説明

有機リン置換ピロール化合物及びその製造方法

【課題】ピロール骨格と有機リン部分とがメチレン基を介して結合した有機リン置換ピロール化合物を提供すること、及び該有機リン置換ピロール化合物を穏和な条件下、簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、一般式(1)


[式中、R及びRは、同一または異なって、アルキル基、アリール基等を表す。Rは、アリールスルホニル基等を表す。]で示される有機リン置換ピロール化合物を提供する。該ピロール化合物は、4−アザ−1,6−ヘプタジインとヒドロリン化合物とを反応させることにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン置換ピロール化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含窒素複素環骨格を有する有機リン化合物は数多く知られている。例えば、特許文献1には、ピリジン骨格と有機リン部分が結合して構成される化合物が、特許文献2には、インドール骨格と有機リン部分が結合して構成される化合物が、HIV阻害剤として使用できることが開示されている。特許文献3には、インドール骨格と有機リン部分がメチレン基を介して結合して構成される化合物について植物の生長阻害剤としての作用が開示されている。また、非特許文献1には、テトラゾリルアミノ基と有機リン部分がメチレン基を介して結合して構成される化合物の植物成長阻害作用が、非特許文献2にはチアゾリルアミノ基と有機リン部分がメチレン基を介して結合して構成される分子の植物成長阻害作用が開示されている。
【0003】
しかしながら、ピロール骨格と有機リン部分とがメチレン基を介して結合した化合物は、今日まで知られていない。
【特許文献1】WO2005117904公報
【特許文献2】WO2006054182公報
【特許文献3】US2980692公報
【非特許文献1】Chinese Journal of Organic Chemistry、2002年、22巻、pp.862−866
【非特許文献2】Chinese Journal of Organic Chemistry、2005年、25巻、pp.1007−1010
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ピロール骨格と有機リン部分とがメチレン基を介して結合した有機リン置換ピロール化合物を提供すること、及び該有機リン置換ピロール化合物を穏和な条件下、簡便に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ジイン化合物に対するヒドロリン化合物の付加反応について鋭意研究を重ねてきた。その結果、ジイン化合物として4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物を用いた場合に、ジイン化合物とヒドロリン化合物との間で環化−付加反応が好適に進行すること及び該反応によりピロール骨格と有機リン部分とがメチレン基を介して結合した新規な有機リン化合物を合成できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
すなわち本発明は、以下の項に示すピロール骨格と有機リン部分とがメチレン基を介して結合した新規な有機リン置換ピロール化合物及びその製造方法を提供する:
項1.一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
炭素数6以下のアルコキシ基、
炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、
炭素数12以下のアリーロキシ基、または
炭素数12以下のアラルキロキシ基を表す。
また、R及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
は、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
アルキル部分の炭素数が6以下であるアルキルカルボニル基、
アリール部分の炭素数が10以下であるアロイル基、
アラルキル部分の炭素数が12以下であるアラルキルカルボニル基、
アルコキシ部分の炭素数が6以下であるアルコキシカルボニル基、
アリーロキシ部分の炭素数が12以下であるアリーロキシカルボニル基、
アラルキロキシ部分の炭素数12が以下であるアラルキロキシカルボニル基、または
アリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基もしくはアリールスルフィニル基を示す。
、R及びR中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基またはアラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示される有機リン置換ピロール化合物。
【0009】
項2.一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、Rは、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
アルキル部分の炭素数が6以下であるアルキルカルボニル基、
アリール部分の炭素数が10以下であるアロイル基、
アラルキル部分の炭素数が12以下であるアラルキルカルボニル基、
アルコキシ部分の炭素数が6以下であるアルコキシカルボニル基、
アリーロキシ部分の炭素数が12以下であるアリーロキシカルボニル基、
アラルキロキシ部分の炭素数12が以下であるアラルキロキシカルボニル基、または
アリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基もしくはアリールスルフィニル基を示す。
中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基、及びアラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物と、一般式(3)
【0012】
【化3】

【0013】
[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
炭素数6以下のアルコキシ基、
炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、
炭素数12以下のアリーロキシ基、または
炭素数12以下のアラルキロキシ基を表す。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
及びR中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基、アラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示されるヒドロリン化合物とを反応させる、一般式(1)
【0014】
【化4】

