説明

有機塩化錯アニオンの製造方法

【課題】錯アニオンの有機塩化物を簡便に製造する方法を提供すること。
【解決手段】錯アニオンの有機塩化体の製造方法であって、[MX]2− (Mは4価の価数をとる遷移金属を表し、Xは−1価となる原子または原子団を表す)で表される錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を、酸性雰囲気下接触させることを特徴とする有機塩化された錯アニオンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩化錯アニオンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の移動体化に伴い、蓄電技術の重要性が高まっている。蓄電の際に用いられる電解質は、電池性能を左右する重要な因子であり、その開発は、今後の蓄電技術の向上のために重要となる。とりわけ、非水系有機溶媒中で電解質を用いることによって、水の電気分解の影響を受けずに高電圧が得られるので、非水系電解質の開発は重要である。
電解質を非水系有機溶媒中で用いるためには、電解質材料を電気化学的に安定な有機溶媒に高濃度で溶解させる必要がある。ヨウ素イオンや臭素イオンといった電解質は、有機溶媒に対する溶解度が高く、特別な処理を行わなくても有機溶媒中で用いることが可能であるが、錯アニオンの場合は、一般に有機溶媒に対する溶解度が不十分であるために有機塩化などの処理が必要となる。
【0003】
有機塩化された錯アニオンを得る方法としては、非特許文献1には、加熱還流によって製造する方法が開示され、非特許文献2には、錯アニオンを用い、高濃度の酸を沸点付近まで過熱して行うメタセシス反応で有機塩化する方法が開示されている。これらの方法はいずれも高温に加熱する必要があり、有機溶媒を用いるためその廃棄や処理などの問題があるなど、製造コストが高くなるといった問題を有していた。
【非特許文献1】第4版 実験化学講座17 無機錯体・キレート錯体(社団法人日本化学会編), 1991, 93
【非特許文献2】A. W. Maverick et al. Photopysicsand photochemistry of Hexachlororhenate(IV) and hexabromorhenate(IV), Inorg. Chem. 30, 553, 1991
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、錯アニオンの有機塩化物を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、[MX]2− (Mは4価の遷移金属を表し、Xはハロゲン原子を表す)で表される錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を、酸性雰囲気下で接触させることによって、有機塩化された錯アニオンを常温下一段反応で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1) [MX]2− (Mは4価の遷移金属を表し、Xは−1価となる原子または原子団を表す)で表される錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を、酸性雰囲気下で接触させることを特徴とする錯アニオンの有機塩化体の製造方法。
(2)有機カチオンを生成する塩基性化合物が、4級アンモニウムイオンを生成する塩基性化合物であることを特徴とする上記(1)に記載の錯アニオンの有機塩化体の製造方法。
(3)Xがハロゲン原子であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の錯アニオンの有機塩化体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、煩雑な工程を経ず、常温下、一段階反応で容易に有機塩化された錯アニオンを製造できる。また、その製造工程において、加熱する必要や、有機溶媒を用いる必要が無いため、加熱のためのエネルギー負荷や廃液処理といった、製造コストや環境に対する負荷を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の錯アニオンについて説明する。
本発明の錯アニオンは、[MX]2−で表される構造であり、Mは遷移金属を表し、Xは−1価となる原子または原子団を表す。
この錯アニオンのイオン価は−2であることが必要である。これは、錯アニオンのイオン価が−2である場合に、本発明の方法によって、一段反応で錯アニオンの有機塩化が達成できるためである。
遷移金属は多くの価数をとる場合があり、Xは−1価のイオンであるため、 [MX]のイオン価は、遷移金属の価数によって決定される。したがって、Mは4価の遷移金属であることが必要である。一般に遷移金属とは、周期律表の3から11族の元素のことをいうが、4価の価数をとる必要があるため、本発明においては、遷移金属とは、周期律表の4から10族の元素である。このような遷移金属として、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Mn、Mo,W、Reなどが例示できる。中でも、第三遷移金属は4価で安定な場合が多いため好ましく、具体的には、Os、Ir、Reなどが好ましい元素である。なお、上述のように、遷移金属は多くの価数をとるが、本発明において4価の遷移金属とは、+4価で安定なイオンとして存在可能な遷移金属であって、[MX]2−の状態で4価となっていることを意味する。
【0008】
