説明

有機発光デバイス

有機発光デバイスを製造する方法であって、アノード(2)上に有機発光層(3)を堆積させ、有機発光層上にカソードを堆積させることを含む方法において、カソードが、電子注入材料を含む第1の層(4a)を堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第2の層(4b)を第1の層上に堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第3の層(4c)を第2の層上に堆積させることによって形成される3層構造を含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光デバイスと、有機発光デバイス用の新しいカソード構造とに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光デバイス(Organic light emissive device、OLED)は一般に、カソード、アノード、およびカソードとアノードとの間の有機発光領域を備える。発光有機材料は、米国特許第4,539,507号明細書に記載されたような小分子材料、または国際公開第90/13148号に記載されたもののようなポリマー材料を含んでよい。カソードは発光領域に電子を注入し、アノードは正孔を注入する。電子および正孔は、発光領域の再結合領域において結合して光子を生成する。
【0003】
図1は、OLEDの典型的な断面構造を示す。OLEDは、典型的には、酸化インジウムスズ(ITO)層のような透明なアノード2で被覆されたガラスまたはプラスチックの基板1上に作られる。ITO被覆基板は、少なくとも、エレクトロルミネッセンス有機材料3およびカソード材料4の薄膜の層で覆われる。また、例えば電極とエレクトロルミネッセンス材料との間の電荷輸送を向上させるために、他の層がデバイスに追加され得る。
【0004】
図1に示される構成では、基板1およびアノード2は透明で、エレクトロルミネッセンス有機層3から放射された光を通せるようになっている。このような構成は、ボトムエミッション型デバイスとして知られている。別の構成では、エレクトロルミネッセンス有機層3から放射された光を通せるよう、カソード4が透明になっている。このような構成は、トップエミッション型デバイスとして知られている。
OLEDは、ディスプレイ用途での使用への関心が高まっているが、これは、従来のディスプレイに対するその潜在的な利点のためである。OLEDは、動作電圧と電力消費が比較的低く、大面積ディスプレイを生産するために容易に加工することができる。実用的な面では、明るく、効率良く動作し、しかも確実に生産できて、安定して使用できるOLEDを生産する必要がある。
OLEDのカソードの構造は、当技術分野において検討されている一側面である。単色OLEDの場合、カソードは、単一のエレクトロルミネッセンス有機材料で最適性能となるように選択されてよい。しかしながら、フルカラーOLEDは、赤色光、緑色光、および青色光の有機発光材料で構成される。このようなデバイスでは、3つの発光材料すべてに電子を注入できるカソード、すなわち「共通電極」が必要である。
【0005】
カソード4は、エレクトロルミネッセンス層への電子の注入を可能にする仕事関数を有する材料から選択され得る。カソードの選択には、カソードとエレクトロルミネッセンス材料との間の有害な相互作用の可能性のような他の要因が影響を及ぼす。カソードは、アルミニウムの層のような単一の材料で構成されてよい。あるいは、カソードは、複数の金属で構成されてもよく、複数の金属は、例えば、国際公開第98/10621号に開示されたようなカルシウムとアルミニウムとの2層、国際公開第98/57381号、Appl. Phys. Lett. 2002, 81(4), 634、および国際公開第02/84759号に開示された元素バリウム、または電子注入を助けるための誘電体材料の薄層(1nmないし15nm)であり、誘電体材料は、例えば、国際公開第00/48258号に開示されたフッ化リチウム、またはAppl. Phys. Lett. 2001, 79(5), 2001に開示されたフッ化バリウムである。電子をデバイスへ効率的に注入するため、カソードは、好ましくは3.5eV未満、より好ましくは3.2eV未満、最も好ましくは3eV未満の仕事関数を有する。
有機発光層(または、存在する場合は有機電子輸送層)と金属カソードとの間に金属フッ化物の層を置くことにより、デバイス効率を向上させることができる。これについては、例えばAppl. Phys. Lett. 70, 152, 1997を参照せよ。この向上は、ポリマーとカソードとの境界面における障壁の高さが低下して有機層(または複数の有機層)への電子注入が向上することに由来すると考えられている。LiF/Alカソードを用いた場合のデバイス劣化の仕組みがAppl. Phys. Lett. 79(5), 563-565, 2001に提案されており、そこでは、LiFとAlとが反応して、エレクトロルミネッセンス層に移動してエレクトロルミネッセンス材料にドープすることのできるLi原子を放出する可能性があるとされている。しかしながら、本発明者らは、LiF/Alカソードが比較的安定であり、その主な欠点は(特に共通カソードとして用いられた時の)比較的低い効率である、ということを見いだした。より効率的な構成は、LiF/Ca/Alの3層を利用するものであり、これは共通カソードとしてSynth. Metals 2000, 111-112, p.125-128に記載されている。しかしながら、劣化は、このカソードと、三量体繰り返し単位チオフェン−ベンゾチアジアゾール−チオフェンを含む赤色発光ポリマーのような硫黄含有蛍光エレクトロルミネッセンス材料とで構成されるデバイスにおいて特に認められるということが、国際公開第03/019696号に報告されている。国際公開第03/019696号は、LiFではなくバリウム系材料を用いることを提案しており、これらの硫黄含有蛍光エレクトロルミネッセンス材料のためのBaF/Ca/Alの3層構造を開示している。また、ハロゲン化バリウムおよび酸化バリウムを含む他のバリウム化合物の使用についても、可能性として国際公開第03/019696号で言及されている。バリウム化合物層は、1nmないし6nmの範囲の厚さを有すると開示されている。
【0006】
米国特許第6,563,262号明細書は、金属酸化物(例えばBaO)とアルミニウムとの2層を、蛍光性のポリ(p−フェニレンビニレン)発光材料(PPV)に用いることを提案している。金属酸化物層は、1.5nmないし20nmの範囲の厚さを有すると開示されている。
【0007】