【0015】
[式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される有機リン置換ピロール化合物の製造方法。
【0016】
本明細書において示される各基は、具体的には以下の通りである。
【0017】
炭素数6以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基等の炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を例示することができる。
【0018】
炭素数10以下のアリール基としては、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基を例示することができる。
【0019】
炭素数12以下のアラルキル基としては、フェニル低級アルキル基、ナフチル低級アルキル基等を例示することができる。
【0020】
フェニル低級アルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアルキル部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基であるフェニルアルキル基を例示することができる。
【0021】
ナフチル低級アルキル基としては、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基等のアルキル部分がメチル基またはエチル基であるナフチルアルキル基を例示することができる。
【0022】
炭素数6以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルコキシ基を例示することができる。
【0023】
炭素数3〜6のシクロアルコキシ基としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜6のシクロアルコキシ基を例示することができる。
【0024】
炭素数12以下のアリーロキシ基としては、フェノキシ基、p−メチルフェノキシ基、ナフトキシ基等の炭素数6〜12のアリーロキシ基を例示することができる。
【0025】
炭素数12以下のアラルキロキシ基としては、フェニル低級アルコキシ基、ナフチル低級アルコキシ基等を例示することができる。
【0026】
フェニル低級アルコキシ基としては、ベンジロキシ基等の、アルコキシ部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルコキシ基であるフェニルアルコキシ基を例示することができる。
【0027】
ナフチル低級アルコキシ基としては、1−ナフチルメトキシ基、2−ナフチルメトキシ基等のアルコキシ部分がメトキシ基またはエトキシ基であるナフチルアルコキシ基を例示することができる。
【0028】
アルキル部分の炭素数が6以下であるアルキルカルボニル基としては、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、t−ペンチルカルボニル基、n−へキシルカルボニル基、イソへキシルカルボニル基等のアルキル部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基であるアルキルカルボニル基を例示することができる。
【0029】
アリール部分の炭素数が10以下であるアロイル基としては、フェニルカルボニル基、p−トリルカルボニル基、ナフチルカルボニル基等のアリール部分が炭素数6〜10のアリール基であるアロイル基を例示することができる。
【0030】
アラルキル部分の炭素数が12以下であるアラルキルカルボニル基としては、フェニル低級アルキルカルボニル基、ナフチル低級アルキルカルボニル基等を例示することができる。
【0031】
フェニル低級アルキルカルボニル基としては、ベンジルカルボニル基、1−フェニルエチルカルボニル基、2−フェニルエチルカルボニル基、3−フェニルプロピルカルボニル基等のアルキル部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基であるフェニルアルキルカルボニル基を例示することができる。
【0032】
ナフチル低級アルキルカルボニル基としては、1−ナフチルメチルカルボニル基、2−ナフチルメチルカルボニル基等のアルキル部分がメチル基またはエチル基であるナフチルアルキルカルボニル基を例示することができる。
【0033】
アルコキシ部分の炭素数が6以下であるアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−へキシルオキシカルボニル基等のアルコキシ部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルコキシ基であるアルコキシカルボニル基を例示することができる。
【0034】
アリーロキシ部分の炭素数が12以下であるアリーロキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル基、p−メチルフェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基等のアリーロキシ部分が炭素数6〜12のアリーロキシ基であるアリーロキシカルボニル基を例示することができる。
【0035】
アラルキロキシ部分の炭素数12が以下であるアラルキロキシカルボニル基としては、フェニル低級アルコキシカルボニル基、ナフチル低級アルコキシカルボニル基等を例示することができる。
【0036】
フェニル低級アルコキシカルボニル基としては、ベンジロキシカルボニル基等の、アルコキシ部分が炭素数1〜6の直鎖または分枝鎖状のアルコキシ基であるフェニルアルコキシカルボニル基を例示することができる。
【0037】
ナフチル低級アルコキシカルボニル基としては、1−ナフチルメトキシカルボニル基、2−ナフチルメトキシカルボニル基等のアルコキシ部分がメトキシ基またはエトキシ基であるナフチルアルコキシカルボニル基を例示することができる。
【0038】
アリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基もしくはアリールスルフィニル基としては、フェニルスルホニル基、p−トシル基、1−ナフチルスルホニル基、フェニルスルフィニル基、p−トリルスルフィニル基、2−ナフチルスルフィニル基等のアリール部分が炭素数6〜10のアリール基であるアリールスルホニル基及びアリールスルフィニル基を例示することができる。
【0039】
及びRの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合して形成されるリン原子を含む環構造としては、4,5−ジメチル−1,2,3−ジオキサホスホラン環、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサホスホラン環等が例示される。
【0040】
上記アリール基、アラルキル基、アリーロキシ基及びアラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよく、複素芳香環としては、フラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環等を例示することができる。
【0041】
炭素数12以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、n−へキシル基、イソへキシル基、n−オクチル基等の炭素数1〜12の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を例示することができる。
【0042】
炭素数12以下のアリール基としては、フェニル基、p−トリル基、ナフチル基、ビフェニル基を例示することができる。
【0043】
本発明化合物には、例えば、上記一般式(1)においてR及びRが、同一または異なって、炭素数10以下のアリール基または炭素数6以下のアルコキシ基を示し、Rがアリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基を示す、有機リン化合物が含まれる。
【0044】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。
【0045】
本発明の化合物である一般式(1)
【0046】
【化5】

