説明

有機合成装置

【課題】異なる形状の反応容器であっても、反応容器把持部を取り替えて複数回に亘って有機合成を行わなくても良い有機合成装置を提供することである。
【解決手段】複数の反応容器11を把持可能な反応容器把持部10と、反応容器把持部10に把持された反応容器11内の試薬を撹拌する撹拌部12と、を備えた有機合成装置において、反応容器把持部10は、反応容器11の底部が挿入可能な挿入孔20Aを有するとともに、把持する反応容器11毎にそれぞれ別体として、反応容器把持部10の本体に対して着脱可能に構成されている反応容器ホルダー8を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器内の試薬を撹拌・加熱することによって、反応容器に収容された試薬の合成などを行う有機合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一度に、同一条件又は異なる条件で多種類の試薬の合成を行い、その合成された試薬について一斉に検定を行うものとして、有機合成装置が使用されている。この有機合成装置は、反応容器内の試薬を撹拌・加熱することによって、反応容器に収容された試薬を合成するものであって、図13及び14に示すように、一般に複数の反応容器60を把持可能な反応容器把持部62と、反応容器把持部62に把持された反応容器60内の試薬を撹拌する撹拌部64と、反応容器60の開口に装着され、反応容器60内に試薬を添加可能な試薬添加部66と、を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
反応容器把持部62と撹拌部64は、分離できるように構成されており、試薬添加部64は、反応容器把持部62に把持された反応容器60の上端の開口に装着するように構成されている。撹拌部64は、反応容器60内に試薬と共に入れられるマグネットを回転させる回転マグネットを反応容器把持部62によって把持される反応容器60毎設けており、この回転マグネットにより反応容器60内のマグネットを回転させることによって、反応容器60内の試薬を撹拌するように構成されている。また、撹拌部64は、反応容器60の下方を加熱するヒータ68を有する加熱部を備えている。このヒータ68は、撹拌部64の本体から上方に突出するように、反応容器把持部62によって把持される反応容器60毎設けられている。さらに、撹拌部64のヒータ68に隣接する位置には、突出する温度センサ70が複数設けられている。
【0004】
反応容器把持部62は、把持される反応容器60の上方が突出可能な孔が形成されている天板72と、天板72の下方に把持される反応容器60毎設けられ、反応容器60の底部が挿入可能な挿入孔を有する保持部74と、天板72と保持部74の間に把持される反応容器60毎設けられ、反応容器60が貫通可能な貫通孔を有する還流用ブロック76と、還流ブロック76と保持部74を天板72に対して支持する支柱78と、を備えている。撹拌部64のヒータ68及び温度センサ70は、反応容器把持部72の各保持部74に整合する位置に設けられており、保持部74の底面には、突出するヒータ68及び温度センサ70が挿入可能な挿入孔が設けられている。したがって、加熱部のヒータ68から保持部74を介して反応容器60の下方に熱が伝わるように構成されている。反応容器60の下方がこの加熱部のヒータ68によって加熱されると、反応容器60に充填された試薬が蒸発するが、反応容器60の還流用ブロック76の位置で冷やされて結露され、再び液体に戻されるよう構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−137990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、反応容器把持部62は、複数の保持部74が反応容器把持部62の本体と一体となって構成されているため、一種類の形状の反応容器60しか把持することができず、このため、異なる形状の反応容器60を用いる場合、有機合成を一回で行うことはできず、反応容器把持部62を取り替えて複数回に亘って行わなければならないという問題がある。
【0007】
また、上述のように従来の有機合成装置は、加熱部のヒータ68によって加熱された試薬は、還流用ブロック76で冷却する必要があるため、加熱部のヒータ68の熱が還流ブロック76に伝わらないように、保持部74と還流用ブロック76の間にある程度の距離を置かなければならず、そのため比較的短い反応容器60を使用することができないという問題がある。
【0008】
