説明

有機メルカプト化合物の製造方法

【課題】実質的にスルフィド化合物を副生させることなく、高収率、かつ簡便な手段で有機メルカプト化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】有機ハロゲン化合物と水硫化物塩を反応させ、有機メルカプト化合物を製造する方法であって、硫黄オキソ酸塩類の存在下、硫化水素の加圧下で反応を行う、有機メルカプト化合物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機メルカプト化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機メルカプト化合物は、プラスチックレンズ用モノマーやオレフィン類の重合時に用いられる連鎖移動剤、エポキシ樹脂の硬化剤等、多種多様な用途で使われており、近年では、有機メルカプト化合物中のメルカプト基と金属の結合力の強さを利用し、シリコン基板上への電極のパターニング技術において、シリコン基板と電極金属を接合する単分子膜としても利用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記有機メルカプト化合物を製造する方法としては、これまでに数多く報告されている。例えば、オレフィンへの硫化水素の付加、有機ハロゲン化物に硫化アルカリ金属塩又は水硫化アルカリ金属塩を反応させる方法、有機ハロゲン化物又はアルコール類と、チオ尿素の反応によりイソチウロニウム塩を生成させ、さらに塩基で加水分解する方法、ブンテ塩の加水分解による方法、エピスルフィドの開環による方法、ジスルフィド化合物の還元による方法等が挙げられる。
【0004】
これらの中でも有機ハロゲン化物を原料とする有機メルカプト化合物の製造方法は、高収率で簡便な製造法として数多く知られている(例えば、特許文献2及び3)。
【0005】
しかしながら、特許文献2及び3の製造方法ではスルフィド化合物の副生が避けられない。特にハロゲン原子が複数置換された多置換ハロゲン化合物を原料とする有機メルカプト化合物の製造では、分子内反応により、多種の環状スルフィド化合物が副生する。これらのスルフィド化合物は、目的化合物である有機メルカプト化合物と物性が似ており、そのため精製による分離が困難である。
【0006】
スルフィド化合物を副生させない方法として、四硫化二ナトリウムと有機ハロゲン化合物を反応させ、さらに金属粉を用いて還元する方法(例えば、特許文献4)等がある。しかしながら、該反応は、工程数が多く、しかも還元後、使用した重金属の廃液が出てしまう、という問題がある。
【0007】
そのため、スルフィド化合物を副生させることなく、目的化合物である有機メルカプト化合物を高収率、かつ簡便に製造できる製造法が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−293082号公報
【特許文献2】特開2001−39944号公報
【特許文献3】特開2008−63320号公報
【特許文献4】特開平5−279321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、実質的にスルフィド化合物を副生させることなく、高収率、かつ簡便な手段で有機メルカプト化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、硫黄オキソ酸塩類の存在下、硫化水素の加圧下で、有機ハロゲン化合物と水硫化物塩を反応させることにより、本発明の課題を悉く解決できることを見出した。本発明は係る知見に基づき完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に記載の有機メルカプト化合物を製造する方法を提供するものである。
【0012】
項1.有機ハロゲン化合物と
下記一般式(1):
SH (1)
(式(1)中、Mはアルカリ金属を表す)
及び/又は、下記一般式(2):
(SH) (2)
(式(2)中、Mはアルカリ土類金属を表す)
で表される水硫化物塩を反応させ、有機メルカプト化合物を製造する方法であって、
硫黄オキソ酸塩類の存在下、硫化水素の加圧下で反応を行う、有機メルカプト化合物を製造する方法。
【0013】
項2.前記硫黄オキソ酸塩類が、
亜硫酸、亜硫酸水素、チオ硫酸、亜ジチオン酸、及び二亜硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種、
との塩である項1に記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。
【0014】
項3.硫黄オキソ酸塩類の配合量が、有機ハロゲン化物1モルに対して、0.01〜0.15モルである項1又は2に記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。
【0015】
項4.硫化水素の加圧による反応時の内圧が、0.01〜2MPaである項1〜3のいずれかに記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機ハロゲン化合物と水硫化物塩の反応において、実質的にスルフィド化合物が副生されず、有機メルカプト化合物を高収率かつ簡易に製造することができる。
【0017】
そのため、本発明の有機メルカプト化合物の製造方法は、工業的に極めて有用な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
本発明の有機メルカプト化合物を製造する方法は、硫黄オキソ酸塩類の存在下、硫化水素の加圧下で、有機ハロゲン化合物と水硫化物塩を反応させることを特徴とする。
