説明

有機成分

上記発明は、電極(1;2)と、対電極(2;1)と、上記電極(1;2)と上記対電極(2;1)との間に配置され、且つ上記電極(1;2)及び上記対電極(2;1)と電気的に接触している有機層の配置とを有する有機成分、特に発光有機成分に関する。上記有機層(3)の配置には、電極(1;2)及び対電極(2;1)から有機層(3)の配置へ注入される電荷担体を輸送するための電荷担体輸送層(4,8)が含まれ、分子ドープ材から作製される注入層(5;9)は、有機層(3)の配置において、電極(1;2)と、電極(1;2)の反対側に配置される電荷担体輸送層(4;8)との間に形成される。注入層は、電極(1;2)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層(4;8)と接触しており、上記分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量を有している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、電極、対電極を有し、また、当該電極と当該対電極との間に配置され、当該電極と対電極と電気的に接触している有機層の配置を有し、有機層の当該配置が、電極及び対電極から有機層の上記配置中へ注入される電荷担体を、有機層の上記配置へ輸送する電荷担体輸送層を含む有機成分に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
上記のような成分が様々な実施態様において知られており、具体的には、発光有機成分として知られている。発光有機成分の1つの種類として、有機発光ダイオード(OLED)がある。Tangらによる低動作電圧での実証(C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett. 51 (12), 913 (1987)参照)により、有機発光ダイオードは、新しい証明及び表示成分を形成する有力な候補となっている。これら成分の全ては、有機材料の一連の薄い層を含み、これらの層は、好ましくは真空中で蒸着により、又は溶液状のこれらの重合体若しくはオリゴマーで処理することにより塗布される。金属層による電気接触後、接点が形成され、これらは、広範囲の電子若しくは光電子成分(例えば、ダイオード、発光ダイオード、光ダイオード、トランジスター、ガスセンサー)を形成する。これらは、これらの特性に関して、無機層に基づいた従来の成分に匹敵する。
【0003】
有機発光ダイオードの場合では、外部印加電圧、その結果生じる、活性領域における励起子(電子/ホール対)の形成、並びに光を形成する、発光領域におけるこれら励起子の再結合の結果として、光は、電荷担体(即ち、電極からの電子及び対電極からのホール、又は逆も同様)が電極と対電極との間の有機層の配置へ注入されることにより発生する。上記光は、上記発光ダイオードにより発光する。
【0004】
従来の無機ベースの成分(例えば、シリコン若しくはガリウム砒素のような半導体)に対するこのような有機ベースの成分の有利な点は、非常に大きな表面積を有する素子、つまり、大きい表示素子(表示パネル、画面)を形成することが可能である、という事実にある。上記有機出発材料は、無機材料と比べて、比較的安価である。その上、これらのプロセス温度が無機材料と比較して低いため、これら材料は、表示及び照明技術の分野において多くの新しい利用が広がるフレキシブル基板に適用できる。
【0005】
文献(US 5,093,698)には、ドープした電荷担体輸送層を有する有機発光ダイオードである、PIN型の有機発光ダイオード(PIN OLED)が記載されている。特に、2つの電極間に3つの有機層が位置するものが使用される。上記文献では、n−ドープ及びp−ドープした層が、電荷担体の上記注入、並びにホール及び電子の各ドープした当該層への輸送を改善する。上記提案された構造は、少なくとも5つの材料を含む、少なくとも3つの層からなる。
【0006】
上記エネルギー準位HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)及びLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)は、電子とホールとの効率的な再結合を確実にするために、電荷担体の両方の種類が、上記発光領域で”トラップ”されるように、好ましく選択される。上記電荷担体の発光領域への規制は、発光層及び/又は電荷担体輸送層のイオン化ポテンシャル又は電子親和力を適切に選択することにより行われる。これらは、以下でより詳細に論じる。
【0007】
可視光を発生させるための1つの必要条件は、再結合領域で形成する励起子が、発光する光の波長に対応するエネルギーを少なくとも有していることである。ここで、最も高いエネルギーは、400〜475nmの範囲の波長を有する青色光を形成するのに必要とされる。電荷輸送層から発光領域への電荷担体の注入を促進するためには、これら層に対するマトリックス材料として、電子輸送層における電子の準位とホール輸送層におけるホールの準位との間のエネルギー差が最も高く見込まれるように、これらのエネルギー準位に関して発光領域と適合する材料を使用することが好都合である。
【0008】
発光成分の上記作動形態は、可視スペクトル領域に近い電磁放射線(例えば、赤外若しくは紫外放射線)を放射する成分の作動形態と違いが無い。
【0009】
電子輸送層用の材料の場合、実験により、LUMOのエネルギーが高くても−2.7eV若しくはそれ未満にすべきであることが見出された。これは、高くても−2.1V vs Fc/Fc(vs.フェロセン/フェロセニウム)の値に対応する。OLEDの電子輸送層用の材料として使用される基準的な物質は、上記のようなLUMO(例えば、BPhen(LUMO −2.33eV)及びAlq(LUMO −2.47eV))を有する。ホール輸送層用の材料の場合、HOMOは、−4.8eV以下(0V以上 vs. Fc/Fc(vs.フェロセン/フェロセニウム)に対応)が好ましい。
【0010】
適切なドーピング効果を達成するためには、p−ドーパント及びn−ドーパントは、p−ドーピングを達成するための、ホール輸送層のマトリックスの酸化、並びにn−ドーピングを達成するための、電子輸送層のマトリックスの還元を行うための特定の還元電位/酸化電位を有している必要がある。
【0011】
