説明

有機無機ハイブリッドシリカ及びその製造方法

【課題】 本発明は、細孔容積の大きな有機無機ハイブリットシリカと、その効率的かつ経済的な製造方法を提供するものであり、例えばインクジェット記録シートのインク受容層などに好適な材料を提供するものである。
【解決手段】 シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカを、アルカリ金属珪酸塩と酸の反応から珪酸を調製する反応1と、カチオン性樹脂と珪酸が重合して有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応2を、水性環境下で同時に行って製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔容積の大きな有機無機ハイブリッドシリカ、及びその効率的な製造方法に関する。さらに詳しくは、該有機無機ハイブリッドシリカは、カチオン性樹脂とシリカからなるハイブリッドシリカであって、例えばインクジェット記録シートのインク受容層の材料などとして好適なものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録シートに使用されるインク受容層の工業的な製造技術としては、数多くの提案がなされているが、空隙型インク吸収層を設ける方法が典型的技術として知られている。空隙型インク吸収層とは記録層中に空隙を有する受容層のことをいい、毛細管によるインク吸収のためインク吸収速度が速く、空隙容量がインク量に対して十分であれば短時間で乾燥する、などのメリットを有する。
【0003】
空隙型インク吸収層の材料としては、低屈折率でしかも一次粒子径が小さな粒子が透明性の高い層を形成するので好ましく、シリカ、アルミナ、ベーマイトなどが使用されているが、空隙を効率良く形成し、比較的高い光沢性と高い画像濃度が得られるなどの長所からシリカがより好ましく使用される。
【0004】
インクジェット用インクの溶媒は水系であり、色素は水に溶けやすいアニオン性の酸性染料または直接染料を用いたものが多い。しかし、シリカは、アニオン性であるため、染料は定着されず、印字ドットが重なった場合に滲みが発生したり、印字後に経時で画像の滲みが発生する。特に高温高湿環境下では短時間で画像が滲む。また画像の耐水性はまったくない等の欠点を持っている。
【0005】
そこで、高いインク定着性をインク吸収層に持たせるために、シリカをカチオン化して用いることが一般に行われている。
【0006】
従来のカチオン化シリカとしては、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3のように、乾式法シリカまたはコロイダルシリカにカチオン性ポリマーを吸着させたカチオン化シリカが知られているが、インク吸収速度が劣る傾向がある。理由は明確ではないが、カチオン性樹脂がシリカ表面ばかりでなく、シリカ粒子間にも存在するためにインクの吸収を阻害していると考えられる。
【0007】
また、特許文献4及び特許文献5のように、シリカ表面を金属酸化物、金属水酸化物でカチオン変性したカチオン変性コロイダルシリカが知られている。このカチオン変性コロイダルシリカは、一般にインク吸収速度は良好であるが、染料の定着が弱い傾向にあり、また染料によっては(例えば:アシッドレッド52(食用赤色106号)等の赤色)発色が悪い問題があった。
【0008】
このように、従来技術によるカチオン化シリカではインク吸収速度又はインク定着性のどちらかに問題があり、改良が求められていた。
【0009】
上記カチオン化シリカが抱えている問題点を解決するために、カチオン性樹脂とシリカとの有機無機ハイブリッドシリカをインク吸収層に用いる方法が考えられる。有機無機ハイブリッドシリカとはカチオン性樹脂とシリカとが分子レベル、又は10nm未満のナノレベルで結合して、一体化されているものを指す。特許文献1、特許文献2、及び特許文献3のカチオン化シリカは、シリカ表面にカチオン性樹脂を吸着させたり、カチオン性樹脂で被覆したものであってシリカとポリマーの存在領域が明確に分けられるという点で、本発明における有機無機ハイブリッドシリカとは異なるものである。
【0010】
そのような有機無機ハイブリッドシリカとして、例えば非特許文献1、及び非特許文献2には、シラフィンと命名されたカチオン性ポリペプチドを珪酸の溶液に加えると、自己集合したシラフィン分子が足場となって珪酸の縮合が進行し、短時間でナノメートルサイズの有機無機ハイブリッドシリカが生成することが報告されている。上記文献は、珪藻が常温常圧の穏やかな環境下で、水中の珪酸をもとにシリカ殻を形成するメカニズムを調べるために行われた研究であるが、現在では、シラフィンでなくても工業用のカチオン性樹脂が存在する水性環境下において珪酸が速やかに重合して、有機無機ハイブリッドシリカが生成することが明らかになっている。又、カチオン性樹脂は珪酸の重合反応の触媒として作用していることも明らかになっている〔例えば、非特許文献3、及び非特許文献4〕。
【0011】
本発明者らは、上記有機無機ハイブリッドシリカをインクジェット記録シートのインク受容層に用いると、従来技術によるカチオン化シリカの問題点であったインク吸収速度及びインク定着性を改善できることを見出した。
【0012】
しかし、この有機無機ハイブリッドシリカは、極めて低濃度の分散液(約0.1%)での合成例しか報告されておらず工業的な生産には向かないこと、及び平均細孔径および細孔容積が小さく、インク吸収材料として求められる重要な性質の中でも、特にインク吸収容量が劣る問題があった。
【0013】
非特許文献1〜4においては、有機無機ハイブリッドシリカを中性近傍のpHで合成している。中性近傍での珪酸はその重合性の高さから不安定であり、短時間でゲル化する。非特許文献1〜3においては、テトラメトキシシランを酸で加水分解することで珪酸を得ているが、この場合、SiO換算10質量%の溶液であると、加水分解で珪酸モノマーが生成すると同時に重合が始まり40分でゲル化する。また、テトラメトキシシランは、水ガラスを始めとするアルカリ金属珪酸塩原料と比較して原料コストが高く、工業的製造に不向きである。非特許文献4においては、オルト珪酸ナトリウムを酸で中和し珪酸を得ているが、オルト珪酸ナトリウムを酸でpHを7にした場合、SiO換算1質量%溶液でも10分でゲル化する。これらの理由により非特許文献1〜4の方法では有機無機ハイブリッドシリカ分散液の高濃度化は困難であった。
【0014】
また非特許文献1〜4においては、合成される有機無機ハイブリッドシリカ分散液の濃度が低いので、有機無機ハイブリッドシリカをインク受容層に使用するためには、限外ろ過、遠心分離、又は真空濃縮などの濃縮工程を行ったり、フィルタープレスなどの脱水工程を多段に亘り行う必要があり、設備や時間を要するので高コストになる問題があった。そのため、工業的に利用するためには有機無機ハイブリッドシリカ分散液を高濃度で、しかも効率的に製造する方法が望まれていた。
【0015】
さらに前記非特許文献1〜3により合成される有機無機ハイブリッドシリカはナノオーダーの微粒子を形成するため、後述する平均細孔径および細孔容積が小さくなり、例えばインクジェット記録シートの受容層などの吸収材料として求められる性能のうち、特にインク吸収容量に改善の余地があった。前記非特許文献4により合成される有機無機ハイブリッドシリカは、2次粒子を形成するものの平均細孔径および細孔容積が小さく、インク吸収容量が劣るものであった。
【0016】
【特許文献1】特開平10−272833号公報
【特許文献2】特開2001−80204号公報
【特許文献3】特開2002−302552号公報
【特許文献4】特許第2677646号公報
【特許文献5】特開昭62−286787号公報
【非特許文献1】Science,286,1129-1132(1999)
