説明

有機発光素子及びその製造方法

【課題】光透過率が高くて仕事関数の調節が容易であり、これにより、カソードの選択に対する自由度を高くするようなアノードを含む有機発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】第1金属酸化物に第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物がドープされた第1層21を備えるアノード2と、アノードと対向したカソード4と、アノードとカソードとの間に設けられた発光層32を備える有機層3と、を備える有機発光素子及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子及びその製造方法に係り、より詳細には、透過率が高く、仕事関数の調節が容易なアノードを持つ有機発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に有機発光素子は、相互対向したアノードとカソード、アノードとカソードとの間に設けられた発光層を含む中間層を備える。中間層に含まれた発光層は、アノードから注入された正孔とカソードから注入された電子とを利用して光を発生させ、発光層で発生した光は、アノードとカソードのうちいずれか一方を通じて外部に取出される。したがって、光が取出されるアノードまたはカソードは透過率の高いものが望ましい。
【0003】
また、有機発光素子のアノードはカソードに比べて仕事関数の絶対値が高くなければならない。これは、アノードから正孔が円滑に中間層に供給されねばならず、カソードから電子が円滑に中間層に供給されねばならないためである。
【0004】
このような理由で、従来の有機発光素子では透過率がある程度確保され、比較的高い仕事関数の絶対値を持つITO(酸化インジウムスズ)をアノードとして使用することが一般的であった。このような一般的なITOの仕事関数の絶対値は、UV−O処理やNプラズマ処理を行うことによって、さらに高めるためことができる。
【0005】
しかし、このような一般的なITOアノードは、透過率も45%程度に過ぎず、仕事関数の調節も難しいので、透明電極としてのアノードの機能には限界があった。
【0006】
特に、トップエミッション型有機発光素子の場合、カソードの方向に画像が形成されねばならないが、この場合、カソードとしては仕事関数の絶対値が小さく透過率の高い材料を使用せねばならない。しかし、仕事関数の絶対値が小さく、同時に透過率の高い材料を見出すのは困難なので、Mg−Alのような仕事関数の絶対値が小さな金属を用いて半透過膜を形成した後、その導電性を補完するためにITOなどの既存透明電極を積層した構造を多く使用してきた。しかし、このような従来の光透過型カソードもその材質上の限界のために光透過率が顕著に落ちる。このように、トップエミッション型有機発光素子においては、前記のようなアノードとカソードとの仕事関数の差を保持しつつカソードの光透過率を高めることができるカソード用物質を見出すのは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述したような問題点を解決するためのものであり、光透過率が高くて仕事関数の調節が容易であり、カソードの選択に対する自由度が高いアノードを備える有機発光素子及びその製造方法を提供するところに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような目的を達成するために、本発明は、第1金属酸化物に前記第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物がドープされた第1層を備えるアノードと、前記アノードと対向したカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に設けられた発光層を有する有機層と、を備える有機発光素子を提供する。
【0009】
前記アノードは、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる第2層をさらに備える。
【0010】
前記アノードは、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅からなるグループ及びフラーレン、金属含有フラーレン系錯化合物、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト、カルビン、MgC60、SrC60、CaC60及びC60からなるグループから選択された物質からなる第3層をさらに備える。
【0011】
前記カソードは、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質を含む。
【0012】
前記アノードは、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層をさらに備える。
【0013】
前記アノードは、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層をさらに備える。
【0014】
前記アノードは、前記第1層と、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層と、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、が順次積層された構造である。
【0015】
前記アノードは、前記第1層と、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層と、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、が順次積層された構造である。
【0016】
前記カソードは、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含む。
【0017】
前記第1金属酸化物は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含む。
【0018】
