説明

有機性廃棄物の消化再資源化方法

【課題】有機性廃棄物中の有機物を迅速に高い分解率で分解・消化処理することができると共に、メタンや良質の肥料を効率的に製造することができる、工業的に有利な有機性廃棄物の消化処理技術を提供する。
【解決手段】
メタン発酵作用を利用して有機性廃棄物を嫌気性消化する処理方法であって、嫌気性消化処理の前処理として、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持し、原料中の雑草種子を不活性化させることを特徴とする有機性廃棄物の消化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に家畜排泄物の再資源化技術に関する。その他の有機性廃棄物、例えば家庭、スーパーマーケット、コンビニエンスストアーや食品工場等から排出される食品廃棄物、家庭の浄化槽・工場等の廃水処理設備・下水処理場等から排出される有機性汚泥、し尿、有機性廃水等の再資源化に用いることもできる。
【背景技術】
【0002】
従来より、畜産廃水等をメタン発酵処理後、消化物をストリッピング槽でアンモニアストリッピング処理する方法(特許文献1及び2参照)が知られているが、この消化方法ではメタン発酵後ストリッピング処理するため、アンモニアによるメタン発酵阻害を抑制することができない。
【0003】
また、メタン発酵の前処理としてストリッピングする方法(特許文献3及び4参照)が知られているが、雑草種子の不活性化効果及び、微生物の殺滅効果を教示するものではない。
【0004】
また、嫌気性消化時に原料とアンモニアをイオン交換で除去できるゼオライトを混合し、アンモニアによるメタン発酵阻害を抑制する方法(特許文献5参照)が知られているが、本提案は雑草種子の不活性化効果及び、微生物の殺滅効果を教示するものではない。
【特許文献1】特開平10-005789号公報
【特許文献2】特開平10-122496号公報
【特許文献3】特開2001-113265号公報
【特許文献4】特開2001-137888号公報
【特許文献5】特開2002-29871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の実情に鑑みなされたものであって、有機性廃棄物の消化処理方法において、有機性廃棄物中の有機物を迅速に高い分解率で分解・消化処理することができると共にメタンや肥料を効率的に製造することができる、産業的に有利な有機性廃棄物の消化再資源化技術を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の技術的課題を解決すべく本発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者は、メタン発酵作用を利用して有機性廃棄物を嫌気性消化する処理方法であって、嫌気性消化処理の前処理として、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持し、原料中の雑草種子を不活性化させることを特徴とする有機性廃棄物の消化処理方法を見出した。とくに、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持する手段として、嫌気性消化の前処理として原料中に水蒸気を吹き込む方法が有効であることを見出した。
【0007】
この有機性廃棄物の消化処理方法は、原料有機性廃棄物に水蒸気を吹き込み家畜飼料等に混入している雑草の種子を不活性化して消化物の農地還元を可能にし、原料中の微生物を殺滅して有機物分解率を向上させる。水蒸気吹込みによりアンモニアを揮散処理(ストリッピング)するので、アンモニアによるメタン発酵阻害を抑制し、消化物の過剰な窒素を削減できる効果も有する。
【0008】
そこで、本発明の有機性廃棄物の消化処理方法は、以下のような構成とされている。
すなわち、本発明の有機性廃棄物の消化処理方法は、嫌気性微生物のメタン発酵作用を利用して有機性廃棄物を嫌気性消化する消化処理方法であって、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持し、原料中の雑草種子を不活性化させることを特徴とし、とくに、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持する手段として、嫌気性消化の前処理として原料中に水蒸気を吹き込む前処理後、嫌気性消化処理することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、有機性廃棄物が嫌気性消化される前に、加熱により雑草の種子が不活性化され、微生物が死滅して嫌気性分解作用を受けやすくなり、原料中のアンモニアが除去されているので、アンモニアによるメタン発酵阻害作用が防げ、同時にメタン発酵に最適な温度まで加温することができ、省エネルギー処理となる。
