説明

有機圧電材料、超音波振動子、その製造方法、超音波探触子、及び超音波医用画像診断装置

【課題】製造工程や使用環境における耐久性が良好であり、圧電特性に優れ、かつ高周波・広帯域に適した超音波振動子を構成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、その製造方法、超音波探触子、及び超音波医用画像診断装置を提供する。
【解決手段】超音波振動子10を形成するための有機圧電材料1であって、フッ化ビニリデン等の有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波・広帯域に適した超音波振動子を構成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、その製造方法、超音波探触子、及び超音波医用画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波を総称して言われ、非破壊および無害でその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断などの様々な分野に応用されている。その一つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内からの超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波診断装置がある。この超音波診断装置では、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子が用いられている。この超音波探触子としては、送信信号に基づいて機械振動して超音波を発生し、被検体内部で音響インピーダンスの違いによって生じる超音波の反射波を受けて受信信号を生成する振動子を備えて構成される超音波送受信素子が用いられる。
【0003】
そして、近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された超音波の周波数(基本周波数)成分ではなく、その高調波周波数成分によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。このハーモニックイメージング技術は、(1)基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(signal to noise ratio)が良くなってコントラスト分解能が向上すること、(2)周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって横方向分解能が向上すること、(3)近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、および(4)焦点以遠の減衰が基本波並みであり高周波を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れることなどの様々な利点を有している。
【0004】
このハーモニックイメージング用の超音波探触子は、基本波の周波数から高調波の周波数までの広い周波数帯域が必要とされ、その低周波側の周波数領域が基本波を送信するための送信用に利用される。一方、その高周波側の周波数領域が高調波を受信するための受信用に利用される(例えば特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に開示されている超音波探触子は、被検体にあてがわれて当該被検体内に超音波を送信し当該被検体内で反射して戻ってきた超音波を受信する超音波探触子である。この超音波探触子は、所定の第1の音響インピーダンスを有する配列された複数の第1の圧電素子からなる、所定の中心周波数の超音波からなる基本波の、被検体内に向けた送信、および当該被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの基本波の受信を担う第1圧電層を備えている。また、前記第1の音響インピーダンスよりも小さい所定の第2の音響インピーダンスを有する配列された複数の第2の圧電素子からなる、前記被検体内で反射して戻ってきた超音波のうちの高調波の受信を担う第2圧電層を備えている。なお、当該第2圧電層は、前記第1圧電層の、この超音波探触子が被検体にあてがわれる側の前面に重ねられている。したがって、当該超音波探触子は、このような構成によって広い周波数帯域で超音波を送受信することができる。
【0006】
ハーモニックイメージングにおける基本波は、出来る限り狭い帯域巾を有する音波がよい。それを担う圧電素子には、無機圧電体が広く利用されている。一方で高周波側の受信波を検知する圧電素子には、より広い帯域巾の感度が必要でこれらの無機材料は適さない。高周波、広帯域に適した圧電素子としては、有機系高分子材料を利用した有機圧電体が知られている(例えば特許文献2参照)。この有機圧電体は、無機圧電体と比較して、可撓性が大きい、薄膜化、大面積化、長尺化が容易である、任意の形状、形態のものを作ることができる、等の特性を有する。
【0007】
しかしながら、この有機圧電体からなる素子は、主に高分子材料から形成されていることに起因して、寸法が変形しやすいという特性を有している。その製造工程や探触子化後に寸法変形が生じると、電極、バッキング、音響整合層などの有機圧電体に積層された部材との界面で剥離が生じたり、素子間でのバラツキが生じてしまうという問題がある(例えば特許文献3及び4参照)。同様に、厚さ方向にも変形があることは振動子の特性(特に厚さ方向の共振周波数)に変化を及ぼすことであり、微細加工が必要な医療用超音波画像診断装置用の探触子としては、これまで実用化が困難とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4125416号公報
【特許文献2】特開昭60−217674号公報
【特許文献3】特開平9−37394号公報