【非特許文献2】Science,298,584-586(2002)
【非特許文献3】Mater. Sci. Eng.,23,495-499(2003)
【非特許文献4】Bull. Chem. Soc. Jpn.,71,2017-2022(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、細孔容積の大きな有機無機ハイブリットシリカと、その効率的かつ経済的な製造方法を提供するものであり、例えばインクジェット記録シートのインク受容層などに好適な材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、細孔容積の大きな有機無機ハイブリッドシリカ、及び該有機無機ハイブリッドシリカを効率的かつ経済的に製造する方法を見出した。
【0019】
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0020】
(1)シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカであって、水銀ポロシメーターによる細孔径3nm〜10μmの範囲における細孔容積が0.6〜3.0ml/gであることを特徴とする有機無機ハイブリッドシリカ。
【0021】
(2)シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカの製造方法において、アルカリ金属珪酸塩および酸の反応から珪酸を調製する反応1と、カチオン性樹脂および珪酸が重合して有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応2とを、水性環境下で同時に行うことを特徴とする有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(3)アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液を、水性環境に同時に添加して反応させる(2)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(4)アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液を、水性環境に同時に添加して反応させる(2)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(5)前記反応をpH5〜9の範囲の水性環境下で行う(2)〜(4)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(6)前記反応をpH緩衝剤を含む水性環境下で行う(2)〜(5)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(7)pH緩衝剤がアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属ホウ酸塩から選ばれる少なくとも一種類である(6)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
(8)予め用意された水を主成分とする母液に、アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液、又はアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液のいずれか一方を添加する(2)〜(7)記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【0022】
(9)(2)〜(8)記載の製造方法で製造された有機無機ハイブリッドシリカ。
(10)(1)及び(9)記載の有機無機ハイブリッドシリカを含有する塗工液を、支持体に塗工して形成したインク受容層を有するインクジェット記録シート。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、細孔容積の大きな有機無機ハイブリットシリカと、その効率的かつ経済的な製造方法が提供される。本発明の有機無機ハイブリッドシリカは、アニオン性物質の吸着性があり、また細孔容積が大きいので、例えばインクジェット記録シートのインク受容層の材料などとして好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明における有機無機ハイブリッドシリカについて説明する。本発明における有機無機ハイブリッドシリカは非晶質であり、1次粒子の凝集により2次粒子径を形成している。このため、1次粒子間に無数の細孔を有する。また、2次粒子間にも多くの空隙を有する。本発明者らの検討では、該有機無機ハイブリッドシリカは、水銀ポロシメーターによる細孔径が3nm〜10μmの範囲における細孔容積が0.6〜3.0ml/gであると、例えばインクジェット記録シートの塗工層に用いたときに、空隙の多い塗工層を形成することができ、十分なインク吸収量が得られる。またインク吸収速度にも優れる。
【0025】
また、水分散体の状態での有機無機ハイブリッドシリカのゼータ電位は+10mV〜+60mVであることが好ましい。+10mV以上であると、インクなどのアニオン性物質を定着するのに十分なカチオン性を示す。このゼータ電位はカチオン性樹脂の種類及び濃度、または、シリカとカチオン性樹脂との複合化比率、複合化のスケール(分子レベル、ナノレベル)で調整可能である。ただし、+60mVより大きなゼータ電位はカチオン性樹脂の比率を非常に高めないと実現できないものであり、経済的ではない。
【0026】
次に上記有機無機ハイブリッドシリカの製造方法について説明する。本発明は、シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカの製造方法において、アルカリ金属珪酸塩および酸の反応から珪酸を調製する反応1と、カチオン性樹脂および珪酸が重合して有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応2とを、水性環境下で同時に行うことを特徴としている。
【0027】
本発明の反応1は、アルカリ金属珪酸塩と酸性物質とを反応させることで珪酸を調製する工程である。酸性物質としては後述する無機及び有機酸を用いることができる。また、アルカリ金属珪酸塩のpHを下げて塩を脱離させる工程であるため、酸性物質を適量反応させ、アルカリ金属珪酸塩のpHを5〜9にするのが好ましい。
【0028】
本発明の反応2は、珪酸がカチオン性樹脂と反応して有機無機ハイブリッドシリカを形成する工程である。具体的には、珪酸がカチオン性樹脂に触媒されて重合を開始し、カチオン性樹脂を足場として取り囲む形で重合体となり、有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応である。この反応の際、後述するように、pHが5〜9の環境であるとカチオン性樹脂の触媒作用及び珪酸の重合が促進されるので好ましい。
【0029】
従来の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法は、アルコキシシランの加水分解反応、又はアルカリ金属珪酸塩と酸との反応から珪酸の調製を完結させた後、珪酸とカチオン性樹脂を反応させて有機無機ハイブリッドシリカを形成するものであり、前記反応1と反応2を段階的に行うものであった。反応1は前述したように中性近傍のpHで珪酸を調製しているため、調製された珪酸は低濃度では比較的安定であるが、高濃度にすると短時間でゲル化する。このため、該製造方法は高濃度での合成が達成されていなかった。
一方、本発明の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法は、同一の水性環境において、反応1の珪酸の調製と、反応2の有機無機ハイブリッドシリカの形成を同時に開始し、並行して行うことで高濃度での合成を可能にしたものである。