イオン化ポテンシャルを決定する方法としては、紫外光電子分光法(UPS)が好ましい(R. Schlaf et al., J. Phys. Chem. B 103, 2984 (1999)参照)。イオン化ポテンシャルは、通常固体状態で決定される。しかしながら、原理上は、ガスのイオン化ポテンシャルを決定することも可能である。しかしながら、2つの異なる方法により得られた測定値は、固体で生じる相互作用により異なる。相互作用によるこのような効果の一例として、光イオン化の結果として生成するホールの分極エネルギーが挙げられる(N. Sato et al., J. Chem. Soc. Faraday Trans. 2, 77, 1621 (1981))。上記イオン化ポテンシャルは、光電子放出が、高運動エネルギーの側面(flank of high kinetic energies)(最も弱い結合光電子)として始まる点に対応する。
【0012】
関連した方法である、逆光電子分光法(inverse photoelectron spectroscopy(IPES))は、電子親和力の決定に使用される(W. Gao et al., Appl. Phys. Lett. 82, 4815 (2003)参照)が、これは、あまり確立されていない方法である。代わりに、溶液中での酸化電位Eox及び還元電位Eredの電気化学的測定(例えば、サイクリックボルタンメトリー(J. D. Anderson, J. Amer. Chem. Soc. 120, 9646 (1998)参照))により、固体のポテンシャルを見積もることができる。
【0013】
電気化学的電圧基準(electrochemical voltage scale)(酸化電位)を、物理的な(絶対的な)エネルギー基準(イオン化ポテンシャル)へ変換する実験式が知られている(例えば、B. W. Andrade et al., Org. Electron. 6, 11 (2005); T. B. Tang, J. Appl. Phys. 59, 5 (1986); V. D. Parker, J. Amer. Chem. Soc. 96, 5656 (1974); L. L. Miller, J. Org. Chem. 37, 916 (1972); Y. Fu et al., J. Amer. Chem. Soc. 127, 7227 (2005)参照)。
【0014】
電子親和力は辛うじて測定のみ行うことができるため、還元電位と電子親和力との間に相関がないことが知られている。単純にするため、電気化学的及び物理的なエネルギー基準(scale)は、IP=4.8eV+eox(vs. フェロセン/フェロセニウム)、及びEA=4.8eV+ered(vs. フェロセン/フェロセニウム)(B. W. Andrade, Org. Electron. 6, 11 (2005)参照)を使用して互いに変換される。様々な標準電位若しくは酸化還元対の変換は、例えば、A. J. Bard et al., “Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications”, Wiley, 2nd edition 2000に記載されている。上記測定で使用する溶媒の影響に関する情報は、N. G. Connelly et al., Chem. Rev., 96, 877 (1996)の中で見つけることができる。
【0015】
イオン化ポテンシャル及び電子親和力の用語は、HOMOのエネルギー(若しくはエネルギー層)及びLUMOのエネルギー(若しくはエネルギー層)(Koopmanの理論)の用語の同意語として通常使用される。ここでは、イオン化ポテンシャル/電子親和力は、より大きい値が、電子を放出する/結び付ける、それぞれの分子へのより強い結合を示すように記載されることに注意すべきである。上記分子軌道のエネルギー基準(例えば、HOMO若しくはLUMO)は、逆に測定される。
【0016】
本願で与えられる上記ポテンシャルは、固体での値と関係する。
【0017】
文献(US5,093,698)には、電極から有機層への電荷担体注入を大幅に改善する、OLED用の成分の構造が開示されている。この効果は、電極への界面における有機層のエネルギー準位のバンドの相当な屈曲に基づいている(J. Blochwitz et al., Org. electronics 2, 97 (2001))。これにより、トンネル機構に基づく電荷担体の注入が可能である。ドープした層の高い伝導度もまた、OLEDの動作時に生じる電圧降下を防ぐ。
【0018】
電極と電荷担体輸送層との間のOLEDで起こり得る注入バリアは、熱力学的に根拠が示される最小動作電圧に匹敵する、動作電圧が増加する主な要因の1つである。このため、注入バリアを減らす多くの試みがなされてきた。例えば、仕事関数が低い陰極材料(例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムのような材料)を使用することにより、注入バリアを減らすことが挙げられる。しかしながら、これら材料は、反応性が高く、加工することが難しく、電極材料として、限定された範囲でのみ適している。その上、このような陰極の使用によりほとんどもたらされる、動作電圧の減少は不完全である。
【0019】
アルミニウム陰極と電子輸送層との間の薄層として組み入れられる、LiF若しくは他のリチウム化合物には、陰極から電子輸送層への電子の注入を改善する更なる可能性がある。アルミニウムより低い仕事関数を有するリチウムは、上記プロセスで形成されると思われる(M. Matsumura et al., Appl. Phys. Lett., 2872, (1998))。しかしながら、この方法は、アルミニウムを陰極材料として使用するときのみに機能する。その上、数ナノメートルの範囲の非常に薄い層のみが所望の効果を与えるので、LiF層の層厚さの正確な制御が必要となる。また、上記方法は、最初に陰極、その後有機層連続物が堆積する逆の構造に対しては、満足できる態様で機能しない。
【0020】
他の可能性のある、陰極から電子輸送層への注入の改善としては、低い仕事関数を有する有機金属錯体をOLEDの陰極と電子輸送層との間の薄い層として組み込むことが知られている(cf. Bloom et al., J. Phys. Chem., 2933, (2003))。
【0021】
OLEDの陽極材料としては、通常、比較的高い仕事関数を有する材料が利用される。一例として、インジウムスズ酸化物(ITO)又はインジウム亜鉛酸化物(IZO)等の透明な導電酸化物が利用される。ITO陽極からOLEDのホール輸送層へのホールの注入の改善についても試みられている。一例として、ITOの仕事関数は、酸素プラズマでITO表面をターゲットとした処理により増加させることができる(M. Ishii et al., J. Lumin., 1165, (2000))。
【0022】