前記第2金属酸化物は、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化パラジウム、及び酸化サマリウムからなるグループから選択された物質を含む。
【0019】
本発明の他の側面によると、アノードを形成する工程と、アノード上に発光層を有する中間層を形成する工程と、前記中間層上にカソードを形成する工程と、を含み、前記アノードを形成する工程は、チャンバ内にプラズマを形成させた状態で第1金属酸化物と前記第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物とを蒸着して、前記第1金属酸化物に前記第2金属酸化物がドープされた第1層を形成する工程である有機発光素子の製造方法が提供される。
【0020】
前記第1金属酸化物は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含む。
【0021】
前記第2金属酸化物は、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化パラジウム、及び酸化サマリウムからなるグループから選択された物質を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アノードの仕事関数を調節することによって、優れた特性を持つアノードを提供でき、アノードの仕事関数を高めるための表面処理を施す必要がなくなるために、工程単純化をなしうる。
【0023】
そして、アノードの仕事関数を調節することにより、正孔注入層は不要となるので、製造工程は安価で単純になり、生産性を向上させることができる。
【0024】
また、カソード用物質の自由度が高くなって、多様な物質を用いることが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の第1−第5の実施形態を詳細に説明すれば、次の通りである。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態による有機発光素子を示す断面図である。
【0027】
図1から分かるように、本発明の第1の実施形態による有機発光素子は、基板1上にアノード2、有機層3及びカソード4が順次積層された構造を持つ。
【0028】
このような有機発光素子は、アノード2から正孔が、カソード4から電子が供給されて有機層3で発光される。有機層3で発光された光は、図1で矢印方向である基板1の方向に出射されて基板1の下方に画像が形成される。これを、以下では、ボトムエミッション型有機発光素子という。
【0029】
前記基板1は、ガラス材またはプラスチック材から形成することができるが、この基板1には薄膜トランジスタとキャパシタから成る複数のピクセル回路が装着されていて、各ピクセルはアノード2に接続することができる。
【0030】
前記基板1上に形成される前記アノード2は、外部電源に連結されて前記有機層3に正孔を提供するものであり、第1金属酸化物と第2金属酸化物とが前記基板1上に共蒸着されて備えられた第1層21を備える。この第1層21についてのさらに詳細な説明は後述する。
【0031】
前記アノード2の上部には有機層3が備えられている。前記有機層3では、アノード2とカソード4とからそれぞれ供給された正孔及び電子が結合して発光する。
【0032】
前記有機層3には少なくとも発光層32が含まれ、この発光層32とアノード2との間に第1中間層31が、発光層32とカソード4との間に第2中間層33がそれぞれ設けられる。
【0033】
前記第1中間層31としては、正孔注入層、正孔輸送層などが備えられ、第2中間層33としては、電子輸送層、電子注入層などが備えられる。しかし、前記第1中間層31及び前記第2中間層33の構造は必ずしもこれらに限定されるものではなく、必要に応じて前記層のうちいずれか1層のみ備えられることもあり、電子遮断層、正孔遮断層がそれぞれ第1中間層31、及び第2中間層33にさらに備えられうる。
【0034】
発光層32は、通常の発光層形成物質を使用できる。例えば、前記発光層をなす物質は、オキサジアゾールダイマー染料(Bis−DAPOXP))、スピロ化合物(Spiro−DPVBi、Spiro−6P)、トリアリールアミン化合物、ビス(スチリル)アミン(DPVBi、DSA)、Flrpic、CzTT、アントラセン、TPB、PPCP、DST、TPA、OXD−4、BBOT、AZM−Znなど(以上、青色)、クマリン6、C545T、キナクリドン、Ir(ppy)3など(以上、緑色)、DCM1、DCM2、Eu(テノイルトリフルオロアセトン)3(Eu(TTA)3)、ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン(DCJTB)など(以上、赤色)を使用できる。または、ポリフェニレンビニレン(PPV)系高分子及びその誘導体、ポリフェニレン(PPP)系高分子及びその誘導体、ポリチオフェン(PT)系高分子及びその誘導体、ポリフルオレン(PF)系高分子及びその誘導体及びポリスピロフルオレン(PSF)系高分子及びその誘導体からなる群から選択された一つ以上でありうる。
【0035】
前記正孔注入層をなす物質は特別に制限されず、銅フタロシアニン(CuPc)またはスターバースト型アミン類であるTCTA、m−MTDATA、HI406(出光社製の材料)、溶解性のある導電性高分子であるポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(Pani/DBSA)またはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸塩)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンフルスルホン酸(Pani/CSA)またはポリアニリン/ポリ(4−スチレンスルホン酸塩)(PANI/PSS)などを使用できる。
【化1】


【0036】
このうち、PEDOT/PSSは空気中100〜1000時間放置しても導電性に変化のない非常に安定した物質である。特に、前記正孔注入層をPEDOT/PSSを用いて形成する場合、水またはアルコール溶媒にPEDOT/PSSを溶解させ、これをスピンコーティングすることで形成できる。
【0037】
