有機発光素子
【課題】例えば自発光型のカラ−ディスプレイなどに用いるのに好適な、発光量を制御する仕組みを自ら備え、かつ、駆動電圧が低く、発光効率の高い有機発光素子を提供すること。
【解決手段】ゲート電極を兼ねる、高濃度にドープされた半導体基板1(n型のシリコン基板など)の一方の主面に、酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2を形成し、その上に、Auなどの仕事関数の大きい金属からなるソース電極3、および、Caなどの仕事関数の小さい金属からなるドレイン電極4をパターニングして形成する。ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、P3HTなどからなる有機半導体層5を設け、ソース電極3、ドレイン電極4および有機半導体層5を被覆するように、酸素および水分の侵入を阻止する保護膜6を設ける。
【解決手段】ゲート電極を兼ねる、高濃度にドープされた半導体基板1(n型のシリコン基板など)の一方の主面に、酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2を形成し、その上に、Auなどの仕事関数の大きい金属からなるソース電極3、および、Caなどの仕事関数の小さい金属からなるドレイン電極4をパターニングして形成する。ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、P3HTなどからなる有機半導体層5を設け、ソース電極3、ドレイン電極4および有機半導体層5を被覆するように、酸素および水分の侵入を阻止する保護膜6を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自発光型のカラ−ディスプレイなどに用いる表示素子などとして好適な有機発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、とくにマルチメディア指向の機器などにおいて、より快適に効率よく機器を操作するために、人と機械とのインタ−フェ−スの重要性が高まっている。例えば、情報機器などから必要十分な情報をすみやかに取り出し、わかりやすく表示する必要があり、そのための表示装置について活発に研究が行われている。また、機器の小型化にともない、表示装置の小型化や薄型化に対する要求も日々高まっている。
【0003】
従来、小型テレビ、時計、電卓などの携帯機器や、ラップトップ型情報処理機器の表示装置として、主に液晶ディスプレイが用いられてきた。液晶素子には、低電圧で駆動でき、低消費電力であるという特徴がある。しかしながら、液晶ディスプレイは光透過型の表示装置であり、バックライトの点灯に液晶の駆動よりも大きな電力を必要とする。
【0004】
一方、1987年にTangらは、有機薄膜を発光層とする、高輝度発光が可能な電界発光素子を発表した(C. W. Tang and S. A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51, 913 (1987);以下、この素子を有機EL(Electroluminescence)素子と呼ぶ。)。これ以来、有機EL素子は、低電圧駆動が可能で、応答速度が速く、視野角依存性のない自発光型ディスプレイを構成できる素子として、活発に研究開発が行われている。
【0005】
上記の有機EL素子は、陽極であるITO透明電極上に、1,1-ビス(4-ビス(4-トリル)アミノフェニル)シクロヘキサン(TAPC)およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq3 )からなる2層の有機半導体層を積層し、その上に陰極を蒸着したものである。TAPC層は正孔(ホール)輸送層として機能する。Alq3 層は二通りの機能をもち、TAPC層との界面付近のAlq3 層は電子輸送性を有する緑色光発光層として機能し、陰極側のAlq3 層は電子輸送層として機能する。このように、Tangらが発表した有機EL素子は、実質的には正孔輸送層/発光層/電子輸送層の3層構造を有する有機半導体層からなる。その後、様々な素子構造が提案されているが、ここに述べた基本構造は変わっていない。
【0006】
有機ELディスプレイの駆動方法には、パッシブ型とアクティブ型とがある。パッシブ型には構造が簡単であるという利点があるが、画素数が多い場合には、低電圧駆動が可能で、低消費電力化や長寿命化に有利なアクティブ型が適している。そこで、画素ドライバとして有機FET(Field-Effect Transistor;電界効果トランジスタ)を有機EL素子に集積して形成し、集積度を向上させたデバイスの例が既に提案されている((a) H. Sirringhaus et al., Science, 280, 1741 (1998)、(b) A. Bodabalapur et al., Appl. Phys. Lett., 73, 142 (1998)、(c) M. Kitamura et al., Appl. Phys. Lett., 83, 3410 (2003))。
【0007】
有機半導体素子は、真空装置などの高価な設備を用いず、塗布法や浸漬法などで製造できるため、無機半導体素子に比べて低コストで製造でき、容易に大面積化が可能である。また、比較的低い温度下で形成されるため、プラスチック基板などの耐熱性のないフレキシブルな基板などに形成することもでき、機械的衝撃に対しても安定である。上記の例のように、有機半導体層によって発光素子やそのドライバ素子を形成すれば、全てを有機材料で形成した全有機フレキシブルディスプレイを実現することができる。このようなディスプレイの実用化を目指す激しい競争の中で、さらに集積化を進め、発光素子の半導体層とドライバ素子の半導体層を一体化した素子構造を実現できれば、製造工程を大幅に単純化し、ディスプレイを小型化および低コスト化できるメリットが大きいと考えられる。
【0008】
そこで後述の非特許文献1には、ゲート電界の作用下にある有機半導体層内に導電領域が形成され、導電領域を流れる電流量がドレイン−ソース電圧およびゲート−ソース電圧によって制御され、かつ、この導電領域の一部に発光領域が形成され、発光領域からの発光量がドレイン−ソース電圧およびゲート−ソース電圧によって制御される有機発光電界効果トランジスタ(Organic Light-Emitting Field-Effect Transistor;以下、有機発光FETと略称する。)が提案され、注目されている。
【0009】
図8(a)は、非特許文献1に示されている有機発光FET100の構造を示す断面図である。図8(a)に示すように、有機発光FET100では、高濃度にドープされたn型シリコン基板101がゲート電極を兼ねており、その一方の主面に酸化シリコンからなるゲート絶縁膜102が形成されている。そしてゲート絶縁膜102の上に金からなるソース電極103およびドレイン電極104がパターニングして形成され、ソース電極103およびドレイン電極104に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、テトラセンからなる有機半導体層105が、真空蒸着によって形成されている。
【0010】
なお、図8(b)に示すように、ソース電極103およびドレイン電極104は、くし形電極の形状にパターニングされており、有機半導体層105はくし形電極の全体を包み込むように形成される。図8(a)は、図8(b)に8a−8a線で示した位置における断面図である。ソース電極103およびドレイン電極104をくし形電極にすることで、有機半導体層105が形成する導電領域の実質的な断面積が増加し、キャリア移動度の小さい有機半導体層105であっても、十分な量の電流量を得ることができる。
【0011】
上記のように、有機発光FET100はボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタと同様に構成され、有機半導体層105における電荷キャリアである正孔(ホール)の移動がゲート電極を兼ねた基板1に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって制御されるように構成されている。
【0012】
図9は、有機発光FET100の、FET素子としての特性を示すドレイン電流IDとドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフ(a)と、ドレイン電流IDとゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフ(b)とである。図9(a)は、良好な飽和傾向を有する単極性(unipolar)のFET特性を示し、有機発光FET100がホール蓄積モードで動作していることを示している。図9(b)には、ソース電極103における接触抵抗に起因するドレイン電流IDの飽和傾向が示されている。また、ゲート−ソース電圧VGSのしきい値電圧Vthが−25Vと大きいことから、高濃度のトラップ準位と注入障壁が存在することが示唆されている。
【0013】
図9(a)および図9(b)に示されている電気的特性には、有機発光FET100が同時両極性(ambipolar)であることを示すものはない。それにも関わらず、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSを高めていくと、かなりの強度の発光がドレイン電極104近傍の有機半導体層105から観察された。図10(a)は、有機発光FET100の発光光のスペクトルであるが、これはテトラセンの発光スペクトルと同一であって、発光が正孔(ホール)と電子の再結合による発光であることを示している。