【0020】
反応原料である有機ハロゲン化合物は、この種の反応で用いられる公知の有機ハロゲン化合物をいずれも使用できる。このような有機ハロゲン化合物としては、例えば、1〜6個のハロゲン原子を有する炭化水素が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0021】
前記炭化水素の具体例としては、炭素数1〜10の炭化水素が挙げられ、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0022】
脂肪族炭化水素の具体例としては、炭素数1〜10程度のアルカン;炭素数2〜10程度のアルケン;炭素数2〜10程度のアルキン;炭素数3〜10程度のシクロアルカン等が挙げられる。より具体的には、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン、エチニレン、プロピニレン、ブチニレン、ペンチニレン、ヘキシニレン等が挙げられる。
【0023】
脂環式炭化水素の具体例としては、炭素数3〜10のシクロアルカン等が挙げられる。より具体的には、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素の具体例としては、炭素数6〜10の芳香族炭化水素が挙げられ、より具体的には、例えば、ベンゼン、ナフタレン等が挙げられる。また、前記芳香族炭化水素は、芳香族炭化水素を形成する炭素原子が、ヘテロ原子に置換された複素環を形成していてもよい。そのような複素環としては、トリアジン等が挙げられる。
【0025】
前記1〜6個のハロゲン原子を有する炭化水素の具体例としては、例えば、クロロメタン、クロロエタン、クロロプロパン、クロロブタン、クロロペンタン、クロロヘキサン、クロロヘプタン、クロロオクタン、クロロノナン、クロロデカン、ブロモプロパン、ヨードプロパン、1,3−ジクロロプロパン、1,2,3−トリクロロプロパン、テトラクロロペンタエリスリトール、テトラブロモペンタエリスリトール、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン、クロロシクロブタン、クロロシクロペンタン、クロロシクロヘキサン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、アリルクロリド、メタリルクロリド、プロパルギルクロリド、塩化シアヌル等が挙げられる。
【0026】
前記ハロゲン原子が置換された炭化水素は、置換基であるハロゲン原子以外に、本発明の有機メルカプト化合物の製造方法において反応に関与しない置換基をさらに有していてもよい。反応に関与しない置換基としては、炭化水素基、ヘテロ原子を有する置換基等が挙げられる。
【0027】
反応に関与しない置換基として置換される炭化水素基としては、例えば脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0028】
脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜6程度のアルキル基;炭素数2〜6程度のアルケニル基;炭素数2〜6程度のアルキニル基;炭素数3〜6程度のシクロアルキル等が挙げられる。より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ビニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
【0029】
脂環式炭化水素基の具体例としては、炭素数3〜6程度のシクロアルキル基等が挙げられる。より具体的には、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
芳香族炭化水素基の具体例としては、炭素数6〜10程度の芳香族炭化水素基が挙げられ、より具体的には、例えば、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0031】
前記へテロ原子を有する置換基におけるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。ヘテロ原子が酸素原子である場合の置換基の具体例としては、ヒドロキシ基;ニトロ基;及びヒドロキシ基、ニトロ基、カルボニル基、又はエーテル結合を有する炭化水素等が挙げられる。ヘテロ原子が窒素原子である場合の置換基の具体例としては、第1級〜第3級アミノ基;シアノ基;アミド基、又はイミド基を有する炭化水素基等が挙げられる。前記ヘテロ原子が硫黄原子である場合の置換基の具体例としては、チオール基;スルホ基;スルフィド結合、又はジスルフィド結合を有する炭化水素基等が挙げられる。
【0032】
前記へテロ原子を有する置換基は、複素環構造を有していてもよい。具体的には、チエニル基、フリル基、ピラニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、ピリジニル基等の炭素数5〜10のヘテロ環構造を有する置換基等が挙げられる。
【0033】
これらの反応に関与しない置換基を有する有機ハロゲン化合物の具体例としては、例えば、1−クロロ−2,3−プロパンジオール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオール、トリクロロペンタエリスリトール、トリブロモペンタエリスリトール、3-クロロプロピルアミン塩酸塩、3−ジメチルアミノプロピルクロリド塩酸塩、2−クロロエタンスルホン酸ナトリウム、2−(クロロメチル)チオフェン、2−クロロメチルフラン、2−(クロロメチル)テトラヒドロピラン、2−クロロピリジン等が挙げられる。
