説明

有機リン化合物及びこれを含む有機リン系重合体

【課題】
力学特性を低下することなく優れた低光学分散性に光学特性を有する有機リン系重合体及びそのモノマーとなる新規の有機リン化合物を提供する。
【解決手段】
本発明の有機リン化合物は、下記式(1)で示される構造からなることを特徴とする。
【化16】


(式中Y、Y’は、各々独立に脂肪族基、芳香族基、縮合環式脂肪族基、縮合環式芳香族基、複素環基からなる群から選ばれる炭素数1〜20の有機基である。Xは、酸素、硫黄、セレン、テルル、非共有電子対からなる群から選ばれる。l、m、及びnは各々独立に1〜4の整数である。)
また有機リン系重合体は、上記の有機リン化合物に対応する構造単位を有する重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン化合物及びこれを含む有機リン系重合体に関し、さらに詳しくは光学特性に優れた有機リン系重合体及びそのモノマーに利用可能な有機リン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン化合物は、生体内にも含まれており生体適合性の化合物への応用や、難燃性、種々の金属との親和性から、触媒、難燃剤、農薬、高分子モノマーなどをはじめ様々な分野で広く利用されている。特に、有機リン化合物をモノマーとして得られる5価のリン原子であるホスホン酸の残基を含むポリマーは、無色透明性および難燃性に優れ、高屈折率、高アッベ数(光学分散が低く色収差が小さいこと)を示し、光学材料用途としても有望である。
【0003】
近年では、ファインケミカル、ヘルスケアやエレクトロニクスの急速な発展に伴い、高分子材料自体に要求される機能・性能もますます精密かつ高いレベルとなってきている。
【0004】
その中で光学用材料のヘルスケア用途の一例として眼鏡レンズが挙げられ、薄型化、軽量化、ファッション性等の観点から活発な材料開発が行われており、現在では耐衝撃性、軽量性等の利点から、市場の90%は樹脂レンズが占めるようになってきた。
【0005】
従来の眼鏡レンズ用樹脂は、CR39、アクリル、ウレタンの3つに大別され、低分散、高屈折を目指して多くの樹脂が開発実用化されてきた。しかし、これらの樹脂はすべて熱硬化性であるため、光学レンズへの成形は注型重合が用いられ、この方法は重合時間が長く、その後のアニーリングプロセスなど、製造コストが高いという問題点がある。
【0006】
そこで、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂をレンズに適用すれば、成形性がよく、熱硬化性樹脂に比べレンズの製造コストを格段に安くできるという利点がある。しかし、ポリカーボネートは、屈折率が1.58と低いために視力矯正眼鏡用途としての性能は不十分である。またポリカーボネート以上の屈折率を有する熱可塑性樹脂も数多く知られているが、高分散性、着色性等の問題があり、光学レンズ用途への適用は困難であった。
【0007】
また、位相差フィルムなどの光学フィルムやディスク用基板等のエレクトロニクス用途にもポリカーボネートのような無色透明の熱可塑性樹脂が広く用いられている。特に位相差フィルムは、反射型カラー液晶ディスプレイのコントラストを決める重要な構成部材のひとつである。しかし、現在用いられているポリカーボネートは、波長分散特性が十分ではなく、反射型カラー液晶ディスプレイの高コントラスト化のためには、位相差フィルムとして用いる樹脂フィルムの波長分散特性を、ポリカーボネート以上に向上させることがひとつの技術課題となっている。
【0008】
本発明者らは、ポリカーボネートを代替可能な高屈折率かつ低分散である熱可塑性樹脂を見出すべく鋭意検討した結果、5価のリン原子を有する構造、中でもホスホン酸構造をポリマーの主鎖に導入したホスホネート・カーボネート共重合体が、無色透明で高屈折、低分散な特性を有することを見出した。
【0009】
特許文献1は、ホスホネート・カーボネート共重合体の光学特性を改善するが、この共重合体は、ビスフェノールとホスホネート、カーボネート、エステルとの縮合重合により組成が限定されること及び共重合体中の上記の官能基群は、高温、酸、塩基の加水分解により分子量が低下するなどの懸念があった。
【0010】
また、特許文献2は、多環式アルキルホスホン酸残基を含むポリホスホネート・カーボネート共重合体について、光学特性等を改善している。しかし、光学特性を向上させるために、共重合体の1分子鎖中のリン含有比を高めると、共重合体の分子量が低下して力学特性が低下することが懸念された。リン含有比は、共重合体中の有機リン化合物構造単位の割合を示したものである。例えば、有機リン化合物Aと、化合物B、化合物Cの共重合体の場合に、共重合比がA:B:C=1:2:1であれば、リン含有比は0.25となる。さらに、有機リン化合物Dを加えて、共重合比がA:B:C:D=1:2:1:1であれば、リン含有比(有機リン化合物A及びDの割合)は0.40となる。
【0011】
一般に、ホスホネートをモノマーとして使用するホスホネート・カーボネート共重合体は、溶液重縮合により合成されるが、リン含有比を高めると、得られた共重合体が不溶化したり、カーボネート/ホスホネートの配合比の制御が困難であったり、共重合体の分子量を高くし難いという問題点があった。したがって、このようなホスホネート・カーボネート共重合体は、低分子量体であるために、光学特性と力学特性の両方を満足することは難しい状況となっている。
【0012】
そこで、ホスホネートをモノマーとして使用することなく、別の手法により、5価のリン原子の含有比及び共重合体の分子量を改善して、光学特性、力学特性に優れた有機リン系重合体を開発することが求められていた。そのためには、ホスホネートに代わり共重合体のモノマーとなる新規の有機リン化合物の開発が不可欠であった。
【特許文献1】特開2002−167440号公報
【特許文献2】国際公開第04/106413号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、力学特性を低下することなく優れた低光学分散性に光学特性を有する有機リン系重合体及びそのモノマーとなる新規の有機リン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の有機リン化合物は、下記式(1)で示される構造からなることを特徴とする。
【0015】
【化2】

