説明

有機減衰材料

【課題】ブリードアウトの心配もなく、良好な室温付近のガラス転移点(Tg)を有する有機減衰材料を提供する。
【解決手段】アクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とメタクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とのブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーからなるマトリックス相中に、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)から選択される1種もしくは2種以上の化合物からなる減衰付与剤を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制振材料、免震材料、防振材料、吸音材料、衝撃吸収材料、または電磁波吸収材料などの広範な用途に使用可能な有機減衰材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機減衰材料としては、ポリマーマトリックス相中に、特定の減衰付与剤を配合し、これら減衰付与剤からなる分散相を有することを特徴とする例が知られている(特許文献1、特許文献2)。
また、パソコンや携帯電話等の情報関連機器、スピーカー等の音響関連機器等の分野において生じる共振を防止する目的で、共振を起こすおそれのある部位に用いられる軟性の制振材料として、スチレン系エラストマーからなる基材樹脂と、パラフィン系プロセスオイルなどの軟化剤と、上記基材樹脂と相溶性を有する水添石油樹脂などの粘着付与樹脂を含有する粘着性制振材料が知られている(特許文献3)。
【0003】
しかしながら、減衰付与剤は、芳香族アミン類またはフェノール類を使用する場合が多く、それ自体極性が高い化合物であり、スチレン系エラストマーなどの非極性の樹脂またはエラストマーに配合する場合、減衰付与剤を多量に配合することが困難であり、配合してもブリードアウトし易くなり、また目的とする減衰特性が得られないという問題がある。
また、非極性の樹脂またはエラストマーは、有機減衰材料の機械的、化学的物性等を改良する目的で添加する難燃剤、増量剤、補強剤などを配合することが困難で、必要とされる物性を有する有機減衰材料を得ることが困難であるという問題がある。
【0004】
一方、必要とされる減衰特性を付与できるように極性の高い樹脂をマトリックス相に使用すると、極性の高い樹脂は本来ガラス転移点(Tg)が室温以上と高いため、室温付近での減衰性に劣るという問題がある。このため、極性の高い樹脂を使用する場合、可塑剤や石油系樹脂を配合することでガラス転移点(Tg)を下げて使用されている。しかし、可塑剤を増量するとブリードアウトがし易くなる原因となったり、石油系樹脂はそれ自体が非極性であるため、極性の高い樹脂との相溶性に劣ったりして、極性の高い樹脂を使用しても必要とされる物性を有する有機減衰材料を得ることが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/075604
【特許文献2】特開2008−174701
【特許文献3】特開2006−111756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、特定の樹脂に特定の減衰付与剤を配合することにより、ブリードアウトの心配もなく、良好な室温付近のガラス転移点(Tg)を有する有機減衰材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、マトリックス相中に、減衰付与剤を配合してなる有機減衰材料であって、上記マトリックス相がアクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とメタクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とのブロック共重合体を含む樹脂であり、上記減衰付与剤がp−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)から選択される1種もしくは2種以上の化合物からなる減衰付与剤であることを特徴とする。
【0008】
また、上記ブロック共重合体は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個が互いに結合したトリブロック構造、またはアクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個が互いに結合したトリブロック構造を、分子中に少なくとも有するブロック共重合体であることを特徴とする。
さらに、上記ブロック共重合体は、上記トリブロック構造を分子中に少なくとも有するブロック共重合体と、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個が結合しているジブロック共重合体との混合物であることを特徴とする。
また、上記マトリックス相は、石油樹脂、特に極性置換基を有する石油樹脂が配合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
