説明

有機発光層形成用材料,有機発光層形成用材料を用いた有機発光素子及び有機発光素子を用いた光源装置

【課題】特定の発光ドーパントのHOMOの値を別の発光ドーパントのHOMOの値に近づけることを目的とする。
【解決手段】第一の電極と、第二の電極と、第一の電極と第二の電極との間に配置された発光層と、を有する有機発光素子であって、発光層はホスト材料、第一のエミッタおよび第二のエミッタを含み、第一のエミッタの発光ピーク波長は第二のエミッタの発光ピーク波長より大きく、第一のエミッタの芳香族複素環配位子または補助配位子に電子求引性基が含まれる有機発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光層形成用材料,有機発光層形成用材料を用いた有機発光素子及び有機発光素子を用いた光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来例として、特許文献1には次のような技術が開示されている。なお、この技術は、発光効率,発光輝度ならびに安定性に優れた有機エレクトロルミネッセント素子などの有機薄膜素子の製造に有用な新規高分子化合物およびそれを用いた有機薄膜素子の提供を目的とする。
【0003】
電極間に、少なくともポリマと発光中心形成化合物とを含有する組成物よりなる単層発光層を挿入した有機EL素子であって、前記組成物中には電子輸送性のものとホール輸送性のものがバランスよく包含されており、前記ポリマはそれ自体の発光色が青色であるかまたはそれよりも短波長の発光を示すものであり、前記発光中心形成化合物はその2種以上が前記ポリマ中に分子分散した状態で存在しており、それぞれの発光中心形成化合物はそれぞれ単独で発光し、有機EL素子全体としての発色光は白色光に見えるように前記発光中心形成化合物を2種以上組合せて使用していることを特徴とする単層型白色発光有機EL素子。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−63770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、発光中心形成化合物をホスト材料に2種類以上ドープすることにより各発光中心形成化合物は単独発光し、全体としての発光色は白色光となる様に、発光中心形成化合物を2種類以上組合せて使用するものであったが、この方法では各発光中心形成化合物において、励起エネルギーが高い方から低い方へとエネルギー移動が生じてしまう。
【0006】
本発明は、特定の発光ドーパントのHOMO(最高被占軌道、Highest Occupied Molecular Orbital)の値を別の発光ドーパントのHOMOの値に近づけることを目的とする。このことにより、発光層全体で発光するようになり、白色発光が得やすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)第一の電極と、第二の電極と、第一の電極と第二の電極との間に配置された発光層と、を有する有機発光素子であって、発光層はホスト材料、第一のエミッタおよび第二のエミッタを含み、第一のエミッタの発光ピーク波長は第二のエミッタの発光ピーク波長より大きく、第一のエミッタの芳香族複素環配位子または補助配位子に電子求引性基が含まれる有機発光素子。
(2)上記において、第一のエミッタの補助配位子はピコリン酸の誘導体またはトリアゾール誘導体である有機発光素子。
(3)上記において、電子求引性基はトリフルオロメチル基,クロロ基,ブロモ基,ヨード基,アスタト基,フェニル基,ニトロ基,シアノ基のうち、一つ以上から選ばれる有機発光素子。
(4)上記において、第一の電極と第二の電極との間に下部層が形成され、下部層は、正孔輸送層または正孔注入層であり、発光層は、下部層上に製膜され、第一のエミッタの置換基および下部層を形成する材料の置換基として以下の態様のいずれか一種類以上が存在する有機発光素子。
(A)第一のエミッタの置換基及び下部層を形成する材料の置換基は、炭素数4以上のアルキル基である。
(B)第一のエミッタの置換基及び下部層を形成する材料の置換基は、水素結合を形成する。
(C)第一のエミッタの置換基はパーフルオロフェニル基、下部層を形成する材料の置換基はフェニル基である。
(5)上記において、第二のエミッタに、炭素数3以上のフルオロアルキル基、炭素数3以上のパーフルオロアルキル基,パーフルオロポリエーテル基、炭素数10以上のアルキル基またはシロキシ基のいずれか一つ以上が含まれる有機発光素子。
(6)上記において、発光層に青色エミッタが含まれ、第一のエミッタが赤色エミッタであり、第二のエミッタが緑色エミッタである有機発光素子。