前記正孔輸送層をなす物質は特に制限されないが、例えば、正孔輸送の役割を行うカルバゾール基及び/またはアリールアミン基を持つ化合物、フタロシアニン系化合物及びトリフェニレン誘導体からなる群から選択された一つ以上を含む物質からなりうる。より具体的には、前記正孔輸送層312は、1,3,5−トリカルバゾリルベンゼン、4,4’−ビスカルバゾリルビフェニル、ポリビニルカルバゾル、m−ビスカルバゾリルフェニル、4,4’−ビスカルバゾリル−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’,4”−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン、1,3,5−トリ(2−カルバゾリルフェニル)ベンゼン、1,3,5−トリス(2−カルバゾリル−5−メトキシフェニル)ベンゼン、ビス(4−カルバゾリルフェニル)シラン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPB)、IDE320(出光社製)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−N−(4−ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)及びポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−ビス−N,N−フェニル−1、4−フェニレンジアミン(PFB)及びポリ(9,9−ジオクチルフルオレン−co−ビス−N,N−(4−ブチルフェニル)−ビス−N,N−フェニルベンジジン)(BFE)からなる化合物のうち一つ以上からなりうるが、これらに限定されるものではない。
【化2】

【0038】
前記電子輸送層は、発光層32の上に電子輸送物質を真空蒸着またはスピンコーティングして形成される。電子輸送物質は特に制限されず、Alq3、ルブレン、キノリン系低分子及び高分子化合物、キノキサリン系低分子及び高分子化合物など、従来公知の電子輸送化合物から選択された少なくとも1種の化合物を含むことができる。さらに、前記電子輸送層は、少なくとも2つの異なる層を含む多層構造とすることができる
電子注入層は、電子輸送層の上に、真空蒸着法またはスピンコーティング法などを適用して形成できる。前記電子注入層形成材料としては、BaF、LiF、NaF、MgF、AlF、CaF、NaCl、CsF、LiO、BaO、Liqなどの物質を利用できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
前記カソード4は、発光層32で発光された光が反射され、前記アノード2に比べて仕事関数の絶対値が小さくて電子の注入が円滑になされるように、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質から形成することができる。たとえば、カソード4はAlから形成することができる。
【0040】
本発明の第1の実施形態において、前記アノード2に含まれる第1層21は、前述したように、第1金属酸化物と第2金属酸化物とを含む。第1金属酸化物は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含み、前記第2金属酸化物は、酸化イッテルビウム(YbO)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化チタン(TiO)、酸化シリコン(SiO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化パラジウム(PdO)、及び酸化サマリウム(Sm)からなるグループから選択された物質を含むことができる。
【0041】
本発明の第1の実施形態によれば、前記第1金属酸化物としては酸化インジウム(InOx)を、第2金属酸化物としては酸化イッテルビウム(YbO)を使用できる。
【0042】
前記第2金属酸化物は、仕事関数の絶対値が6.0以上に高くてほぼ絶縁体に近い。これに比べて前記第1金属酸化物は、仕事関数の絶対値が第2金属酸化物に比べて比較的低いので、導電性を有する。本発明の第1の実施形態による酸化インジウムの場合、熱蒸着の方法で仕事関数の絶対値が4.8〜5.0程度で光透過率が90%以上である透明電極で形成できる。この時、酸化イッテルビウム(YbO)を共蒸着することで数〜数十%のイッテルビウム(Yb)をドープさせることができるので、前記第1層21の仕事関数の絶対値を5.1〜5.8まで高くすることができる。
【0043】
具体的には、蒸着温度を低めるために蒸着されるチャンバ内にプラズマを形成させた状態で酸化インジウムを熱蒸着させる。チャンバ内にプラズマを形成させた状態で蒸着を行うことにより、蒸着温度を高めずに効果的に蒸着させることができる。このように、酸化インジウムの蒸着時にチャンバ内にプラズマを形成させた状態で熱蒸着を行わせる場合、基板1の温度上昇は低く、約100℃までに留まる。また、チャンバ内にプラズマを形成させた状態で酸化インジウムの熱蒸着が行われれば、基板1の温度上昇程度を低めると同時に、形成される酸化インジウムのモビリティー特性を改善して抵抗を画期的に低めることができる。
【0044】
一般的な熱蒸着工程の場合、温度を材料の融点や昇華点以上に高くして。しかし、一般的な熱蒸着工程によって形成された材料の反応性やモビリティーは、既存のスパッタや電子ビーム工程の場合に比べて低いので、一般的な熱蒸着工程は一般的な金属の蒸着工程にのみ使用され、薄膜の蒸着工程には利用されていない。特に透明電極の形成に用いられる物質に関しては、基板温度を250〜300℃まで上昇させて抵抗や透過率特性を十分低くしなければならない。
【0045】
しかし、本発明の第1の実施形態では、弱いプラズマがサーマルソースの周辺に形成されてチャンバー内で蒸着される金属材料をイオン化するので、電極として必要なモビリティー特性及び光透過率を得ることができた。
【0046】
本発明の第1の実施形態のような酸化インジウムの場合、サーマルソースとしてはインジウム(In)金属または酸化インジウム(In)のペレットまたはワイヤーを利用でき、酸素雰囲気中で酸化インジウム(InOx)に成膜されるようにした。インジウム金属のイオン化のためのプラズマは、Arガス及び/またはOガスを通じて形成される。基板温度は常温から100℃まで蒸着が高くすることができる。