更には、文献(US 6,720,573 B2、及びUS 2004/0113547 A1)では、ホール注入及び/又はホール輸送のための層として、置換ヘキサアザトリフェニレンを使用し、その結果、陽極とホール輸送層との間の注入バリアが減少することを提案している。文献(US 2004/0113547 A1)は、ヘキサアザトリフェニレンから作られた注入層を使用するときに形成する”実質的な電極”を提案している。ここで、注入層中の材料は、中性状態よりも還元状態での安定性が高いことが見込まれる。更には、上記材料は、低い電子移動度及び高いホール移動度を有する。文献(US 2004/0113547 A1)では、陽極材料からの自由電子がヘキサアザトリフェニレン層へ与えられ、その結果、この層のモジュールが部分的に還元することが提案されている。上記電子は上記材料中で低い移動度を示すことから、電子が実質的な陰極を形成する、陽極への界面に対して、電子は固定されたままである。電圧を加えたとき、陽極に直ぐ隣接する”実質的な陰極”即ち、負電荷により、陽極からヘキサアザトリフェニレン層へのホールの注入は容易となる。この層の高いホール移動度により、当該ホールは実際の陰極の方向に、瞬時に移動し続ける。
【0023】
更には、文献(US 2004/0113547 A1)には、この注入層は、特に、低い仕事関数を有する陽極材料により良い結果を導くことが記載されている。この発見は、高い仕事関数を有する陽極材料を使用する通例の試みに反する。しかしながら、これは、これら材料の使い易さに関する制約を明白に示している。
【0024】
従って、陽極からの電荷担体注入、並びに陰極からOLEDの電荷担体輸送層への電荷担体注入の両方についての提案が知られている。しかしながら、これらは、注入に関して存在する問題を部分的にのみ解決することができる。具体的には、電荷担体輸送層への電荷担体の注入は、PIN OLEDの場合のように、バリアがなく、大部分で起こることが保証されていない。
【0025】
PIN OLED技術をより詳細に以下に論じる。
【0026】
更には、電荷担体の輸送は、好ましくない電圧降下の有力な原因である。非ドープ層では、電荷輸送は、空間電荷制限電流の理論(theory of space charge-limited currents)に従って起こる(M. A. Lampert, Rep. Progr. Phys.27, 329 (1964)参照)。ここで、特定の電流密度を維持するのに必要な電圧は、層の厚さが増加するのに従って増加し、電荷担体移動度が減少するに従って増加する。有機半導体材料は、最近、10−5cm/Vsより高い電荷担体移動度を有するが、高い輝度のOLEDの動作に必要となるような増大した電流密度での電圧損失がほとんどない電荷担体輸送を確実にするのには多くの場合十分ではない。これと匹敵して、例えば、電極間の短絡及び金属接点での発光のクエンチングを避けるためには、上記輸送層の厚さに対する最小の層の厚さを厳しく守らなければならない。
【0027】
PIN OLEDでは、ドープした層の伝導度は最高5桁、即ち、非ドープ層より高い。上記層はオーム伝導体のように振舞う。このため、(ドープした)電荷担体輸送層上の電圧降下は、高い電流密度でOLEDを動作するときでさえも非常に低い。例えば、10−5S/cmの伝導度では、100mA/cmの電流で、100nmの厚さの、ドープした有機電荷担体輸送層上では、電圧が0.1V降下する。それに反して、移動度が10−5cm/Vsである非ドープの電荷担体輸送層(電流の空間電荷制限)の場合では、この電流密度には、5.4Vの電圧が要求される。
【0028】
文献(DE 100 58 578 C2)には、ブロッキング層を、中心発光層と少なくとも1つの電荷担体輸送層との間に挿入することが記載されている。ここで、上記電荷担体輸送層は、同様に、アクセプター又はドナーのどちらか一方によりドープされている。発光領域での電子及びホールを制限するように、即ち、拡散により電荷担体が発光領域を離れることを防止するように、上記ブロッキング材料のエネルギー準位をどのように選択するかについて記載されている。それゆえ、追加される中間層もまたドーパントの不純物サイトでの事前に見込まれているクエンチング効果に対する緩衝領域として振舞うため、周知の構造により実質的に高い効率が可能となる。
【0029】
発光の打ち消しは、多くの効果によりもたらされ得る。1つの有力な機構は、励起錯体形成として知られている。このような場合、発光領域の発光モジュールでお互い再結合する意図が実際にあるホールと電子とは、発光層との界面の1つにおける2つの異なる分子に位置している。このいわゆる励起子錯体状態は、異なる性質を含む分子と共に、電荷移動励起子として理解することができる。ブロック及び発光層用の材料の適切でない選択をした場合には、この励起子錯体は、エネルギーに関して最も低い有力な励起状態であり、この励起子錯体状態において、実際に求められる励起子のエネルギーを発光分子へ送ることができる。これは、エレクトロルミネッセンスの量子収率、従ってOLEDの量子収率の減少を導く。これは、赤色へシフトするが、通常非常に低い量子収率により特徴付けられる励起子錯体のエレクトロルミネセンスと関係する。
【0030】
OLEDで生じる発光の打ち消しのメカニズムは、一方においては、帯電した若しくは帯電していないドープした分子と励起子との、及び/又は他方においては電荷担体と励起子との相互作用を受けて発生する。上記第一のメカニズムは、上記相互作用が短距離(例えば、<10nm)であるため、非ドープのブロッキング層の利用により効果的に抑えられる。電荷担体は、OLEDの動作時に、必ずしも発光領域で生じず、発光領域に接していないため、最適化は、ここでは、例えばバンドの切れ目(band discontinuity)における電荷担体の蓄積を防ぐ効果に対してのみ行うことができる。これは、電荷担体注入バリア及び電荷担体の蓄積を避けるため、ブロッキング材料及びエミッターのバンド準位の選択における特別の必要条件を提起する。
【0031】
励起子の非発光クエンチングプロセスを抑えることによるOLEDの効率を増加させる、上述した効果に加えて、輸送層と発光領域との間の界面での中間層の利用によっても、発光領域への電荷担体の注入を促進する目的を実現することができる。可視光を形成するためには、少なくともOLEDにより発光する光の波長に対応するエネルギーを有するエミッター分子上で励起子を発生させる必要がある。このエネルギーは、多くの場合、ホール輸送層のHOMOと電子輸送層のLUMOとの間の差により決められる準位での差より大きい値に対応している。この界面での電荷担体密度を増加させ、空間電荷領域を形成するように導き得る、電荷担体輸送層から発光領域への注入への過剰な高い注入バリアを防ぐためには、多くの場合、電荷担体層と発光領域との間に、数ナノメートルの範囲の厚さを有する、追加の薄い層を導入することが有利である。これらは、これらのエネルギーに関して、電荷担体輸送層間の、これらのHOMOの準位(ホール輸送層の場合)、又はこれらのLUMOの準位(電子輸送層の場合)によるべきであり、その結果として、電荷担体輸送が促進され、且つ空間電荷領域の形成が抑制される。