【特許文献4】特公平3−1880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、製造工程や使用環境における耐久性が良好であり、圧電特性に優れ、かつ高周波・広帯域に適した超音波振動子を構成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、その製造方法、超音波探触子、及び超音波医用画像診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記課題は以下の手段により解決される。
【0011】
1.超音波振動子を形成するための有機圧電材料であって、当該有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする有機圧電材料。
【0012】
2.延伸製膜処理されていることを特徴とする前記1に記載の有機圧電材料。
【0013】
3.分極処理を施されており、かつ当該分極処理を施される前の有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする前記1又は前記2に記載の有機圧電材料。
【0014】
4.電気機械結合定数が、0.3以上であることを特徴とする前記1から前記3のいずれか一項に記載の有機圧電材料。
【0015】
5.フッ化ビニリデンを含有していることを特徴とする前記1から前記4のいずれか一項に記載の有機圧電材料。
【0016】
6.前記1から前記5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いたことを特徴とする超音波振動子。
【0017】
7.前記1から前記5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いる超音波振動子の製造方法であって、当該有機圧電材料の両面に設置される二つの電極のうち少なくとも一方の電極を形成後に分極処理をすることを特徴とする超音波振動子の製造方法。
【0018】
8.前記分極処理が、電圧印加処理又はコロナ放電処理であることを特徴とする前記7に記載の超音波振動子の製造方法。
【0019】
9.超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波探触子であって、前記6に記載の超音波振動子を用いたことを特徴とする超音波探触子。
【0020】
10.電気信号を発生する手段と、前記電気信号を受けて超音波を被検体に向けて送信し、前記被検体から受けた反射波に応じた受信信号を生成する複数の振動子が配置された超音波探触子と、前記超音波探触子が生成した前記受信信号に応じて、前記被検体の画像を生成する画像処理手段とを有する超音波診断装置において、前記超音波探触子が送信用超音波振動子と受信用超音波振動子の両方を具備し、かつ少なくとも一方の超音波振動子が前記1から前記5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いた超音波振動子であることを特徴とする超音波医用画像診断装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記手段により、製造工程や使用環境における耐久性が良好であり、圧電特性に優れ、かつ高周波・広帯域に適した超音波振動子を構成するための有機圧電材料、それを用いた超音波振動子、その製造方法、超音波探触子、及び超音波医用画像診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】超音波振動子の基本的構成例の模式断面図。
【図2】超音波探触子の基本的構成例の模式断面図。
【図3】超音波探触子が用いられる超音波画像診断装置の主要部の構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の有機圧電材料は、超音波振動子を形成するための有機圧電材料であって、当該有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項10に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0024】
本発明の実施態様としては、本発明の有機圧電材料は、本発明の効果の観点から、延伸処理を施されていることが好ましい。また、分極処理を施されており、かつ当該分極処理を施される前の有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることが好ましい。
【0025】
さらに、当該有機圧電材料の電気機械結合定数が、0.3以上であることが好ましい。このため、フッ化ビニリデンを含有していることが好ましい。
【0026】
本発明の有機圧電材料は、超音波振動子に好適に用いられる。当該超音波振動子の製造方法としては、当該有機圧電材料の両面に設置される二つの電極のうち少なくとも一方の電極を形成後に分極処理をする態様の製造方法であることが好ましい。当該分極処理は、電圧印加処理又はコロナ放電処理であることが好ましい。
【0027】
また、当該超音振動子は、超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波探触子に好適に用いることができる。
【0028】
当該超音波探触子は、超音波医用画像診断装置に好適に用いることができる。その場合、電気信号を発生する手段と、前記電気信号を受けて超音波を被検体に向けて送信し、前記被検体から受けた反射波に応じた受信信号を生成する複数の振動子が配置された超音波探触子と、前記超音波探触子が生成した前記受信信号に応じて、前記被検体の画像を生成する画像処理手段とを有する超音波医用画像診断装置において、前記超音波探触子が、送信用超音波振動子と受信用超音波振動子の両方を具備し、かつ、少なくとも一方の超音波振動子が本発明の有機圧電材料を用いた超音波振動子であることが好ましい。
【0029】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態・態様について詳細な説明をする。
【0030】
(有機圧電材料)