【0047】
このように酸化インジウム膜を製造する場合、光透過率が90%以上の透明電極を得ることができ、製造された酸化インジウム膜は仕事関数の絶対値が4.8〜5.0程度になる。
【0048】
本発明の第1の実施形態では、酸化インジウム膜を製造する時に、酸化イッテルビウム(YbO)を共蒸着することによって、数〜数十%のイッテルビウム(Yb)を酸化インジウム膜にドープさせた。これにより、製造された第1層21の仕事関数はその絶対値が5.1〜5.8まで高くなる。それだけでなく、酸化イッテルビウム(YbO)を共蒸着する時に共蒸着される酸化イッテルビウム(YbO)の量を調節すれば、所望の仕事関数値を得ることができ、同時に電極として使用するのに十分に低い抵抗値を持たせることができる。図1から分かるように、アノード2は第1層21だけを含むことができる。この場合には、アノード2として機能する第1層21の仕事関数の絶対値が高いために、カソード4の仕事関数値が通常のカソードの仕事関数値より高くても、有機発光素子を製造することができる。ボトムエミッション型構造の場合には、カソードの仕事関数値はあまり重要な因子ではない。一方、図1のようなボトムエミッション型構造では、、標準的なITO膜が約45%程度の光透過率を有するのに対し、第1層21は90%に達する光透過率を示すので、優れた発光効率が得られる。それだけでなく、既存のボトムエミッション型構造でアノードとして使われたITO膜に対して仕事関数の絶対値を高めるために行われたUV−O処理やプラズマ処理は、前記第1層21をアノード2として使用する場合、必要がなくなる。そして、前記第1層21の仕事関数を調節することにより、第1中間層31に正孔注入層を形成しなくてもよいので、単純な工程によって単純な構造の有機発光素子を得ることができる。
【0049】
図2は、本発明の第2の実施形態による有機発光素子の断面図を示したものである。基板1上に第2層22が形成され、その第2層22上に第1層21が形成され、この第1層21及び第2層22によりアノード2が構成される。図2による有機発光素子は、形成された画像が基板1のボトム部に表示されるボトムエミッション型構造である。その他の構成要素は前述した図1による第1の実施形態と同一であるので、以下では第1層21及び第2層22を詳細に説明する。
【0050】
基板1上に形成される第2層22は、既存のアノードと同じく酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質から形成することができる。第2の実施形態ではITOから形成することができる。このような第2層22の場合、仕事関数の絶対値が5.1〜5.4eV程度を示し、抵抗は、アノードとして使われるのに十分に低い約10Ω/m以下の表面抵抗値を持つ。
【0051】
この第2層22上にアノード補助電極として機能できる第1層21が形成される。この第1層21は、前述した第1の実施形態と同じく第1金属酸化物と第2金属酸化物とを含む。前記第1金属酸化物は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含み、前記第2金属酸化物は、酸化イッテルビウム(YbO)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化チタン(TiO)、酸化シリコン(SiO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化パラジウム(PdO)、及び酸化サマリウム(Sm)からなるグループから選択された物質を含むことができる。本発明の第2の実施形態によれば、前記第1金属酸化物は酸化インジウム(InOx)であり、第2金属酸化物は酸化イッテルビウム(YbO)である。前記第1及び前記第2金属酸化物は、前記第1の実施形態と同様の方法で使用することができる。
【0052】
この時、前述した第1の実施形態とは異なって、前記第1層21がアノード補助電極として使われるので、抵抗を低くする必要はない。前記第1層21は、仕事関数を調節するだけでアノード補助として十分に機能する。前記第1層21の仕事関数を調節することにより、第1中間層31に正孔注入層を形成する必要がなくなることもある。
【0053】
この第2の実施形態の場合、第1層21が前述したように優れた光透過率を有するために、第2層22の厚さを調節することにより、発光効率を既存の場合に比べて向上させることができる。
【0054】
図3は、本発明の第3の実施形態による断面図を示したものであり、基板1上に第1層21が形成され、その第1層21上に第3層23が形成されて、この第1層21及び第3層23によりアノード2が構成される構造を示す。図3に示した有機発光素子は、基板1のボトム部に画像が形成されるボトムエミッション型構造を持つが、その他の構成要素は前述した図1の場合と同一であるので、以下では特に説明しない。
【0055】
図3による第3の実施形態において、前記第1層21は、図1による第1の実施形態と同じく電極として機能できるように抵抗を低く調節したものである。そして、第3層23は、アノード補助電極として機能するものであり、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅からなるグループ及びフラーレン、金属含有フラーレン系錯化合物、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト、カルビン、MgC60、SrC60、CaC60及びC60からなるグループから選択された物質からなりうる。この場合、第1層21は、前述したように、イッテルビウムのドーピング濃度を調節することによって低い抵抗値を持つようにすることができるが、これは、有機発光素子のアノード3を形成するために仕事関数値を調節するのに、第3層23を用いることができるからである。
【0056】
以上説明したのはボトムエミッション型有機発光素子のものであるが、これはパッシブマトリックス(PM)駆動方式や、アクティブマトリックス(AM)駆動方式のいずれにも採用できる。
【0057】