上記を踏まえると、薄い金属化合物の層を有機発光デバイスのカソードの電子注入層として使用することについて、さまざまな開示が存在することが分かる。そして、これらの層は、例えばスパッタリングのような高エネルギー処理を用いて上位層が堆積させられるときに、下位層をあまり保護しない。
国際公開第2006/016153号は、金属化合物と金属とを含む複合電子注入層の使用について開示している。そのような複合層は、良好な電気的特性を維持しつつ金属成分による消光を低減できる、ということが教示されている。さらに、これらの複合層は、トップエミッション型デバイス用に良好な透明性で作ることができる、ということが教示されている。さらに、金属成分は層の導電率を増加させ、それにより厚くて透明な導電性の層がもたらされ、その層は、ITOのような材料が下位層の上にスパッタされる時に下位層を保護するバッファ層(スパッタ障壁)として働き得る、ということが教示されている。しかしながら、これらの複合層で起こり得る問題は、それらを形成するために用いられる共堆積処理は、単一成分の堆積と比較してより費用がかかり制御が困難である、ということである。
米国特許第6,576,093号明細書は、Caのような低仕事関数材料の層とアルミニウムのような仕事関数がより高い材料の層とで構成される2層カソードを開示している。カソード層は、典型的には、真空蒸着、またはRFスパッタリングもしくはDCマグネトロンスパッタリングのようなスパッタリング技術によって堆積させられる、ということが記載されている。下位層が可溶性共役ポリマーのような比較的敏感な材料の層である場合、第1の層を堆積させる技術として真空蒸着が好ましいことが多いが、これは、真空蒸着が、有機材料の下位層に与える損傷がより少ない比較的低エネルギーの処理だからである、ということが記載されている。さらに、従来の真空蒸着技術によって堆積させられたカソード層にはピンホールがあり、そこを通って水と酸素がデバイスに入り込んで有機層とカソードとの境界面で反応を起こす可能性がある、ということが記載されている。これらの反応の結果、発光しない黒点が形成され、デバイス性能の劣化につながる。従って、真空蒸着のような低エネルギー堆積技術を用いて低仕事関数材料の第1の層を堆積させ、スパッタリング技術のような相応の堆積技術で仕事関数がより高い材料の第2の層を堆積させることによって、カソードを形成すべきである、ということが提案されている。
本発明の実施の形態の目的は、不均一な発光につながるカソード層のピンホールという上記の問題に対して、代替となる解決策を提供することである。さらなる目的は、光電気的な効率が増加した有機発光デバイス構造を提供することである。さらなる目的は、より低い初期駆動電圧と、保管および焼成時のより良好な駆動電圧安定性とを有する有機発光デバイス構造を提供することである。さらなる目的は、特により高い動作温度において、寿命の向上した有機発光デバイスを提供することである。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、有機発光デバイスを製造する方法であって、アノード上に有機発光層を堆積させ、有機発光層上にカソードを堆積させることを含む方法において、カソードが、電子注入材料を含む第1の層を堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第2の層を第1の層上に堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第3の層を第2の層上に堆積させることによって形成される3層構造を含む方法が提供される。
【0009】
驚くべきことに、低仕事関数の電子注入層と高仕事関数の金属層とで構成される2層の上に高仕事関数の金属材料の第3の層を設けることによって、光電気的な効率が増加し、初期駆動電圧が低下し、寿命が(特により高い温度において)向上し、保管および焼成時のより良好な駆動電圧安定性がもたらされる、ということが分かった。さらに、真空蒸着のような低エネルギー堆積技術がカソード層に用いられた場合であっても、ピンホールに起因する不均一な発光の問題が解決される。
【0010】
以前の多層カソード構造は、低仕事関数電子注入層と高仕事関数キャップ層とで構成される2層か、または2つの低仕事関数層とその上の高仕事関数キャップ層とで構成される3層構造(例えばLi/Ca/Al)もしくは金属化合物層と低仕事関数層と高仕事関数キャップ層とで構成される3層構造(例えばLiF/Ca/Al)か、のいずれかから成っていた。そのような3層構造では、最初の2つの層が相互に作用して電子注入を向上させることができる、と考えられていた。
【0011】
本カソード構造によって達成される光電気的な効率の増加および駆動電圧の低下は、驚くべきことであると考えられるかもしれない。なぜならば、一見したところでは、さらなる高仕事関数金属層を(低仕事関数電子注入層と高仕事関数金属層とで構成される2層の上に)追加しても、カソード構造の電子注入特性が著しく変わることはないと予想されるからである。第3の層が電子注入境界面から著しく隔たっており、かつ高い仕事関数を有する、という事実からは、第3の層はデバイスの効率および駆動電圧にほとんど影響しないであろうと連想されるかもしれない。しかしながら、本出願人は、この場合はそうではなく、驚くべきことに、そのような第3の層を設けることにより、第3の層のない2層カソード構造と比較して、光電気的な効率が増加し、初期駆動電圧が低下し、保管および焼成時のより良好な駆動電圧安定性がもたらされる、ということを見いだした。
【0012】
さらに、ピンホールに起因する不均一な発光の問題は、米国特許第6,576,093号明細書に記載されたスパッタリング技術のような、高エネルギーに適する堆積技術の使用を必要とせずに解決される。従って、少なくとも第1および第2の層、そして第3の層でさえ、真空蒸着のような低エネルギー堆積技術を用いて堆積させられてよい。第2の層に存在するピンホールを第3の層が埋めて、第2および第3の層が共に、第2の層単独の場合よりも水と酸素の侵入に対してずっと強い、平滑で比較的ピンホールのない構造を形成するものと想定される。
【0013】
カソードの電気的な接続は、直接第3の層に対して行われてよい。あるいは、電気的な接続は、直接第2の層に対して行われてもよい。いずれの場合でも、第2および第3の層の両方が、デバイスを駆動するのに用いられる電源に、少なくとも間接的に電気的に接続されることは認められるであろう。
【0014】
好ましくは、第2および第3の層は、相当量の低仕事関数材料が配置されていない単純金属または合金である。前述したように、第2および第3の層に高仕事関数材料を用いることにより、さらなる低仕事関数材料を必要とすることなく、駆動電圧の低下および効率の増加のような有利な機能的効果が驚くほどに達成される。従って、そのような複合層を形成するために用いられる(より費用がかかり制御が困難な)共堆積処理を回避できる。