さらに、上述のように従来の有機合成装置は、撹拌部の回転マグネットを回転させることによって、反応容器60内に入れられたマグネットを回転させているが、これら回転マグネットは、把持されている反応容器60毎に並列させて設けられているので、隣接する回転マグネット同士の磁力が互いに影響を与える場合があり、回転マグネットの回転開始の時など回転速度が遅い時に回転マグネットを回転させる駆動源に負荷を与えてしまう場合がある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、異なる形状の反応容器であっても、反応容器把持部を取り替えて複数回に亘って有機合成を行わなくても良い有機合成装置を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、反応容器の長さに関係なく、使用することができる有機合成装置を提供することを第2の目的とする。さらに、本発明は、撹拌用マグネットの駆動源に負荷を与えずに撹拌用マグネットを回転させることができる有機合成装置を提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、前記反応容器把持部は、少なくとも反応容器の下方が挿入可能な挿入孔を有するとともに、把持する反応容器毎にそれぞれ別体として、前記反応容器把持部の本体に対して着脱可能に構成されている反応容器ホルダーを備えていることを特徴とする。
【0011】
このように本発明に係る有機合成装置によれば、反応容器ホルダーが、把持する反応容器毎にそれぞれ別体として、前記反応容器把持部の本体に対して着脱可能に構成されているので、例えば、異なる形状の反応容器を同時に使用する場合であっても、反応容器毎に形状をあわせた反応容器ホルダーをそれぞれ用意することにより、反応容器把持部を取り替えずに一回の処理で有機合成を行うことができる。本発明に係る有機合成装置において、反応容器ホルダーの挿入孔は、挿入される反応容器の下方の形状にあわせて形成されており、反応容器の下方が密接した状態で挿入可能に構成されていることが好ましい。
【0012】
本発明に係る有機合成装置は、反応容器の上方に装着され、反応容器内に試薬を添加可能な試薬添加部をさらに備えており、前記試薬添加部は、試薬添加部に脱着可能な接続アダプタを介して反応容器に接続可能に構成されており、該接続アダプタの上端は、前記試薬添加部の下端に密に接合するように構成されており、下端は、反応容器の開口に密に接合するように構成されていることが好ましい。このように接続アダプタを介して反応容器を試薬添加部に接合するように構成することにより、例えば、反応容器の上端の開口部の径の大きさや形状が異なる反応容器であっても、それぞれの開口部に接合可能な接続アダプタを用意することによって、試薬添加部を複数種類用意しなくても良い。また、このように接続アダプタを介して試薬添加部と反応容器を接続するように構成することにより、例えば開口部の縁にねじ山が形成されたバイエルビンを用いることが可能となる。バイエルビンを用いると、合成後にバイエルビンのキャップをするだけで、容器を移し変えずに保存することができ、このため反応容器と保存容器を別々に用意する必要がないという利点がある。また、リップ付き試験管は、バイエルビンと異なり、上端にねじ山が形成されていないので、リップ付き試験管を接続アダプタの下端に装着する場合は、外周面にねじ山が形成された固定リングを介してリップ付き試験管の上端を接続アダプタの下端に密に接合することが望ましい。
【0013】
また、本発明に係る有機合成装置において、前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、該加熱部の上方には、加熱部の熱が前記反応容器把持部によって把持された反応容器の上方に伝わるのを防止する断熱板が設けられていることが好ましい。このように断熱板を設けることにより、加熱部の熱を反応容器の上方に伝わるのを防止することができるので、比較的短い反応容器を用いた場合であっても、反応容器の上方で還流を行うことができる。また、比較的長い反応容器を用いた場合、試薬添加部から挿入されたシリンジ針と反応容器の底面との間にある程度の距離を要するが、このように比較的短い反応容器を用いることにより、試薬添加部から挿入されたシリンジ針と反応容器の底面の距離を短くすることができるので、シリンジ針から試薬を安定させた状態で投入することができる。
【0014】
さらに、本発明に係る有機合成装置において、前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、該加熱部には、前記反応容器ホルダーの下方が挿入可能な挿入孔が形成されていることが好ましい。上述のように従来の有機合成装置は、反応容器把持部を撹拌部に装着する際に、撹拌部の加熱部のヒータや温度センサを反応容器把持部の保持部の挿入孔に挿入させなければならず、これら把持される反応容器の数だけ設けられているので、ヒータと温度センサを併せて反応容器の2倍の数を保持部の挿入孔に挿入する必要があり、その作業は煩雑であるが、加熱部に反応容器ホルダーの下方が挿入可能な挿入孔を形成することにより、ヒータや温度センサ毎に挿入孔を設ける必要がないので、反応容器把持部を撹拌部に取り付ける作業は、容易に行うことができる。本発明に係る有機合成装置において、撹拌部の加熱部の挿入孔は、反応容器把持部の反応容器ホルダーの形状にあわせて形成されており、反応容器ホルダーの外周面が密接した状態で挿入可能に構成されていることが好ましい。
【0015】
