説明

有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラム及びその製造方法

【課題】
従来の開始剤を用いたラジカル重合法の製法に代えて、放射線照射共重合法により有機ポリマー製モノリスカラムを合成する。
【解決手段】
溶融シリカキャピラリー管内に、(1)メタクリル酸ヘキシル及び架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコール、又は(2)メタクリル酸グリシジル及び架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコールを、1−プロパノール、1,4−ブタンジオール、及び水の混合溶媒の存在下でCo−60γ線を用いて室温(25℃)で放射線共重合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線重合法により、溶融シリカキャピラリー管内に、メタクリル酸ヘキシルと架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコール、又はメタクリル酸グリシジルと架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコールとを、1−プロパノール、1,4−ブタンジオール、及び水の混合溶媒に溶かしたモノマー溶液を充填した後、Co−60γ線を用いて放射線共重合した、芳香族化合物の疎水性相互作用の違いにより分離し、及び共重合後、陽イオン交換基を導入して陽イオン交換を行うモノリスゲルを有する有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラム及びその製造方法である。
【0002】
即ち、本発明は、複数の芳香族化合物をそれらの疎水性相互作用の違いにより分離することのできる、モノマーと架橋剤モノマーからなる2種類のモノマーを放射線共重合させて得られたモノリスゲルを有する有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラム及びその製造方法に関するものである。上記モノリスゲルとは、重合によって生成した粒子と粒子の間が結合している状態、又はその粒子がブドウの房状の形態をしているものである。
【0003】
又、本発明は、モノマーと架橋剤モノマーからなる2種類のモノマーを放射線共重合させた後に、陽イオン交換基を導入した陽イオン交換を行うことのできるモノリスゲルを有する有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラム及びその製造方法に関するものである。前記カラムは、複数種類の芳香族化合物の疎水性相互作用の違いにより、それぞれの芳香族化合物を分離することに使用される。
【従来技術】
【0004】
分離分析の分野では、分析時間の高速化への要求が強まっているが、粒子状の分離媒体を充填する従来のカラムでは、カラム背圧の増加や理論段数の低下を抑えることができずその改善が望まれていた。この問題を解決するためには、連続多孔質分離媒体(モノリス)を有する低背圧カラムの構築が必要である。その一つとして、モノリスをカラム管内で直接合成することができ、かつモノマーの種類が豊富で多様な分離選択性の創出が容易な開始剤を用いたラジカル重合法による有機ポリマー製モノリスカラムが知られている(非特許文献1,2)。
【非特許文献1】Journal of Chromatography A, 946(2002)99-106
【非特許文献2】Nuclear Instrument and Metals in Physics Research B 185(254-261)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、連続多孔質分離媒体(モノリス)を有する低背圧カラムを構成するモノリスをカラム管内で直接合成する方法において、従来の開始剤を用いたラジカル重合法の製法に代えて、放射線照射共重合法により有機ポリマー製モノリスカラムを合成することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムは、溶融シリカキャピラリー管内に、(1)メタクリル酸ヘキシル及び架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコール、又は(2)メタクリル酸グリシジル及び架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコールを、1−プロパノール、1,4−ブタンジオール及び水の混合溶媒の存在下でCo−60γ線を用いて室温(25℃)で放射線共重合して得られたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶融シリカキャピラリー管内にモノマー溶液を充填し、室温(25℃)にて短時間の放射線共重合により粒子径が小さく、且つ単分散のモノリスゲルを有する有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムが開発された。さらに、モノリスゲル作製時のモノマー濃度を調製することによってカラム背圧が低く、理論段数の高いモノリスキャピラリーカラムを効率よく作製することができる。
【発明が実施される最良の形態】
【0008】
本発明で行われる放射線重合法は、室温(0〜25℃)において短時間(約1時間前後)で重合が完結することを特徴とするものである。従って、本発明においては、従来の技術では困難であった重合時間の短縮化や重合温度の低減化の課題が克服でき、粒子径が小さく、且つ単分散のモノリスゲルを有する有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムを合成することができる。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
内径0.25mmの溶融シリカキャピラリー管内壁表面を、モノリスゲルが抜け落ちないようにするために、モノマー及びガラスの両方に結合部位を持つ3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにより60℃で24時間処理した後、メタクリル酸ヘキシル(HMA)と架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコール(EDMA)(25%)を1−プロパノール、1,4−ブタンジオール、水の混合溶媒に溶かしたモノマー濃度40%の反応溶液を3分間窒素バブリングした。
【0010】
このモノマー溶液を前処理した溶融シリカキャピラリー管内に充填した後、両端をシリコン栓で密封し、室温(25℃)で線量率10kGy/hのCo−60γ線を1時間照射してモノリスゲルを作製した。
【0011】
このようにして得られたモノリスキャピラリーカラムを用いて、アセトフェノン、ニトロベンゼン、ナフタレンの芳香族化合物の疎水性相互作用の違いによる分離を行った。3成分の保持挙動(図1;図中、Tは溶媒に対する全モノマー濃度を示す。)は、比較例で示す熱重合法により作製したモノリスキャピラリーカラムのそれ(図3)と良く一致し、線量率10kGy/hで1時間重合することによって十分な分離性能を有するモノリスキャピラリーカラムを得た。
(実施例2)
実施例1と同様な方法で、表1(モノリスカラム作製時のモノマー溶液の組成)に示す各モノマー濃度の反応溶液を用いて、よりカラム背圧の低いモノリスキャピラリーカラムを作製した。このようにして得られたモノリスキャピラリーカラムを用いて、アセトフェノン、ニトロベンゼン、ナフタレンの芳香族化合物の分離を行った。送液度1mm/s(流速:3μL/min)の時のカラム背圧は、図2のようにモノマー濃度40%で4.0MPa、10%で0.5MPaであった。モノマー濃度20%以下のモノリスカラムではカラム背圧が2.0MPa以下となり、市販のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)用ポンプでも十分に高速分離が可能なモノリスカラムを得た。この時の理論段数は、1500段/180mmであり、比較例で示す熱重合法のカラム(モノマー濃度40%)の3倍であった。
【0012】
【表1】