(7)第一の電極と、第二の電極と、第一の電極と第二の電極との間に配置された発光層と、を有する有機発光素子であって、発光層はホスト材料、第一のエミッタおよび第二のエミッタのエミッタを含み、第一のエミッタの発光ピーク波長は第二のエミッタの発光ピーク波長より長く、第一のエミッタのHOMO準位と第二のエミッタのHOMO準位の差が0.3eV以内であることを特徴とする有機発光素子。
(8)上記において、発光層から白色光が出射される有機発光素子。
(9)上記の有機発光素子に用いられる有機発光層形成用材料であって、発光層形成用材料はホスト材料、第一のエミッタ及び第二のエミッタを含む発光層形成用材料。
(10)上記の有機発光素子を備える光源装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、特定の発光ドーパントのHOMOの値が別の発光ドーパントのHOMOの値に近づいた有機発光素子を提供できる。上記した以外の課題,構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の光源装置の一実施の形態における断面図である。
【図2】本発明の有機発光素子の一実施形態における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。実施例を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の光源装置の一実施の形態における断面図である。図2は、本発明の有機発光素子の一実施形態における断面図である。図1において、発光部は、基板101,下部電極102,上部電極108,有機層109,バンク14,逆テーパバンク15,樹脂層16,封止基板17および光取出し層18で構成される。発光部として光取出し層18はなくても構わない。
【0012】
基板101はガラス基板である。ガラス基板以外に、適切な透水性低下保護膜を施したプラスチック基板や金属基板も用いることができる。
【0013】
基板101上に下部電極102が形成される。下部電極102は陽極である。ITO,IZOなどの透明電極とAgなどの反射電極の積層体が用いられる。積層体以外に、Mo,Crや透明電極と光拡散層との組合せなども用いることができる。また、下部電極102は陽極に限るものではなく、陰極も用いることができる。その場合はAl,MoやAlとLiの積層体やAlNiなどの合金などが用いられる。上記の下部電極102をフォトリソグラフィにより基板101上にパターニングして用いる。
【0014】
有機層109上に上部電極108が形成される。上部電極108は陰極である。ITO,IZOなどの透明電極とMgAg,Liなどの電子注入性電極の積層体を用いる。積層体以外に、MgAgやAg薄膜単独でも用いることができる。また、ITO,IZOをスパッタ法で形成する際には、スパッタによるダメージを緩和するため、上部電極108および有機層109の間にバッファー層を設けることがある。バッファー層には、酸化モリブデン,酸化バナジウムなどの金属酸化物を用いる。上記のように下部電極102が陰極となる場合には、上部電極108は陽極となる。その場合には、ITO,IZOなどの透明電極が用いられる。特定の発光部に存在する上部電極108は、特定の発光部に隣接する発光部の下部電極102と接続される。これにより、複数の発光部を直列接続することができる。直列接続された複数の発光部に駆動装置を接続することにより、光源装置が形成される。
【0015】
下部電極102上に有機層109が形成される。有機層109は発光層および下部層の多層構造、あるいは電子注入層,電子輸送層,正孔輸送層及び正孔注入層のいずれか一層以上を含む多層構造でも構わない。
【0016】
バンク14は下部電極102の端部を覆い、発光部の部分的なショート故障を防止するために形成される。バンク14の材料としては感光性ポリイミドが好ましい。但し、感光性ポリイミドに限定されるものではなく、アクリル樹脂なども用いることができる。また、非感光性材料も用いることができる。
【0017】
逆テーパバンク15は逆テーパ形状により隣接する発光部の上部電極108が導通しないようにするために用いられる。逆テーパバンク15としてネガ型フォトレジストを用いることが好ましい。ネガ型フォトレジスト以外に、各種ポリマや各種ポリマを積層して形成することもできる。
【0018】
上部電極108上に樹脂層16が形成される。樹脂層16は、発光部を封止するために用いられる。エポキシ樹脂などの各種ポリマを用いることができる。封止性能を向上するために上部電極108および樹脂層16の間に無機パッシベーション膜を用いることもできる。
【0019】
樹脂層16上に封止基板17が形成される。封止基板17はガラス基板である。封止基板17としてガラス基板以外でも、適切なガスバリア膜を有するプラスチック基板も用いることができる。
【0020】
