説明

有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置

【課題】 複数の発光ユニットを積層した有機エレクトロルミネッセント素子において、各発光ユニット内での膜厚を変えずに容易にキャビティを調整することができる有機エレクトロルミネッセント素子を得る。
【解決手段】 陰極10と、陽極1と、陰極10及び陽極1の間に中間ユニット6を介して積層される複数の発光ユニット5及び7と、陽極1に最も近い発光ユニット5と陽極1の間に設けられるキャビティ調整層3と、キャビティ調整層に隣接して発光ユニット5側に設けられる電子引き抜き層4とを備え、キャビティ調整層3の膜厚を調整することにより、各発光ユニット5及び7の発光位置から陽極1までの光学的距離が調整されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子及び有機エレクトロルミネッセント表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセント素子(有機EL素子)は、ディスプレイや照明への応用の観点から活発に開発が行われている。有機EL素子の駆動原理は、以下のようなものである。すなわち、陽極及び陰極からそれぞれホールと電子が注入され、これらが有機薄膜中を輸送され、発光層において再結合し励起状態が生じ、この励起状態から発光が得られる。発光効率を高めるためには、効率良くホール及び電子を注入させ、有機薄膜中を輸送させることが必要である。しかしながら、有機EL素子内のキャリアの移動は、電極と有機薄膜間のエネルギー障壁や、有機薄膜内のキャリア移動度の低さにより制限を受けるため、発光効率の向上にも限界がある。
【0003】
一方、発光効率を向上させる他の方法として、複数の発光層を積層する方法が挙げられる。例えば、補色関係にあるオレンジ色発光層と青色発光層とを直接接するように積層することにより、1層の場合より高い発光効率を得ることができる場合がある。例えば、青色発光層の発光効率が10cd/Aであり、オレンジ色発光層の発光効率が8cd/Aである場合に、これらを積層して白色発光素子とした場合に、15cd/Aの発光効率が得られている。
【0004】
しかしながら、複数の発光層を積層した場合、発光領域が複数存在するため、キャビティ調整が困難になるという問題があった。すなわち、発光層からの光には、陽極側に出射される光と、陰極側に出射される光があり、陰極は一般に反射性電極から形成されるため、陰極側に出射された光は、陰極で反射し陽極側に出射される。このように、有機EL素子においては、二重経路による光学干渉が存在するため、素子内の光学的距離を調整し、素子から出射される光の量を高めることが設計上重要となる。
【0005】
特許文献1及び特許文献2においては、複数の発光ユニットを積層した有機EL素子において、各発光ユニットごとにそれぞれの光学的膜厚を調整することにより、上記のキャビティ調整を行っている。しかしながら、各発光ユニットごとに、発光ユニットを構成する層の厚みを調整すると、各発光ユニットにおけるキャリアバランスが変化し、素子特性自体が大きく変化してしまい、所望の特性が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開2003−272860号公報
【特許文献2】特開2004−342614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、複数の発光ユニットを積層した有機EL素子において、各発光ユニット内での膜厚を変えずに、容易にキャビティを調整することができる有機EL素子及びそれを用いた有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の有機EL素子は、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットとを備え、陽極に最も近い発光ユニットと陽極の間に、各発光ユニットの発光位置から陽極までの光学的距離を調整するキャビティ調整層と、キャビティ調整層に隣接して発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とをさらに備えることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、陽極に最も近い発光ユニットと陰極の間にキャビティ調整層が設けられており、キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、各発光ユニットの発光位置から陽極までの光学的距離を調整することができる。このため、各発光ユニット内の膜厚を変化させることなく、キャビティを調整することができる。このため、素子特性に大きな変化を与えることなくキャビティを調整することができる。従って、本発明によれば、各発光ユニットの発光位置から透明電極である陽極側に出射されたときの光路と、陰極側に出射され、反射性電極である陰極に反射され陽極側に向かう光路による光学干渉を調整することができ、素子からの光抽出量を高めることができる。
【0009】
本発明においては、キャビティ調整層の発光ユニット側に、キャビティ調整層に隣接して電子引き抜き層が設けられている。この電子引き抜き層は、発光ユニット側に隣接する層から電子を引き抜き、これにより発生したホールを発光ユニット側に供給するとともに、引き抜いた電子を陽極側に供給する。この電子引き抜き層に隣接する層は、発光ユニット内の層であってもよいし、発光ユニットに含まれない層であってもよい。すなわち、電子引き抜き層は発光ユニットに隣接してもよいし、発光ユニット以外の層に隣接していてもよい。
【0010】
キャビティ調整層の発光ユニット側に電子引き抜き層を設けることにより、有機EL素子の寿命特性を長くすることができる。
【0011】
本発明においては、キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、各発光ユニットの発光位置から陽極までの光学的距離を調整している。このため、キャビティ調整層を構成する材料は、膜厚の変化による発光特性への影響が少ない材料であることが好ましい。一般に、有機EL素子を構成する有機層の膜厚が厚くなると、駆動電圧が増大したり、発光効率が低下したりする。このような影響を低減する観点から、本発明におけるキャビティ調整層を構成する材料は、キャリア移動度が1×10-6cm2/Vs以上である材料が好ましく、さらに好ましくは、1×10-4cm2/Vs以上のキャリア移動度を有する材料が用いられる。本発明におけるキャビティ調整層は、ホール輸送性材料から形成されることが好ましく、従って、そのホール移動度は、1×10-6cm2/Vs以上であることが好ましく、さらに好ましくは1×10-4cm2/Vs以上である。キャリア移動度は、Time of Flight法により測定することができる。
【0012】
また、本発明におけるキャビティ調整層は、発光ユニットからの光を外部に放出する際、損失なく外部に取り出すことができるようにするため、その屈折率は、他の有機層と整合性を考慮し、1.6〜1.8の範囲内であることが好ましい。屈折率は、例えば、シリコン基板上に膜厚100nmの測定対象の薄膜を形成し、エリプソメーターで測定することができる。エリプソメーターの光源としては、例えば、出力1mWのHe−Neレーザー(波長632.8nm)を用いることができる。
【0013】
また、本発明におけるキャビティ調整層を構成する材料は、1μmの膜厚で、波長400nm〜700nmの範囲の可視光を50%以上透過する材料であることが好ましい。これにより、各発光ユニットからの光が、キャビティ調整層で吸収され、大幅に減衰するのを防止することができる。
【0014】
本発明におけるキャビティ層は、上述のように、例えばホール輸送性材料から形成することができる。このようなホール輸送性材料としては、アリールアミン系ホール輸送性材料を挙げることができる。
【0015】
また、本発明においては、キャビティ調整層に隣接して陽極側に第2の電子引き抜き層が設けられていてもよい。陽極側に第2の電子引き抜き層を設けることにより、有機EL素子の耐熱性及び耐光性を向上させることができる。
【0016】
本発明における電子引き抜き層は、例えば、以下に示す構造式で表わされるピラジン誘導体から形成することができる。
【0017】
【化1】