【0014】
図10(b)は、発光強度とドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフである。図示省略したが、発光強度とゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフも得られており、これらのグラフから、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSがそれぞれ−30Vをこえると発光が観察されることがわかる。また、発光強度から推定される電子電流の大きさはドレイン電流IDに比べてはるかに小さく、ドレイン電流IDのほとんどが正孔(ホール)電流であることが判明した。この結果は、図9(a)および図9(b)に示されている電気的特性と矛盾しない。
【0015】
有機発光FET100の発光の他の特徴は、発光領域がドレイン電極104近傍に限られることである。これは、ドレイン電極104から注入される電子の量および移動度が、それぞれ、正孔(ホール)の注入量および移動度に比べて小さく、注入された電子のほとんどがドレイン電極104近傍で正孔(ホール)と再結合してしまうためであると推測される。
【0016】
有機発光FET100の発光機構などに関してはまだ不明なことも多いが、図10(b)などに示されている有機発光FET100の特性は、有機発光FET100の発光強度が、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSによって直接制御可能であることを示しており、この素子が、自発光型ディスプレイの構造および製造工程を大きく単純化し、ディスプレイを小型化および低コスト化できる可能性を有する素子であることを示している。
【0017】
後述の非特許文献2および3には、有機発光FET100と同様の構造をもち、テトラセンの代わりにポリ(2-メトキシ-5-(2-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH−PPV)からなる有機半導体層を有する有機発光FETを形成し、ドレイン電極の近傍に形成された発光領域からの発光を観察した例が報告されている。
【0018】
非特許文献2および3では、A.ソース電極とドレイン電極がともに下地クロム層の上に金層を積層したCr/Auの積層構造である場合、B.ソース電極とドレイン電極がともに下地アルミニウム層の上に金層を積層したAl/Auの積層構造である場合、および、C.ソース電極が下地クロム層の上に金層を積層したCr/Auの積層構造であり、ドレイン電極がアルミニウム層である場合について、発光強度が比較されている。
【0019】
この結果、仕事関数の小さいアルミニウムをドレイン電極に用いたCの場合、ゲート−ソース電圧が−40Vをこえると、AやBの場合に比べて著しく強い発光が観察されることが示されている。
【0020】
【非特許文献1】A. Hepp et al., Phys. Rew. Lett., 91, 157406-1 (2003)(第1−3頁、図1−7)
【非特許文献2】坂上 知、藤原 栄一、山田 亮、多田 博一,「有機電界効果トランジスターからの可視発光の観察」,分子構造総合討論会予稿集1A10,日本化学会主催,2004年9月27日〜30日(図3及び4)
【非特許文献3】T.Sakanoue et al.,Chemistry Lett.,34,p.494-p.495(2005)(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図11は、有機発光FET100の発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【0022】
図11にステップ(1)として示すように、ソース側の金電極103と有機半導体層105との界面では、テトラセンの最高占有軌道(HOMO)からソース側金電極103へ電子が取り出され、有機半導体層105へ正孔(ホール)が注入される。一方、図11にステップ(2)として示すように、ドレイン側の金電極104と有機半導体層105との界面では、ドレイン側金電極104からテトラセンの最低非占有軌道(LUMO)へ電子が送り込まれ、有機半導体層105へ電子が注入される。このようにして有機半導体層105に形成された正孔(ホール)と電子は、ゲート電圧の作用下で形成された導電領域を移動し、図11にステップ(3)として示すように、両者が出会ったところで再結合し、エキシトン状態が生成し、光を放出しながら基底状態へもどる。
【0023】
図11中に示したHOMOおよびLUMOのエネルギー準位を示す数値は、各軌道のエネルギー準位が真空準位に比べてどれだけ低下しているかを示し、数値が大きいほどエネルギー準位は低い。図11に示すように、金の仕事関数φは5.1eVであり、テトラセンのHOMOのエネルギー準位は真空準位より5.4eV低い位置にあるので、ソース側金電極103から有機半導体層105への正孔(ホール)の注入は、0.3eV程度の比較的低いエネルギー障壁をこえればよく、無理なく起こる。しかし、一方、テトラセンのLUMOのエネルギー準位は真空準位より2.4eV低い位置にあるので、ドレイン側金電極104から有機半導体層105への電子の注入は、2.7eV程度の高いエネルギー障壁をこえなければならないので、通常の熱運動などではほとんど起こらない。
【0024】
このため、ドレイン側金電極104から有機半導体層105へ電子を注入するためには、ドレイン−ソース間に強い電圧をかけ、トンネル効果などによる電子注入が起こるようにしなければならない。この結果、発光を得るにはドレイン−ソース電圧VDSを少なくとも−30Vをこえる大きさにすることが必要であり、実際的な発光量を得るには−80V程度とする必要がある。駆動にこのような高電圧が必要な場合、ディスプレイなどの用途に実用化するのは難しい。
【0025】
また、ドレイン電流IDの大部分は発光に寄与しない正孔(ホール)電流であるから、発光効率が悪い。
【0026】
また、ドレイン電極の近傍のみに発光領域が形成されるという問題もある。これは、テトラセンからなる有機半導体層105では正孔(ホール)の移動度の方が電子の移動度より大きく、また、電子注入量が正孔(ホール)注入量よりはるかに少ないので、図11に示すように、注入された電子のほとんどがドレイン電極104近傍で正孔(ホール)と再結合してしまうためと考えられる。
【0027】
非特許文献2および3では、金電極の代わりにアルミニウムからなるドレイン電極を用いることによって発光強度が高められるとされているが、発光が観察されるゲート−ソース電圧のしきい値は−40Vと高く、非特許文献1と同様、ディスプレイなどの用途に実用化できる大きさではない。また、アルミニウムの仕事関数は4.06〜4.28eV程度であり、MEH−PPVのLUMOのエネルギー準位は真空準位より2.8eV程度低い位置にあるから、電子注入のエネルギー障壁は1.3〜1.5eVに達し、通常の熱運動で乗りこえることのできない高さである。この点では、非特許文献2および3の有機発光FETは、非特許文献1の有機発光FETと本質的に変わりはない。
【0028】
上記のように、非特許文献1の発明の問題点は、非特許文献2および3の発明によっても本質的には解決されないまま残されている。
【0029】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えば自発光型のカラ−ディスプレイなどに用いるのに好適な、発光量を制御する仕組みを自ら備え、かつ、駆動電圧が低く、発光効率の高い有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
即ち、本発明は、
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される有機発光素子であって、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる、
有機発光素子に係わるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明者は鋭意研究の結果、非特許文献1の発明の有機発光FETの駆動電圧が高くなり、発光効率が低くなる問題点の主因は、ドレイン電極における電子注入に対するエネルギー障壁が高く、電子注入量が正孔(ホール)注入量に比べ著しく少ないことにあり、ドレイン電極における電子注入に対するエネルギー障壁を0.3〜0.5eV程度以下とし、熱運動によって比較的容易に乗りこえられる程度の高さとすれば解決できることを着想した。電子注入に対するエネルギー障壁の高さは、ドレイン電極を構成する金属の仕事関数と、有機半導体層を形成する有機半導体化合物のLUMOとの差で決まること、前記有機半導体化合物のLUMOが最低で3.3eV或いはこれよりやや低い程度であることを考慮すると、適合する金属の仕事関数は最大で4eV弱、すなわちアルミニウムの仕事関数よりもやや小さい程度になる。
【0032】
本発明の有機発光素子によれば、
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる
ので、上記の条件を満たしている。このため、前記低電位側の電極における電子注入に対するエネルギー障壁を低くして、効率よく電子注入を行うことができ、駆動電圧を低くすることができる。また、高電位側の電極における正孔(ホール)注入量と良好なバランスを形成して、発光効率の高い有機発光素子を実現することができる。なお、後述の実施の形態で説明するように、本発明の有機発光素子の基本的構成では、前記低電位側の電極及び前記高電位側の電極は、それぞれ、非特許文献1の発明の有機発光FETにおけるドレイン電極及びソース電極に相当する。
【0033】
また、本発明の有機発光素子によれば、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される
ので、例えば前記有機発光素子の複数個をマトリックス状に配置し、行配線および列配線によって、それぞれ、前記第1電極と前記第2電極との間の前記電圧、及び前記ゲート電極の電位を印加するように構成すれば、前記有機発光素子からなる画素の輝度をドライバ素子なしで制御できるディスプレイを形成することができ、構造および製造工程を大きく単純化し、小型、低コストの自発光型ディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の有機発光素子では、前記発光領域が前記低電位側の電極の近傍に存在しているのがよい。
【0035】
また、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、前記第1電極及び前記第2電極のいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されているのがよい。このようにすれば、例えば、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧を交流電圧とし、正孔(ホール)が注入される領域と電子が注入される領域とを交互に交代させ、前記第1電極の近傍と前記第2電極の近傍とに交互に発光領域を形成することによって、発光効率を高めることができる。
【0036】
また、前記アルミニウム(Al;仕事関数φ 4.06〜4.28eV)より仕事関数の小さい金属の仕事関数φが、3.7eV(マグネシウムの仕事関数φ)以下であるのがよい。具体的には、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属が、リチウム(Li;仕事関数 2.9eV)、ナトリウム(Na;仕事関数 2.75eV)、カリウム(K;仕事関数 2.3eV)、ルビジウム(Rb;仕事関数 2.2eV)、セシウム(Cs;仕事関数 2.1eV)、マグネシウム(Mg;仕事関数 3.7eV)、カルシウム(Ca;仕事関数 2.8eV)、ストロンチウム(Sr;仕事関数 2.6eV)、及びバリウム(Ba;仕事関数 2.7eV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属であるのがよい。なお、仕事関数φの大きさは表面状態で変化し、報告されている文献値にもばらつきがあるが、本明細書では、主として特開平9−320763号公報で引用されている J.Appl.Phys., 48,4729 (1977) の値を用いている。
【0037】
また、前記合金が、アルミニウム、マグネシウム、銀(Ag;仕事関数 4.3eV)、銅(Cu;仕事関数 4.65eV)、亜鉛(Zn;仕事関数 4.3eV)、スズ(Sn;仕事関数 4.4eV)及び鉛(Pb;仕事関数 4.25eV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との合金であるのがよい。例えば、Liの合金化にはAl、Zn、Pb、およびSnを用いるのが好ましく、Na、K、Rb、およびCsの合金化にはAlを用いるのが好ましく、Mgの合金化にはAgを用いるのが好ましく、CaおよびSrの合金化にはAlを用いるのが好ましく、Baの合金にはAl、Sn、およびPbを用いるのが好ましい(特開平9−320763号公報参照。)。前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は酸化されやすいが、上記の仕事関数の大きい金属と合金化することによって耐酸化性を向上させることができる。このような合金化は、その変形として共蒸着の形態をとってもよいものとする。
【0038】
また、少なくとも前記第1電極及び前記第2電極への外部物質の侵入を阻止する保護膜によって、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層が被覆されているのがよい。この際、前記外部物質が酸素及び水分であるのがよい。本発明の有機発光素子において前記低電位側の電極の材料として用いる、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は、極めて酸素及び水によって酸化されやすい物質である。このような材料をあえて用いることによって、低電圧駆動、高効率発光を可能にするのが本発明の特徴であるが、長期間にわたって安定に動作する、信頼性の高い有機発光素子を形成するには、保護膜などによって前記第1電極及び前記第2電極を外部から完全に遮断し、外部から侵入してくる酸素及び水分を確実に阻止する構造とすることが必要不可欠である。
【0039】
前記有機半導体層もまた、酸素及び水分によって半導体性能が劣化する。また、前記外部物質が前記有機半導体層中を通って前記第1電極及び前記第2電極へ侵入する経路も考えられる。従って、前記保護膜は、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層の全体を被覆するように形成するのがよい。この際、前記保護膜のうち、少なくとも光取り出し口を形成する部分は、光透過性であるようにする。
【0040】
また、この際、前記保護膜が有機保護膜と無機保護膜との積層構造からなるのがよい。前記無機保護膜としては、例えば、プラズマCVD法によって形成される緻密な窒化シリコン膜や酸化シリコン膜、又はスパッタリング法によって形成される酸化アルミニウム(アルミナ)膜などがよい。これらの緻密な結晶性またはガラス状の無機保護膜は、酸素や水分の侵入を阻止する保護膜として好適である。しかし、前記有機半導体層に直接、前記無機保護膜を形成すると、前記無機保護膜を形成する際のプラズマや熱によるダメージが前記有機半導体層に生じやすい。また、有機材料と無機材料とが接触することによる機械的ストレスも発生しやすい。
【0041】
そこで、前記無機保護膜を形成する前に、前記有機半導体層を被覆する前記有機保護膜を形成しておくのがよい。前記有機保護膜としては、前記無機保護膜を形成する際のプラズマや熱によるダメージから前記有機半導体層を保護する性能が高く、かつ、自身を形成する際に前記有機半導体層へ与えるダメージが少ない膜がよい。具体的には、単量体の蒸着とその後の重合で形成されるパリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜、或いは溶液の塗布などで形成できるポリビニルアルコール(PVA)膜、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)膜、ポリイミド膜などがよい。
【0042】
なお、前記有機保護膜及び前記無機保護膜は、それぞれ、単一層からなるものであっても、複数層が積層されたものであってもよい。単一層からなるものであれば、形成工程が簡易になるメリットがあり、複数層からなるものであれば、形成に多少手間がかかるものの、複数層の組み合わせによって、単一層では実現できない性能を実現できるメリットがある。また、前記有機保護膜と前記無機保護膜とを交互に複数回積層するようにしてもよい。
【0043】
また、前記有機半導体層が、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性を合わせもつ有機半導体化合物からなるのがよい。例えば、ポリチオフェン系化合物、ポリフルオレン系化合物又はポリフェニレンビニレン系化合物は、ホール輸送性半導体であり、発光性をもつポリマーとして知られているが、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性を合わせもつ可能性がある(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005)、Table1参照。)。また、これらの化合物は、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属と組み合わせるのに適当なLUMOを有し、かつ、有機半導体化合物とオーミック接続を形成できる金などと組み合わせるのに適当なHOMOを有する。また、キャリア移動度が大きいなど、優れた半導体特性を示すことが知られている。なお、「・・・系化合物」とは、その化合物自体およびその誘導体を意味し、例えば、ポリチオフェン系化合物とは、ポリチオフェンおよびポリチオフェン誘導体を意味するものとする。
【0044】
また、前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子の注入を補助する電子注入層が設けられているのがよい。電子注入層としては、膜厚の薄い酸化リチウム、酸化セシウム、フッ化リチウムなどのアルカリ金属元素の酸化物やフッ化物、或いはアルカリ土類金属元素の酸化物やフッ化物などからなる層がよい(Appl. Phys. Lett., 70, 152, (1997))。