封止基板17上に光取出し層18が形成される。光取出し層18は有機層13中の発光層で発行した光を効率よく取出すために用いられる。光取出し層18として散乱性,拡散反射性を有するフィルムが用いられる。
【0021】
従来の方法では、ドープするエミッタ量の制御が難しい、所望の色度が得られない、発光効率が低いなどの課題がある。その原因はエミッタ間のエネルギー移動にある。エミッタの励起エネルギーは青色エミッタ,緑色エミッタ,赤色エミッタの順で小さくなる。したがって、緑色エミッタ,赤色エミッタに比べて発光ピーク波長が小さい青色エミッタから緑色エミッタ,赤色エミッタに比べて発光ピーク波長が小さい緑色エミッタから赤色エミッタにエネルギー移動を起こしやすい。
【0022】
ひとつの発光層105に3色のエミッタを有する構造とすると、3色のエミッタがお互いに近くに存在する。そのため、エネルギー移動が起こりやすくなる。エネルギー移動が起こるような状態では、励起エネルギーが最も小さい赤色エミッタに移動しやすくなるため、青色発光が小さくなってしまい、所望の色度が得られない。また、発光効率の高い緑色エミッタの発光も小さくなるため、高効率な白色発光が得られない。そのため、充分に青色発光を起こすためには、緑色エミッタの量及び赤色エミッタの量を著しく少なくする必要があった。そのため、ドープするエミッタ量の制御が困難になる。発光層105にドープされるエミッタが青色エミッタ,緑色エミッタの場合、青色エミッタ,赤色エミッタの場合、赤色エミッタ,緑色エミッタの場合も同様の問題が生じる。
【0023】
<発光層>
発光層105は湿式法などにより形成し、ホスト材料及び発光層105の成膜時に局在するための置換基を有するエミッタを含む。本発明の一実施例に係る発光層105は、ホスト材料と二種類以上のエミッタを含み、第一のエミッタの発光ピーク波長は第二のエミッタの発光ピーク波長より大きい。
【0024】
エミッタは、発光層105の製膜時に発光層105表面または下部層との界面付近に局在する。下部層とは、発光層105の製膜時に発光層105の下地となる層である。発光層105の製膜時に発光層105と下部層との界面に局在するための置換基を有するエミッタを第一のエミッタ、発光層105の製膜時に発光層105表面に局在するための置換基を有するエミッタを第二のエミッタとする。第一のエミッタにおいて、発光層105の製膜時に下部層に局在するための置換基は必ずしも必須ではない。第二のエミッタにおいて、発光層105の製膜時に発光層105表面に局在するための置換基は必ずしも必須ではない。発光層105の製膜時に発光層105表面付近に局在するとは、その層の中での濃度が、定めた発光層105表面近傍で高くなっていることを意味する。
【0025】
発光層105に、例えば赤色,青色,緑色の三種類のエミッタが含まれ、第一のエミッタおよび第二のエミッタに上記置換基が含まれている場合、湿式法で形成した発光層105は実質的に3層を積層した発光層105と同等な機能を有する。このような構造とすることにより、異なる発光色のエミッタ間の距離が、界面付近以外は遠くなる。すなわち、エミッタ間のエネルギー移動は起こりにくくなる。そのため、ドープするエミッタ量の制御が容易となる。そのため、発光層105から白色光が出射される場合、白色の有機発光素子を容易に形成できる。
【0026】
発光層105を成膜するための塗布法としては、スピンコート法,キャスト法,ディップコート法,スプレーコート法,スクリーン印刷法,インクジェット印刷法などを用いることができる。
【0027】
<第一のエミッタ>
本発明の一実施系形態に用いられる第一のエミッタとしては、以下の一般式(化1)で表される化合物などがあげられる。
【0028】
【化1】

【0029】
一般式(化1)において、Ar1,Ar2は芳香族炭化水素または芳香族複素環を表す。Ar3は、ピコリン酸の誘導体、アセチルアセトネートまたはトリアゾール誘導体を表す。Mは周期律表における第8,9または10族の元素を表す。R1は、トリフルオロメチル基,クロロ基,ブロモ基,ヨード基,アスタト基,フェニル基,ニトロ基,シアノ基の一つ以上を表し、それぞれの置換基が別の置換基と結合しても良い。
【0030】
第一のエミッタの補助配位子は電子求引性基を含む。補助配位子とは、主には発光に寄与しない配位子のことである。第一のエミッタの補助配位子は上記のAr3である。
【0031】
芳香族複素環としては、キノリン環,イソキノリン環,ピリジン環,キノキサリン環,チアゾール環,ピリミジン環,ベンゾチアゾール環,オキサゾール環,ベンゾオキサゾール環,インドール環,イソインドール環,チオフェン環,ベンゾチオフェン環などがあげられる。
【0032】
芳香族炭化水素としては、ベンゼン環,ナフタレン環,アントラセン環,フラン環,ベンゾフラン環,フルオレン環などがあげられる。