【0010】
また、前記請求項目1に記載の有機性廃棄物の消化処理方法において、有機性廃棄物に水蒸気を供給する前処理工程と、供給された前記有機性廃棄物と嫌気性消化微生物を前記嫌気性消化槽内で混合し、混合により生じた嫌気性消化汚泥の存在下で嫌気性消化する嫌気性消化工程とを有することを特徴とする。
【0011】
消化物を農地還元する際には、畜産廃棄物中に含まれる外国産や国産の雑草の種子が混入するという問題があるが、原料を水蒸気で加熱することにより種子を不活性化することができる。
【0012】
畜産廃棄物や下水汚泥を嫌気性消化する際には、原料中の微生物が嫌気性消化処理で死滅しにくいことが、有機物分解率が低いことの原因となっていたが、この構成では原料を水蒸気で加熱することにより原料中の微生物が死滅し、嫌気性消化を受けやすくなり、有機物分解率が向上する
【0013】
メタン発酵により有機物中の窒素は、アンモニアとして蓄積するが、アンモニアはメタン生成を阻害する作用が知られている。しかし、前処理工程においてアンモニアを除去すれば、嫌気性消化槽においてメタン発酵が阻害されないようにアンモニア濃度を低く保つことができ、メタン発酵が促進される。
【0014】
更に、本発明の有機性廃棄物の消化処理方法において、前記前処理工程で得られるアンモニア水を肥料等の原料とすることを特徴とする。更に、本発明の有機性廃棄物の消化処理方法において、前記嫌気性消化工程で得られるメタンを含有する気相部を燃料とすることを特徴とする。更にまた、本発明の有機性廃棄物の消化処理方法において、前記嫌気性消化工程で得られる消化処理残渣を直接又は固液分離し、肥料及び/又は肥料の原料として利用することを特徴とする。
【0015】
従来の嫌気性消化方法では、最終的に発生する消化物(処理されたスラリー)を肥料として用いる場合、他の肥料成分に比べアンモニアが過剰であった。この構成によれば、最終的に発生する消化物のアンモニア濃度が低く、農地還元の際に窒素過多になることが防げる。
【0016】
また、本発明の有機性廃棄物の消化処理装置は、嫌気性微生物のメタン発酵作用を利用して有機性廃棄物を嫌気性消化処理する装置であって、原料に水蒸気を供給する前処理槽と嫌気性消化槽と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上に説明したように、本発明によれば、有機性廃棄物中の微生物が死滅しているので有機物を迅速に高い分解率で分解・消化処理することができると共に、メタンや雑草の種子が不活性化した窒素バランスのよい肥料を効率的に製造することができる、工業的に有利な有機性廃棄物の消化処理技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1を参照しながら詳述する。
なお、本発明の処理対象となる有機性廃棄物とは、一般家庭、レストラン、ホテル、食品工場、スーパーマーケットおよびコンビニエンスストアー等からの食品廃棄物。食品工場・浄化槽・下水処理場等で廃水処理時に発生する、初沈汚泥と呼ばれるタンパク質、炭水化物、脂質、繊維などの有機物と水の混合物、剰余汚泥と呼ばれる廃水浄化の際に増殖した微生物そのもの、食品工場・浄化槽・下水処理場等で廃水処理後排出される初沈汚泥と剰余汚泥の混合物である廃水処理汚泥一般。し尿、家禽排泄物、家畜排泄物、古紙類、剪定枝等植物性廃棄物や農産廃棄物が含まれる他、嫌気性消化した後に排出される消化汚泥など有機性廃棄物一般が含まれる。
【0019】
[有機性廃棄物の消化処理装置の説明]
まず、本発明を実施する有機性廃棄物の消化処理装置を説明する。
有機性廃棄物の消化処理装置は、図1に示すように、有機性廃棄物貯留タンク1と、有機物廃棄物に水蒸気を供給する前処理槽3、水蒸気発生装置5、アンモニア水貯留槽7、メタンを生じさせる嫌気性消化槽9と、消化ガス貯留タンク11と、消化物貯留タンク13とを備えている。なお、有機性廃棄物貯留タンク1と前処理槽3は有機性廃棄物配管2を介して連結し、前処理槽3と水蒸気発生装置5は水蒸気配管4を介して連結し、前処理槽3とアンモニア水貯留槽7はアンモニア水配管6を介して連結し、前処理槽3と嫌気性消化槽9は前処理物配管8を介して連結している。また、嫌気性消化槽9と消化ガス貯留タンク11は消化ガス配管10を介して連結し、嫌気性消化槽9と消化物貯留タンク13は嫌気性処理物配管12を介して連結している。
