説明

有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着装置及び有機尿素系化合物処理方法

【課題】水中に含まれる有機尿素系化合物を低濃度に含有する被処理水についても、効率よく有機尿素系化合物を除去することができる有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着装置及び有機尿素系化合物処理方法を提供する。
【解決手段】ベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物からなる有機尿素系化合物吸着剤、本発明の水不溶性の有機尿素系化合物をカラムに充填してなる有機尿素系化合物吸着装置、並びに、有機尿素系化合物物吸着剤を有機尿素系化合物含有水に添加する添加工程と、添加工程を経た有機尿素系化合物含有水を固液分離する固液分離工程とを有する有機尿素系化合物処理方法、及び、有機尿素系化合物吸着装置に、有機尿素系化合物含有水を通水する有機尿素系化合物処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着装置及び有機尿素系化合物処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、水中に含まれる尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニジン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素などの有機尿素系化合物を低濃度に含有する被処理水についても、効率よく有機尿素系化合物を除去することができる有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着装置及び有機尿素系化合物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工場、液晶製造工場、製薬工業、食品工業、電力工業などの各種の産業、民生用ないし研究施設などにおいて使用される純水の製造において、有機体炭素(TOC)の除去が必要とされる系があるが、それらの除去は、含まれるTOC成分を、オゾン、紫外線、過酸化水素、過硫酸、次亜塩素酸などの酸化剤を用いて酸化分解してイオン状の有機酸とし、後段のイオン交換樹脂に吸着させるなどして除去する方法、生物処理により生物代謝を利用して分解若しくは生物増殖させて除去する方法、尿素化合物分解酵素を用いて尿素分解をして除去する方法などにより行われてきた。
【0003】
活性炭や樹脂による吸着剤処理もあるが、それらの吸着剤は有機低分子量化合物の吸着容量が小さく、吸着させる活性炭などの量を非常に多く必要とし、尿素そのものは吸着しない。また、活性炭はそれ自身から多くの有機物を吐き出すために、純水の製造における有機物除去に使用することは避けられていた。
【0004】
純水製造において、除去されるべき有機物成分の中には有機尿素系化合物が含まれており、それらには、尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニジン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素などが挙げられ、それらは純水の純度が高い程全体のTOC成分に含まれる割合が高くなる傾向にあることを本発明者らは把握していた。また、これらのTOC成分に含まれる有機尿素系化合物は除去が非常に難しく、これまで吸着除去により除去できなかったために、前述のような酸化装置、分解装置、生物処理装置が用いられてきた。
【0005】
しかしながら、これらの従来の装置は非常に大型となり、純水を製造する際において非常に高価であり、また設置面積を相当占める設備となってしまうために、これまでは非常に高い純度を要する半導体製造装置に用いる超純水の分野での使用に限られてきた。
【0006】
また、紫外線酸化装置においては、これらの有機尿素系化合物は難分解性であるために、紫外線ランプの本数を多く必要として、装置が非常に大型化し、高価となってしまうという問題があった。同じく、オゾン酸化装置の場合、難分解性のために、酸化に時間を要し、装置が大型化するとともに、酸化に必要なオゾン発生装置も大きくなり高価になる要因の一部であった。
【0007】
廃水処理装置の場合も同じく、有機尿素系化合物を処理する大規模な流量の場合は、し尿処理場のように生物による活性汚泥処理が行われているが、工場などで短期間にこれらの有機尿素系化合物を処理する場合には、少量ずつに分けて処理せざるを得ないなどの扱い難いにくい点があった。また、廃水処理装置の場合、これらの有機尿素系化合物の被処理濃度が一時的に高くなる場合や、処理目標値が非常に低い場合は、非常にコストのかかる装置となってしまう。
【0008】