【0033】
電子求引性基として、トリフルオロメチル基,クロロ基,ブロモ基,ヨード基,アスタト基,フェニル基,ニトロ基,シアノ基の一つ以上が挙げられる。それぞれの電子求引性基が別の電子求引性基と結合しても良い。
【0034】
第一のエミッタの発光ピーク波長が第二のエミッタの発光ピーク波長より長い場合、一般的には第一のエミッタのHOMO準位は第二のエミッタのHOMO準位より浅い。第一のエミッタの補助配位子が電子求引性基を含むことにより、補助配位子が電子求引性基を含まない場合に比べて第一のエミッタのHOMO準位は第二のエミッタのHOMO準位に近づく。これにより、第一のエミッタを含む発光層領域を伝搬する正孔の移動度が大きくなる。
【0035】
また、正孔が第一のエミッタを含む発光層領域から第二のエミッタを含む発光層領域へ効率的に伝搬し、発光層105全体が光るため、色度が改善され、効率が向上する。第一のエミッタのHOMO準位と第二のエミッタのHOMO準位の差が0.3eV以内、特に0.2eV以内、更には0.1eV以内であることが望ましい。第一のエミッタにシアノ基,ニトロ基が含まれている場合、他の置換基と比較して第一のエミッタのHOMO準位が青色エミッタなどの第二のエミッタのHOMO準位に近づくので、トラップになりにくい。
【0036】
第一のエミッタの補助配位子に電子求引性基が含まれる場合以外の方法でも、第一のエミッタのHOMO準位と第二のエミッタのHOMO準位の差が0.3eV以内であれば、第一のエミッタを含む発光層領域を伝搬する正孔の移動度が大きくなり、色度が改善され、発光効率が向上する。第一のエミッタの補助配位子に電子求引性基が含まれる場合以外の方法として、第一のエミッタに発光に寄与する複素環配位子が含まれている場合、複素環配位子に電子求引性基を導入する方法などが挙げられる。
【0037】
第一のエミッタと下部層を形成する材料との相互作用を用いることにより、第一のエミッタを発光層105における下部層が存在する側の表面に局在化させてもよい。第一のエミッタに付与される置換基、下部層を形成する材料に付与される機能性基を、例えば、いずれにも炭素数4以上のアルキル基を設けることにより、アルキル鎖間の相互作用により、第一のエミッタが下部層の近傍に局在化する。この場合、第一のエミッタの置換基および下部層を形成する材料の置換基により、発光層105内の第一のエミッタは発光層105における下部層が存在する側の表面へ引き寄せられる。よって、一回の塗布で擬似的な積層形成ができる。
【0038】
この時、発光層105内で第一のエミッタは濃度分布を形成し、発光層105の膜厚方向において、第一のエミッタの濃度がピークとなる位置は発光層105の中央より下部層側に存在することになる。また、発光層105の膜厚方向において、第一のエミッタの濃度がピークとなる位置から発光層105における下部層が存在しない側の表面に向かって、第一のエミッタの濃度は単調減少する。第一のエミッタと下部層を形成する材料との相互作用を用いる場合、第一のエミッタの置換基および下部層を形成する材料の機能性基として、ヒドロキシ基またはカルボキシル基を用いてもよい。
【0039】
また、第一のエミッタの置換基および下部層を形成する材料の置換基に水素結合を形成できる置換基を設けることにより、第一のエミッタと下部層を形成する材料との相互作用が強まり、第一のエミッタが下部層の近傍に局在化する。水素結合を形成できる置換基としては、以下の態様が考えられるが、この限りではない。水素結合を形成できる置換基として以下の態様を少なくとも一種類存在していれば良く、二種類以上存在していても良い。水素結合を形成できる置換基として以下の態様のいずれか一種類だけを選択することが望ましい。これにより、第一のドーパント同志での水素結合を抑制できる。
(1)第一のエミッタの置換基がヒドロキシ基、下部層を形成する材料の置換基がカルボキシル基
(2)第一のエミッタの置換基がカルボキシル基、下部層を形成する材料の置換基がヒドロキシ基
(3)第一のエミッタの置換基がアミド基、下部層を形成する材料の置換基がアシル基
(4)第一のエミッタの置換基がアシル基、下部層を形成する材料の置換基がアミド基
(5)第一のエミッタの置換基がアミノ基、下部層を形成する材料の置換基がヒドロキシ基
アシル基として、カルボキシル基,アセチル基などのアルカノイル基,ベンゾイル基,スルホニル基,ホスホノイル基などが挙げられる。以上に述べた機能性基は、ドーパントまたは下部層を形成する材料の主骨格に直接付与してもよいが、アミド結合やエステル結合などを介して付与しても構わない。
【0040】
また、第一のエミッタの置換基をパーフルオロフェニル基、下部層を形成する材料の置換基をフェニル基とすることで、水素結合なみの強い分子間引力を形成する。以上をまとめると、第一のエミッタの置換基および下部層を形成する材料の置換基として以下の態様が考えられる。このとき、下の態様を少なくとも一種類存在していれば良く、二種類以上存在していても良い。