【0047】
[式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表す。]
で示される有機リン置換ピロール化合物(以下、この化合物を単に化合物(1)ということもある)は、
一般式(2)
【0048】
【化6】

【0049】
[式中、Rは前記と同じ意味を表す。]
で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物と、一般式(3)
【0050】
【化7】

【0051】
[式中、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示されるヒドロリン化合物とを反応させることにより製造される。
【0052】
一般式(2)で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物は、公知の化合物であるか、公知の方法に準じて容易に製造できる化合物である。
【0053】
一般式(2)で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物の具体例としては、N−メチル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−エチル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−フェニル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−ベンジル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−アセチル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−ベンゾイル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−ベンジルカルボニル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−メトキシカルボニル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−フェノキシカルボニル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−ベンジルオキシカルボニル−4−アザ−1,6−ヘプタジイン、N−(p−トシル)−4−アザ1,6−ヘプタジイン、N−(フェニルスルフィニル)−4−アザ1,6−ヘプタジイン等を例示することができる。
【0054】
一般式(3)で示されるヒドロリン化合物は、公知の化合物であるか、または公知の方法に準じて容易に製造される。
【0055】
一般式(3)で示されるヒドロリン化合物の具体例としては、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ジフェニル、4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサホスホラン−2−オキシド、ジエチルホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド、フェニルホスフィン酸エチル、メチルホスフィン酸フェニル、9,10−ジヒドロ−9−オキサー10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド等を例示することができる。
【0056】
一般式(2)で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物(本明細書において単に化合物(2)と記載することもある)と一般式(3)で示されるヒドロリン化合物(本明細書において単に化合物(3)と記載することもある)との使用割合は、前者1モルに対して、後者が、通常0.5〜2モル、好ましくは0.8〜1.5モルである。
【0057】
化合物(2)と化合物(3)との反応は、化合物(2)のアセチレン基への化合物(3)のP−H結合の付加−環形成反応であって、化合物(2)の中のRの種類並びに化合物(3)の中のR及びRの種類に特に左右されない。本明細書において定義されているR、R及びRのいずれの基であっても、上記反応は好適に進行する。
【0058】
本発明の反応は、窒素、アルゴン、メタン等の不活性ガスの雰囲気下で実施するのが好ましい。本発明の反応は特に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて溶媒中で実施することもできる。溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒など種々のものが使用できる。また、これらは単独または2種以上の混合物として使用される。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明の反応は、触媒の存在下で行われる。
【0060】
反応触媒としては、キレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体が挙げられ、好適には、下記一般式(4)
P−A−PR (4)
[式中、R、R、R及びRは、同一または異なって、
炭素数12以下のアルキル基、
炭素数12以下のアリール基または
炭素数12以下のアラルキル基を表す。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
Aは炭素数1〜12の直鎖状、分枝鎖状または環状の2価の有機基を表す。]で示されるキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体が挙げられる。
【0061】
本発明に用いる一般式(4)で示されるキレート配位性ホスフィンにおいて、一般式(4)中のAは炭素数1〜12の直鎖状、分枝鎖状または環状の2価の有機基を表し、具体的には、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基、o−フェニレン基、フェロセニレン基、ビフェニレン基、ビナフチレン基、キサンテンジイル基等を例示することができる。
【0062】
及びRの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が互いに結合して形成されるリン原子を含む環構造としては、ホスファシクロペンタン環、ホスファシクロヘキサン環、ジベンゾホスファシクロペンタン環等を例示することができる。
【0063】
及びRの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が互いに結合して形成されるリン原子を含む環構造としては、ホスファシクロペンタン環、ホスファシクロヘキサン環、ジベンゾホスファシクロペンタン環等を例示することができる。
【0064】
一般式(4)で示されるキレート配位性ホスフィンの具体例としては、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2−ビス(9−ホスファフルオレン−9−イル)エタン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(Binap)、2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン(Xanthophos)等が例示される。
【0065】
これらのキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体としては、予め調製されたゼロ価または2価の各種パラジウム錯体を例示することができ、その具体例としては、PdClL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdL(PEt(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、Pd(OAc)L(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdClPhL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdCl(COPh)L(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)、PdL(式中Lはキレート配位性ホスフィンを示す。)等を挙げることができる。ここで、Acはアセチル基、Phはフェニル基である。パラジウム錯体の使用量は、パラジウム原子当たり、一般式(3)のヒドロリン化合物に対して、通常0.0001〜15モル%、好ましくは0.001〜10モル%である。
【0066】
本発明に用いるキレート配位性ホスフィンのパラジウム錯体は、予め調製することなく、反応系中でキレート配位性ホスフィンと前駆体としてのパラジウム化合物を混合して発生させて用いてもよい。好ましく用いられる前駆体としてのパラジウム錯体としては、種々のゼロ価または2価のパラジウム化合物を用いることができ、具体例としては、PdCl、KPdCl、NaPdCl、PdCl(PhCN)、PdCl(cod) (codは1,5−シクロオクタジエンを示す)、Pd(OAc)、Pd(dba)・CHCl (dbaはジベンジリデンアセトンを示す)、Pd(PPh等のゼロ価または2価のパラジウム化合物を好適に用いることができる。当該実施形態においてもパラジウム錯体の使用量は、パラジウム原子当たり、一般式(3)のヒドロリン化合物に対して、通常0.0001〜15モル%、好ましくは0.001〜10モル%である。また、前駆体としてのパラジウム化合物に混合するキレート配位性ホスフィンの量は、ホスフィン中のリン原子とパラジウム原子のモル比で1〜10、好ましくは1〜5の範囲から選択される。
【0067】
上記反応は、冷却下、室温下及び加温下のいずれで行ってもよい。具体的には、通常0℃から250℃、好ましくは80℃から170℃の範囲から選択される。
【0068】
反応時間は、通常1時間〜数十時間、好ましくは2〜15時間である。
【0069】
反応混合物からの精製物の分離及び精製は、各種クロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の通常行われる精製法により容易に達成される。
【発明の効果】
【0070】
本発明の一般式(1)で示される有機リン置換ピロール化合物は、これまで知られていない骨格を持つ全く新規な化合物であり、医薬及び農薬を製造するための中間体、高分子添加用難燃剤、錯体触媒の配位子またはその合成原料等として有用である。
【0071】
一般式(1)で示される有機リン置換ピロール化合物は、例えば、化合物(1)中のP=O結合を脱酸素し、錯体触媒の配位子として有用な対応ホスフィンに容易に変換することが出来る。尚、この脱酸素反応には、例えば、Fritzcheらの方法(Chemische Berichte、1964年、97巻、p.1988)、今本らの方法(Organic Letters、2001年、3巻、p.87)等に記載されている反応条件を適用することができる。
【0072】
【化8】