【0034】
ヘテロ原子及び/又は本発明の製造方法において反応に関与しない置換基をさらに有していてもよい、ハロゲン原子が置換された炭化水素としては、例えば、特開2008−63320号公報で特定される式:
X−CH−Y−CH−X
(式中、Xはハロゲン原子を表し、Yはヘテロ原子及び/又は反応に関与しない炭化水素である)
で表される化合物等が含まれる。
【0035】
本発明の製造方法において反応に関与しない置換基として、ヘテロ原子を有する置換基を有する、ハロゲン原子が置換された炭化水素であって、炭化水素がトリアジンである場合には、例えば、特開2006−265119号公報で特定される式:
【0036】
【化1】

【0037】
(式中、R、Rは独立に、水素原子又は置換基として有してもよい炭素数1〜10の炭化水素基である)
で示されるアミノトリアジンジクロリド等が含まれる。
【0038】
ヘテロ原子及び/又は本発明の製造方法において反応に関与しない置換基をさらに有していてもよいハロゲン原子が置換された炭化水素において、炭化水素が芳香族炭化水素である場合には、例えば、特開平5−117225号公報で特定される式:
【0039】
【化2】

【0040】
(式中、Xは塩素原子又は臭素原子を示し、R〜RはXが臭素原子である場合、それぞれ同一又は独立に水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、もしくは、RとR、RとR、RとRで互いに結合し縮合環を形成してもよい。更に、Xが塩素原子である場合、R〜Rはそれぞれ同一又は独立に水素原子、塩素原子、炭素数1〜9のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、もしくは、RとR、RとR、RとRで互いに結合し縮合環を形成してもよい)
で示される化合物等が含まれる。
【0041】
ハロゲン原子が置換された炭化水素において、炭化水素がアルケンである場合には、例えば、特開平2007−204453号公報で挙げられるアルケニルハライドが含まれ、具体的には、アルケニルクロライド又はアルケニルブロマイドが挙げられ、より具体的には、例えば、2−プロペニル(アリル)ハライド、2−メチル−2−プロペニル(メタリル)ハライド、2−ブテニル(クロチル)ハライド、3−ブテニルハライド、3−メチル−2−ブテニル(プレニル)ハライド、2−ペンテニル、3−ペンテニルハライド、4−ペンテニルハライド等が含まれる。
【0042】
炭化水素がアルケンである場合のハロゲン原子を有する炭化水素の具体例としては、例えば、特開平4−257557号公報において挙げられるハロゲン化アリールアルキルが含まれる。
【0043】
ヘテロ原子及び/又は本発明の製造方法において反応に関与しない置換基をさらに有していてもよい、ハロゲン原子が置換された炭化水素としては、例えば、特開昭62−294652号公報で挙げられるベンジルハライド誘導体が含まれ、具体的には、式
【0044】
【化3】

【0045】
(式中、Zはハロゲン原子を示し、Rは水素原子又は低級アルキル基を示し、Xは炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐を有するアルキル基、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐を有するアルコキシ基、炭素数3〜6のアルケニルオキシ基、低級ハロアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、ハロゲン原子、
【0046】
【化4】

【0047】
(但し、Yはハロゲン原子、低級アルキル基若しくは低級ハロアルキル基を示し、mは0又は1〜3の整数を示し、mが2又は3の場合は、Yは同一でも互いに異なってもよい。)
又はトリメチルシリル基を示し、nは、1〜3の整数を示す。nが2又は3の場合は、Xは同一でも互いに異なってもよい。)
等が挙げられる。
【0048】
本発明で用いる硫黄オキソ酸塩類としては、公知のものを広く使用できる。例えば、亜硫酸、亜硫酸水素、チオ硫酸、亜ジチオン酸、及び二亜硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種との塩が好ましい。
【0049】
具体的には、亜硫酸リチウム、亜硫酸水素リチウム、チオ硫酸リチウム、亜ジチオン酸リチウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、チオ硫酸カリウム等の硫黄オキソ酸アルカリ金属塩;亜硫酸カルシウム、チオ硫酸カルシウム、亜ジチオン酸カルシウム、亜硫酸マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、亜硫酸バリウム、チオ硫酸バリウム等の硫黄オキソ酸アルカリ土類金属塩;亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。
【0050】
前記硫黄オキソ酸塩類の配合量は、有機ハロゲン化物1モルに対して、約0.01〜0.15モルが好ましく、約0.05〜0.1モルがより好ましく、約0.06〜0.08モルがさらに好ましい。硫黄オキソ酸塩類の配合量を0.01モル以上に設定することで、モノスルフィド化合物の副生を抑制できるという効果が得られる。また、硫黄オキソ酸塩類の配合量を0.15モル以下に設定することで、ジスルフィド化合物等の副生を抑制することができる、という効果が得られる。
【0051】
本発明の有機メルカプト化合物の製造方法は、硫化水素の加圧下で行われる。硫化水素の加圧による反応時の反応容器内の内圧は、約0.01〜2.0MPaであることが好ましく、約0.3〜1.0MPaであることがより好ましい。
