説明

有機無機複合ナノファイバーの製造方法

【課題】 先端材料分野において、その応用展開が有望視される有機無機複合ナノファイバーの簡便な製造方法を提供することにある。
【解決手段】 直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーの水性分散体を70℃以下で濃縮し、次いでそれにアルコキシシランを添加し、該アルコキシシランを加水分解することを特徴とする有機無機複合ナノファイバーの製造方法を提供し、特に前記水性分散体が該結晶性ナノファイバーを0.1〜20質量%含有し、前記水性分散体を濃縮して水含有量10〜96質量%とし、且つ前記アルコキシシランの添加量が結晶性ナノファイバーに対して1〜500質量倍である有機無機複合ナノファイバーの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ナノファイバーと、前記結晶性ナノファイバーを被覆するシリカとからなる有機無機複合ナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの構造を持った材料は、バルク状態とは異なる特性が現れることが知られており、なかでも、ナノメートルの太さと、その太さの数十倍以上の長さとを有するナノファイバーは、その高いアスペクト比によりファイバ形状特有のサイズ効果を発現するため、先端材料の一つとして注目されている。シリカナノファイバーは、ナノファイバー特有の高いアスペクト比や大きな表面積を有すると共に、無機材料固有の半導体特性、導電性、表面物性、機械的強度などの諸物性を有することから、電子材料分野やバイオ・ライフサイエンス分野をはじめとする各種の先端材料分野において、その応用展開が有望視されている。
【0003】
このように特有の機能を有する有機材料を無機のナノファイバーと複合化することにより、従来に無い新規な材料が得られると期待されているが、こうした試みは未だ研究段階にあるものが多い。有機材料と無機材料とが複合化されたナノファイバーとしては、例えば、らせん状繊維構造を有する糖鎖やコレステロール誘導体などの低分子有機化合物とシリカとが複合化された有機無機ナノファイバーが開示されている(特許文献1、2参照)。
しかし、これら低分子有機化合物は、単にシリカナノファイバーを作成するための鋳型として使用されているものであり、ナノファイバーに特異な機能を発現させるものではなく、また、その製造方法としても、上記した低分子有機材料を鋳型とし、該鋳型に沿ってシリカナノファイバーを形成させる方法が開示されているが、このような低分子有機材料を使用した場合には工程が煩雑になるため、複合体の製造に長い時間が必要であるなど、工業的な生産性を考えた場合、より効率的にそして、容易に製造することが望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−203826号公報
【特許文献2】特開2001−253705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、先端材料分野において、その応用展開が有望視される有機無機複合ナノファイバーの簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シリカのナノファイバーを作成するにあたっては、(i)ナノファイバー形状を誘導する鋳型、(ii)シリカを固定する足場、(iii)シリカソースを重合させる触媒が不可欠であり、かかる三つの要素を満たす有機材料として、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用することが上記課題を達成することができると考えた。即ち、直鎖状ポリエチレンイミンは水中可溶であるが、室温では水分子の存在により水不溶性の結晶体を形成できる。このような直鎖状ポリエチレンイミンを骨格に有するポリマーは、ポリマー相互の直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分が結晶を形成することにより、結晶の性質を有するナノメートルの太さの結晶性ナノファイバーを形成できる。この結晶性ナノファイバーがテンプレートの働きをする。しかも、該結晶性ナノファイバー表面には不可避的に結晶に関わりがないフリーなポリエチレンイミンの鎖が多数存在し、これらフリーな鎖は結晶性ナノファイバー表面に垂れている状態であるため、これらの鎖がその近傍で重合したシリカを固定する足場となり、同時にシリカソースを重合させる触媒の働きをする。更に、結晶性ナノファイバーを構成する該直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが骨格中のエチレンイミン単位によって、金属イオンをはじめとする各種イオン性物質を吸着させることができ、また他のポリマーとのブロックやグラフト化が容易であることから、当該他のポリマー部分に由来する各種機能を付与することが可能である。 本発明においては、このような直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ナノファイバーは、水中に溶解させた後に水の存在下で析出させることで容易に形成でき、また、該結晶性ナノファイバーを鋳型とするシリカソースのゾルゲル反応も容易であることを見出し、有機無機複合ナノファイバーの簡便な製造方法を実現した。