本発明の超音波振動子を構成する圧電材料の構成材料としての有機圧電材料としては低分子材料、高分子材料を問わず採用でき、低分子の有機圧電材料であれば、例えば、フタル酸エステル系化合物、スルフェンアミド系化合物、フェノール骨格を有する有機化合物などが挙げられる。高分子の有機圧電材料であれば、例えば、ポリフッ化ビニリデン、あるいはポリフッ化ビニリデン系共重合体、ポリシアン化ビニリデンあるいはシアン化ビニリデン系共重合体あるはナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロンや、芳香族ナイロン、脂環族ナイロン、あるいはポリ乳酸や、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、ポリウレアなどが挙げられる。良好な圧電特性、加工性、入手容易性等の観点から、高分子の有機圧電材料、特にフッ化ビニリデンを主成分として含有する高分子材料であることが好ましい。
【0031】
具体的には、大きい双極子モーメントをもつCF基を有する、ポリフッ化ビニリデンの単独重合体又はフッ化ビニリデンを主成分とする共重合体であることが好ましい。なお、共重合体における第二組成分としては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロパン、クロロフルオロエチレン等を用いることができる。
【0032】
例えば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレン共重合体の場合、共重合比によって厚さ方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、前者の共重合比が60〜99モル%であること、さらには、85〜99モル%であることが好ましい。
【0033】
本発明においては、上記範囲において共重合比を変化させ、当該電気機械結合定数が、0.3以上であるように調整することが好ましい。
【0034】
なお、フッ化ビニリデンを85〜99モル%にして、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロヘキサエチレン等を1〜15モル%にしたポリマーは、送信用無機圧電素子と受信用有機圧電素子との組み合わせにおいて、送信基本波を抑制して、高調波受信の感度を高めることができる。
【0035】
上記有機圧電材料は、セラミックスからなる無機圧電材料に比べ、薄膜化できることから、より高周波の送受信に対応した振動子にすることができる点が特徴である。
【0036】
本発明においては、当該有機圧電材料は、厚み共振周波数における比誘電率が10〜50であることを特徴とするが、比誘電率の調整は、当該有機圧電材料を構成する化合物が有するCF基やCN基のような極性官能基の数量、組成、重合度等の調整、及び後述する分極処理によって行うことができる。
【0037】
なお、本発明の振動子を構成する有機圧電材料は、複数の高分子材料を積層させた構成とすることもできる。この場合、積層する高分子材料としては、上記の高分子材料の他に下記の比誘電率の比較的低い高分子材料を併用することができる。
【0038】
なお、下記の例示において、括弧内の数値は、高分子材料(樹脂)の比誘電率を示す。例えば、メタクリル酸メチル樹脂(3.0)、アクリルニトリル樹脂(4.0)、アセテート樹脂(3.4)、アニリン樹脂(3.5)、アニリンホルムアルデヒド樹脂(4.0)、アミノアルキル樹脂(4.0)、アルキッド樹脂(5.0)、ナイロン−6−6(3.4)、エチレン樹脂(2.2)、エポキシ樹脂(2.5)、塩化ビニル樹脂(3.3)、塩化ビニリデン樹脂(3.0)、尿素ホルムアルデヒド樹脂(7.0)、ポリアセタール樹脂(3.6)、ポリウレタン(5.0)、ポリエステル樹脂(2.8)、ポリエチレン(低圧)(2.3)、ポリエチレンテレフタレート(2.9)、ポリカーポネート樹脂(2.9)、メラミン樹脂(5.1)、メラミンホルムアルデヒド樹脂(8.0)、酢酸セルロース(3.2)、酢酸ビニル樹脂(2.7)、スチレン樹脂(2.3)、スチレンブタジェンゴム(3.0)、スチロール樹脂(2.4)、フッ化エチレン樹脂(2.0)等を用いることができる。
【0039】
なお、上記比誘電率の低い高分子材料は、圧電特性を調整するため、或いは有機圧電材料の物理的強度を付与するため等の種々の目的に応じて適切なものを選択することが好ましい。
【0040】
(有機圧電材料の作製方法)
本発明に係る有機圧電材料は、上記高分子材料を主たる構成成分として有する室温以上、融点から10℃低い温度以下の温度において、延伸可能なフィルム状であり、張力を一定の範囲に保ちながら熱処理され、続いて室温まで冷却される間に二段階目の延伸をして作製することができる。
【0041】
本発明に係るフッ化ビニリデンを含む有機圧電材料を振動子とする場合、フィルム状に形成し、ついで電気信号を入力するための表面電極を形成する。
【0042】
フィルム形成は、溶融法、流延法など一般的な方法を用いることができる。ポリフッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体の場合、フィルム状にしたのみで自発分極をもつ結晶型を有することが知られているが、さらに特性を上げるには、分子配列を揃える処理を加えることが有用である。手段としては、延伸処理、分極処理などが挙げられる。
【0043】
延伸処理の方法については、種々の公知の方法を採用することができる。例えば、上記高分子材料をエチルメチルケトン(MEK)などの有機溶媒に溶解した液をガラス板などの基板上に流延し、常温にて溶媒を乾燥させ、所望の厚さのフィルムを得て、このフィルムを室温で所定の倍率の長さに延伸する。当該延伸処理は、所定形状の有機圧電材料が破壊されない程度に一軸・二軸方向に延伸することができる。延伸倍率は2〜10倍、好ましくは2〜6倍である。
【0044】
なお、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体および/またはフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体において、230℃における溶融流動速度(Melt Flow Rate)が0.03g/min以下である。より好ましくは、0.02g/min以下、更に好ましくは、0.01g/min以下である高分子圧電体を使用すると高感度な圧電体の薄膜が得られる。
