説明

有機材料、有機電界発光素子、および表示装置

【課題】発光効率が高く発光寿命に優れた有機材料、およびこれを用いた有機電界発光素子、さらにはこの有機電界発光素子を用いた表示装置を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される有機電界発光素子用の有機材料。


ただし、一般式(1)中において、A1〜A24は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料、これを用いた有機電界発光素子、およびこれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で高効率のフラットパネルディスプレイが、例えばコンピュータやテレビジョンの画面表示用として盛んに研究、開発されている。最も代表的な表示装置であるブラウン管(CRT)は、輝度が高く、色再現性が良いため、現在ディスプレイとして最も多く使われているが、嵩高く、重く、また消費電力も高いという問題がある。
【0003】
また、軽量で高効率のフラットパネルディスプレイとして、アクティブマトリックス駆動などの液晶ディスプレイが商品化されている。しかしながら、液晶ディスプレイは、視野角が狭く、また、自発光でないため周囲が暗い環境下ではバックライトの消費電力が大きいことや、今後実用化が期待されている高精細度の高速ビデオ信号に対して十分な応答性能を有しない等の問題点がある。特に、大画面サイズのディスプレイを製造することは困難であり、そのコストが高い等の課題もある。
【0004】
そこで、これらの諸課題を解決する可能性のあるフラットパネルディスプレイとして、最近、有機材料を用いた有機電界発光素子(いわゆる有機EL素子)が注目されている。即ち、発光材料として有機化合物を用いることにより、自発光で、応答速度が高速であり、視野角依存性の無いフラットパネルディスプレイの実現が期待されている。
【0005】
一般的な有機電界発光素子の構成は、透光性の陽極と金属材料からなる陰極との間に、電流を流すことによって発光する有機材料を含む有機層を狭持してなる。この有機電界発光素子の歴史的背景としては、まず、有機層を正孔輸送性材料からなる薄膜と電子輸送性材料からなる薄膜との2層構造とし、この有機層を挟む状態で設けられた陽極および陰極から、有機層中にそれぞれ注入された正孔(ホール)と電子とが再結合することにより発光する素子構造が開発された(例えば、下記非特許文献1参照)。
【0006】
その後、有機層が、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料の3層構造からなる有機電界発光素子が開発され(例えば、下記非特許文献2参照)、さらに電子輸送材料中に発光材料を含ませた素子構造などが開発された(例えば、下記非特許文献3参照)。これらの研究により、有機電界発光素子において、低電圧で、高輝度の発光の可能性が検証され、近年、研究開発が非常に活発に行われている。
【0007】
図2は、このような有機電界発光素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子1は、例えばガラス等からなる透明な基板2上に設けられており、基板2上に設けられたITO(Indium Tin Oxide:透明電極)からなる陽極3、陽極3上に設けられた有機層4、および有機層4上に設けられた陰極5により構成されている。有機層4は、陽極3側から、正孔注入層4a、正孔輸送層4bおよび電子輸送性の発光層4cを順次積層させた構成を有している。この有機電界発光素子1では、陰極5から注入された電子と陽極3から注入された正孔とが発光層4cにて再結合し、この再結合の際に生じる光が陽極3を介して基板2側から取り出される。
【0008】
有機電界発光素子1としては、このような構成を有するものの他に、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものや、上方に位置する電極(陰極または陽極としての上部電極)を透明材料で構成することによって、基板と反対側の上部電極側から光を取り出すようにした、いわゆる上面発光型の有機電界発光素子もある。
【0009】
特に、基板上に薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:TFT)を設けてなるアクティブマトリックス型の表示装置においては、TFTが形成された基板上に上面発光型の有機電界発光素子を設けた、いわゆるTAC(Top Emitting Adoptive Current drive )構造とすることが、発光部の開口率を向上させる上で有利になる。
【0010】
そして、このような構成の有機電界発光素子における有機材料については様々な検討がなされており、特に青色発色材料についてはスチリルアレンもしくはアントラセン誘導体について改良が進められてきた(例えば、下記非特許文献4参照)。
【0011】
その代表的な誘導体としてはアントラセンの9、10位にフェニル基やナフチル基が置換した化合物(例えば、下記特許文献1〜3参照)が示されている。
【0012】
またクリセンを母骨格とする誘導体としてはスチリル部位を有する化合物(例えば、下記非特許文献5、特許文献4,5参照)が開示されている。
【0013】
【非特許文献1】Applied Physics Letters(米)1987年、第51巻、12号、p.913−915
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics、1988年、第27巻、2号、p.269−271
【非特許文献3】Journal of Applied Physics(米)1989年、第65巻、9号、p.3610〜3616
【非特許文献4】Materials Science and Engineering: R: Reports Volume 39、Issues 5-6 、 Pages 143-222, 2002
【特許文献1】特開平11−329732号公報
【特許文献2】特開2000−182775号公報
【特許文献3】特開2000−182776号公報
【特許文献4】特開2000−273055号公報
【特許文献5】特開2004−75567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上述した有機電界発光素子は自発光素子であるため、この有機電界発光素子を用いて表示装置を構成する場合、有機電界発光素子の長寿命化および信頼性の確保が最も重要な課題の一つである。このため、上述したように、有機電界発光素子を構成する有機材料に関する研究が取り進められているものの、発光効率や発光寿命においては実用性に達するものは未だにない。例えば、上述したアントラセン誘導体は良好な青色発光を示すものの、実用においては有機電界発光に用いられた場合には、その発光寿命が短く実用化には更なる改良が必要となっていた。また、スチリル部位を有するクリセンを母骨格とする誘導体は、化合物内に二重結合を有することから、電界を印加させると選択的に二重結合部位での電子的酸化および結合の切断が生じることがあり、そのために発光寿命が短く実用化には達していない。
【0015】
そこで本発明は、発光効率が高く発光寿命に優れた有機材料、およびこれを用いた有機電界発光素子、さらにはこの有機電界発光素子を用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するための本発明の有機材料は、有機電界発光素子用の有機材料であり、下記一般式(1)示すビクリセン化合物である。
【化4】