水性環境下において、反応1により調製される珪酸は高濃度になるとゲル化しやすい性質を持つが、本発明は反応1と反応2を同時に行うことで調製された珪酸がゲル化する前にカチオン性樹脂と有機無機ハイブリッドシリカを形成するため、ゲル化を抑制しつつ、有機無機ハイブリッドシリカを製造することができる。その結果、濃縮や脱水などの工程を経ることなく、反応終了後の有機無機ハイブリッドシリカ濃度が1〜10質量%である、高濃度の有機無機ハイブリッドシリカ分散液が得られる。
【0030】
水性環境下で反応1と反応2を同時に行う方法は特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属珪酸塩、酸、カチオン性樹脂から選ばれる1種、又は2種を含む水溶液に、残る物質からなる水溶液を添加してもよい。
【0031】
本発明の有機無機ハイブリッドシリカ製造方法の具体例として(方法1)、(方法2)を挙げるが、本発明は水性環境下で反応1と反応2を同時に行っていれば良く、これらに限定されるものではない。
【0032】
(方法1)アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液を、水性環境に同時に添加し始め、同時に添加を終了して反応させる。なお、反応を均一に行うために、該水性環境は攪拌されていることが好ましい。
上記製造方法では水性環境中でアルカリ金属珪酸塩、酸及びカチオン性樹脂を同時に反応させることで反応混合物中における珪酸の濃度を低濃度に維持したまま、カチオン性樹脂との反応を行うことができるので、好ましくないゲル化を抑制することができ、その結果、非特許文献4記載の合成方法とは異なり、反応終了後の有機無機ハイブリッドシリカ分散液の濃度を高濃度にすることができる。
【0033】
(方法2)アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液を、水性環境に同時に添加し始め、同時に添加を終了して反応させる。なお、反応を均一に行うために、該水性環境は攪拌されていることが好ましい。
この製造方法によれば、酸及びカチオン性樹脂を予め混合することができるので、設備が簡単となり、また生産効率を高めることができる。ここで、アルカリ金属珪酸塩と酸、又はアルカリ金属珪酸塩とカチオン性樹脂を混合すると、混合した時点で珪酸が調製される恐れがある。よって、予め混合するのは、安定して反応1と反応2を同時に行うことができる酸とカチオン性樹脂の組み合わせが好ましい

【0034】
本発明で用いるアルカリ金属珪酸塩としては、SiO/MO(但し、Mはアルカリ金属原子を表す。)モル比として2〜4程度のナトリウム水ガラスを用いることが生産性も良く好ましいが、これに限定されるものではなく、オルト珪酸ナトリウムおよびメタ珪酸ナトリウムなど市販工業製品として入手できるものを単独あるいは併用して使用することもできる。
【0035】
アルカリ金属珪酸塩水溶液の濃度は、SiO換算で1〜20質量%であることが好ましく、2〜17質量%であれば特に好ましい。1質量%以上であると、細孔径及び細孔容積が大きい、多孔質の有機無機ハイブリッドシリカを生産性も良く得ることができる。20質量%以下であると、反応1で得られる珪酸がゲル化を起こす心配がなく、安定した状態で反応を行うことができる。
【0036】
酸としては、無機酸及び有機酸が使用でき特に限定されない。例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸、亜リン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ホウ酸、炭酸スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)、カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、サリチル酸など)などが挙げられる。好ましくは塩酸、硝酸、硫酸、リン酸である。また、強酸の酸性塩や、強酸と弱塩基の塩、例えばリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなども使用できる。
【0037】
酸を含む水溶液中の酸の濃度は、アルカリ金属珪酸塩を中和し、珪酸が生成する濃度であればよく、水溶液中において1〜40質量%であることが好ましく、2〜20質量%であれば特に好ましい。
【0038】
カチオン性樹脂としては、分子内に1級〜3級アミノ基、又は4級アンモニウム基を有するカチオン性樹脂が、珪酸と有機無機ハイブリッドシリカを作りやすいので好ましい。代表的なカチオン性樹脂としては、ポリリシン、ポリアルギニンなどのカチオン性ポリペプチド、キトサン、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリレートの重合物、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体の重合物、ビニルアミン重合物又はその誘導体、アリルアミン重合物又はその誘導体、ジアリルアミン重合物、ジアリルメチルアミン重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルアミン−二酸化イオウ共重合、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−二酸化イオウ共重合物、アクリルアミド−ジアリルアミン共重合物、アクリルアミド−ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物に代表されるジシアン系カチオン性樹脂、ジシアンジアミド−ジエチレントリアミン重縮合物に代表されるポリアミン系カチオン性樹脂、エピクロルヒドリン−ジメチルアミン付加重合物、アクリロニトリルとN−ビニルホルムアミド共重合体の加水分解物、ポリビニルアミジン系樹脂等のカチオン性樹脂が例示でき、単独又は数種類を組み合わせて使用しても良い。第1〜3級アミノ基を有するカチオン性樹脂については、通常、塩酸塩、臭化水素酸塩などの塩の形で供給されているが、塩の形でなくても良い。
【0039】
カチオン性樹脂の分子量に特に限定はなく、1×10〜1×10程度である。
【0040】
カチオン性樹脂を含む水溶液中のカチオン性樹脂の濃度は、0.1〜30質量%であることが好ましい。特に好ましくは1〜10質量%である。0.1質量%以上であると、有機無機ハイブリッドシリカの生成量が多く、経済的に製造できる。30質量%以下であると、生成量が多くなりすぎることなく、均一に反応を行うことができる。
【0041】
珪酸に対するカチオン性樹脂の割合は、SiO固形分1gに対してカチオン性樹脂が0.015〜3gが好ましく、より好ましくは0.03〜2gである。0.015g以上であると、十分なカチオン性を示す有機無機ハイブリッドシリカが得られる。3g以下であると、大部分のカチオン性樹脂が珪酸と複合化し、余る量が少ないので経済的である。
【0042】
水性環境のpHは特に限定するものではないが5〜9の範囲であると、珪酸の重合速度が速く、かつカチオン性樹脂の触媒作用が強くなり、珪酸の重合が促進されるため、有機無機ハイブリッドシリカの生成が効率的に行われる。pHの調整は種々の無機化合物、または有機化合物によって行うことができる。無機化合物としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましく使用される。例えば、H、Li、Na、K、Rb、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、F、Cl、Br、I、SO2−、SO2−、HSO、PO3−、PO3−、NO、NO、CO2−、HCO、OH、TiO2−、ZrO2−、ZrO3−、AlO、Al2−、BO3−のイオンの全ての組み合わせを使用することができる。また、このような塩の使用は珪酸の重合速度を高める効果もある。
