説明

有機太陽電池及びその製造方法

【課題】 陽極材料として、アルミニウムなどの安価な金属材料を使用することができるショットキー型の有機太陽電池を得る。
【解決手段】 陽極5と、陰極1と、陽極5及び陰極1の間に配置される有機光電変換層3と、陰極1及び有機光電変換層3の間に配置される電子輸送層2と、陽極5及び有機光電変換層3の間に配置される正孔輸送層4とを備える有機太陽電池において、正孔輸送層4が、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなり、かつ陽極5が、陰極1の材料より仕事関数が低い金属または該金属を含む合金からなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機太陽電池に関するものであり、特にショットキー型の有機太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在市販され、一般家庭にも普及し始めているシリコン半導体太陽電池は、製造技術が複雑であり、製造の際のエネルギーも大量に必要であるため、コストとエネルギーにおいて問題がある。有機薄膜を用いた有機太陽電池は、色素や高分子で構成されており、安価でかつ環境に対する負荷が低いため今後の研究開発に期待されている。
【0003】
有機太陽電池としては、p−n接合型のものとショットキー型のものが知られている(非特許文献1など)。
【0004】
p−n接合型の有機太陽電池は、p型有機半導体とn型有機半導体を積層し、光吸収により励起した励起子をp−n接合界面で電荷分離させ、p層に正孔を輸送させ、n層に電子を輸送させて、光起電流を発生させる。特許文献1〜3においては、このようなp−n接合型有機太陽電池が開示されている。
【0005】
ショットキー型有機太陽電池は、有機半導体の両側にそれぞれ仕事関数の異なる金属電極を設け、有機半導体層で生じた正孔及び電子をこれらの電極によって分離して光起電流を発生させる。具体的には、陽極として仕事関数が相対的に高い金属を用い、陰極として相対的に仕事関数の低い金属を用い、このような仕事関数の差を利用して、正孔を陽極へ、電子を陰極へ輸送し、電流を取り出している。
【0006】
非特許文献2においては、光電変換層の陽極側に正孔輸送層を設け、陰極側に電子輸送層を設け、正孔輸送層として、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)とAgナノ粒子からなる薄膜を用いることが検討されている。非特許文献2の有機太陽電池においては、陰極としてITO(インジウム錫酸化物)を用い、陽極として、陰極のITOより仕事関数が高いPt(白金)が用いられている。
【0007】
このように従来のショットキー型有機太陽電池においては、陽極材料として、陰極材料よりも仕事関数の高い金や白金等の貴金属を用いており、製造コストが高くなるという問題があった。
【0008】
なお、特許文献4及び特許文献5は、金属ナノ粒子のコロイド溶液の調製方法を開示しており、これらの公報に開示された方法において、顔料分散剤として用いられている高分子を、導電性高分子とすることにより、本発明において用いる金属ナノ粒子のコロイド溶液を調製することができる。
【特許文献1】特開2002−335004号公報
【特許文献2】特表2004−523129号公報
【特許文献3】特開2003−179244号公報
【特許文献4】特開平11−76800号公報
【特許文献5】特開平11−80647号公報
【非特許文献1】応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会会誌 Vol.14,No.2(2003) M&BE研究会「有機太陽電池、色素増感太陽電池の最新研究開発動向」
【非特許文献2】第52回(2003年)高分子討論会予稿集 IIS12 「PEDOTを用いたAgナノ粒子の有機/無機ハイブリッド太陽電池への応用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、陽極材料として、アルミニウムなどの安価な金属材料を使用することができるショットキー型の有機太陽電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、陽極と、陰極と、陽極及び陰極の間に配置される有機光電変換層と、陰極及び有機光電変換層の間に配置される電子輸送層と、陽極及び有機光電変換層の間に配置される正孔輸送層とを備える有機太陽電池であり、正孔輸送層が、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなり、かつ陽極が、陰極の材料より仕事関数の低い金属または該金属を含む合金からなることを特徴としている。
【0011】
上述のように、従来のショットキー型有機太陽電池においては、陽極材料として、陰極材料より仕事関数が高い金属を用いている。このような金属は、一般にAu(金)やPt(白金)などの貴金属であるため、製造コストが高くなる。しかしながら、本発明者は、本発明に従い、正孔輸送層として、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなる正孔輸送層を用いることにより、陽極材料として、陰極材料より仕事関数が低い金属または該金属を含む合金を用いることができることを見出した。
【0012】
従って、本発明によれば、Al(アルミニウム)などのような安価な金属を用いることができ、低コストで製造可能な有機太陽電池とすることができる。
【0013】
また、本発明における正孔輸送層は、導電性高分子と金属ナノ粒子のコロイドを含むコロイド溶液を塗布することにより形成することができる。従って、真空装置などを用いて形成する必要がなく、さらに安価に製造することが可能である。