【0017】
ただし、一般式(1)中において、A1〜A24は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を示す。
【0018】
また、上記のカルボニル基は、アルデヒド基、ケトン基およびカルボキシル基を含む。そして、上記のアルキル基は、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基を含む。
【0019】
尚、上述した置換基を有しても良い基、すなわち、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、さらにはシリル基に対する置換基としては、ハロゲン、ヒドロキシル基、カルボニル基、カルボニルエステル基、環状アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基を挙げることができる。
【0020】
そして特に、一般式(1)中の互いに結合する部位を除くA1〜A24うちの一つ以上が、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、または複素環基から選ばれる置換基で置換されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、このような有機材料を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)でもあると共に、この有機電界発光素子を基板上に複数配列して設けた表示装置でもある。有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に有機層を狭持してなり、この有機層が上記一般式(1)で示される有機材料を用いて構成されている。さらに詳しくは、有機層が、前記一般式(1)に示される有機材料を用いて構成された発光層を備えている。この発光層は、蛍光性ドーパントを含有していても良い。蛍光性ドーパントとしては、特に芳香族第三級アミン化合物が好ましく用いられる。
【0022】
以上のような構成の本発明の有機材料は、上記ビクリセン構造を分子内に有するため、熱的な物性が良好であり、外部からの力や熱的な耐久性に優れており、電圧による変動力にも安定性を有している。また、ビクリセン特有の高い蛍光性、および長い蛍光寿命に基づく電界発光が得られる。
【0023】
したがって、このような有機材料を用いて有機層を構成した本発明の有機電界発光素子は、長時間駆動において有機層の耐久性が優れたものになる。また、特に、上記有機材料を発光層に用いた場合には、上述した耐久性を備えながらも、発光波長が長波長側にシフトし難く、青色〜赤色の広い波長の発光領域において優れた発光特性を示すことができる。このため、この有機電界発光素子を用いた表示装置においては、発光特性に優れた各発光色の有機電界発光素子を用いてカラー表示が行われる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明の有機材料を有機電界発光素子の有機層に用いることにより、有機層の耐久性の向上を図り有機電界発光素子における発光寿命の向上を図ることが可能になる。そして特に、有機電界発光素子の有機層における発光層にこの有機材料を用いることにより、有機層の耐久性を維持しつつも青色から緑色の短波長側の発光領域にわたる発光効率の向上を図ることが可能になる。この結果、この有機電界発光素子を、青色発光素子や緑色発光素子として構成し、さらに赤色発光素子と組み合わせて画素を構成することにより、色再現性の高いフルカラー表示が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の有機材料、有機電界発光素子および表示装置の構成をさらに詳しく説明する。
【0026】
<有機材料>
上述した一般式(1)で示される本発明の有機材料は、有機電界発光素子の有機層に用いられるビクリセン化合物である。ビクリセン化合物は、各々のクリセンの結合位置において複数の異性体が存在するが、本発明の有機材料はその構造異性体を全て包含する。すなわち、本発明の有機材料は、ビクリセンの分子対称性を鑑みた、以下の21通りの組み合わせの置換様式の異性体を全て含む。
【0027】
a)1、1’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA13部位での結合
b)2、2’−ビクリセン;一般式(1)のA2部位とA14部位での結合
c)3、3’−ビクリセン;一般式(1)のA3部位とA15部位での結合
d)4、4’−ビクリセン;一般式(1)のA4部位とA16部位での結合
e)5、5’−ビクリセン;一般式(1)のA5部位とA17部位での結合
f)6、6’−ビクリセン;一般式(1)のA6部位とA18部位での結合
g)1、2’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA14部位での結合
h)1、3’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA15部位での結合
i)1、4’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA16部位での結合
j)1、5’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA17部位での結合
k)1、6’−ビクリセン;一般式(1)のA1部位とA18部位での結合
l)2、3’−ビクリセン;一般式(1)のA2部位とA15部位での結合
m)2、4’−ビクリセン;一般式(1)のA2部位とA16部位での結合
n)2、5’−ビクリセン;一般式(1)のA2部位とA17部位での結合
o)2、6’−ビクリセン;一般式(1)のA2部位とA18部位での結合
p)3、4’−ビクリセン;一般式(1)のA3部位とA16部位での結合
q)3、5’−ビクリセン;一般式(1)のA3部位とA17部位での結合
r)3、6’−ビクリセン;一般式(1)のA3部位とA18部位での結合
s)4、5’−ビクリセン;一般式(1)のA4部位とA17部位での結合
t)4、6’−ビクリセン;一般式(1)のA4部位とA18部位での結合
u)5、6’−ビクリセン;一般式(1)のA5部位とA18部位での結合
【0028】
以下に、本発明の有機材料の具体的な一例を説明する。
【0029】
下記表1の構造式(1)〜(6)は、上記a)〜u)に示した本発明の有機材料であるビクリセンの置換様式のうちa)〜f)を示すと共に、本発明の有機材料であるビクリセン化合物のうちの無置換のビクリセン化合物を示している。そして、本発明の有機材料は、これらの構造式(1)〜(6)における各置換部位、すなわち一般式(1)の置換基A1〜A24に該当する部分が、それぞれ独立に上述した各置換基で置換されていても良い。
【0030】
【表1】