【0018】
(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【0019】
本発明において、さらに好ましくは、以下に示す構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレン誘導体から電子引き抜き層を形成することができる。
【0020】
【化2】

【0021】
(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【0022】
本発明の有機EL素子においては、陰極及び陽極の間に、複数の発光ユニットが設けられている。これら複数の発光ユニットは、中間ユニットを介して積層されている。中間ユニットとしては、陰極側に隣接する隣接層から電子を引き抜くための電子引き抜き層と、電子引き抜き層の陽極側に隣接する電子注入層を有するものであることが好ましい。また、電子引き抜き層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│と、隣接層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│が、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、電子注入層の最低空分子軌道(LUMO)のエネルギーレベルの絶対値|LUMO(C)|または仕事関数の絶対値|WF(C)|は、|LUMO(A)|より小さいことが好ましい。
【0023】
中間ユニットは、中間ユニット内に設けられた電子引き抜き層による隣接層からの電子の引き抜きにより発生したホールを陰極側に位置する発光ユニットに供給するとともに、引き抜いた電子を電子注入層を介して陽極側に位置する発光ユニットに供給する。
【0024】
以下、中間ユニットの説明において、陰極側に位置する発光ユニットを第1の発光ユニット、陽極側に位置する発光ユニットを第2の発光ユニットとして説明する。
【0025】
上述のように、中間ユニットにおいて、隣接層のHOMOのエネルギーレベルの絶対値│HOMO(B)│と、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値│LUMO(A)│とは、│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eVの関係にあり、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルは、隣接層のHOMOのエネルギーレベルに近い値となっていることが好ましい。これにより、電子引き抜き層は隣接層から電子を引き抜くことができる。この隣接層からの電子の引き抜きにより、隣接層にはホールが発生する。隣接層が第1の発光ユニット内に設けられている場合には、第1の発光ユニットにホールが発生する。また、隣接層が電子引き抜き層と第1の発光ユニットの間に設けられている場合、すなわち中間ユニット内に設けられている場合には、隣接層に発生したホールが、第1の発光ユニットに供給される。第1の発光ユニットに供給されたホールは、陰極からの電子と再結合し、これによって第1の発光ユニットが発光する。
【0026】
一方、電子引き抜き層に引き抜かれた電子は、電子注入層に移動し、電子注入層から第2の発光ユニットに供給され、陽極から供給されたホールと再結合し、これによって第2の発光ユニットが発光する。
【0027】
また中間ユニットにおいて、電子引き抜き層が隣接層から電子を引き抜くためには、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルが、隣接層のLUMOのエネルギーレベルよりも、隣接層のHOMOのエネルギーレベルに近いことが好ましい。すなわち、隣接層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値│LUMO(B)│は、以下の関係を満足することが好ましい。
│HOMO(B)│−│LUMO(A)│<│LUMO(A)│−│LUMO(B)│
【0028】
また、電子引き抜き層として用いる材料のLUMOのエネルギーレベルの絶対値は、一般に隣接層のHOMOをエネルギーレベルの絶対値よりも小さいので、このような場合、それぞれのエネルギーレベルの絶対値は、以下の関係式で示される。
0eV<│HOMO(B)│−│LUMO(A)│≦1.5eV
【0029】
電子注入層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値|LUMO(C)|または仕事関数の絶対値|WF(C)|は、電子引き抜き層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値|LUMO(A)|より小さいことが好ましく、これにより、電子引き抜き層より引き抜かれた電子は、電子注入層に移動し、電子注入層から第2の発光ユニットに供給される。
【0030】