【0015】
好ましくは、第2および第3の層は、真空チャンバ内で、第2および第3の層の堆積の間で真空を途切れさせることなく形成される。こうして、第2および第3の層は、さらなる封止層がデバイスに与えられる前に起こり得る水分または酸素への暴露からデバイスを保護する「一次の」封止を、デバイスに与えてよい。
【0016】
第3の層上には、1つ以上のポリマー層および/または1つ以上の誘電体層を含む封止被覆が堆積させられてよい。好ましくは、封止被覆は、交互のポリマー層と誘電体層とを含む。あるいは、デバイスを覆うためにデバイス上に付けられ基板に接着されるガラスまたは金属の「缶」のような覆いを用いて、デバイスが封止されてよい。
【0017】
第1の層の材料の仕事関数は、3.5eV未満、または3.3eV未満、またはより好ましくは3.1eV未満であってよい。第2および/または第3の層の材料の仕事関数は、3.7eVより大きくてよく、より好ましくは3.9eVより大きくてよい。
【0018】
第1の層の材料は、第1族または第2族の金属、第1族または第2族の金属の合金、および第1族または第2族の金属の化合物、例えば酸化物またはフッ化物から選択されてよい。好適な材料の例としては、Ba、BaO、およびNaFがある。
【0019】
第1の層は、好ましくは最大10nm、より好ましくは最大5nmの厚さを有する。
【0020】
好ましくは、第2および第3の層は、それぞれが独立に20nmないし500nmの範囲の厚さを有する。第2の層は、より好ましくは100nmないし300nmの範囲の厚さを有し、第3の層は、より好ましくは50nmないし200nmの範囲の厚さを有する。
【0021】
第2および/または第3の層に好適な材料の例は、Al、Ag、およびNiCrである。第3の層の材料は、好ましくは第2の層の材料と異なる。ある好ましい実施の形態において、第2の層はアルミニウムであり、第3の層はAgまたはNiCrである。しかしながら、第3の層を、第2の層と同じ材料で作りつつ、第2の層と第3の層との間に異質な境界面が設けられるように第2の層とは別個の堆積ステップで堆積させることも可能である。この場合、間に境界面を持つ2つの別の層の存在は、第2および第3の層の微細構造を解析することによって判定されてよい。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間の有機発光層とを備える有機発光デバイスであって、カソードが、3.5eV以下の仕事関数を有する材料を含む第1の層と、3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、第1の層上に配置された第2の層と、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、第2の層上に配置された第3の層とで構成される3層構造を含む、有機発光デバイスが提供される。有機発光デバイスは、本発明の第1の態様に関して説明されたように製造されてよく、本発明の第1の態様に関して説明された特徴を1つ以上有してよい。
【0023】
本発明の第3の態様によれば、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間の有機発光層とを備える有機発光デバイスであって、カソードが、3.5eVより大きな仕事関数を有する材料から成る第1の層と、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する材料から成る、第1の層上に配置された第2の層とで構成される2層構造を含む、有機発光デバイスが提供される。
【0024】
本発明の第4の態様によれば、有機発光デバイスを製造する方法であって、アノード上に有機発光層を堆積させ、有機発光層上にカソードを堆積させることを含む方法において、カソードが、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第1の層を堆積させ、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第2の層を第1の層上に堆積させることによって形成される2層構造を含み、第1の層および第2の層が真空蒸着によって堆積させられる方法が提供される。
【0025】
第3および第4の態様は、第1および第2の態様に関して説明された特徴を1つ以上有してよいが、独立した電子注入層を設ける必要はない。これらの態様は、最適化された電子注入を必ずしも必要とはしないデバイスにおいて有用な場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
次に、本発明について、単に例として、添付の図面を参照してさらに詳しく説明する。
【図1】図1は、OLEDの典型的な断面構造を図示した図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態によるOLEDの断面構造を示す図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、標準的なカソード構造を有するデバイスについて、焼成・保管後のデバイスのエレクトロルミネッセンスを示す図である。
【図4】図4(a)および図4(b)は、本発明の実施の形態によるカソード構造を有するデバイスについて、保管・焼成後のデバイスのエレクトロルミネッセンスを示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態によるカソード構造を有するデバイスの効率曲線(上の線)を、標準的なカソード構造を有するデバイス(下の線)と比較して示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態によるカソード構造を有する2つデバイスの初期駆動電圧(下の2本の線)を、標準的なカソード構造を有するデバイス(上の線)と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、前述したが、OLEDの典型的な断面構造を図示した図である。図2は、本発明の実施の形態によるOLEDの断面構造を示す図である。本実施の形態の構造を、図1に示した標準的な構造と比較してより明確に示すため、同一の部分には同一の参照番号を用いてある。OLEDは、基板1と、アノード2と、有機発光層3と、カソード4とを備える。本発明によれば、カソード4は、電子注入材料を含む第1の層4aと、3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、第1の層上に配置された第2の層4bと、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、第2の層上に配置された第3の層4cとを備える。
