説明

有機エレクトロルミネッセンス装置

【課題】プラズマ表面処理に起因する不具合を防止することで、長期に亘って良好な発光特性を得る有機エレクトロルミネッセンス装置を提供する。
【解決手段】基板P上に、有機材料から構成される平坦化層24と、平坦化層24上に設けられる画素電極41と、画素電極41の上端部を覆うように平坦化層24上に設けられ、平坦化層24を露出させる第一開口部51が形成された無機隔壁50Bと、無機バンク50B上に形成され、第一開口部51を介して平坦化層24に接触する有機隔壁50Aと、画素電極41上に設けられる有機発光層40と、有機発光層40上に設けられる陰極54と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置1である。有機隔壁50Aが無機材料から構成される無機保護膜44で覆われており、無機保護膜44には有機隔壁50Aを露出させる第二開口部52が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バックライト等の光源を必要としない自発光素子を備えた表示装置として、近年、エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機EL装置(以下、有機EL装置と称す)が注目されている。有機EL装置は、各画素領域に対応して設けられた、例えばTFT素子で構成されるスイッチング素子に電気的に接続された画素電極と陰極との間に有機発光層を挟持した構成となっている。有機EL装置は前記TFT素子を平坦化層で覆うことでな基板面を平坦化し、平坦化層に形成したコンタクトホールを介して画素電極とTFT素子とが電気的に接続されるようになっている。
また、有機EL装置は隣接する画素領域間における画素電極の接触、或いは画素電極及び陰極の接触を防止するための隔壁を備えている(例えば、特許文献1参照)。このような隔壁の形成材料としては、上記平坦化層の形成材料と同様のアクリル樹脂やポリイミド等が用いられる。
【0003】
ところで、有機EL装置の製造工程では、前記画素電極上に有機発光層を形成するに先立ち、例えばITO(インジウム・スズ酸化物)から構成された画素電極表面の汚れを除去する表面洗浄工程としてプラズマ処理を行う。
【特許文献1】特開平5−275172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなプラズマ処理を行うと上記の隔壁を構成するアクリル樹脂やポリイミドの一部がエッチングされることでITO(画素電極)上に異物が付着し、ITO表面が汚染されることで発光特性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、プラズマ表面処理に起因する不具合を防止することで、長期に亘って良好な発光特性を得る有機エレクトロルミネッセンス装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板上に、有機材料から構成される平坦化層と、該平坦化層上に設けられる画素電極と、該画素電極の上端部を覆うように前記平坦化層上に設けられ、該平坦化層を露出させる第一開口部が形成された無機隔壁と、該無機バンク上に形成され、前記第一開口部を介して前記平坦化層に接触する有機隔壁と、前記画素電極上に設けられる有機発光層と、該有機発光層上に設けられる陰極と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記有機隔壁が無機材料から構成される無機保護膜で覆われており、該無機保護膜には前記有機隔壁を露出させる第二開口部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、例えば有機発光層を形成するに際して、画素電極表面をプラズマ処理により洗浄した場合でも、有機隔壁の表面を覆う無機保護膜によって有機隔壁にプラズマダメージが及ぶことが防止される。よって、有機隔壁の形成材料の一部がプラズマ処理によってエッチングされて、その一部が異物として画素電極表面に付着することで画素電極が汚染されることがない。
また、有機発光層の形成時に平坦化層及びこの平坦化層に第一開口部を介して接触する有機隔壁から発生したアウトガスを、無機保護膜に形成された第二開口部から外部に放出できる。よって、駆動時にアウトガスが発生することがなく、アウトガスに起因する発光不良等の不具合が防止された高信頼性なものとなる。
【0008】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記第二開口部は前記有機隔壁の上面に対応する位置に形成されるのが好ましい。
この構成によれば、有機隔壁の側面に比べ、画素電極面から第二開口部を離間させた状態にすることができるので、画素電極表面の洗浄工程として上記のプラズマ処理を行った際に第二開口部内に露出する有機隔壁にダメージが及ぶのを抑制することができる。