本発明において、Xは−1価となる原子または原子団であり、Mと共に錯アニオンを形成する原子または原子団であれば限定されない。具体的には、−1価となる、F、Cl、I、Brなどのハロゲン原子、CN、OHなどの原子団を例示できる。これらの中で、酸性雰囲気下の安定性の観点から、ハロゲン原子が好ましく用いられる。このように、Xは−1価になり、上述の4価の遷移金属と共に[MX]2−で表される錯アニオンが形成される。
本発明においては、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩が用いられる。すなわち、このような塩は、後述のように本発明の好ましい溶媒である水に対する溶解度が高いためである。中でもアルカリ金属塩は水に対する溶解度が高いので、好ましく用いられる。
【0009】
次に、有機カチオンを生成する塩基性化合物について説明する。
本発明の有機カチオンは、正の電荷を有する有機物であり、具体的には、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、モノメチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、トリフェニルアンモニウムイオンなどの有機アンモニウムイオン、テトラフェニルフォスフォニウムイオン、テトラエチルフォスフォニウムイオン、テトラメチルフォスフォニウムイオンなどの有機フォスフォニウムイオンが例示できる。これらのイオンが水酸イオンに代表される負の電荷を有するイオンと結合して、塩基性化合物を形成する。
【0010】
このような化合物が塩基性であることは、水または水と有機溶媒の混合溶媒に溶解し、その場合のpHが7より大となることによって確認できる。
これらの中で、製造の容易さ、所望により行われる精製の容易さの観点から、有機アンモニウムイオンの水酸化物が好ましく用いられる。
有機カチオンを生成する塩基性化合物の添加量は、錯アニオンの部分有機塩化を行う場合は、所望の量を添加し、完全に有機塩化する場合は、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩に対し2倍モル以上添加する。
本発明で用いられる溶媒は、水に代表される水性媒体が好ましく、水が最も好ましい。本発明において、水性媒体とは、常温下、水を50vol%以上含有する溶媒のことである。この溶媒には、所望に応じて、本発明の製造方法に影響しない程度の無機塩、有機塩などの添加物を混合してもよい。
溶媒中の出発原料の濃度は制約されないが、攪拌効率と廃液の量などの観点から、好ましくは、0.001M以上10M以下であり、より好ましくは、0.01M以上5M以下である。
【0011】
次に、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を接触させる方法について説明する。
本発明において、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物の接触は、酸性雰囲気下で行われる。すなわち、酸性雰囲気下で、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩が有機カチオンとイオン交換するためである。
本発明において酸性雰囲気下とは、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を接触させる際の、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩が存在する側のpHが7未満であることである。前述のように水性媒体を溶媒として用いる場合は、添加物の有無に関わらず、直接測定した値を用いる。また、溶媒として水性媒体を用いない場合は、水または水を含有する両性溶媒に代表される混合溶媒で希釈してpHを測定し、その際の希釈倍率に応じてpHを算出する。
接触させる順序は限定されないが、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩を酸と接触させて酸性雰囲気にしたのち、有機カチオンを生成する塩基性化合物を接触させるのが好ましい。
【0012】
また、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物との接触後のpHが7未満の酸性雰囲気になるように、有機カチオンを生成する塩基性化合物側に後述の酸等を混合して酸性とし、両者が接触した後に塩基性にするなどの方法で行ってもよい。実質的に、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩が酸性雰囲気にさらされ、有機カチオンを生成する塩基性化合物と接触できる条件の場合であれば、本発明の、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を酸性雰囲気下で接触させることに該当する。
上記に示したような酸性雰囲気を達成する際に用いられる酸は、特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸などの鉱酸類、酢酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸が例示できる。
【0013】
これらの酸の添加量は、上述の酸性雰囲気を満たす限りは限定されないが、好ましくは、錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と等モル以上であり、2倍モル以上がより好ましい。上限に関しては限定されないが、必要以上に混合しても製造コストがかさむため10倍モル以下が好ましく、より好ましくは5倍モル以下である。