マトリックス相として、上記トリブロック構造を分子中に少なくとも有するブロック共重合体、または、このトリブロック共重合体に上記ジブロック共重合体を配合することで、0℃付近のガラス転移点(Tg)を有するブロック共重合体を得た。また、これに極性置換基を有する石油樹脂を配合することで、室温付近にガラス転移点(Tg)を移動することができた。そのため、このようなマトリックス相に減衰付与剤を配合することにより、減衰材料が使用される温度領域内で優れた減衰性が得られ、減衰付与剤のブリードアウトも見られなく、軟らかい有機減衰材料が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機減衰材料は、優れた防振性および制振性を示す。ここで、防振性とは振動源と被振動源との間に、振動伝達率が1未満の有機減衰材料を介して、振動源から被振動源への振動伝達を小さくすることをいう。また、制振性とは振動源からの振動エネルギーを有機減衰材料を介して熱エネルギーに変換し、振動を減衰させることをいう。
振動伝達率を低下させること、または振動エネルギーを熱エネルギーに変換させるためには、有機減衰材料の特性として、損失係数(tanδ)が大きいこと、軟らかい有機減衰材料であることが要求される。すなわち、理想的な有機減衰材料は使用領域において、損失係数(tanδ)が大きく、比較的軟らかい材料であることが望ましい。
【0011】
本発明の有機減衰材料は、マトリックス相として、トリブロック構造を分子中に少なくとも有するブロック共重合体、または、このトリブロック共重合体にジブロック共重合体を配合して、さらに石油樹脂、特に極性置換基を有する石油樹脂を配合し、特定の減衰付与剤を配合することで、減衰材料の使用領域において、損失係数(tanδ)が大きく、硬度の小さな軟らかい有機減衰材料が得られることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0012】
本発明の有機減衰材料のマトリックス相を構成するポリマーは、アクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とメタクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とのブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーである。
ブロック共重合体としては、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個とが互いに結合したトリブロック構造、またはアクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とが互いに結合したトリブロック構造を、分子中に少なくとも有するブロック共重合体を好ましく用いることができる。
トリブロック構造としては、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックをA、メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックをBとすれば、B−A−B、A−B−B、A−B−A、B−A−Aで表される。この場合連続して隣り合う−B−B、−A−AにおけるA、Bは、それぞれ相互に異なる構造の重合体ブロックである。
【0013】
トリブロック構造のブロック共重合体に配合できるジブロック共重合体は、上記アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個と上記メタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個が結合しているジブロック共重合体を好ましく用いることができる。
【0014】
アクリル酸エステル単位は、アルキル基に置換基を有していてもよいアクリル酸アルキルエステルおよび/または環状アルキル基に置換基を有していてもよいアクリル酸環状アルキルエステルに由来する構造単位であることが好ましい。
アクリル酸エステル単位の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリメトキシシリルプロピルなどを挙げることができる。
これらの中で、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ステアリルなどのような炭素数が4以上のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリメトキシシリルプロピルなどのアルキル基に置換基を有するアクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上に由来する構造単位を主体とする重合体からなるブロックであることが、得られるアクリル系ブロック共重合体組成物の柔軟性や低温特性が良好になる点から好ましい。
【0015】
メタクリル酸エステル単位は、アルキル基に置換基を有していてもよいメタクリル酸アルキルエステルおよび/または環状アルキル基に置換基を有していてもよいメタクリル酸環状アルキルエステルに由来する構造単位であることが好ましい。