(1)第一のエミッタの置換基及び下部層を形成する材料の置換基は、炭素数4以上のアルキル基である。
(2)第一のエミッタの置換基及び下部層を形成する材料の置換基は、水素結合を形成する。
(3)第一のエミッタの置換基はパーフルオロフェニル基、下部層を形成する材料の置換基はフェニル基である。
【0041】
発光層105に含まれる全ての第一のエミッタに上記の置換基が付与されていても良いし、一部の第一のエミッタに置換基が付与されていても良い。また、下部層を形成する材料全てに置換基が付与されていても良いし、一部の材料に置換基が付与されていても良い。
<第二のエミッタ>
第二のエミッタに特定の置換基が付与されることにより、発光層105の膜厚方向において、第二のエミッタの濃度がピークとなる位置は発光層105の中央より成膜時の表面側に存在することになる。また、発光層105の膜厚方向において、第二のエミッタの濃度がピークとなる位置から下部層側に向かって第二のエミッタの濃度が単調減少する。
【0042】
本発明の一実施系形態に用いられる第二のエミッタとしては、以下の一般式(化2)で表される化合物などがあげられる。
【0043】
【化2】

【0044】
一般式(化2)において、Ar4,Ar5は上記の芳香族炭化水素または上記の芳香族複素環を表す。Mは周期律表における第8,9または10族の元素を表す。Ar6は、ピコリン酸の誘導体、アセチルアセトネートまたはトリアゾール誘導体を表す。R2は、炭素数3以上のフルオロアルキル基、炭素数3以上のパーフルオロアルキル基,パーフルオロポリエーテル基、炭素数10以上のアルキル基またはシロキシ基のいずれかを表し、それぞれの置換基が別の置換基と結合しても良い。
【0045】
発光層105の成膜時に発光層105の表面に移動させるための置換基としては、例えばフルオロアルキル基,パーフルオロアルキル基,アルキル基(ただし、Cの数は10以上とする。),パーフルオロポリエーテル基,シロキシ基(−Si−O−Si−)があげられる。表面エネルギーを考慮すれば、フルオロアルキル基,パーフルオロポリエーテル基が望ましく、パーフルオロアルキル基がさらに望ましい。第二のエミッタはこれらの置換基を一つでも有していれば良いが、複数種類有していても構わない。
【0046】
フッ素を有する置換基では、フッ素の数が多いほど成膜時の発光層105表面側に偏在する。具体的には、置換基に存在するフッ素の数が7以上であることが望ましい。これらの基は主骨格に直接導入してもよいが、アミド結合やエステル結合などを介して導入してもかまわない。
【0047】
発光層105にドープされるエミッタが赤色エミッタ,青色エミッタ,緑色エミッタの場合、エミッタのエネルギー移動を考慮して、赤色エミッタを第一のエミッタ,緑色エミッタを第二のエミッタとすることが望ましい。
【0048】
<ホスト材料>
発光層105のホスト材料としては、例えば、mCP(1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼンを用いることができる。ホスト材料として、その他のカルバゾール誘導体,フルオレン誘導体,アリールシラン誘導体なども用いることができる。効率の良い発光を得るためには青色エミッタの励起エネルギーよりも、ホスト材料の励起エネルギーが十分大きいことが好ましい。なお、励起エネルギーは発光スペクトルを用いて測定される。
【0049】
また、ホスト材料は数種のホスト材料の混合物であってもいい。ホスト材料の一部がフルオロアルキル基,パーフルオロアルキル基,アルキル基(Cの数は10以上),パーフルオロポリエーテル基,シロキシ基(−Si−O−Si−)で置換されていてもよい。そのようなホスト材料を混合することにより、ホスト材料の一部が成膜時の発光層105の表面に局在化しやすくなり、第二のエミッタと発光表面に共存する。それにより、表面での第二のエミッタの凝集が起こりにくくなり、より高効率な発光が可能となる。表面エネルギーを考慮すれば、フルオロアルキル基,パーフルオロポリエーテル基が望ましく、パーフルオロアルキル基がさらに望ましい。ホスト材料はこれらの置換基を一つでも有していれば良いが、複数種類有していても構わない。フッ素を有する置換基では、フッ素の数が多いほど成膜時の発光層105表面側に偏在する。具体的には、置換基に存在するフッ素の数が7以上であることが望ましい。これらの基は主骨格に直接導入してもよいが、アミド結合やエステル結合などを介して導入してもかまわない。
<正孔注入層>