【0028】
標準的なデバイスは、保管または焼成時に輝点またはまだらを生じることが分かっている。例えば、図3(a)は、NaF/Alの2層カソードを有するデバイスについて保管・焼成後のエレクトロルミネッセンスを示し、図3(b)は、BaO/Alの2層カソードを有するデバイスについて焼成・保管後のエレクトロルミネッセンスを示す。見て分かるように、両方のデバイスが、不均一な発光によるまだらを有する。
【0029】
高仕事関数金属のキャップ層を付加することによって、保管および/または焼成後のデバイス発光の見掛けが向上することが分かった。例えば、図4(a)は、NaF/Al/Agの3層カソードを有するデバイスについて焼成・保管後のエレクトロルミネッセンスを示し、図4(b)は、BaO/Al/Agの3層カソードを有するデバイスについて焼成・保管後のエレクトロルミネッセンスを示す。見て分かるように、両方のデバイスが均一な発光を有する。
【0030】
さらに、高仕事関数金属のキャップ層を付加することによって、カソードでの電子注入が向上することが分かった。これは、低い駆動電圧での効率の向上によって示される。一例が図5に示してあり、同図は、カソード構造BaO/Al/Agを有するデバイスの効率曲線(上の線)を、カソード構造BaO/Alを有するデバイス(下の線)と比較して示すものである。見て分かるように、Agでキャップされたデバイスは、標準的なBaO/Alカソード構造と比較して、低い駆動電圧においてより高い効率を示している。
【0031】
さらにまた、高仕事関数金属のキャップ層を付加することによって、初期の導電率と、保管および焼成時のデバイス導電率および駆動電圧の安定性との両方が著しく向上することが分かった。例が図6に示してあり、同図は、本発明の実施の形態によるカソード構造を有する2つのデバイスの初期駆動電圧(下の2本の線)を、標準的なカソード構造を有するデバイス(上の線)と比較して示すものである。一番下の線のデバイスは、カソード構造NaF/Al/Agを有する。下から2番目の線のデバイスは、カソード構造NaF/Al/NiCrを有する。一方、図6のグラフの上の線のデバイスは、カソード構造NaF/Alを有する。見て分かるように、キャップされたNaFデバイスの初期駆動電圧は、キャップされていないデバイスよりも低く、焼成時のデバイス導電率の安定性は、キャッピングによって向上している。
【0032】
本発明の実施の形態の他の特徴について、図2を参照して以下に説明する。
[電荷輸送層]
アノード2とカソード4との間には、電荷輸送層、電荷注入層、または電荷阻止層のような、さらなる層が配置されてよい。
【0033】
特に、導電性正孔注入層を設けることが望ましく、導電性正孔注入層は、アノード2とエレクトロルミネッセンス層3との間に設けられた導電性有機材料または導電性無機材料から形成されて、アノードから半導体ポリマー層または複数の半導体ポリマー層への正孔注入を助けてよい。有機正孔注入材料のドープ体の例としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)のドープ体、特に、欧州特許第0901176号明細書および欧州特許第0947123号明細書に開示されたようなポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアクリル酸、または例えばナフィオン(登録商標)などのフッ素化スルホン酸のような、電荷を平衡化するポリ酸をドープされたPEDTや、米国特許第5723873号明細書および米国特許第5798170号明細書に開示されたようなポリアニリン、そしてポリチエノチオフェンなどがある。導電性無機材料の例としては、Journal of Physics D: Applied Physics (1996), 29(11), 2750-2753に開示されたようなVOx、MoOx、RuOxなどの遷移金属酸化物などがある。
【0034】
アノード2とエレクトロルミネッセンス層3との間に配置された正孔輸送層が存在する場合、同層は、好ましくは5.5eV以下、より好ましくは4.8〜5.5eV程度のHOMO準位を有する。HOMO準位は、例えばサイクリックボルタンメトリーによって測定されてよい。
【0035】
エレクトロルミネッセンス層3とカソード4との間に配置された電子輸送層が存在する場合、同層は、好ましくは3〜3.5eV程度のLUMO準位を有する。
【0036】
[エレクトロルミネッセンス層]
エレクトロルミネッセンス層3は、エレクトロルミネッセンス材料のみから成ってもよいし、エレクトロルミネッセンス材料と1つ以上のさらなる材料との組み合わせで構成されてもよい。特に、エレクトロルミネッセンス材料は、例えば国際公開第99/48160号に開示されているように正孔輸送材料および/または電子輸送材料と混合されてもよいし、半導体ホストマトリクスに発光ドーパントを含んでもよい。あるいは、エレクトロルミネッセンス材料は、電荷輸送材料および/またはホスト材料と共有結合してもよい。
【0037】
エレクトロルミネッセンス層3は、パターン形成されてもよいし、パターン形成されなくてもよい。パターン形成されていない層を備えるデバイスは、例えば光源に用いられてよい。この用途には白色発光デバイスが特に好適である。パターン形成された層を備えるデバイスは、例えばアクティブマトリクスディスプレイまたはパッシブマトリクスディスプレイであってよい。アクティブマトリクスディスプレイの場合、パターン形成されたエレクトロルミネッセンス層は、典型的には、パターン形成されたアノード層およびパターン形成されていないカソードと組み合わせて用いられる。パッシブマトリクスディスプレイの場合、アノード層は、平行な縞状のアノード材料と、アノード材料に対して垂直に配置された平行な縞状のエレクトロルミネッセンス材料およびカソード材料とで形成され、縞状のエレクトロルミネッセンス材料およびカソード材料は、典型的には、フォトリソグラフィによって形成された縞状の絶縁材料(「カソードセパレータ」)によって分離される。
【0038】