(式中Y、Y’は、各々独立に脂肪族基、芳香族基、縮合環式脂肪族基、縮合環式芳香族基、複素環基からなる群から選ばれる炭素数1〜20の有機基である。Xは、酸素、硫黄、セレン、テルル、非共有電子対からなる群から選ばれる。l、m、及びnは各々独立に1〜4の整数である。)
【0016】
また本発明の有機リン系重合体は、上記の有機リン化合物に対応する構造単位を有する重合体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機リン化合物は、前記式(1)の構造、すなわち多環式アルキル基及び−C−P−C−結合を有し、このリン−炭素結合が、ホスホネート中のリン−酸素結合に比べ結合が強固であること及び多環式アルキル基が、芳香環と同等の炭素密度であるため、光分散に優れた光学特性を有する有機リン系重合体のモノマーとして有用である。
【0018】
さらに本発明の有機リン系重合体は、主鎖中のリンが炭素と−C−P−C−結合を形成し重合を安定的に制御可能であり、モノマー中にリン原子を含んでいることから、共重合体の分子量を低下させずにリン含有比を高めることができる。このため、力学特性を低下することなく、特に光学的低分散性及び高屈折率の光学特性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の有機リン化合物は下記式(1)の構造を有する。
【0020】
【化3】

(式中Y、Y’は、各々独立に脂肪族基、芳香族基、縮合環式脂肪族基、縮合環式芳香族基、複素環基からなる群から選ばれる炭素数1〜20の有機基である。Xは、酸素、硫黄、セレン、テルル、非共有電子対からなる群から選ばれる。l、m、及びnは各々独立に1〜4の整数である。)
【0021】
本発明の有機リン化合物は、リン−炭素結合が、リン−酸素結合に比べ結合が強固であること及びリン原子上の置換基として、芳香環と同等の炭素密度であり光学特性や力学特性、耐熱性に優れている多環式アルキル骨格を有することが特徴である。
【0022】
本発明の有機リン化合物を構成する多環式アルキル骨格の構造は、力学特性や耐熱性の観点からSP3炭素が高密度で充填されていることが望ましく、ビシクロアルキル骨格が好ましい。さらに、ビシクロアルキル骨格の中でも、アルキル骨格を形成する炭素の合計は12以下が好ましく、さらに好ましくは10以下が好ましい。すなわち、前記式(1)において、l、m、nの合計は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
【0023】
本発明において、多環式アルキル骨格の好ましい例は、ビシクロ[2,2,1]−1−へプチル(1−ノルボルニル)、ビシクロ[2,2,1]−2−へプチル(2−ノルボルニル)、ビシクロ[2,2,1]−7−へプチル(7−ノルボルニル)、ビシクロ[2,2,2]−1−オクチル、ビシクロ[2,2,2]−2−オクチル、ビシクロ[3,2,1]−2−オクチル、ビシクロ[3,2,2]−2−ノニル、ビシクロ[4,2,2]−2−デカニル等が挙げられる。これらの中でも、2−ノルボルニル、1−ノルボルニルが好ましく、とりわけ2−ノルボルニルが、より好ましい。
【0024】
なお、2−ノルボルニルの場合、lが2、mが1、nが2となることは明らかである。
【0025】
本発明において、多環式アルキル骨格は、メチル基、エチル基、ハロゲン基などの置換基を有していてもよい。
【0026】
本発明の有機リン化合物を構成するリン原子は、多環式アルキル骨格の橋頭又は橋のいずれに結合していてもよく、多環式アルキル骨格とリン原子はメチレン基、エチレン基などのアルキレン基を介していてもよい。
【0027】
本発明の有機リン化合物において、リン原子は、P−C結合により、置換基Y、Y’の炭素と結合している。このため、従来のホスホネート中のリン−酸素結合に比べ結合が強固であることから、モノマーとして有機リン系重合体を調製したときに、重合を安定に制御可能であり、分子量を低下させずにリン含有比を高めることができるため、特に光学的低分散性及び高屈折率に優れた特性を有する。また、リン−炭素結合が強固であることから酸・塩基などの耐薬品性や耐熱性に優れることも期待されるものである。
【0028】
本発明において、前記式(1)で表される化合物の置換基Y、Y’は、各々独立に脂肪族基、芳香族基、縮合環式脂肪族基、縮合環式芳香族基、複素環基からなる群から選ばれる炭素数1〜20の有機基であり、より好ましい炭素数は4〜10である。置換基Y、Y’は、同一の置換基であってもよいし、互いに異なる置換基であってもよい。
【0029】
置換基Y、Y’の具体例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等のシクロアルキル基;フェニル基;ビシクロ[1.1.0]ブタン、ビシクロ[2.2.0]ヘキサン、ビシクロ[3.3.0]オクタン、ビシクロ[3.2.1] オクタン 、ビシクロ[2.2.2]オクタン等の縮合環式脂肪族基;ナフチル、フェナントレン、アントラセン、トリフェニレン、ピレン、等の縮合環式芳香族基;フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、キノリン、イソキノリン等の複素環基などが好ましく挙げられる。これらの中でも脂肪族基、芳香族基、複素環基がより好ましく、とりわけ、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基であることがより好ましい。