【0073】
また、本発明の製造方法によれば、一般式(1)で示される有機リン置換ピロール化合物を、4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物及びヒドロリン化合物から容易に製造することができ、その単離精製も容易に行うことができるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
実施例
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例1 N−(p−トシル)−4−アザ−1,6−ヘプタジインとフェニルホスフィン酸エチルとの反応
窒素雰囲気下、酢酸パラジウム0.10ミリモル、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン0.15ミリモル、フェニルホスフィン酸エチル2.0ミリモル及びN−(p−トシル)−4−アザ−1,6−ヘプタジイン2.10ミリモルをトルエン5mLに加え、混合物を100℃で12時間攪拌した。得られた反応液をH NMRで分析した結果、対応するRがフェニル基、Rがエトキシ基及びRがp−トシル基である化合物(1)(以下、この化合物を化合物(1a)という)が収率45%で生成していることが判明した。反応液を濃縮し、残留液を塩化メチレンとt−ブチルメチルエーテルの20:1混合溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。化合物(1a)を含むフラクションを塩化メチレンとt−ブチルメチルエーテルの20:1混合溶媒を用いてシリカゲル薄層クロマトグラフィーで更に精製することにより、化合物(1a)が34%の単離収率で得られた。
【0076】
本生成物は文献未収載の新規物質であり、その物性値や分光学データは以下の通りであった。
【0077】
化合物(1a): 黄色液体;
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d 7.64 (d, JHH = 9.0 Hz, 2H), 7.48 (m, 3H), 7.27 (m, 4H), 6.83 (t, JHH = 2.4 Hz, 1H), 6.76 (s, 1H), 4.03 (m, 1H), 3.81 (m, 1H), 2.98 (d, JHP = 18.0 Hz, 1H), 2.97 (d, JHP = 18.0 Hz, 1H), 2.39 (s, 3H), 1.69 (s, 3H), 1.24 (t, JHH = 6.0 Hz, 3H);
13C{1H} NMR (75 MHz, CDCl3) d 144.6, 136.1, 132.2 (JCP = 2.6 Hz), 131.8 (JCP = 9.5 Hz), 129.6 (JCP = 125.6 Hz), 129.8, 128.2 (JCP = 12.4 Hz), 126.7, 124.7 (JCP = 4.5 Hz), 119.7 (JCP = 7.2 Hz), 118.4 (JCP = 7.6 Hz), 117.8, 60.9 (JCP = 6.5 Hz), 27.3 ( JCP = 99.1 Hz), 21.5, 16.3 (JCP = 6.5 Hz), 9.8;
31P{1H} NMR (162 MHz, CDCl3) d 40.0. IR (neat, cm-1) 1174 (nP=O);
MS (70 eV, EI, %相対強度) m/z 417 (18), 262 (100), 248 (14), 170 (15), 141 (30), 93 (13), 91 (29), 77 (12);
HRMS C21H24NO4PSとしての計算値: 417.1164、実測値: 417.1162。
【0078】
実施例2 N−(p−トシル)−4−アザ−1,6−ヘプタジインとホスホン酸ジエチルとの反応
窒素雰囲気下、酢酸パラジウム0.10ミリモル、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン0.15ミリモル、ホスホン酸ジエチル2.0ミリモル及びN−(p−トシル)−4−アザ−1,6−ヘプタジイン2.10ミリモルをエチルベンゼン5mLに加え、混合物を130℃で6時間攪拌した。得られた反応液をH NMRで分析した結果、対応するR及びRが共にエトキシ基、Rがp−トシル基である化合物(1)(以下、この化合物を化合物(1b)という)が収率36%で生成していることが判明した。反応液を濃縮し、残留液を塩化メチレンとt−ブチルメチルエーテルの20:1混合溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。化合物(1b)を含むフラクションを塩化メチレンとt−ブチルメチルエーテルの20:1混合溶媒を用いてシリカゲル薄層クロマトグラフィーで更に精製することにより、化合物(1b)が26%の単離収率で得られた。
【0079】
本生成物は文献未収載の新規物質であり、その物性値や分光学データは以下の通りであった。
【0080】
化合物(1b): 無色液体;