また、人工透析のための尿素吸着剤として、活性炭やイオン交換樹脂、多孔体質ポリスチレンビーズなどが検討されているが、吸着容量の点などで実用には至っていない。尿素の吸着剤として、酸化セルロースの表面をキトサンで処理被覆した尿素吸着剤(特許文献1)、ヒドラジド基を有する重合体にホルムアルデヒド又はグリオキザールを反応させた尿素捕捉剤(特許文献2)、カルボキシル基とイミダゾール基を有する高分子尿素吸着剤(特許文献3)などが提案されている。しかし、これらの尿素吸着剤の多くは、腎臓疾患患者の人工透析を対象に行った検討であり、対象とする尿素濃度は100mg/dL程度と高濃度しか検討されず、純水製造装置のような希薄な溶液からの尿素除去を対象としていなかった。
【0009】
これらの尿素吸着剤は、尿素濃度が希薄な溶液中から、排水処理装置のような運転費を低く押さえる必要のある装置に用いた場合、ランニングコストが嵩み、その吸着剤のコストとの比較において採用されないか、若しくは、非常に高いコストを支払って運転を行っている。この点は、これらの従来の尿素吸着剤の尿素に対する親和性が不明確である点とともに、問題であった。
【特許文献1】特開平2−221224号公報
【特許文献2】特開昭51−69489号公報
【特許文献3】特開昭63−59353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水中に含まれる尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニジン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素などの有機尿素系化合物を低濃度に含有する被処理水についても、効率よく有機尿素系化合物を除去することができる有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着装置及び有機尿素系化合物処理方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ベンゼン環の隣接する2個の炭素に、ヒドロキシル基とカルボキシル基が結合した構造、若しくは、2個のカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物、又は、該構造を側鎖に有する高分子化合物は、水中に含まれる有機尿素系化合物に対して、希薄な濃度領域でも強い吸着能を有することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物からなることを特徴とする有機尿素系化合物吸着剤、
(2)前記有機化合物が、ベンゼン環のo−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基を有する有機低分子量化合物である(1)記載の有機尿素系化合物吸着剤、
(3)前記有機化合物が、該構造を側鎖に有する有機高分子量化合物である(1)記載の有機尿素系化合物吸着剤、
(4)有機高分子量化合物が、水不溶性である(3)記載の有機尿素系化合物吸着剤、
(5)(4)記載の有機尿素系化合物吸着剤が粒状又は繊維状であり、該吸着剤をカラムに充填してなることを特徴とする有機尿素系化合物吸着装置、
(6)繊維状の有機尿素系化合物吸着剤が、ナノファイバーである(5)記載の有機尿素系化合物吸着装置、
(7)(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の有機尿素系化合物吸着剤を有機尿素系化合物含有水に添加する添加工程と、添加工程を経た有機尿素系化合物含有水を固液分離する固液分離工程とを有することを特徴とする有機尿素系化合物処理方法、
(8)(5)又は(6)記載の有機尿素系化合物吸着装置に、有機尿素系化合物含有水を通水することを特徴とする有機尿素系化合物処理方法、
(9)有機尿素系化合物含有水の有機体炭素(TOC)が、10mgC/L以下である(7)又は(8)記載の有機尿素系化合物処理方法、及び、
(10)有機尿素系化合物含有水の有機体窒素が、5mgN/L以下である(7)又は(8)記載の有機物処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着剤装置及び有機尿素系化合物処理方法を用いることにより、希薄な濃度領域でも有機尿素系化合物を効果的に吸着、除去することができる。本発明により、水処理装置、特に純水製造装置の後半部での有機尿素系化合物の吸着処理が可能となり、また装置としても、安価で小型化することができる。さらに、本発明の有機尿素系化合物吸着剤によれば、高濃度領域においても有機尿素系化合物を効果的に吸着、除去することができる。
【0014】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤は、従来の尿素吸着剤よりも希薄な濃度領域での吸着容量が大きく、この吸着剤の採用により、有機尿素系化合物吸着装置の設置面積を低減するとともに、これまでコストアップの要因となっていた純水製造装置の有機物尿素系化合物除去装置のコストを低減し、純水製造装置において、広く一般産業ないし民生用の水処理及び医療分野での有機物濃度低減方法を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤は、ベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物からなる。