【0045】
また、前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子輸送層が設けられているのがよい。電子輸送層としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq3 )などからなる層がよい。
【0046】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0047】
本実施の形態では、本発明に基づく有機発光素子の基本的構成例として、ボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(FET)と同様の構造に形成された有機発光FETについて説明する。
【0048】
図1(a)は、本実施の形態に基づく有機発光FET10の構造を示す断面図である。図1(a)に示すように、有機発光FET10では、例えばn型のシリコン基板などの、高濃度にドープされた半導体基板1がゲート電極を兼ねており、その一方の主面に酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2が形成されている。このゲート絶縁膜2の上に、例えば金(Au)からなるソース電極3、および、例えばカルシウム(Ca)からなるドレイン電極4が形成され、ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、例えばポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)からなる有機半導体層5が設けられている。ソース電極3およびドレイン電極4は、前記第1の電極および前記第2の電極であり、ドレイン電極4が前記低電位側の電極に相当する。有機半導体層5の上には、ソース電極3、ドレイン電極4および有機半導体層5を被覆するように、前記外部物質である酸素および水分の侵入を阻止する保護膜6が設けられている。
【0049】
上記のように、有機発光FET10は、図8に示した有機発光FET100と同じく、ボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタと同様に構成され、有機半導体層5における電荷キャリアである正孔(ホール)の移動がゲート電極を兼ねた基板1に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって制御されるように構成されている。従って、有機発光FET10を通常のFETとして動作させることもできる。なお、ここではボトムゲート型FETの例を示したが、本発明に基づく有機発光素子はこれに限られるものではなく、トップゲート型のFETや、縦型のFETであってもよい。とくに、縦型のFETには、ドレイン電極近傍に形成される広い発光領域を効率よく利用できるメリットがある。
【0050】
図2は、有機発光FET10の発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図の一例である。
【0051】
図2にステップ(1)として示すように、ソース側の金電極3と有機半導体層5との界面では、P3HTの最高占有軌道(HOMO)からソース側金電極3へ電子が取り出され、有機半導体層5へ正孔(ホール)が注入される。一方、図2にステップ(2)として示すように、ドレイン側のカルシウム電極4と有機半導体層5との界面では、カルシウム電極4からP3HTの最低非占有軌道(LUMO)へ電子が送り込まれ、有機半導体層5へ電子が注入される。このようにして有機半導体層5に形成された正孔(ホール)と電子は、ゲート電圧の作用下で形成された前記導電領域を移動し、図2にステップ(3)として示すように、両者が出会ったところで再結合し、エキシトン状態が生成し、光を放出しながら基底状態へもどる。
【0052】
図2に示すように、金の仕事関数φは5.1eVであり、P3HTのHOMOのエネルギー準位は真空準位より4.9eV低い位置にあるので、ソース側金電極3から有機半導体層5へのホールの注入は、ほぼエネルギー障壁なしに行われ、通常の熱運動で無理なく起こる。一方、カルシウムの仕事関数φは2.8eVであり、P3HTのLUMOのエネルギー準位も真空準位より2.7eV低い位置にあるので、ドレイン側カルシウム電極4から有機半導体層5への電子の注入は、0.1eV程度のわずかなエネルギー障壁をこえればよく、ほぼエネルギー障壁なしに行われ、通常の熱運動で無理なく起こる。
【0053】
以上のように、本実施の形態では、有機半導体層5の材料として優れたFET特性を有するP3HTを用い、そのLUMOにあわせて仕事関数が2.8eVのカルシウムをドレイン電極4の材料として用いることによって、ドレイン電極4における電子注入に対するエネルギー障壁をほぼなくし、熱運動で容易に乗りこえられるようにする。この結果、電子の注入効率がよくなり、低い駆動電圧(ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGS)で十分な発光量を得ることができる。また、正孔(ホール)の注入量と電子の注入量とのバランスが良くなり、発光量が増加して、無駄に流れる正孔(ホール)電流が減少するので、発光効率の高い有機発光素子を実現することができる。
【0054】
また、電子注入量と正孔(ホール)注入量とのバランスが良くなるので、有機発光FET100ではドレイン電極近傍のみに制限されていた発光領域が拡大する。また、本実施の形態では有機半導体化合物として、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性とを合わせもつことが示唆されているP3HTを用いているので、この点からも発光領域がドレイン電極4の近傍のみに制限されるという問題が緩和される。この結果、有機半導体層5の導電領域のうち、より広い領域に発光領域が形成され、発光素子として利用しやすくなる。
【0055】
図1(b)は、ドレイン電極4を、金からなる下部層の上にカルシウムからなる上部層を積層したAu/Caの2層構造とした例である。ドレイン電極4をこのような2層構造にすると、金ソース電極と金ドレイン電極による良好なp型のFET動作と、カルシウムからの良好な電子注入とが並行して起こり、同時両極性動作が効率よく行われるメリットがある。
【0056】
ドレイン電極4の構成材料としてカルシウムを用いる場合、カルシウムの仕事関数に適合し、電子注入のエネルギー障壁が熱運動で乗りこえ可能な0.3〜0.5eV以下になるためには、有機半導体化合物のLUMOのエネルギー準位が真空準位より2.4eV以上低い位置にあることが望ましい。図3は、このような条件を満たす有機半導体化合物の例の構造式、およびHOMOとLUMOのエネルギー準位を示している(ただし、表中の数値は、各軌道のエネルギー準位が真空準位に比べてどれだけ低下しているかを示し、数値が大きいほどエネルギー準位は低い。)。
【0057】
これらの化合物のうち、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)はポリチオフェン系化合物であり、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)(F8)とポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)とポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-ビチオフェン)(F8T2)はポリフルオレン系化合物であり、ポリ(2-メトキシ-5-(3,7-ジメチルオクトキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(OC1C10−PPV)とポリ(2-メトキシ-5-(2-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH−PPV)はポリフェニレンビニレン系化合物であり、F8BT以外は、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性とを合わせもつことが示唆されている(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005)、Table1)。
【0058】
ドレイン電極4を構成する金属として、リチウム(仕事関数 2.7eV)などは、仕事関数の値がカルシウムとほぼ同じであるため、カルシウムとほぼ同様の有機半導体化合物にして用いることができる。マグネシウム(仕事関数 3.4eV)は、仕事関数の値がやや大きいため、適用できる有機半導体化合物は限られるが、例えばLUMOのエネルギー準位が、それぞれ、3.3eVおよび3.1eV程度であるF8BTおよびF8T2に対して良好に用いることができる。
【0059】
一方、ソース電極3の構成材料として金を用いる場合、金の仕事関数に適合し、正孔(ホール)注入のエネルギー障壁が0.3〜0.5eV以下になるためには、有機半導体化合物のHOMOのエネルギー準位が5.6eVより高いことが望ましい。図3に挙げた化合物の多くはこの条件を満たしているが、F8とF8BTはこの条件から少しはずれている。
【0060】