【0007】
即ち本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーの水性分散体を70℃以下で濃縮し、次いでそれにアルコキシシランを添加し、該アルコキシシランを加水分解することを特徴とする有機無機複合ナノファイバーの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機無機複合ナノファイバーの製造方法は、ナノメートルの太さの結晶性ナノファイバーの表面上だけで進行するシリカソースのゾルゲル反応により、一定の厚さのシリカが該結晶性ナノファイバーを被覆することで容易に製造できる。該製造方法によれば、従来の方法に比べて短時間の反応時間で有機無機複合ナノファイバーを効率的に得ることができる。
【0009】
更に、本発明により製造された有機無機複合ナノファイバー中の結晶性ナノファイバーは焼結により簡単に除去できるので、管状の空間が含まれるシリカナノチューブの製造にも応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明により製造される有機無機複合ナノファイバーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーの水性分散体を70℃以下で濃縮し、次いでそれにアルコキシシランを添加し、該アルコキシシランを加水分解することにより、該結晶性ナノファイバーを被覆するシリカ(酸化ケイ素)とからなるものである。
【0011】
本発明でいう直鎖状ポリエチレンイミン骨格とは、二級アミンのエチレンイミン単位を主たる構造単位とする直鎖状のポリマー骨格をいう。該骨格中においては、エチレンイミン単位以外の構造単位が存在していてもよいが結晶性ナノファイバーを形成させるためには、ポリマー鎖の一定鎖長が連続的なエチレンイミン単位からなることが好ましい。該直鎖状ポリエチレンイミン骨格の長さは、該骨格を有するポリマーが結晶性ナノファイバーを形成できる範囲であれば特に制限されないが、好適に結晶性ナノファイバーを形成するためには、該骨格部分のエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上であることが好ましく、20〜10000の範囲であることが特に好ましい。また、該直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが結晶性ナノファイバーを形成できる範囲であれば分岐状ポリエチレンイミン構造単位が存在していてもよい。
【0012】
本発明において使用するポリマーは、その構造中に上記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するものであればよく、その形状が線状、星状または櫛状であっても、水の存在下で結晶性ナノファイバーを与えることができるものであればよい。
【0013】
本発明の結晶性ナノファイバーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの一次構造中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格の複数が水分子の存在化で結晶化することにより、ポリマーが相互に会合して繊維状に成長したものであり、結晶の性質を構造中に有するものである。
【0014】
該結晶性ナノファイバーは、2〜1000nm程度、好ましくは2〜200nmの範囲の直径太さを有し、長さが直径太さの10倍以上、好ましくは100倍以上の繊維形状(以下、該繊維形状を一次形状と言う場合がある。)のものである。
【0015】
本発明における直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの結晶性ナノファイバーは、上記の場合と同様に直鎖状ポリエチレンイミン骨格の結晶発現により形成されるものであり、ポリマー形状が線状、星状、または櫛状などの形状であっても、一次構造に直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーであれば、結晶性ナノファイバーが得られる。
【0016】
結晶性ナノファイバーの存在はX線散乱により確認でき、広角X線回折計(WAXS)における2θ角度値で20°,27°,28°近傍の結晶性ヒドロゲル中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格に由来するピーク値により確認される。
【0017】
また、結晶性ナノファイバーの示差走査熱量計(DSC)における融点は、ポリエチレンイミン骨格のポリマーの一次構造にも依存するが、概ねその融点が45〜90℃で現れる。
【0018】
上記結晶性ナノファイバーは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが室温の水に不溶である性質を利用し、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを60℃以上の水に溶解させた後、冷やしながら水の存在下で析出させることで得られる。
【0019】