【0045】
一般にフィルム状の材料を熱処理する場合、フィルム面内に効率的かつ均一に熱を与えるためにチャック、クリップなどで端部を支持して所定温度付近下に置くことが好ましい。この際に、フィルム面にヒートプレート等の熱源を直接触れるような形態で熱を与えることは、加熱の際に収縮する材料の場合、平面性を損なうので好ましくない。むしろ加熱の際の熱収縮に対し、わずかに弛緩処理を行うことの方が平面性に対しては効果がある。ここでいう弛緩処理とは、熱処理およびその終了後室温まで冷却される過程でフィルムにかかる収縮ないしは膨張しようとする力に追従しながら、フィルム両端の応力を変化させることである。弛緩処理は、フィルムが弛むことで平面性が保てなくなったり、応力が大きくなって破断したりしない限り、応力を緩和させるように縮めても、さらに張力をかける方向に延伸しない程度に広げても良い。本発明においては、延伸した方向をプラスと定めた場合、長さにして10%程度、フィルムが冷却中に伸びる場合は、たるみに追従するように最大でも10%程度、二段階目の延伸を行う。フィルムをピンと張った状態にする、たるみをなくす程度に延伸チャックを稼動させることを本発明では二段階目の延伸と呼ぶことにする。それ以上の処理は、冷却中の延伸となりフィルム破断のおそれがある。
【0046】
本発明の有機圧電材料の熱処理としては、フィルム面内に効率的かつ均一に熱を与えるためにチャック、クリップなどで端部を支持して、フィルムの融点よりも10℃低い温度を上限とした温度付近下に置くことが好ましい。ポリフッ化ビニリデンを主成分とする有機圧電材料の場合、融点が150〜180℃にあることから、110〜140℃の温度で熱処理をすることが好ましい。また、その時間は、30分以上行うことで効果が発現し長ければ長いほど結晶成長が促進するが時間とともに飽和することから、現実的には10時間程度、長くとも一昼夜程度である。この間もフィルムの平面性を維持するために一定の張力がフィルムかかるようにしておくことが好ましい。熱処理中の張力は、仕上がりの平面性の観点から0.1〜500kPaの範囲内が好ましく、より好ましくは出来る限り小さい応力が好ましい。熱処理中のフィルムは柔らかく、張力がこの値よりも大きくなると、さらに延びてしまうため、熱処理の効果が失われてしまうだけでなく、破断が起こるおそれがある。
【0047】
本発明においては、後述する分極処理を施される前の有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする。
【0048】
当該熱収縮率を所定の範囲に調整する方法としては、上記の延伸条件及び熱処理の条件を上記の延伸倍率及び温度範囲内で制御するとともに、延伸処理後、当該製膜された有機圧電材料を、50〜70℃の温度範囲内の温度において、1時間以上行うことで収縮率を大幅に低減できるが、好ましくは3時間以上放置することにより行うことができる。
【0049】
本発明に係る熱収縮率は、種々の方法により測定できるが、本願においては、下記の方法に準拠した方法で測定することとする。
【0050】

〈熱収縮率の測定方法〉
フィルム(製膜された有機圧電材料)の長手方向及び幅方向に対し、それぞれ長さ150mm及び幅20mmの短冊状試料を切り出す。各試料の長さ方向に100mm間隔で2つの印を付け、無荷重下で2つの印の間隔Aを測定する。続いて、短冊状の各試料の片側をカゴに無荷重下でクリップにてつるし、50℃の雰囲気下のギアオーブンに入れると同時に時間を計る。30分後、ギアオーブンからカゴを取り出し、30分間室温で放置する。次いで、各試料について、無荷重下で、間隔を読み取る。読み取った間隔A及びBより、各試料の50℃での熱収縮率を下記式により算出する。同様にして、70℃の雰囲気下においた試料についても測定・算出する。
熱収縮率(%)=((A−B)/A)×100
以上の方法で得た50℃及び70℃の熱収縮率を、有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率とする。
【0051】
(分極処理)
本発明に係る分極処理における分極処理方法としては、従来公知の直流電圧印加処理若しくは交流電圧印加処理等の電圧印加処理、又はコロナ放電処理等の方法が適用され得る。
【0052】
例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して処理することができる。
【0053】
放電条件は、機器や処理環境により異なるので適宜条件を選択することが好ましい。高電圧電源の電圧としては−1〜−20kV、電流としては1〜80mA、電極間距離としては、1〜10cmが好ましく、印加電圧は、0.5〜2.0MV/mであることが好ましい。
【0054】
電極としては、従来から用いられている針状電極、線状電極(ワイヤー電極)、網状電極が好ましいが、本発明ではこれらに限定されるものではない。
【0055】
(基板)
基板としては、本発明に係る有機圧電材料の用途・使用方法等により基板の選択は異なる。本発明においては、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマーのようなプラスチック板又はフィルムを用いることができる。また、これらの素材の表面をアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素等で覆ったものでもよい。またアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素単体、希土類のハロゲン化物の単結晶の板又はフィルムでもかまわない。
【0056】
(電極)
本発明に係る有機圧電材料を有する振動子は、当該有機圧電材料からなる圧電体膜(層)の両面上又は片面上に電極を形成し、その圧電体膜を分極処理することによって作製されるものである。当該電極は、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)などを主体とした電極材料を用いて形成する。
【0057】