用いる水蒸気の温度は、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持することができればどのようなものでも良いが、100〜250℃、好ましくは120〜150℃のものを用いることが出来る。
【0020】
前処理槽3では、原料スラリーを散水し、水蒸気を下部から吹き込む。前処理槽は、水蒸気吹き込みにより、雑草が不活性化し、微生物が死滅する温度に保つ。
【0021】
前処理槽の上部に水蒸気冷却装置を備え、アンモニアを含む水蒸気を液化してアンモニア水に変換する。
【0022】
この前処理により、原料中の雑草の種子が不活性化し、微生物が死滅し、原料中のアンモニア濃度が低減する。雑草の種子が不活性化しているので消化物の液肥利用が容易で、微生物が死滅しているので嫌気性消化槽における有機物の分解が効率よく進み、アンモニアによるメタン発酵阻害が抑制され、原料が加温されているので嫌気性消化が効率よく進む。
【0023】
次に、有機性廃棄物の消化処理装置の動作を説明する。
有機性廃棄物は、有機性廃棄物貯留タンク1より有機性廃棄物配管2を通って、前処理槽3に供給される。水蒸気は、水蒸気発生装置5から水蒸気配管4を通って、嫌気性消化槽9に供給される。前処理槽3において水蒸気によりアンモニアが揮散され、前処理槽内の冷却器によりアンモニア水が生成する。生成したアンモニア水は、アンモニア水配管6を通って、アンモニア水貯留タンク7に貯留される。そして、嫌気性消化槽9では、水蒸気で処理された有機性廃棄物と嫌気性微生物を含む嫌気性消化汚泥が混合・攪拌され、嫌気性消化が促進される。
【0024】
また、嫌気性消化槽9では、嫌気性微生物(酸生成微生物やメタン生成微生物)の働きで、有機性廃棄物がメタン、二酸化炭素、アンモニアなどに分解処理される。この時、嫌気性消化槽9には水蒸気処理された原料が添加されているので、雑草の種子が不活性化され、原料中の微生物が死滅し、遊離のアンモニア濃度が低く保たれ、メタン生成反応が阻害されない。
【0025】
また、嫌気性消化槽3内で発生したメタンを含む消化ガスは、消化ガス配管10を通って消化ガス貯留タンク11に貯留される。この場合の消化ガスは、通常CH4:50〜100モル%、C02:0〜50モル%、H2:0〜10モル%を含有する。
【0026】
嫌気性消化が進んだ処理物(有機性廃棄物)は、消化物配管12を通って消化物貯留タンク13に蓄えられる。
【0027】
嫌気性処理物は、雑草の種子が不活性化し、有機物の分解が進み、アンモニア濃度が低下して肥料成分のバランスが改善しているので、有機肥料として質が高い。
【0028】
有機性廃棄物の消化処理装置は、前記構成からなるので、一度温度を上げるだけで、有機性廃棄物のメタン発酵が促進される。
【0029】
また、前記構成によれば、良質のスラリー状肥料が生産できる。
【0030】
次に、有機性廃棄物の消化処理方法の一例を以下に示す。
まず、処理対象となる有機性廃棄物を前処理槽において散水しながら、高温の水蒸気を吹き込み、原料廃棄物の温度を60〜90℃、好ましくは70〜80℃にする。水蒸気の吹き込み量は、原料の1〜20%、好ましくは5〜15%とする。前処理槽上部には冷却器を設け、アンモニアを含む水蒸気をアンモニア水として回収する。通常、回収されるアンモニア水の濃度は、1〜20%程度である。水蒸気によって加温された原料廃棄物は、前処理槽において60〜90℃、好ましくは70〜80℃の条件で、0.5〜24時間、好ましくは1〜4時間滞留させる。
【0031】
前処理物は、20〜80℃好ましくは30〜40℃の中温発酵かまたは50〜70℃の高温発酵で嫌気性消化処理させる。
【0032】
嫌気性消化種汚泥としては、例えば、酸発酵性微生物やメタン発酵性微生物を含有する下水汚泥の嫌気性消化に使用される通常の嫌気性消化汚泥や、既存の嫌気性消化汚泥を好気性分解産物に馴致培養したもの使用することができる。
【0033】