【0031】
以下に、構造式(1)〜(6)に示す無置換の化合物を各置換基で置換した本発明の有機材料の一例を示す。
【0032】
例えば上記表1の構造式(5)で示した無置換の化合物を置換基で置換した例として、下記表2-a、表2-b、表2-3の構造式(5)-1〜構造式(5)-28に示す化合物が挙げられる。
【0033】
【表2−a】

【表2−b】

【表2−c】

【0034】
このうち、構造式(5)-1、構造式(5)-2、および構造式(5)-3は、それぞれ直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、および環状アルキル基で各部が置換された化合物である。
【0035】
さらに、表1の構造式(6)で示した無置換の化合物を置換基で置換した例として、下記表3-a、表3-b、表3-cの構造式(6)-1〜構造式(6)-36に示す化合物が挙げられる。
【0036】
【表3−a】

【表3−b】

【表3−c】

【0037】
このうち、構造式(6)-1、構造式(6)-2、および構造式(6)-3は、それぞれ直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、および環状アルキル基で各部が置換された化合物である。
【0038】
以上で一例を示した本発明の有機材料は、種々の方法によって合成が可能であり、例えば次のa)〜c)の方法が例示される。
a)ハロゲン化されたクリセンを、マグネシウムを用いたグリニヤー反応によってカップリングさせる合成方法。
b)ハロゲン化されたクリセンを、銅触媒存在下でウルマン反応によってカップリングさせる方法。
c)ボロン酸、もしくはボロン酸エステル化されたクリセンとハロゲン化されたクリセンとを、パラジウムに代表される遷移金属触媒によってカップリングさせる(いわゆる鈴木カップリング反応)によって合成させる方法。
【0039】
尚、本発明のビクリセン化合物からなる有機材料は、有機電界発光素子の有機層を構成する材料として用いられるものであり、有機電界発光素子の製造プロセスに供する前に純度を高めておくことが好ましく、該純度が95%以上、より好ましくは99%以上とするのがよい。かかる高純度の有機化合物を得る方法としては有機化合物の合成後の精製である再結晶法、再沈殿法、もしくはシリカやアルミナを用いたカラム精製のほかに、昇華精製やゾーンメルト法による公知の高純度化方法を用いることができる。
【0040】
また、これらの精製方法を繰り返し行うことや異なる精製法を組み合わせて行うことで本発明における有機材料中の未反応物、反応副生成物、触媒残渣、もしくは残存溶媒などの混合物を低減させ、よりデバイス特性の優れた有機電界発光素子を得ることが可能となる。
【0041】
さらに本化合物は、光や酸素といった外因から以下に掲げるa)〜c)の保管方法をとることによって、その酸化、分解からの劣化反応を抑制し、特にこの有機材料を用いて構成される有機電界発光素子において、より優れた発光特性をもたらすことだけでなく、製造装置の負荷の軽減などに効果を発揮する。
a)有機材料を合成した後、速やかに冷所に静置する。その保管温度は−100℃から100℃の範囲が好ましく、より好ましくは−50℃から50℃の温度範囲で保管する。
b)有機材料を合成した後、速やかに遮光性を有する容器に保管する。
c)有機材料を合成した後、合成した有機材料を窒素、二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で保管する。
【0042】
以上説明した本発明の有機材料は、クリセン構造を分子内に有するため、熱的な物性が良好であり、外部からの力や熱的な耐久性に優れており、電圧による変動力にも安定性を有している。特に、クリセンを二量化させてビクリセンとしたこによる分子量の増加効果によって、結晶化が生じ難くなる。また、クリセン特有の高い蛍光性に基づく電界発光が得られる。
【0043】
したがって、このような構造の有機材料を、次に説明する有機電界発光素子の有機層に用いることにより、有機層の耐久性の向上を図り有機電界発光素子における発光寿命の向上を図ることが可能になる。また、特に、上記有機材料を発光層に用いた場合には、上述した耐久性を備えながらも、発光波長が長波長側にシフトし難く、青色〜赤色の広い波長の発光領域において優れた発光特性を示すことが可能になる。
【0044】
また、このビクリセンに、上述したように炭素数を規定した適切な置換基を導入することによって、発光効率と発光寿命の向上をさらに図ることが可能になる。特に、ビクリセンにおける置換部位の一つ以上を、アルキル基、アルコキシル基、アルケニル基、アリール基、もしくは複素環基から選ばれる置換基で置換した構成とすることにより、分子間相互作用を緩和させ、発光素子の素子特性に関わる結晶化の制御や二分子励起の抑制に対して効果を発揮する。
【0045】
また、本発明に基づくビクリセン化合物からなる有機材料は、電子輸送性能と正孔輸送性能の両方を持つ。このため、以下に詳しく説明するように、有機電界発光素子の有機層のうち、電子輸送層を兼ねた発光層としても、或いは正孔輸送層と兼ねた発光層としても用いることが可能である。また、本発明に基づくビクリセン化合物を用いた発光層を、電子輸送層と正孔輸送層とで挟み込んだ構成とすることも可能である。
【0046】
<有機電界発光素子>
次に、上述した有機材料を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)の構成を、図1に基づいて詳細に説明する。
【0047】
図1に示す有機電界発光素子11は、基板12上に陽極13、有機層14、および陰極15をこの順に積層してなり、基板12と反対側から光を取り出す上面発光型の素子として構成されている。
【0048】
ここで、基板12は、その一主面側に有機電界発光素子11が配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられるこの中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
【0049】
この基板12上に設けられる陽極13には、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、モリブテン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、ITO(インジウムチンオキシド)、InZnO(インジウ亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等が、単独または混在させた状態で用いられる。この陽極13は例えばスパッタリング法等により作製することができる。
【0050】
そして、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極13は画素毎にパターニングされ、基板12に設けられた駆動用の薄膜トランジスタに接続された状態で設けられている。また、この陽極13の上には、ここでの図示を省略したが絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13の表面が露出されるように構成されていることとする。
【0051】
そして、この陽極13上に設けられた有機層14が、本発明に特有の有機材料を用いて構成された層となる。この有機層14は、例えば陽極13側から順に、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dの4層を積層してなるものである。
【0052】
そして、本発明の有機電界発光素子11においては、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dの少なくとも一層が、上述した有機材料を用いて構成されているのである。特に、発光層14cが、上述した有機材料を用いて構成されることが好ましい。
【0053】
ここで、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bは、それぞれ発光層14cへの正孔注入効率を高めるためのものである。このような正孔注入層14a、もしくは正孔輸送層14bの材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、あるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
【0054】
具体的には、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
そして、発光層14cは、陽極13と陰極15による電圧印加時に、陽極13と陰極15のそれぞれから正孔および電子が注入され、さらにこれらが再結合する領域である。このような発光層14cに、一般式(1)を用いて説明した上述の有機材料を用いる場合、この有機材料がホスト材料として用いられることとする。そして、この発光層14c中には、少なくとも一種類の蛍光性ドーパントが含有されていることとする。蛍光性ドーパントとしては、特に芳香族第三級アミン化合物が好ましく用いられる。
【0056】