【0016】
本発明により吸着、除去することができる有機尿素系化合物は、ウレイレン構造−NH(C=O)NH−、チオウレイレン構造−NH(C=S)NH−、グアニジン構造−NH(C=NH)NH−などを有する化合物である。このような有機尿素系化合物としては、例えば、尿素、チオ尿素、スルホニル尿素、アリル尿素、グアニジン、アセチルチオ尿素、フェニル尿素、アラントイン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、チオセミカルバゾン、グアネチジンなどを挙げることができる。
【0017】
本発明において、有機尿素系化合物吸着剤として用いるベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物としては、有機低分子量化合物、有機高分子量化合物のいずれをも用いることができる。有機低分子量化合物としては、例えば、ベンゼン環のo−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基を有するサリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、ベンゼン環のo−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基を有し、他の位置にも置換基を有する4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸、4−メチル−2−ヒドロキシ安息香酸、4−クロロ−2−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸などや、ベンゼン環のo−位置に2個のカルボキシル基を有するフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、ベンゼン環のo−位置に2個のカルボキシル基を有し、他の位置にも置換基を有する4−アミノフタル酸、4−メチルフタル酸、4−クロロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、3−ヒドロキシフタル酸、4−ヒドロキシフタル酸などを挙げることができる。
【0018】
ベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機高分子量化合物としては、例えば、主鎖に1,4−フェニレン構造を有し、フェニレン構造の2−位置と3−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基が結合した化合物や、側鎖にフェニル基を有し、フェニル基の2−位置と3−位置又は3−位置と4−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基が結合した化合物などを挙げることができる。これらの中で、側鎖にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基が結合した化合物は、ヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基が露出しやすく、有機尿素系化合物に対する吸着効率がよいので好適に用いることができ、側鎖のフェニル基の3−位置と4−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基が結合した化合物は、有機尿素系化合物に対する吸着効率に優れるので特に好適に用いることができる。
【0019】
側鎖にフェニル基を有し、フェニル基の3−位置にヒドロキシル基、4−位置にカルボキシル基が結合した化合物は、例えば、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸、m−フェニレンジアミン及び1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドを界面重縮合することにより得ることができる。水と混和しない有機溶媒に1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドを溶解し、水にm−フェニレンジアミンと4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸と脱酸剤を溶解し、両者を接触させて界面重縮合することにより、式[1]で表される構造単位を有する有機高分子量化合物を得ることができる。
【化1】

【0020】