またさらに、本発明に係る有機合成装置において、前記撹拌部は、反応容器内に試薬と共に収容されたマグネットを回転させる回転マグネットを備えており、該回転マグネットは、前記反応容器把持部によって把持される反応容器と整合する位置に、反応容器毎設けられるとともに、連動して一方向に回転するよう構成され、磁力の影響によって、隣接する一方側の回転マグネットに対して吸引され、隣接する他方側の回転マグネットに対して反発するように配置されていることが好ましい。このように隣接する一方側に対して吸引され、他方側に対して反発するように配置することによって、吸引するマグネットと反発するマグネットが同数となるので、これらを連動させる駆動源に与える負担を軽減することができる。この隣接する一方側の回転マグネットに対する吸引状態と他方側の回転マグネットに対する反発状態は、これら回転マグネットが回転している際でも維持できるように配置されることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る有機合成装置において、前記撹拌部は、前記加熱部を支持する支持板をさらに備え、前記加熱部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器を冷却する冷却部材を支持可能な冷却部材支持部を備え、前記支持板の裏面には、ヒータが設けられていることが好ましく、このように加熱部を支持する支持板の裏面にヒータを設けることにより、反応容器の冷却工程の際に支持板の裏面に結露が生じるのを防止することができる。
【0017】
上記第2の発明を達成するため、本発明は、複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、該加熱部の上方には、加熱部の熱が前記反応容器把持部によって把持された反応容器の上方に伝わるのを防止する断熱板が設けられていることを特徴とする。
【0018】
上記第3の発明を達成するため、本発明は、複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、前記撹拌部は、反応容器内に試薬と共に収容されたマグネットを回転させる回転マグネットを備えており、該回転マグネットは、前記反応容器把持部によって把持される反応容器と整合する位置に、反応容器毎設けられるとともに、連動して一方向に回転するよう構成され、磁力の影響によって、隣接する一方側の回転マグネットに対して吸引され、隣接する他方側の回転マグネットに対して反発するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る有機合成装置によれば、異なる形状の反応容器であっても、反応容器把持部を取り替えて複数回に亘って有機合成を行わなくても良い有機合成装置を提供することができ、また反応容器の長さに関係なく、使用することができる有機合成装置を提供することができ、さらに撹拌用マグネットの駆動源に負荷を与えずに撹拌用マグネットを回転させることができる有機合成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明に係る有機合成装置の実施例について図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る有機合成装置の使用状態を示す正面概念図であり、図2は、本実施例に係る有機合成装置の反応容器把持部10と撹拌部12を分離した状態を示す正面概念図である。本実施例に係る有機合成装置は、複数の反応容器11を把持可能な反応容器把持部10と、反応容器把持部10に把持された反応容器11内の試薬を撹拌する撹拌部12と、反応容器11の開口に装着され、反応容器11内に試薬を添加可能な試薬添加部14と、を備えており、図2に示すように反応容器把持部10と撹拌部12は、分離可能に構成されている。本実施例に係る有機合成装置においては、反応容器11として、比較的長いリップ付き試験管11A(図1の左から一つ目及び二つ目)、比較的短いバイエルビン11B(図1の真中)、及び比較的短いリップ付き試験管11C(図1の右から一つ目と二つ目)を用いている。
【0021】
本実施例に係る有機合成装置において、試薬添加部14は、図3及び6に示すように接続アダプタ16を介して反応容器11(11A、11B、11C)の開口に密に接合するよう構成されており、接続アダプタ16としては、リップ付き試験管11A及び11Cに用いるもの16Aとバイエルビン11Bに用いるもの16Bの二種類が用意されている。試薬添加部14の下端には、ねじ山が形成されており、接続アダプタ16A、16Bの上端16A1、16B1の内周面には、図4に示すようにそのねじ山が螺合可能なねじ溝が形成されている。
【0022】