【0014】
本発明において用いる上記コロイド溶液は、特許文献4(特開平11−76800号公報)及び特許文献5(特開平11−80647号公報)に開示されたコロイド溶液の製造方法において、分散剤として導電性高分子を用いることにより製造することができる。具体的には、金属ナノ粒子の金属を含む化合物を溶媒に溶解し、導電性高分子を加えた後、金属を含む化合物を還元することにより金属ナノ粒子を析出させ、コロイド溶液とすることができる。
【0015】
金属ナノ粒子の金属としては、Au、Ag(銀)、及びPtなどが好ましく用いられ、特にAgが好ましく用いられる。また、上記金属を含む化合物としては、塩化金酸、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀等が挙げられる。
【0016】
本発明において用いる導電性高分子としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)などのポリアルキルチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどが好ましく用いられる。特に、水溶性でかつ導電性を有する高分子が好ましく用いられる。このような導電性高分子として、ポリピロール、ポリエチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。これら高分子は、水溶性を付与するための親水性基を有している。
【0017】
ポリエチレンジオキシチオフェンは、金属と相性の良い硫黄原子を主鎖のユニット毎に含んでおり、析出した金属ナノ粒子を保護し、媒体中で凝集することなく安定に存在させるのに有効である。
【0018】
ポリエチレンジオキシチオフェンは、ポリスチレンスルホン酸と組み合わせて用いられることが特に好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)は市販されており、市販品としては、スタルクヴィテック株式会社製の商品名「Baytron P」,「Baytron PH」,「Baytron P AI 4803」,「Baytron P CH−8000」などが知られており、また日本アグファ・ゲバルト株式会社製の商品名「ORGACON S−300」,「ORGACON S−1500」,「ORGACON S−2500」,「ORGACON S−5000」,「ORGACON S−10000」などが知られている。
【0019】
上記導電性高分子と金属を含む化合物との割合は、導電性高分子と金属を含む化合物中の金属との重量比で50/50〜10/90であることが好ましい。
【0020】
金属ナノ粒子を析出させるための還元には、上記公報に開示されたアミンや還元剤をそのまま使用することができる。アミンの具体例としては、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリン等の脂環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン; ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルキシリレンジアミン等のアラルキルアミン等を挙げることができる。また、上記アミンとして、例えば、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミンも挙げることができる。これらのうち、アルカノールアミンが好ましい。
【0021】
上記アミンの添加量は、金属化合物1molに対して1〜50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、生成したコロイド粒子の対凝集安定性が低下する。より好ましくは、2〜8molである。
【0022】
また、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合、水素化ホウ素ナトリウムは、高価であり、取り扱いにも留意しなければならないが、常温で還元することができるので、加熱や特別な光照射装置を使用する必要がない。
【0023】
水素化ホウ素ナトリウムの添加量は、金属化合物1molに対して1〜50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、生成したコロイド粒子の対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5〜10molである。
【0024】
還元剤としてクエン酸またはその塩を使用する場合、アルコールの存在下で加熱還流することによって金属イオンを還元することができる。クエン酸またはその塩は、非常に安価であり、入手が容易である利点がある。クエン酸またはその塩としては、クエン酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0025】
クエン酸またはその塩の添加量は、金属化合物1molに対して1〜50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、生成したコロイド粒子の対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5〜10molである。
【0026】
本発明において陽極は、陰極の材料より仕事関数が低い金属または該金属を含む合金からなる。一般に電極として用いることができると思われる主な金属の仕事関数を以下の表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