層3で用いるのに好適な材料としては、小分子材料、ポリマー材料、およびデンドリマー材料、ならびにそれらの合成物などがある。層3で用いるのに好適なエレクトロルミネッセンス・ポリマーとしては、例えばポリ(p−フェニレンビニレン)のようなポリ(アリーレンビニレン)や、例えばポリフルオレン、特に2,7−結合9,9ジアルキルポリフルオレンまたは2,7−結合9,9ジアリールポリフルオレン、ポリスピロフルオレン、特に2,7−結合ポリ−9,9−スピロフルオレン、ポリインデノフルオレン、特に2,7−結合ポリインデノフルオレン、ポリフェニレン、特にアルキル置換またはアルコキシ置換されたポリ−1,4−フェニレンのようなポリアリーレンなどがある。そのようなポリマーは、例えばAdv. Mater. 2000 12(23) 1737-1750およびその引用文献に開示されている。層3で用いるのに好適なエレクトロルミネッセンスデンドリマーとしては、例えば国際公開第02/066552号に開示されたようなデンドリマー基を持つエレクトロルミネッセンス金属錯体などがある。
【0039】
[カソード]
カソード4は、本発明の実施の形態による3層構造を含む。また、カソードは、不透明でも透明でもよい。透明なカソードは、アクティブマトリクスデバイスに特に有利であるが、これは、そのようなデバイスでの透明なアノードを通じた発光は、発光画素の下に位置する駆動回路によって少なくとも部分的に妨げられるからである。カソードが透明な場合は、カソードの第3の層は、カソードの第2の層の材料よりも透明な材料で作られることが好ましい。例えば、第2の層はAlであってよく、第3の層はAgであってよい。
【0040】
[封止]
光デバイスは、水分および酸素に対して敏感な傾向がある。従って、基板は、デバイスへの水分および酸素の侵入を防ぐ良好な障壁特性を有することが好ましい。また、基板は一般にガラスであるが、特にデバイスの柔軟性が望まれる場合は、代替となる基板が用いられてもよい。例えば、基板は、プラスチック層と障壁層とが交互になっている基板を開示している米国特許第6268695号明細書にあるようにプラスチックで構成されてもよいし、欧州特許第0949850号明細書に開示されているように薄いガラスおよびプラスチックの積層板で構成されてもよい。
【0041】
デバイスは、水分および酸素の侵入を防ぐために封止材(図示せず)で封止されることが好ましい。好適な封止材としては、ガラス板や、例えば国際公開第01/81649号に開示されているようなポリマーと誘電体との交互の積み重ねなどの好適な障壁特性を有する膜、または、例えば国際公開第01/19142号に開示されているような気密容器などがある。基板または封止材を透過する恐れのある雰囲気中の水分および/または酸素を吸収するゲッター材料が、基板と封止材との間に配置されてもよい。
【0042】
[共役ポリマー(蛍光性および/または電荷輸送性)]
好適なエレクトロルミネッセンス・ポリマーおよび/または電荷輸送ポリマーとしては、例えばポリ(p−フェニレンビニレン)のようなポリ(アリーレンビニレン)や、ポリアリーレンなどがある。
【0043】
ポリマーは、好ましくは、例えばAdv. Mater. 2000 12(23) 1737-1750およびその引用文献に開示されたようなアリーレン繰り返し単位から選択された第1の繰り返し単位を含む。例示的な第1の繰り返し単位としては、J. Appl. Phys. 1996, 79, 934に開示されたような1,4−フェニレン繰り返し単位、欧州特許第0842208号明細書に開示されたようなフルオレン繰り返し単位、例えばMacromolecules 2000, 33(6), 2016-2020に開示されたようなインデノフルオレン繰り返し単位、例えば欧州特許第0707020号明細書に開示されたようなスピロフルオレン繰り返し単位などがある。これらの繰り返し単位のそれぞれは、随意に置換される。置換基の例としては、C〜C20のアルキルまたはアルコキシのような可溶化基、フッ素、ニトロ、またはシアノのような電子求引基、およびポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させる置換基などがある。
【0044】
特に好ましいポリマーは、随意に置換された2,7−結合フルオレンを含み、最も好ましくは、式Iの繰り返し単位を含む。
【化1】

ただし、RおよびRは、水素、または随意に置換されたアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、およびヘテロアリールアルキルから別々に選択される。より好ましくは、RおよびRのうちの少なくとも一方が、随意に置換されたC〜C20のアルキル基またはアリール基を含む。
【0045】
ポリマーは、それがデバイスのどの層で用いられるかと、共繰り返し単位(co-repeat unit)の性質とに応じて、正孔輸送、電子輸送、および発光のうちの1つ以上の機能を提供してよい。
【0046】
特に、
・9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイルのホモポリマーのような、フルオレン繰り返し単位のホモポリマーは、電子輸送を提供するために利用されてよい。
・トリアリールアミン繰り返し単位を含むコポリマー、特に繰り返し単位II。
【化2】

ただし、ArおよびArは、随意に置換されたアリール基またはヘテロアリール基であり、nは1以上、好ましくは1または2であり、Rは、Hまたは置換基、好ましくは置換基である。Rは、好ましくはアルキルまたはアリールまたはヘテロアリールであり、最も好ましくはアリールまたはヘテロアリールである。式1の単位内のアリール基またはヘテロアリール基のいずれもが置換されてよい。好ましい置換基としては、アルキル基およびアルコキシ基などがある。式1の繰り返し単位内のアリール基またはヘテロアリール基のいずれもが、直接結合または二価の連結原子もしくは連結基によって連結されてよい。好ましい二価の連結原子および連結基としては、O、S、置換されたN、および置換されたCなどがある。
【0047】
式IIを満たす単位で特に好ましいものとしては、式2ないし4の単位などがある。
【化3】

【化4】

【化5】

ただし、ArおよびArは、上に定めた通りであり、Arは、随意に置換されたアリールまたはヘテロアリールである。存在する場合、Arの好ましい置換基としては、アルキル基およびアルコキシ基などがある。
【0048】
この種類の正孔輸送ポリマーとして特に好ましいのは、第1の繰り返し単位とトリアリールアミン繰り返し単位とのコポリマーである。
・第1の繰り返し単位とヘテロアリーレン繰り返し単位とを含むコポリマーは、電荷輸送または発光に利用されてよい。好ましいヘテロアリーレン繰り返し単位は、式7ないし21から選択される。
【化6】

ただし、RとRとは、同一または異なっており、それぞれが独立に水素または置換基であり、好ましくはアルキル、アリール、ペルフルオロアルキル、チオアルキル、シアノ、アルコキシ、ヘテロアリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルである。製造を容易にするため、RとRとは同一であることが好ましい。さらに好ましくは、RとRとは同一であり、それぞれがフェニル基である。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【0049】