尚、この発光層14cのホスト材料としては、一般式(1)の有機材料と共に、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の有機材料を含有させても良い。このようなホスト材料の具体例としては、アントラセン、ナフタレン、インデン、フェナントレン、ピレン、ナフタセン、トリフェニレン、クリセン、ペリレン、ピセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、ペンタフェン、ペンタセン、コロネン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、あるいはこれらの誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体ジトルイルビニルビフェニルが挙げられる。
【0057】
また、電子輸送層14dは、陰極15から注入される電子を発光層14cに輸送するためのものである。電子輸送層14dの材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、またはこれらの誘導体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3 )、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、またはこれらの誘導体が挙げられる。
【0058】
これらの各層は、例えば真空蒸着法や、スピンコート法などの方法によって形成することができる。特に、発光層14cの形成においては、発光層14cでの発光スペクトルの制御を目的として、発光層14cを形成する際に微量の蛍光分子の共蒸着を行っても良い。この場合、例えば蛍光分子として、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタセン誘導体、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素等の有機物質を微量含む有機薄膜により発光層14cを形成するようにしてもよい。
【0059】
尚、有機層14は、このような層構造に限定されることはなく、少なくとも発光層14cと共に、陽極13と発光層14cとの間に、正孔輸送層14aまたは正孔注入層14bを有する構成であれば、必要に応じた積層構造を選択することができる。
【0060】
また、発光層14cは、正孔輸送性の発光層や電子輸送性の発光層として有機電界発光素子11に設けられていても良い。さらに、以上の有機層14を構成する各層、例えば正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
【0061】
そして、このような有機層14を構成する有機化合物は、電場が印加されることによって蛍光やリン光が発光する化合物を用いることのほかに、電子、若しくは正孔(ホール)の輸送能を有する化合物が適宜用いられることとする。
【0062】
次に、このような構成の有機層14上に設けられる陰極15は、例えば、有機層14側から順に第1層15a、第2層15bを積層させた2層構造で構成されている。
【0063】
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(Li2O)や、セシウム(Cs)の酸化物である酸化セシウム(Cs2O)、さらにはこれらの酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層15aは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
【0064】
第2層15bは、例えば、MgAgなどの光透過性を有する層を用いた薄膜により構成されている。この第2層15bは、さらに、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機材料を含有した混合層であっても良い。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。
【0065】
以上の陰極15を構成する各層は、真空蒸着法、スパッタリング法、更にはプラズマCVD法などの手法によって形成することができる。また、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、有機層14とここでの図示を省略した上述の絶縁膜とによって、陽極13と絶縁された状態で基板12上にベタ膜状に形成され、各画素の共通電極として用いられる。
【0066】
なお、陰極15は上記のような積層構造に限定されることはない。この積層構造は電極各層の機能分離(例えば電子注入を促進させる無機層と電極を司る無機層との機能分離)を行った際に必要なものである。したがって、第2層15bのみで構成したり、第1層15aを形成した後にITOなどの透明電極を形成したりすることも可能であり、作製されるデバイスの構造に応じて最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。
【0067】
そして上記した構成の有機電界発光素子11に印加する電流は通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子は介しない範囲内であれば特に制限はないが、有機電界発光素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
【0068】
なお、図1に示した有機電解発光素子11においては、陽極13にITO等よりなる透明電極を用いることにより上下の両サイドから光を取り出す構成であっても良い。
【0069】
また、この有機電界発光素子11が、キャビティ構造となっている場合、有機層14と透明材料あるいは半透明材料からなる電極層との合計膜厚は、発光波長によって規定され、多重干渉の計算から導かれた値に設定されることになる。そして、TFTが形成された基板上に上面発光型の有機電界発光素子を設けた、いわゆるTAC(Top Emitting Adoptive Current drive )構造では、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
【0070】
以上説明した構成の有機電界発光素子11によれば、一般式(1)を用いて説明したビクリセン化合物を用いて有機層14を構成した。これにより、有機層14の耐久性および安定性の向上を図ることが可能になると共に、クリセン特有の高い蛍光性に基づく電界発光が得られる。この結果、有機電界発光素子11における発光寿命の向上を図ることが可能になる。また特に、このビクリセン化合物を発光層のホスト材料として用いることにより、上述のように発光寿命を向上させつつも、発光波長が長波長側にシフトし難く、青色〜赤色の広い波長の発光領域において発光効率の向上を図ることが可能になる。
【0071】
したがって、このような本発明の有機電界発光素子を青色発光素子や緑色発光素子とし、さらに赤色発光素子と共に画素を構成して表示装置とすることにより、色再現性の高いフルカラー表示が可能になる。
【0072】
尚、以上の実施形態においては、本発明の有機材料を発光層(電子輸送性発光層、正孔輸送性発光層、および両電荷輸送性発光層を含む)の構成材料として用いることのみを説明した。しかしながら、本発明の有機材料が、上述したように耐久性に優れており、また、電子輸送性および正孔輸送性を有していることからすれば、この有機材料を、発光層以外の層、例えば電子輸送層や正孔輸送層さらには正孔注入層等を構成する材料として用いることもでき、これによってこれらの層における耐久性の向上を図ることが可能になる。
【0073】
また、本発明の有機電界発光素子は、上面発光型、これを用いたTAC構造への適用に限定されるものではなく、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機層を狭持してなる構成に広く適用可能である。したがって、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものや、基板側に位置する電極(陰極または陽極としての下部電極)を透明材料で構成することによって、基板と反対側の上部電極側から光を取り出すようにした、いわゆる透過型の有機電界発光素子にも適用可能である。このような構成であっても、一般式(1)を用いて説明した有機材料を有機層に用いることにより、同様の効果を得ることが可能である。
【0074】
さらに、本発明の有機電界発光素子とは、一対の電極(陽極と陰極)、およびその電極間に有機層が挟持されることによって形成される素子であれば良い。このため、一対の電極および有機層のみで構成されたものに限定されることはなく、本発明の効果を損なわない範囲で他の構成要素(例えば、無機化合物層や無機成分)が共存することを排除するものではない。
【実施例】
【0075】
本発明の有機材料の合成例、およびこの有機材料を用いた本発明の有機電界発光素子の実施例について具体的に説明する。ここでは先ず、本発明の有機材料の合成例1〜6を説明し、次いでこれらの有機材料を用いた有機電界発光素子および比較例の有機電界発光素子の作製手順、さらにはこれらの評価結果を説明する。
【0076】
<有機材料の合成例1>
表1の構造式(6)で示した6、6’―ビクリセンを、下記の反応式(1)を参照し、次の手順で合成した。
【化5】

