説明

有機廃棄物の発酵処理方法

【課題】発酵処理の過負荷状態に起因する発酵槽内の発酵菌の不活性化を防止して、次に投入される有機廃棄物の発酵処理を継続して良好に行えるようにすることである。
【解決手段】発酵槽1から排風機9によって排出される排ガス中の炭酸ガス濃度を炭酸ガス濃度計11で検出し、検出された炭酸ガス濃度が予め設定した所定の上限値を超えたときに、発酵処理されたあと乾燥室3で乾燥された乾燥物Bを、発酵室2内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵室2へ返送することにより、過負荷状態になった発酵室2の有機酸の濃度を低下させるとともに、乾燥物Bに含まれる休眠状態の発酵菌を発酵に関与させて有機酸の分解を促進することで、発酵室2内の発酵菌の死滅や不活性化を防止して、次に投入される有機廃棄物Aの発酵処理を継続して良好に行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜屑や生ごみ等の有機廃棄物を好気性の発酵菌によって発酵処理する有機廃棄物の発酵処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜屑や生ごみ等の有機廃棄物を短時間で分解処理するために、これらの有機廃棄物を発酵槽内で撹拌、加熱しながら好気性の発酵菌によって発酵処理し、発酵槽内のガスを排風機によって排出して、常に新しい空気を発酵槽内に供給する有機廃棄物の発酵処理方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような発酵処理方法では、有機廃棄物の有機物は発酵菌によって水と炭酸ガスに分解されるが、好気性の発酵菌の活動を活性化するために、発酵槽内に新しい空気を供給することのほかに、発酵槽内の菌床の水分を適正に維持することが重要である。特許文献1に記載されたものでは、発酵槽内の菌床の水分量を検出する手段を設け、その検出結果に基づいて、発酵槽内へ注水するようにしている。また、発酵槽内の温度や、酸素や炭酸ガス等の気体を検出する手段も設け、発酵槽内の温度や気体濃度も管理するようにしている。
【0004】
なお、発酵菌を好気性のものに限定したものではないが、発酵槽を複数の処理室に区分し、下流の処理室で発酵処理後に乾燥された乾燥物を最上流の一次処理室に返送し、主たる発酵室となる一次処理室の有機物(生ごみ)の水分を調整するようにした生ごみ処理機もある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−309317号公報
【特許文献2】特開2001−276786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたように好気性の発酵菌によって発酵処理する有機廃棄物の発酵処理方法では、発酵菌の活動を活性化するために、発酵槽内の新しい空気量と菌床の水分を適正に維持することが重要であるが、発酵槽への有機廃棄物の投入量が多すぎて発酵処理が過負荷状態になると、有機物の分解に伴って発生する有機酸によって発酵槽内のpHが低下し、発酵菌が死滅または休眠して不活性となり、新しい空気量や菌床の水分を適正に維持しても、次に投入される有機廃棄物を継続して良好に発酵処理できない問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、発酵処理の過負荷状態に起因する発酵槽内の発酵菌の不活性化を防止して、次に投入される有機廃棄物の発酵処理を継続して良好に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、発酵槽内に投入される有機廃棄物を、撹拌、加熱しながら好気性の発酵菌によって発酵処理し、前記発酵槽内のガスを排風機によって排出する有機廃棄物の発酵処理方法において、前記発酵処理されたあとの有機廃棄物を乾燥するようにして、前記発酵槽から排風機によって排出される排ガス中の炭酸ガス濃度を検出し、この検出された炭酸ガス濃度が予め設定した所定の上限値を超えたときに、前記発酵処理されたあと乾燥された有機廃棄物の乾燥物を、前記発酵槽内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵槽へ返送する方法を採用した。
【0009】
本発明者らは、発酵処理が過負荷状態になると、発酵槽内の有機酸の濃度が高くなるとともに、発酵槽から排風機によって排出される排ガス中の炭酸ガス濃度も高くなることと、発酵処理されたあとの有機廃棄物の乾燥物には休眠状態の発酵菌が多く含まれることに着目し、発酵槽からの排ガス中の炭酸ガス濃度が所定の上限値を超えたときに、発酵処理されたあと乾燥された有機廃棄物の乾燥物を、発酵槽内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵槽へ返送することにより、過負荷状態になった発酵槽内の有機酸の濃度を低下させるとともに、乾燥物に含まれる休眠状態の発酵菌を発酵に関与させて有機酸の分解を促進させることで、発酵菌の死滅や不活性化を防止して、次に投入される有機廃棄物の発酵処理を継続して良好に行えるようにした。