メタクリル酸エステルの例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸トリフルオロメチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−メトキシペンチル、メタクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)ペンチル、メタクリル酸パ−フルオロペンチル、メタクリル酸2−トリメトキシシリルペンチルなどを挙げることができる。
これらの中で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチルなどのアルキル基の炭素数が1〜4であるメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロヘキシルなどの環構造を有するアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を主体とする重合体からなるブロックであることが耐熱性の点から好ましい。
【0016】
上記ブロック共重合体に占めるメタクリル酸エステル単位は、ブロック共重合体全体に対して、5〜50重量%配合されていることが好ましい。50重量%をこえると柔軟性に劣る。
また、上記ブロック共重合体のGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量は、40,000〜400,000である。また、ブロック共重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.5未満、好ましくは1.4以下、より好ましくは1.3以下であり、これらの分子量分布は、アニオン重合法または原子移動ラジカル重合法(ATRP)、特にアニオン重合法により製造することができる。
【0017】
上記ブロック共重合体の市販品としては、株式会社クラレ社製LAポリマーが挙げられる。トリブロック構造を有するLAポリマーとしては、LA4285(ゴム硬度 A95)、LA2250(ゴム硬度 A65)、LA2140e(ゴム硬度 A32)等があり、ジブロック構造を有するLAポリマーとしては、LA1114(室温で液状のポリマー)等がある。
【0018】
本発明の有機減衰材料は、マトリックス相として上記トリブロック共重合体単独でも使用することができる。また、上記トリブロック共重合体と上記ジブロック共重合体とを混合して用いることができる。好ましくは、上記トリブロック共重合体と上記ジブロック共重合体とを混合して用いることである。混合して使用する場合の両者の混合割合としては、トリブロック共重合体100重量部に対して、ジブロック共重合体を80重量部以下であることが好ましい。より好ましくは、10〜30重量部である。この範囲とすることにより、有機減衰材料の軟らかさを維持することができる。
【0019】
本発明の有機減衰材料は、上記マトリックス相に石油樹脂を配合することができる。
石油樹脂としては、脂肪族系(C5系)石油樹脂、芳香族系(C9系)石油樹脂、共重合系(C5/C9系)石油樹脂、脂環族系(水素添加系、ジシクロペンタジエン(DCPD)系)石油樹脂、およびスチレン系(スチレン系、置換スチレン系)石油樹脂等を挙げることかできる。
本発明においては、特に極性置換基を有する石油樹脂を配合することが好ましい。極性置換基を有する石油樹脂は、上記石油樹脂等の分子構造の一部が極性基で置換された極性置換基を有する石油樹脂である。
好ましい極性置換基を有する石油樹脂としては、脂環族飽和炭化水素樹脂の脂環の一部に水酸基などの極性基を導入した樹脂が挙げられる。これら樹脂の市販品としては、荒川化学工業社製水素化石油樹脂KR1840、KR1842等を用いることができる。
【0020】
極性置換基を有する石油樹脂の配合割合は、上記トリブロック共重合体100重量部に対して、30重量部以下である。30重量部をこえると、粘着によるロール加工性が悪くなる。
【0021】
本発明の有機減衰材料に配合される減衰付与剤は、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)から選択される1種もしくは2種以上の化合物である。
上記減衰付与剤は、上記マトリックス相を構成するポリマー中に混合されて、マトリックス相中に分散相を形成し、当該有機減衰材料に加わった振動、音、衝撃、あるいは電磁波といったエネルギーを効果的に減衰する働きを有する。
【0022】
この分散相は、減衰付与剤がミクロ相分離した分散相として、あるいは完全相溶した分散相としてマトリックス相中に存在している。またこの分散相は、上記マトリックス相中に平均粒子径1μm以下、より好ましくは平均粒子径0.1μm以下の大きさで存在していることが、上記エネルギー減衰効果をより効果的に発揮させる上で望ましい。
減衰付与剤がミクロ相分離した分散相として、あるいは完全相溶した分散相としてマトリックス相中に存在する場合、この分散系の損失係数(tanδ)のピークは、測定される温度領域において、減衰付与剤とマトリックス相とが別々のピークとして現れるのではなく、1つのピークとして現れる。
【0023】