界面重縮合において、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸は1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドと反応して、式[1]で表される構造の側鎖、すなわち3−ヒドロキシ−4−カルホキシフェニルアミノ基を形成するので、界面重縮合に用いる4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸の量を増減することにより、式[1]で表される構造の量を制御することができる。
【0021】
4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸と反応しなかった1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドは、m−フェニレンジアミンと反応して、有機高分子量化合物の主鎖を形成する。このとき、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドの2個のクロロホルミル基は、m−フェニレンジアミンと反応して主鎖を延長し、残りの1個のクロロホルミル基は、m−フェニレンジアミンと反応して分岐を生ずる。分岐が多くなると、有機高分子量化合物は架橋して三次元構造となり、水などの溶媒に対して不溶性となる。1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリドの一部をイソフタル酸ジクロリドで置き換えることにより、有機高分子量化合物の架橋密度を制御することができる。
【0022】
本発明において、低分子量化合物である有機尿素化合物吸着剤は、有機尿素系化合物を含有する水と混合して使用することができる。有機尿素系化合物を含有する水に有機尿素系化合物吸着剤を混合すると、有機尿素系化合物と有機尿素系化合物吸着剤との間に吸着による結合が生じて見掛けの分子量が大きくなり、有機尿素系化合物単独では通過してしまう逆浸透(RO)膜や限外ろ過(UF)膜によっても、阻止が可能となる。膜処理によって分離された濃縮水は、さらに必要に応じて凝集剤などを添加して不溶化して固液分離することにより、従来は分離が不可能であった有機尿素系化合物を分離、除去することが可能になる。
【0023】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤が水不溶性の有機高分子量化合物であると、カラムやベッセルに充填して有機尿素系化合物を含有する水を通水し、有機尿素系化合物が吸着されて飽和したとき、交換することができる。また、これらは他の有機物吸着剤と併用することもできる。
【0024】
カラムに充填する有機尿素系化合物吸着剤は、粒状又は繊維状であることが好ましく、繊維状であることがより好ましく、ナノファイバーであることがさらに好ましい。粒状の有機尿素系化合物吸着剤は、界面重縮合において、反応液を高速で撹拌することにより得ることができる。また、界面重縮合において反応液を静置すると、界面に皮膜が生成するので、これを適当な速度で引き上げると、有機尿素系化合物吸着剤を連続した繊維状物として得ることができる。
【0025】
ナノファイバーは、繊維径が1,000nm以下の繊維である。ナノファイバーは、例えば、エレクトロスピニング法により製造することができる。エレクトロスピニング法においては、有機尿素系化合物吸着剤のプレポリマーの溶液を、先端に導電性キャピラリーを備えた容器に入れ、導電性キャピラリーと下部電極の間に高電圧を印加し、導電性キャピラリーからプレポリマー溶液を吐出する。プレポリマー溶液は電界中を下部電極に向かって吸い寄せられ、その間に溶媒が蒸発し、プレポリマーの分子量が上昇し、下部電極の上に不織布状となって堆積する。電圧を上げると繊維径が太くなり、電圧を下げると繊維径が細くなる。有機尿素系化合物吸着剤としてナノファイバーを用いることにより、吸着剤の表面積を増やして有機尿素系化合物の吸着効率を高めることができる。
【0026】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤は、繊維状に加工した上で、該繊維を用いて不織布や、織布に加工し、微粒子除去機能を有するフィルターを構成することにより、有機尿素系化合物を吸着、除去すると同時に、微粒子も除去することが可能となる。ただし、繊維状に加工した場合は、有機尿素系化合物吸着剤に由来する不純物が処理水中に不純物として排出されるおそれがあるために、純水製造プロセスにおいては、さらに後段に逆浸透膜などの膜ろ過手段を設けて通水することが好ましい。
【0027】
本発明の有機尿素系化合物吸着装置は、本発明の有機尿素系化合物吸着剤が粒状又は繊維状であり、該吸着剤をカラムに充填してなる。本発明の有機尿素系化合物吸着装置においては、繊維状の吸着剤がナノファイバーであることが好ましい。
【0028】