エレクトロルミネッセンス・コポリマーは、例えば国際公開第00/55927号および米国特許第6353083号明細書に開示されたように、エレクトロルミネッセンス領域と、正孔輸送領域および電子輸送領域のうちの少なくとも1つとを含んでよい。正孔輸送領域および電子輸送領域のうちの一方だけが設けられる場合は、エレクトロルミネッセンス領域が正孔輸送機能および電子輸送機能のうちの他方も提供してよい。あるいは、エレクトロルミネッセンス・ポリマーが、正孔輸送材料および/または電子輸送材料と混合されてもよい。正孔輸送繰り返し単位、電子輸送繰り返し単位、および発光繰り返し単位のうちの1つ以上を含むポリマーは、そうした単位をポリマー主鎖またはポリマー側鎖で提供してよい。
【0050】
このようなポリマー内の、それぞれの領域は、米国特許第6353083号明細書の通りポリマー骨格に沿って、または国際公開第01/62869号の通りポリマー骨格からぶら下がる基として、設けられてよい。
【0051】
[重合法]
これらのポリマーの好ましい調製法は、例えば国際公開第00/53656号に記載されたような鈴木重合と、例えばT. Yamamoto, "Electrically Conducting And Thermally Stable p - Conjugated Poly(arylene)s Prepared by Organometallic Processes," Progress in Polymer Science 1993, 17, 1153-1205に記載されたような山本重合である。これらの重合技術は両方とも、金属錯体触媒の金属原子がモノマーのアリール基と脱離基との間に挿入される「金属挿入」により作用する。山本重合の場合はニッケル錯体触媒が用いられ、鈴木重合の場合はパラジウム錯体触媒が用いられる。
【0052】
例えば、山本重合による線状ポリマーの合成では、2つの反応性ハロゲン基を有するモノマーが用いられる。同様に、鈴木重合の方法によれば、少なくとも1つの反応基は、ボロン酸またはボロン酸エステルのようなホウ素誘導体基であり、他の反応基は、ハロゲンである。好ましいハロゲンは、塩素、臭素、およびヨウ素であり、最も好ましくは臭素である。
【0053】
従って、本出願を通じて示されるようなアリール基を含む繰り返し単位および末端基は好適な脱離基を持つモノマーから誘導され得る、ということが認められるであろう。
【0054】
鈴木重合は、レジオレギュラーコポリマー、ブロックコポリマー、およびランダムコポリマーを調製するのに用いられてよい。特に、一方の反応基がハロゲンであり、他方の反応基がホウ素誘導体基である場合は、ホモポリマーまたはランダムコポリマーが調製され得る。あるいは、第1のモノマーの両方の反応基がホウ素であり、第2のモノマーの両方の反応基がハロゲンである場合は、ブロックコポリマーまたはレジオレギュラーコポリマー、特にABコポリマーが調製され得る。
【0055】
ハロゲン化物の代わりに、金属挿入に関与可能な他の脱離基としては、トシラート、メシラート、およびトリフラートを含む基などがある。
【0056】
[溶液処理]
層3を形成するために、単一のポリマーまたは複数のポリマーが溶液から堆積させられてよい。ポリアリーレン、特にポリフルオレンに好適な溶媒としては、トルエンやキシレンのようなモノアルキルベンゼンまたはポリアルキルベンゼンなどがある。特に好ましい溶液堆積技術は、スピンコーティングおよびインクジェット印刷である。
【0057】
スピンコーティングは、例えば照明用途または単純な単色セグメントディスプレイのような、エレクトロルミネッセンス材料のパターン形成が不要なデバイスに特に好適である。
【0058】
インクジェット印刷は、情報量の高いディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに、特に好適である。OLEDのインクジェット印刷は、例えば欧州特許第0880303号明細書に記載されている。他の溶液堆積技術としては、浸漬コーティング、ロール印刷、スクリーン印刷などがある。
【0059】
デバイスの複数の層が溶液処理によって形成される場合、当業者は、隣接する層どうしが混ざり合うのを防ぐ技術に気付くであろう。これは例えば、ある層の架橋をしてから後続の層を堆積させたり、あるいは、隣接する層どうしの材料を、これらの層のうちの1番目を形成する材料が、2番目の層を堆積させるのに用いられる溶媒に溶解しないように選択したりすることによって行われる。
【0060】
[発光色]
「赤色エレクトロルミネッセンス材料」とは、600〜750nm、好ましくは600〜700nm、より好ましくは610〜650nmの範囲の波長を有し、最も好ましくは650〜660nmあたりに放出ピークを有する放射を、エレクトロルミネッセンスによって放つ有機材料のことである。
【0061】
「緑色エレクトロルミネッセンス材料」とは、510〜580nm、好ましくは510〜570nmの範囲の波長を有する放射を、エレクトロルミネッセンスによって放つ有機材料のことである。
【0062】
「青色エレクトロルミネッセンス材料」とは、400〜500nm、好ましくは430〜500nmの範囲の波長を有する放射を、エレクトロルミネッセンスによって放つ有機材料のことである。
【0063】
[燐光放出体のホスト]
従来技術には多くのホストが記載されており、それらには、Ikai et al., Appl. Phys. Lett., 79 no. 2, 2001, 156に開示された、CBPとして知られる4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニルおよびTCTAとして知られる(4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン)や、MTDATAとして知られるトリス−4−(N−3−メチルフェニル−N−フェニル)フェニルアミンのようなトリアリールアミンなどの、「小分子」ホストが含まれる。また、ポリマーもホストとして知られており、特に、例えばAppl. Phys. Lett. 2000, 77(15), 2280に開示されたポリ(ビニルカルバゾール)、Synth. Met. 2001, 116, 379、Phys. Rev. B 2001, 63, 235206、およびAppl. Phys. Lett. 2003, 82(7), 1006に開示されたポリフルオレン、Adv. Mater. 1999, 11(4), 285に開示されたポリ[4−(N−4−ビニルベンジルオキシエチル,N−メチルアミノ)−N−(2,5−ジ−tert−ブチルフェニルナフタルイミド)]、およびJ. Mater. Chem. 2003, 13, 50-55に開示されたポリパラフェニレンのような、ホモポリマーが知られている。コポリマーも、ホストとして知られている。