【0032】
適切な層配置により、PIN技術に基づくOLEDは非常に低い動作電圧を同時に有し、非常に高い電流効率を達成する。これにより、100lm/Wより極端に高いパフォーマンス効率を達成することが可能である(J. Birnstock et al., IDW, Proceedings, S. 1265-1268 (2004))。これは代替技術により可能とはならない。
【0033】
しかしながら、ドープした電荷担体輸送層の製造によって、OLEDの製造における追加的な技術障害が示される。PIN OLEDでは、1以上の層において2以上の材料の同時蒸着により多くの場合組み立てられる発光領域に加えて、その都度、2つの材料から輸送層を製造することが追加的に必要となる。このため、2つの蒸発源が要求され、これは別々に加熱及び制御しなければならず、より複雑で、より高価な製造要領の設計と必然的に関係する。OLED材料と共に仕込まれるキャリアガスから層を成長させる等のOLED層を製造する他の方法では、同時蒸着法に関してより複雑である。このような方法では、製造要領において冷却器部分での揮発性が低い物質で起こり得る堆積を防ぐように、特に、堆積する材料の蒸発温度をできるだけ互いに有利に近づけることを確保しなければならない。しかしながら、上記蒸発温度が大きく離れている場合、及びそれ故にガス流と接触する上記設定の一部をこのような堆積を防ぐために適切な高温にしなければならない場合では、熱容器壁(hot vessel wall)において、より揮発性の高い成分が化学分解するリスクがある。その上、電荷輸送層のドーピングの場合では、輸送マトリックスとドーパントとの間の反応が気相ですでに生じているかもしれない。
【0034】
文献(WO2005/086251)では、有機半導体マトリックス材料、有機半導体材料、及び電子成分のためのn−ドーパントとして、並びにドーパント及び配位子としても金属錯体の使用について論じられている。
【0035】
有機発光ダイオードのための主な利用分野の1つは表示技術である。パッシブ・マトリックス表示素子の分野、アクティブ・マトリックス表示素子の分野の両方において、OLEDは、近年、物価圧力が自然に高くなるにつれて、マーケットシェアが増大している。このため、PIN OLED成分の製品における増大する技術的製造費用は、従来のOLEDと比較して改良された性能特性に対して判断しなければならない。これは、幾つかの状況の下、PIN技術の商業的成功が弱められ得ることを意味する。
【0036】
〔発明の概要〕
上記発明の目的は、電極から、電極間の有機層の配置へと改良した電荷担体注入する有機成分を提供することである。
【0037】
上記発明によれば、この目的は、電極(1;2)と、対電極(2;1)と、電極(1;2)と対電極(2;1)との間に配置され、且つ電極(1;2)及び対電極(2;1)と電気的に接触している有機層(3)の配置とを有する有機成分、特に発光有機成分により達成される。上記有機層(3)の配置は、電極(1;2)及び対電極(2;1)から有機層(3)の配置へ注入される電荷担体を輸送するための電荷担体輸送層(4,8)を含み、分子ドープ材から作製される注入層(5;9)が、有機層(3)の配置において、電極(1;2)と、電極(1;2)の反対側に配置される電荷担体輸送層(4;8)との間に形成され、ここで、注入層は、電極(1;2)の反対に配置される電荷担体輸送層(4;8)と接触しており、上記分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量で提供される。上記ドープ材がp−型である場合、上記分子ドープ材は、Fc/Fcに対して、およそ0V以上の還元電位を有している。上記ドープ材がn−型である場合、上記分子ドープ材は、Fc/Fcに対して、およそ−1.5V以下の酸化電位を有している。
【0038】
上記電極が陽極として形成される場合、当該陽極の反対側に配置される電荷担体輸送層はホール輸送層であり、注入層は、p−型の分子ドープ材から作製される。上記電極が陰極として形成される場合、当該陰極の反対側に配置される電荷担体輸送層は電子輸送層であり、注入層はn−型の分子ドープ材から作製される。
【0039】
驚くべきことに、例えば、PIN OLEDにおいて、電極と電荷担体輸送層との間の電荷担体輸送層のドーピングに使用されるような、分子ドープ材から作製される1以上の注入層により、上記有機成分の動作の際の動作電圧を大きく減少させることができることが見出された。上記発明は、今まではPIN型のOLED用の有機発光成分の場合でのみで可能であった、適用電圧を最小値にまで低下させることを可能とした。
【0040】
更には、上記分子ドープ材から作製される注入層の使用により、有機成分のUV光露出による分解が、特に、発光有機成分の場合に防止されることが見出された。これにより、上記成分は、強い光にさらしたときでさえ、動作電圧のいかなる上昇も示さない。
【0041】
上記分子ドープ材は、真空蒸着により、如何なる分解も伴わずに層を形成することができる分子性物質である。これらは、少なくとも6つの原子、好ましくは20より多い原子を含む分子の有機若しくは無機物質である。上記分子ドープ材は、分子塩(molecular salt)であってもよく、当該分子塩では少なくとも2つの分子サブユニットが形成されており、当該サブユニットにおける分子は、同様に、少なくとも6つの原子、好ましくは20より多く原子を含む。同じように、上記分子ドープ材は、分子電荷移動錯体であってもよく、当該分子電荷移動錯体の原子は上記条件を満たす。上記分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量を有する。
【0042】
上記発明の1つの有利な実施形態では、上記電極が陽極として形成される場合、上記対電極は陰極であり、n−型の更なる分子ドープ材から作製される更なる注入層は、陰極と、陰極の反対側に配置される電子輸送層との間の有機層の配置において形成され、更なる注入層は、陰極の反対側に配置される上記電子輸送層と接触しており、上記n−型の更なる分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量を有する。結果として、上記電極からの電荷担体の改善された注入に加えて、上記対電極からの電荷担体の注入もまた改善され得る。上記成分における電荷担体のバランスは改善され、OLEDの場合における効率の増加をもたらす。その上、より低い注入バリアが上記2つの電極に存在しているため、上記動作電極もまた減少する。