本発明の有機尿素系化合物処理方法の第一の態様は、本発明の有機尿素系化合物吸着剤を有機尿素系化合物含有水に添加する添加工程と、添加工程を経た有機尿素系化合物を固液分離する固液分離工程を有する。図1は、本発明の有機尿素系化合物処理方法の一態様の工程系統図である。有機尿素系化合物含有水に本発明の有機尿素系化合物吸着剤が添加され、膜分離装置1に送られて、有機尿素系化合物の濃度が減少した透過水と、有機尿素系化合物の濃度が増加した濃縮水に分離される。図2は、本発明方法の他の態様の工程系統図である。有機尿素系化合物含有水に本発明の有機尿素系化合物吸着剤が添加され、膜分離装置2に送られて、有機尿素系化合物の濃度が減少した透過水と、有機尿素系化合物の濃度が増加した濃縮水に分離される。濃縮水の一部は、系外に排出され、残部は返送されて有機尿素系化合物含有水と混合され、ふたたび膜分離装置2に送られる。図3は、本発明方法の他の態様の工程系統図である。有機尿素系化合物含有水に本発明の有機尿素系化合物吸着剤が添加され、沈殿分離装置3に送られて、上澄水と沈殿汚泥に分離される。
【0029】
本発明の有機尿素系化合物処理方法の第二の態様においては、本発明の有機尿素系化合物吸着装置に、有機尿素系化合物含有水を通水する。図4は、本発明の有機尿素系化合物処理方法の他の態様の工程系統図である。有機尿素系化合物含有水を、本発明の水不溶性の有機尿素系化合物吸着剤を充填したカラム4に通水し、カラムより流出する有機尿素系化合物濃度の減少した処理水を得る。
【0030】
本発明の有機尿素系化合物処理方法においては、有機尿素系化合物含有水の有機体炭素(TOC)濃度が10mgC/L以下であることが好ましい。有機尿素系化合物含有水の有機体炭素(TOC)濃度は、JIS K 0102 22.にしたがって測定することができる。有機体炭素(TOC)濃度が10mgC/Lを超える有機尿素系化合物含有水の処理には、他の一般的な処理方法を容易に適用することができる。
【0031】
本発明の有機尿素系化合物の処理方法においては、有機尿素系化合物含有水の有機体窒素濃度が5mgN/L以下であることが好ましい。有機尿素系化合物含有水の有機体窒素濃度は、JIS K 0102 44.にしたがって測定することができる。
本発明は、有機尿素系化合物の濃度の低い場合にも適用可能な有機尿素系化合物吸着剤を提供するものであるが、低濃度における吸着性能を追求した結果、有機尿素系化合物の濃度が高い場合(例えば、50〜200mgN/L)においても十分な吸着性能を持つことが分かった。つまり、血液透析のような分野にも適用できる可能性が示された。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、尿素濃度は、ジアセチルモノオキシム法により定量した。除去率は、次式により算出した。
除去率(%)=[1−2×(透過水尿素濃度)/(原水尿素濃度+濃縮水尿素濃度)]×100
実施例1
尿素[和光純薬工業(株)、試薬特級]を純水に溶解して、尿素濃度11.0mg/Lの被処理水を調製した。この被処理水に、サリチル酸[和光純薬工業(株)、試薬特級]70mg/Lを添加し、図1に示すように、逆浸透膜[日東電工(株)、HR−759、平膜]に通水した。透過水の尿素濃度は6.6mg/L、濃縮水の尿素濃度は16.0mg/Lであり、尿素の除去率は51.1%であった。
実施例2
尿素濃度10.0mg/Lの被処理水を調製し、この被処理水にフタル酸[和光純薬工業(株)、試薬特級]70mg/Lを添加した以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜に通水した。透過水の尿素濃度は8.1mg/L、濃縮水の尿素濃度は13.0mg/Lであり、尿素の除去率は29.6%であった。
比較例1
尿素濃度10.0mg/Lの被処理水を調製し、この被処理水サリチル酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜に通水した。透過水の尿素濃度は8.6mg/L、濃縮水の尿素濃度は12.0mg/Lであり、尿素の除去率は21.8%であった。
実施例1〜2及び比較例1の結果を、第1表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
第1表に見られるように、尿素濃度10.0又は11.0mg/Lの被処理水に、有機尿素系化合物吸着剤としてサリチル酸又はフタル酸を添加して逆浸透膜に通水した実施例1〜2では、尿素除去率がそれぞれ51%、30%であるのに対して、有機尿素系化合物吸着剤を添加しなかった比較例1では、尿素除去率は22%である。
実施例1〜2において、尿素濃度約10mg/Lの被処理水に対して、サリチル酸又はフタル酸をそれぞれ70ppm添加したが、実使用における添加吸着剤量は、尿素濃度10mg/Lに対して40〜120mg/Lがよく、最適値は50〜80mg/Lであった。
【0035】
製造例1
m−フェニレンジアミン0.324g(0.003モル)を炭酸ナトリウム0.358gを含む脱イオン水7.5mLに溶解し、さらに脱イオン水7.5mLで希釈した。この溶液を、ソルビタントリオレエート[Span 85]5重量%を含むクロロホルム/シクロヘキサン溶液(体積比1:4)75mLに添加して混合し、エマルションを得た。