【0030】
前記式(1)で表される化合物の置換基Y、Y’は、少なくとも1つが、各々独立に、任意の置換基を有していてもよい。Y、Y’が共に置換される場合、置換基の種類は、同一であっても相異なっていてもよい。また、Y、Y’のいずれかが、2以上の置換基を有する場合、これらは同一置換基でも異なる置換基でもよく、複数種が含まれている場合はどのような組み合わせでもよい。
【0031】
本発明において、Y及びY’の少なくとも1つが、その炭素原子上に、置換基を有する場合、その置換基は、各々独立に、ハロゲン基、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基、アシル基、エステル基、酸無水物基、酸ハロゲン化物基、ケトン基、アルデヒド基、チオケトン基、チオール基、チオエーテル基、チオカルボン酸基、ジチオカルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、アミノ基、イミノ基、アミド基、ニトリル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ニトロ基からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。とりわけ、Y及びY’が、ハロゲン基、水酸基、アルコキシ基から選ばれる置換基を持つことがより好ましい。
【0032】
本発明の有機リン化合物において、Xは、酸素、硫黄、セレン、テルル、非共有電子対からなる群から選ばれる。Xは、好ましくは酸素、硫黄であり、より好ましくは酸素である。
【0033】
本発明の有機リン化合物において、前記式(1)で表されるホスフィン、ホスフィンオキシド及びホスフィンスルフィドの合成方法は、置換基Y及びY’をそれぞれ有するGrignard試薬やリチウム試薬を、多環式アルキル骨格を有するハロホスフィン、ハロホスフィンオキシド及びハロホスフィンスルフィド化合物に反応させることにより、容易に合成可能である。また、ハロホスフィン、ハロホスフィンオキシド及びハロホスフィンスルフィド化合物は、市販のものを用いてもよいし、従来公知の合成方法により合成したものを使用することができる。
【0034】
また、ホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィド、ホスフィンセレニド、ホスフィンテレニドは、対応するホスフィンから酸素、硫黄、セレン、テルルで酸化する方法でも合成可能である。同様にホスフィンはホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィドなどから還元して合成することも可能である。
【0035】
また、リン原子上に異なる置換基を導入することも可能である。合成方法は上述と同様に置換基の異なる金属試薬を段階的に反応させることで可能である。
【0036】
本発明の有機リン化合物に対応する構造単位を有する有機リン系重合体は、主鎖中のリンが炭素と−C−P−C−結合を形成し、モノマー中にリン原子を含んでいることから、重合反応を安定に制御することが可能であり、分子量を低下させずにリン含有比を高めることができる。
【0037】
本発明の有機リン系重合体は、単独重合体又は他のモノマーとの共重合体であり、有機リン化合物を含む有機リン系共重合体であると、力学的特性、熱特性、化学特性、成形性を向上することができ、好ましい。
【0038】
また、有機リン化合物以外のモノマーとして、炭酸塩、ジカルボン酸、ビスフェノール、ホスホン酸を使用することが好ましく、有機リン化合物に対応する構造単位以外のポリマー官能基として、炭酸残基、2価カルボン酸残基、2価フェノール残基、ホスホン酸残基から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。本発明の有機リン系重合体は、有機リン化合物以外のポリマー官能基を2種類以上含む共重合体であってもよい。
【0039】
有機リン化合物以外のモノマーとして、ジカルボン酸を例示すると、芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、環状脂肪族ジカルボン酸が好ましく挙げられ、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ジカルボキシジフェニルスルホン、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸、セバシン酸が挙げられる。
【0040】
ビスフェノールは、脂肪族ビスフェノール、芳香族ビスフェノールが好ましく、中でも分岐鎖含有アルキリデン基、シクロアルキリデン基、分岐鎖含有シクロアルキリデン基、及びビシクロアルキリデン基の少なくとも1つの基を有する芳香族ビスフェノールから構成させるものが好ましく、具体的には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノルボルナンが、好ましく挙げられる。
【0041】
本発明の有機リン系重合体は、−C−P−C−結合の他に、カーボネート結合、エステル結合、エーテル結合、アセタール結合、アミド結合、ウレタン結合、酸イミド結合、−NHCONH−結合などの結合又はポリアミン構造、ポリエーテルスルホン構造、ポリエーテルケトン構造を有する有機リン系共重合体であることが好ましい。
【0042】