【0009】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記第二開口部は平面視した状態で、前記第一開口部に対して少なくとも一部が重なるように形成されるのが好ましい。
この構成によれば、平坦化層中から第一開口部を介して有機隔壁中に放出されたアウトガスは有機隔壁内で発生したアウトガスとともに、平面視第一開口部に重なる位置に形成された第二開口部から外部に良好に放出されるようになる。よって、アウトガスを効率的に外部に放出することができる。
【0010】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記無機保護膜は、SiO、SiO、SiON、SiN、AlO、AlN、及びAlのいずれかを主体として構成されるのが好ましい。
この構成によれば、上述したようなプラズマ処理を行った際でも、有機隔壁にダメージが及ぶのを良好に防止できる。
【0011】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記無機保護膜の膜厚が、50nm以上200nm以下であるのが好ましい。
この構成によれば、無機保護膜の膜厚が50nm以上となっているので、十分なプラズマ耐性を得ることができる。また、無機保護膜の膜厚が200nm以下となっているので、膜厚が厚すぎることで無機保護膜に割れが生じてしまうのを抑制できる。
【0012】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置においては、前記有機発光層は気相法によって形成されたものであるのが好ましい。
このようにすれば、上述したように洗浄処理による汚染が防止された画素電極上に、例えば蒸着法等の気相法により有機発光層を良好に形成できるので、信頼性が高く良好な発光特性を得るものを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(有機エレクトロルミネッセンス装置)
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と称す)に係る一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態の有機EL装置の回路構成図、図2は、同有機EL装置における各画素領域の平面構造を示す図であって陰極や有機発光層を取り除いた状態を示す図である。また図3は、有機EL装置の断面構成を示す概略図である。
【0014】
図1に示すように、有機EL装置1は、複数の走査線31と、これら走査線31に対して交差する方向に延びる複数の信号線32と、これら信号線32に並列に延びる複数の共通給電線33とがそれぞれ配線されたもので、走査線31及び信号線32の各交点に画素領域71が設けられて構成されたものである。
【0015】
信号線32に対しては、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチ等を備えるデータ側駆動回路72が設けられている。一方、走査線31に対しては、シフトレジスタ及びレベルシフタ等を備える走査側駆動回路73が設けられている。また、画素領域71の各々には、走査線31を介して走査信号(電力)がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)42と、このスイッチング用TFT42を介して信号線32から供給される画像信号を保持する保持容量capと、保持容量capによって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT43と、この駆動用TFT43を介して共通給電線33に電気的に接続したときに共通給電線33から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極)41と、この画素電極41と陰極54との間に挟み込まれる有機発光層40と、が設けられている。そして、前記画素電極41と陰極54と、有機発光層40とによって発光素子が構成されている。
【0016】
このような構成のもとに、走査線31が駆動されてスイッチング用TFT42がオンとなると、そのときの信号線32の電位(電力)が保持容量capに保持され、該保持容量capの状態に応じて、駆動用TFT43のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT43のチャネルを介して共通給電線33から画素電極41に電流(電力)が流れ、さらに有機発光層40を通じて陰極54に電流が流れることにより、有機発光層40は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0017】
次に、図2に示す画素領域71の平面構造をみると、画素領域71は、平面視略矩形状の画素電極41の四辺が、信号線32、共通給電線33、走査線31及び図示しない他の画素電極用の走査線によって囲まれた配置となっている。画素電極41はドレイン電極36に導電接続されることで駆動用TFT43に電気的に接続されたものとなっている。
【0018】
(断面構造)