ITO(インジウム錫酸化物)の仕事関数(LUMO)は、4.80eVであるので、例えばITOを陰極として用いた場合、従来の有機太陽電池においては、これよりも高い仕事関数を有する金属を用いている。従って、AuまたはPtなどの金属が用いられている。本発明においては、陰極の材料より仕事関数が低い金属または該金属を含む合金を用いることができるので、仕事関数4.80eV未満の金属を用いることができ、表1に示すようなAlなどの一般的に安価な金属を用いることができる。また、合金を用いる場合には、陰極の材料より仕事関数が低い金属を少なくとも50原子%以上含んでいる合金を用いることが好ましい。
【0029】
また、Alなどの金属は、金属箔あるいは金属板の形態としても入手することができる。従って、本発明においては、このような金属箔または金属板を用いて陽極を形成することができる。
【0030】
本発明における陰極としては、有機太陽電池に用いることができる陰極であれば特に限定されるものではないが、例えば、ガラス基板などの透明基板上に形成した透明性の導電性金属酸化物からなる膜を陰極として用いることができる。このような透明性の導電性金属酸化物としては、ITO、IZO(インジウム亜鉛酸化物)などを用いることができる。
【0031】
本発明における正孔輸送層は、上述のように、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなる。正孔輸送材料としては、仕事関数すなわちLUMOが高いp型半導体材料の導電性高分子材料が適している。このような導電性高分子材料としては、上述のものが挙げられる。また、本発明においては、水系媒体中で金属ナノ粒子を調製することが好ましい。従って、導電性高分子としては、水溶性や水分散性を有する材料が適しており、PEDOTにカウンタとしてポリスチレンスルホン酸(PSS)を配して水和させてポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)や、ポリピロールが好ましく用いられる。
【0032】
正孔輸送層において、金属ナノ粒子の含有量は、好ましくは50〜90重量%であり、さらに好ましくは60〜80重量%である。従って、正孔輸送層における導電性高分子の含有量は、10〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは20〜40重量%である。金属ナノ粒子の含有量が少なすぎると、金属ナノ粒子の表面に保護材として吸着した導電性高分子層が厚くなりすぎるため、膜化した際に金属ナノ粒子同士の距離が大きく離れてしまい、導電性高分子のみの膜と変わらなくなってしまう。
【0033】
逆に金属ナノ粒子の含有量を多くしようとしても、これに用いる金属ナノ粒子溶液を得ることが困難であるため、好ましくない。
【0034】
本発明における電子輸送層を構成する電子輸送性材料としては、n型半導体材料が好ましく用いられる。有機材料としては、フラーレン(C60)、カーボンナノチューブ(CNT)、フタロシアニン系材料、ペリレンテトラカルボン酸誘導体(PTCBI)、オキサジアゾール誘導体(PBD)、8−キノリールアルミニウム錯体(Alq3)、オキサジアゾール誘導体、ビススチルアントラセン誘導体などが挙げられる。
【0035】
無機材料としては、Si(ケイ素)等の単体半導体や、GaAs等のIII−V族化合物半導体、CdSe等のII−VI族化合物半導体が挙げられる。さらに、光電変換層に光を効果的に注入できるように、透明性の高い材料がより好ましい。このような材料としては、可視光に光吸収を有しない金属酸化物のn型半導体が適しており、酸化亜鉛や酸化チタンなどが挙げられる。中でも、酸化亜鉛や酸化チタンのナノ粒子のゾルやペーストを塗布して乾燥して焼結したものや、チタンアルコキシド等の有機金属錯体を同様にして焼成した膜は、透明性の高いn型半導体層として特に好ましく用いられる。
【0036】
本発明における有機光電変換層は、光を吸収することにより電子を励起できる材料から形成されており、励起子を生成できる材料から形成される。このような材料としては特に限定されるものではないが、仕事関数すなわちLUMOが高いp型半導体材料で、かつ可視光に吸収がある導電性高分子材料が適している。また、可視光に吸収がなくても色素による染色や不純物のドープにより可視光吸収を付与することもできる。このような材料として、正孔輸送材料として挙げたポリエチレンジオキシチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリ3ヘキシルチオフェンなどのポリアルキルチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子が挙げられる。
【0037】
また、可視光に吸収があり単体で光電変換機能を有する材料としては、高分子の色が赤色である、すなわち青色から緑色の吸収を有するP3HTが特に好ましく用いられる。
【0038】
本発明における有機光電変換層の厚みは特に限定されるものではないが、0.2〜1μmの範囲内が好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.5μmの範囲内である。また、正孔輸送層の厚みは、0.05〜1μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。また、電子輸送層の厚みは、0.2〜10μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5μmの範囲内である。
【0039】
本発明の製造方法は、上記本発明の有機太陽電池を製造することができる方法であり、導電性高分子と金属ナノ粒子のコロイド溶液を含むコロイド溶液を塗布することにより、上記正孔輸送層を形成することを特徴としている。