【0043】
上記発明の1つの目的のある実施形態においては、上記電極の反対側に配置される上記電荷担体輸送層を、ドープした電荷担体輸送層としてもよい。結果として、上記発明の有利な効果は、ドープした輸送層の陽性の性質(positive properties)と相まって発生する。このような配置は、改善したUV安定性及び電荷担体の更なる改善された注入を導き、その結果、上記動作電圧が更に減少し得る。
【0044】
上記発明の1つの更なる発展の結果では、上記電極の反対側に配置される電荷担体輸送層が上記分子ドープ材でドープされる。結果として、追加の供給源が要求されず、製造プロセスのコストを低下させることができ、要求される材料の種類がより少なくすることができる。
【0045】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記対電極の反対側に配置される上記電荷担体輸送層は、ドープした電荷担体輸送層とし得る。上記発明の1つの更なる発展の結果では、上記電極の反対側に配置される電荷担体輸送層は、上記更なる分子ドープ材でドープされる。
【0046】
上記発明の1つの好ましい更なる発展の結果では、上記注入層は、およそ0.1nmとおよそ100nmとの間の厚さで形成され、おそよ0.5nmとおよそ10nmとの間の厚さで形成されることが好ましい。上記発明の1つの発展の結果では、上記更なる注入層は、およそ0.1nmとおよそ100nmとの間の厚さで有利に形成され、およそ0.5nmとおよそ10nmとの間の厚さで有利に形成されることが好ましい。薄い層により、見込まれる吸収損失と材料消費量との最小化を達成することができる。
【0047】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記注入層は上記電極と接触している。代わりに、上記発明の1つの有利な更なる発展の結果では、上記電極及び上記注入層と接触している金属層を上記電極と上記注入層との間に形成する。電荷担体の注入は、上記金属中間層から上記電荷担体輸送層へと起こり、ここで注入特性の改善も達成される。
【0048】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記更なる注入層が上記対電極と接触している。代わりの実施形態では、上記発明の発展の結果、上記対電極及び上記更なる注入層と接触する更なる金属層が、上記対電極と上記更なる注入層との間に形成される。
【0049】
上記発明の1つの好ましい更なる発展の結果では、有機層の上記配置における1つ又は複数の上記有機層は、真空蒸着により堆積される。有機層の上記配置における1つ又は複数の上記有機層は、高分子層として形成されていてもよい。
【0050】
技術的生産プロセスでは、使用される分子ドープ材が、真空プロセスで加工することができる場合に有利である。上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記分子ドープ材及び/又は上記更なる分子ドープ材は、最小蒸発温度が少なくとも100℃であり、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも160℃である。これは、上記ドープ材が、上記成分のパフォーマンスにおける負の効果を生じ得る、上記成分の他の機能的層へと輸送されないことを保証する。量産プロセスでの上記材料の使用において、特に、上記ドープ材の上記蒸発温度及び蒸気圧は2つの臨界パラメータであり、これは、低すぎる蒸発温度、又は高すぎる、室温での蒸気圧が、生産プロセスにおいて、他の適切な材料を排除するための基準となる理由である。
【0051】
更には、もし上記分子ドープ材を蒸発により精製することができ、上記成分を製造するときに、上記ドープ材が高い純度で使用される場合には有利となる。このために、上記ドープ材を、上記ドープ材の熱分解温度よりかなり低い温度で昇華させることができる。上記蒸発温度と上記分解温度との差は、少なくともおよそ20℃であり、好ましくは少なくともおよそ40℃であり、より好ましくは少なくともおよそ60℃である。これにより、上記成分の製造の間、上記製造要領において、上記ドープ材の分解が起こらず、また、その後の汚染も起こらないことも保証される。それゆえ、上記発明の1つの発展の結果では、上記分子ドープ材及び/又は上記更なる分子ドープ材は、上記蒸発温度と上記分解温度との差は少なくとも20℃であり、好ましくは少なくともおよそ40℃であり、より好ましくは少なくともおよそ60℃である。
【0052】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記p−型の分子ドープ材は、Fc/Fcに関しておよそ0.18V以上、好ましくはおよそ0.24V以上の還元電位を有する。上記還元電位は、例えば、適切な溶媒(例えば、アセトニトリル)中の材料のサイクリックボルタンメトリーにより決定することができる。サイクリックボルタンメトリーの実施、還元電位を決定するための他の方法、並びに参照電極フェロセン/フェロセニウム(Fc/Fc)と他の参照電極との関係に関する詳細な情報は、文献(A. J. Bard et al., “Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications”, Wiley, 2nd edition 2000)中で見出すことができる。より高い還元電位は、ホール輸送層として使用できる材料の範囲をより広げる。結果として、より安定(UV/温度)で、より寿命の長い、コストの低い材料を使用することが可能となる。
【0053】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記対電極は陰極であり、当該陰極の反対側に配置される上記電荷担体輸送層は電子輸送層であり、上記更なる注入層は上記n−型の分子ドープ材から作製される。
【0054】
上記発明の1つの好ましい実施形態では、上記n−型の分子ドープ材は、Fc/Fcに関する酸化電位がおよそ−2.0V以下であり、好ましくはおよそ−2.2V以下である。より低い酸化電位は、電子輸送層として使用できる材料の範囲をより広げる。
【0055】
ドープしていない電荷担体輸送層を使用するときには、複数の材料の同時蒸発によって上記電荷担体輸送層を製造する必要はない。その結果、製造プロセスは、ドープした層と比べて簡略化される。
【0056】