【0010】
前記発酵槽へ返送する乾燥物の体積割合を、発酵槽内の内容物100容量部に対して20〜50容量部としたのは、体積割合が20容量部未満では、発酵槽内の有機酸の濃度を良好に低下させることができず、50容量部を超えると、発酵槽内の菌床の水分が低くなり過ぎるからである。
【0011】
前記乾燥物の発酵槽への返送を、前記検出された炭酸ガス濃度が予め設定された設定時間継続して前記上限値を超えたときに行うようにすることにより、過度的な炭酸ガス濃度の上昇による過負荷状態の誤検知を防止することができる。
【0012】
前記発酵槽を、前記有機廃棄物を発酵処理する発酵室と、発酵処理されたあとの有機廃棄物を流入させて乾燥する乾燥室とに仕切り、この乾燥室で乾燥された前記有機廃棄物の乾燥物を、前記発酵室内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵室へ返送することにより、乾燥物を容易に発酵室へ返送することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機廃棄物の発酵処理方法は、発酵処理されたあとの有機廃棄物を乾燥するようにして、発酵槽から排風機によって排出される排ガス中の炭酸ガス濃度を検出し、この検出された炭酸ガス濃度が予め設定した所定の上限値を超えたときに、発酵処理されたあと乾燥された有機廃棄物の乾燥物を、発酵槽内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵槽へ返送するようにしたので、過負荷状態になった発酵槽内の有機酸の濃度を低下させるとともに、乾燥物に含まれる休眠状態の発酵菌を発酵に関与させて有機酸の分解を促進させることで、発酵菌の死滅や不活性化を防止して、次に投入される有機廃棄物の発酵処理を継続して良好に行うことができる。
【0014】
前記乾燥物の発酵槽への返送を、検出された炭酸ガス濃度が予め設定された設定時間継続して上限値を超えたときに行うようにすることにより、過度的な炭酸ガス濃度の上昇による過負荷状態の誤検知を防止することができる。
【0015】
前記発酵槽を、有機廃棄物を発酵処理する発酵室と、発酵処理されたあとの有機廃棄物を流入させて乾燥する乾燥室とに仕切り、この乾燥室で乾燥された有機廃棄物の乾燥物を、発酵室内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵室へ返送することにより、乾燥物を容易に発酵室へ返送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1(a)、(b)は、本発明に係る有機廃棄物の発酵処理方法を採用した発酵処理装置を示す。この発酵処理装置は、発酵槽1が、投入口2aから投入される有機廃棄物Aを好気性の発酵菌によって発酵処理する発酵室2と、発酵処理されたあとの有機廃棄物を流入させて乾燥し、乾燥物Bとして排出口3aから排出する乾燥室3とに多孔板の仕切り板4で仕切られており、仕切り板4を貫通させて、発酵室2内と乾燥室3内を撹拌する撹拌羽根5が横架されている。また、発酵室2と乾燥室3はそれぞれヒータ6a、6bによって間接加熱されるようになっており、発酵室2内の温度と菌床の水分は、それぞれ温度計7と水分計8の出力に基づいて適正に維持されるようになっている。
【0017】
前記発酵室2と乾燥室3には、それぞれ給気口2bと排気口3bが設けられ、発酵槽1内のガスが排風機9によって排気口3bから排出され、給気口2bから発酵室2内に新しい空気が供給されるようになっている。排気口3bの出口配管10には、排気口3bから排出される排ガス中の炭酸ガス濃度を検出する炭酸ガス濃度計11が取り付けられており、炭酸ガス濃度計11で検出された炭酸ガス濃度が、予め設定された上限値を予め設定された設定時間継続して超えたときに、図1(a)中に一点鎖線Cで示すように、乾燥室3内の乾燥物Bを、発酵室2内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵室2へ返送するようになっている。
【実施例】
【0018】
上述した発酵処理装置を用いて、有機廃棄物としてのニンジンを発酵処理する試験を行った。発酵室2の容量は50リットル、乾燥室3の容量は30リットルとし、撹拌羽根5の回転速度は1.5rpm、排風機9の排気による発酵槽1への通風量は10リットル/分とし、排ガス中の炭酸ガス濃度を検出する炭酸ガス濃度計11には、ヴァイサラ社製のGMT220(商品名)を用いた。発酵室2には菌床が20リットル、乾燥室3には乾燥物Bが12リットル貯えられている。また、発酵処理されるニンジンには、含水分率のバラツキをなくすために、粉末の乾燥ニンジンに同重量の水を加えたものを用いた。なお、乾燥ニンジン1kgの負荷(固形物量)は、生ニンジン(含水率約90%)10kgの負荷に相当する。
【0019】
以上のような試験条件のもとに、まず、乾燥ニンジンの投入量を、300g、600g、1000g(水を加えた投入量はこれらの倍の量となる)の3レベルに変化させ、これらの投入量を24時間のインターバルで2回繰り返す予備試験を行い、排ガス中の炭酸ガス濃度を測定した。