中間ユニット内の電子注入層と、第2の発光ユニットとの間には、電子輸送層が設けられることが好ましい。電子輸送層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値|LUMO(D)|は、電子注入層のLUMOのエネルギーレベルの絶対値|LUMO(C)|または仕事関数の絶対値|WF(C)|より小さいことが好ましい。電子輸送層が設けられている場合には、電子注入層に移動した電子は、電子輸送層を通り第2の発光ユニットに供給される。従って、中間ユニットは、電子引き抜き層が引き抜いた電子を電子注入層及び電子輸送層を介して第2の発光ユニットに供給する。
【0031】
中間ユニットにおける電子引き抜き層は、上記本発明のキャビティ調整層に隣接して設けられる電子引き抜き層と同様の材料から形成することができる。すなわち、上記構造式で表わされるピラジン誘導体から形成することができ、さらに好ましくは上記構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレン誘導体から形成することができる。
【0032】
また、中間ユニット内の電子注入層は、例えば、Li及びCsなどのアルカリ金属、Li2Oなどのアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属酸化物などから形成することが好ましい。
【0033】
また、中間ユニット内の電子輸送層は、有機EL素子において一般に電子輸送性材料として用いられている材料から形成することができる。例えば、Tris(8−quinolinate)aluminum誘導体などのキレート金属錯体、あるいはo−またはm−またはp−phenanthroline誘導体、あるいはシロール誘導体、あるいはオキサジアゾール誘導体、あるいはトリアゾール誘導体等を挙げることができる。
【0034】
本発明における発光ユニットは、それぞれ単一の発光層から形成されていてもよいし、複数の発光層を直接接するように積層して構成されていてもよい。例えば、青色発光層とオレンジ色発光層を積層した白色発光ユニットであってもよい。
【0035】
また、本発明における発光ユニットを構成する発光層は、ホスト材料とドーパント材料から形成されていることが好ましい。必要に応じてキャリア輸送性の第2のドーパント材料が含有されていてもよい。ドーパント材料としては、一重項発光材料であってもよいし、三重項発光材料(燐光発光材料)であってもよい。
【0036】
本発明に従うボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板の上に配置し、陰極及び陽極のうち基板側に設けられる電極を透明電極としたボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットと、陽極に最も近い発光ユニットと陽極の間に設けられるキャビティ調整層と、キャビティ調整層に隣接して発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とを備え、キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、各発光ユニットの発光位置から陽極までの光学的距離が調整されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置である。
【0037】
本発明に従うトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置は、陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、有機エレクトロルミネッセント素子をアクティブマトリックス駆動基板と封止基板の間に配置し、陰極及び陽極のうち封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、有機エレクトロルミネッセント素子が、陰極と、陽極と、陰極及び陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットと、陽極に最も近い発光ユニットと陽極の間に設けられるキャビティ調整層と、キャビティ調整層に隣接して発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とを備え、キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、各発光ユニットの発光位置から陽極までの光学的距離が調整されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置である。
【0038】
有機エレクトロルミネッセント素子が白色発光の素子である場合、カラーフィルターが配置されていることが好ましい。ボトムエミッション型の有機EL表示装置の場合、アクティブマトリックス駆動基板と有機EL素子の間にカラーフィルターが配置されていることが好ましい。また、トップエミッション型の有機EL表示装置の場合、封止基板と有機EL素子の間にカラーフィルターが配置されていることが好ましい。