なお、酸発酵微生物とは、嫌気性消化において有機酸等を生成する微生物を意味し、Bacteroides sp.、Clostridium sp.、Bacillus sp.、Lactobacillus sp.等があげられる。また、メタン発酵性微生物とは、嫌気性消化においてメタンを生成する微生物を意味し、Methanosarcina sp.、Methanosaeta sp.、Methanobacterium sp.、Methanothermobacter sp.等があげられる。両者とも従来からよく知られているものである。
【0034】
前記のようにして、有機性廃棄物を水蒸気により前処理すると、原料中の雑草の種子が不活性化して、消化物の農地還元が容易になる。熱前処理により微生物が死滅しているので、嫌気性消化時の有機物分解率が向上する。水蒸気により、原料中のアンモニアが一部除去され、アンモニアによる嫌気性消化阻害作用が抑制される。従って、本発明方法では、嫌気性消化処理が効率よく進む。
【0035】
また、本有機性廃棄物の消化処理方法では、嫌気性消化後の消化物のアンモニア濃度が低下しているので、植物にとって栄養のバランスがよい。
【0036】
嫌気性消化処理時に発生するメタンの量は、有機物分解率が向上しているので増加する。発生したメタンは、例えば、ボイラー燃料、消化ガス発電、マイクロガスタービンや水素への改質後燃料電池の燃料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係わる有機性廃棄物の嫌気性消化処理装置の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 有機性廃棄物貯留タンク
2 有機性廃棄物配管
3 前処理槽
4 水蒸気配管
5 水蒸気発生装置
6 アンモニア水配管
7 アンモニア水貯留タンク
8 前処理物配管
9 嫌気性消化槽
10 消化ガス配管
11 消化ガス貯留タンク
12 消化物配管
13 消化物貯留タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵作用を利用して有機性廃棄物を嫌気性消化する処理方法であって、嫌気性消化処理の前処理として、原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持し、原料中の雑草種子を不活性化させることを特徴とする有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項2】
原料有機性廃棄物を70〜90℃に1〜4時間保持する手段として、水蒸気の吹き込みを行うことを特徴とする請求項1に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項3】
前記前処理法において、水蒸気により原料有機性廃棄物中の微生物を死滅させることを特徴とする前記請求項目1に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項4】
前記請求項目1に記載の有機性廃棄物の消化処理方法において、有機性廃棄物に水蒸気を供給する前処理工程と、供給された前記有機性廃棄物と嫌気性消化微生物を前記嫌気性消化槽内で混合し、混合により生じた嫌気性消化汚泥の存在下で嫌気性消化する嫌気性消化工程と、を有することを特徴とする請求項目1及び至る請求項目2に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項5】
前記前処理工程で得られるアンモニア水を、肥料等の原料とすることを特徴とする請求項目1及び至る請求項目2に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項6】
前記嫌気性消化工程で得られるメタンを含有する気相部を燃料とすることを特徴とする請求項目1及び至る請求項目2に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。
【請求項7】
前記嫌気性消化工程で得られる消化物を直接又は固液分離し、肥料及び/又は肥料の原料として利用することを特徴とする請求項目1及び至る請求項目2に記載の有機性廃棄物の消化処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−212468(P2006−212468A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24774(P2005−24774)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】