【0043】
有機塩としては、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸の塩が好適である。カチオンとしては、Li、Na、K、Rb、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+が挙げられる。水性環境中のこれらの塩の濃度は、0.01〜5モル/リットルが好ましい。
【0044】
水性環境下で反応1及び反応2を行う際、予め用意された水を主成分とする母液に、アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液、又はアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液のいずれか一方を添加する方法を用いると、反応を均一に行なうことができ好ましい。更に、該母液が攪拌されていると、反応の初期段階でも十分に攪拌を行うことができ、より好ましい。
【0045】
本発明の製造方法における母液とは、アルカリ金属珪酸塩、酸、カチオン性樹脂から選ばれる1種、又は2種を含む水溶液とは別に用意するものであって、水のみからなるものであっても良いが、後述するpH緩衝剤を含む水を主成分とする液体であると、有機無機ハイブリッドシリカを安定して製造することができ好ましい。また、有機無機ハイブリッドシリカの分散液を母液として用いると、より高濃度の有機無機ハイブリッドシリカ分散液を製造することもできる。母液として用いる有機無機ハイブリッドシリカ分散液の製造方法は特に限定するものではなく、本発明の製造方法により製造されたものでも良いし、非特許文献1〜4のいずれかの方法で製造されたものでも良い。
【0046】
有機無機ハイブリッドシリカ製造後の最終体積に対する母液の割合は、母液が十分攪拌できる量であれば良く、特に限定されるものではないが、10〜60体積%が推奨される。
【0047】
アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液を、水性環境に同時に添加する速度、又はアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液を、水性環境に同時に添加する速度は、生産される有機無機ハイブリッドシリカの品質、または同時添加中の反応混合液の粘度上昇による攪拌機の負荷などにより適宜選択すれば良いが、目安としては10分〜120分程度である。
【0048】
本発明の製造方法における反応中の水性環境のpHは5〜9であることが好ましい。それはこのpH範囲では珪酸の重合速度が速く、有機無機ハイブリッドシリカの生成が効率的に行われるからである。特に好ましいpHは6〜8である。pHが9以下であると、重合した珪酸が解重合することなく安定して存在できる。更に、カチオン性樹脂が1級〜3級アミノ基を有するカチオン性樹脂の場合、アミノ基のカチオン性が保持されるため、効率よく珪酸の重合を触媒し、カチオン性を有する有機無機ハイブリッドシリカが得られる。pHが5以上であると、珪酸の重合速度が速く、効率よく反応を行うことができる。
【0049】
本発明の製造方法における反応はpH緩衝剤を含む水性環境下で行うことが好ましい。本発明の製造方法では、反応中の水性環境のpHを5〜9に保つことが好ましい。しかし、アルカリ金属珪酸塩の中和点はpHが5〜6であり、この近傍ではpH変化が急激に起こるので、pHを制御することが困難である。そこで、pH緩衝剤を含む水性環境下において本発明の反応を行うことが好ましい。pH緩衝剤を添加する方法としては、アルカリ金属珪酸塩、酸、及びカチオン性樹脂から選ばれる1種、又は2種を含む水溶液に含ませる方法、pH緩衝剤単独の水溶液を反応1及び反応2を同時に行う水性環境に添加する方法、pH緩衝剤単独の水溶液を母液に添加する方法など特に限定されるものではないが、母液かアルカリ金属珪酸塩水溶液に含ませると、生産効率を高めることができるので好ましい。pH緩衝剤を添加し、反応中の水性環境のpHを5〜9に維持することで該有機無機ハイブリッドシリカを安定して製造することができる。また、反応混合物のpHを5〜9に制御することで、珪酸の重合速度を一定に制御し、より均一に反応を行うことができる。
【0050】
上記pH緩衝剤としては、緩衝作用領域のpHが5〜9のものであれば良く、そのためには4.5〜9.5のpKa値を有する酸のアルカリ金属塩が好ましい。多塩基酸の場合、複数のpKaを有するが、4.5〜9.5の範囲のpKaを1つ有していれば良い。その例としては、炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属炭酸塩、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸リチウムなどのアルカリ金属リン酸塩、ホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムなどのアルカリ金属ホウ酸塩、マレイン酸トリウムなどあるが、これに限られるものではない。特に価格が安価で安全な炭酸塩、又は炭酸水素塩が好ましい。
【0051】
これらのpH緩衝剤は単独で使用してもよいし、適宜混合使用してもよい。また、緩衝作用領域のpHが5〜9であれば他の2成分系pH緩衝剤を使用することもできる。
【0052】
水性環境下でのpH緩衝剤の濃度は、0.01質量%以上であることが好ましい。0.01質量%以上であると、十分なpH緩衝剤作用を発揮し、反応系内のpHを5〜9に維持することができる。
【0053】
有機無機ハイブリッドシリカ製造時の水性環境の温度は特に限定されるものではないが、5〜90℃で行うことが好ましい。製造時の温度が90℃以下であると、珪酸同士の縮合反応が偏って起きるなどの心配がなく、珪酸とカチオン性樹脂の均一な複合体が形成される。
本発明においては、カチオン性樹脂の触媒効果により、珪酸の重合は極めて速やかに起こるので、特に加熱せずに室温で行うこともできる。
【0054】
このようにして反応1と反応2を水性環境下において同時に反応を行った後、直ちに反応を終了しても良いし、反応を最後まで完結させるために熟成を行っても良い。熟成時間の目安は30分〜1日である。
【0055】
反応終了後の有機無機ハイブリッドシリカの濃度は、固形分で1〜10質量%であることが好ましい。2〜7質量%であれば特に好ましい。1質量%以上であると、1次粒子が凝集した多孔質な二次粒子が形成されやすく、その結果、細孔径、及び細孔容積が大きい有機無機ハイブリッドシリカが得られる。更に、珪酸、及びカチオン性樹脂の反応効率も良く、生産性が高くなる傾向がある。また10質量%以下であると、反応混合液がゲル化して固化することなく、均一に反応を行うことができる。
【0056】
製造に用いる反応釜は攪拌機と加熱装置を備えたものであれば良く、その形状、大きさ、材質は問わない。攪拌機は通常、攪拌羽根をモーターで回転させて、反応釜内部の液を攪拌する方式が一般的である。ただし、これに限定されるものではなく、反応釜内部の液をポンプで外部に取り出し、再度反応釜に循環させる方式でも構わない。加熱方式は、反応釜内部に蒸気を直接吹き込む方式や、反応釜外部から蒸気や電熱によって加熱する方式でも良い。
【0057】
反応が終了したら、必要に応じ精製、濃縮、乾燥、粉砕、分級などを行うことができる。未反応物や副生成物を除去して精製する方法としては、ろ過や遠心分離した後、水洗する方法や、限外ろ過、イオン交換による方法が挙げられる。濃縮は減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離などにより行うことができる。乾燥それ自体は任意の既知の方法によって実施することができる。但し、スプレードライによる方法が好ましい。噴霧はノズル式噴霧器、加圧液体噴霧器又はダブル流体噴霧器を用いることができる。スプレードライを行う時の有機無機ハイブリッドシリカ濃度は10質量%以上が好ましく、さらに好ましくは15質量%以上である。