【0040】
本発明の製造方法によれば、上記本発明の有機太陽電池の正孔輸送層を塗布により形成することができるので、正孔輸送層を容易に形成することができる。また、本発明によれば、上述のように、陽極の材料としてアルミニウム箔などを用いることができるので、例えば、このような金属箔の上に上記コロイド溶液を塗布して正孔輸送層を形成し、陰極の上に電子輸送層を形成した後、有機光電変換層を塗布により形成したものと貼り合わせることにより本発明の有機太陽電池を製造することができる。このような方法によれば、有機光電変換層及び正孔輸送層を塗布により形成することができるので、簡便にかつ安価に有機太陽電池を製造することができる。
【0041】
また、上記コロイド溶液は、上述のように、導電性高分子の存在下、溶液に溶解している金属ナノ粒子の金属を還元することにより、金属ナノ粒子を析出させて調製することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、陽極材料として、アルミニウムなどの安価な金属材料を使用することができ、有機太陽電池を低コストで製造することができる。
【0043】
また、陽極材料として、アルミニウムなどの金属材料を用いることができるので、陽極として金属箔や金属板などを用いることができ、AuやPtなどの場合のように真空装置を用いてこれらの薄膜を形成する必要がなく、より低コストに製造することができる。
【0044】
また、本発明によれば、Ptなどを陽極材料として用いた有機太陽電池に比べ、高い光電変換効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔Agナノ粒子のコロイド溶液の調製〕
硝酸銀(AgNO3)3.12重量部を溶解用のイオン交換水5.85重量部に溶解して、水溶液(A)を得た。次にPEDOT/PSS(スタルクヴィテック株式会社製「Baytron P CH−8000」、固形分3重量%)28.24重量部をイオン交換水54.61重量部に溶解させ水溶液(B)を得た。得られた水溶液(A)と(B)の全量をガラス容器に入れ、撹拌しながら、70℃に保温し、混合液(C)を得た。混合液(C)にジメチルアミノエタノール(DMAE)8.18重量部を加え、70℃で1時間撹拌し、青味がかった灰色のコロイド液を得た。得られたコロイド液は限外濾過により残イオンを除去し、さらに、水分をエタノールに置換し、Agナノ粒子のコロイド溶液を得た。
【0047】
得られたコロイド溶液中のAgナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図4に示す。
【0048】
〔Ptナノ粒子のコロイド溶液の調製〕
塩化白金酸(K2PtCl4)3.97重量部を溶解用のイオン交換水50.45重量部に溶解して、水溶液(D)を得た。次にPEDOT/PSS(スタルクヴィテック株式会社製「Baytron P CH−8000」、固形分3重量%)41.31重量部を水溶液(D)に加え水溶液(E)を得た。得られた水溶液(E)をガラス容器に入れ、撹拌しながら、70℃に保温し、水溶液(E)にジメチルアミノエタノール(DMAE)4.27重量部を加え、70℃で1時間撹拌し、青味がかった黒色のコロイド液を得た。得られたコロイド液は限外濾過により残イオンを除去し、さらに、水分をエタノールに置換し、Ptナノ粒子のコロイド溶液を得た。
【0049】
得られたコロイド溶液中のPtナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図5に示す。
【0050】
なお、PEDOT/PSSは、以下の構造を有している。
【0051】
【化1】

【0052】
〔有機太陽電池の作製〕
(実施例1及び2)
図1に示すような積層構造を有する有機太陽電池を作製した。作製した太陽電池7は、図1に示すように、ガラス基板6の上にITOからなる陰極1が形成されており、陰極1の上に、電子輸送層2が形成されている。電子輸送層2の上には、有機光電変換層3が形成されており、有機光電変換層3の上には、正孔輸送層4が形成されている。正孔輸送層4の上に、陽極5が形成されている。
【0053】
具体的には、以下のようにして実施例1及び2の有機太陽電池を作製した。まず、ITO付きガラス基板(サイズ:5cm×5cm、ITO膜厚:150nm)の上に、TiO2膜形成用ペーストを塗装し、乾燥し、焼結させて、透明なTiO2膜(膜厚3μm)を形成し、電子輸送層とした。この上に、1重量%のポリ3ヘキシルチオフェン(P3HT)のトルエン溶液をスプレーコートにより塗布した後110℃で10分間乾燥させ、膜厚0.3μmの有機光電変換層を形成した。なお、有機光電変換層は2cm×2cmの領域に形成した。
【0054】
次に、2cm×2cmのアルミニウム箔の上に、上記のようにして調製したAgナノ粒子のコロイド溶液をスプレーコート法により塗布した後、150℃で10分間乾燥させて、0.2μmの厚みの正孔輸送層を形成した。これを、上記の有機光電変換層を形成した基板の上に、有機光電変換層と正孔輸送層が接するように重ね貼り合わせて有機太陽電池を作製した。
【0055】
同様の太陽電池を2つ作製し、それぞれ実施例1及び実施例2とした。
【0056】
(実施例3及び4)
上記の実施例1及び2において、Agナノ粒子のコロイド溶液に代えて、Ptナノ粒子のコロイド溶液を用いる以外は、実施例1及び2と同様にして有機太陽電池を作製した。
【0057】
これらの有機太陽電池を実施例3及び実施例4とした。
【0058】
(比較例1)
陽極5としてのアルミニウム箔の上にコロイド溶液を塗布せずに、すなわち正孔輸送層4を形成せずに、直接有機光電変換層の上に載せて貼り合わせ、比較例1の有機太陽電池を作製した。
【0059】
(比較例2)