【0013】
上記表中、C1〜C5はサンプルのロットナンバーであり、Tは溶媒に対する全モノマー濃度を示す。
(比較例1)
メタクリル酸ヘキシル(300μL)と架橋剤のジメタクリル酸エチレングリコール(100μL)を1−プロパノール(350μL)、1,4−ブタンジオール(200μL)、水(50μL)の混合溶媒に溶かしたモノマー濃度40%の反応溶液を3分間窒素バブリングした後、重合開始剤である2,2−アゾイソブチロニトリル(4mg)を添加した。このモノマー濃度40%の溶液を前処理した溶融シリカキャピラリー管内に充填した後、両端をシリコン栓で密封し、反応温度60℃で24時間重合した。
【0014】
このようにして得られたモノリスキャピラリーカラムを用いて、アセトフェノン、ニトロベンゼン、ナフタレンの芳香族化合物の疎水性相互作用の違いによる分離を行い、図3に示す3成分の保持挙動を得た。この時の理論段数は、500段/18mmであった。
【産業上の利用分野】
【0015】
有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムは、モノマーの種類が豊富で目的に応じたモノマー系を選択でき、多様な分離選択性の創出が容易であること、適用可能なpH範囲が2〜12と広く、固定相の化学修飾が容易であるなどの特徴を持ち、多様な分離選択性と適応性を併せ持つカラムの創製が期待される。本発明の放射線重合法で作製した高分離性有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムによってこれらの課題を解決することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の放射線重合により作製したモノリスカラムによる芳香族化合物の分離形態を示す図である。
【図2】本発明のモノマー濃度とカラム背圧の関係を示す図である。
【図3】熱重合により作製したモノリスカラムによる芳香族化合物の分離形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類のモノマーを放射線共重合して得た、芳香族化合物の疎水性相互作用の違いによる分離、および陽イオン交換基を導入したことによる陽イオン交換を行うモノリスゲルからなる有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラム。
【請求項2】
2種類のモノマーを混合溶媒に溶かした溶液を溶融シリカキャピラリー管内に充填した後、放射線共重合して得たモノリスゲルからなる有機ポリマー製モノリスキャピラリーカラムの製造方法。
【請求項3】
モノマーとしてメタクリル酸ヘキシル−ジメタクリル酸エチレングリコール系、メタクリル酸グリシジル−ジメタクリル酸エチレングリコール系を用いる請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
混合溶媒として1−プロパノール、1,4−ブタンジオール、水の3成分からなる請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
放射線源としてCo−60γ線を用いる請求項2記載の製造方法。
【請求項6】
反応温度が0℃〜室温(25℃)である請求項2記載の製造方法。
【請求項7】
10〜40容量%とモノマー濃度を変えてカラム背圧を調整する請求項2記載の製造方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−247515(P2006−247515A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66929(P2005−66929)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】