また図3に示す画素領域71の断面構造をみると、基板P上に駆動用TFT43が設けられており、駆動用TFT43を覆って形成された第一、及び第二層間絶縁膜23,24上に発光素子200が配設されている。この発光素子200は、基板P上に立設されたバンク構造(隔壁構造)50の内部に臨む画素電極41と、この画素電極41上に配置される有機発光層40と、この有機発光層40を覆う陰極54とを有して構成される。また、前記バンク構造50は各画素領域71を区画した(囲んだ)状態に基板P上に形成されている。
【0019】
前記基板Pとしては、本実施形態のようなトップエミッション型の有機EL装置の場合、有機EL発光素子200が配設される側から光を外部に取り出す構成であることから、ガラス等の透明基板のほか、不透明基板も用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化等の絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)等が挙げられる。
【0020】
基板P上に設けられる前記駆動用TFT43は、半導体層21に形成されたソース領域43、ドレイン領域43b、及びチャネル領域43cと、半導体層表面に形成されたゲート絶縁膜22を介してチャネル領域43cに対向するゲート電極143Aとを主体として構成されている。半導体層21及びゲート絶縁膜22を覆う第一層間絶縁膜23が形成されており、この第一層間絶縁膜23を貫通して半導体層21に達するコンタクトホール34,35内に、それぞれドレイン電極36、ソース電極38が埋設され、各々の電極はドレイン領域43b、ソース領域43に導電接続されている。第一層間絶縁膜23の上層には、第二層間絶縁膜24が形成されており、この第二層間絶縁膜24に貫設されたコンタクトホール39に画素電極41の一部が埋設されている。そして画素電極41とドレイン電極36とが導電接続されることで、駆動用TFT43と画素電極41(発光素子200)とが電気的に接続されている。なお、前記第一、第二層間絶縁膜23,24は前記駆動用TFT43、又は前記ドレイン電極36、及びソース電極38によって基板P上に生じる凹凸を平坦化する平坦化層を兼ねている。
【0021】
また、バンク構造50はSiOやSiN等の絶縁性無機材料からなる無機バンク(無機隔壁)50Bと、上記第一、第二層間絶縁膜23,24の形成材料と同様にアクリルやポリイミド等の有機材料からなる有機バンク(有機隔壁)50Aとの積層構造から構成されている。具体的には、前記無機バンク50Bは画素電極41の側面及び上端部を覆うように前記第二層間絶縁膜24上に形成され、画素電極41の一部(上面)を露出させるとともに、各画素領域71に対応して配置される画素電極41間を絶縁している。
【0022】
また、無機バンク50Bにおける前記画素電極41を覆わっていない部分には、第一開口部51が形成されており、この第一開口部51内に前記第二層間絶縁膜24が臨まれるようになっている。そして、第二層間絶縁膜24上に設けられる有機バンク50Aの一部が第一開口部51内に埋設されている。これにより、有機バンク50Aは、第一開口部51を介して第二層間絶縁膜24と接触した状態となっている。この有機バンク50Aの膜厚としては、2〜3μm程度に設定するのが望ましい。
【0023】
また、有機バンク50Aの表面を覆うようにして、無機材料、例えばSiNからなる無機保護膜44が設けられている。なお、無機保護膜44の膜厚としては、50nm〜200nm程度に設定するのが望ましい。
【0024】
無機保護膜44の形成材料としては、上記のSiNに限定されることはなく、SiO、SiO、SiON、SiN、AlO、AlN、Alのいずれかを主体とするものを用いてもよい。
【0025】
そして、無機保護膜44には、有機バンク50Aを露出させる第二開口部52が形成されている。具体的には、第二開口部52は有機バンク50Aの上面に対応する位置に形成されている。図4は無機保護膜44に形成された第二開口部52における平面図を示すものである。図4に示すように、第二開口部52は画素領域71の長辺側を区画する有機バンク50Aの上面を露出させる長方形形状の孔部となっている。また、第二開口部52は、平面視した状態で前記第一開口部51に対して、その一部が重なる位置に形成するのが好ましい(図3参照)。例えば、第二開口部52の形成領域内に第一開口部51の形成領域が含まれた状態、すなわち第二開口部52を第一開口部51に比べて小さく形成してもよい。
【0026】
前記バンク構造50の底部に臨まれる画素電極41上に有機発光層40と陰極54とが積層され、発光素子200が構成される。本実施形態では、前記有機発光層40及び前記陰極54がバンク構造50(有機バンク50A)の上面を覆うようにして基板P全面に形成されている。なお、有機発光層40は後述するように真空蒸着法(気相法)によって形成されたものである。
【0027】