本発明の製造方法は、常温(室温)で進行することが特徴であり、通常、加熱は行わず、常温で反応する。常温とは、季節によって異なるが、通常、10℃から30℃の範囲である。
本発明の製造方法によって錯アニオンが有機塩化されたことは、製造時に用いた原料が溶解する溶媒(例えば、水)で洗浄した後、赤外線分光分析法に代表される有機分析法と蛍光X線分光分析法に代表される元素分析法を組み合わせて、物質の存在を特定することによって確認できる。
【0014】
本発明によって得られた有機塩化錯アニオンは、所望に応じて、洗浄した後に使用される。洗浄方法は限定されないが、有機塩化錯アニオンの沈殿物を濾取した後、水に代表される水性媒体で洗浄する方法、遠心分離した後、水性媒体を添加して再分散した後更に遠心分離を施して洗浄する方法、中空糸状のろ過膜を利用して洗浄する方法などが例示できる。
本発明の方法で製造した有機塩化錯アニオンは、遷移金属を有し、電解質としての特性を有しているため、蓄電、発電などの用途に好適に使用できる。そして、本発明の製造方法によれば、低コストで製造できるため、これらの用途に使用する際、コストバランスがとれる。特に、得られた有機塩化錯アニオンの電気化学的準位によっては、有機溶媒に溶解して、高電圧な蓄電素子や発電素子用の電解質として用いることができる。
【0015】
上述のように本発明の製造方法によって得られた有機塩化された錯アニオンは、一次、二次の電池の電解質や湿式太陽電池に代表される発電素子の電解質として用いられ、中でも湿式太陽電池用電解質は好ましい使用形態である。湿式太陽電池は、分光増感色素で増感された、あるいは、分光増感色素を含まない、二酸化チタンに代表されるn型半導体電極を負極とし、金属に代表される導電体を対極(正極)とし、電解液を狭持して作製され、光の照射下、負極が電子を発生し、正極と電解質、電解質と負極の電子の授受を行うことによって作動する。
このような、蓄電素子や発電素子の電解質として、本発明の製造方法で製造された電解質を用いることにより、その酸化還元電位に応じた電位差を取り出すことができる。
とりわけ、本願の製造方法で製造された電解質のMがOs、Ir、Reなどの金属の場合のように、得られた電解質の酸化還元電位が低い順位である場合、高電圧発電素子などが得られ好ましい。なお、本発明において、「低い順位」とは、エネルギーレベルが安定であることを意味し、電気化学的測定において求められる電位の値が大きくなることを意味する。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明の用いられる測定法は以下のとおりである。
赤外分光法(FT−IR)の測定は,米国パーキンエルマー社製SYSTEM2000 COMPRISINを用い、KBr錠剤法を用いて、400〜4000cm−1の範囲をResolution=4cm−1として行う。
蛍光X線分光分析(XRF)の測定は、蘭国フィリップスアナリティカル社製PW2400を用い、ロジウムの管球を用いて行う。
【0017】
サイクリックボルタンメトリ測定は、英国ソーラトロン社製Solartron1280Zを用い、電解セルとして米国バイオアナリティカルシステムズ社(BAS社)製ガラスセルVC−3、作用極として同社製0.0706cm(3mmφ)のグラッシュカーボンまたは白金、対極として、白金線、参照電極として、Ag/Agの米国バイオアナリティカルシステムズ社(BAS社)製RE−5を用い、挿引速度は20mV/sとして行う。
2極式光電気化学測定は、英国ソーラトロン社製Solartron1280Zを用い、100mlビーカーに、約100mlの電解質溶液を入れ、その中に作用極としてn型半導体膜を、対極としてコイル状にした白金線を浸漬し、電解質溶液を攪拌しながら、挿引速度を20mV/sとして行う。この際、光照射によって発生する電流並びに電圧を測定する場合に用いる光源は、日本国(株)島津製作所製ハロゲンランプAT−100HGを用い、同社製PS−150UE−DCを用いて、光源に12Vの電圧を印加して行う。光源(装置の作用極端)と作用極の距離は、約6cmである。
【0018】
[実施例1]
(1)錯アニオンの有機塩化体の合成と酸化/還元電位の測定
ヘキサクロロレニウム(IV)酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製)0.6gを50mlの0.1N塩酸水溶液に溶解した。この溶液を攪拌しながらテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドの10%水溶液(日本国東京化成工業(株)製試薬)6.54gを室温下で添加、混合し、生成した沈殿物を濾取し、精製水で洗浄し、乾燥した。FT−IR及びXRFにより分析したところ、ヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(=(n−BuN)[ReCl])であることが確認された。また、この化合物はアセトニトリルに1mol/l以上溶解することが確認された。
このようにして得られたヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムを1mmol/lの濃度でアセトニトリルに溶解し、サイクリックボルタンメトリ測定を行った結果、酸化ピークが0.9V(対Ag/Ag)に還元ピークが0.8V(対Ag/Ag)に観測された。
【0019】
(2)発電素子用電解質としての評価