正孔注入層103としてはPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)):PSS(ポリスチレンスルホネート),ポリアニリン系,ポリピロール系やトリフェニルアミン系のポリマ材料、金属微粒子を含有する材料が挙げられる。また、低分子材料系と組合せてよく用いられる、フタロシアニン類化合物も適用できる。
【0050】
<正孔輸送層>
正孔輸送層104としては、ポリフルオレン系ポリマ,アリールアミン系,ポリパラフェニレン系,ポリアリーレン系,ポリカルバゾール系の各種ポリマを用いることができる。また、スターバーストアミン系化合物やスチルベン誘導体,ヒドラゾン誘導体,チオフェン誘導体などを用いることができる。また、上記の材料を含むポリマを用いてもよい。
また、これらの材料に限られるものではなく、これらの材料を2種以上併用しても差し支えない。
【0051】
<電子輸送層>
電子輸送層106は発光層105に電子を供給する層である。電子輸送層106として、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(以下、BAlq)とトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3)の積層構造、BAlqや、Alq3,オキサジアゾール誘導体,トリアゾール誘導体,フラーレン誘導体,フェナントロリン誘導体,キノリン誘導体,トリアリールボラン誘導体などの単独膜を用いることができる。
【0052】
また、電子輸送層106は、正孔や励起状態のブロッキング機能を有するブロッキング材料と電子輸送材料の積層構造でもよい。ブロッキング材料としては、BAlq,フェナントロリン誘導体,トリアゾール誘導体,トリアリールボラン誘導体などを用いることができる。電子輸送材料としては、Alq3,オキサジアゾール誘導体,フラーレン誘導体,キノリン誘導体,シロール誘導体などを用いることができる。
【0053】
<電子注入層>
電子注入層107は、陰極から電子輸送層106への電子注入効率を向上させるために用いる。電子注入層107として、弗化リチウム,弗化マグネシウム,弗化カルシウム,弗化ストロンチウム,弗化バリウム,酸化マグネシウム,酸化カルシウムなどが挙げられる。また、電子輸送材料とアルカリ金属或いはアルカリ金属酸化物などの混合物を用いてもよい。また、電子輸送材料と電子供与性材料の混合物を用いてもよい。もちろんこれらの材料に限られるわけではなく、また、これらの材料を2種以上併用しても差し支えない。
【0054】
<発光層塗液>
発光層塗液はホスト材料、発光色の異なる第一のエミッタ及び第二のエミッタを適切な溶媒に溶解させたものである。溶媒として、テトラヒドロフラン(THF),トルエンなど芳香族炭化水素系溶媒,テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒,アルコール類,フッ素系溶媒など、各材料が溶解するものであればよい。また、各材料の溶解度や、乾燥速度の調整のために前述の溶媒を複数混合した混合溶媒でもかまわない。溶媒の溶解度は液体クロマトグラム法によって測定される。
【実施例1】
【0055】
本実施例では、図2の有機発光素子を作製した。図2において、OLED110は、第一の電極としての下部電極102と、第二の電極としての上部電極108と、有機層109とを有する。図2のOLED110は下部電極102,有機層109,上部電極108の順に配置された構造であり、下部電極102側から発光層105の発光を取り出すボトムエミッション型である。ここで、下部電極102は陽極となる透明電極、上部電極108は陰極となる反射電極である。有機発光素子として、ボトムエミッション型の素子構造に限らず、上部電極が陰極、下部電極が陽極であれば、上部電極を透明電極としたトップエミッション型の素子構造でも構わない。
【0056】
有機層109は正孔注入層103,正孔輸送層104,発光層105,電子輸送層106及び電子注入層107を有する。有機層109の積層構造は必ずしも上記のようである必要はなく、発光層105のみの単層構造でもよい。また、有機層109は正孔輸送層104のない積層構造、電子輸送層106が電子輸送層とブロッキング層の積層構造などでもかまわない。
【0057】
発光層105は、ホスト分子及びエミッタを有する。エミッタは、赤色エミッタ,青色エミッタ及び緑色エミッタを有する。発光層105の形成用材料は、ホスト分子,赤色エミッタ,青色エミッタ及び緑色エミッタを含む。また、発光層105の形成用材料として、ホスト分子,赤色エミッタ及び青色エミッタを含んだものであっても構わない。発光層105内では赤色エミッタが正孔輸送層104側に偏在し、緑色エミッタが電子輸送層106側に偏在しており、擬似的な積層構造を形成している。まず、発光層105の構成について説明する。
【0058】
赤色エミッタの材料としては、下式で表されるイリジウム化合物を用いた。