電極の形成に際しては、まず、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成する。その後、上記金属元素を主体とする金属及びそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する。これらの電極形成はスパッタ法以外でも真空蒸着法や微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0058】
さらに、圧電体膜の両面に形成した電極間に、所定の電圧を供給し、圧電体膜を分極することで圧電素子が得られる。
【0059】
(超音波振動子)
本発明に係る超音波振動子は、本発明の有機圧電材料を用いて形成した有機圧電膜を用いたことを特徴とする。当該超音波振動子は、超音波送信用振動子と超音波送信用振動子を具備する超音波医用画像診断装置用探触子(プローブ)に用いられる超音波受信用振動子とすることが好ましい。
【0060】
なお、一般に、超音波振動子は膜状の圧電材料からなる層(又は膜)(「圧電膜」、「圧電体膜」、又は「圧電体層」ともいう。)を挟んで一対の電極を配設して構成され、複数の振動子を例えば1次元配列して超音波探触子が構成される。
【0061】
そして、複数の振動子が配列された長軸方向の所定数の振動子を口径として設定し、その口径に属する複数の振動子を駆動して被検体内の計測部位に超音波ビームを収束させて照射すると共に、その口径に属する複数の振動子により被検体から発する超音波の反射エコー等を受信して電気信号に変換する機能を有している。
【0062】
図1に、超音波振動子の基本的構成態様の例を示す。超音波振動子10は、圧電材料1の両側に電極2が配置されている。電極2は、必要に応じ、圧電材料1の全面にわたり配置されてもよいし、有機圧電材料1の一部分に配置されてもよい。
【0063】
以下、本発明に係る超音波受信用振動子と超音波送信用振動子それぞれについて詳細に説明する。
【0064】
〈超音波受信用振動子〉
本発明に係る超音波受信用振動子は、超音波医用画像診断装置用探触子に用いられる超音波受信用圧電材料を有する振動子であって、それを構成する圧電材料が、本発明の有機圧電材料を用いて形成した有機圧電膜を用いた態様であることが好ましい。
【0065】
なお、超音波受信用振動子に用いる有機圧電材料ないし有機圧電膜は、厚さ共振周波数における比誘電率が10〜50であることが好ましい。比誘電率の調整は、当該有機圧電材料を構成する化合物が有する前記置換基R、CF基、CN基のような極性官能基の数量、組成、重合度等の調整、及び上記の分極処理によって行うことができる。
【0066】
なお、本発明の受信用振動子を構成する有機圧電体膜は、複数の高分子材料を積層させた構成とすることもできる。
【0067】
〈超音波送信用振動子〉
本発明に係る超音波送信用振動子は、上記受信用圧電材料を有する振動子との関係で適切な比誘電率を有する圧電体材料により構成されることが好ましい。また、耐熱性・耐電圧性に優れた圧電材料を用いることが好ましい。
【0068】
超音波送信用振動子構成用材料としては、公知の種々の有機圧電材料及び無機圧電材料を用いることができる。
【0069】
有機圧電材料としては、上記超音波受信用振動子構成用有機圧電材料と同様の高分子材料を用いることできる。
【0070】
無機材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウム[K(Ta,Nb)O]、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、又はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)等を用いることができる。尚、PZTはPb(Zr1−nTi)O(0.47≦n≦1)が好ましい。
【0071】
(超音波探触子)
本発明に係る超音波探触子は、超音波画像診断装置の主要構成部品であって、超音波を発生するとともに、超音波ビームを送受信する機能を有するものである。当該超音波探触子の内部の構成は、種々の態様を採り得るが、一般的構成としては、先端(被検体である生体に接する面)部分から「音響レンズ」、「音響整合層」、「超音波振動子(素子)」、「バッキング」という順に並置された態様の構成を採り得る。
【0072】
本発明に係る超音波探触子は、超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波医用画像診断装置用探触子(プローブ)であり、受信用振動子として、本発明に係る上記超音波受信用振動子を用いることを特徴とする。
【0073】
本発明においては、超音波の送受信の両方をひとつの振動子で担ってもよいが、より好ましくは、送信用と受信用で振動子は分けて探触子内に構成される。
【0074】
送信用振動子を構成する圧電材料としては、従来公知のセラミックス無機圧電材料でも、有機圧電材料でもよい。
【0075】
本発明に係る超音波探触子においては、送信用振動子の上もしくは並列に本発明の超音波受信用振動子を配置することができる。
【0076】
より好ましい実施形態としては、超音波送信用振動子の上に本発明の超音波受信用振動子を積層する構造が良く、その際には、本発明の超音波受信用振動子は他の高分子材料(支持体として上記の比誘電率が比較的低い高分子(樹脂)フィルム、例えば、ポリエステルフィルム)の上に添合した形で送信用振動子の上に積層してもよい。その際の受信用振動子と他の高分子材料と合わせた膜厚は、探触子の設計上好ましい受信周波数帯域に合わせることが好ましい。実用的な超音波医用画像診断装置及び生体情報収集に現実的な周波数帯から鑑みると、その膜厚は、40〜150μmであることが好ましい。
【0077】
なお、当該探触子には、バッキング層、音響整合層、音響レンズなどを設けても良い。また、多数の圧電材料を有する振動子を2次元に並べた探触子とすることもできる。複数の2次元配列した探触子を順次走査して、画像化するスキャナーとして構成させることもできる。
【0078】
図2に、超音波探触子の基本的構成態様の例を示す。超音波探触子20は、バッキング層6上に、送信用圧電材料5に電極2が付された送信用超音波振動子12を有し、送信用超音波振動子12上に基板7を有し、基板7上に受信用有機圧電材料11に電極2が付された受信用超音波振動子13を有し、さらにその上に音響整合層8及び音響レンズ9を有する構成を有する。