【0058】
本発明における有機無機ハイブリッドシリカをインクジェット記録シートに利用する際には、得られた該有機無機ハイブリッドシリカを精製して使用しても良い。さらに、用途に合わせて、公知の方法で所定の粒径になるまで粉砕、分級し、分散液とした後に使用しても良い。
【0059】
本発明の有機無機ハイブリッドシリカを用いてインクジェット記録シートを製造するにあたって特に制限はなく、本発明の有機無機ハイブリッドシリカを含有する塗工液を支持体に塗工して塗工層を形成すれば良い。含有させる塗工層の種類も限定されない。有機無機ハイブリッドシリカ以外の塗工層の主要材料はバインダーであり、その他の副次的な材料を添加する事もできる。
【0060】
バインダーとしては水溶性樹脂を用いる事ができ、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリロイルモルホリン、水溶性ポリビニルアセタール、ポリ−N−ビニルアセトアミド、ポリ−N−ビニルホルムアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、カゼイン、でんぷんなどを例示することができ、単独で、或いは混合して配合することができる。特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0061】
また水性樹脂エマルジョンをバインダーとして用いても良い。例えばスチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン系ラテックス、ポリエステル系ラテックスなど、一般に用いられている水性エマルジョンを使用する事ができる。
【0062】
バインダーの配合量はシリカ微粒子凝集体固形分に対し5〜100質量%程度であり、10〜50質量%が好ましい。
【0063】
副次的な材料として、消泡剤を混合して塗工時の作業性を向上させたり、基材の濡れ性を良くして均一な塗工層を得るために界面活性剤を配合することもできるし、塗工シートの貼りつき防止や通紙性向上のため、デンプン粒子や合成樹脂粒子を混合しても良い。また、透明性や表面光沢の調整のために、各種顔料を添加することもできるし、また印字画像の保存性向上のため、紫外線吸収剤や光安定化剤などの耐光性向上剤を添加することもできる。
【0064】
支持体としては、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、板紙、合成樹脂ラミネート紙、金属蒸着紙、合成紙、フィルム等、塗工基材として一般的に用いられるシートを利用することが出来るが、これらに限定されるものではない。これらの支持体に下塗りの塗工層を設けてから使用しても構わない。中でも、合成樹脂ラミネート紙、金属蒸着紙、合成紙、フィルム等、表面が平滑で比較的吸液性の低い基材シートを用いた場合は、高光沢の塗工層が得られるため好適である。フィルム転写法やキャスト塗工などの手段を用い更に高光沢の塗工層を得ることもできる。これらの支持体はその表面に形成する塗工層との接着力が不十分な場合には下塗り層を設けたり、コロナ放電処理やプラズマ処理や熱炎処理などの各種の易接着処理を施すことができる。支持体の厚さは用途によって大きく異なるが、インクジェット記録シートを作製する場合は、プリンターの通紙性を考慮し、50〜500μmが好ましい。
【0065】
塗工装置としては、公知の塗布装置、例えばバーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーターなどを用いることができるが、これらに限らない。
【0066】
塗工量は塗工シートの用途によっても大きく異なるため特に限定するものではないが、乾燥後の全層の総塗工量は重量として1〜80g/m2程度が好ましく、さらに好ましくは3〜60g/m2程度である。この範囲の塗工量であると、インクの吸収が十分であり、カールの発生も小さくなる。
【0067】
本発明の有機無機ハイブリッドシリカは、含有させる塗工層は特に限定されないが、アニオン性物質の吸着性があり、また細孔容積が大きいので、インク受容層の材料として好適なものである。なお、インク受容層は複数層設けることもできる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論これらに限定されるものではない。尚、%は質量%を意味する。
<各物性の測定方法>
実施例及び比較例に記載した物性の測定方法について、以下に説明する。
【0069】
(平均細孔径、細孔容積の測定方法)
シリカ分散液を105℃にて乾燥し、得られた乾燥試料を用いて平均細孔径及び細孔容積の測定を行った。マイクロメトリックス ポアサイザ9320(島津製作所(株)製)を用いて、水銀圧入法により求めた空隙量分布曲線から平均細孔径及び細孔容積を計算した。平均細孔径の測定は細孔の断面を円形として仮定して導かれた下記の式を用いて計算した。
【0070】
D=−4γCOSθ/P
ただし、D:細孔直径、γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:圧力とする。水銀の表面張力は482.536dyn/cmとし、使用接触角は130°として測定を行った(測定細孔径範囲3nm〜10μm)。細孔容積は予め測定した当該有機無機ハイブリッドシリカの質量と空隙量分布曲線から計算される。
【0071】
(ゼータ電位測定方法)
ゼータサイザー(マルバーン社製、ゼータサイザー2000)を用いて、サンプルのゼータ電位を測定した。まず、分散液中のサンプルを300ppmになるようにイオン交換水で希釈し、超音波バスで5分間分散した。次に、測定セルに該希釈液を入れて、印加電圧80V、測定角度12°、測定温度25℃の条件で測定した。
【0072】
<インクジェット記録シートの作成方法及び評価方法>
(インクジェット記録シートの作成方法)
有機無機ハイブリッドシリカ分散液に対し、ポリビニルアルコール〔(株)クラレ製、商品名:PVA−117〕の8%水溶液をハイブリッドシリカ固形分100質量部に対して20固形分質量部混合した塗料を作成した。この塗料を厚さ100μmの透明ポリエチレンテレフタラートフィルム〔東レ(株)製、商品名:ルミラー100−Q80D〕上に乾燥質量で塗工量が25g/mになるようにバー塗工した。シートは100℃で乾燥を行った。
【0073】
(インクジェット記録シートのインク吸収速度評価方法)
A4サイズのインクジェット記録シートの中央に、キャノン社製インクジェットプリンターiP4100のプロフォトペーパー(標準)設定により10×10cmの正方形を、インク吐出量が15g/mとなる濃度のブラックでベタ印字し、印字部に上質紙を貼り合わせ、インクが全く転写しなくなるまでの時間を測定した。
○ :10秒未満
△ :10秒以上〜1分未満
× :1分以上
【0074】
(インクジェット記録シートのインク吸収容量評価方法)
インクジェット記録シートに、キャノン社製インクジェットプリンターiP4100のスーパーフォトペーパー(標準)設定により、ISO−400の画像(「高精細カラーディジタル標準画像データISO/JIS−SCID」、p13、画像名称:果物かご、財団法人 日本規格協会発行)を印字し、目視にて3段階に評価した。
○ :インクのあふれがなく、色の境界部もはっきりしており、ベタ部も均一である。
△ :インクのあふれがベタ印字部で多少目立つが、実用上は影響のないレベル。
× :インクのあふれが全面にあり、実用上影響がある。
【0075】
(インクジェット記録シートのインク定着性評価方法)
インク定着性は、耐熱湿にじみ評価と耐水性評価により行った。