この分散相を構成する減衰付与剤は、マトリックス相を構成する上記トリブロック共重合体100重量部に対して、1〜60重量部、好ましくは15〜50重量部の割合で含まれていることが望ましい。減衰付与剤の含有量が1重量部を下回る場合、十分なエネルギー減衰性を得ることができず、また60重量部を上回る場合には、範囲をこえる分だけの減衰性が得られず不経済となるからである。
【0024】
本発明の有機減衰材料中には、上述の成分の他に、例えば、カーボンブラック、マイカ鱗片、ガラス片、グラスファイバー、カーボンファイバー、炭酸カルシウム、バライト、沈降硫酸バリウム、ステアリン酸、エステルオイル等の物質や、腐食防止剤、染料、酸化防止剤、制電剤、安定剤、湿潤剤などを必要に応じて適宜加えることができる。
【0025】
本発明の有機減衰材料は、シート状やフィルム状など固状の形態とする場合には、上記マトリックス相を構成するポリマー成分に、減衰付与剤を所定割合で配合し、これをバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、さらにカレンダー法や押し出し法などにより、用途、目的に応じた形状に成形する。
シート状やフィルム状など固状の形態とする場合、有機減衰材料は発泡構造を採ることもできる。発泡レベルとしては特に限定されないが、吸音性や制振性を求める用途には連続気泡構造とするのが望ましく、防振性や衝撃吸収性を求める用途には独立気泡構造とするのが望ましい。また、多色成型が可能となる。
【0026】
本発明の有機減衰材料をシート状やフィルム状など固状の形態とする場合、その表面の硬さは、ゴム硬度で20〜30であることが好ましい。
【0027】
本発明の有機減衰材料における減衰特性は、損失係数(tanδ)の大小、振動伝達率の大小によって評価することができる。有機減衰材料が使用される温度および周波数領域において損失係数(tanδ)が大きいこと、および同領域において振動伝達率が1未満であることの場合、減衰特性に優れているといえる。
【0028】
本発明の有機減衰材料をシート状やフィルム状など固状の形態とした場合、その両面または一方面に拘束層を設けることもできる。拘束層を設けることにより、当該有機減衰材料に振動や音が加わったとき、その振動や音によって当該有機減衰材料と拘束層との間にはズレが生じ、そのズレによって振動や音のエネルギーの損失が生じ、振動や音が減衰することになる。このために、当該有機減衰材料よりも剛性の高い材質によって拘束層を構成し、当該拘束層によって有機減衰材料を拘束するのが望ましい。拘束層の具体例としては、金属、ポリマー、ゴム、ガラス、および不織布から選ばれる1種もしくは2種以上を素材とするシート、フィルム、網、板あるいはこれらの複合体を挙げることができる。
【0029】
本発明の有機減衰材料は、上述のとおり、当該有機減衰材料に加わった振動、音、衝撃、あるいは電磁波といったエネルギーを効果的に減衰する働きを有する。しかし当該材料に加わる振動、音、衝撃、あるいは電磁波の種類は様々である。本発明の有機減衰材料では、様々な種類の振動、音、衝撃、あるいは電磁波に対し、当該有機減衰材料の厚さで調整することでこれに対応することができる。例えば高い周波数の音を減衰する場合には、当該有機減衰材料の厚さを薄くし、反対に低い周波数領域の音に対しては、当該有機減衰材料の厚さを厚くしてこれに対応するのである。他の振動、衝撃、電磁波も同じである。
【0030】
本発明の有機減衰材料は、実に広範な用途に適用することができる。具体的な用途としては、例えば制振シート、制振フィルム、制振紙、制振塗料、制振性粉体塗料、制振ワニス、制振性接着剤、拘束型制振材、制振鋼板などの制振材料、吸音シート、吸音フィルム、吸音フォーム、吸音繊維、吸音不織布などの吸音材料、テニスラケットやバトミントンなどのグリップエンド、靴ソール、自転車やオートバイなどのグリップ、衝撃吸収テープ、あるいは衝撃吸収ゲルやゴムなどに使用される衝撃吸収材料、電磁波吸収シールドなどに使用される電磁波吸収材料、防振ゴムや防振ゲルなどに使用される防振材料、蓄熱塗料などを挙げることができる。
【0031】
また本発明の有機減衰材料は、複合化することなく、単独で優れた制振性、吸音性、防振性、衝撃吸収性、あるいは電磁波吸収性といった性質を併せ持つため、複数の性能が同時に要求される用途にも使用することができる。例えば自動車や住居の窓に使用される合わせガラスの場合、制振性や吸音性、電磁波吸収性といった複数の性能が同時に要求される。本発明の有機減衰材料は、単独で優れた制振性、吸音性、および電磁波吸収性を有し、かつ透明性を確保できるため、合わせガラスの中間層として最適である。
【0032】
また本発明の有機減衰材料の別の用途としては、高速道路など道路脇に設置される防音パネルが挙げられる。高速道路など道路脇に設置される防音パネルは、道路周辺に道路からの騒音をシャットアウトすることを主な目的として設置される。近年、高速道路には、料金所ゲートに設置したアンテナと、車両に装着した車載器との間で無線通信を用いて自動的に料金の支払いを行い、料金所をノンストップで通行することができるETCシステムが採用されている。ところが、このETCのアンテナから送信される電波は道路周辺に広がり、例えば道路周辺の住宅の電気機器に誤作動を引き起こさせたり、高速道路に繋がる道路を通行中の車両の車載器にETCシステムからの電波が送信され、誤って料金が加算されるなどの不具合が報告されている。本発明の有機減衰材料を用いた防音パネルを道路脇に設置したならば、防音パネル本来の防音(吸音、制振、遮音)といった効果に加え、電磁波吸収もなされるため、上述の不具合も見事に解消されることになる。