本発明の有機発光素子の前記有機半導体層は、良好な正孔(ホール)注入層であること、良好な電子注入層であること、良好なFET特性を示す導電領域を形成できることなど、多くの条件を満たさなければならない。これらの条件を1つの有機半導体化合物で満たすことが難しい場合には、例えば、正孔(ホール)の注入や輸送に適した有機半導体化合物層と、電子の注入や輸送に適した有機半導体化合物層とを積層するなど、複数種の有機半導体化合物層によって前記有機半導体層を構成するようにしてもよい。
【0061】
既述したように、本発明の有機発光素子において前記低電位側の電極の材料として用いる、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は、極めて酸素及び水によって酸化されやすい物質である。このような材料をあえて用いることによって、有機発光素子の低電圧駆動、高効率発光を可能にするのが本発明の特徴である。しかし、長期間にわたって安定に動作する、信頼性の高い有機発光素子を形成するには、保護膜6によってソース電極3、ドレイン電極4、および有機半導体層5を外部から完全に遮断し、外部から侵入してくる酸素及び水分を確実に阻止する構造とすることが必要不可欠である。
【0062】
例えば、カルシウム電極は、酸素および水分と接することにより劣化することが報告されており(N. C. Greenham et al., Nature, 365, 628-630 (1993))、文献:J. H. Lee et al., Curr. Appl. Phys., 5, 348-350 (2005)に記載されている保護膜などによって封止することが必要となる。
【0063】
有機系の封止膜としてはPVAやパリレンがよく使われており、無機系の封止膜としては酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコンなどがよく使われている。L.-L. Chuaらはカルシウム電極の保護のため、厚さ30nmの酸化シリコンでデバイスの封止を行った例を報告している(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005))。また、Chwangらは酸化アルミニウム膜とポリアクリル酸エステル膜を多重に積層した封止膜を報告している(A. B. Chwang et al., Appl.Phy. Lett., 83, 413 (2003))。
【0064】
本実施の形態では、保護膜6を、有機保護膜6aの上に無機保護膜6bを形成する積層膜とする。無機保護膜6bは、酸素及び水分などの前記外部物質が侵入するのを阻止する作用を有する保護膜である。無機保護膜6bの膜厚は、酸素および水分の透過を阻止する性能などに応じて適宜選択されるが、酸化アルミニウム(アルミナ)膜や窒化シリコン膜では100nm程度である。また、有機保護膜6aは、少なくとも、無機保護膜6bを形成する際のダメ−ジから有機半導体層5を保護する作用を有する保護膜である。有機保護膜6aの材質や膜厚は、無機保護膜6bの形成方法などに応じて適宜選択する。例えば、プラズマによるダメージから有機半導体層5を保護するためにPMMA膜やポリイミド膜を形成する場合には、100nm程度の膜厚とする。
【0065】
このようにすると、無機保護膜6bを形成する際には、その際の損傷から有機半導体層5を保護する作用を有する有機保護膜6aが既に形成されているので、有機半導体層5へのダメージを心配することなく、前記外部物質の侵入を阻止する作用に最も優れた膜を必要な厚さだけ形成することができる。また、前記外部物質の侵入は無機保護膜6bによって阻止されるので、有機保護膜6aが前記外部物質の侵入を阻止する性能をもつ必要はない。有機保護膜6aは、無機保護膜6bを形成する際のプラズマや熱によるダメージから有機半導体層5を保護する性能が高く、かつ、自身を形成する際に有機半導体層5へ与えるダメージが少ない膜がよい。
【0066】
具体的には、無機保護膜6bは、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化シリコン、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化チタン、酸化タリウム、および酸化ハフニウムなどからなる膜がよい。有機保護膜6aは、単量体の蒸着とその後の重合で形成されるパリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜、或いは溶液の塗布などで形成できるPVA膜、PVP膜、PMMA膜、ポリイミド膜、およびフッ素ポリマー膜などがよい。
【0067】
以上のように、保護膜6を有機保護膜6aと無機保護膜6bとの積層構造で構成し、保護機能を2つの保護膜で段階的に分担することにより、各保護膜に要求される性能は限定される。従って、各保護膜に対してより広い選択肢の中からそれぞれに最適の材料および製造方法を選択することができる。なお、有機保護膜6aは、有機半導体層5と無機保護膜6bとが直接接すると生じる機械的なストレスを緩和する緩衝層としての効果も有する。
【0068】
図4および図5は、本実施の形態に基づく有機FET10の作製工程のフローを示す断面図である。
【0069】
初めに、例えばn型のシリコン基板などの、高濃度にドープされた半導体基板1を用意し、図4(a)に示すように、その一方の主面に熱酸化などの方法で酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2を形成する。
【0070】
次に、図4(b)〜図4(d)に示すように、その上にリフトオフ法によって金(Au)などの仕事関数の大きい金属からなるソース電極3をパターニングして形成する。
【0071】
すなわち、まず、図4(b)に示すように、半導体基板1上のゲート絶縁膜2の全面に塗布法などによってフォトレジスト層を形成した後、フォトリソグラフィによってパターニングして、ソース電極3を形成する領域に開口部52を有するマスク51を形成する。
【0072】
次に、図4(c)に示すように、蒸着法などによって全面にAuなどの電極材料層53を形成する。次に、マスク51を溶解除去することにより、その上に堆積した電極材料層53を除去して、図4(d)に示すように、ソース電極3となる電極材料層53のみを残す。
【0073】
以上、リフトオフ法による電極形成方法を説明したが、他の方法として、全面に金属薄膜を蒸着などによって形成した後、この金属薄膜をリソグラフィとエッチングとによってパターニングして、ソース電極3を形成してもよい。また、インクジェット印刷法、マイクロコンタクト印刷法、およびスクリーン印刷法などの印刷法によって、Auなどの金属微粒子を半導体基板1の上にパターニングして被着させ、金属微粒子からなるソース電極3を形成することもできる。
【0074】
次に、図5(e)に示すように、ゲート絶縁膜2の上に、ソース電極3と同様の方法によって、カルシウム(Ca)などの仕事関数の小さい金属からなるドレイン電極4を形成する。
【0075】
次に、図5(f)に示すように、ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆するように、有機半導体材料からなる有機半導体層5を形成する。具体的には、有機半導体材料が、例えばP3HTなどの高分子量化合物である場合には、まず、適当な溶媒に溶かし、0.1〜1質量%程度の濃度の溶液を調製する。次に、スピンコート法、ディップコート法、およびダイコート法などの塗布法や、インクジェット印刷法などの印刷法によって、窒素雰囲気中でその溶液をゲート絶縁層2の全面に被着させる。この後、窒素雰囲気中もしくは真空中で100〜160℃の温度において30分程度の間、加熱処理して残留溶媒を蒸発させる。このようにして、有機半導体層5を形成する。ここで用いる溶媒は、とくに限定されるものではないが、クロロホルム、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)などがよい。
【0076】
なお、有機半導体材料がペンタセンやオリゴチオフェンなどの低分子量化合物であれば、抵抗加熱式の蒸着源を用いた蒸着法により有機半導体層5を形成する。
【0077】
次に、図5(g)に示すように、有機半導体層5を被覆する有機保護膜6aを形成する。具体的には、有機保護膜6aの材料であるPVA、PVP、PMMA、ポリイミド、およびフッ素ポリマーなどの有機高分子材料の溶液を、スピンコート法、ディップコート法、およびダイコート法などの塗布法や、インクジェット印刷法などの印刷法によって、有機半導体層5に被着させた後、溶媒を蒸発させて有機保護膜6aを形成する。この後、窒素雰囲気中もしくは真空中で120〜160℃の温度において1時間程度の間、加熱処理して残留溶媒を蒸発させる。材質や膜厚などは、次に説明する保護膜8の形成方法などに応じて適宜選択するが、プラズマ損傷から有機半導体層5を保護するためにPMMAやポリイミドを形成する場合には、100nm程度の膜厚とする。
【0078】
この際、有機半導体層5を構成する有機半導体材料を溶解させる性質が乏しい溶媒を用いて、有機保護膜6aの材料を溶解させ、その溶液を形成するのがよい。具体的には、溶媒として、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、アニソール、およびポリエチレングリコール(PEG)などを用いる。
【0079】