【0039】
トップエミッション型の表示装置の場合、有機EL素子で発光した光は、アクティブマトリックスが設けられている側と反対側の封止基板から出射される。一般にアクティブマトリックス回路は多数の層を積層して形成するものであり、ボトムエミッション型の場合はこのようなアクティブマトリックス駆動基板の存在により出射光が減衰するが、トップエミッション型の場合、このようなアクティブマトリックス回路による影響を受けることなく光を出射することができる。
【0040】
本発明の発光装置は、上記本発明の有機エレクトロルミネッセント素子を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0041】
本発明の有機EL素子は、複数の発光ユニットを積層した有機EL素子であって、各発光ユニット内での膜厚を変えずに、容易にキャビティを調整することができる。従って、所望の発光色を有し、かつ有機ELからの光抽出量が高い有機EL素子とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1は、本発明に従う有機EL素子を示す模式的断面図である。ITO(インジウム錫酸化物)膜からなる陽極1は、ガラス基板の上に形成されており、陽極1の上に、フルオロカーボン(CFx)層からなるホール注入層2が形成されている。
【0043】
ホール注入層2の上には、NPBなどのホール輸送性材料からなるキャビティ調整層3が形成されている。キャビティ調整層3の上には、電子引き抜き層4が形成されている。
【0044】
電子引き抜き層4の上には、第1の発光ユニット5及び第2の発光ユニット7が設けられており、第1の発光ユニット5と第2の発光ユニット7の間に中間ユニット6が設けられている。第1の発光ユニット5は、オレンジ色発光層5bの上に青色発光層5aを積層することにより構成されており、第2の発光ユニット7も同様に、オレンジ色発光層7bの上に青色発光層7aを積層することにより構成されている。従って、第1の発光ユニット5及び第2の発光ユニット7は白色発光のユニットである。
【0045】
中間ユニット6は、青色発光層5a上に設けられる電子輸送層6cと、電子輸送層6c上に設けられる電子注入層6bと、電子注入層6b上に設けられる電子引き抜き層6aから構成されている。
【0046】
第2の発光ユニット7の上には、電子輸送層8が設けられており、電子輸送層8の上には電子注入層9が設けられている。電子注入層9の上には陰極10が設けられている。
【0047】
図1に示す実施例において、第1の発光ユニット5からの発光は陽極1に向かって出射されるとともに、陰極10に向かっても出射される。陰極10に出射された光は、陰極10が反射性電極から形成されているため、陰極10の表面で反射し、陽極1側に向かう。また、第2の発光ユニット7において発光した光も陽極1側に出射されるとともに、陰極10側に出射され、陰極10の表面で反射された光が陽極1側に向かう。
【0048】
従って、これらの光の干渉を調整して、有機EL素子から出射される光の量を高めるためには、キャビティを調整する必要がある。本発明においては、キャビティ調整層3が設けられているので、キャビティ調整層3の膜厚を調整することにより、第1の発光ユニット5及び第2の発光ユニット7の各発光位置から陽極1までの光学的距離を調整することができ、容易にキャビティの調整を行うことができる。
【0049】
本実施例では、第1の発光ユニット5と第2の発光ユニット7の間に中間ユニット6が設けられている。中間ユニット6の電子引き抜き層6aは、隣接するオレンジ色発光層7bから電子を引き抜き、これにより発生したホールを第2の発光ユニット7側に供給するとともに、引き抜いた電子を電子注入層6b及び電子輸送層6cを介して第1の発光ユニット5に供給する。第2の発光ユニット7に供給されたホールは、陰極10から供給された電子と再結合することにより、第2の発光ユニット7が発光する。また、第1の発光ユニット5に供給された電子は、陽極1から供給されたホールと再結合し、第1の発光ユニット5が発光する。従って、中間ユニット6を設けることにより、第1の発光ユニット5及び第2の発光ユニット7を効率良く発光させることができる。
【0050】
キャビティ調整層3に隣接して第1の発光ユニット5側に電子引き抜き層4が設けられている。電子引き抜き層4を設けることにより、後述するように素子の寿命特性を向上させることができる。
【0051】
また、本発明においては、陰極側に第2の電子引き抜き層を設けてもよい。すなわち、キャビティ調整層3に隣接してホール注入層2側に第2の電子引き抜き層を設けてもよい。第2の電子引き抜き層を設けることにより、素子の耐熱性及び耐光性を向上させることができる。
【0052】
〔白色発光素子の作製〕(実施例1〜7及び参考例1〜5)
図1を参照して説明した構造を有する実施例1〜7及び参考例1〜5の有機EL素子を作製した。各層の組成は表1に示す通りである。
【0053】
【表1】