4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸0.459g(0.003モル)と1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリド0.796g(0.003モル)を、ソルビタントリオレエート[Span 85]5重量%を含むクロロホルム/シクロヘキサン溶液(体積比1:4)75mLに添加して溶液を調製した。
この溶液を、上記のエマルションに0〜4℃で添加し、撹拌することにより、界面重縮合反応を行った。生成物をろ過し、減圧乾燥することにより、式[1]で表される構造単位を有する重合体を得た。この重合体は、水不溶性であった。この重合体を、実施例3において、有機尿素系化合物吸着剤として用いた。
【化2】

実施例3
尿素[和光純薬工業(株)、試薬特級]を純水に溶解して、尿素濃度550μg/Lの被処理水を調製した。
容量250mLのデュラン瓶に耐熱性の栓をして電気炉で800℃に加熱して内部の有機物を分解除去し、このデュラン瓶に、被処理水200mLを入れ、製造例1で得られた有機尿素系化合物吸着剤100mgを添加して混合し、混合液について尿素濃度を測定した。尿素濃度は、550μg/Lであった。
デュラン瓶を振盪器に取り付け、振盪数100rpmで、室温で24時間振盪したのち、混合液を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過し、ろ液の尿素濃度を測定した。尿素濃度は、50μg/Lであった。
比較例2
実施例3のように、予め内部の有機物を加熱分解した容量250mLのデュラン瓶に被処理水200mLを入れ、有機尿素系化合物吸着剤を添加しなかった以外は、実施例3と同じ操作を行った。
デュラン瓶内の液の尿素濃度は、振盪前、振盪、ろ過後ともに、550μg/Lであった。
実施例3及び比較例2の結果を、第2表に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
第2表に見られるように、式[1]で表される構造を有する有機尿素系化合物吸着剤を添加して24時間振盪した実施例3では、被処理水中の尿素が式[1]で表される構造単位を有する有機尿素系化合物吸着剤に吸着されて、除去率が91%に達しているのに対して、有機尿素系化合物吸着剤を添加することなく振盪した比較例2では、尿素濃度は全く低下していない。本発明の有機尿素系化合物吸着剤を用いることにより、尿素濃度500μg/Lのような希薄な尿素含有水からも、効果的に尿素を吸着除去することができる。
【0038】
製造例2
4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸1モル、m−フェニレンジアミン2モル及び1,3,5−ベンゼントリカルボン酸トリクロリド3モルを界面重縮合することにより、式[1]で示す構造単位を有するプレポリマーを得た。このプレポリマーの溶液をエレクトロスピニング法で紡糸することにより、繊維径100nmのナノファイバー及び繊維径680nmのナノファイバーを得た。これらのナノファイバーは、水不溶性であった。これらのナノファイバーを、実施例4〜5において、有機尿素系化合物吸着剤として用いた。
実施例4
尿素[和光純薬工業(株)、試薬特級]を純水に溶解して、尿素濃度560μg/Lの被処理水を調製した。
内径11mm、長さ150mmのガラス製耐圧カラムに、図4に示すように、製造例2で得られた直径100nmのナノファイバーを、充填率50体積%に充填した。このカラムに、被処理水を通水速度LV=5m/h、水圧2.0MPaにて通水した。カラムから流出する処理水の尿素濃度は、100μg/Lであった。
実施例5
被処理水の尿素濃度を520μg/Lとし、繊維径680nmのナノファイバーを用いた以外は、実施例4と同じ操作を行った。カラムから流出する処理水の尿素濃度は、150μg/Lであった。
実施例4〜5の結果を、第3表に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
第3表に見られるように、式[1]で表される3−ヒドロキシ−4−カルボキシフェニルアミノ基を側鎖に有する高分子からなるナノファイバーを有機尿素系化合物吸着剤としてカラムに充填し、尿素520〜560μg/Lを含有する被処理水を通水した実施例4〜5では、カラムから流出する処理水の尿素濃度が100〜150μg/Lに低下し、被処理水中の尿素が該ナノファイバーに吸着除去されている。尿素の除去率は、繊維径が細いナノファイバーの方が高く、繊維径が細い方が吸着性能が高くなる。本発明の有機尿素系化合物吸着剤を用いることにより、尿素濃度500μg/Lのような希薄な尿素含有水からも、効果的に尿素を吸着除去することができることが分かる。
【0041】
実施例6
尿素[和光純薬工業(株)、試薬特級]を純水に溶解して尿素濃度2.00g/Lの被処理水を調製した。
実施例3のように、予め内部の有機物を加熱分解した容量250mLのデュラン瓶に被処水200mLを入れ、製造例1で得られた有機尿素系化合物吸着剤20gを添加して混合し、混合液について尿素濃度を測定した。尿素濃度は、2.00g/Lであった。