【0020】
図2は、前記予備試験における排ガス中の炭酸ガス濃度の測定結果を示す。いずれの投入量の場合も、炭酸ガス濃度は発酵処理の初期に急増、急減するピークを示した後、緩やかに漸減し、ピーク値は投入量が多いほど高くなる。投入量が300gと600gの場合は、ピークの持続時間が短く、2回目の投入時も、ピーク値が1回目と同等となって発酵処理が良好になされているが、投入量を1000gと多くした場合は、1回目のピークの持続時間が長くなり、2回目の投入時のピーク値が大幅に低下しており、2回目の投入時の発酵処理が不活発になっていることが分かる。
【0021】
つぎに、1回目の投入量を1000g、2回目の投入量を600gとして、予備試験と同様に24時間のインターバルで2回繰り返す本試験を行った。この本試験では、1回目の投入時に炭酸ガス濃度が所定の上限値(6.5%)を予め設定された設定時間(1時間)継続して超えたときに、乾燥室3内の乾燥物Bを、発酵室2内の内容物100容量部に対して30容量部の体積割合で発酵室2へ返送する実施例と、乾燥室3内の乾燥物Bを全く返送しない比較例との2通りの発酵処理を行った。なお、実施例の場合は、乾燥物Bを返送したときに、発酵室2内の内容物が30%増加することを見込んで、発酵槽1への通風量も30%増加させて13リットル/分とした。
【0022】
図3は、前記本試験の実施例と比較例における排ガス中の炭酸ガス濃度の測定結果を示す。実施例のものは、炭酸ガス濃度が1時間継続して6.5%を超え、乾燥物が返送された際の空気の混入により一時的な落ち込みが認められるが、この落ち込みは直ぐに回復して1回目の発酵処理が活発になされているとともに、投入量を600gとした2回目の投入時も、ピーク値が予備試験において投入量を600gとした場合と同等の高さとなっており、発酵処理が良好になされていることが分かる。これに対して、比較例のものは、投入量を600gとした2回目の投入時に、ピーク値が実施例のものよりも大幅に低下しており、発酵処理が不活発になっている。ちなみに、実施例と比較例のものについて、1回目の発酵処理後の発酵室2内のpHを測定したが、比較例のものはpHがかなり低下しており、1回目の発酵処理で多くの発酵菌が死滅または休眠したことが推定される。
【0023】
上述した実施形態では、発酵処理装置の発酵槽を発酵室と乾燥室に仕切ったものとしたが、本発明に係る有機廃棄物の発酵処理方法は、発酵槽とは別に乾燥手段を設けた発酵処理装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】aは本発明に係る有機廃棄物の発酵処理方法を適用した発酵処理装置を示す縦断面図、bはaのIb−Ib線に沿った断面図
【図2】実施例の予備試験における排ガス中の炭酸ガス濃度の測定結果を示すグラフ
【図3】実施例の本試験における排ガス中の炭酸ガス濃度の測定結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0025】
A 有機廃棄物
B 乾燥物
1 発酵槽
2 発酵室
2a 投入口
2b 給気口
3 乾燥室
3a 排出口
3b 排気口
4 仕切り板
5 撹拌羽根
6a、6b ヒータ
7 温度計
8 水分計
9 排風機
10 出口配管
11 炭酸ガス濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵槽内に投入される有機廃棄物を、撹拌、加熱しながら好気性の発酵菌によって発酵処理し、前記発酵槽内のガスを排風機によって排出する有機廃棄物の発酵処理方法において、前記発酵処理されたあとの有機廃棄物を乾燥するようにして、前記発酵槽から排風機によって排出される排ガス中の炭酸ガス濃度を検出し、この検出された炭酸ガス濃度が予め設定した所定の上限値を超えたときに、前記発酵処理されたあと乾燥された有機廃棄物の乾燥物を、前記発酵槽内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵槽へ返送するようにしたことを特徴とする有機廃棄物の発酵処理方法。
【請求項2】
前記乾燥物の発酵槽への返送を、前記検出された炭酸ガス濃度が予め設定された設定時間継続して前記上限値を超えたときに行うようにした請求項1に記載の有機廃棄物の発酵処理方法。
【請求項3】
前記発酵槽を、前記有機廃棄物を発酵処理する発酵室と、発酵処理されたあとの有機廃棄物を流入させて乾燥する乾燥室とに仕切り、この乾燥室で乾燥された前記有機廃棄物の乾燥物を、前記発酵室内の内容物100容量部に対して20〜50容量部の体積割合で、発酵室へ返送するようにした請求項1または2に記載の有機廃棄物の発酵処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−259940(P2008−259940A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103605(P2007−103605)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】