本実施形態では、前記有機発光層40の形成材料としては、白色の蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の低分子材料を用いられ、例えば青色と橙色発光素子を積層した2発光層積層型白色素子や赤色、緑色、及び青色を積層した3発光層積層型白色素子等が用いられる。なお、図示しないものの、有機発光層40は発光層に加えて、正孔注入/輸送層、及び電子注入/輸送層を含んで構成されている。これら正孔注入/輸送層、発光層及び電子注入/輸送層は、各層に好適な蒸着材料を周知の蒸着法に基づいて蒸着することで形成される。
【0028】
本実施形態に係る有機EL装置1は、封止基板27側から光を取り出す、所謂トップエミッション方式の有機EL装置である。
そのため、陰極54は透明材料によって構成される。この陰極54を形成する透明導電材料としてはインジウム・スズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、アルミニウム薄膜、マグネシウム銀の薄膜等を用いることができる。具体的に本実施形態では、ITOを用いた。
【0029】
また、画素電極41は金属材料等の適宜な導電材料によって形成できる。本実施形態ではITOを主体として構成されている。なお、本実施形態に係る有機EL装置1は、上述したようにトップエミッション方式の有機EL装置であることから、外部に光を効率的に取り出すことができるように、画素電極41の下層側には例えばAl等の光反射性を有する反射膜(図示せず)を設けている。
【0030】
また、前記陰極54の上層側には陰極保護層45が形成されている。この陰極保護層45を設けることで、製造プロセス時に陰極54が腐食されるのを防止できる。また、陰極保護層45は陰極54の酸化も良好に防止できる。陰極保護層45の形成材料としては、無機化合物、例えば、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン窒酸化物等のシリコン化合物が用いられる。
【0031】
ところで、本実施形態に係る有機EL装置1では、有機発光層40、陰極54、及び陰極保護層45がバンク構造50の上面、さらにはバンク構造50の側面部を覆った状態に形成されている。
【0032】
ここで、有機バンク50Aの内側面は、断面視テーパ形状をなす傾斜面となっている。この構成により、後述するように蒸着法により形成される有機発光層40を有機バンク50Aの内側面に良好に付着させることができ、有機発光層40及び有機バンク50Aは密着性の高い状態に形成される。さらに、有機発光層40上に積層して形成される陰極54も上記テーパ面に沿って形成されることにより断線の発生が防止されたものとなる。
【0033】
本実施形態に係る有機EL装置1では、基板Pと対向してカラーフィルタ基板25が設けられている。このカラーフィルタ基板25は、三原色の各色(R,G,B)に対応するカラーフィルタ26と遮光用のBM(ブラックマトリクス)パターン28とから構成されている。また、このカラーフィルタ基板25は、基板P側の画素領域71とカラーフィルタ26とが対向するように設けられている。
【0034】
また、カラーフィルタ基板25上に封止基板27が設けられている。この封止基板27は例えばガラス等の透明性を有する材料からなるものである。なお、前記封止基板48の内面側に凹部を設け、この凹部に水や酸素を吸収するゲッター剤(例えば、CaO、BaO等)44を配置することで有機EL装置1内部に侵入した水又は酸素を吸収できるようにしてもよい。
【0035】
ところで、従来の有機EL装置のように、無機バンクが平坦化層を覆った状態に形成されていると、有機発光層の駆動時に有機材料からなる有機バンクや平坦化層内から発生したアウトガスが発光層に悪影響を及ぼすことで発光不良を招くおそれがある。
【0036】
一方、本実施形態に係る有機EL装置1は、有機発光層40の形成時に第二層間絶縁膜24及び有機バンク50A中からアウトガスが発生する。第二層間絶縁膜24中から発生したアウトガスは、第一開口部51を抜けて有機バンク50A中に入り込み、有機バンク50A中で発生したアウトガスとともに第二開口部52から外部に放出される。よって、製造プロセス中にアウトガスが予め外部に放出されたものとなっているので、有機EL装置を駆動させた際にアウトガスが発生することがなく、アウトガスに起因する発光不良等の不具合の発生を防止できる。
【0037】
(有機EL装置の製造方法)
以下、有機EL装置1の製造方法について図5,6を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、駆動用TFT43、及び画素電極41等を形成する工程については、周知の工程と同様なので、これ以降の工程について詳しく説明する。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、ガラス基板等の基板P上に、駆動用TFT43、第一層間絶縁膜23、第二層間絶縁膜24を順に形成し、該第二層間絶縁膜24に形成したコンタクトホール39を介して、前記駆動用TFT43に対して電気的に接続される画素電極41を形成した後、前記第二層間絶縁膜24上に無機バンク50Bを形成する。
【0039】