【実施例】
【0033】
各実施例および比較例に用いた配合材料を以下に示す。なお、減衰付与剤の( )内は表1に示す略号を表す。
(1)熱可塑性エラストマー
トリブロック共重合体:株式会社クラレ社製LA2140e
ジブロック共重合体 :株式会社クラレ社製LA1114
(2)減衰付与剤
2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(NS−5)
p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン(TD)
4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(300)
オクチル化ジフェニルアミン(AD)
(3)石油樹脂
極性置換基含有樹脂1:荒川化学工業社製水素化石油樹脂 KR1840
極性置換基含有樹脂2:荒川化学工業社製水素化石油樹脂 KR1842
非極性石油樹脂 :出光興産社製水素化石油樹脂 アイマーブP−125
(4)配合剤
エステルオイル :株式会社ADEKA製 ポリエステル系可塑剤 PN6120
カーボンブラック:東海カーボン社製シースト#3
ステアリン酸 :試薬
【0034】
実施例1〜13および比較例1
表1に示す熱可塑性エラストマーおよび減衰付与剤、石油樹脂、配合剤を、表1に示す割合で混合してロールを用いて混練し、厚さ2mmのシート状の有機減衰材料を得た。なお、表1に示す割合は重量基準である。
得られたシート状の有機減衰材料の損失係数(tanδ)を周波数 10Hzの条件で動的粘弾性装置により測定した。
また、シート状の有機減衰材料の表面硬度をJIS硬度計で測定した。
さらに、シートをダンベル形状に打ち抜き、JISK6251に基き、引張試験を行ない、引張強さ、破断伸び、モジュラスを測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の有機減衰材料は、減衰材料が使用される温度領域内で優れた減衰性が得られ、減衰付与剤のブリードアウトも見られなく、軟らかい有機減衰材料が得られるので、制振材料、吸音材料、衝撃吸収材料、電磁波吸収材料、防振材料の分野で使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス相中に、減衰付与剤を配合してなる有機減衰材料であって、
前記マトリックス相がアクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とメタクリル酸エステル単位を主体とするブロック鎖とのブロック共重合体を含む熱可塑性エラストマーであり、
前記減衰付与剤がp−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)から選択される1種もしくは2種以上の化合物からなる減衰付与剤であることを特徴とする有機減衰材料。
【請求項2】
前記ブロック共重合体は、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個が互いに結合したトリブロック構造、またはアクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの2個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個が互いに結合したトリブロック構造を、分子中に少なくとも有するブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の有機減衰材料。
【請求項3】
前記ブロック共重合体は、前記トリブロック構造を分子中に少なくとも有するブロック共重合体と、アクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個とメタクリル酸エステル単位を主体とする重合体ブロックの1個が結合しているジブロック共重合体との混合物であることを特徴とする請求項2記載の有機減衰材料。
【請求項4】
前記マトリックス相は、石油樹脂が配合されていることを特徴とする請求項1記載の有機減衰材料。
【請求項5】
前記石油樹脂は、極性置換基を有する石油樹脂であることを特徴とする請求項4記載の有機減衰材料。

【公開番号】特開2011−6584(P2011−6584A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151750(P2009−151750)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(506229970)AS R&D合同会社 (16)
【出願人】(591005006)クレハエラストマー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】