本発明の有機リン系重合体は、従来のホスホネートをモノマーとする共重合体と比べ、リン含有比が高くても、分子量を高めることができるため力学特性等の観点から有利である。また、例えば、ホスホネート/カーボネートの共重合比に支配されることがなく、ポリマー1分子主鎖中のリン含有比を増加させることができるため、特に光学的低分散性及び高屈折率に優れた特性を有するものである。
【0043】
本発明の有機リン系重合体のリン含有比は、0.025以上、より好ましくは0.1以上であり、更に好ましくは0.25以上である。リン含有比が0.025以上であると、重合体の屈折率及び光学分散性を向上することができ、好ましい。
【0044】
本発明の有機リン系重合体のリン含有比は、共重合時において有機リン化合物の添加量により調製することができる。
【0045】
本発明の有機リン系重合体の力学特性は、従来のホスホネート・カーボネート共重合体の力学特性と比較して、重量平均分子量が同程度であるときには、より優れた特性を発揮することができる。このため、本発明の有機リン系重合体の重量平均分子量を調節することにより、その力学特性が達成可能な領域をより広くすることが可能となった。
【0046】
本発明の有機リン系重合体の分子量を調節する方法としては、重合時に一官能の物質を添加して行うことができる。ここで言う分子量調節剤として用いられる一官能物質としては、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノール等の一価フェノール類、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメート等の一価酸クロライド類が挙げられる。
【0047】
本発明の有機リン系重合体の重合方法は、溶液重合法又は溶融重合法が好適に採用され、とりわけ、溶液重合法が好ましい。溶液重合法について一例を説明すると、有機リン化合物と、2価フェノールをトリエチルアミンなどの塩基存在下混合して反応させ、続いてカーボネート残基の前駆体分子、たとえばトリホスゲンなどを添加して縮合重合することによって本発明の有機リン系重合体を得ることができる。このとき、有機リン化合物とトリホスゲンを同時に添加し反応させるのではなく、トリホスゲンを有機リン化合物添加後に添加することによって、より高分子量体を得ることができる。
【0048】
また、溶融重合方法について一例を示すと、本発明の有機リン化合物と2価のフェノール、2価の酸ハライドを塩化マグネシウム等の触媒存在下で加熱する溶融重合法や、有機リン化合物と2価の酸、2価のフェノールをジアリルカーボネートの存在下で加熱する溶融重合法等を挙げることができる。
【0049】
本発明の有機リン系重合体において、その特性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、チオエーテル系、燐系の各種抗酸化剤を添加することができる。
【0050】
また、本発明の有機リン系重合体は、有機溶媒に対して高い溶解性を有しており、このような溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、γ−ブチロラクトン、ベンジルアルコール、イソホロン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
【0051】
さらに、本発明の有機リン系重合体は、非晶性であるが、非晶性であるかどうかは公知の方法、例えば示差走差熱量分析(DSC)や動的粘弾性測定等により融点が存在しているかどうかを確認することができる。
【0052】
本発明の有機リン系重合体は、光学材料、難燃材料等様々な分野で用いられる。本発明の有機リン系重合体から成形品を得る方法については、公知の方法が採用でき、特に限定されないが、例えば、射出成型法、プレス成型法、圧縮成型法、トランスファ成型法、積層成型法、押し出し成型法などがあげられる。 またフィルム状に成形するときには、溶液製膜法、溶融押し出し製膜法などが挙げられ、特に溶液製膜が好適に採用される。溶液製膜法においては前記有機溶媒を適宜用いることができるが、好ましくはハロゲン基含有溶媒であり、特に好ましくは塩化メチレンである。
【0053】
本発明の有機リン系重合体は、熱可塑性及び有機溶媒溶解性の特徴を活かして、成形品への成形加工が容易であるとともに、優れた特性を有している。
【0054】
本発明の有機リン系重合体により成形されたレンズは、高アッベ数かつ高屈折率であり、色収差が小さい光学的に優れたレンズである。ここで、アッベ数は、光学物質の光の分散の度合いを表す指標のひとつであり、下記数式(i)によって定義される。
アッベ数(νd)=(nd−1)/(nf−nc) (i)
(式中、ndはd線(波長587.6nm)屈折率、nfはf線(波長486.1nm)屈折率、ncはc線(波長656.3nm)屈折率である。)
【0055】
本発明の有機リン系重合体により成形されたフィルムは、優れた光学特性(無色透明かつ低光分散)であるとともに、各種溶媒に対し良好な親和性を有することから表面加工性にも優れており、液晶ディスプレイなどに求められる高機能フィルム部材に等において、優れた機能フィルムあるいはベースフィルム等に有用である。
【実施例】
【0056】
本発明の具体的実施態様を以下に実施例をもって述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
実施例1
【0058】
【化4】

