説明

有機無機複合組成物の製造方法

【課題】優れた透明性と高い屈折率を有する光学部品を提供する。
【解決手段】無機微粒子および熱可塑性樹脂を少なくとも含有する有機無機複合組成物であって、押出機によって100MJ/m3未満の投入エネルギーによって押出された材料が厚さ1mm換算で589nmにおいて70%以上の光線透過率を有する有機無機複合組成物を用いた光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れる有機無機複合組成物の製造方法に関するものであり、レンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ)等の光学部品を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
樹脂はガラスに比べて軽量性、耐衝撃性、成形性に優れ、かつ経済的である等の長所を有し、近年レンズ等の光学部品においても、高屈折性、透明性等の改良による光学ガラスの代替化が進んでいる。
樹脂の成形方法として、溶融した状態で金型中に流し込んで成形する射出成形法・押出成形法・圧縮成形法等の手法が広く用いられているが、しばしば樹脂の流動性が問題となっている。上述のように、光学ガラスの樹脂への置き換えのため、高屈折率化や高耐熱化等の高機能化を目的として無機ナノ粒子を樹脂中に微細分散した材料の開発等が行われているが(例えば特許文献1、2、3参照)、無機ナノ粒子を樹脂に分散することで流動性が悪化してしまう。
【0003】
樹脂材料自体の流動性を向上させる手段としては、可塑剤を用いる方法や樹脂の分子量を下げる方法が一般的であるが、これらの手段によると耐熱性や力学特性の低下を引き起こしやすいため、高Tgかつ高分子量でも流動性良好な材料技術の開発が望まれていた。
【0004】
これに対して100MJ/m3以上の高エネルギー下で有機無機複合組成物を溶融押出しすることにより、透明複合組成物を得る製造方法が開示されている(特許文献4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007‐238929号公報
【特許文献2】特開2003−73564号公報
【特許文献3】特開昭61−73754号公報
【特許文献4】特開2006‐131736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高エネルギー下での混錬は、せん断発熱による樹脂劣化に起因する樹脂の着色や異物等により高品質な光学部材を得るには問題があり、上述のように高屈折率、透明性を併せ持ち、流動性に優れた有機無機複合組成物の製造方法の開発が望まれていた。
本発明は前記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は無機微粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散され、高い屈折率と優れた透明性を有する有機無機複合組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、先に無機微粒子の均一分散性に優れ、透明性に優れる高屈折率有機無機複合組成物技術を開示しているが(例えば特許文献1参照)、流動性に関して更に改良検討を行なった結果、驚くべきことに押出機によって100MJ/m3未満の混錬エネルギーにより混錬、押出すことにより、他の特性を損なわず、流動性を飛躍的に改良できることを見出し本発明をなすに至った。
【0008】
[1] 100MJ/m3未満の混錬エネルギーによって製造することを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
[2] 厚さ1mm換算で589nmにおいて70%以上の光線透過率を有することを特徴とする前記有機無機複合組成物の製造方法。
[3] 平均粒子径が1〜20nmである無機微粒子を含有することを特徴とする[1]または[2]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[4] 前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛または酸化チタンを含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[5] 数平均分子量が5万以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[6] 前記有機無機複合組成物が80℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[7] 前記熱可塑性樹脂が側鎖または末端に前記無機微粒子と結合し得る官能基を含有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【0009】
[8] 前記熱可塑性樹脂中の前記無機微粒子と結合しうる官能基が、
【化1】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、またはこれらの塩、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基であることを特徴とする[7]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[9] 前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする[8]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[10] 波長589nmにおける屈折率が1.60以上であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[11] 押出機によって100MJ/m3未満の混錬エネルギーにより混錬、押出すことを特徴とする[1]〜[10]のいずれかに記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【0010】
[12] [1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法により製造された有機無機複合組成物。
[13] [12]に記載の有機無機複合組成物を含む透明成形体。
[14] [12]に記載の有機無機複合組成物を含む光学物品。
[15] [12]に記載の有機無機複合組成物を含むレンズ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レンズ基材を始めとする光学部品等の成形体を成形しやすく、かつ高透明性の有機無機複合組成物を低投入エネルギー量で混練押出により製造する方法とその有機無機複合組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明の有機無機複合組成物の製造方法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされるがことがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[投入エネルギー]