このように、本実施の形態では、適切な溶媒を選択して、有機保護膜6aが溶液の塗布または印刷によって形成されるので、有機半導体層5に対するダメージを最小限に抑えて有機保護膜6aを形成することができる。また、パリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜であれば、単量体を有機半導体層5表面に蒸着し、表面上で重合させて高分子膜を形成するのがよい。
【0080】
次に、図5(h)に示すように、有機保護膜6aを被覆するように、有機保護膜6aに積層して酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化シリコン、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化チタン、酸化タリウム、および酸化ハフニウムなどの無機材料からなる無機保護膜6bを形成する。膜厚は、酸素および水分の透過を阻止する性能などに応じて適宜選択するが、酸化アルミニウム(アルミナ)や窒化シリコンでは100nm程度がよい。
【0081】
無機保護膜6bを形成する際には、その際の損傷から有機半導体層5を保護する作用を有する有機保護膜6aが既に形成されているので、有機半導体層5への損傷などを心配することなく、前記外部物質の侵入を阻止する作用に最も優れた膜を必要十分な厚さで形成することができる。
【0082】
なお、有機半導体層5の形成、有機保護膜6aの形成、および無機保護膜6bの形成は、酸素や水分の影響を避けるために、外気に曝されることなく、一連の処理が行えるように、グローブボックスと連結されたクラスターツールのように構成された処理システム下で行なわれることが望ましい。
【0083】
上述したように、本実施の形態に基づく有機半導体装置の製造方法は、個々の工程では既に確立され普及している技術と設備とのみを用いているので、有機発光FET10を効率よく確実に製造することができる。
【0084】
図6は、本実施の形態の変形例に基づく有機発光FET20による表示装置のレイアウトを示す平面図である。有機発光FET20のソース電極3およびドレイン電極4は、図8(b)に示したのと同様に、くし形電極の形状にパターニングされている。有機半導体層5はくし形電極の全体を包み込むように形成される。ソース電極3およびドレイン電極4をくし形電極にすることで、有機半導体層5が形成するチャネル部の実質的な断面積が増加し、移動度の小さい有機半導体層5であっても、十分な量の電流量を得ることができる。
【0085】
図6に示すように、この表示装置では多数の有機発光FET20がマトリックス状に配置され、各有機発光FET20が1画素を形成するように構成されている。そして、ソース配線13とドレイン配線14の間に印加されるドレイン−ソース電圧VDS、およびゲート配線12に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって各画素が選択され、その画素の有機発光FET20が所望の発光強度で発光するように構成されている。
【0086】
この例のように、本発明に基づく有機発光素子は、自身で発光強度を制御する機能を有するので、多数の有機発光素子を配置して表示装置などを構成した場合、ドライバ回路を著しく簡易化できるメリットがある。
【0087】
なお、有機発光FET20では、各画素を分離する必要から、ゲート電極11は基板とは別に設けられ、各画素ごとに分離してパターニングされ、ゲート配線12に接続されている。この場合、基板の材料は、一般に基板材料として用いられるものであれば何でもよいが、フレキシブルな画面が形成できることや、安価で軽量であることなどから、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)などの有機高分子からなるプラスチック基板が好ましい。また、ゲート電極11の材料としては、アルミニウムAlや金Auなど、一般に配線材料として用いられるものを用い、ゲート絶縁膜としては、酸化シリコンSiO2や窒化シリコンSiNなどの無機材料や、PVP、PMMA、ポリイミド、およびパリレンなどの有機高分子材料を用いることができる。
【0088】
図7は、本実施の形態の別の変形例に基づく有機FET30の構造を示す断面図である。有機FET30は請求項3に対応しており、図7に示すように、前記第1電極および前記第2電極である電極33と電極34のいずれもが、Caなどの仕事関数の小さい金属と、Auなどの仕事関数の大きい金属との積層構造になっている点が、有機FET10と異なっている。この結果、電極33と電極34との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、電極33と電極34とのいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されている。
【0089】
このようにすれば、例えば、電極33と電極34との間に印加される前記電圧を交流電圧とし、正孔(ホール)が注入される領域と電子が注入される領域とを交互に交代させ、電極33の近傍と電極34の近傍とに交互に発光領域を形成することによって、発光効率を高めることができる。
【0090】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の有機発光素子は、自発光型のカラ−ディスプレイなどに好適に用いられ、その小型化や薄型化や低コスト化に寄与できる。また、有機電界発光素子が照明装置などとして用いられる分野に新たな応用を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態に基づく有機発光FETの構造を示す断面図である。
【図2】同、有機発光FETの発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【図3】同、有機発光FETに好適な有機半導体化合物の構造式、およびHOMOとLUMOのエネルギー準位である。
【図4】同、有機発光FETの作製工程のフローを示す断面図である。
【図5】同、有機発光FETの作製工程のフローを示す断面図である。
【図6】同、変形例に基づく有機発光FETによる表示装置のレイアウトを示す平面図である。
【図7】同、別の変形例に基づく有機発光FETの構造を示す断面図である。
【図8】非特許文献1に示されている有機発光FETの構造を示す断面図(a)および電極形状を示す平面図(b)である。
【図9】同、有機発光FETの、FET素子としての特性を示すドレイン電流IDとドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフ(a)と、ドレイン電流IDとゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフ(b)とである。
【図10】同、有機発光FETの発光光のスペクトル、および発光強度とドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフである。
【図11】同、有機発光FETの発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【符号の説明】
【0093】
1…高濃度にドープされた半導体基板(例えばn型のシリコン基板で、ゲート電極を兼ねる。)、2…ゲート絶縁膜(例えば、酸化シリコン)、
3…ソース電極(例えば、金)、4…ドレイン電極(例えば、カルシウム)、
5…有機半導体層、6…保護膜、10…有機発光FET、11…ゲート電極、
12…ゲート電極選択線、13…ソース電極選択線、14…ドレイン電極選択線、
20、30…有機発光FET、33、34…電極、51…マスク、52…開口部、
53…電極材料層、100…有機発光FET、
101…高濃度にドープされた半導体基板(ゲート電極を兼ねる、n型シリコン基板)、
102…ゲート絶縁膜(酸化シリコン)、103…ソース電極(金)、
104…ドレイン電極(金)、105…有機半導体層(テトラセン)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自発光型のカラ−ディスプレイなどに用いる表示素子などとして好適な有機発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、とくにマルチメディア指向の機器などにおいて、より快適に効率よく機器を操作するために、人と機械とのインタ−フェ−スの重要性が高まっている。例えば、情報機器などから必要十分な情報をすみやかに取り出し、わかりやすく表示する必要があり、そのための表示装置について活発に研究が行われている。また、機器の小型化にともない、表示装置の小型化や薄型化に対する要求も日々高まっている。
【0003】
従来、小型テレビ、時計、電卓などの携帯機器や、ラップトップ型情報処理機器の表示装置として、主に液晶ディスプレイが用いられてきた。液晶素子には、低電圧で駆動でき、低消費電力であるという特徴がある。しかしながら、液晶ディスプレイは光透過型の表示装置であり、バックライトの点灯に液晶の駆動よりも大きな電力を必要とする。
【0004】
一方、1987年にTangらは、有機薄膜を発光層とする、高輝度発光が可能な電界発光素子を発表した(C. W. Tang and S. A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51, 913 (1987);以下、この素子を有機EL(Electroluminescence)素子と呼ぶ。)。これ以来、有機EL素子は、低電圧駆動が可能で、応答速度が速く、視野角依存性のない自発光型ディスプレイを構成できる素子として、活発に研究開発が行われている。