具体的な方法としては、先ず直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの製造法としては、その前駆体となるポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を有するポリマー(以下、前駆体ポリマーと略記する。)をリビング重合法などにより製造した後、前記の前駆体ポリマーを酸性条件下またはアルカリ条件下で加水分解することで容易に得ることができる。
ポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を形成するモノマーとしては、メチルオキサゾリン、エチルオキサゾリン、メチルビニルオキサゾリン、フェニルオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマーを使用できる。
【0020】
重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を使用できる。これら重合開始剤は、多くのアルコール類化合物の水酸基を他の官能基に変換させることで得られる。なかでも、官能基変換として、臭素化、ヨウ素化、トルエンスルホン酸化、およびトリフルオロメチルスルホン酸化されたものは重合開始効率が高いため好ましく、特に臭化アルキル、トルエンスルホン酸アルキルが好ましい。
【0021】
線状の前駆体ポリマーは、上記オキサゾリンモノマーを1価または2価の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。このような重合開始剤としては、例えば、塩化メチルベンゼン、臭化メチルベンゼン、ヨウ化メチルベンゼン、トルエンスルホン酸メチルベンゼン、トリフルオロメチルスルホン酸メチルベンゼン、臭化メタン、ヨウ化メタン、トルエンスルホン酸メタンまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、5−(4−ブロモメチルフェニル)−10,15,20−トリ(フェニル)ポルフィリン、またはブロモメチルピレンなどの1価のもの、ジブロモメチルベンゼン、ジヨウ化メチルベンゼン、ジブロモメチルビフェニレン、またはジブロモメチルアゾベンゼンなどの2価のものが挙げられる。また、ポリ(メチルオキサゾリン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、または、ポリ(メチルビニルオキサゾリン)などの工業的に使用されている線状のポリオキサゾリンを、そのまま前駆体ポリマーとして使用することもできる。
【0022】
上記により得られる前駆体ポリマーのポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格の加水分解は、酸性条件下またはアルカリ条件下のいずれの条件下でもよい。酸性条件下での加水分解は、例えば、塩酸水溶液中でポリオキサゾリンを加熱下で攪拌することにより、ポリエチレンイミンの塩酸塩を得ることができる。得られた塩酸塩を過剰の水酸化ナトリウム水溶液、アンモニウム水などで処理することで、塩基性のポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが望ましい。また、反応温度は70〜110℃が望ましい。
【0023】
アルカリ条件下での加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いることで、ポリオキサゾリンをポリエチレンイミンに変換させることができる。アルカリ条件下で反応させた後、反応液を透析膜にて洗浄することで、過剰な水酸化ナトリウムを除去し、ポリエチレンイミンの結晶粉末を得ることができる。用いる水酸化ナトリウムの濃度は1〜10mol/Lの範囲であればよく、より効率的な反応を行うには3〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。また、反応温度は70〜110℃前後が好ましい。
【0024】
酸性条件下またはアルカリ条件下での加水分解における、酸またはアルカリの使用量は、ポリマー中のオキサゾリン単位に対し、1〜10当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、2〜4当量程度とすることが好ましい。
【0025】
上記加水分解により、前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格となり、該ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが得られる。
【0026】
上記のようにして得た直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水又は水と親水性有機溶剤の混合溶媒(以下、これらを水性媒体という。)に溶解し、該溶液を60℃以上に加熱した後冷却する方法や、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水性媒体に溶解し、該溶液に水を加える方法などが例として挙げられる。
【0027】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解する溶媒は、水性媒体又は親水性有機溶剤を好ましく使用できる。該該親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォンオキシド、ジオキシラン、ピロリドンなどの親水性有機溶剤が挙げられる。