PM駆動方式に採用される場合、前記アノード3とカソード4とを互いに直交するように配置してストリップパターンを形成させ、アノード3とカソード4との交差部分に発光画素を形成させることができる。
【0058】
AM駆動方式に採用される場合、前記基板1とアノード3との間に薄膜トランジスタを持つピクセル回路部がさらに備えられ、各画素のアノード3は各ピクセル回路部に電気的に連結された構造を持つ。
【0059】
次いで、本発明によるトップエミッション型構造の有機発光素子について詳細に説明する。
【0060】
図4は、本発明の第4の実施形態によるトップエミッション型有機発光素子の断面図を示したものであり、基板1上に、第4層24、反射層25及び第1層21が順次積層されて、アノード2が形成されている。このアノード2上に有機層3及びカソード4が積層される。
【0061】
基板上に形成された第4層24は、既存の反射型アノードで使われた酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる。そして、反射層25は、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる。
【0062】
この反射層25上に前述したような第1層21を形成する。その具体的な物質及び形成方法は前述した第1の実施形態と同じである。この時、前記第1層21は、アノードとしての機能を行えるように、図1による第1の実施形態のように抵抗が低くコントロールされることが望ましい。
【0063】
図4による本発明の第4の実施形態によれば、前記第4層24としてITO、反射層25としてAg、第1層21としてYbOが共蒸着されたInOxで形成して、アノード2をITO/Ag/InOx:YbOの順次積層構造にすることができる。設計条件によっては前記第4層24は使用しないこともある。
【0064】
このような構造のトップエミッション型有機発光素子においては、前記第1層21の仕事関数の絶対値が大きいので、カソード4の物質選択の自由度が増大する。
【0065】
すなわち、有機発光素子の構造的な特性により、カソード物質は、アノード物質に比べて仕事関数の絶対値が小さくなければならない。したがって、通常の有機発光素子ではアノードとしてITOを使用し、カソードとしてAlを使用して、仕事関数のバランスをとった。トップエミッション型構造の場合、カソードの方向に画像が形成されるが、Alでカソードを形成する場合、このカソードは低い光透過率を持つ。このため、従来のトップエミッション型構造では、カソードに半透過膜であるMg−Alの薄膜を含ませてカソードとアノードとの仕事関数のバランスをとり、この半透過薄膜の使用による低い導電性を補充するために、ITOのような、いわゆる透明酸化物をさらに形成する方式を採用してきた。しかし、Mg−Al半透過薄膜は光透過率や膜の均一性が低いので、既存のITOのような酸化物を形成すると、光透過率が50%に達しないため、透明なカソードの形成は困難であった。
【0066】
本発明の場合、アノードの仕事関数の絶対値が高いため、従来のカソードに比べて仕事関数の絶対値が大きいカソードを使用しても、アノードとの仕事関数のバランスをとることができるので、カソード物質の選択はさらに自由になりうる。
【0067】
図4の第4の実施形態の場合にも、アノード2としてITO/Ag/InOx:YbOの順次積層構造を採用することによって、第1層21が5.1〜5.8eVの仕事関数の絶対値を持つようになる。
【0068】
したがって、これより低い仕事関数の絶対値を持つ物質であれば、カソード4として採用することができる。これにより、前述した図1の第1の実施形態で説明したように、プラズマ雰囲気内で熱蒸着した酸化インジウム(InOx)のような仕事関数の絶対値が4.8〜5.0程度の物質でカソード4を形成できる。この場合、前記InOxは90%以上の光透過率を示すので、透明カソード4としてさらに好適になる。
【0069】
しかし、カソード4は、必ずしもこれに限定されるものではなく、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含むことができ、このような金属酸化物層と第2中間層33との間にAg、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる半透過薄膜をさらに設けてもよい。
【0070】
図5は、本発明の第5の実施形態によるトップエミッション型有機発光素子の断面図を示したものである。図5による第5の実施形態によれば、アノード2は、基板1上から第4層24、反射層25、他の第4層24が順次積層され、この積層体上に第1層21をアノード補助電極としてさらに形成した構造をとる。この時のアノード2は、前述した図2による第2の実施形態とは異なり、それ自体が電極として使われるものではないので、抵抗が電極のように低い必要はない。すなわち、第5の実施形態による有機発光素子は、既存の有機発光素子のアノードと有機層との間にアノード補助電極として機能する第1層21をさらに設けることによって製造することができる。
【0071】
第4及び第5の実施形態の場合にも、前記第1層21の仕事関数を調節することによって、第1中間層31に正孔注入層を使用しない場合もある。そして、PM駆動方式や、AM駆動方式にいずれも採用できる。
【0072】
本発明は、実施形態を参照して具体的に図示し、説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、特許請求項によって定められる本発明の思想及び範囲から逸脱せずに、実施形態及び詳細における多様な変形が可能であるということを、理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、有機発光素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施形態による有機発光素子を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による有機発光素子を概略的に示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態による有機発光素子を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態による有機発光素子を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態による有機発光素子を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 基板