【0059】
不活性ガス下、500ml3口ナスフラスコにマグネシウム(7.0g)、ヨウ素(2片)にテトラヒドロフラン(225ml)を加え、室温で無色になるまで攪拌した。次に1−ブロモ−4−フルオロベンゼン(31.5ml)のテトラヒドロフラン(225ml)溶液を3.5時間かけて滴下し、滴下終了後5時間加熱還流した。
【0060】
次に2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(22.7ml)のテトラヒドロフラン(25ml)溶液を2時間かけて滴下し、滴下終了後24時間加熱還流した。
【0061】
飽和塩化アンモニウム水溶液(300ml)で反応を停止し、有機層を分離して、水層を塩化メチレン(2×100ml)で抽出し、有機層とあわせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0062】
濾過後溶媒を留去し、エタノール−石油エーテルから再結晶を行い、上記式(2)で示される化合物を得た(白色結晶)。
【0063】
実施例2
【化5】

【0064】
不活性ガス下、500ml3口ナスフラスコにマグネシウム(1.95g)、ヨウ素(4mg)にテトラヒドロフラン(65ml)を加え、室温で無色になるまで攪拌した。次に4−ブロモアニソール(10ml)を1時間かけて滴下し、滴下終了後7時間加熱還流した。
【0065】
次に2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(6.33ml)のテトラヒドロフラン(10ml)溶液を1時間かけて滴下し、滴下終了後24時間加熱還流した。
【0066】
飽和塩化アンモニウム水溶液(250ml)で反応を停止し、有機層を分離して、水層を塩化メチレン(2×100ml)で抽出し、有機層とあわせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0067】
濾過後溶媒を留去し、石油エーテルから再結晶を行い、上記式(3)で示されるビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシドを得た(白色結晶)。
【0068】
実施例3
【化6】