バイエルビン11Bに用いられる接続アダプタ16Bの基端部16B2の内周面には、反応容器11Bの開口部の縁に形成されたねじ山が螺合可能なねじ溝が形成されており、この接続アダプタ16Bは、図5に示すようにバイエルビンの径の大きさにあわせて複数種類用意することが好ましい。また、試験管11A及び11Cは、バイエルビンと異なり、上端部にねじ山が形成されていないので、図6に示すように固定リング13を介して試験管11A及び11Cを接続アダプタ16Aの基端部16A2に密に接合するように構成されている。すなわち、円筒状に形成された固定リング13の内周面には、半径方向内側に向かって突出するフランジが設けられており、このフランジの上端が試験管11A及び11Cのリップ部分の下端に当接し、固定リング13の外周面に形成されたねじ山が接続アダプタ16Aの下端の内周面に形成されたねじ溝に螺合することによって、試験管11A及び11Bを接続アダプタ16Aに密に接合することができる。このように複数種類の接続アダプタ16A、16Bを用意する場合、試薬添加部14に接合する上端部16A1、16B1は、同一径とし、試験管11A、11Cと接合する下端部分16A2やバイエルビンと接合する下端部分16B2のみを試験管やバイエルビンの径の大きさや形状にあわせて形成することが好ましく、このように上端部分16A1、16B1を同一径とすることによって、試験管やバイエルビンの大きさなどに応じて試薬添加部14を複数種類用意する必要はない。
【0023】
図4に示すように接合アダプタ16A、16Bの上端16A1、16B1から下端16A2、16B2に連通する連通孔16A3、16B3の上方は、下方に向かって先細りとなるテーパ状に形成されており、このように上方をテーパ状に形成することにより、試薬添加部14の上方から挿入される試薬投入用注射器のシリンジ針が、挿入の際に接続アダプタ16A、16Bの連通孔16A3、16B3の内壁に刺さるのを防止することができる。
【0024】
なお、本実施例に係る有機合成装置においては、試薬添加部14として、接続アダプタ16を用いるものを使用したが、これに限定されず、図7に示すように試験管の開口と摺り合わせなしで密に接合可能なジョイント、例えば柴田科学株式会社製のSPC透明ジョイントによって試験管と接合するように構成されているものを用いても良い。このように接合部分に摺り合わせ部分がないため、接合部分の透明性を維持することが可能であり、有機合成の状態を容易に認識することが可能である。
【0025】
反応容器把持部10は、反応容器11毎設けられ、反応容器11それぞれを把持する反応容器ホルダー8と、複数の反応容器ホルダー8を支持する枠体9と、を備えている。反応容器ホルダー8は、把持される反応容器の上方が突出可能な孔18Aが形成されている天板18と、天板18の下方に設けられ、反応容器の底部が挿入可能な挿入孔20Aを有する円筒状の保持部20と、天板18と保持部20の間に設けられ、反応容器が貫通可能な貫通孔22Aを有する還流用ブロック22と、還流用ブロック22を天板18に対して支持する第1支持部材24と、保持部20を還流用ブロック22に対して支持する第2支持部材25と、を備えており、天板18の孔18A、保持部20の挿入孔20A及び還流用ブロック22の貫通孔22Aは、反応容器11が挿入可能に整合して設けられている。 天板18の前後の縁18C、18Dそれぞれには、天板18を枠体9に固定する固定ねじ19が設けられている。
【0026】
保持部20の挿入孔20Aは、把持される反応容器の下方側外周面が密接した状態で挿入可能に構成されており、挿入される反応容器それぞれの外径に併せて形成されている。また、図8に示すように保持部20の上端には、半径方向外側に突出するフランジ20Bが全周に亘って形成されており、この保持部20には、その上端から下端に亘って前方から挿入孔20Aまで貫通する溝20Cが形成されている。さらに、保持部20は、挿入孔20Aの大きさに関係なく一律の大きさの外径を有する。本実施例に係る有機合成装置において、この外径は、最も太い反応容器(例えば、図5の右のバイエルビン)と同径とし、この最も太い反応容器を用いる場合、反応容器ホルダー8に保持部20を設けず、反応容器を直接後述する加熱部30の挿入孔46に挿入する。このように保持部20の外径を一律にしているので、後述する加熱部30の挿入孔46の径は、反応容器の大きさに関係なく一律にすることができる。またさらに、保持部20は、熱伝導性に優れた素材、例えばアルミから構成されており、後述する撹拌部12の加熱部30からの熱を挿入孔20Aに挿入された反応容器に伝えるように構成されている。還流用ブロック22と保持部20の間には、ポリカーボネートから構成された断熱板26が設けられており、この断熱板26には、把持される反応容器が挿入可能な挿入孔26Aが形成されている。
【0027】
