説明

有機エレクトロルミネッセンス部材及び有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】低電圧で駆動可能で、高輝度かつ発光寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス部材及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【解決手段】基板上11に少なくとも陽極、陰極12、及び該陽極12と陰極14間に発光層を含む複数の有機層13を有する有機エレクトロルミネッセンス部材において、前記陰極14がアルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物との共蒸着で形成され、さらに前記陰極14が厚さ方向に濃度勾配を有し、前記有機層13との界面側が前記アルカリ金属のハロゲン化物が多いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス部材及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子ともいう)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が挙げられる。無機EL素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0003】
一方、有機EL素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・リン光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、さらに自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
また、有機EL素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば、発光ダイオードや冷陰極管と異なり、面光源であることも大きな特徴である。この特性を有効に活用できる用途として、照明用光源や様々なディスプレイのバックライトがある。特に近年、需要の増加が著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとして用いることも好適である。
【0005】
有機EL素子をこのような照明用光源、あるいはディスプレイのバックライトとして実用するための課題として発光効率の向上、長寿命化が挙げられる。発光効率の向上、長寿命化の手段として、有機EL素子を構成する有機機能層(以下、有機層ともいう)をそれぞれ別個の機能を有する層を複数積層して構成する方法がある。例えば、正孔輸送層/発光層/電子輸送層のような層構成が挙げられる。
【0006】
このような有機EL素子の陰電極として用いられる材料は、発光層へ電子を多く注入することが必要であることから、有機材料の最低空軌道(LUMO)のエネルギーレベルへ電子注入しやすいように、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀、銅といった金属が用いられている。
【0007】
さらに、電子注入効率を向上させる手段として、陰電極をリチウム、ナトリウム、カリウムといった仕事関数の小さいアルカリ金属と上記金属の合金を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、陰電極をナトリウム及び/またはカリウムとアルミニウムの合金をスパッタ法で成膜し、さらに陰電極が厚さ方向に有機層の界面側にナトリウム及び/カリウムが多くなるように濃度勾配を有するように成膜する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献1では実施例において蒸着法によりアルカリ金属を成膜しているが、アルカリ金属は化学的に不安定であるため、ハンドリングが難しく安定に成膜することが難しいといった問題点があった。特許文献2ではスパッタ法を用いて合金を成膜することでハンドリング、安定性についてはある程度は改善されるものの、スパッタ法では生産性が低く、製造コストが増大するという問題点があった。
【0009】
一方、陰電極の有機層側に隣接して、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、窒化物等のアルカリ金属化合物からなる電子注入層を設けて発光特性を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この技術では、化学的に安定なアルカリ金属化合物を用いるためにハンドリングが容易であり、蒸着法等を用いて安定に再現性高く生産するとか可能である。しかしながら、発光特性、寿命ついてはある程度は向上するもののまだ十分ではなく、特に高温高湿条件下での寿命特性に課題があった。
【特許文献1】特開平4−212287号公報
【特許文献2】特開平11−26169号公報
【特許文献3】特許第3529543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低電圧で駆動可能で、高輝度かつ発光寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス部材及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成された。
【0012】
1.基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に発光層を含む複数の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス部材において、前記陰極がアルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物との共蒸着で形成され、さらに前記陰極が厚さ方向に濃度勾配を有し、前記有機層との界面側が前記アルカリ金属のハロゲン化物が多いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス部材。
【0013】
2.前記陰極の有機層との界面のアルカリ金属のハロゲン化物の比率が60at%以上であることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【0014】
3.前記陰極の厚さ方向での厚さの1/2におけるアルカリ金属のハロゲン化物の比率が10at%以下であることを特徴とする前記1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【0015】
4.前記陰極を形成後、80℃以上でかつ前記有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で加熱処理を行うことを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【0016】