無機バンク50Bは、例えばCVD法、スパッタ法、蒸着法等によって第二層間絶縁膜24、画素電極41の全面にSiO、TiO、SiN等の無機物膜を形成し(本実施形態ではSiOを用いた)、この無機膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで形成する。無機バンク50Bは、第二層間絶縁膜24上、画素電極41の周縁部(上端部及び側面部)上のみに設けられ、画素電極41の中央部に位置する電極面を露出させる。このとき、無機バンク50Bには、前記画素電極41を覆わない部分に第二層間絶縁膜24を露出させる第一開口部51が形成される。
【0040】
次に、図5(b)に示すように上記無機バンク50B上に有機バンク50Aを形成する。有機バンク50Aは、前記第二層間絶縁膜24の形成材料と同一の材料、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を材料として用いることができる。有機バンク50Aは、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の有機樹脂を溶媒に溶かしたものを、スピンコート、ディップコート等により塗布して形成する。
【0041】
ところで、上述したように無機バンク50Bには第一開口部51が形成されており、その内部には第二層間絶縁膜24が露出しているので、上記有機材料は第一開口部51内に埋設された状態となる。したがって、有機バンク50Aは第一開口部51を介して第二層間絶縁膜24に接触した状態に形成される。
【0042】
そして、有機バンク50Aをフォトリソグラフ法によりパターニングして開口を設ける。有機バンク50Aの開口は、図3に示したように、無機バンク50Bの開口よりやや広く形成する。このようにして無機バンク50B上に有機バンク50Aを積層することで、基板P上にバンク構造50が形成され、このバンク構造により画素領域71が区画されるようになる。
【0043】
(無機保護膜の形成)
次に、図5(c)に示すように有機バンク50Aの表面を覆う無機保護膜44を形成する。具体的には、有機バンク50Aの形成領域及び後述する第二開口部52の形成領域が開口されたマスクを用いて、CVD法、スパッタ法、蒸着法等によりSiNからなる無機膜を選択的に成膜することで前記無機保護膜44を形成できる。この無機保護膜44には、前記有機バンク50Aの上面に対応する位置(図3参照)に第二開口部52を形成する。なお、上述したようにSiO、SiO、SiON、SiN、AlO、AlN、Alのいずれかを主体とする他の無機材料を用いて無機保護膜44を形成してもよい。
【0044】
ここで、本実施形態では、第二開口部52は第一開口部51に対し、平面視した状態でその一部が重なる位置に形成するのが好ましい。具体的に本実施形態では、第二開口部52の形成領域内に第一開口部51の形成領域が含まれた状態に形成した(図3参照)。
【0045】
この無機保護膜44の膜厚としては、50〜200nmに設定するのが望ましい(本実施形態は50nmとした)。この理由としては、無機保護膜44の膜厚が50nmよりも小さい場合、後述のプラズマ処理に対して十分な耐性を得ることが難しくなるためである。また、無機保護膜44の膜厚が200nm以上になると無機保護膜44に割れが生じるおそれがあり、これにより後述するプラズマ処理に対して十分な耐性が得られなくなるためである。
【0046】
続いて、図5(d)に示すようにプラズマ処理を行う。このプラズマ処理は、画素電極41の電極面を活性化するものであり、画素電極41の電極面の表面洗浄を主な目的としている。
【0047】
ところで、プラズマ処理はバンク構造50に区画された開口領域(画素領域71)の底部に露出する画素電極41の表面に対し選択的に行うのが好ましいものの、この場合、画素電極41の表面のみならず、有機バンク50Aの内側面も一部プラズマに曝されてしまう。
【0048】
有機バンク50Aは、上述したようにアクリル樹脂から形成されており、十分なプラズマ耐性を備えているとは言い難い。そのため、上記プラズマ処理によって、その一部が破壊(エッチング)されることで、画素電極41に異物を付着させ、汚染が生じるおそれがある。
【0049】
一方、本実施形態に係る有機EL装置1では、上述したように有機バンク50Aの表面が無機保護膜44によって覆われている。ここで、無機材料から構成される無機保護膜44は、十分なプラズマ耐性を備えているので、この無機保護膜44によって覆われた有機バンク50Aは上記プラズマ処理によって破壊(エッチング)されてしまうことがない。よって、無機保護膜44下層の有機バンク50Aにプラズマダメージが及ぶことがなく、画素電極41の表面洗浄を良好に行うことができる。
【0050】
なお、上述したように前記無機保護膜41には有機隔壁50Aを露出させる第二開口部52が形成されており、この第二開口部52内に露出する有機バンク50Aがプラズマ処理に曝されるおそれがある。しかしながら、本実施形態ではプラズマ処理の影響の少ない有機バンク50A上面に第二開口部51を形成しているので、この第二開口部51内に露出する有機バンク50Aがエッチングされるのを防止できる。