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討を行った結果、無機微粒子と熱可塑性樹脂とから構成される有機無機複合組成物の製造方法であって、押出機を用いて、単位体積当たりの投入エネルギー量を100MJ/m3未満で製造し、その製造された有機無機複合組成物が厚さ1mm換算で589nmにおける光線透過率が70%以上である有機無機複合組成物の製造方法を見出し、本発明に至った次第である。
【0014】
すなわち、無機微粒子と熱可塑性樹脂との有機無機複合組成物の製造において、溶融、混練により混練押出する方法を適応する場合、混練時のトルクに回転数を乗じて時間で積分した値として得られるエネルギーをパラメーターとし、単位体積当たりの投入エネルギー量として100MJ/m3未満という特定の範囲に制御することにより、極めて良好な混練押出条件を見出すことが出来た。この様な良好な混練状態が得られた結果、顕著な効果として、その製造された材料が厚さ1mm換算で589nmにおける光線透過率が70%以上である透明性の高い有機無機複合組成物を得ることができた。
投入エネルギー量の好ましい領域は1〜50MJ/m3、より好ましい投入エネルギー量の領域は1〜30MJ/m3、特に好ましい投入エネルギー量の好ましい領域は1〜20MJ/m3である。
【0015】
本発明において、溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いて製造することもできる。
【0016】
[有機無機複合組成物]
本発明の有機無機複合組成物は、無機微粒子と、側鎖に前記無機微粒子と、化学結合を形成しうる官能基を末端又側鎖に有する熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合組成物であって、該有機無機複合組成物の屈折率が波長589nmにおいて1.60以上であり、且つ、該有機無機複合組成物の厚さ1mm換算の光線透過率が波長589nmにおいて70%以上であるものが好ましい。本発明の有機無機複合組成物は、後述する本発明の成形体の製造に用いられるものである。
【0017】
本発明の有機無機複合組成物は、固体であることが好ましい。溶媒含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、溶媒を含まないことが最も好ましい。
【0018】
本発明の有機無機複合組成物の屈折率は波長589nmにおいて1.60以上であることが好ましく、1.65以上であることがより好ましく、1.67以上であることがさらに好ましく、1.70以上であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の有機無機複合組成物の光線透過率は、波長589nmにおいて厚さ1mm換算で70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また波長405nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率は60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、有機無機複合組成物を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0020】
本発明の有機無機複合組成物は、ガラス転移温度が80℃〜400℃であることが好ましく、90℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0021】
以下において、本発明の有機無機複合組成物の必須構成成分である熱可塑性樹脂と無機微粒子について順に説明する。本発明の有機無機複合組成物には、これらの必須構成成分以外に、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0022】
[熱可塑性樹脂]
本発明の有機無機複合組成物は、側鎖または末端に前記無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
【0023】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂の基本骨格には特に制限はなく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリチオエーテルなど公知の樹脂骨格を利用することができる。好ましくはビニル重合体、ポリアリレート、およびポリカーボネートであり、より好ましくはビニル重合体である。
【0024】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、側鎖または末端に無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を含むことが好ましい。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等が挙げられ、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、後述する実施例に記載されるような有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。本発明の有機無機複合組成物中において、熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0025】
側鎖又は末端に無機微粒子と結合しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成することによって、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基は、無機微粒子と化学結合を形成しうるものであればその構造に特に制限されない。例えば、
【化2】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、またはこれらの塩、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基であることを特徴とする請求項6に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【0026】
熱可塑性樹脂の側鎖へ上記官能基を導入する方法としては、特に制限はなく、官能基を有するモノマーを共重合させる方法、官能基前駆体部位(例えばエステルなど)を有するモノマーを共重合させた後に加水分解などの手法により官能基に変換する方法、水酸基、アミノ基、芳香環などの反応性部位を有する前駆体樹脂を合成した後に該反応性部位に官能基を導入する方法などが挙げられる。好ましいのは、官能基を含有するモノマーを共重合する方法である。
【0027】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するコポリマーであることが好ましい。このようなコポリマーは、下記一般式(2)で表わされるビニルモノマーを共重合することにより得ることができる。
【0028】
【化3】