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d 7.66 (d, JHH = 9.0 Hz, 2H), 7.22 (d, JHH = 9.0 Hz, 2H), 7.03 (s, 1H), 6.83 (s, 1H), 3.90 (m, 4H), 2.81 (d, JHP = 21.0 Hz, 2H), 2.33 (s, 3H), 1.94 (s, 3H), 1.14 (t, JHH = 6.0 Hz, 6H);
13C{1H} NMR (75 MHz, CDCl3) d 144.6, 136.0, 129.7, 126.6, 124.5 (JCP = 6.0 Hz), 119.5 (JCP = 7.9 Hz), 118.5 (JCP = 9.3 Hz), 117.9, 62.0 (JCP = 6.8 Hz), 23.0 ( JCP = 143.0 Hz), 21.4, 16.2 (JCP = 6.0 Hz), 10.0;
31P{1H} NMR (162 MHz, CDCl3) d 26.6;
IR (neat, cm-1) 1174 (nP=O);
MS (70 eV, EI, %相対強度) m/z 385 (25), 248 (9), 230 (100), 174 (28), 155 (10), 93 (15), 91 (31);
HRMS C17H24NO5PSとしての計算値: 385.1113、実測値: 385.1118。
【0081】
実施例3 N−(p−トシル)−4−アザ−1,6−ヘプタジインとジフェニルホスフィンオキシドとの反応
ホスホン酸ジエチルに代えてジフェニルホスフィンオキシドを用い、反応時間を3時間とした他は実施例2と同様に反応した。得られた反応液をH NMRで分析した結果、R及びRが共にフェニル基、Rがp−トシル基である化合物(1)(以下、この化合物を化合物(1c)という)が収率33%で生成していることが判明した。実施例2と同様に反応生成物を分離及び精製し、化合物(1c)を27%の単離収率で得た。
【0082】
本生成物は文献未収載の新規物質であり、その物性値や分光学データは以下の通りであった。
【0083】
化合物(1c): 黄色結晶;
1H NMR (300 MHz, CDCl3) d 7.58 (m, 12H), 7.23 (d, JHH = 9.0 Hz, 2H), 6.77 (m, 2H), 3.35 (d, JHP = 12.0 Hz, 2H), 2.40 (s, 3H), 1.74 (s, 3H);
13C{1H} NMR (75 MHz, CDCl3) d 144.6, 136.0, 132.5, 131.9 (JCP = 2.6 Hz), 131.1 (JCP = 9.1 Hz), 129.8, 128.4 (JCP = 11.7 Hz), 126.7, 125.0 (JCP = 4.5 Hz), 120.0 (JCP = 6.6 Hz), 118.1 (JCP = 8.0 Hz), 117.8, 27.4 (JCP = 69.2 Hz), 21.6, 10.1; 31P{1H} NMR (162 MHz, CDCl3) d 30.2;
IR (KBr, cm-1) 1178 (nP=O);
MS (70 eV, EI, %相対強度) m/z 449 (10), 294 (100), 248 (13), 201 (62), 155 (12), 93 (14), 91 (34), 77 (13);
HRMS C25H24NO3PSとしての計算値: 449.1215、実測値: 449.1218。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
炭素数6以下のアルコキシ基、
炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、
炭素数12以下のアリーロキシ基、または
炭素数12以下のアラルキロキシ基を表す。
また、R及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
は、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
アルキル部分の炭素数が6以下であるアルキルカルボニル基、
アリール部分の炭素数が10以下であるアロイル基、
アラルキル部分の炭素数が12以下であるアラルキルカルボニル基、
アルコキシ部分の炭素数が6以下であるアルコキシカルボニル基、
アリーロキシ部分の炭素数が12以下であるアリーロキシカルボニル基、
アラルキロキシ部分の炭素数12が以下であるアラルキロキシカルボニル基、または
アリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基もしくはアリールスルフィニル基を示す。
、R及びR中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基またはアラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示される有機リン置換ピロール化合物。
【請求項2】
一般式(2)
【化2】