第1支持部材24は、天板18の孔18A及び還流用ブロック22の貫通孔22Aを中心として前側一つ及び後ろ側二つの二等辺三角形の頂点の位置に計3つ配置されており、第1支持部材24それぞれは、図8に示すように還流用ブロック22と天板18に亘って設けられた第1支柱ナット24Aと、天板18を第1支柱ナット24Aにねじ止めする第1ねじ24Bと、還流用ブロック22を第1支柱ナット24Aにねじ止めする第2ねじ24Cと、を備えている。第1ねじ24Bと第2ねじ24Cは、第1支柱ナット24Aに螺合し、それぞれが完全に螺着した際に、それぞれの先端の間には、スペース24Dが形成されるよう構成されている。このようにスペース24Dを形成することにより、天板18と還流用ブロック22の間の熱伝導を防止することができる。また、図9に示すように天板18の第1ねじ24Bが貫通する孔18Bには、カラー24Eが設けられている。このカラー24Eの外径は、孔18Bの内径よりも若干小さく、カラー24Eの長さは、天板18の厚さよりも若干長く形成されている。このため、還流用ブロック22及び保持部20は、天板18に対して遊びを持って固定されており、これにより反応容器把持部10や撹拌部12の製造や組み立ての際に多少のずれが生じたとしても、保持部20を容易に加熱部30の挿入孔46に挿入させて反応用把持部10を撹拌部12に装着することができる。第2支持部材25は、保持部20の挿入孔20A及び還流用ブロック22の貫通孔22Aを中心として前側二つ及び後ろ側一つの二等辺三角形の頂点の位置に計3つ配置されており、第2支持部材25それぞれは、図8に示すように断熱板26と保持部20のフランジに亘って設けられた第2支柱ナット25Aと、断熱板26と還流用ブロック22に亘って設けられたカラー部材25Bと、還流用ブロック22を第2支柱ナット25Aにねじ止めする第3ねじ25Cと、保持部20を第2支柱ナット25Aにねじ止めする第4ねじ25Dと、を備えている。第3ねじ25Cと第4ねじ25Dは、支柱ナット25Aに螺合し、それぞれが完全に螺着した際に、それぞれの先端の間には、スペース25Eが形成されるよう構成されている。このようにスペース25Eを形成することにより、保持部20の熱が還流用ブロック22に伝わるのを防止することができる。また、断熱板26は、第2支柱ナット25Aとカラー部材25Bに狭持されることによって支持されるように構成されている。
【0028】
枠体9は、図10に示すように前後一対の長辺9Bと左右一対の短辺9Cからなる長方形の枠状に形成されており、前後の短辺9Cは、前後の長辺9Bに対して上方に厚みを有しており、その上面には、把持部9Dが設けられている。枠体9の開口9Aには、各容器ホルダー8の保持部20などが挿入可能に構成されており、各容器ホルダー8の天板18の前後縁18C、18Dが、横方向に並列された状態で前後の長辺9Bの上に載置されるように構成されている。天板18の前後に設けられた固定ねじ19と整合する長辺9Bの位置には、それら固定ねじ19が螺合可能なねじ穴9B1を形成されており、固定ねじ19がそのねじ穴9Bに螺合されることにより、容器ホルダー8をこの枠体9に脱着自在に取り付けることができる。したがって、これら天板18の固定ねじ19を緩めることにより、容器ホルダー8を枠体9から取り外すことができるので、様々な反応容器11に対応した容器ホルダー8を枠体9に取り付けることができる。
【0029】
撹拌部12は、反応容器内に試薬と共に入れられるマグネットを回転させる回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eを反応容器把持部10によって把持される反応容器毎、すなわち5つ設けており(図11参照)、これら回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eにより反応容器内のマグネットを回転させることによって、反応容器内の試薬を撹拌するように構成されている。各回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eは、反応容器把持部10によって把持される反応容器と整合する位置に設けられている。これら回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eは、図11に示すように駆動源に接続された駆動プーリ27とともに一本の駆動ベルト29が張り合わされており、このため駆動プーリ27に連動して回転するよう構成されている。また、各回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eは、円盤状に形成されており、平面方向の一端側と他端側に円盤状のマグネットが設けられている。これらマグネットの磁力の向きは、互いに異なるように配置されており、各回転マグネット28A、28B、28C、28D、28Eは、それぞれの磁力の影響によって、隣接する一方側の回転マグネットに対して吸引され、隣接する他方側の回転マグネットに対して反発するように配置されている。この隣接する一方側の回転マグネットに対する吸引状態と他方側の回転マグネットに対する反発状態は、これら回転マグネットが回転している際も維持できるように配置されている。
【0030】