(高温高湿下における画像の耐熱湿にじみ評価方法)
L判サイズ(89mm×127mm)に切り取ったインクジェット記録シートを30℃、湿度80%の環境で、キャノン社製インクジェットプリンターiP4100のスーパーフォトペーパー(標準、L判フチなし全面印刷)設定により、JIS−X9204「高精細カラーデジタル標準画像XYZ/SCID」画像識別番号:N1の画像を1サンプルにつき2枚ずつ続けて出力した。2枚目出力後、排出トレイに2枚重なって出力された記録シートをそのままアクリル板の上に移し、その上にL判サイズの厚さ5mmのアクリル板を重ねて静置した。4時間後、1枚目に出力した記録シートを取り出してISO環境中で24時間乾燥させた。
ISO環境で1サンプルにつき1枚ずつ同設定条件で出力後、積層せずに24時間乾燥させた通常画像と共に、画像を3段階に評価した。
○ :積層画像に滲みは無く、色調も通常画像とほぼ同じで鮮明である。
△ :積層画像に若干の滲みがある。通常画像と比較すると色調が全体的に異なるが、実用上は影響が無いレベル。
× :積層画像は滲みが激しく、通常画像も鮮明性に欠け実用上影響がある。
【0076】
(耐水性評価方法)
インクジェット記録シートにキャノン社製インクジェットプリンターiP4100のスーパーフォトペーパー(標準、マッチングしない)設定によりブラックのテキストを印字し、24時間放置後、印字部に水滴を落とした部分の状態を目視で観察した。
○ :インクの滲みがほとんどない。
△ :インクの滲みは見られるが、実用上は影響のないレベル。
× :インクの滲みが見られ、実用上影響がある。
【0077】
実施例1
(有機無機ハイブリッドシリカの製造)
0.5リットルのガラスビーカーに三号珪酸ナトリウム207g(東曹産業(株)製、SiO濃度29.0%、NaO濃度9.0%)と蒸留水183gを入れ、ガラス棒を用いて攪拌し、三号珪酸ナトリウム水溶液Aを得た。
次に、0.3リットルのガラスビーカーに蒸留水208gを入れ、これにガラス棒で攪拌しながら硫酸32g(関東化学(株)製、98%)をゆっくり投入し、硫酸水溶液Bを得た。
さらに、0.3リットルのガラスビーカーに蒸留水218gとポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)52g(センカ(株)製、ユニセンスCP−101、分子量30,000、濃度31%、4級アンモニウム塩)を入れ、ガラス棒を用いて攪拌し、カチオン性樹脂水溶液Cを得た。
2リットルのステンレスビーカーに母液として蒸留水200gを入れ、これに攪拌機(EYELA製、MAZELA-Z)と攪拌羽根を設置した。攪拌羽根を回転数500rpmに調整しながら、溶液A、溶液B、溶液Cをマイクロチューブポンプ(EYELA製、MP−3N)で、それぞれ13g/min、8g/min、9g/minの速度で同時に30分間送液し、室温で反応を行い、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは3から10までの範囲で大きく変動していた。反応終了後の反応液のpHは4.2、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
室温でそのまま1時間攪拌することにより熟成を行い、得られた反応液をブフナー漏斗を用いて吸引ろ過し、有機無機ハイブリッドシリカを分離した。吸引ろ過に使用した濾紙はADVANTEC製、分析用濾紙:5C、捕獲粒子径1μmであった。分離された該有機無機ハイブリッドシリカを蒸留水1リットルで希釈し、分散処理(特殊機化(株)製、T.K.ロボミックス、2000rpm×10分)を行った。このようなろ過処理及び分散処理を2回行い、精製を行った。
精製後の有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
【0078】
(インクジェット記録シートの作成)
上記製造方法において精製された有機無機ハイブリッドシリカケーキを蒸留水に希釈し、分散処理(特殊機化(株)製、T.K.ロボミックス、2000rpm×10分)を行い、固形分濃度15%の有機無機ハイブリッドシリカ分散液500gを得た。この分散液を用いてインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行い、結果を表2に示した。
【0079】
実施例2
0.5リットルのガラスビーカーにpH緩衝剤として炭酸水素ナトリウム2.4g(関東化学(株)製)と蒸留水180.6gを入れ、ガラス棒にて攪拌・溶解し、その後、三号珪酸ナトリウム207g(東曹産業(株)製、SiO濃度29.0%、NaO濃度9.0%)を入れ、ガラス棒にて攪拌し、pH緩衝剤を含む三号珪酸ナトリウム水溶液Dを調製して三号珪酸ナトリウム水溶液Aの代わりに用いたこと以外は実施例1と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは6.4であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
実施例3
0.3リットルのガラスビーカーに蒸留水251gと、ポリアリルアミン塩酸塩19g(日東紡(株)製、PAA−HCl−3L、分子量15000、濃度50.2%)入れ、ガラス棒を用いて攪拌し、カチオン性樹脂水溶液Eを調製して、カチオン性樹脂水溶液Cの代わりに用いたこと以外は実施例2と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは6.3であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.3%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
実施例4
0.5リットルのガラスビーカーに実施例1で用いたポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)52g(センカ(株)製、ユニセンスCP−101、分子量30,000、濃度31%、4級アンモニウム塩)、蒸留水426gを入れ、ガラス棒を用いて攪拌した。その後、ガラス棒で攪拌しながら、硫酸32g(関東化学(株)製、98%)をゆっくり投入し、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液Fを得た。
実施例1と同様に2リットルのステンレスビーカーに母液として蒸留水200gを入れ、攪拌しながら、実施例1で用いた三号珪酸ナトリウム水溶液Aと、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液Fをそれぞれ13g/min、17g/minの速度で同時に30分間添加した。反応中における反応液のpHは3から10までの範囲で大きく変動していた。反応終了後の反応液のpHは3.9であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
実施例5
実施例4において、三号珪酸ナトリウム水溶液Aの代わりに、実施例2で用いたpH緩衝剤として炭酸水素ナトリウムを含む三号珪酸ナトリウム水溶液溶液Dを用いたこと以外は実施例4と同様にして、有機無機ハブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは6.3であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0083】
実施例6
0.5リットルのガラスビーカーにpH緩衝剤としてリン酸水素二ナトリウム4.1g(関東化学(株)製)と蒸留水178.9gを入れ、ガラス棒にて攪拌・溶解し、その後、三号珪酸ナトリウム207g(東曹産業(株)製、SiO濃度29.0%、NaO濃度9.0%)を入れ、ガラス棒にて攪拌し、pH緩衝剤としてリン酸水素二ナトリウム含む三号珪酸ナトリウム水溶液Gを調製した。これを三号珪酸ナトリウム水溶液Aの代わりに用いたこと以外は実施例4と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは7.1であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