有機光電変換層の上に、Ptを200nmの厚みとなるように蒸着し、これを陽極として用いた。従って、有機光電変換層の上に正孔輸送層を形成せずに直接Ptからなる陽極を形成した。これを比較例2の有機太陽電池とした。
【0060】
〔電池特性の評価〕
上記の実施例1〜4及び比較例1〜2の有機太陽電池について、照射光100mW/cm2の条件で、太陽電池特性を評価した。なお、セル面積は4cm2である。
【0061】
図2は、各電池の電流−電圧(J−V)特性を示す図である。図3は、図2に示す点線の領域を拡大して示す図である。
【0062】
各電池の開放電圧(Voc)、短絡電流(Jsc)、フィルファクター(FF)、及び光電変換効率(Eff)を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示す結果から明らかなように、正孔輸送層を設けずに直接光電変換層の上にAlの陽極を載せた比較例1においては、光電変換が観測されなかった。また、有機光電変換層の上にPtからなる陽極を形成した比較例2においては、光電変換効率が7.2×10-5%であった。
【0065】
本発明に従い、導電性高分子とPtナノ粒子からなる正孔輸送層を形成し、その上にAl箔からなる陽極を設けた実施例3及び4においては、比較例2に比べ開放電圧が若干減少しているが、短絡電流は比較例2の1.3〜1.8倍であり、また光電変換効率は7.3×10-5〜9.5×10-5%であり、比較例2と同等かあるいはそれ以上の光電変換効率を示すことがわかる。
【0066】
また、金属ナノ粒子としてAgナノ粒子を用いた実施例1及び実施例2においては、光電変換効率が3.9×10-4〜4.5×10-4%であり、比較例2に比べ、5.3〜6.3倍の高い光電変換効率が得られた。
【0067】
以上のことから明らかなように、本発明に従い導電性高分子と金属ナノ粒子からなる正孔輸送層を設けることにより、従来は陽極として用いることができなかった仕事関数の低い金属を用いることができるようになることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に従う実施例の有機太陽電池を示す模式的断面図。
【図2】本発明に従う実施例の有機太陽電池の電流−電圧(J−V)特性を示す図。
【図3】図2の点線内を拡大して示す図。
【図4】Agナノ粒子を示す透過型電子顕微鏡写真。
【図5】Ptナノ粒子を示す透過型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0069】
1…陰極
2…電子輸送層
3…有機光電変換層
4…正孔輸送層
5…陽極
6…基板
7…有機太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置される有機光電変換層と、前記陰極及び前記有機光電変換層の間に配置される電子輸送層と、前記陽極及び前記有機光電変換層の間に配置される正孔輸送層とを備える有機太陽電池において、
前記正孔輸送層が、導電性高分子と金属ナノ粒子とからなり、かつ前記陽極が、前記陰極の材料より仕事関数の低い金属または該金属を含む合金からなることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項2】
前記導電性高分子が、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)であることを特徴とする請求項1に記載の有機太陽電池。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子の金属が、Au(金)、Ag(銀)及びPt(白金)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機太陽電池。
【請求項4】
前記陽極がAl(アルミニウム)からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機太陽電池。
【請求項5】
前記陽極が、金属もしくは合金からなる箔または板から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機太陽電池。
【請求項6】
前記陰極が、透明性の導電性金属酸化物から形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機太陽電池。
【請求項7】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極の間に配置される有機光電変換層と、前記陰極及び前記有機光電変換層の間に配置される電子輸送層と、前記陽極及び前記有機光電変換層の間に配置される正孔輸送層とを備え、前記陽極が、前記陰極の材料より仕事関数が低い金属または該金属を含む合金からなる有機太陽電池を製造する方法であって、
導電性高分子と金属ナノ粒子のコロイドを含むコロイド溶液を塗布することにより、前記正孔輸送層を形成することを特徴とする有機太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記コロイド溶液が、前記導電性高分子の存在下、前記金属ナノ粒子となる金属化合物を還元することにより、前記金属ナノ粒子を析出させて調製されたものであることを特徴とする請求項7に記載の有機太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−237283(P2006−237283A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49992(P2005−49992)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】