上記発明は、特に、発光有機成分に関連するおよそ上記記載した利点をもたらす。上記発明の1つの好ましい実施形態では、有機層の上記配置には、発光有機成分が形成される結果としての発光領域が含まれる。1つの改良においては、荷電した若しくは荷電していないドーピング分子と励起子との相互作用の結果として、ドープした輸送層を省略する場合では発光の打ち消しが起こり得ないため、上記電荷担体輸送層と上記発光領域との間の中間層を省略することが状況によっては可能である。
【0057】
上記発明の1つの有利な更なる進展の結果においては、上記発光有機成分は、最上部が発光するもの(top-emitting)である。上記発明の代わりの進展の結果では、上記有機発光成分は、底部が発光するもの(bottom-emitting)であることが有利である。上記発光有機成分は透明とすることができる。逆の配置もまた提供され得る。
【0058】
〔発明の好ましい実施形態の説明〕
上記発明について、実施形態の例に基づいて、図面を参照して以下より詳細に説明する。図1は、有機層の配置が陽極と陰極との間の配置である、有機成分の概略図を示す。図2は、発光層を含む有機層の配置が、上記陽極と上記陰極との間の配置である、発光有機成分の概略図を示す。図3は、上記発明による有機発光ダイオードと、従来技術による有機PIN発光ダイオードとにおける電圧の関数としての輝度のグラフ形式での説明図を示す。図4は、上記発明による有機発光ダイオードと、従来技術による有機PIN発光ダイオードとにおける電圧の関数としての電流密度のグラフ形式での説明図を示す。
【0059】
図1は、有機層3の配置が、陽極1と陰極2との間に成される、有機成分の概略図を示す。上記陽極1及び上記陰極2を経て、電界を有機層3の上記配置へ適用することができる。このような構造は、例えば、ダイオード、発光ダイオード、フォトダイオード等の様々な有機成分において統一させることができる。
【0060】
有機層3の上記配置では、上記陽極1の反対側に配置されるホール輸送層4を含む。有機層3の上記配置における上記ホール輸送層4により、電界を適用したときにp−型の分子ドープ材から作製される陽極側の注入層5を経て陽極1から注入されるホールは、活性領域6へと輸送される。p−型の分子ドープ材としての利用は、例えば、2−(6−ジシアノメチレン−1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロ−6H−ナフタレン−2−イリデン)−マロノニトリルの材料により成され得る。
【0061】
上記活性領域6は、例えば、発光領域であり、ここで上記ホールと電子とは再結合し、発光する。
【0062】
図1に従って、有機層3の上記配置は、更には上記陰極2の反対側に配置される電子輸送層8を含む。有機層3の上記配置における上記電子輸送層8により、電界を適用したときにn−型の分子ドープ材から作製される陰極側の注入層9を経て上記陰極2から注入される電子は、上記活性領域6へ輸送される。n−型の分子ドープ材としての利用は、例えば、テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド[1,2−a]ピリミジン)ジタングステン(II)の材料により成され得る。
【0063】
図2は陽極1と陰極2との間に配置される発光層として設計される活性領域6を含む、有機層3の配置における、発光有機成分の概略図を示す。
【0064】
図1及び2に示す有機成分は、他の実施形態(示さず)では、有機層3の配置において又は有機層3の配置の外側で、更なる層を含み得る。例えば、発光有機成分として具体的には、電荷担体をブロックする中間層を備える実施形態が知られている。
【0065】
図3は、上記発明による有機発光ダイオード(上記発明によるOLED;三角)、及び上記従来技術による有機PIN発光ダイオード(上記従来技術によるPIN−OLED;四角)における電圧の関数としての輝度のグラフ形式での説明図を示す。
【0066】
図4は、上記発明によるOLED(三角)及び上記従来技術によるPIN−OLED(四角)における、電圧の関数としての輝度のグラフ形式での説明図を示す。
【0067】
2つのOLEDを製造するため、上記有機層及び上記金属層を、およそ10−7mbarの圧力下、超高真空システムで、当該製造プロセスの間、真空を中断させることなく、熱蒸発により、ITOコートされたガラス上に堆積させた。上記堆積速度及び堆積厚さは、水晶振動子により監視した。
【0068】
上記発明によるOLEDは、以下の構造を有する。
1.1)2nm 2−(6−ジシアノメチレン−1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロ−6H−ナフタレン−2−イリデン)マロノニトリル
1.2)50nm 2,2',7,7'−テトラキス(N,N−ジメチルフェニルアミノ)−9,9'−スピロビフルオレン
1.3)10nm NPB
1.4)20nm 10%イリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)でドープしたNPB
1.5)70nm 2,4,7,9−テトラフェニルフェナントロリン
1.6)2nm テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド[1,2−a]ピリミジン)ジタングステン(II)
1.7)100nm アルミニウム
これは、最大発光波長が615nmである赤色OLEDである。上記サンプルは、3.1Vの電圧で、1000cd/mの輝度に達する。この輝度での上記電流効率は24cd/Aである。
【0069】
参照用として製造する従来技術による上記OLEDは、以下の構造を有する。
2.1)50nm 4% 2−(6−ジシアノメチレン−1,3,4,5,7,8−ヘキサフルオロ−6H−ナフタレン−2−イリデン)マロノニトリルでドープした2,2',7,7'−テトラキス(N,N−ジメチルフェニルアミノ)−9,9'−スピロビフルオレン
2.2)10nm NPB
2.3)20nm 10%イリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)でドープしたNPB
2.4)10nm 2,4,7,9−テトラフェニルフェナントロリン
2.5)60nm 2%テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド[1,2−a]ピリミジン)ジタングステン(II)でドープした2,4,7,9−テトラフェニルフェナントロリン
2.6)100nm アルミニウム
これは、最大発光波長が610nmであるPIN型の赤色OLEDである。上記OLEDは、2.7Vの電圧で1000cd/mの輝度に達する。この輝度での上記電流効率は26cd/Aである。
【0070】