5.封止基板上に熱硬化型接着剤を配置した封止部材の熱硬化型接着剤面を、前記1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材の陰極面に接するように貼合し、80℃以上でかつ前記有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で加熱処理し、前記熱硬化型接着剤を硬化して形成した密着封止構造であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低電圧で駆動可能で、高輝度かつ発光寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス部材及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に発光層を含む複数の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス部材において、前記陰極がアルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物との共蒸着で形成され、さらに前記陰極が厚さ方向に濃度勾配を有し、前記有機層との界面側が前記アルカリ金属のハロゲン化物が多い有機エレクトロルミネッセンス部材により、低電圧で駆動可能で、高輝度かつ発光寿命の長い有機エレクトロルミネッセンス部材が得られることを見出し、本発明に至った次第である。
【0019】
本発明において、有機エレクトロルミネッセンス部材とは基板上に陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に発光層を含む複数の有機層を有する構造体のことを言い、有機エレクトロルミネッセンス素子とは有機エレクトロルミネッセンス部材を封止部材により封止させた構造体のことを言う。
【0020】
本発明の実施の形態を図1〜図2を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
〔有機エレクトロルミネッセンス部材〕
図1は本発明の有機エレクトロルミネッセンス部材(以下、有機EL部材ともいう)の概略断面図である。
【0022】
図1において11は基板、12は陽極、13は発光層を含む複数の有機層、14は陰極を表す。
【0023】
(陰極)
陰極14はアルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物との共蒸着で形成される。
【0024】
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えばフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等が挙げられる。
【0025】
本発明において共蒸着とは、同一のチャンバー内で2つ以上の蒸着材料を設けて共通の対象に同時に蒸着させる技術のことを言い、各材料毎に蒸着レートを設定できるため、組成制御が容易に行える。蒸着は高真空中(10−4Pa以下)で行うことが好ましく、蒸気化手段としての加熱方法としては、抵抗加熱法、電子ビーム法等、公知の技術を用いることができる。
【0026】
本発明においては、陰極の厚さ方向の濃度勾配が、陰極の有機層との界面側がアルカリ金属のハロゲン化物が多いこと特徴とする。さらには、陰極の有機層との界面のアルカリ金属のハロゲン化物の比率が60at%以上であることが好ましく、また、陰極の厚さ方向での厚さの1/2におけるアルカリ金属のハロゲン化物の比率が10at%以下であることが好ましい。また、陰極を構成するアルカリ金属のハロゲン化物の含有量は1〜20at%であることが好ましく、1〜15at%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明においては、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物を別々の蒸着源とし、各蒸着レートを精密に制御することで、陰極の厚さ方向に対して、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金とアルカリ金属のハロゲン化物の濃度勾配をこのような値にコントロールすることが可能となる。陰極の厚さ方向の濃度分布については、アルゴンイオンエッチングを用いたXPS、またはSIMSによる深さ方向分析により求めることができる。
【0028】
陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmである。
【0029】
また、本発明において、陰極形成後、80℃以上で、かつ発光層を含む複数の有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で加熱処理を行うことが好ましい。加熱温度は80℃以上で、かつ有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下であればいずれの温度でも構わないが、80〜120℃であることが好ましい。この場合、有機層に用いる有機材料は、加熱温度より高いガラス転移温度を有する材料から選択することが好ましい。
【0030】
また、加熱処理は、陰極形成後であれば、封止工程前、封止工程中、封止工程後のいずれのタイミングでもよい。後述の封止用の接着剤として熱硬化型接着剤を用いた場合、上記加熱処理と封止の接着剤硬化を同時に行うことが可能であり、生産効率からより好ましい形態である。
【0031】
(基板)
基板11は、ガラス、プラスチック等の材質の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。基板側から光を取り出す場合には、基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0032】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0033】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定した水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m・24h)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、さらには、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定した酸素透過度が10−3ml/(m・24h・MPa)以下、水蒸気透過度が10−5g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0034】
(陽極)
陽極12は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を製造可能な材料を用いてもよい。
【0035】
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
【0036】
さらに、膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0037】
(有機層)
発光層を含む複数の有機層13は、複数の有機化合物層を積層した構成であり、発光層以外に、例えば、電子輸送層、電子阻止層、正孔輸送層、正孔阻止層、またバッファー層等が適宜所定の層順で積層される。
【0038】
本発明に係る発光層を含む有機層の層構成の好ましい具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0039】
(1)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
以下に、発光層、及びその他の各有機層についてさらに詳細に説明する。
【0040】