【0029】
一般式(1)および一般式(2)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子またはメチル基を表し、Xは−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、および、置換または無置換のアリーレン基からなる群より選ばれる2価の連結基を表し、より好ましくは−CO2−またはp−フェニレン基である。
【0030】
Yは炭素数が1〜30である2価の連結基を表す。炭素数は1〜20が好ましく、2〜10がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。具体的には、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基を挙げることができ、好ましくはアルキレン基である。
【0031】
qは0〜18の整数を表す。より好ましくは0〜10の整数であり、さらに好ましくは0〜5の整数であり、特に好ましくは0〜1の整数である。
【0032】
Zは
【化4】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、またはこれらの塩、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基であることを特徴とする請求項6に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【0033】
以下に一般式(2)で表されるモノマーの具体例を挙げるが、本発明で用いることができるモノマーはこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
本発明において一般式(2)で表わされるモノマーと共重合可能な他の種類のモノマーとしては、Polymer Handbook 2nd ed.,J.Brandrup,Wiley lnterscience (1975) Chapter 2 Page 1〜483に記載のものを用いることができる。
【0037】
具体的には、例えば、スチレン誘導体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アリル化合物、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、イタコン酸ジアルキル類、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類等から選ばれる付加重合性不飽和結合を1個有する化合物等を挙げることができる。
【0038】
前記スチレン誘導体としては、スチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、2−フェニルスチレン等が挙げられる。
【0039】
前記アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、クロロクロロエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
【0040】
前記メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、クロロクロロエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられる。
【0041】
前記アクリルアミド類としては、アクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルアクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルアクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルアクリルアミド等が挙げられる。
【0042】
前記メタクリルアミド類としては、メタクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜3のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基)、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては炭素数1〜6のもの)、N−ヒドロキシエチル−N−メチルメタクリルアミド、N−2−アセトアミドエチル−N−アセチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
前記アリル化合物としては、アリルエステル類(例えば酢酸アリル、カプロン酸アリル、カプリル酸アリル、ラウリン酸アリル、パルミチン酸アリル、ステアリン酸アリル、安息香酸アリル、アセト酢酸アリル、乳酸アリルなど)、アリルオキシエタノール等が挙げられる。
【0044】
前記ビニルエーテル類としては、アルキルビニルエーテル(アルキル基としては炭素数1〜10のもの、例えば、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、デシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、1−メチル−2,2−ジメチルプロピルビニルエーテル、2−エチルブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、ブチルアミノエチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、テトラヒドロフルフリルビニルエーテル等が挙げられる。
【0045】
前記ビニルエステル類としては、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルトリメチルアセテート、ビニルジエチルアセテート、ビニルバレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルジクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルブトキシアセテート、ビニルラクテート、ビニル−β−フェニルブチレート、ビニルシクロヘキシルカルボキシレート等が挙げられる。
【0046】
前記イタコン酸ジアルキル類としては、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等が挙げられ、前記フマール酸のジアルキルエステル類またはモノアルキルエステル類としては、ジブチルフマレート等が挙げられる。
【0047】
その他、クロトン酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイロニトリルなど等も挙げることができる。
【0048】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(分散ポリマー)の数平均分子量は40,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜300,000であることがさらに好ましく、50,000〜150,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が500,000以下であれば成形加工性が向上し、40,000以上であれば十分な力学強度のある有機無機複合組成物を得ることができる。
【0049】
ここで、上述の重量平均分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0050】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0051】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は80℃〜400℃であることが好ましく、90℃〜380℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が80℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0052】
熱可塑性樹脂の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。熱可塑性樹脂の屈折率が1.48程度であれば屈折率1.60レベルの透明性成形体を提供することができるが、1.65以上の屈折率を実現するためには本発明に用いられる熱可塑性樹脂の屈折率は1.55以上であることが好ましく、1.58以上であることがより好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0053】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0054】
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
【化9】