反応容器内の内圧を0.01MPa以上に設定することによって、モノスルフィド化合物の副生を抑制できるという効果が得られる。また、反応容器内の内圧を2.0MPaを超えると、モノスルフィド化合物の副生を抑制する効果に変化はなく、使用量を増やすことになるだけなので好ましくない。
【0052】
水硫化物塩としては、下記一般式(1):
SH (1)
(式(1)中、Mはアルカリ金属を表す)
で表されるアルカリ金属の水硫化物塩、及び/又は
下記一般式(2):
(SH) (2)
(式(2)中、Mはアルカリ土類金属を表す)
で表されるアルカリ土類金属の水硫化物塩が挙げられる。
【0053】
式(1)中のMで表されるアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、式(2)中のMで表されるアルカリ土類金属としては、カルシウム等が挙げられる。
【0054】
式(1)で表されるアルカリ金属の水硫化物塩の具体例としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等が挙げられる。式(2)で表されるアルカリ土類金属の水硫化物塩の具体例としては、水硫化カルシウム等が挙げられる。
【0055】
有機ハロゲン化合物と反応させる水硫化物塩の配合量としては、有機ハロゲン化合物のハロゲン原子の数により適宜設定される。例えば、有機ハロゲン化合物がモノハロゲン化合物である場合、モノハロゲン化合物1モルに対して、約0.5〜5モルが好ましく、約1〜3モルがより好ましい。有機ハロゲン化合物がジハロゲン化合物である場合、ジハロゲン化合物1モルに対して、約1.0〜10モルが好ましく、約2〜4モルがより好ましい。有機ハロゲン化合物がトリハロゲン化合物である場合、トリハロゲン化合物1モルに対して、約1.5〜15モルが好ましく、約3〜5モルがより好ましい。有機ハロゲン化合物がテトラハロゲン化合物である場合、テトラハロゲン化合物1モルに対して、約2.0〜20モルが好ましく、約4〜6モルがより好ましい。有機ハロゲン化合物がペンタハロゲン化合物である場合、ペンタハロゲン化合物1モルに対して、約2.5〜25モルが好ましく、約5〜7モルがより好ましい。有機ハロゲン化合物がヘキサハロゲン化合物である場合、ヘキサハロゲン化合物1モルに対して、約3.0〜30モルが好ましく、約6〜8モルがより好ましい。水硫化物塩の配合量を上記の範囲に設定することで、ハロゲンを全てチオールに置換した目的化合物を得られる。
【0056】
本発明の製造方法は、溶媒を用いて行うことが好ましく、具体的には、水、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、非プロトン性極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等)等を用いることができる。
【0057】
反応温度は、約0〜150℃が好ましく、約40〜80℃がより好ましい。反応温度を0℃以上に設定することによって、目的生成物である有機メルカプト化合物の収率を向上させることができ、反応速度も向上するため反応時間を短縮することができる。また、反応温度を150℃以下に設定することによって、スルフィド化合物及びジスルフィド化合物の副生を抑制することができる。
【0058】
前記の有機ハロゲン化合物、及び硫黄オキソ酸塩類、水硫化物塩、及び溶媒の配合の順序としては、例えば、水硫化物塩を溶媒に溶解させて水硫化物塩溶液を調製し、有機ハロゲン化合物と硫黄オキソ酸塩類の混合液に、当該水硫化物塩溶液を滴下して反応を行ってもよく、また、水硫化物塩と硫黄オキソ酸塩類の混合液に、有機ハロゲン化合物又は有機ハロゲン化合物を溶媒に溶かしたものを滴下して反応を行ってもよい。
【0059】
本発明の製造方法によって得られた有機メルカプト化合物は、従来のプラスチックレンズ用モノマー、オレフィン類の重合時に用いられる連鎖移動剤、エポキシ樹脂の硬化剤、シリコン基板上への電極のパターニングの際のシリコン基板と電極金属を接合する単分子膜として利用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に制限されるものではない。
【0061】
なお、各実施例において得られた化合物は、下記に示すガスクロマトグラフィー(GC)により純度を測定した。
【0062】
・GC分析装置:(株)島津製作所製 GC−2014
・カラム:DB5−MS
・気化室温度:290℃
・検出器温度:290℃
・キャリヤーガス流量:30cm/秒
・昇温設定:100℃から10℃/分の昇温速度で280℃まで昇温し、280℃で12分保持。
【0063】
・実施例1
200mlオートクレーブに、1−クロロ−2,3−プロパンジオールを15.0g(136mmol)、亜硫酸水素ナトリウムを0.816g(6.8mmol)、及びメタノール(100mmol)を加え、反応容器内の内圧が0.34MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を60℃に加熱し、メタノール(17ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを16.34g(204mmol)1時間で滴下した。15時間反応させた後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下40℃で留去した。酢酸エチル(30ml)、水(20ml)を加え、濃硫酸(177mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させた後、減圧下60℃で溶媒を留去することにより1,2−ヒドロキシ−3−プロパンチオールを13.83g(128mmol、収率94%、純度99%)得た。