【0051】
(有機発光層の形成工程)
次に、図6(a)に示すように、画素電極41、バンク構造50の全面に有機発光層40を例えば真空蒸着法により形成する。このとき、上記プラズマ処理による表面洗浄が良好に行われているため、画素電極41上に有機機能層40を平坦性が高い状態に形成することができる。また、バンク構造50を構成する有機バンク50Aの内側面は、図2に示したように断面視テーパ形状の傾斜面となっているため、有機発光層40の形成材料を有機バンク50Aの内側面に沿って良好に付着させることができる。本実施形態では、正孔注入/輸送層、発光層、電子注入/輸送層を積層することで有機発光層40を形成した。なお、正孔注入/輸送層、発光層及び電子注入/輸送層は、上述したような各層に好適な蒸着材料を周知の蒸着法に基づいて蒸着することで形成される。
【0052】
上記発光層の蒸着材料としては、例えばアントラセンやピレン、8−ヒドロキシキノリンアルミニウム、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、またはこれら低分子材料に、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、DCM、DCJ、ペリノン、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ジアザインダセン誘導体等をドープして用いることができる。
【0053】
また、正孔注入/輸送層の蒸着材料としては、例えばスターバーストアミン、オリゴアミン、トリフェニルアミン系ポリマー等を用いることができる。また、電子注入/輸送層の蒸着材料としては、例えばオキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、フェナンソロリン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン誘導体、ジフェノキノン誘導体、及びヒドロキシキノリン誘導体の金属錯体を用いることができる。
【0054】
ところで、上記有機発光層40を形成する真空蒸着のプロセス中に、アクリル樹脂やポリイミド等のような有機材料からなる第二層間絶縁膜24及び有機バンク50A中からアウトガスが発生してしまう。この時、第二層間絶縁膜24中から発生したアウトガスは第一開口部51を介して接続する有機バンク50A中に放出される。また、有機バンク50A中からも同様にアウトガスが発生する。
【0055】
ここで、有機バンク50Aが無機保護膜44によって完全に覆われた構成の場合、アウトガスの逃げ場がなくなることで、例えばアウトガスが無機保護膜44を破壊し、上述したようなプラズマ耐性を十分に得られなくなるおそれがある。そこで、本実施形態に係る有機EL装置1では、無機保護膜44に第二開口部52を形成することで、第二層間絶縁膜24及び有機バンク50A中から発生したアウトガスを外部に確実に放出できる。
【0056】
また、図3に示したように第二開口部52及び第一開口部51が平面視重なっているので、第二開口部52を通ったアウトガスは、第一開口部51に平面的に重なる第二開口部52から良好に外部に放出されるようになり、効率的にアウトガスを外部に放出できる。
【0057】
次に、図6(b)に示すように前記有機発光層40を覆うように基板全面に陰極54を形成する。陰極54形成工程では、トップエミッション構造を実現するために、例えばイオンプレーティング法等の物理気相成長法により透明なITOを成膜する。あるいは、アルミニウムの薄膜、マグネシウム銀の薄膜を蒸着法で形成することで陰極54を形成してもよい。
【0058】
このとき、有機発光層40は有機バンク50Aの表面に沿って均一な膜厚で形成されていることから、この有機発光層40上に形成される陰極54も均一な膜厚で形成することができる。
【0059】
さらに、図6(c)に示すように酸素や水分の影響による有機EL素子の劣化を防止するために、陰極54上に、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコン窒酸化物等のシリコン化合物等の無機化合物からなる陰極保護層45を形成する。
この陰極保護層45の形成方法としては、CVD法、スパッタ法、蒸着法等を例示することができる。
【0060】
最後に、カラーフィルタ基板25を重ね合わせ、基板Pとカラーフィルタ基板25とを貼り合わせ、封止樹脂を介して封止基板27によって封止することにより、図3に示した有機EL装置1が完成する。
【0061】
以上述べたように、本実施形態に係る有機EL装置1によれば、有機発光層40を形成するに際して、画素電極41表面をプラズマ処理により洗浄した場合でも、有機バンク50Aの表面が無機保護膜44によって覆われているので、有機バンク50Aにプラズマダメージが及ぶことのを防止できる。よって、有機バンク50Aの形成材料の一部がプラズマ処理によってエッチングされて、その一部が異物として画素電極41の表面に付着することで画素電極41の汚染が生じるのを防止できる。