【0079】
(音響レンズ)
本発明に係る音響レンズは、屈折を利用して超音波ビームを集束し分解能を向上するために配置されている。本発明にいては、当該音響レンズの被検体表面に近い領域に、励起光を照射することにより発光する物質すなわち発光物質が添加されていることを特徴とする。
【0080】
当該音響レンズは、超音波を収束するとともに、生体とよく密着して生体の音響インピーダンス(密度×音速;(1.4〜1.6)×10kg/m・sec)と整合させ、超音波の反射を少なくしうること、レンズ自体の超音波減衰量が小さいことが必要条件とされている。
【0081】
すなわち、超音波ビームを集束するため人体と接触する部分に、従来ゴム等の高分子材料をベースにして作られた音響レンズが設けられている。ここに用いられるレンズ材料としては、その音速が人体のそれより十分小さくて、減衰が少なく、又、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近いものが望まれる。レンズ材が、音速が人体のそれより十分小さければ、レンズ形状を凸状となすことができ、診断を行う際に滑りが良くなり、安全に行えるし、また、減衰が少なくなれば、感度良く超音波の送受信が行え、さらに、音響インピーダンスが人体の皮膚の値に近いものであれば、反射が小さくなり、換言すれば、透過率が大きくなるので、同様に超音波の送受信感度が良くなるからである。
【0082】
本発明において、音響レンズを構成する素材としては、従来公知のシリコンゴム、フッ素シリコンゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のホモポリマー、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン−プロピレン共重合体ゴム等の共重合体ゴム等を用いることができる。これらのうち、シリコン系ゴムを用いることが好ましい。
【0083】
本発明に使用されるシリコン系ゴムとしては、シリコンゴム、フッ素シリコンゴム等が挙げられる。就中、レンズ材の特性上、シリコンゴムを使用することが好ましい。シリコンゴムとは、Si−O結合からなる分子骨格を有し、そのSi原子に複数の有機基が主結合したオルガノポリシロキサンをいい、通常は、その主成分はメチルポリシロキサンで、全体の有機基のうち90%以上はメチル基である。メチル基に代えて水素原子、フェニル基、ビニル基、アリル基等を導入したものも使用することができる。当該シリコンゴムは、例えば、高重合度のオルガノポリシロキサンに過酸化ベンゾイルなどの硬化剤(加硫剤)を混練し、加熱加硫し硬化させることにより得ることができる。必要に応じてシリカ、ナイロン粉末等の有機又は無機充填剤、硫黄、酸化亜鉛等の加硫助剤等を添加してもよい。
【0084】
本発明に使用されるブタジエン系ゴムとしては、ブタジエン単独又はブタジエンを主体としこれに少量のスチロール又はアクリロニトリルが共重合した共重合ゴム等が挙げられる。就中、レンズ材の特性上、ブタジエンゴムを使用することが好ましい。ブタジエンゴムとは、共役二重結合を有するブタジエンの重合により得られる合成ゴムをいう。ブタジエンゴムは、共役二重結合を有するブタジエン単独が1,4又は1.2重合することにより得ることができる。ブタジエンゴムは、硫黄等により加硫させたものが使用できる。
【0085】
本発明に係る音響レンズにおいては、シリコン系ゴムとブタジエン系ゴムとを混合し加硫硬化させることにより得ることができる。例えば、シリコンゴムとブタジエンゴムとを適宜割合で、混練ロールにより、混合し、過酸化ベンゾイルなどの加硫剤を添加し、加熱加硫し架橋(硬化)させることにより得ることができる。その際に、加硫助剤として、酸化亜鉛を添加することが好ましい。酸化亜鉛は、レンズ特性を落とさずに、加硫促進を促し、加硫時間を短縮できる。他に、着色剤や音響レンズの特性を損なわない範囲内で他の添加剤を添加してもよい。シリコン系ゴムとブタジエン系ゴムとの混合割合は、その音響インピーダンスが人体に近似しているとともに、その音速が人体より小さく、減衰が少ないものを得るには、通常、1:1が好ましいが、当該混合割合は適宜変更可能である。
【0086】
なお、本発明においては、上記シリコン系ゴム等のゴム素材をベース(主成分)として、音速調整、密度調整等の目的に応じ、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの無機充填剤や、ナイロンなどの有機樹脂等を配合することもできる。
【0087】
(バッキング層)
本発明においては、超音波振動子の背面に配置し、後方への超音波の伝搬を抑制することを目的としてバッキング層を備えることも好ましい。これにより、パルス幅を短くすることができる。
【0088】
(音響整合層)
音響整合層(「λ/4層」ともいう。)は、振動子と生体間の音響インピーダンス差を少なくし、超音波を効率よく送受信するために多層配置される。
【0089】
(超音波医用画像診断装置)
本発明に係る上記超音波探触子は、種々の態様の超音波診断装置に用いることができる。図3に、本発明の実施形態の超音波医用画像診断装置の主要部の構成の概念図を示す。
【0090】
例えば、患者などの被検体に対して超音波を送信し、被検体で反射した超音波をエコー信号として受信する圧電体振動子が配列されている超音波探触子(プローブ)を備えている超音波医用画像診断装置が好ましい。また当該超音波探触子に電気信号を供給して超音波を発生させるとともに、当該超音波探触子の各圧電体振動子が受信したエコー信号を受信する送受信回路と、送受信回路の送受信制御を行う送受信制御回路を備えていることが好ましい。
【0091】
更に、送受信回路が受信したエコー信号を被検体の超音波画像データに変換する画像データ変換回路を備え、当該画像データ変換回路によって変換された超音波画像データでモニタを制御して表示する表示制御回路と、超音波医用画像診断装置全体の制御を行う制御回路を備えた超音波医用画像診断装置が好ましい。