《発光層》
発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。発光層の構成としてホスト化合物、発光ドーパント(発光ドーパント化合物とも言う)を含有し、ドーパントより発光させることが好ましい。
【0041】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光ドーパントを複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0042】
発光ホストとしては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位を持つ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
【0043】
次に、有機EL素子に用いられる発光ドーパントについて説明する。発光ドーパントとしては、蛍光性化合物、燐光発光体(燐光性化合物、燐光発光性化合物等とも言う)を用いることができる。燐光発光体としては、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0044】
以下に、燐光発光体として用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻,1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0045】
【化1】

【0046】
【化2】

【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
【化5】

【0050】
蛍光発光体(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0051】
また、従来公知のドーパントも本発明に用いることができ、例えば、国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等が挙げられる。
【0052】
発光層の膜厚は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜200nmの範囲に調整することが好ましく、さらに好ましくは5nm〜100nmの範囲に調整することである。
【0053】
《正孔注入層(陽極バッファー層)》
正孔注入層は必要に応じて設け、陽極と発光層または正孔輸送層の間に存在させてもよい。陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。正孔注入層の膜厚は素材によるが、2nm〜100nmの範囲に調整することが好ましい。
【0054】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記のごとく、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0055】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。一般に有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0056】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。一般に正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては好ましくは3〜100nmであり、さらに好ましくは5〜30nmである。
【0057】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0058】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0059】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0060】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0061】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0062】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.,文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような所謂、p型正孔輸送材料を用いることもできる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0063】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0064】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0065】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0066】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0067】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0068】
これらの各有機層で用いられる有機化合物は、ガラス転移温度が90℃以上である化合物から選ばれることが好ましく、さらに好ましくは120℃以上であることが好ましい。
【0069】
これら各層の形成方法としては、真空蒸着法、塗布法等、各層の有機化合物材料に適した方法で形成することができる。
【0070】
塗布の方法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法、押し出し塗布法等があるが、大面積化、生産性を考慮するとインクジェット法、スプレー法、押し出し法による成膜が好ましい。
【0071】
また、陰極と有機層の間に、必要に応じて電子注入層(バッファー層)を設けてもよい。
【0072】
《電子注入層(陰極バッファー層)》
電子注入層は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。電子注入層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。電子注入層の形成方法としては、例えば真空蒸着法を用いて形成することができる。
【0073】
〔有機エレクトロルミネッセンス素子〕
図2は本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)の概略断面図である。
【0074】
次に、図2に示した密着封止構造の有機EL素子について説明する。
【0075】
21は基板、22は陽極、23は発光層を含む複数の有機層、24は陰極を表し、上述の図1における11〜14と同義である。
【0076】
25は封止基板であり、26は接着剤である。本発明の有機EL素子は、陰極24面に接着剤26を介して封止基材25で密着封止した構造となっている。
【0077】
本発明の有機EL素子の封止構造としては、発光層を覆うように封止基板が密着して配置されていることが好ましく、したがって封止基板は平板状であることが好ましい。
【0078】