2 アノード
3 有機層
4 カソード
21 第1層
31 第1中間層
32 発光層
33 第2中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属酸化物に前記第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物がドープされた第1層を備えるアノードと、
前記アノードと対向したカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられた発光層を有する有機層と、
を備えることを特徴とする有機発光素子。
【請求項2】
前記アノードが、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる第2層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記アノードが、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅からなるグループ及びフラーレン、金属含有フラーレン系錯化合物、カーボンナノチューブ、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト、カルビン、MgC60、SrC60、CaC60及びC60からなるグループから選択された物質からなる第3層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記カソードが、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記アノードが、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記アノードが、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記アノードが、
前記第1層、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層と、
酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、
が順次積層された構造であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記アノードが、
前記第1層、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、
Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、及びそれらの化合物からなるグループから選択された物質からなる反射層、及び酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質からなる層と、 が順次積層された構造であることを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記カソードが、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項1及び5ないし請求項8のうちいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項10】
前記第1金属酸化物が、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項1ないし3及び請求項5ないし8のうちいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項11】
前記第2金属酸化物が、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化パラジウム、及び酸化サマリウムからなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項1ないし3及び請求項5ないし8のうちいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項12】
アノードを形成する工程と、
アノード上に発光層を有する中間層を形成する工程と、
前記中間層上にカソードを形成する工程と、を含み、
前記アノードを形成する工程が、チャンバ内にプラズマを形成させた状態で第1金属酸化物と前記第1金属酸化物と異なる第2金属酸化物とを蒸着して、前記第1金属酸化物に前記第2金属酸化物がドープされた第1層を形成する工程であることを特徴とする有機発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1金属酸化物が、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化スズ、アンチモン酸化スズ、アンチモン酸化亜鉛、及び酸化アルミニウムからなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項12に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記第2金属酸化物が、酸化イッテルビウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化パラジウム、及び酸化サマリウムからなるグループから選択された物質を含むことを特徴とする請求項12に記載の有機発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−270170(P2008−270170A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21077(P2008−21077)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】