【0069】
塩化カルシウム管を備えた200ml3口ナスフラスコに臭化水素酸(40ml)、酢酸(40ml)、ビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシド(10.13g)を入れ、125℃で60時間加熱還流した。
【0070】
室温に冷却後、蒸留水(300ml)をゆっくり滴下し、1時間攪拌した。析出した結晶を濾別し、エタノールで溶解させ活性炭を加え、吸引濾過した。溶媒を留去して、トルエンから再結晶を行い上記式(4)で示される化合物を得た(淡赤色結晶)。
【0071】
実施例4
【化7】

【0072】
不活性ガス下、500ml3口ナスフラスコにマグネシウム(3.5g)、ヨウ素(1片)にテトラヒドロフラン(120ml)を加え、室温で無色になるまで攪拌した。次に1−ブロモ−4−フルオロベンゼン(15.8ml)のテトラヒドロフラン(225ml)溶液を3.5時間かけて滴下し、滴下終了後5時間加熱還流した。
【0073】
次に2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(22.7ml)のテトラヒドロフラン(25ml)溶液を2時間かけて滴下し、滴下終了後24時間加熱還流した。
【0074】
別途調製した4-メトキシフェニルマグネシウムブロマイドのテトラヒドロフラン溶液(2.00M、 72ml)を2時間かけて滴下し、滴下終了後24時間加熱還流した。
飽和塩化アンモニウム水溶液(300ml)で反応を停止し、有機層を分離して、水層を塩化メチレン(2×100ml)で抽出し、有機層とあわせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0075】
濾過後溶媒を留去して、再結晶を行い、上記式(5)で示される化合物を得た。
【0076】
実施例5
【化8】

【0077】
ビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシド(10.13g)の代わりに4−フルオロフェニル−4−メトキシフェニル−2-ノルボルニルホスフィンオキシド(15.1g)を用いた他は実施例3と同様にして、上記式(6)で示される化合物を得た。
【0078】
実施例6
【0079】
【化9】

【0080】
2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(22.7ml)の代わりに2−ノルボルニルチオホスホン酸ジクロリド(32.9g)を用いた他は実施例1と同様にして、上記式(7)で示される化合物を得た。
【0081】
実施例7
【化10】

【0082】
2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(6.33ml)の代わりに2−ノルボルニルチオホスホン酸ジクロリド(9.20g)を用いた他は実施例2と同様にして、上記式(8)で示される化合物を得た。
【0083】
実施例8
【化11】

【0084】
ビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシド(10.13g)の代わりにビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンスルフィド(12.56g)を用いた他は実施例3と同様にして、上記式(9)で示される化合物を得た。
【0085】
実施例9
【化12】

【0086】
2−ノルボルニルホスホン酸ジクロリド(22.7 ml)代わりに2−ノルボルニルチオホスホン酸ジクロリド(32.9g)を用いた他は実施例3と同様にして、上記式(10)で示される化合物を得た。
【0087】
実施例10
【化13】

【0088】
ビス(4−メトキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシド(10.13g)の代わりに4−フルオロフェニル−4−メトキシフェニルー2-ノルボルニルホスフィンスルフィド(17.6g)を用いた他は実施例3と同様にして、上記式(11)で示される化合物を得た。
【0089】
実施例11
【化14】

【0090】
4-メトキシフェニルマグネシウムブロマイドのテトラヒドロフラン溶液(2.00M, 72ml)の代わりにメチルマグネシウムブロマイド(1.00M,144 ml)を用いた他は実施例4と同様にして、上記式(12)で示される化合物を得た。
【0091】
実施例12
【化15】