【0058】
【化10】

【0059】
【化11】

【0060】
【化12】

【0061】
[無機微粒子]
本発明で用いられる無機微粒子としては、酸化ジルコニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化チタン微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウム、酸化スズおよび酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。本発明では、屈折率や透明性や安定性の観点から、これらの無機物の複合物を用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドーピングしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾したものであってもよい。
【0062】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。
【0063】
具体的には、酸化ジルコニウム微粒子またはその懸濁液を得る方法として、ジルコニウム塩を含む水溶液をアルカリで中和し水和ジルコニウムを得た後、乾燥および焼成し、溶媒に分散させて酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得た後、限外ろ過する方法;ジルコニウムアルコキシドを加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;およびジルコニウム塩を含む水溶液を水熱の加圧下で加熱処理することにより酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法等が知られており、これらのいずれの方法を用いてもよい。
【0064】
また、酸化チタン微粒子の合成原料としては硫酸チタニルが例示され、酸化亜鉛ナノ粒子の合成原料として酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が例示される。テトラエトキシシランやチタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も無機微粒子の原料として好適である。このような無機微粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の方法を挙げることができる。
【0065】
特にゾル生成法により酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し、次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。得られたヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名「エレミノールJS−2」)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよく、例えば、「色材」57巻6号,305〜308頁(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0066】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法も挙げることができる。このとき、有機溶媒中には、本発明で用いる熱可塑性樹脂が溶解していてもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0067】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均粒子サイズとしては、1nm〜20nmが好ましく、2nm〜15nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
ここで、上述の数平均粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0068】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率の範囲は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0069】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明で用いられる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。
【0070】
本発明の有機無機複合組成物における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、20〜95質量%が好ましく、25〜70質量%がさらに好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、本発明における前記無機微粒子と熱可塑性樹脂(分散ポリマー)との質量比は、分散性の点から、1:0.01〜1:100が好ましく、1:0.05〜1:10がさらに好ましく、1:0.05〜1:5が特に好ましい。
【0071】
[添加剤]
本発明の有機無機複合組成物には、上記の熱可塑性樹脂や無機微粒子以外に、均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂の合計量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0072】
<表面処理剤>
本発明では、後述するように水中またはアルコール溶媒中に分散された無機微粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性または置換性を高める目的、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記熱可塑性樹脂以外の微粒子表面修飾剤を添加してもよい。該表面処理剤の重量平均分子量は50〜50,000であることが好ましく、より好ましくは100〜20,000、さらに好ましくは200〜10,000である。
【0073】
前記表面処理剤としては、下記一般式(3)で表される構造を有するものが好ましい。
一般式(3)
A−B
【0074】
一般式(3)中、Aは本発明で用いられる無機微粒子の表面と化学結合を形成しうる官能基を表し、Bは本発明で用いられる熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂マトリックスに対する相溶性または反応性を有する炭素数1〜30の1価の基またはポリマーを表す。ここで、「化学結合」とは、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合等をいう。
【0075】
Aで表わされる基の好ましい例は、本発明で用いられる熱可塑性樹脂の官能基として前記したものと同じである。
一方、Bで表される基の化学構造は、相溶性の観点から該樹脂マトリックスの主体である熱可塑性樹脂の化学構造と同一または類似するものであることが好ましい。本発明では特に高屈折率化の観点から、前記熱可塑性樹脂とともにBの化学構造が芳香環を有していることが好ましい。
【0076】
本発明で好ましく用いられる、表面処理剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ−α−ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
これらの表面処理剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
これら表面処理剤の添加量の総量は無機微粒子に対して、質量換算で0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0078】
<可塑剤>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は有機無機複合組成物の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用する可塑剤は、樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などを総合的に勘案して決定する必要があり、最適な材料は他の組成物に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(4)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【0079】
一般式(4)
【0080】
【化13】

(式中、B1およびB2は炭素数6〜18のアルキル基または炭素数6〜18のアリールアルキル基を表し、mは0または1を表し、Xは
【0081】
【化14】

のうちのいずれかであり、R11 およびR12 はそれぞれ独立に水素原子または炭素数4以下のアルキル基を示す。)
【0082】
また、一般式(4)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなる場合があり添加効果が不十分となることがある。
【0083】
前記B1,B2としては、具体的に、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。また、前記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名「KP−L155」)が好ましい。
【0084】
【化15】