【0064】
・実施例2
200mlオートクレーブに、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを15.0g(116mmol)、亜硫酸水素ナトリウムを0.974g(9.3mmol)、及びメタノール(108ml)を加え、反応容器の内圧が0.35MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を60℃に加熱し、メタノール(29ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを27.88g(348mmol)1時間で滴下した。16時間反応後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下40℃で留去した。酢酸エチル(30ml)、水(20ml)を加え、濃塩酸29.00g(278mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させた後、減圧下60℃で溶媒を留去することにより2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールを13.42g(108mmol、収率93%、純度99%)得た。
【0065】
・実施例3
200mlオートクレーブに、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを15.0g(116mmol)、亜ジチオン酸ナトリウムを0.808g(4.6mmol)、及びメタノール(108ml)を加え、反応容器の内圧が0.35MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を60℃に加熱し、メタノール(29ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを27.88g(348mmol)1時間で滴下した。15時間反応させた後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下40℃で留去した。酢酸エチル(30ml)、水(20ml)を加え、濃塩酸29.06g(279mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させた後、減圧下60℃で溶媒を留去することにより2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールを13.16g(106mmol、収率91%、純度98%)得た。
【0066】
・実施例4
200mlオートクレーブに、1,3−ジクロロ−2−プロパノールを15.0g(116mmol)、亜硫酸ナトリウムを1.324g(10.5mmol)、及びメタノール(108ml)を加え、反応容器の内圧が0.35MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を60℃に加熱し、メタノール(40ml)に溶解させた硫化カリウムを31.99g(290mmol)1時間で滴下した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下40℃で留去した。
酢酸エチル(30ml)、水(20ml)を加え、濃塩酸25.42g(244mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させたのち、減圧下60℃で溶媒を留去することにより2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールを12.80g(103mmol、収率89%、純度97%)得た。
【0067】
・実施例5
200mlオートクレーブに、水酸化カルシウムを12.89g(174mmol)、亜硫酸水素ナトリウムを0.974g(9.3mmol)、及びメタノール(108ml)を加え、反応容器の内圧が0.35MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を60℃に加熱し、メタノール(29ml)に溶解させた1,3−ジクロロ−2−プロパノールを15.0g(116mmol)1時間で滴下した。16時間反応後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下40℃で留去した。酢酸エチル(30ml)、水(20ml)を加え、濃塩酸30.52g(293mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で洗浄した。硫酸マグネシウムにより乾燥させた後、減圧下60℃で溶媒を留去することにより2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールを12.30g(収率85%、純度96%)得た。
【0068】
・実施例6