結晶性酸化チタン微粒子(日本国日本アエロジル(株)製 P−25)6gと、水120gと、硝酸1.49gをまぜた後、80℃で約8時間の加熱処理を施した。放冷後、エバポレーターにより水分を留去して粉末状にし、乳鉢でよく粉砕した。上記の方法によって得られた結晶性酸化チタン微粒子1gと、水3.68gを超音波ホモジナイザーを用いて約10分間分散した。分散後、1.7質量%過酸化チタン水溶液(PTA、日本国田中転写(株)製)1gと、Triton−X100(米国シグマ−アルドリッチ社製、界面活性剤)0.06gをゆっくりと加えて撹拌し、n型半導体分散液を作製した。
フッ素をドープした酸化スズ(FTO:シート抵抗約8Ω/□)層がガラス基板に設置された透明導電性ガラス(日本国日本板硝子(株)製)の導電面側にワイヤーバー(ワイヤー巻線部300m/m、芯径12.5m/m、巻線径1.0m/m)を用いて上記の分散液を塗布した。塗布後、室温にて約1時間風乾した。この透明導電性ガラス上に設けたn型半導体からなる膜(半導体膜)を電気炉に入れ500℃で約30分間焼結した。焼結後の膜厚は約8μmであった。
この半導体膜を作用極とし、2極式光電気化学測定を(1)で合成したヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムを10mmol/lの濃度でアセトニトリルに溶解し電解液として行った。その結果、発電電圧は1.1Vであった。
【0020】
[実施例2]
ヘキサクロロオスミウム(IV)酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製)0.6gを50mlの0.05N塩酸水溶液に溶解した。この溶液を攪拌しながらテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドの10%水溶液(日本国東京化成工業(株)製試薬)6.47gを室温下で添加、混合し、生成した沈殿物を濾取し、精製水で洗浄し、乾燥した。FT−IR及びXRFにより分析したところ、ヘキサクロロオスミウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(=(n−BuN)[OsCl])であることが確認された。また、この化合物はアセトニトリルに1mol/l以上溶解することが確認された。
このようにして得られたヘキサクロロオスミウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムを1mmol/lの濃度でアセトニトリルに溶解し、サイクリックボルタンメトリ測定を行った結果、酸化ピークが0.95V(対Ag/Ag)に還元ピークが0.85V(対Ag/Ag)に観測された。
【0021】
[実施例3]
ヘキサクロロイリジウム(IV)酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製)0.6gを50mlの0.05N塩酸水溶液に溶解した。この溶液を攪拌しながらテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドの10%水溶液(日本国東京化成工業(株)製試薬)6.44gを室温下で添加、混合し、生成した沈殿物を濾取し、精製水で洗浄し、乾燥した。FT−IR及びXRFにより分析したところ、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(=(n−BuN)[IrCl])であることが確認された。また、この化合物はアセトニトリルに0.5mol/l以上溶解することが確認された。
このようにして得られたヘキサクロロイリジウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムを1mmol/lの濃度でアセトニトリルに溶解し、サイクリックボルタンメトリ測定を行った結果、酸化ピークが0.92V(対Ag/Ag)に還元ピークが0.85V(対Ag/Ag)に観測された。
【0022】
[比較例1]
ヘキサクロロロジウム(III)酸カリウム(日本国和光純薬工業(株)製)0.2gを18.5mlの0.075N塩酸水溶液に溶解した。この溶液を攪拌しながらテトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシドの10%水溶液(日本国東京化成工業(株)製試薬)3.59gを添加したところ沈殿物は得られなかった。
【0023】
[比較例2]
実施例1の(2)発電素子用電解質としての評価と同様の評価を電解質をヘキサクロロレニウム(IV)酸テトラ−n−ブチルアンモニウムに代えて、ヨウ化リチウムを用いて行った。その結果、発電電圧は0.6Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の錯アニオンの有機塩化物を用いると、容易に有機溶媒に可溶な電解質が合成できるので、非水系の電解質として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[MX]2− (Mは4価の遷移金属を表し、Xは−1価となる原子または原子団を表す)で表される錯アニオンのアルカリまたはアルカリ土類金属塩と、有機カチオンを生成する塩基性化合物を、酸性雰囲気下で接触させることを特徴とする錯アニオンの有機塩化体の製造方法。
【請求項2】
有機カチオンを生成する塩基性化合物が、4級アンモニウムイオンを生成する塩基性化合物であることを特徴とする請求項1記載の錯アニオンの有機塩化体の製造方法。
【請求項3】
Xがハロゲン原子であることを特徴とする請求項1または2に記載の錯アニオンの有機塩化体の製造方法。

【公開番号】特開2006−193453(P2006−193453A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5561(P2005−5561)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】