【0092】
4-メトキシフェニルマグネシウムブロマイドのテトラヒドロフラン溶液(2.00M,72ml)の代わりに2−チオフェニルマグネシウムブロマイド(1.00M,144ml)を用いた他は実施例4と同様にして、上記式(13)で示される化合物を得た。
【0093】
実施例13
〔ポリエーテルホスフィンオキシドの合成〕
不活性ガス下、還流冷却器及びDean-Starkを備えたナスフラスコにビス(4−フルオロフェニル)-2−ノルボルニルホスフィンオキシド(3.32g)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(2.69g)、炭酸カリウム(1.73g)、トルエン(25ml)及びNーメチルピロリドン(50ml)を加え、2時間加熱還流した。
【0094】
加熱終了後トルエンを留去して、180℃、200℃でそれぞれ1時間、220℃で10時間加熱した。蒸留水及びアセトンで再沈殿、濾過及び加熱真空乾燥を行い、ポリマーを得た。このポリマーのリン含有比は0.5であった。
【0095】
得られたポリマーのガラス転移温度TgをDSC(セイコー電子工業社製SSC5200)を使用して測定したところ、Tgは222℃であった。
【0096】
実施例14
〔ポリカーボネートホスフィンオキシドの合成〕
不活性ガス下、滴下ロートを備えたナスフラスコにビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ノルボルニルホスフィンオキシド(1.50g)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(1.27g)を塩化メチレン(5ml)及びトリエチルアミン(2.66ml)で溶解させた。
【0097】
次にトリホスゲン/ジクロロメタン溶液(0.5776M,5.27ml)とジクロロメタン(5ml)の溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、塩酸で中和し、有機層を蒸留水(3×100ml)で洗浄した。続いてエタノールで再沈殿、濾過及び加熱真空乾燥を行い、表題のポリマーを得た。このポリマーのリン含有比は0.5であった。
【0098】
実施例15
〔ポリカーボネートホスフィンオキシドの光学特性〕
実施例14で得られたポリカーボネートホスフィンオキシドのポリマーを乾燥した後、試験管に入れ、減圧下、徐々に温度を上げ溶融させた。溶融後5分間温度を維持し、不活性ガスで常圧にした後、徐冷した。冷却後、ポリマーを取り出しバフ研磨により、垂直面を形成し、光学特性を測定した。
【0099】
光学特性は、屈折計(カルニュー光学社製KPR−2)を使用して、d線(波長587.6nm)屈折率(nd)及び前記数式(i)より求められるアッベ数(νd)を測定した。得られた測定結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
比較例1
ポリカーボネートホスフィンオキシドの代わりにポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製ユーピロンA1700)を用いたことを除き、実施例15と同様にして屈折率及びアッベ数を測定した。得られた測定結果を表1に示す。
【0102】
比較例2
ポリカーボネートホスフィンオキシドの代わりにポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製PCZ)を用いたことを除き、実施例15と同様にして屈折率及びアッベ数を測定した。得られた測定結果を表1に示す。
【0103】
本発明の有機リン系重合体(実施例15)は、市販のポリカーボネート樹脂と比較して、アッベ数が高く、光分散特性に優れることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の有機リン化合物は、有機リン系重合体のモノマーとして有用であり、得られた有機リン系重合体は、光学特性に優れ光学用材料として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される有機リン化合物。
【化1】

(式中Y、Y’は、各々独立に脂肪族基、芳香族基、縮合環式脂肪族基、縮合環式芳香族基、複素環基からなる群から選ばれる炭素数1〜20の有機基である。Xは、酸素、硫黄、セレン、テルル、非共有電子対からなる群から選ばれる。l、m、及びnは各々独立に1〜4の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)において、Y及びY’の少なくとも1つが、その炭素原子上に、ハロゲン基、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基、アシル基、エステル基、酸無水物基、酸ハロゲン化物基、ケトン基、アルデヒド基、チオケトン基、チオール基、チオエーテル基、チオカルボン酸基、ジチオカルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、アミノ基、イミノ基、アミド基、ニトリル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ニトロ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの置換基を有する請求項1に記載の有機リン化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機リン化合物に対応する構造単位を有する有機リン系重合体。


【公開番号】特開2007−39537(P2007−39537A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224535(P2005−224535)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】