【0064】
[金属錯体(主として燐光性だが末端に蛍光性を含む)]
好ましい金属錯体は、以下の式(V)の随意に置換された錯体で構成される。

ただし、Mは金属、L、L、およびLはそれぞれ配位基、qは整数、rおよびsはそれぞれ独立に0または整数であり、(a・q)+(b・r)+(c・s)の合計はMで利用できる配位部位の数に等しい。ただし、aはLの配位部位の数、bはLの配位部位の数、cはLの配位部位の数である。
【0065】
重元素Mは、強いスピン軌道結合を引き起こして、速い項間交差および三重項以上の状態からの発光(燐光)を可能にする。好適な重金属Mとしては、以下のものなどがある。
−セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ツリウム、エルビウム、ネオジムなどのランタニド金属、ならびに
−dブロック金属、特に2行目および3行目のもの、すなわち39番〜48番元素および72番〜80番元素であって、特にルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、および金。
【0066】
fブロック金属に好適な配位基としては、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、アシルフェノールおよびイミノアシル基を含むシッフ塩基、のような酸素供与系または窒素供与系などがある。既知のように、発光ランタニド金属錯体は、金属イオンの第一励起状態より高い三重項励起エネルギー準位を有する増感基(または複数の増感基)を必要とする。発光は金属のf−f遷移から生じるので、発光色は金属の選択によって決定される。この鋭い発光は通常狭く、ディスプレイ用途に有用な純色の発光をもたらす。
【0067】
dブロック金属は、三重項励起状態からの発光に特に好適である。これらの金属は、ポルフィリンまたは以下の式(VI)の二座配位子のような炭素供与体または窒素供与体をもつ、有機金属錯体を形成する。
【化21】

ただし、ArとArとは、同一でも異なってもよく、随意に置換されたアリールまたはヘテロアリールから独立して選択され、XとYとは、同一でも異なってもよく、炭素または窒素から独立して選択され、ArとArとは、縮合していてよい。Xが炭素でYが窒素である配位子が特に好ましい。
【0068】
二座配位子の例を以下に示す。
【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【化26】

【化27】

【化28】

【化29】

ArおよびArのそれぞれは、1つ以上の置換基を有してよい。これらの置換基の2つ以上が結合して、環、例えば芳香環などを形成してよい。特に好ましい置換基としては、国際公開第02/45466号、国際公開第02/44189号、米国特許出願公開第2002/117662号明細書、および米国特許出願公開第2002/182441号明細書に開示されたような、錯体の発光を青色シフトさせるのに用いられ得るフルオリンまたはトリフルオロメチル、特開2002−324679号公報に開示されたようなアルキル基またはアルコキシ基、国際公開第02/81448号に開示されたような、発光材料として用いられた時に錯体への正孔輸送を助けるのに用いられ得るカルバゾール、国際公開第02/68435号および欧州特許第1245659号明細書に開示されたような、さらなる基の付着のために配位子を官能化する働きをすることのできる臭素、塩素、またはヨウ素、国際公開第02/66552号に開示されたような、金属錯体の溶液処理性を獲得または増大するのに用いられ得るデンドロンなどがある。
【0069】
発光デンドリマーは、典型的には、1つ以上のデンドロンと結合した発光コアを含み、各デンドロンは、分岐点と、2つ以上の樹状分岐とを含む。好ましくは、デンドロンは、少なくとも部分的に共役であり、コアおよび樹状分岐の少なくとも1つが、アリール基またはヘテロアリール基を含む。dブロック元素と共に用いられるのに好適な他の配位子としては、ジケトネート、特にアセチルアセトネート(acac)や、それぞれが置換され得るトリアリールホスフィンおよびピリジンなどがある。
【0070】
主族金属錯体は、配位子に基づいた発光、または電荷移動発光を示す。これらの錯体では、発光色は、金属だけでなく配位子の選択によっても決定される。
【0071】
ホスト材料と金属錯体とは、物理的なブレンドの形で混合されてよい。あるいは、金属錯体がホスト材料に化学的に結合されてもよい。ポリマーホストの場合、例えば欧州特許第1245659号明細書、国際公開第02/31896号、国際公開第03/18653号、および国際公開第03/22908号に開示されたように、金属錯体は、ポリマー骨格に付着した置換基として化学的に結合されてもよいし、繰り返し単位としてポリマー骨格に組み込まれてもよいし、ポリマーの末端基として設けられてもよい。
【0072】
広範な蛍光性低分子量金属錯体が、知られており、また有機発光デバイスで実証されてきた(例えば、Macromol. Sym. 125 (1997) 1-48、米国特許第5,150,006(A)号明細書、米国特許第6,083,634(A)号明細書、および米国特許第5,432,014(A)号明細書を参照せよ)。二価または三価の金属に好適な配位子としては、例えば酸素−窒素供与性原子または酸素−酸素供与性原子、通常は置換酸素原子をもつ環窒素原子、または置換酸素原子をもつ置換窒素原子もしくは置換酸素原子、をもつオキシノイドで、例えば8−ヒドロキシキノレートおよびヒドロキシキノキサリノール−10−ヒドロキシベンゾ(h)キノリナト(II)のようなものや、ベンザゾール(III)、シッフ塩基、アゾインドール、クロモン誘導体、3−ヒドロキシフラボン、ならびに、例えばサリチラトアミノカルボキシレートおよびエステルカルボキシレートのようなカルボン酸などがある。随意の置換基としては、発光色を変え得る(ヘテロ)芳香環上の、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シアノ、アミノ、アミド、スルホニル、カルボニル、アリール、またはヘテロアリールなどがある。
【0073】