また、撹拌部12は、反応容器の下方を加熱する加熱部30を備えており、この加熱部30は、図8及び12に示すように反応容器把持部10の保持部20が密接した状態で挿入可能な挿入孔32を有する加熱部本体34と、加熱部本体34を加熱するヒータ36と、加熱部本体34の温度を検知する温度センサ38と、を備えている。ヒータ36及び温度センサ38は、加熱部本体34の底面から上方に形成された孔40A、40B内に設けられている。加熱部本体34には、反応容器把持部10の保持部20が密接した状態で挿入可能な挿入孔46が形成されており、この加熱部本体34は、保持部20と同様に熱伝導性に優れた素材、例えばアルミから構成されている。したがって、加熱部30のヒータ36から保持部20を介して反応容器の下方に熱が伝わるように構成されている。反応容器の下方がこの加熱部30のヒータ36によって加熱されると、反応容器に充填された試薬が蒸発するが、反応容器の還流用ブロック22の位置で冷やされて結露され、再び液体に戻されるよう構成されている。また、加熱部本体34には、その上端から下端に亘って前方から挿入孔46に貫通する溝48が形成されており、挿入された保持部20の溝20Cに整合するよう構成されている。このように加熱部本体34の溝48は、保持部20の溝20Cに整合するので、加熱部本体34の前面から保持部20の挿入孔20Aまで貫通しており、保持部20の挿入孔20Aに挿入された反応容器を加熱部本体34の前側から見ることができる。
【0031】
撹拌部12の本体44の上面の加熱部30に対向する位置には、開口44Aが形成されており、撹拌部12の本体44の上面には、その開口44Aを覆うとともに加熱部30を支持するPTFE製の支持板54が設けられている。また、加熱部30は、PTFE製のスペーサ42を介して撹拌部12の本体44の上面の支持板54に装着されている。このため、加熱部30の熱が撹拌部12の本体44に伝わるのを防止することができる。また、加熱部30の後面には、後方に突出するように冷却用ブロック50を支持する冷却用ブロック支持部52が装着されており、この冷却用ブロック支持部52は、前方に開口を有するコの字状に形成されており、その開口と加熱部30の後面の間に冷却ブロック50が挿入され、装着されるよう構成されている。このように冷却ブロック50を加熱部30の後面に装着することによって加熱部30を介して保持部20を冷やすことができ、反応容器11を冷却することができる。このように加熱部30を介して保持部20を冷却すると、その支持板54が冷却され、支持板54の裏面が結露してしまう場合がある。このため、本実施例に係る有機合成装置においては、この支持板54の裏面にフィルムヒータ56を貼り付けるとともに、このフィルムヒータ56を制御するサーモスタット57をフィルムヒータ56に設けている。そして、サーモスタット57によって、フィルムヒータ56の温度を例えば20〜30℃に調整することによって支持板54の裏面が結露するのを防止することができる。また、このフィルムヒータ56と支持板54の間に断熱材58、例えばシリコン製のスポンジを介在させている。このようにフィルムヒータ56と支持板54の間に断熱材58を介在させることにより、加熱部30の加熱運転の際に、170℃になったとしても、フィルムヒータ56に高熱を伝えるのを防止することができる。なお、本実施例に係る有機合成装置において、断熱材58としてシリコン製スポンジを用いたが、これに限定されず、断熱性があり、磁力に影響がない素材から構成されていれば良い。
【0032】
以上のように、本実施例に係る有機合成装置は、反応容器11毎に互いに別体として設けられた反応容器ホルダー8が枠体9に対して脱着可能に構成されており、また保持部20の挿入孔20Aを把持する反応容器の底部の大きさや形状に併せて形成することにより、様々な種類の反応容器を把持することができるので、異なる反応容器であっても、1回の処理で有機合成を行うことができる。また、本実施例に係る有機合成装置は、保持部20と還流用ブロック22の間に断熱板26を設けているので、比較的に短い反応容器であっても、還流用ブロック22に熱が伝わるのを防止することができる。さらに、本実施例に係る有機合成装置は、回転マグネットを隣接する一方側に対して吸引され、他方側に対して反発するように配置することによって、吸引するマグネットと反発するマグネットが同数となるので、これらを連動させる駆動源に与える負担を軽減することができる。またさらに、本実施例に係る有機合成装置は、反応容器把持部10を撹拌部12に装着させる場合、保持部20の位置を加熱部本体34の挿入孔46に併せるだけで容易に組み立てることができる。また、本実施例に係る有機合成装置は、接続アダプタ16を用いることにより、試験管だけでなく、バイエルビンなどを様々な反応容器を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る有機合成装置の実施例の使用状態を示す正面概念図である。
【図2】本実施例に係る有機合成装置の反応容器把持部と撹拌部を分離した状態を示す正面概念図である。
【図3】試薬添加部を接続アダプタを介して反応容器であるバイエルビンに接続した状態の正面図である。
【図4】接続アダプタの正面断面図である。
【図5】径の異なる様々なバイエルビンに接続した状態の図4に対応する図である。
【図6】試薬添加部を接続アダプタを介して反応容器であるリップ付き試験管に接続する動作を示す正面図である。
【図7】接続アダプタを用いないで、試薬添加部を試験管に装着した状態を示す正面図である。