実施例7
0.5リットルのガラスビーカーにpH緩衝剤としてメタホウ酸ナトリウム3.7g(関東化学(株)製)と蒸留水179.3gを入れ、ガラス棒にて攪拌・溶解し、その後、三号珪酸ナトリウム207g(東曹産業(株)製、SiO濃度29.0%、NaO濃度9.0%)を入れ、ガラス棒にて攪拌し、pH緩衝剤としてメタホウ酸ナトリウムを含む三号珪酸ナトリウム水溶液Hを調製した。これを三号珪酸ナトリウム水溶液Aの代わりに用いたこと以外は実施例4と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは8.0であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
実施例8
実施例4において、2リットルのステンレスビーカーに母液として蒸留水200gに炭酸水素ナトリウム2.4g(関東化学(株)製)を溶解した液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは6.4であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分6.9%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
実施例9
実施例5で得られた熟成後の有機無機ハイブリッドシリカ分散液200g(固形分6.9%)を母液として用いたこと以外は実施例5と同様にして有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であり、変動が少なかった。反応終了後の反応液のpHは6.5であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分8.2%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0087】
比較例1
非特許文献4に準じて有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。即ち10リットルのステンレスビーカーにホウ酸バッファー溶液4000g(和光純薬工業(株)製、HBO−NaOH、pH8.5±0.2、BO3−濃度0.05モル/リットル)を入れておき、攪拌しながら、これにオルト珪酸ナトリウムn水和物14.7g(和光(株)製、SiO22%、NaO45.5%)を蒸留水100gに溶解させた溶液を一度に添加、攪拌し、続いて実施例3で用いたポリアリルアミン塩酸塩2.98g(日東紡(株)製、PAA−HCl−3L、分子量15000、濃度50.2%)を蒸留水100gに溶解させた溶液を一度に投入した。攪拌機及び攪拌羽根により攪拌を行い、30分間、室温で反応を行い、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応終了後の反応液のpHは10.0であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分0.1%であった。
1時間熟成した後、得られた反応液の上澄み液をデカンテーションにより除去し、残留液を遠心分離(コクサン(株)製、冷却高速遠心機、H−200NR、7000rpm×10分)して上澄みをさらに除去し、蒸留水で希釈し、分散処理(特殊機化(株)製、T.K.ロボミックス、1400rpm×10分)を行った。このような遠心分離および分散処理を2回行い、副生成物である塩を完全に除去した。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
得られた該有機無機ハイブリッドシリカ液をエバポレーターで水を留去して、固形分15%まで濃縮し、有機無機ハイブリッドシリカ液を30g得た。この溶液を用いてインクジェット記録シートを作成しインク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行い、結果を表2に示した。
【0088】
比較例2
比較例1の方法で、有機無機ハイブリッドシリカを高濃度で合成することを試みた。即ち、10リットルのステンレスビーカーにホウ酸バッファー溶液4000g(和光純薬工業(株)製、HBO−NaOH、pH8.5±0.2、BO3−濃度0.05モル/リットル)を入れ、さらにガラス棒で攪拌しながら濃塩酸60g(関東化学(株)製、35%)をゆっくり投入した。攪拌しながら、これにオルト珪酸ナトリウムn水和物441g(和光(株)製、SiO22%、NaO45.5%)を蒸留水1000gに溶解させた溶液を一度に添加し、続いてポリアリルアミン塩酸塩89g(日東紡(株)製、PAA−HCl−3L、分子量15000、濃度50.2%)を蒸留水1000gに溶解させた溶液を一度に投入した。三種類の溶液を混合した直後に反応液がゲル化し、反応を完了させることができなかった。反応液の濃度は仕込み量から計算して固形分2.0%であった。
【0089】
比較例3
非特許文献3の方法に準じて有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。即ち0.5リットルビーカーに蒸留水100g、テトラメトキシシラン30g(和光(株)製)を入れ、マグネチックスターラーで攪拌しながら0.001モル/リットル塩酸200gを投入し、室温にて15分間攪拌を続け、テトラメトキシシランの加水分解物を得た。
これを15リットルのステンレスビーカーに用意した1.9×10−3%ポリアリルアミン塩酸塩水溶液5000g(日東紡(株)製、PAA−HCl−3L、分子量15000、濃度50.2%)、0.06%リン酸水素二ナトリウム水溶液5000g(関東化学(株)製)の混合溶液に、攪拌しながら投入した。攪拌機及び攪拌羽根により攪拌を行い、30分間、室温で反応を行い、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応終了後の反応液のpHは7.0であり、有機無機ハイブリッドシリカの濃度は固形分0.1%であった。
1時間熟成した後、得られた反応液を比較例1と同様に精製処理を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
得られた反応液を比較例1と同様に熟成と精製を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
得られた該有機無機ハイブリッドシリカ液をエバポレーターで水を留去して、固形分15%まで濃縮し、有機無機ハイブリッドシリカ液を56g得た。この溶液を用いてインクジェット記録シートを作成しインク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行い、結果を表2に示した。
【0090】
比較例4
実施例2において、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液Cを添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、有機無機ハイブリッドシリカの製造を行った。反応中における反応液のpHは6から8の範囲であった。反応終了後の反応液のpHは7.0であり、シリカの濃度は固形分7.2%であった。
得られた反応液を実施例1と同様に精製処理を行い、有機無機ハイブリッドシリカを得た。
精製後の該有機無機ハイブリッドシリカの平均細孔径及び細孔容積測定結果、ゼータ電位測定結果を表1に示す。