【0054】
ホール注入層であるフルオロカーボン層は、CHF3ガスのプラズマ重合により形成し。フルオロカーボン層の厚みは1nmとした。
【0055】
キャビティ調整層は、表2に示すように、NPBから形成した。NPBはN,N′−ジ(ナフタセン−1−イル)−N,N′−ジフェニルベンジジンであり、以下の構造を有している。
【0056】
【化3】

【0057】
第1の電子引き抜き層及び第2の電子引き抜き層は、HAT−CN6から形成した。HAT−CN6は、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルであり、以下の構造を有している。
【0058】
【化4】

【0059】
キャビティ調整層並びに第1及び第2の電子引き抜き層は、表2に示す膜厚となるように形成した。なお、単位はnmである。
【0060】
第1の発光ユニット及び第2の発光ユニットは、表1に示すように、オレンジ色発光層の上に青色発光層を積層することにより構成している。
【0061】
オレンジ色発光層は、ホール輸送性材料であるNPBをホスト材料として80重量%用い、TBADNを20重量%用い、オレンジ色発光ドーパントであるDBzRをNPBとTBADNの合計100重量%に対して3重量%用いて形成している。但し、この場合、TBADNは、ホスト材料からの励起エネルギーをオレンジ発光ドーパントであるDBzRに受け渡すエネルギー移動補助ドーパントとして機能する。ここで、エネルギー移動補助ドーパントとは、LUMO(最低空分子軌道)レベル及びエネルギーギャップが、ホストと発光ドーパントの間の値を持つ材料のことであり、ホストからの励起エネルギーを効率良く発光ドーパントに受け渡す役割を持つドーパントのことを示す。
【0062】
TBADNは、2−ターシャリー−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセンであり、以下の構造を有している。
【0063】
【化5】

【0064】
DBzRは、5,12−ビス{4−(6−メチルベンゾチアゾール−2−イル)フェニル}−6,11−ジフェニルナフタセンであり、以下の構造を有している。
【0065】
【化6】