【0028】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーの溶液から結晶性ナノファイバーを析出させるには、水の存在が不可欠であるため、析出は水性媒体中で生じる。
【0029】
上記方法において、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを溶解するための加熱温度は60℃以上100℃以下が好ましく、70〜90℃の範囲であることがより好ましい。また、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー分散液中の結晶性ナノファイバー含有量は、0.1〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.3〜10質量%の範囲がさらに好ましい。このように、本発明においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを使用すると、ごく少量のポリマー濃度でも結晶性ナノファイバーを形成することができる。
【0030】
上記ポリマー水溶液の温度を低下させる過程により、得られる結晶性ナノファイバーの形状を調整することができる。温度を低下させる方法を例示すると、ポリマー水溶液を80℃に1時間保持した後、1時間かけて60℃にし、該温度でさらに1時間保持する。その後1時間かけて40℃まで低下させた後、自然に室温まで下げる方法、上記ポリマー水溶液を一気に氷点の氷り水、または氷点下のメタノール/ドライアイス、あるいはアセトン/ドライアイスの冷媒液にて冷却させた後、その状態のものを室温のワータバスにて保持する方法、あるいは、上記のポリマー水溶液を室温のワータバスまたは室温空気環境にて、室温まで温度を低下させる方法などが挙げられる。
【0031】
上記ポリマー水溶液の温度を低下させる過程は、得られる結晶性ナノファイバー同士の会合に強く影響を与えるため、上記異なる方法により得られる結晶性ナノファイバーが形成する形状は同一ではない。
【0032】
上記方法において得られた、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーの水性分散体を濃縮することでより効率的に有機無機複合ナノファイバーが製造できる。濃縮時の水性分散体の溶液温度は70℃以下の範囲であることが好ましく、50℃以下の範囲がさらに好ましい。濃縮方法としては例えば、自然濾過、吸引濾過、加圧濾過などが好ましい。そして、上記異なる方法により得られる結晶性ナノファイバーによっては、濃縮方法としては例えば、濾過した後、次いで濾過物を減圧乾燥して濃縮することが好ましい。減圧乾燥時の温度は60℃以下の範囲であることが好ましく、40℃以下の範囲がさらに好ましい。
【0033】
上記濃縮方法により結晶性ナノファイバーの水性分散体を濃縮した時の水含有量は10〜96質量%の範囲であることが好ましく、20〜90質量%の範囲がさらに好ましい。
【0034】
本発明の有機無機複合ナノファイバーは、結晶性ナノファイバー表面でシリカソースをゾルゲル反応させて得ることができる。該有機無機複合ナノファイバーは、その直径太さが1〜1000nm、好ましくは10〜100nmのものであり、長さが直径太さの10倍以上、好ましくは100倍以上の長さを有するものである。
【0035】
有機無機複合ナノファイバー中のシリカの含有量は、反応条件などにより一定の幅で変化するが、有機無機複合ナノファイバー全体の30〜90質量%の範囲とすることができる。シリカの含有量はゾルゲル反応の際に用いたポリマーの量の増加に伴って増加する。また、ゾルゲル反応時間を長くすることにより増大する。
【0036】
本発明の有機無機複合ナノファイバーは、水の存在下で、結晶性ナノファイバーポリマーと、シリカソースとを接触させることにより得られる。また、結晶性ナノファイバーがヒドロゲルを形成した状態でシリカソースを接触させることで、有機無機複合ナノファイバーを得ることができる。
【0037】
結晶性ナノファイバーとシリカソースとを接触させる方法としては、結晶性ナノファイバーの水中分散液または結晶性ナノファイバーのヒドロゲル中に、通常のゾルゲル反応において使用できる溶媒にシリカソースを溶解した溶液を加えて、室温下でゾルゲル反応させる方法が挙げられる。該方法により有機無機複合ナノファイバーを容易に得ることができる。
【0038】
シリカソースとして用いる化合物としては、テトラアルコキシシラン類、アルキルトリアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0039】
テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシランなどを挙げられる。
【0040】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、エチルトリメトキシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシラン、n−プロピルトリエトキシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、3−メルカプトプロピルトメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシアンなどを挙げられる。