図4の曲線は、低い電流密度では、最初に、上記発明によるOLED及び上記従来技術によるOLEDの両方において、同一の増加が達成されることを示す。0.1mA/cmの電流密度からのみ、上記曲線が異なっている。上記発明によるOLEDの曲線ではゆっくりと上昇している。10mA/cmの電流密度では、従来技術によるOLEDは、上記発明によるOLEDよりも0.5V低い電圧が要求される。
【0071】
上記陽極からの、及び上記陰極からの電荷担体の注入は、いかなる障害もなく行われ、接触抵抗に関して、追加の電圧降下が起こらない。特に、しきい電圧は2.0Vのみである。一方、上記成分により放射する光子のエネルギーもまた、2.0eVのみである。また、これは、接触抵抗が、上記発明によるOLED及び上記従来技術によるOLEDにおいて発生しないことを意味する。
【0072】
上記発明によるOLEDと上記従来技術によるOLEDとの比較において、特定の電流密度に達するための電圧の増加が、これと同じように低いことは、驚くべきことである。上記発明によるOLEDでの非ドープの電荷輸送層の全層厚さが例え100nmより厚い場合であってもである。
【0073】
これは、上記従来技術との比較において特に驚くべきことである。0.6V〜0Vのホール注入層としての高い還元電位と(US 2004/0113547 A1参照)、標準水素電極(Bloom et al., J. Phys. Chem., 2933, (2003))に対するサイクリックボルタンメトリーで測定される、1.28V〜1.44Vの電子の注入層としての低い酸化電位とを有する材料から作製される注入層が知られている。文献(US 2004/0113547 A1)により周知の注入層においては、低い仕事関数を有する特別な陽極材料が、低い動作電圧を達成するために要求される。上記達成されるしきい電圧は、上記発明と比べて高く、上記曲線は、より平坦な特徴を有する。低い酸化電位を有する上記既知材料(Bloom et al., J. Phys. Chem., 2933, (2003)参照)もまた上記本発明と比較して高いしきい電圧を示す。
【0074】
PIN−OLEDにおける電荷担体輸送層のドーピングに適しているドープ材から作製される注入層を使用することにより、従来技術と比較して有効な改善を達成することができる。特に、上記陽極側で使用されるp−ドーパントの電子親和性は、文献(US 2004/0113547 A1)のものよりも高い。同様に、陰極側で使用されるn−ドーパントのイオン化ポテンシャルは、従来技術のものよりも低い(Bloom et al., J. Phys. Chem., 2933, (2003)参照)。単なる結果として、上記OLED成分の低いしきい電圧を有すると同時に、著しく急勾配の曲線を達成することができる。結果として、著しく高いパフォーマンス効率を達成することができる。従来技術と比較して、この開発方法(development step)は、驚くべきものであり、今までの研究により導き出されるものでもなく、自明なことでもない。薄い輸送層を使用する可能性により、製造プロセスは、層厚さにおける変化に敏感ではなく、これにより、製品歩留まりは増加し、上記成分を製造する総コストは減少する。
【0075】
特に、1000cd/m以下の輝度範囲では、上記発明によるOLEDと上記従来技術によるOLEDとの間の作動電圧の差は小さい。多くの見込まれる応用、例えば、アクティブ・マトリックス表示素子、又は照明素子では、1000cd/m以下の輝度で十分に満足できる。それゆえ、特に、成分輝度が低い値から中程度の値である可能性のある応用では、上記発明は、PIN技術の非常に有効な代替物に相当する。上記発明により、低い動作電圧を達成するためのドープした電荷担体輸送層の同時蒸発を実行することが必要とならないようにすることが可能となる。その上、高い効率を達成するためにPIN−OLEDで要求される層を省略することが、状況に応じて可能である。これは、通常PIN−OLEDで要求される、電荷担体輸送層と発光領域との間の界面における、ドープしていない薄い中間層に関連する。
【0076】
上記記載、上記請求項及び図面において開示される、上記発明の特徴は、その各種実施形態において上記発明を実施するために、単独、及びお互いの任意の組合せの両方で重要となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、有機層の配置が陽極と陰極との間の配置である、有機成分の概略図を示す。
【図2】図2は、発光層を含む有機層の配置が、上記陽極と上記陰極との間の配置である、発光有機成分の概略図を示す。
【図3】図3は、上記発明による有機発光ダイオードと、従来技術による有機PIN発光ダイオードとにおける電圧の関数としての輝度のグラフ形式での説明図を示す。
【図4】図4は、上記発明による有機発光ダイオードと、従来技術による有機PIN発光ダイオードとにおける電圧の関数としての電流密度のグラフ形式での説明図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極(1;2)と、
対電極(2;1)と、
電極(1;2)と対電極(2;1)との間に配置され、且つ電極(1;2)及び対電極(2;1)と電気的に接触している有機層(3)の配置とを有する有機成分、特に発光有機成分であり、
上記有機層(3)の配置には、電極(1;2)及び対電極(2;1)から有機層(3)の配置へ注入される電荷担体を輸送するための電荷担体輸送層(4,8)が含まれ、
分子ドープ材から作製される注入層(5;9)は、有機層(3)の配置における、電極(1;2)と、電極(1;2)の反対側に配置される電荷担体輸送層(4;8)との間に形成され、
注入層は、電極(1;2)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層(4;8)と接触しており、
上記分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量を有しており、
上記注入層(5;9)は、以下の構造、
注入層(5)は、およそ0V以上のFc/Fcに関する還元電位を有するp−型の分子ドープ材から作製されており、上記電極は、陽極(1)として形成されており、当該陽極(1)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層は、ホール輸送層(4)である構造、
及び
注入層(9)は、およそ−1.5V以下のFc/Fcに関する酸化電位を有するn−型の分子ドープ材から作製されており、上記電極は、陰極(2)として形成され、当該陽極(2)と反対側に配置される電荷担体輸送層は電子輸送層(8)である構造、
の1つによって形成される有機成分。
【請求項2】
上記電極が陽極(1)として形成される場合、上記対電極が陰極(2)であり、