【0066】
青色発光層は、電子輸送性材料であるTBADNをホスト材料として用い、NPBをキャリア移動補助ドーパントとして用い、TBPを青色発光ドーパントとして用いている。TBADNの含有量は80重量%であり、NPBの含有量は20重量%であり、TBPの含有量はTBADNとNPBの合計100重量%に対して2.5重量%である。ここで、キャリア移動補助ドーパントとは、ホスト材料に比べて補助すべきキャリアの移動度が高い材料であり、一方のキャリアの注入を促進し、発光層内での両キャリア密度を均衝させて再結合確率を高めることで、発光効率を高める役割を持つドーパントのことを示す。この場合、電子輸送性材料であるTBADN中に、TBADNよりもホール輸送移動度の高いNPBを含有させることで、NPBは青色発光層内でのホールの移動を補助し、発光効率を高める役割を担っている。
【0067】
TBPは、2,5,8,11−テトラ−ターシャリー−ブチルペリレンであり、以下の構造を有している。
【0068】
【化7】

【0069】
電子輸送層は、BCPから形成されている。BCPは、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンであり、以下の構造を有している。
【0070】
【化8】

【0071】
中間ユニットは、表1に示すように、電子輸送層をBCPから形成し、電子注入層をLi2Oから形成し、電子引き抜き層をHAT−CN6から形成している。
【0072】
電子注入層は、LiFから形成し、陰極はAlから形成している。
【0073】
各層の厚みは表1及び表2に示す通りである。なお、単位はnmである。
【0074】
実施例1〜7及び参考例1〜6の各有機EL素子の駆動電圧、色度、及び発光効率を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2に示すように、キャビティ調整層の膜厚を増加させると、駆動電圧が若干高くなり、発光効率が若干低下する傾向にあるが、色度に与える影響が少ないことがわかる。従って、従来の各発光ユニットの膜厚を変化させる場合に比べ、キャビティの調整が容易であることがわかる。
【0077】
図2は、実施例1〜2及び参考例1〜4の駆動時間と発光強度との関係を示す図である。図2に示すように、第1の電子引き抜き層を設けた実施例1〜2及び参考例4は、第1の電子引き抜き層を設けていない参考例1〜3に比べ、長い駆動時間で高い発光強度が得られており、寿命特性が向上していることがわかる。従って、第1の電子引き抜き層を設けることにより、寿命特性が向上することがわかる。
【0078】
図3は、キャビティ調整層の膜厚と駆動電圧との関係を示す図である。図3に示す結果からキャビティ調整層の膜厚としては、10nm〜600nmの範囲内であることが好ましいと考えられる。
【0079】
図4は、本発明に従う一実施例の有機EL表示装置を示す断面図である。この有機EL表示層においては、能動素子としてTFT(薄膜トランジスタ)を用いて、R(赤色)、G(緑色)、及びB(青色)の各画素における発光を駆動している。図4を参照して、ポリシリコン層からなるチャネル領域11は、図示されないガラスなどの透明基板の上に形成されている。チャネル領域11の上には、ドレイン電極12d及びソース電極12sが形成されており、ドレイン電極12dとソース電極12sの間には、ゲート絶縁膜13を介してゲート電極14が設けられている。ゲート電極14の上には、絶縁層15が設けられている。各絶縁層は、SiNX及び/またはSiO2などから形成されている。
【0080】
ドレイン電極12d及びソース電極12sの上には、第1の平坦化膜16が形成されている。ドレイン電極12dの上方の第1の平坦化膜16には、スルーホール部が形成され、第1の平坦化膜16の上に形成されているITO膜からなる陽極1がスルーホール部内に導入されている。画素領域における陽極1の上には、ホール注入層2が形成されている。画素領域以外の部分においては、第2の平坦化膜17が形成されている。
【0081】
ホール注入層2の上には、本発明に従い、キャビティ調整層3及び電子引き抜き層4が形成されている。キャビティ層3及び電子引き抜き層4は、図4において1つの層として図示されている。図4に示すように、キャビティ調整層3及び電子引き抜き層4は、RGBの各画素毎に独立して形成されている。これは、RGBの各画素において、キャビティ調整層の最適膜厚が異なるためであり、それぞれRGBの各画素毎に個別に形成することが好ましいからである。
【0082】
各画素のキャビティ調整層3及び電子引き抜き層4の上に、第1の発光ユニット5、中間ユニット6、第2の発光ユニット7がそれぞれ各画素毎に独立して形成されている。第2の発光ユニット7の上には、電子輸送層8が形成されている。電子輸送層8は、各画素毎に独立して積層されたキャビティ調整層3、電子引き抜き層4、第1の発光ユニット5、中間ユニット6、及び第2の発光ユニット7の間の溝を埋めるように形成されている。
【0083】
電子輸送層8の上には、電子注入層9及び陰極10が形成されている。図4において、電子注入層9及び陰極10は1つの層として図示されている。陰極10の上には、保護層18が形成されている。
【0084】
図4に示すように、各画素毎に形成されたキャビティ調整層3の膜厚を各画素毎に適宜調整することにより、各画素におけるキャビティを調整することができる。
【0085】
図4に示す実施例は、基板側に向かって光が出射されるボトムエミッション型の有機EL表示装置であるが、陽極2と陰極10の位置の上下関係を逆にし、陰極10の上に、電子注入層9、電子輸送層8、第2の発光ユニット7、中間ユニット6、第1の発光ユニット5、電子引き抜き層4、及びキャビティ調整層3を順次積層することにより、基板と反対側に光を出射するトップエミッション型の有機EL表示装置とすることができる。
【0086】
また、図4に示す有機EL表示装置では、画素領域を設け、表示装置としているが、発光層を全体に設けることにより、バックライト光源などの有機EL発光装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に従う一実施例の有機EL素子を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従う実施例及び参考例の駆動時間と発光強度との関係を示す図。
【図3】キャビティ調整層の膜厚と駆動電圧との関係を示す図。
【図4】本発明に従う一実施例の有機EL表示装置を示す図。
【符号の説明】
【0088】
1…陽極
2…ホール注入層
3…キャビティ調整層
4…電子引き抜き層
5…第1の発光ユニット
6…中間ユニット
7…第2の発光ユニット
8…電子輸送層
9…電子注入層
10…陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、陽極と、前記陰極及び前記陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットとを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極に最も近い前記発光ユニットと前記陽極の間に、前記各発光ユニットの発光位置から前記陽極までの光学的距離を調整するキャビティ調整層と、前記キャビティ調整層に隣接して前記発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とをさらに備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記キャビティ調整層がホール輸送性材料から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項3】
前記キャビティ調整層が、アリールアミン系ホール輸送性材料から形成されていることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項4】
第2の電子引き抜き層が、前記キャビティ調整層に隣接して前記陽極側に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【請求項5】
前記電子引き抜き層が、以下に示す構造式で表わされるピラジン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化1】