【0041】
有機無機複合ナノファイバーを与える上記ゾルゲル反応は、水、あるいは水と親水性有機溶剤の混合溶液などの水性媒体中、結晶性ナノファイバーの存在下で進行するが、その反応は水性液体相では起こらず、結晶性ナノファイバーの表面で進行する。従って、複合化反応条件では結晶性ナノファイバーが溶解することがなければ、反応条件は任意である。
【0042】
ゾルゲル反応においては、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーに対し、シリカソースであるアルコキシシランの量を過剰とすれば好適に有機無機ナノファイバーを形成できる。過剰の度合いとしては、結晶性ナノファイバーに対し1〜500質量倍の範囲であることが好ましく、3〜200質量倍の範囲であることがさらに好ましい。
【0043】
ゾルゲル反応の時間は1分から数日まで様々であるが、アルコキシシランの反応活性が高いメトキシシラン類の場合は、反応時間は1分〜24時間でよく、反応効率を上げることから、反応時間を20分〜5時間に設定すればさらに好適である。また、反応活性が低い、エトキシシラン類、ブトキシシラン類の場合は、ゾルゲル反応時間が4時間以上が好ましい。
【0044】
以上記載したように、本発明の有機無機複合ナノファイバーは、シリカナノファイバーの有する大きな表面積や、被覆するシリカに由来する優れた分子選択性や化学的な安定性に加え、内部に有する直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーにより各種物質の固定化や濃縮が可能である。このように本願発明の有機無機複合ナノファイバーは、ナノサイズのファイバ形状中に金属や生体材料の固定化、濃縮が可能であることから、電子材料分野、バイオ分野、環境対応製品分野などの各種分野において有用な材料である。
【0045】
従って、本発明の有機無機複合ナノファイバーは従来のシリカ材料作成時における形状制御の困難さを完全にクリアーした斬新な複合体であり、製造も容易であることから、その応用には業種、領域を問わず、大きな期待が寄せられる。また、本発明の有機無機複合ナノファイバーは、内部に直鎖ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーからなる結晶性ナノファイバーが含まれるので、シリカ材料の全般応用領域にはもちろんのこと、ポリエチレンイミンが応用される領域においても有用な材料である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0047】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜40°の条件で測定を行った。
【0048】
[示差熱走査熱量法による分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをPerkin Elmer製熱分析装置「DSC−7」にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から90℃の温度範囲にて測定を行った。
【0049】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した試料をガラススライドに乗せ、それをキーエンス製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0050】
(合成例)
<線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50000,平均重合度500,Aldrich社製)30gを、5Mの塩酸水溶液125mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて100℃に加熱し、その温度で12時間攪拌した。反応液にアセトン150mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、アセトンで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの塩酸塩の粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンの塩酸塩に変換されたことが示された。
【0051】
その粉末を250mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に10%のNaOH水溶液120mLを滴下した。直ちに白い粉末が生成した。しばらく放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回、アセトンで洗浄1回した。洗浄後の粉末をデシケータ中40℃で乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を14.4g(結晶水含有)得た。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の500と同様である。
【0052】
(実施例1)
<線状ポリエチレンイミンからの有機無機複合ナノファイバー1>