【0077】
メカニカルスターラーを装着させた1000mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、溶媒として500mlのDMSOを加え、続いて6−ブロモクリセン(31g、100mmol)、ビスピナコレートジボロン(30g、120mmol)、酢酸カリウム(CH3COOK)(20g、200mmol)、およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](1.16g、1mmol)を順次溶媒に加えた。攪拌しながら温度を90℃まで昇温させ、定常状態になってから4時間反応させた。反応終了後、溶媒のDMSOを真空条件下で蒸留にて除去、その後にトルエンで再溶解させ、水で洗浄した。続いてトルエン層側を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濃縮し、ヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、化合物(C1)を収率78%で得た。
【0078】
続いて、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、上記で合成した(C1)(18.0g、50mmol)、3−ブロモフルオランテン(C1)(15g、50mmol)を順次加え、100mLのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/リットルのNa2CO3水溶液を150mL添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](580mg、500μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度で8時間反応させた。
【0079】
反応終了後に室温まで冷却し、有機層を分離させ、水で5回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。この溶液を濃縮させた後にヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、白色固体16.3g(収率72%)を得た。得られた固体を1H−NMR、13C−NMR、およびFD−MSにて測定した結果、目的物である6、6’―ビクリセン[表1:構造式(6)]であることを確認した。
【0080】
<有機材料の合成例2>
表3-aの構造式(6)−11で示した12、12’―ジフェニル−6,6’−ビクリセンを、下記の反応式(2)を参照し、次の手順で合成した。
【化6】