【0005】
上記の有機EL素子は、陽極であるITO透明電極上に、1,1-ビス(4-ビス(4-トリル)アミノフェニル)シクロヘキサン(TAPC)およびトリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq3 )からなる2層の有機半導体層を積層し、その上に陰極を蒸着したものである。TAPC層は正孔(ホール)輸送層として機能する。Alq3 層は二通りの機能をもち、TAPC層との界面付近のAlq3 層は電子輸送性を有する緑色光発光層として機能し、陰極側のAlq3 層は電子輸送層として機能する。このように、Tangらが発表した有機EL素子は、実質的には正孔輸送層/発光層/電子輸送層の3層構造を有する有機半導体層からなる。その後、様々な素子構造が提案されているが、ここに述べた基本構造は変わっていない。
【0006】
有機ELディスプレイの駆動方法には、パッシブ型とアクティブ型とがある。パッシブ型には構造が簡単であるという利点があるが、画素数が多い場合には、低電圧駆動が可能で、低消費電力化や長寿命化に有利なアクティブ型が適している。そこで、画素ドライバとして有機FET(Field-Effect Transistor;電界効果トランジスタ)を有機EL素子に集積して形成し、集積度を向上させたデバイスの例が既に提案されている((a) H. Sirringhaus et al., Science, 280, 1741 (1998)、(b) A. Bodabalapur et al., Appl. Phys. Lett., 73, 142 (1998)、(c) M. Kitamura et al., Appl. Phys. Lett., 83, 3410 (2003))。
【0007】
有機半導体素子は、真空装置などの高価な設備を用いず、塗布法や浸漬法などで製造できるため、無機半導体素子に比べて低コストで製造でき、容易に大面積化が可能である。また、比較的低い温度下で形成されるため、プラスチック基板などの耐熱性のないフレキシブルな基板などに形成することもでき、機械的衝撃に対しても安定である。上記の例のように、有機半導体層によって発光素子やそのドライバ素子を形成すれば、全てを有機材料で形成した全有機フレキシブルディスプレイを実現することができる。このようなディスプレイの実用化を目指す激しい競争の中で、さらに集積化を進め、発光素子の半導体層とドライバ素子の半導体層を一体化した素子構造を実現できれば、製造工程を大幅に単純化し、ディスプレイを小型化および低コスト化できるメリットが大きいと考えられる。
【0008】
そこで後述の非特許文献1には、ゲート電界の作用下にある有機半導体層内に導電領域が形成され、導電領域を流れる電流量がドレイン−ソース電圧およびゲート−ソース電圧によって制御され、かつ、この導電領域の一部に発光領域が形成され、発光領域からの発光量がドレイン−ソース電圧およびゲート−ソース電圧によって制御される有機発光電界効果トランジスタ(Organic Light-Emitting Field-Effect Transistor;以下、有機発光FETと略称する。)が提案され、注目されている。
【0009】
図8(a)は、非特許文献1に示されている有機発光FET100の構造を示す断面図である。図8(a)に示すように、有機発光FET100では、高濃度にドープされたn型シリコン基板101がゲート電極を兼ねており、その一方の主面に酸化シリコンからなるゲート絶縁膜102が形成されている。そしてゲート絶縁膜102の上に金からなるソース電極103およびドレイン電極104がパターニングして形成され、ソース電極103およびドレイン電極104に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、テトラセンからなる有機半導体層105が、真空蒸着によって形成されている。
【0010】
なお、図8(b)に示すように、ソース電極103およびドレイン電極104は、くし形電極の形状にパターニングされており、有機半導体層105はくし形電極の全体を包み込むように形成される。図8(a)は、図8(b)に8a−8a線で示した位置における断面図である。ソース電極103およびドレイン電極104をくし形電極にすることで、有機半導体層105が形成する導電領域の実質的な断面積が増加し、キャリア移動度の小さい有機半導体層105であっても、十分な量の電流量を得ることができる。
【0011】
上記のように、有機発光FET100はボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタと同様に構成され、有機半導体層105における電荷キャリアである正孔(ホール)の移動がゲート電極を兼ねた基板1に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって制御されるように構成されている。
【0012】
図9は、有機発光FET100の、FET素子としての特性を示すドレイン電流IDとドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフ(a)と、ドレイン電流IDとゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフ(b)とである。図9(a)は、良好な飽和傾向を有する単極性(unipolar)のFET特性を示し、有機発光FET100がホール蓄積モードで動作していることを示している。図9(b)には、ソース電極103における接触抵抗に起因するドレイン電流IDの飽和傾向が示されている。また、ゲート−ソース電圧VGSのしきい値電圧Vthが−25Vと大きいことから、高濃度のトラップ準位と注入障壁が存在することが示唆されている。
【0013】
図9(a)および図9(b)に示されている電気的特性には、有機発光FET100が同時両極性(ambipolar)であることを示すものはない。それにも関わらず、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSを高めていくと、かなりの強度の発光がドレイン電極104近傍の有機半導体層105から観察された。図10(a)は、有機発光FET100の発光光のスペクトルであるが、これはテトラセンの発光スペクトルと同一であって、発光が正孔(ホール)と電子の再結合による発光であることを示している。
【0014】
図10(b)は、発光強度とドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフである。図示省略したが、発光強度とゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフも得られており、これらのグラフから、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSがそれぞれ−30Vをこえると発光が観察されることがわかる。また、発光強度から推定される電子電流の大きさはドレイン電流IDに比べてはるかに小さく、ドレイン電流IDのほとんどが正孔(ホール)電流であることが判明した。この結果は、図9(a)および図9(b)に示されている電気的特性と矛盾しない。
【0015】
有機発光FET100の発光の他の特徴は、発光領域がドレイン電極104近傍に限られることである。これは、ドレイン電極104から注入される電子の量および移動度が、それぞれ、正孔(ホール)の注入量および移動度に比べて小さく、注入された電子のほとんどがドレイン電極104近傍で正孔(ホール)と再結合してしまうためであると推測される。
【0016】
有機発光FET100の発光機構などに関してはまだ不明なことも多いが、図10(b)などに示されている有機発光FET100の特性は、有機発光FET100の発光強度が、ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGSによって直接制御可能であることを示しており、この素子が、自発光型ディスプレイの構造および製造工程を大きく単純化し、ディスプレイを小型化および低コスト化できる可能性を有する素子であることを示している。
【0017】
後述の非特許文献2および3には、有機発光FET100と同様の構造をもち、テトラセンの代わりにポリ(2-メトキシ-5-(2-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH−PPV)からなる有機半導体層を有する有機発光FETを形成し、ドレイン電極の近傍に形成された発光領域からの発光を観察した例が報告されている。
【0018】
非特許文献2および3では、A.ソース電極とドレイン電極がともに下地クロム層の上に金層を積層したCr/Auの積層構造である場合、B.ソース電極とドレイン電極がともに下地アルミニウム層の上に金層を積層したAl/Auの積層構造である場合、および、C.ソース電極が下地クロム層の上に金層を積層したCr/Auの積層構造であり、ドレイン電極がアルミニウム層である場合について、発光強度が比較されている。
【0019】
この結果、仕事関数の小さいアルミニウムをドレイン電極に用いたCの場合、ゲート−ソース電圧が−40Vをこえると、AやBの場合に比べて著しく強い発光が観察されることが示されている。
【0020】
【非特許文献1】A. Hepp et al., Phys. Rew. Lett., 91, 157406-1 (2003)(第1−3頁、図1−7)