【0059】
【化3】

【0060】
(化3)の補助配位子はピコリン酸及び電子求引性基であるトリフルオロメチル基を含んでおり、(化3)のHOMO準位は4.9eVである。HOMO準位の値は、密度凡関数法を用いて計算した。赤色エミッタ112はピコリン酸及び電子求引性基を含むため、HOMO準位が低下するため、このエミッタを用いることにより、赤色エミッタ112を含む発光層領域における正孔の移動度が向上し、発光層105全体が発光する。
【0061】
一方、青色エミッタとしては下式で表されるFIrpicを用いた。
【0062】
【化4】

【0063】
FIrpicのHOMO準位は5.2eVである。青色エミッタ113には特別な官能基を用いる必要はないが、下部層となる正孔輸送層,正孔注入層或いは下部電極と相溶性の悪い置換基を有してもよい。
【0064】
緑色エミッタの材料としては、下式で表されるイリジウム錯体を用いた。
【0065】
【化5】

【0066】
正孔注入層103としてはPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)):PSS(ポリスチレンスルホネート)を用いた。正孔輸送層104としては、ポリフルオレン系ポリマを用いた。電子輸送層106として、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(以下、BAlq)とトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3)の積層構造を用いた。電子注入層107は、弗化リチウムを用いた。
【0067】
下部電極102としては、ITOを用いた。上部電極108としては、Alを用いた。
【0068】
発光層塗液について、本実施例では、ホスト材料,赤色エミッタ,青色エミッタ及び緑色エミッタの重量比をそれぞれ100:1:5:1とした。溶媒には、テトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0069】
発光層105を成膜するための塗布法としては、本実施例では、スピンコート法により、有機膜を形成した。
【0070】
本実施例の発光素子の下部電極側に+電位を、上部電極に−電位を印加したところ、赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。
【0071】
〔比較例1〕
赤色エミッタとして下記の(化6)を用いた以外は実施例1と同様に発光素子を作製したところ、青色及び緑色の発光が弱く、赤色の強い発光しか得られなかった。これは、(化6)の赤色エミッタのHOMO準位が4.6eVであり、赤色エミッタを含む発光層領域において、赤色エミッタが正孔に対し強いトラップとして機能し、移動度が極端に低くなることにより、正孔が青色エミッタを含む発光層領域へ伝搬し難くなっているためと考えられる。
【0072】
【化6】

【実施例2】
【0073】
発光層105を構成する材料が、赤色エミッタとして下記の(化7)を用いた以外は実施例1と同様に発光素子を作製した。
【0074】
【化7】

【0075】
(化7)に示す材料を用いた結果、赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。(化7)の化合物のHOMO準位は4.9eVであり、青色ドーパントのHOMO準位とのエネルギー差は0.3eVと小さい。
【実施例3】
【0076】
発光層105を構成する材料が、赤色エミッタとして下記の(化8)を用いた以外は実施例1と同様に発光素子を作製した。
【0077】
【化8】

【0078】
(化8)に示す材料を用いた結果、赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。(化8)の化合物のHOMO準位は5.1eVであり、青色ドーパントのHOMO準位とのエネルギー差は0.1eVと小さい。
【実施例4】
【0079】
発光層105の下部層である正孔輸送層104がヒドロキシ基を含むものを使用し、赤色エミッタとして、(化8)のニトロ基の代わりにアルデヒド基で置換した化合物(化9)を用いた以外は、実施例1と同様に発光素子を作成した。その結果、赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。
【0080】
【化9】

【0081】
(化9)の化合物のHOMO準位は5.0eVであり、青色ドーパントのHOMO準位とのエネルギー差が0.2eVと小さい。
【実施例5】
【0082】
発光層105の赤色エミッタとして、(化8)のニトロ基の代わりにクロル基で置換した化合物(化10)を用いた以外は、実施例1と同様に発光素子を作成した。その結果、いずれも赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。