実施例1と同様にインクジェット記録シートを作成し、インク吸収速度、インク吸収容量、及びインク定着性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【0093】
実施例1〜3が示しているように、水を主成分とする母液を攪拌しながら、アルカリ金属珪酸塩水溶液、酸の水溶液、及びカチオン性樹脂水溶液の三種類の水溶液を該母液に同時に添加して反応させることで、ゲル化することもなく、高濃度で有機無機ハイブリッドシリカを製造することができた。また、製造されたハイブリッドシリカは非特許文献4の方法に基づく有機無機ハイブリッドシリカよりも平均細孔径及び細孔容積が大きいため、作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収容量が良好であった。
【0094】
また、実施例4〜9が示しているように、水を主成分とする母液を攪拌しながら、アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液を該母液に同時に添加して反応させることによっても、ゲル化することもなく、高濃度で有機無機ハイブリッドシリカを製造することができた。この製造方法により製造されたハイブリッドシリカも非特許文献4の方法に基づく有機無機ハイブリッドシリカよりも、平均細孔径及び細孔容積が大きいため、作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収容量が良好であった。
【0095】
実施例2、3、5、6、7、8、9が示しているように、母液またはアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液にpH緩衝剤を混合して製造を行うことで、反応中のpHを6〜8の範囲に安定化して、製造を行うことができた。また、製造されたハイブリッドシリカは、作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収容量及びインク定着性が良好であった。インク吸収容量が良好である理由は定かではないがpH緩衝剤を用いることで反応場におけるpHが中性領域に制御され、該ハイブリッドシリカ生成反応が安定かつ効率よく行われ、均一な細孔分布が形成されているためと考えられる。インク定着性が良好となった理由としては、前記と同様にしてpH緩衝剤によって該ハイブリッドシリカ生成反応が安定かつ効率よく行われた結果、均一なカチオン電荷密度を有するハイブリッドシリカが得られたためと考えられる。
【0096】
実施例9が示しているように、母液に予め合成した有機無機ハイブリッドシリカ分散液を用いることにより、より高濃度で有機無機ハイブリッドシリカを製造することができた。また、製造された該ハイブリッドシリカを用いて作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収量は良好であった。
【0097】
比較例1が示しているように、非特許文献4による方法では、0.1%の低濃度では有機無機ハイブリッドシリカを製造することはできたが、比較例2のように2.0%の高濃度では珪酸のゲル化により有機無機ハイブリッドシリカを製造することはできなかった。また、比較例1、3が示しているように、低濃度で製造された有機無機ハイブリッドシリカでは、平均細孔径及び細孔容積が小さく、作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収容量が劣る結果となった。
【0098】
また比較例4が示しているように、カチオン性樹脂を用いることなくシリカを合成することができたが、従来のホワイトカーボンと同様にカチオン性のない沈降シリカとなり、作成したインクジェット記録シートにおけるインク定着性は不良であった。
【0099】
実施例1〜9が示しているように、有機無機ハイブリッドシリカの製造方法において、アルカリ金属珪酸塩と酸の反応から珪酸を調製する反応1と、カチオン性樹脂と珪酸が重合して有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応2を、水性環境下で同時に行うことで、従来の有機無機ハイブリッドシリカの製造ではできなかった高濃度での合成が可能である。また、高濃度での合成により得られた有機無機ハイブリッドシリカは平均細孔径及び細孔容積が大きく、作成したインクジェット記録シートにおけるインク吸収容量が良好であり、受容層などの吸収材料として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、細孔容積の大きな有機無機ハイブリッドシリカを提供することができ、かつ簡便で効率的な製造方法が提供される。本発明の有機無機ハイブリッドシリカはアニオン性物質の吸着性を有し、かつ細孔容積が大きいため、例えばインクジェット記録シートのインク受容層に好適に使用できる。また、アニオン性物質の吸着性を生かして、水中から染料などの着色物質や、アニオン性界面活性剤、リン、ホウ素などの有害物質を除去する吸着剤としての利用も考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカであって、水銀ポロシメーターによる細孔径3nm〜10μmの範囲における細孔容積が0.6〜3.0ml/gであることを特徴とする有機無機ハイブリッドシリカ。
【請求項2】
シリカとカチオン性樹脂からなる有機無機ハイブリッドシリカの製造方法において、アルカリ金属珪酸塩および酸の反応から珪酸を調製する反応1と、カチオン性樹脂および珪酸が重合して有機無機ハイブリッドシリカを形成する反応2とを、水性環境下で同時に行うことを特徴とする有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液を、水性環境に同時に添加して反応させる請求項2記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項4】
アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液を、水性環境に同時に添加して反応させる請求項2記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項5】
前記反応をpH5〜9の範囲の水性環境下で行う請求項2〜4記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項6】
前記反応をpH緩衝剤を含む水性環境下で行う請求項2〜5記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項7】
pH緩衝剤が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属ホウ酸塩から選ばれる少なくとも一種である請求項6記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項8】
予め用意された水を主成分とする母液に、アルカリ金属珪酸塩を含む水溶液、酸を含む水溶液、及びカチオン性樹脂を含む水溶液の三種類の水溶液、又はアルカリ金属珪酸塩を含む水溶液と、酸及びカチオン性樹脂を含む水溶液の二種類の水溶液のいずれか一方を添加する請求項2〜7記載の有機無機ハイブリッドシリカの製造方法。
【請求項9】
請求項2〜8記載の製造方法で製造された有機無機ハイブリッドシリカ。
【請求項10】
請求項1又は請求項9記載の有機無機ハイブリッドシリカを含有する塗工液を、支持体に塗工して形成した塗工層を有するインクジェット記録シート。

【公開番号】特開2009−46323(P2009−46323A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211240(P2007−211240)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】