【0085】
<その他の添加剤>
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良したりする目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加してもよい。これらを配合する場合は、有機無機複合組成物の全固形分に対して0.1〜5質量%程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0087】
[分析および評価方法]
本実施例において、各分析および評価方法は、下記の手段でおこなった。
【0088】
(1)X線回折(XRD)スペクトル測定
リガク(株)製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0089】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0090】
(3)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの小片を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
【0091】
(4)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて波長589nmの光について行った。
【0092】
(5)分子量測定
分子量は、「TSKgel GMHxL」、「TSKgel G4000HxL」、「TSKgel G2000HxL」(何れも、東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、溶媒テトラハイドロフラン、示差屈折計検出によるポリスチレン換算で表した分子量である。
【0093】
(6)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、窒素中、昇温温度10℃/分の条件で各試料のTgを測定した。本明細書で規定されるTgは該測定に準じた値である。
【0094】
(7)耐衝撃試験
外形8mm、厚み1mmの円盤状のサンプルを作製し、重さ500gのアルミ製冶倶の座ぐり部にワッッシャーで固定して、3mの高さからコンクリート上に5回落下させた。該試験を10個のサンプルで行いクラックまたは破損の生じたサンプルの個数に応じて下記判定基準を設定した。
クラックが生じるか破損したサンプルの個数 … 0個 ○
1〜3個 △
4個以上 ×
【0095】
[無機微粒子分散液の調整]
(1)酸化ジルコニウム水分散物の調整
50g/lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水を溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。
【0096】
(2)酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散物(1)の調整
前記(1)で調整した酸化ジルコニウム分散物(15質量%水分散物)500gに500gのN,N’−ジメチルアセトアミドを加え約500g以下になるまで減圧濃縮して溶媒置換を行った後、N,N’−ジメチルアセトアミドの添加で濃度調整をすることで15質量%の酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散物(2)を得た。
【0097】
[熱可塑性樹脂の合成]
(1)熱可塑性樹脂(P−1、2、4、5、6、10、12、23、24、26、29、30)の合成
プラクセルFM1A(商品名;ダイセル化学工業株式会社製)1g、スチレン99gおよび重合開始剤V−601(商品名;和光純薬工業株式会社製)0.50gを酢酸エチル233.3gに溶解し、窒素雰囲気下75℃で3時間重合反応を行なった後、反応液をメタノール2Lに投入して再沈澱を行うことにより、熱可塑性樹脂(P−1)を合成した。
得られた樹脂の分子量をGPCで測定したところ数平均分子量55000、分子量分布1.85であった。
アッベ屈折計で測定した該樹脂の波長589nmにおける屈折率は1.59であった。
下記実施例で用いた樹脂(P−2、P−4、P−6、P−10、P−12、P−23、P−24、P−26、P−29、P−30)もモノマー種、モノマー濃度、開始剤濃度を変更する以外は同様にして合成した。
【0098】
(2)熱可塑性樹脂(P−37)の合成
特開2004−217647号公報実施例2に記載の方法に準じて、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタンスルホン酸ナトリウムを合成した。さらに特開平5−222175の実施例3の合成例においてビスフェノールAジアセテートの一部を、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタンスルホン酸ナトリウムに置き換えることにより、熱可塑性樹脂P−37を合成した。
得られた樹脂の分子量をGPCで測定したところ数平均分子量50000であった。アッベ屈折計で測定した該樹脂の波長589nmにおける屈折率は1.61であった。
【0099】
(3)比較例の熱可塑性樹脂(X−1、2)の合成(特開2007−238929号公報例示化合物B−13に例示の化合物)
上記熱可塑性樹脂(P−1)の合成と同様にして、比較例の熱可塑性樹脂X−1、2を合成した。
【0100】
【化16】

【0101】
(4)比較樹脂(X−3)の合成(特開2006−131736号公報樹脂番号(1)に例示の化合物)
メタクリル酸メチル100gおよび重合開始剤V−601(商品名;和光純薬工業株式会社製)0.5gを酢酸エチル233.3gに加え、窒素雰囲気下75℃で3時間重合反応を行なった後、反応液をメタノール2Lに投入して再沈澱を行うことにより、側鎖に微粒子結合性の官能基を含まない比較樹脂X−3を合成した。GPCで測定したところ数平均分子量は55000であった。またアッベ屈折計で測定した該樹脂の屈折率は1.49であった。
【0102】
【化17】

【0103】
(5)比較樹脂(X−4)の合成
スチレン100gおよび重合開始剤V−601(商品名;和光純薬工業株式会社製)0.5gを酢酸エチル233.3gに加え、窒素雰囲気下75℃で3時間重合反応を行なった後、反応液をメタノール2Lに投入して再沈澱を行うことにより、側鎖に微粒子結合性の官能基を含まない比較樹脂X−4を合成した。GPCで測定したところ数平均分子量は58000であった。またアッベ屈折計で測定した官能基を含まない該樹脂の屈折率は1.59であった。
【0104】
【化18】