【0092】
このような超音波医用画像診断装置は、制御回路には、送受信制御回路、画像データ変換回路、表示制御回路が接続されており、制御回路はこれら各部の動作を制御している。そして、超音波探触子の各圧電体振動子に電気信号を印加して被検体に対して超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波探触子で受信する。
【0093】
なお、上記送受信回路が「電気信号を発生する手段」に相当し、画像データ変換回路が「画像処理手段」に相当する。
【0094】
上記のような超音波診断装置によれば、本発明の圧電特性及び耐熱性に優れかつ高周波・広帯域に適した超音波受信用振動子の特徴を生かして、従来技術と比較して画質とその再現・安定性が向上した超音波像を得ることができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0096】
(有機圧電材料の作製と評価)
実施例1
フッ化ビニリデン(以下VDF)とトリフルオロエチレン(以下3FE)のモル比率が75:25であるポリフッ化ビニリデン共重合体粉末(重量平均分子量29万)を50℃に加熱したエチルメチルケトン(以下MEK)、ジメチルホルムアミド(以下DMF)の9:1混合溶媒に溶解した液をガラス板上に流延した。その後、50℃にて溶媒を乾燥させ、厚さ約140μm、融点155℃のフィルム(有機圧電材料)を得た。
【0097】
このフィルムをチャックにかかる荷重が測定できるロードセル付きの一軸延伸機によって、室温で3.8倍に延伸した。延伸終了後、フィルム端の応力が20kPaになるまでチャックを移動させた。この長さを保ったまま延伸機を加熱し、135℃において1時間熱処理を行った。その間、張力が0にならないように、チャック間距離を制御しながら(弛緩)熱処理を行った。つづいて、張力が100kPaになるようにチャック間距離を制御しながら室温まで急冷した。
【0098】
本発明においては、上記の結晶成長を目的とした融点直下の温度における熱処理後の後、張力を解放する前に(張力が0になることなく)再び60℃雰囲気下に3時間フィルムさらした。得られた熱処理後のフィルムの膜厚は43μmであった。
【0099】
得られたフィルムの両面に表面抵抗が20Ω以下になるように金/クロム/ニッケルを蒸着して表面電極付の試料を得た。つづいて、この電極に室温にて、0.1Hzの交流電圧を印可しながら分極処理を行った。分極処理は低電圧から行い、最終的に電極間電場が100MV/mになるまで徐々に電圧をかけていった。最終的な分極量は、圧電材料をコンデンサと見たてた際の残留分極量、すなわち膜厚、電極面積、印可電場に対する電荷蓄積量から求め、本発明の試料1を得た。
【0100】
その他の本発明の試料及び比較の試料については、表1に示す条件、第1および第2の熱処理温度、熱処理時間で試料1同様に製膜、電極付けを行って分極済の試料を得た。
【0101】
[熱収縮率の測定方法]
得られた試料の長手方向及び幅方向に対し、それぞれ長さ150mm及び幅20mmの短冊状試料を切り出し、各試料の長さ方向に100mm間隔で2つの印を付け、無荷重下で2つの印の間隔Aを測定した。続いて、短冊状の各試料の片側をカゴに無荷重下でクリップにてつるし、50℃の雰囲気下のギアオーブンに入れると同時に時間を計った。30分後、ギアオーブンからカゴを取り出し、30分間室温で放置した。次いで、各試料について、無荷重下で、間隔を読み取った。読み取った間隔A及びBより、各試料の50℃での熱収縮率を下記式により算出した。同様にして、70℃の雰囲気下においた試料についても測定・算出した。
熱収縮率(%)=((A−B)/A)×100
以上の方法で得た50℃及び70℃の熱収縮率を、有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率を求めた。
【0102】
[有機圧電材料の評価方法]
上記のようにして得られた電極付の試料の両面の電極にリード線を付け、アジレントテクノロジー社製インピーダンスアナライザ4294Aを用いて、25℃雰囲気下において、40Hzから110MHzまで等間隔で600点周波数掃引した。厚み共振周波数における比誘電率の値を求めた。同様に、厚み共振周波数付近の抵抗値のピーク周波数P、コンダクタンスのピーク周波数Sをそれぞれ求めたとき、下記式にて電気機械結合定数kを求めた。
【0103】
=(α/tan(α))1/2 ただし、α=(π/2)×(S/P)
インピーダンスアナライザを用いて厚み共振周波数から電気機械結合定数を求める方法としては、電子情報技術産業協会規格JEITA EM−4501(旧EMAS−6100)圧電セラミック振動子の電気的試験方法に記載の円盤状振動子の厚みたて振動に4.2.6項に準拠している。上記評価結果を表1に示す。
【0104】
[加工適性(部材間の剥離)]
上記のようにして得られた、電極付きの有機圧電材料と厚さ50μmのポリエステルフィルムをエポキシ系接着剤にて50℃で4時間加熱することにより貼り合わせた積層振動子を各々作製した。できあがった有機圧電材料とポリエステルフィルムの間の剥離状況を100倍の光学顕微鏡で観察した。
【0105】
A:剥離なし
B:剥離があり、変形は少ないが、実用上耐えない
C:剥離があり、かつ、変形もあり、実用上耐えない
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の範囲内で実施された試料については、圧電特性に優れており、有機圧電体に積層された部材との界面で剥離が生じることがない、振動子への加工適性が優れていることが分かる。
【0108】
(実施例2)
(超音波探触子の作製と評価)
