_offは隣接する前記有機エレクトロルミネッセンス素子のオフ状態における前記第1及び第2表示電極間電圧を、I(m)は階調mにおける前記有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流を、aは前記ギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項5】
前記ギャップ充填部のシート抵抗ρs_ctl10が、式、
ρs_ctl10≧10・(V_const−V_off)/(I(m)・a)
(ただし、ρs_ctl10はシート抵抗ρs_ctlの下限を、V_constは一定の駆動電圧を、V_offは隣接する前記有機エレクトロルミネッセンス素子のオフ状態における前記第1及び第2表示電極間電圧を、I(m)は階調m(m≧1の整数)における前記有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流を、aは前記ギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。
【請求項6】
前記ギャップ充填部のシート抵抗ρs_ctl10が、式、
ρs_ctl10≧10・(V_on(1)−V_off)/(I(1)・a)
(ただし、ρs_ctl10はシート抵抗ρs_ctlの下限を、V(m)は階調mにおける前記有機エレクトロルミネッセンス素子の駆動電圧を、V_offは隣接する前記有機エレクトロルミネッセンス素子のオフ状態における前記第1及び第2表示電極間電圧を、I(m)は階調m(m≧1の整数)における前記有機エレクトロルミネッセンス素子に流れる電流を、aは前記ギャップ充填部の形状から求められる係数を、それぞれ示す。)を満たす値であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示パネル。

【国際公開番号】WO2005/039247
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514850(P2005−514850)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015555
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】