デュラン瓶を振盪機に取り付け、振盪数100rpmで、室温で24時間振盪したのち、混合液を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過し、ろ液の尿素濃度を測定した。尿素濃度は、40mg/Lであった。
比較例3
実施例3のように、予め内部の有機物を加熱分解したデュラン瓶に被処理水200mLを入れ、有機尿素系化合物吸着剤を添加しなかった以外は、実施例6と同じ操作を行った。
実施例6及び比較例3の結果を、第4表に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
第4表に見られるように、式[1]で表される構造を有する有機尿素系化合物吸着剤を添加して24時間振盪した実施例6では、被処理中の尿素が式[1]で表される構造単位を有する有機尿素系化合物に吸着されて、除去率が98%に達しているのに対して、有機尿素系化合物吸着剤を添加することなく振盪した比較例3では、尿素濃度は全く低下していない。本発明の有機尿素系化合物吸着剤を用いることにより、2.00g/Lのような高濃度な尿素含有水からも、効果的に尿素を吸着除去することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の有機尿素系化合物吸着剤、有機尿素系化合物吸着剤装置及び有機尿素系化合物処理方法を用いることにより、希薄な濃度領域でも有機尿素系化合物を効果的に吸着、除去することができる。本発明により、水処理装置、特に純水製造装置の後半部での有機尿素系化合物の吸着処理が可能となり、また装置としても、安価で小型化することができる。
本発明の有機尿素系化合物吸着剤は、従来の尿素吸着剤よりも希薄な濃度領域での吸着容量が大きく、この吸着剤の採用により、有機尿素系化合物吸着装置の設置面積を低減するとともに、これまでコストアップの要因となっていた純水製造装置の有機物尿素系化合物除去装置のコストを低減し、純水製造装置において、広く一般産業ないし民生用の水処理及び医療分野での有機物濃度低減方法を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明方法の一態様の工程系統図である。
【図2】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【図3】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【図4】本発明方法の他の態様の工程系統図である。
【符号の説明】
【0046】
1 膜分離装置
2 膜分離装置
3 沈殿分離装置
4 カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン環にカルボキシル基が結合し、該カルボキシル基が結合した位置に隣接する位置にヒドロキシル基又はカルボキシル基が結合した構造を有する有機化合物からなることを特徴とする有機尿素系化合物吸着剤。
【請求項2】
前記有機化合物が、ベンゼン環のo−位置にヒドロキシル基とカルボキシル基又は2個のカルボキシル基を有する有機低分子量化合物である請求項1記載の有機尿素系化合物吸着剤。
【請求項3】
前記有機化合物が、該構造を側鎖に有する有機高分子量化合物である請求項1記載の有機尿素系化合物吸着剤。
【請求項4】
有機高分子量化合物が、水不溶性である請求項3記載の有機尿素系化合物吸着剤。
【請求項5】
請求項4記載の有機尿素系化合物吸着剤が粒状又は繊維状であり、該吸着剤をカラムに充填してなることを特徴とする有機尿素系化合物吸着装置。
【請求項6】
繊維状の有機尿素系化合物吸着剤が、ナノファイバーである請求項5記載の有機尿素系化合物吸着装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の有機尿素系化合物吸着剤を有機尿素系化合物含有水に添加する添加工程と、添加工程を経た有機尿素系化合物含有水を固液分離する固液分離工程とを有することを特徴とする有機尿素系化合物処理方法。
【請求項8】
請求項5又は請求項6記載の有機尿素系化合物吸着装置に、有機尿素系化合物含有水を通水することを特徴とする有機尿素系化合物処理方法。
【請求項9】
有機尿素系化合物含有水の有機体炭素(TOC)が、10mgC/L以下である請求項7又は請求項8記載の有機尿素系化合物処理方法。
【請求項10】
有機尿素系化合物含有水の有機体窒素が、5mgN/L以下である請求項7又は請求項8記載の有機物処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−246439(P2008−246439A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93808(P2007−93808)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】