したがって、画素電極41上に有機発光層40が良好に形成されたものとなり、長期に亘り良好な発光特性を得る有機EL装置1を提供できる。
【0062】
また、有機発光層40の形成プロセス時に、第二層間絶縁膜24及び有機バンク50Aから発生したアウトガスを外部に放出することができるので、駆動時にアウトガスに起因した発光不良等の不具合を防止した信頼性の高い有機EL装置1となる。
【0063】
なお、本発明に係る有機EL装置1は、上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜変更が可能である。例えば、図7に示すように有機バンク50Aの上面のうち、格子状に形成されている有機バンク50Aの各格子点に対応する位置に略長円形状の第二開口部52を形成してもよい。
この場合、図4に示した構成に比べて、第二開口部52が画素電極41から離間した状態となるので、上述したプラズマ処理時に第二開口部52内に露出している有機バンク50Aにプラズマダメージが及ぶ可能性を低減できる。
【0064】
(電子機器)
次に、本発明の有機EL装置に係る他の応用例として、有機EL装置を備えた電子機器について説明する。
図8は、携帯電話の表示部に本発明の有機EL装置を適用した例についての概略構成図である。同図に示す携帯電話300は、上記実施形態の有機EL装置を小サイズの表示部301として備え、複数の操作ボタン302、受話口303、及び送話口304を備えて構成されている。
この携帯電話300によれば、上述したようにプラズマ処理に起因する画素電極の汚染が防止されるとともに、アウトガスに起因する発光不良の発生が防止されることで、長期間に亘って信頼性の高い表示を得ることができる有機EL装置1を表示部301として備えているので、高品質なものを提供できる。
なお、上記各実施の形態の有機EL装置は、上記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】有機EL装置の回路構成を示す図である。
【図2】画素領域の平面構造を示す図である。
【図3】有機EL装置の断面構成を示す概略図である。
【図4】無機保護膜上に形成された第二開口部における平面構成図である。
【図5】有機EL装置の製造工程について説明するための図である。
【図6】図4に続く有機EL装置の製造工程を説明するための図である。
【図7】無機保護膜上に形成された第二開口部の変形例に係る平面構成図である。
【図8】電子機器の一実施形態に係る携帯電話の概略構成図である。
【符号の説明】
【0066】
P…基板、1…有機エレクトロルミネッセンス装置、24…第二層間絶縁膜(平坦化層)、40…有機発光層、41…画素電極、44…無機保護膜、50A…有機バンク(有機隔壁)、50B…無機バンク(無機隔壁)、51…第一開口部、52…第二開口部、54…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、有機材料から構成される平坦化層と、該平坦化層上に設けられる画素電極と、該画素電極の上端部を覆うように前記平坦化層上に設けられ、該平坦化層を露出させる第一開口部が形成された無機隔壁と、該無機バンク上に形成され、前記第一開口部を介して前記平坦化層に接触する有機隔壁と、前記画素電極上に設けられる有機発光層と、該有機発光層上に設けられる陰極と、を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置であって、
前記有機隔壁が無機材料から構成される無機保護膜で覆われており、
該無機保護膜には前記有機隔壁を露出させる第二開口部が形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記第二開口部は前記有機隔壁の上面に対応する位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記第二開口部は平面視した状態で、前記第一開口部に対して少なくとも一部が重なるように形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記無機保護膜は、SiO、SiO、SiON、SiN、AlO、AlN、及びAlのいずれかを主体として構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記無機保護膜の膜厚が、50nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記有機発光層は気相法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−270118(P2008−270118A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115138(P2007−115138)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】