【0105】
[材料組成物の調整並びに透明成形体の作製]
[実施例1]
前記酸化ジルコニウムジメチルアセトアミド分散液に熱可塑性樹脂P−1、4‐n−プロピル安息香酸(C3BA)、および可塑剤としてテトラフェニルエーテルS−3103(商品名;株式会社松村石油化学研究所製)を質量比が、ZrO2固形分/P−1/n−プロピル安息香酸/テトラフェニルエーテル=41.7/45.8/8.3/4.2の比率になるように添加して均一に攪拌混合した後、加熱減圧下ジメチルアセトアミド溶媒を濃縮した。該濃縮残渣を90℃で真空ポンプにより2時間乾燥させることにより有機無機複合組成物NC−1を得た。
【0106】
次に該有機無機ナノコンポジット粉末NC−1をテクノベル社製コンパウンドテスターULT−nano(製品名;吐出口径3mm)に投入し、バレル温度170℃、ダイス温度180℃に設定して、溶融押出しを行ない透明なロッド状の有機無機複合組成物を得た。押出し圧力は6.1MPaであり、単位体積あたりの投入エネルギーは6.1MJ/m3であった。さらに該ロッド状の有機無機複合組成物を1mmの厚みに切断し光線透過率および屈折率を測定した。また粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ微粒子は樹脂中に均一に分散していることが確認された。
さらに該ロッド状の有機無機複合組成物を約3.5mm厚みに切断したプリフォームを加熱圧縮成形し(温度;180℃、圧力;13.7MPa、時間2分)、厚さ1mm、φ3mmの平板状の透明成形体を作製し、該サンプルを用いて上記耐衝撃性試験を行なった。
上記有機無機複合組成物NC−1の構成成分を表1に示し、評価の結果を下記表2に示す。
【0107】
[実施例2〜13]
上記実施例1と同様にして、表1に示す構成成分の有機無機複合組成物NC−2〜13を調整した。押出機により押し出されたこれらの有機無機複合組成物はいずれも透明であり、また粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ微粒子は樹脂中に均一に分散していることが確認された。
これらの有機無機複合組成物を評価した結果を表2に示す。
【0108】
[実施例14]
特開2003−73559号公報の合成例9に記載される方法に従い、酸化チタン微粒子を合成した。X線解析(XRD)と透過型電子顕微鏡(TEM)により、アナタ―ス型酸化チタン微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。前記酸化チタン微粒子を1−ブタノールに懸濁させ、超音波処理を30分行った後、100℃にて30分加熱した。得られた白濁液を、酸化チタンの固形部分が全固形分の40質量%となる様に、分散ポリマーP−1が10質量%で溶解したクロロホルム溶液に撹拌しながら常温で5分かけて滴下した。得られた混合液から溶媒を留去することにより得られた有機無機複合組成物NC−14を実施例1と同様にしてロッド状に押出し加工し評価した。押出機により押し出された有機無機複合組成物NC−14は透明であり、また粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ微粒子は樹脂中に均一に分散していることが確認された。
有機無機複合組成物NC−14の構成成分を表1に示し、評価の結果を下記表2に示す。
【0109】
[実施例15、16]
上記実施例14においてP−1をP−23およびP−24に変更する以外は、実施例14と同様にして、有機無機複合組成物NC−15およびNC−16をそれぞれ調整した。構成成分を表1に示す。押出機により押し出されたこれらの有機無機複合組成物はいずれも透明であり、また粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ微粒子は樹脂中に均一に分散していることが確認された。
有機無機複合組成物NC−15、NC−16を評価した結果を表2に示す。
【0110】
[比較例1〜5]
実施例1における熱可塑性樹脂P−1を比較例の樹脂X−1〜X−4に置き換え、表1に示す構成成分にて実施例1と同様にして比較例の有機無機複合組成物NCX−1〜NCX5を調整した。実施例1と同様にして押出機により押し出しを試みたが、NCX−1〜3は樹脂の流動性が低く、20MJ/m3の投入エネルギーでは押し出すことができず、さらに100MJ/m3まで投入エネルギーを上げて押し出されたものは、茶色に着色し不透明なものであった。またNCX−4、5は100MJ/m3の投入エネルギーで押し出しても不透明であった。これらの押し出された材料において粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ、微粒子の凝集が確認された。
上記有機無機複合組成物NCX−1〜5の評価の結果を下記表2に示す。
【0111】
[比較例6,7]
実施例1および2において、溶融押出し時の投入エネルギーをそれぞれ100MJ/m3にする以外は実施例1および2と同様にして、比較例6および7の有機無機複合材料を得た。これらはいずれも茶色に着色して不透明なものであった。これらの押し出された材料において粒子の分散状態を断面TEMで観察したところ、微粒子の凝集が確認された。上記有機無機複合組成物の評価の結果を下記表2に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
表1から本発明の有機無機複合組成物は良好な流動性および粒子分散性を有するため、低い投入エネルギーで、透明性良好な有機無機複合組成物を与えることが分る。