封止基板としては、具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0079】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。金属フィルムの場合は、加工性やコストの面でアルミニウムが好ましい。膜厚は、1〜100μm程度、好ましくは30μm〜50μm程度が望ましい。また、ポリマーフィルムの場合は、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m/24h以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃)、相対湿度(90±2)%RHが、1×10−3g/(m/24h)以下のものであることが好ましい。
【0080】
接着剤26を形成する樹脂としては、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリウレタンアクリレート等の各種アクリレートを主成分とする光ラジカル重合性樹脂や、エポキシ、ビニルエーテル等の樹脂を主成分とする光カチオン重合性樹脂や、チオール・エン付加型樹脂等の光硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ジアクリルフタレート樹脂、セルロース系プラスチック、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等や、これらの2つまたは3つ以上の共重合体等の熱可塑性樹脂や、熱硬化型樹脂等が挙げられる。
【0081】
本発明においては、上述のごとく、生産効率、発光特性の観点から、熱硬化型接着剤を用いることが好ましい。熱硬化型接着剤の硬化温度としては、80℃以上で有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下の温度であることが好ましい。
【0082】
また、接着剤としては液状タイプ、シート状タイプを用いることができる。
【0083】
接着剤の厚さは、液状タイプ、シート状タイプ共に硬化反応時間、有機層への影響、端部からの水分浸透等を考慮し、5〜100μmが好ましい。接着剤を配置し、密着封止構造とする方法としては、使用する接着剤が液状タイプとシート状タイプの場合があるため、接着剤の種類に応じて対応することが可能である。例えば接着剤が液状タイプの場合、封止基板の片面に予め接着剤をスクリーン印刷、またはディスペンサー等により塗設し、その後、接着剤が有機エレクトロルミネッセンス部材の陰極面に接するように封止部材を貼合し、密着封止構造を形成することができる。シート状タイプの場合は、必要とする大きさにしたシート状接着剤を切り出しておき、必要であれば予め封止基板の片面側に完全硬化しない程度に仮ラミネーションしておき、その後、接着剤が有機エレクトロルミネッセンス部材の陰極面に接するように封止部材を貼合し、密着封止構造を形成することができる。
【0084】
なお、封止基板に接着剤を配置する前に、封止基板に異物付着を避けるため、例えば、粘着式ロールクリーナ、UVオゾン洗浄等で清掃することが好ましい。
【0085】
また、接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。乾燥剤としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0086】
接着剤の配置から接着剤の硬化処理までは、有機EL素子の劣化による寿命低減の観点より、水分濃度、酸素濃度が低いことが重要であり、好ましくは水分濃度10ppm以下、酸素濃度10ppm以下の環境下で行うことが好ましい。貼合は、気泡の混入を考慮し、1Pa〜30kPaの減圧環境下で行うことが好ましい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
実施例1
《有機EL部材101の作製》
陽極としてガラス基板上にITO(In:Sn)を150nm成膜した基板(NHテクノグラス社製:NA−45)を、55mm×45mmの大きさに断裁し、発光部分が45mm×34mmの長方形になるようにパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明基板をiso−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、紫外線オゾン洗浄を5分間行った。
【0089】
この透明基板を、市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、さらにステンレス鋼製の長方形穴あきマスクを取り付けた。なお、マスクは有機層が46mm×35mmの面積でITOを覆う条件となるように取り付けた。一方、5つのタンタル製抵抗加熱ボートに、α−NPD(ガラス転移温度97℃)、H−1(ガラス転移温度109℃)、Ir−1、BAlq(ガラス転移温度99℃)、Alq(ガラス転移温度128℃)をそれぞれ装填し、真空蒸着装置(第1真空槽)に取り付けた。
【0090】
タンタル製抵抗加熱ボートにフッ化カリウムを、タングステン製抵抗加熱ボートにアルミニウムをそれぞれ入れ、真空蒸着装置の第2真空槽に取り付けた。
【0091】
まず、第1の真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.15nm/秒で、透明支持基板に膜厚25nmの厚さになるように蒸着し、正孔輸送層を設けた。
【0092】
次いで、H−1の入った加熱ボートとIr−1の入った加熱ボートをそれぞれ独立に通電して発光ホストであるH−1と発光ドーパントであるIr−1の蒸着速度が100:9になるように調節し、膜厚40nmの厚さになるように蒸着して、発光層を設けた。次いで、BAlqの入った加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.15nm/秒で厚さ10nmの正孔阻止層を設けた。さらに、Alqの入った加熱ボートを通電して加熱し、蒸着速度0.15nm/秒で、膜厚40nmの電子輸送層を設けた。
【0093】
次に、電子輸送層まで製膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、電子輸送層の上にステンレス鋼製の長方形穴あきマスクが配置されるように装置外部からリモートコントロールして設置した。第2真空槽を2×10−4Paまで減圧した後、アルミニウムの入ったボートに通電して蒸着速度1.5nm/秒で膜厚100nmの陰極をつけて、有機EL部材101を得た。
【0094】
有機EL部材101に用いた各化合物の構造を、以下に示す。
【0095】
【化6】

【0096】
《有機EL部材102の作製》
有機EL部材101の作製において、電子輸送層を製膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、フッ化カリウム入りのボートに通電して蒸着速度0.015nm/秒で膜厚0.5nmの電子注入層を設け、次いでアルミニウムの入ったボートに通電して蒸着速度1.5nm/秒で膜厚100nmの陰極を製膜した以外は同様にして有機EL部材102を得た。
【0097】
《有機EL部材103の作製》
有機EL素子101の作製において、電子輸送層を製膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、フッ化カリウムの入ったボートとアルミニウムの入ったボートを同時に通電して、陰極の厚さ方向のフッ化カリウムの濃度分布が表1に示すような一定の値になるように、それぞれフッ化カリウムとアルミニウムの蒸着速度をコントロールして、膜厚100nmの陰極を製膜した以外は同様にして有機EL部材103を得た。