200mlオートクレーブに、2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオールを15.0g(57.3mmol)、チオ硫酸ナトリウムを0.901g(5.7mmol)、及びメタノール(39ml)を加え、反応容器の内圧が0.42MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を80℃に加熱し、メタノール(19ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを11.46g(143mmol)1時間で滴下した。14時間反応後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、メタノールを減圧下45℃で留去した。酢酸エチル(45ml)、水(20ml)を加え、濃塩酸11.46g(110mmol)で中和した。有機相を分取し、水(20ml)で3回洗浄した後、硫酸マグネシウムにより乾燥させ、減圧下60℃で溶媒を留去することにより2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジチオールを8.41g(50mmol、収率88%、純度99%)得た。
【0069】
・実施例7
350mlオートクレーブに、トリブロモペンタエリスリトールを15.0g(46mmol)、亜硫酸水素ナトリウムを0.479g(4.6mmol)、及びDMF(90ml)を加え、反応容器の内圧が0.34MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を100℃に加熱し、DMF(78ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを12.90g(161mmol)1時間で滴下した。18時間反応後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、水(92ml)、トルエン(140ml)を加え、濃塩酸16.85g(161mmol)で中和した。有機相を分取し、水(90ml)で2回洗浄した後、硫酸マグネシウムにより乾燥させ、減圧下60℃で溶媒を留去することによりトリメルカプトペンタエリスリトール7.21g(39mmol、収率85%、純度96%)を得た。
【0070】
・実施例8
350mlオートクレーブに、テトラブロモペンタエリスリトールを15.0g(39mmol)、亜硫酸水素アンモニウムを0.387g(3.9mmol)、及びDMF(90ml)を加え、反応容器の内圧が0.40MPaになるまで硫化水素で加圧した。反応容器を80℃に加熱し、DMF(85ml)に溶解させた水硫化ナトリウムを14.10g(176mmol)1時間で滴下した。18時間反応後、室温まで冷却し、反応容器内の硫化水素を脱気した。ろ過により無機塩を除去し、水(75ml)、トルエン(116ml)を加え、濃塩酸(176mmol)で中和した。有機相を分取し、水(75ml)で洗浄した後、硫酸マグネシウムにより乾燥させ、減圧下60℃で溶媒を留去することによりテトラメルカプトペンタエリスリトールを7.11g(36mmol、収率92%、純度99%)得た。
【0071】
・比較例1
亜硫酸水素ナトリウムを加えない以外は、実施例2と同様の操作を行った。得られた反応液の組成を分析した結果、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールの収率は89%であったが、副生成物として、3−ヒドロキシチエタンが10%、及び4−ヒドロキシ−1,2−ジチオランが1%生成していた。
【0072】
・比較例2
硫化水素による加圧を行わずに大気圧下、硫化水素を含まない系で実施例2と同様の操作を行った。得られた反応液の組成を分析した結果、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジチオールの収率は53%であったが、副生成物として3−ヒドロキシチエタンが27%、及び4−ヒドロキシ−1,2−ジチオランが19%生成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ハロゲン化合物と
下記一般式(1):
SH (1)
(式(1)中、Mはアルカリ金属を表す)
及び/又は、下記一般式(2):
(SH) (2)
(式(2)中、Mはアルカリ土類金属を表す)
で表される水硫化物塩を反応させ、有機メルカプト化合物を製造する方法であって、
硫黄オキソ酸塩類の存在下、硫化水素の加圧下で反応を行う、有機メルカプト化合物を製造する方法。
【請求項2】
前記硫黄オキソ酸塩類が、
亜硫酸、亜硫酸水素、チオ硫酸、亜ジチオン酸、及び二亜硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種と、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種、
との塩である請求項1に記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。
【請求項3】
硫黄オキソ酸塩類の配合量が、有機ハロゲン化物1モルに対して、0.01〜0.15モルである請求項1又は2に記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。
【請求項4】
硫化水素の加圧による反応時の内圧が、0.01〜2MPaである請求項1〜3のいずれかに記載の有機メルカプト化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2013−18740(P2013−18740A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153748(P2011−153748)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000116817)旭化学工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】