以上、本発明について、その好ましい実施の形態を参照して詳しく示し説明したが、添付の請求の範囲により定められた本発明の範囲から離れることなく本実施の形態において構成および細部に多様な変形が可能であることは、当業者に理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光デバイスを製造する方法であって、
アノード上に有機発光層を堆積させ、
前記有機発光層上にカソードを堆積させる
ことを含む方法において、
前記カソードが、
電子注入材料を含む第1の層を堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第2の層を前記第1の層上に堆積させ、3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第3の層を前記第2の層上に堆積させることによって形成される3層構造を含む方法。
【請求項2】
少なくとも前記第1および第2の層が真空蒸着によって堆積させられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3の層も真空蒸着によって堆積させられる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2および第3の層が相当量の低仕事関数材料を含まない上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第2および/または第3の層の材料の仕事関数が、3.7eVより大きく、より好ましくは3.9eVより大きい上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1の層の材料が、第1族または第2族の金属、第1族または第2族の金属の合金、および第1族または第2族の金属の化合物から選択される上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1の層の材料が酸化物またはフッ化物を含む上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層の材料が、Ba、Ca、BaO、およびNaFのうちの1つから選択される上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第2および/または第3の層の材料が、Al、Ag、およびNiCrのうちの1つから選択される上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記第2の層の材料がAlである上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記第3の層の材料が前記第2の層の材料と異なる上記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間の有機発光層と
を備える有機発光デバイスであって、
前記カソードが、
電子注入材料を含む第1の層と、3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、前記第1の層上に配置された第2の層と、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する材料を含む、前記第2の層上に配置された第3の層とで構成される3層構造を含む有機発光デバイス。
【請求項13】
前記第2および第3の層が相当量の低仕事関数材料を含まない請求項12に記載の有機発光デバイス。
【請求項14】
前記第2および/または第3の層の材料の仕事関数が、3.7eVより大きく、より好ましくは3.9eVより大きい請求項12または13に記載の有機発光デバイス。
【請求項15】
前記第1の層の材料が、第1族または第2族の金属、第1族または第2族の金属の合金、および第1族または第2族の金属の化合物から選択される請求項12ないし14のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項16】
前記第1の層の材料が酸化物またはフッ化物を含む請求項12ないし15のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項17】
前記第1の層の材料が、Ba、Ca、BaO、およびNaFのうちの1つから選択される請求項12ないし16のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項18】
前記第2および/または第3の層の材料が、Al、Ag、およびNiCrのうちの1つから選択される請求項12ないし17のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項19】
前記第2の層の材料がAlである請求項12ないし18のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項20】
前記第3の層の材料が前記第2の層の材料と異なる請求項12ないし19のいずれか1項に記載の有機発光デバイス。
【請求項21】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間の有機発光層と
を備える有機発光デバイスであって、
前記カソードが、
3.5eVより大きな仕事関数を有する材料から成る第1の層と、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する材料から成る、前記第1の層上に配置された第2の層とで構成される2層構造を含む有機発光デバイス。
【請求項22】
有機発光デバイスを製造する方法であって、
アノード上に有機発光層を堆積させ、
前記有機発光層上にカソードを堆積させる
ことを含む方法において、
前記カソードが、
3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第1の層を堆積させ、同じく3.5eVより大きな仕事関数を有する金属材料を含む第2の層を前記第1の層上に堆積させることによって形成される2層構造を含み、
前記第1の層および前記第2の層が真空蒸着によって堆積させられる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−508945(P2012−508945A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507977(P2011−507977)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000858
【国際公開番号】WO2009/136133
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】