【0081】
メカニカルスターラーを装着させた1000mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、溶媒として500mlのDMSOを加え、続いて6,12−ジブロモクリセン(38g、100mmol)、ビスピナコレートジボロン(30g、120mmol)、酢酸カリウム(CH3COOK)(20g、200mmol)、およびテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](1.16g、1mmol)を順次溶媒に加えた。攪拌しながら温度を90℃まで昇温させ、定常状態になってから4時間反応させた。
【0082】
反応終了後、溶媒のDMSOを真空条件下で蒸留にて除去、その後にトルエンで再溶解させ、水で洗浄した。続いてトルエン層側を硫酸ナトリウムで乾燥させた後に濃縮し、ヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、化合物(C2)を収率45%で得た。
【0083】
続いて、メカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、上記で合成した(C2)(17.0g、40mmol)、6,12−ジブロモクリセン(13g、35mmol)を順次加え、80mLのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/リットルのNa2CO3水溶液を100mL添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](464mg、400μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度で8時間反応させた。
【0084】
反応終了後に室温まで冷却し、有機層を分離させ、水で5回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。この溶液を濃縮させた後にヘキサン:トルエンの混合溶媒にてシリカカラムを通し、12、12’―ジブロモ−6,6’−ビクリセン(C3)の白色固体15.3g(収率75%)を得た。
【0085】
続いて、下記反応式(3)のように反応を進めた。
【化7】