【図8】反応容器把持部と撹拌部の側面断面図である。
【図9】反応容器把持部の一部拡大断面図である。
【図10】枠体の平面図である。
【図11】撹拌部の回転マグネットの配置を示す概念図である。
【図12】保持部を加熱部に装着させた状態の平面断面図である。
【図13】従来の有機合成装置を表す正面概念図である。
【図14】従来の有機合成装置の反応容器把持部と撹拌部を分離した状態を示す正面概念図である。
【符号の説明】
【0034】
8 反応容器ホルダー
10 反応容器把持部
11 反応容器
12 撹拌部
20 保持部
20A 挿入孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、
該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、
前記反応容器把持部は、少なくとも反応容器の下方が挿入可能な挿入孔を有するとともに、把持する反応容器毎にそれぞれ別体として、前記反応容器把持部の本体に対して着脱可能に構成されている反応容器ホルダーを備えていることを特徴とする有機合成装置。
【請求項2】
反応容器の上方に装着され、反応容器内に試薬を添加可能な試薬添加部をさらに備えており、
前記試薬添加部は、試薬添加部に脱着可能な接続アダプタを介して反応容器に接続可能に構成されており、該接続アダプタの上端は、前記試薬添加部の下端に密に接合するように構成されており、下端は、一の反応容器の開口に密に接合するように構成されていることを特徴とする請求項1記載の有機合成装置。
【請求項3】
前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、
該加熱部の上方には、加熱部の熱が前記反応容器把持部によって把持された反応容器の上方に伝わるのを防止する断熱板が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の有機合成装置。
【請求項4】
前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、
該加熱部には、前記反応容器ホルダーの下方が挿入可能な挿入孔が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の有機合成装置。
【請求項5】
前記撹拌部は、反応容器内に試薬と共に収容されたマグネットを回転させる回転マグネットを備えており、該回転マグネットは、前記反応容器把持部によって把持される反応容器と整合する位置に、反応容器毎設けられるとともに、連動して一方向に回転するよう構成され、磁力の影響によって、隣接する一方側の回転マグネットに対して吸引され、隣接する他方側の回転マグネットに対して反発するように配置されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の有機合成装置。
【請求項6】
前記撹拌部は、前記加熱部を支持する支持板をさらに備え、

前記加熱部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器を冷却する冷却部材を支持可能な冷却部材支持部を備え、
前記支持板の裏面には、ヒータが設けられていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の有機合成装置。
【請求項7】
複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、
該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、
前記撹拌部は、前記反応容器把持部によって把持された反応容器の下方を加熱する加熱部を備え、
該加熱部の上方には、加熱部の熱が前記反応容器把持部によって把持された反応容器の上方に伝わるのを防止する断熱板が設けられていることを特徴とする有機合成装置。
【請求項8】
複数の反応容器を把持可能な反応容器把持部と、
該反応容器把持部に把持された反応容器内の試薬を撹拌する撹拌部と、を備えた有機合成装置において、
前記撹拌部は、反応容器内に試薬と共に収容されたマグネットを回転させる回転マグネットを備えており、該回転マグネットは、前記反応容器把持部によって把持される反応容器と整合する位置に、反応容器毎設けられるとともに、連動して一方向に回転するよう構成され、磁力の影響によって、隣接する一方側の回転マグネットに対して吸引され、隣接する他方側の回転マグネットに対して反発するように配置されていることを特徴とする有機合成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−15269(P2006−15269A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196717(P2004−196717)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000181767)柴田科学株式会社 (32)
【Fターム(参考)】