【0083】
【化10】

【0084】
(化10)の化合物のHOMO準位は4.9eVであり、青色ドーパントのHOMO準位とのエネルギー差が0.3eVと小さい。
【実施例6】
【0085】
発光層105の赤色エミッタとして、(化8)のニトロ基の代わりにヨード基で置換した化合物(化11)を用いた以外は、実施例1と同様に発光素子を作成した。その結果、いずれも赤色,青色及び緑色の3色からなる白色発光が得られた。
【0086】
【化11】

【0087】
(化11)の化合物のHOMO準位は4.9eVであり、青色ドーパントのHOMO準位とのエネルギー差が0.3eVと小さい。
【符号の説明】
【0088】
14 バンク
15 逆テーパバンク
16 樹脂層
17 封止基板
18 光取出し層
101 基板
102 下部電極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 電子注入層
108 上部電極
109 有機層
110 OLED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置された発光層と、を有する有機発光素子であって、
前記発光層はホスト材料、第一のエミッタおよび第二のエミッタを含み、
前記第一のエミッタの発光ピーク波長は前記第二のエミッタの発光ピーク波長より大きく、
前記第一のエミッタの芳香族複素環配位子または補助配位子に電子求引性基が含まれる有機発光素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記第一のエミッタの補助配位子はピコリン酸の誘導体またはトリアゾール誘導体である有機発光素子。
【請求項3】
請求項1において、
前記電子求引性基はトリフルオロメチル基,クロロ基,ブロモ基,ヨード基,アスタト基,フェニル基,ニトロ基,シアノ基のうち、一つ以上から選ばれる有機発光素子。
【請求項4】
請求項1において、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に下部層が形成され、
前記下部層は、正孔輸送層または正孔注入層であり、
前記発光層は、前記下部層上に製膜され、
前記第一のエミッタの置換基および前記下部層を形成する材料の置換基として以下の態様のいずれか一種類以上が存在する有機発光素子。
(1)前記第一のエミッタの置換基及び前記下部層を形成する材料の置換基は、炭素数4以上のアルキル基である。
(2)前記第一のエミッタの置換基及び前記下部層を形成する材料の置換基は、水素結合を形成する。
(3)前記第一のエミッタの置換基はパーフルオロフェニル基、前記下部層を形成する材料の置換基はフェニル基である。
【請求項5】
請求項1において、
前記第二のエミッタに、炭素数3以上のフルオロアルキル基、炭素数3以上のパーフルオロアルキル基,パーフルオロポリエーテル基、炭素数10以上のアルキル基またはシロキシ基のいずれか一つ以上が含まれる有機発光素子。
【請求項6】
請求項5において、
前記発光層に青色エミッタが含まれ、
前記第一のエミッタが赤色エミッタであり、
前記第二のエミッタが緑色エミッタである有機発光素子。
【請求項7】
第一の電極と、
第二の電極と、
前記第一の電極と前記第二の電極との間に配置された発光層と、を有する有機発光素子であって、
前記発光層はホスト材料、第一のエミッタおよび第二のエミッタのエミッタを含み、
前記第一のエミッタの発光ピーク波長は前記第二のエミッタの発光ピーク波長より長く、
前記第一のエミッタのHOMO準位と前記第二のエミッタのHOMO準位の差が0.3eV以内であることを特徴とする有機発光素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記発光層から白色光が出射される有機発光素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかの有機発光素子に用いられる有機発光層形成用材料であって、
発光層形成用材料は前記ホスト材料、前記第一のエミッタ及び前記第二のエミッタを含む発光層形成用材料。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかの有機発光素子を備える光源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−26298(P2013−26298A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157408(P2011−157408)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】