[式中、Rは、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
アルキル部分の炭素数が6以下であるアルキルカルボニル基、
アリール部分の炭素数が10以下であるアロイル基、
アラルキル部分の炭素数が12以下であるアラルキルカルボニル基、
アルコキシ部分の炭素数が6以下であるアルコキシカルボニル基、
アリーロキシ部分の炭素数が12以下であるアリーロキシカルボニル基、
アラルキロキシ部分の炭素数12が以下であるアラルキロキシカルボニル基、または
アリール部分の炭素数が10以下であるアリールスルホニル基もしくはアリールスルフィニル基を示す。
中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基、及びアラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示される4−アザ−1,6−ヘプタジイン化合物と、一般式(3)
【化3】

[式中、R及びRは、同一または異なって、
炭素数6以下のアルキル基、
炭素数10以下のアリール基、
炭素数12以下のアラルキル基、
炭素数6以下のアルコキシ基、
炭素数3〜6のシクロアルコキシ基、
炭素数12以下のアリーロキシ基、または
炭素数12以下のアラルキロキシ基を表す。
及びRは、これらの基から水素原子を1原子ずつ除いた残基が分子内で互いに結合してリン原子を含む環を形成してもよい。
及びR中のアリール基、アラルキル基、アリーロキシ基、アラルキロキシ基を構成する芳香環は、複素芳香環であってもよい。]
で示されるヒドロリン化合物とを反応させる、一般式(1)
【化4】

[式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。]
で示される有機リン置換ピロール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−195637(P2008−195637A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31226(P2007−31226)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000149561)大八化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】