側鎖にカルボキシル基が直接結合した熱可塑性樹脂(比較化合物X−1、2)を用いた有機無機複合組成物では流動性が悪いため低エネルギーでは押出し機によって押し出すことができず、100MJ/m3程度のエネルギーを与えると押し出すことは可能になるが透明な材料は得られないことが分る(比較例1〜3)。可塑剤を増量したNCX−2(比較例2)においても流動性改善に顕著な効果は認められない。一方側鎖に4原子の連結鎖を介してカルボキシル基が導入された熱可塑性樹脂(例えばP−12;実施例9)を用いた本発明の有機無機複合組成物では耐衝撃性を満足する5万以上の分子量でも100MJ/m3以下の投入エネルギーで透明な材料が得られる事が分る。さらに側鎖に5原子以上の連結鎖を介してカルボキシル基が導入された熱可塑性樹脂(例えばP−10など)を用いた有機無機複合組成物では樹脂の流動性が飛躍的に向上し、数平均分子量5万以上の高分子量体でも、低エネルギーでより透明性に優れる材料が得られることが分る(例えば実施例3など)。
【0115】
本発明の有機無機複合組成物では、分子量を下げると流動性は良化するものの、脆性が低下する傾向があり、5万以上の数平均分子量が望ましく(例えば実施例1および2の比較)、耐熱性の観点からは80℃以上のTgを有することが好ましい。通常分子量およびTgを上げると樹脂の流動性が低下するのが一般的であるが、本発明の有機無機複合組成物はTg80℃以上かつ数分子量5万以上の高分子量体でも良好な流動性を有しかつ透明性に優れた材料を与える事が分る。
また側鎖に官能基を含まない比較例の樹脂(X−3、4)を用いた有機無機複合組成物では、100MJ/m3以下の投入エネルギーでは透明材料を得るのは困難であるが(比較例4,5)、官能基を含有する本発明の樹脂では透明性に優れた材料が得られることが分る。ただし官能基の含量がポリマー鎖1本当たり20個を超える場合には押出し圧力が高くなり、透明性が若干低下する傾向がある(実施例7)。
【0116】
一方、実施例1に示す圧縮成形条件において、凹凸形状の金型を用いることにより、上記本発明の有機無機複合組成物(NC−1〜15)から、金型の面形状が正確に転写された凹凸レンズが得られることを確認した。
【0117】
上記の如く、本発明の有機無機複合組成物は流動性に優れるため、低い投入エネルギーで生産性良く透明な成形体に加工しやすく、無機材料の特性を生かした高品質な光学部材を得る目的に好適であることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100MJ/m3未満の混錬エネルギーによって製造することを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項2】
厚さ1mm換算で589nmにおいて70%以上の光線透過率を有することを特徴とする請求項1に記載される有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径が1〜20nmである無機微粒子を含有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項4】
前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化亜鉛または酸化チタンを含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項5】
数平均分子量が5万以上の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項6】
前記有機無機複合組成物が80℃以上のガラス転移温度を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が側鎖または末端に前記無機微粒子と結合し得る官能基を含有することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂中の前記無機微粒子と結合しうる官能基が、
【化1】

[R11、R12、R13、R14は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。]、−SO3H、−OSO3H、−CO2H、またはこれらの塩、または−Si(OR15m1163-m1[R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、m1は1〜3の整数を表す。]からなる群より選択される官能基であることを特徴とする請求項7に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項9】
前記官能基が前記熱可塑性樹脂のポリマー鎖1本あたりに平均0.1〜20個の範囲で含まれていることを特徴とする請求項8に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項10】
波長589nmにおける屈折率が1.60以上であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項11】
押出機によって100MJ/m3未満の混錬エネルギーにより混錬、押出すことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載の製造方法により製造された有機無機複合組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の有機無機複合組成物を含む透明成形体。
【請求項14】
請求項12に記載の有機無機複合組成物を含む光学物品。
【請求項15】
請求項12に記載の有機無機複合組成物を含むレンズ。

【公開番号】特開2009−221247(P2009−221247A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64433(P2008−64433)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】