n型の更なる分子ドープ材から作製される更なる注入層(9)は、陰極(2)と、当該陰極(2)の反対側に配置される電子輸送層(8)との間の有機層(3)の配置において形成され、
更なる注入層は、上記陰極(2)の反対側に配置する電子輸送層(8)と接触しており、上記n−型の更なる分子ドープ材は、少なくとも300g/molの分子量を有する、請求項1に記載の有機成分。
【請求項3】
上記電極(1;2)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層(4;8)は、ドープした電荷担体輸送層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機成分。
【請求項4】
上記電極(1;2)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層(4;8)は、分子ドープ材によりドープされていることを特徴とする請求項3に記載の有機成分。
【請求項5】
上記対電極(2;1)の反対側に配置される電荷担体輸送層(8;4)は、ドープした電荷担体輸送層であることを特徴とする、請求項2、又は請求項2に従属する限りは請求項3又は4に記載の有機成分。
【請求項6】
上記対電極(2;1)の反対側に配置される上記電荷担体輸送層(8;4)は、上記更なる分子ドープ材でドープされていることを特徴とする請求項5に記載の有機成分。
【請求項7】
上記注入層(5;9)は、およそ0.1nmとおよそ100nmとの間の厚さ、好ましくはおよそ0.5nmとおよそ10nmとの間の厚さで形成されていることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項8】
上記更なる注入層(9)は、およそ0.1nmとおよそ100nmとの間の厚さ、好ましくはおよそ0.5nmとおよそ10nmとの間の厚さで形成されていることを特徴とする、請求項2、又は請求項2に従属する限りは請求項3〜7の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項9】
上記注入層(5;9)は、上記電極(1;2)と接触していることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項10】
上記電極(1;2)及び上記注入層(5;9)と接触する金属層が、上記電極(1;2)と上記注入層(5;9)との間に形成されていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項11】
上記更なる注入層(9)は対電極(2)と接触していることを特徴とする請求項2、又は請求項2に従属する限りは請求項3〜10の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項12】
上記対電極(2)及び上記更なる注入層(9)と接触する更なる金属層が、上記対電極(2)と上記更なる注入層(9)との間に形成されていることを特徴とする請求項2、又は請求項2に従属する限りは請求項3〜10の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項13】
有機層(3)の上記配置における、1つ又は複数の上記有機層は、真空蒸着層として形成されていることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項14】
有機層(3)の上記配置における、1つ又は複数の上記有機層は、高分子層として形成されていることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項15】
上記分子ドープ材及び/又は上記更なる分子ドープ材は、少なくとも100℃、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも160℃の最小蒸発温度を有することを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項16】
上記分子ドープ材及び/又は上記更なる分子ドープ材では、蒸発温度と分解温度との差が、少なくとも20℃、好ましくは少なくともおよそ40℃、より好ましくは少なくともおよそ60℃であることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項17】
上記p−型の分子ドープ材は、およそ0.18V以上、好ましくはおよそ0.24V以上のFc/Fcに関する還元電位を有することを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項18】
上記n型の分子ドープ材は、およそ−2.0V以下、好ましくはおよそ−2.2V以下のFc/Fcに関する酸化電位を有することを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項19】
上記n−型の更なる分子ドープ材は、およそ−1.5V以下、好ましくはおよそ−2.0V以下、更に好ましくはおよそ−2.2V以下のFc/Fcに関する酸化電位を有することを特徴とする請求項2、又は請求項2に従属する限りは請求項3〜18の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項20】
有機層(3)の上記配置は発光領域(6)を含み、その結果、発光有機成分が形成されていることを特徴とする、先行する請求項の何れか1項に記載の有機成分。
【請求項21】
上記発光有機成分は、最上部が発光するものであることを特徴とする請求項20に記載の有機成分。
【請求項22】
上記発光有機成分は、底部が発光するものであることを特徴とする請求項20に記載の有機成分。
【請求項23】
上記発光有機成分は透明であることを特徴とする請求項20〜22の何れか1項に記載の有機成分。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−521109(P2009−521109A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546267(P2008−546267)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/012403
【国際公開番号】WO2007/076960
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(503180100)ノヴァレッド・アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】