【0086】
先ずメカニカルスターラーを装着させた500mlの三口フラスコを窒素で十分に置換した後に、上記で合成した(C3)12、12’―ジブロモ−6,6’−ビクリセン(8.7g、20mmol)、フェニルボロン酸(5.1g、42mmol)を順次加え、50mLのトルエンを注ぎいれた。攪拌しながら、2.0mol/リットルのNa2CO3水溶液を50mL添加し、その混合溶液を窒素にて10分間バブリングを行い溶液中の溶存酸素を十分に排気させた。続いて、パラジウム触媒成分としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh34](232mg、200μmol)を加えてから昇温を開始し還流温度で10時間反応させた。
【0087】
反応終了後に室温まで冷却し、析出した固体をアセトンおよびエタノールで十分に洗浄し黄色固体9.1g(収率75%)を得た。得られた固体を1H−NMR、13C−NMR、およびFD−MSにて測定した結果、目的物である12、12’―ジフェニル−6,6’−ビクリセンの[表3-a:構造式(6)−11]であることを確認した。
【0088】
<有機材料の合成例3〜10>
合成例2における上記反応式(3)の反応に用いたフェニルボロン酸に替えて、下記の酸を用いた以外は同様の反応を行い、各構造式の化合物を合成した。
合成例3:1−ナフタレンボロン酸→表3-aの構造式(6)−14、
合成例4:2−ナフタレンボロン酸→表3-aの構造式(6)−15、
合成例5:1−アントラセンボロン酸→表3-bの構造式(6)−17、
合成例6:イソキノリン−4−ボロン酸→表3-bの構造式(6)−25、
合成例7:イソキノリン−5−ボロン酸→表3-bの構造式(6)−26、
合成例8:ピリジン−2−ボロン酸→表3-bの構造式(6)−21、
合成例9:シクロヘキサンボロン酸→表3-aの構造式(6)−4、
合成例10:3,5−ジ(1−ナフチル)フェニルボロン酸→表3-bの構造式(6)−31
【0089】
<実施例1>
合成例1によって得られた6、6’―ビクリセン[表1:構造式(6)]を用い、以下のように有機電界発光素子(図1参照)を作製した。
【0090】
先ず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてクロム(Cr)よりなる膜(膜厚約100nm)を形成し、さらに二酸化ケイ素(SiO2)を蒸着させることにより2mm×2mmの発光領域以外を絶縁膜でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0091】
次に、真空蒸着法により、有機層14の正孔注入層14aとして、下記構造式(7)に示されるm−MTDATAよりなる膜を30nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、m−MTDATAは、4、4'、4”−トリス(フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミンである。
【化8】

【0092】
次いで、正孔輸送層14bとして、下記構造式(8)に示されるα−NPDよりなる膜を30nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、α−NPDは、N、N’−ビス(1−ナフチル)−N、N’−ジフェニル[1、1’-ビフェニル]−4、4’―ジアミンである。
【化9】

【0093】
このようにして形成された正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b上に、ホスト材料として6、6’―ビクリセン[表1:構造式(6)]を蒸着し、膜厚50nmの膜を形成した。その際、6、6’―ビクリセン[表1:構造式(6)]には下記構造式(9)に示す化合物Guest1をドーパント材料として相対膜厚比で5%ドーピングして発光層14cとした。
【化10】

【0094】
次いで、電子輸送層14dとして、下記構造式(10)に示すAlq3(8−ヒドロキシキノリンアルミニウム)を20nmの膜厚で蒸着した。
【化11】

【0095】
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dを順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、Li2Oよりなる膜を真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度0.01nm/sec.)の膜厚で形成した。最後に、真空蒸着法により、第2層15a上に陰極15の第2層15bとして膜厚10nmのMgAg膜を形成した。
【0096】
こうして作製した有機電界発光素子を直流電圧駆動したところ、青色の発色を確認し、発光輝度は電圧6Vで750cd/m2であった。また、この発光輝度における発光効率は3.0cd/Aであった。
【0097】
下記表4の実施例1には、発光層14cに用いたホスト材料、ドーパント材料と共に、上記の評価結果も合わせて示した。尚、この表4には、以下の実施例2〜9、および比較例1〜3についてのホスト材料、ドーパント材料と共に評価結果も合わせて示した。
【表4】

【0098】
<実施例2、3>
図1の発光層14cのホスト材料として、上記表4の各構造式に示される化合物を使用した以外は、実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製し、同様の評価を行った。
【0099】
<実施例4、5、6>
図1の発光層14cのホスト材料として、上記表4の各構造式に示される化合物を使用し、またドーパント材料として下記構造式(11)に示す化合物Guest2を用いて実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製し、同様の評価を行った。
【化12】