【0098】
《有機EL部材104〜106の作製》
有機EL素子101の作製において、電子輸送層を製膜した素子を真空のまま第2真空槽に移した後、フッ化カリウムの入ったボートとアルミニウムの入ったボートを同時に通電して、陰極の厚さ方向のフッ化カリウムが濃度勾配を有し、さらに陰極の有機層との界面のアルカリ金属のハロゲン化物の比率、及び陰極の厚さ方向での厚さの1/2(陰極の有機層との界面から50nm)におけるアルカリ金属のハロゲン化物の比率が表1に示すような値になるように、それぞれフッ化カリウムとアルミニウムの蒸着速度をコントロールして、膜厚100nmの陰極を製膜した以外は同様にして有機EL部材104〜106を得た。
【0099】
なお、作製したEL部材の陰極の厚さ方向のフッ化カリウムの濃度分布については、陰極をアルゴンイオンでエッチングを繰り返しながらXPSにより解析を行った。有機EL部材103、104、105、106の陰極の厚さ方向のフッ化カリウム(KF)濃度分布の概略図を、それぞれ図3の(1)、(2)、(3)、(4)に示す。
【0100】
《有機EL部材の評価》
作製した有機EL部材101〜106について下記のようにして、正面輝度、駆動電圧、高温環境下での寿命特性を評価した。
【0101】
(正面輝度、駆動電圧)
23℃、乾燥窒素雰囲気下で2.5mA/cm定電流を印加したときの正面輝度を測定した。測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。なお、正面輝度は、有機EL部材101の測定値を100とした相対値で表した。
【0102】
また、駆動電圧については、正面輝度が1000cd/mになるときの値を測定した。
【0103】
(高温環境下の寿命特性)
40℃、乾燥窒素雰囲気下で初期輝度1000cd/mを与える一定電流で連続駆動したときに、輝度が半減するのに要した時間を測定し、これを半減寿命時間(τ0.5)として寿命の指標とした。
【0104】
測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用い、有機EL部材101の測定値を100とした相対値で表した。
【0105】
評価の結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1から明らかなように、陰極がアルミニウムとフッ化カリウムを有し、フッ化カリウムが陰極の厚さ方向に濃度勾配を有する本発明の有機EL部材は、正面輝度が高く、低電圧で、高温環境下での寿命特性が優れていることが分かる。
【0108】
実施例2
《有機EL部材201〜204の作製》
実施例1の有機EL部材106の作製において、陰極製膜後、窒素雰囲気化で表2に示す温度で加熱処理した以外は同様にして、有機EL部材201〜204を作製した。
【0109】
得られた有機EL部材201〜204について、実施例1と同様にして正面輝度、駆動電圧、高温環境下での寿命特性を評価した。
【0110】
評価の結果を表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
表2から明らかなように、80℃以上でかつ有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で熱硬化型接着剤を硬化して密着封止構造とした本発明の有機EL部材202〜204は、正面輝度が高く、駆動電圧が低く、高温環境下での寿命特性が優れていることが分かる。
【0113】
実施例3
《有機EL素子301の作製》
実施例1の有機EL部材106を作製後、窒素雰囲気化で下記の方法で封止で行い、有機EL素子301を作製した。
【0114】
(封止)
封止基板としてガラスを用い、発光領域を覆う大きさに断裁した後、一方の面に熱硬化型の液状接着剤(エポキシ樹脂系)をスクリーン印刷法にて厚さ30μmに全面配置した。その後、準備した有機EL部材の発光領域及び発光領域の周囲を覆い被せるように貼合し固着し、95℃で60分加熱硬化処理を行った。
【0115】
得られた有機EL素子について、実施例1と同様にして正面輝度、駆動電圧、高温環境下での寿命特性を評価したところ、実施例2の有機EL部材203とほぼ同様な性能を示した。
【0116】
実施例2の有機EL部材203の加熱処理を封止作業時に行うことで、正面輝度、駆動電圧、高温環境下での寿命特性の向上と共に生産性を効率化することができた。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の有機エレクトロルミネッセンス部材の概略断面図である。
【図2】本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の概略断面図である。
【図3】有機EL部材の陰極の厚さ方向のフッ化カリウム(KF)濃度分布の概略図である。
【符号の説明】
【0118】
11、21 基板
12、22 陽極
13、23 有機層
14、24 陰極
25 封止基板
26 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に少なくとも陽極、陰極、及び該陽極と陰極間に発光層を含む複数の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス部材において、前記陰極がアルミニウム、マグネシウム、インジウム、銀及び銅から選ばれる単体金属またはこれらの合金と、アルカリ金属のハロゲン化物との共蒸着で形成され、さらに前記陰極が厚さ方向に濃度勾配を有し、前記有機層との界面側が前記アルカリ金属のハロゲン化物が多いことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス部材。
【請求項2】
前記陰極の有機層との界面のアルカリ金属のハロゲン化物の比率が60at%以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【請求項3】
前記陰極の厚さ方向での厚さの1/2におけるアルカリ金属のハロゲン化物の比率が10at%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【請求項4】
前記陰極を形成後、80℃以上でかつ前記有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で加熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材。
【請求項5】
封止基板上に熱硬化型接着剤を配置した封止部材の熱硬化型接着剤面を、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス部材の陰極面に接するように貼合し、80℃以上でかつ前記有機層に用いる有機材料のガラス転移温度以下で加熱処理し、前記熱硬化型接着剤を硬化して形成した密着封止構造であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−146746(P2010−146746A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319505(P2008−319505)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】