成分原料であるCaCO、La、BiとTiO、及び副成分原料であるMnOを準備し、成分原料については、成分の最終組成が(Ca0.97La0.03)Bi4.01Ti15となるように秤量した。次に、純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて8時間混合し、十分に乾燥を行い、混合粉体を得た。得られた混合粉体を、仮成形し、空気中、800℃で2時間仮焼を行い、仮焼物を作製した。次に、得られた仮焼物に純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて微粉砕を行い、乾燥することにより圧電セラミックス原料粉末を作製した。微粉砕においては、微粉砕を行う時間および粉砕条件を変えることにより、それぞれ粒子径100nmの圧電セラミックス原料粉末を得た。それぞれ粒子径の異なる各圧電セラミックス原料粉末にバインダーとして純水を6質量%添加し、プレス成形して、厚み100μmの板状仮成形体とし、この板状仮成形体を真空パックした後、235MPaの圧力でプレスにより成形した。次に、上記の成形体を焼成した。最終焼結体の厚さは20μmの焼結体を得た。なお、焼成温度は、それぞれ1100℃であった。1.5×Ec(MV/m)以上の電界を1分間印加して分極処理を施した。
【0109】
〈受信用積層振動子の作製〉
前記実施例において作製したポリフッ化ビニリデン共重合体のフィルム(有機圧電体膜)と厚さ50μmのポリエステルフィルムをエポキシ系接着剤にて貼り合わせた積層振動子を作製した。その後、上記と同様に分極処理をした。
【0110】
次に、常法に従って、上記の送信用圧電材料の上に受信用積層振動子を積層し、かつバッキング層と音響整合層を設置し超音波探触子を試作した。
【0111】
なお、比較例として、上記受信用積層振動子の代わりに、ポリフッ化ビニリデン共重合体のフィルム(有機圧電体膜)のみを用いた受信用積層振動子を上記受信用積層振動子に積層した以外、上記超音波探触子と同様の探触子を作製した。
【0112】
次いで、上記2種の超音波探触子について受信感度と絶縁破壊強度の測定をして評価した。
【0113】
なお、受信感度については、5MHzの基本周波数fを発信させ、受信2次高調波fとして10MHz、3次高調波として15MHz、4次高調波として20MHzの受信相対感度を求めた。受信相対感度は、ソノーラメディカルシステム社(Sonora Medical System,Inc:2021Miller Drive Longmont,Colorado(0501 USA))の音響強度測定システムModel805(1〜50MHz)を使用した。
【0114】
絶縁破壊強度の測定は、負荷電力Pを5倍にして、10時間試験した後、負荷電力を基準に戻して、相対受信感度を評価した。感度の低下が負荷試験前の1%以内のときを良、1%を超え10%未満を可、10%以上を不良として評価した。
【0115】
上記評価において、本発明に係る受信用圧電(体)積層振動子を具備した探触子は、比較例に対して約1.2倍の相対受信感度を有しており、かつ絶縁破壊強度は良好であることを確認した。すなわち、本発明の超音波受信用振動子は、図3に示したような超音波医用画像診断装置に用いる超音波探触子にも好適に使用できることが確認された。
【符号の説明】
【0116】
1 有機圧電材料
2 電極
5 送信用圧電材料
6 バッキング層
7 基板
8 音響整合層
9 音響レンズ
10 超音波振動子
11 受信用有機圧電材料
12 送信用超音波振動子
13 受信用超音波振動子
20 超音波探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子を形成するための有機圧電材料であって、当該有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする有機圧電材料。
【請求項2】
延伸製膜処理されていることを特徴とする請求項1に記載の有機圧電材料。
【請求項3】
分極処理を施されており、かつ当該分極処理を施される前の有機圧電材料を50〜70℃の温度範囲内の雰囲気下に30分間放置したときの熱収縮率が、−0.5〜+0.5%の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機圧電材料。
【請求項4】
電気機械結合定数が、0.3以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の有機圧電材料。
【請求項5】
フッ化ビニリデンを含有していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の有機圧電材料。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いたことを特徴とする超音波振動子。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いる超音波振動子の製造方法であって、当該有機圧電材料の両面に設置される二つの電極のうち少なくとも一方の電極を形成後に分極処理をすることを特徴とする超音波振動子の製造方法。
【請求項8】
前記分極処理が、電圧印加処理又はコロナ放電処理であることを特徴とする請求項7に記載の超音波振動子の製造方法。
【請求項9】
超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波探触子であって、請求項6に記載の超音波振動子を用いたことを特徴とする超音波探触子。
【請求項10】
電気信号を発生する手段と、前記電気信号を受けて超音波を被検体に向けて送信し、前記被検体から受けた反射波に応じた受信信号を生成する複数の振動子が配置された超音波探触子と、前記超音波探触子が生成した前記受信信号に応じて、前記被検体の画像を生成する画像処理手段とを有する超音波診断装置において、前記超音波探触子が送信用超音波振動子と受信用超音波振動子の両方を具備し、かつ少なくとも一方の超音波振動子が請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の有機圧電材料を用いた超音波振動子であることを特徴とする超音波医用画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−18682(P2011−18682A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160595(P2009−160595)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】