【0100】
<実施例7、8、9>
図1の発光層14cのホスト材料として、上記表4の各構造式に示される化合物を使用し、またドーパント材料として下記構造式(12)に示す化合物Guest3を用いて実施例1と全く同様に有機電界発光素子を作製し、同様の評価を行った。
【化13】

【0101】
<比較例1、2、3>
図1の発光層14cのホスト材料として、下記構造式(13)に示す9、10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)を使用した以外は、実施例1、4,7と全く同様に有機電界発光素子を作成し同じく評価を行った。その結果を合わせて上記表4に示した。
【化14】

【0102】
上記表4に示したように、本発明の有機材料を発光層14cにおけるホスト材料に用いて構成された実施例1〜9の有機電界発光素子は、発光色に係わりなく、比較例1〜3の有機電界発光素子よりも、定電圧(6V)駆動での発光輝度および発光効率が上昇していた。これにより、本発明の有機材料を発光層14cにおけるホスト材料として用いることで、従来は発光効率の向上が困難であった、青や緑の短波長側の発光領域においても発光効率の向上が図られることが確認された。
【0103】
<実施例10〜13>
先ず、真空蒸着装置中に、100nmの厚さのITOからなる陽極が一表面に形成された30mm×30mmのガラス基板をセッティングした。
【0104】
蒸着マスクとして、複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを基板に近接して配置し、真空蒸着法により、有機層14の正孔注入層14aとして、上記構造式(7)のm−MTDATAよりなる膜を30nmの膜厚で形成した。次いで、正孔輸送層14bとして、上記構造式(8)のα−NPDよりなる膜を35nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。
【0105】
このようにして形成された正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b上に、ホスト材料として表3-bの構造式(6)−31を蒸着し、膜厚40nmの発光層14cを形成した。その際、構造式(6)−31には、上記構造式(9)のGuest1をドーパント材料としてドーピングした。ただし、実施例10〜13において、ドーパント材料のドープ濃度(相対膜厚比)を下記表5に示すように調整した。
【0106】
【表5】

【0107】
次いで、電子輸送層14dとして、下記構造式(14)に示すAlq3(8−ヒドロキシキノリンアルミニウム)を20nmの膜厚を20nmの膜厚で蒸着した。
【化15】

【0108】
以上のようにして、正孔注入層14a、正孔輸送層14b、発光層14c、および電子輸送層14dを順次積層してなる有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとして、LiFよりなる膜を真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度0.01nm/sec.)の膜厚で形成した。最後に、真空蒸着法により、第2層15a上に陰極15の第2層15bとして膜厚10nmのMgAg膜を形成した。
【0109】
こうして作製した実施例10〜13の有機電界発光素子を直流電圧駆動した場合の発光輝度(電圧6V)および発光効率の測定結果と発光色を表5に示した。
【0110】
以上の表5に示した結果から、本発明の有機材料をホスト材料として、特定のドーパントをドープする場合、ドープ濃度20体積%以下の範囲では、発光効率が高く維持されることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明を適用した実施形態における有機電界発光素子の構成を示す断面図である。
【図2】有機電界発光素子の一構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0112】
11…有機電界発光素子、13…陽極、14…有機層、15…陰極、14b…正孔輸送
層、14c…発光層、14d…電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される有機電界発光素子用の有機材料。
【化1】

ただし、一般式(1)中において、A1〜A24は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を示す。
【請求項2】
請求項1記載の有機材料において、
前記一般式(1)中のA6とA18とが結合している
ことを特徴とする有機材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の有機材料において、
前記一般式(1)中の互いに結合する部位を除くA1〜A24うちの一つ以上が、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、または複素環基から選ばれる置換基で置換されている
ことを特徴とする有機材料。
【請求項4】
陽極と陰極との間に有機層を狭持してなる有機電界発光素子において、
前記有機層が、下記一般式(1)で示される有機材料を用いて構成されている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【化2】

ただし、一般式(1)中において、A1〜A24は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を示す。
【請求項5】
請求項4記載の有機電界発光素子において、
前記有機層が、前記一般式(1)に示される有機材料を用いて構成された発光層を備えている
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項5記載の有機電界発光素子において、
前記発光層が、少なくとも一種類の蛍光性ドーパントを含有している
ことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項7】
陽極と陰極の間に少なくとも有機層を挟持してなる有機電界発光素子を、基板上に複数配列形成してなる表示装置において、
前記有機層が、下記一般式(1)で示される有機材料を用いて構成されている
ことを特徴とする表示装置。
【化3】

ただし、一般式(1)中において、A1〜A24は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数30以下の置換あるいは無置換のシリル基を示す。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52323(P2006−52323A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235123(P2004−235123)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】