(ここで、Arはアリール基を示し、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項6】
前記電子引き抜き層が、以下に示す構造式で表わされるヘキサアザトリフェニレン誘導体から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子。
【化2】

(ここで、Rは水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルキルオキシ基、ジアルキルアミン基、またはF、Cl、Br、IもしくはCNを示す。)
【請求項7】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板の上に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記基板側に設けられる電極を透明電極としたボトムエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、前記陰極と、前記陽極と、前記陰極及び前記陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットと、前記陽極に最も近い前記発光ユニットと前記陽極の間に設けられるキャビティ調整層と、前記キャビティ調整層に隣接して前記発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とを備え、
前記キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、前記各発光ユニットの発光位置から前記陽極までの光学的距離が調整されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項8】
陽極と陰極に挟まれた素子構造を有する有機エレクトロルミネッセント素子と、表示画素毎に対応した表示信号を前記有機エレクトロルミネッセント素子に供給するための能動素子が設けられたアクティブマトリックス駆動基板と、該アクティブマトリックス駆動基板と対向して設けられる透明な封止基板とを備え、前記有機エレクトロルミネッセント素子を前記アクティブマトリックス駆動基板と前記封止基板の間に配置し、前記陰極及び前記陽極のうち前記封止基板側に設けられる電極を透明電極としたトップエミッション型の有機エレクトロルミネッセント表示装置であって、
前記有機エレクトロルミネッセント素子が、前記陰極と、前記陽極と、前記陰極及び前記陽極の間に中間ユニットを介して配置される複数の発光ユニットと、前記陽極に最も近い前記発光ユニットと前記陽極の間に設けられるキャビティ調整層と、前記キャビティ調整層に隣接して前記発光ユニット側に設けられる電子引き抜き層とを備え、
前記キャビティ調整層の膜厚を調整することにより、前記各発光ユニットの発光位置から前記陽極までの光学的距離が調整されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセント表示装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセント素子を用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセント発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−35579(P2007−35579A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221105(P2005−221105)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】