合成例1で得られたL−PEI粉末を1.25g(結晶水20%含有)秤量し、それを蒸留水200ml中に分散させてL−PEI分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、完全透明な水溶液を得た。その水溶液を氷浴下で冷やして不透明な溶液状態になった後、室温に3時間放置して0.5%の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバー水溶液を得た。得られた結晶性ナノファイバー水溶液を減圧濾過し、水を除去して約15%の結晶性ナノファイバーの水性分散体を得た。
【0053】
得られた結晶性ナノファイバーにつき、X線回折測定を行った結果、20.7°、27.6°、28.4°に散乱強度のピークが表れることが確認された。また、熱量分析装置による吸熱状態変化の測定結果により、64.7℃で吸熱のピークが確認された。これら測定結果より、L−PEIの結晶の存在が確認された。
これで得られた15%の結晶性ナノファイバーの水性分散体中に、テトラメトキシシラン(TMSO)とエタノールの1/1(体積比)の混合液を70mL加え、アイスクリーム状態のものを軽くかき混ぜた後、そのまま40分放置した。その後、エタノールで数回洗浄を行った。得られた固形物を回収し、40℃で減圧乾燥し、有機無機複合ナノファイバー(直径30〜60nm、長さ500〜3000nm)を得た。有機無機複合ナノファイバーのX線回折測定から、20.5°、27.2°、28.2°に散乱強度のピークが表れた。
【0054】
得られた有機無機複合ナノファイバーを走査型顕微鏡により観察したところ、有機無機複合ナノファイバーは、レタス状の会合体形状が確認された。得られた有機無機複合ナノファイバーの走査型顕微鏡写真を図1に示した。
【0055】
(実施例2)
<線状ポリエチレンイミンからの有機無機複合ナノファイバー2>
合成例1で得られたL−PEI粉末を1.25g(結晶水20%含有)秤量し、それを蒸留水200ml中に分散させてL−PEI分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、完全透明な水溶液を得た。その水溶液を氷浴下で冷やして不透明な溶液状態になった後、室温に3時間放置して0.5%の直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバー水溶液を得た。得られた結晶性ナノファイバー水溶液を減圧濾過し、水を除去して約15%の結晶性ナノファイバーの水性分散体を得た。
【0056】
得られた結晶性ナノファイバーを用いてさらに、真空デシケータ中40℃で減圧乾燥し、約30%の結晶性ナノファイバーの水性分散体を得た。これで得られた30%の結晶性ナノファイバーの水性分散体中に、テトラメトキシシラン(TMSO)とエタノールの1/1(体積比)の混合液を70mL加え、アイスクリーム状態のものを軽くかき混ぜた後、そのまま2時間放置した。その後、エタノールで数回洗浄を行った。得られた固形物を回収し、40℃で減圧乾燥し、有機無機複合ナノファイバー(直径20〜60nm、長さ1000〜4000nm)を得た。
【0057】
得られた有機無機複合ナノファイバーを走査型顕微鏡により観察したところ、有機無機複合ナノファイバーは、レタス状の会合体形状が確認された。得られた有機無機複合ナノファイバーの走査型顕微鏡写真を図2に示した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1におけるレタス状の会合体形状を有する有機無機複合ナノファイバーの走査型顕微鏡写真
【図2】本発明の実施例2におけるレタス状の会合体形状を有する有機無機複合ナノファイバーの走査型顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有する結晶性ナノファイバーの水性分散体を70℃以下で濃縮し、次いでそれにアルコキシシランを添加し、該アルコキシシランを加水分解することを特徴とする有機無機複合ナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
前記水性分散体を濾過して濃縮する請求項1記載の有機無機複合ナノファイバーの製造方法。
【請求項3】
前記水性分散体を濾過し、次いで濾過物を減圧乾燥して濃縮する請求項2記載の有機無機複合ナノファイバーの製造方法。
【請求項4】
前記水性分散体が該結晶性ナノファイバーを0.1〜20質量%含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の有機無機複合ナノファイバーの製造方法。
【請求項5】
前記水性分散体を濃縮して水含有量10〜96質量%とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機無機複合ナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
前記アルコキシシランを結晶性ナノファイバーに対して1〜500質量倍添加する請求項1乃至5のいずれかに記載の有機無機複合ナノファイバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−219327(P2006−219327A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32952(P2005−32952)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】