【非特許文献2】坂上 知、藤原 栄一、山田 亮、多田 博一,「有機電界効果トランジスターからの可視発光の観察」,分子構造総合討論会予稿集1A10,日本化学会主催,2004年9月27日〜30日(図3及び4)
【非特許文献3】T.Sakanoue et al.,Chemistry Lett.,34,p.494-p.495(2005)(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図11は、有機発光FET100の発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【0022】
図11にステップ(1)として示すように、ソース側の金電極103と有機半導体層105との界面では、テトラセンの最高占有軌道(HOMO)からソース側金電極103へ電子が取り出され、有機半導体層105へ正孔(ホール)が注入される。一方、図11にステップ(2)として示すように、ドレイン側の金電極104と有機半導体層105との界面では、ドレイン側金電極104からテトラセンの最低非占有軌道(LUMO)へ電子が送り込まれ、有機半導体層105へ電子が注入される。このようにして有機半導体層105に形成された正孔(ホール)と電子は、ゲート電圧の作用下で形成された導電領域を移動し、図11にステップ(3)として示すように、両者が出会ったところで再結合し、エキシトン状態が生成し、光を放出しながら基底状態へもどる。
【0023】
図11中に示したHOMOおよびLUMOのエネルギー準位を示す数値は、各軌道のエネルギー準位が真空準位に比べてどれだけ低下しているかを示し、数値が大きいほどエネルギー準位は低い。図11に示すように、金の仕事関数φは5.1eVであり、テトラセンのHOMOのエネルギー準位は真空準位より5.4eV低い位置にあるので、ソース側金電極103から有機半導体層105への正孔(ホール)の注入は、0.3eV程度の比較的低いエネルギー障壁をこえればよく、無理なく起こる。しかし、一方、テトラセンのLUMOのエネルギー準位は真空準位より2.4eV低い位置にあるので、ドレイン側金電極104から有機半導体層105への電子の注入は、2.7eV程度の高いエネルギー障壁をこえなければならないので、通常の熱運動などではほとんど起こらない。
【0024】
このため、ドレイン側金電極104から有機半導体層105へ電子を注入するためには、ドレイン−ソース間に強い電圧をかけ、トンネル効果などによる電子注入が起こるようにしなければならない。この結果、発光を得るにはドレイン−ソース電圧VDSを少なくとも−30Vをこえる大きさにすることが必要であり、実際的な発光量を得るには−80V程度とする必要がある。駆動にこのような高電圧が必要な場合、ディスプレイなどの用途に実用化するのは難しい。
【0025】
また、ドレイン電流IDの大部分は発光に寄与しない正孔(ホール)電流であるから、発光効率が悪い。
【0026】
また、ドレイン電極の近傍のみに発光領域が形成されるという問題もある。これは、テトラセンからなる有機半導体層105では正孔(ホール)の移動度の方が電子の移動度より大きく、また、電子注入量が正孔(ホール)注入量よりはるかに少ないので、図11に示すように、注入された電子のほとんどがドレイン電極104近傍で正孔(ホール)と再結合してしまうためと考えられる。
【0027】
非特許文献2および3では、金電極の代わりにアルミニウムからなるドレイン電極を用いることによって発光強度が高められるとされているが、発光が観察されるゲート−ソース電圧のしきい値は−40Vと高く、非特許文献1と同様、ディスプレイなどの用途に実用化できる大きさではない。また、アルミニウムの仕事関数は4.06〜4.28eV程度であり、MEH−PPVのLUMOのエネルギー準位は真空準位より2.8eV程度低い位置にあるから、電子注入のエネルギー障壁は1.3〜1.5eVに達し、通常の熱運動で乗りこえることのできない高さである。この点では、非特許文献2および3の有機発光FETは、非特許文献1の有機発光FETと本質的に変わりはない。
【0028】
上記のように、非特許文献1の発明の問題点は、非特許文献2および3の発明によっても本質的には解決されないまま残されている。
【0029】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えば自発光型のカラ−ディスプレイなどに用いるのに好適な、発光量を制御する仕組みを自ら備え、かつ、駆動電圧が低く、発光効率の高い有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
即ち、本発明は、
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される有機発光素子であって、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる、
有機発光素子に係わるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明者は鋭意研究の結果、非特許文献1の発明の有機発光FETの駆動電圧が高くなり、発光効率が低くなる問題点の主因は、ドレイン電極における電子注入に対するエネルギー障壁が高く、電子注入量が正孔(ホール)注入量に比べ著しく少ないことにあり、ドレイン電極における電子注入に対するエネルギー障壁を0.3〜0.5eV程度以下とし、熱運動によって比較的容易に乗りこえられる程度の高さとすれば解決できることを着想した。電子注入に対するエネルギー障壁の高さは、ドレイン電極を構成する金属の仕事関数と、有機半導体層を形成する有機半導体化合物のLUMOとの差で決まること、前記有機半導体化合物のLUMOが最低で3.3eV或いはこれよりやや低い程度であることを考慮すると、適合する金属の仕事関数は最大で4eV弱、すなわちアルミニウムの仕事関数よりもやや小さい程度になる。
【0032】
本発明の有機発光素子によれば、
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる
ので、上記の条件を満たしている。このため、前記低電位側の電極における電子注入に対するエネルギー障壁を低くして、効率よく電子注入を行うことができ、駆動電圧を低くすることができる。また、高電位側の電極における正孔(ホール)注入量と良好なバランスを形成して、発光効率の高い有機発光素子を実現することができる。なお、後述の実施の形態で説明するように、本発明の有機発光素子の基本的構成では、前記低電位側の電極及び前記高電位側の電極は、それぞれ、非特許文献1の発明の有機発光FETにおけるドレイン電極及びソース電極に相当する。
【0033】
また、本発明の有機発光素子によれば、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される
ので、例えば前記有機発光素子の複数個をマトリックス状に配置し、行配線および列配線によって、それぞれ、前記第1電極と前記第2電極との間の前記電圧、及び前記ゲート電極の電位を印加するように構成すれば、前記有機発光素子からなる画素の輝度をドライバ素子なしで制御できるディスプレイを形成することができ、構造および製造工程を大きく単純化し、小型、低コストの自発光型ディスプレイを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の有機発光素子では、前記発光領域が前記低電位側の電極の近傍に存在しているのがよい。
【0035】
また、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、前記第1電極及び前記第2電極のいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されているのがよい。このようにすれば、例えば、前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧を交流電圧とし、正孔(ホール)が注入される領域と電子が注入される領域とを交互に交代させ、前記第1電極の近傍と前記第2電極の近傍とに交互に発光領域を形成することによって、発光効率を高めることができる。
【0036】
また、前記アルミニウム(Al;仕事関数φ 4.06〜4.28eV)より仕事関数の小さい金属の仕事関数φが、3.7eV(マグネシウムの仕事関数φ)以下であるのがよい。具体的には、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属が、リチウム(Li;仕事関数 2.9eV)、ナトリウム(Na;仕事関数 2.75eV)、カリウム(K;仕事関数 2.3eV)、ルビジウム(Rb;仕事関数 2.2eV)、セシウム(Cs;仕事関数 2.1eV)、マグネシウム(Mg;仕事関数 3.7eV)、カルシウム(Ca;仕事関数 2.8eV)、ストロンチウム(Sr;仕事関数 2.6eV)、及びバリウム(Ba;仕事関数 2.7eV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属であるのがよい。なお、仕事関数φの大きさは表面状態で変化し、報告されている文献値にもばらつきがあるが、本明細書では、主として特開平9−320763号公報で引用されている J.Appl.Phys., 48,4729 (1977) の値を用いている。
【0037】
また、前記合金が、アルミニウム、マグネシウム、銀(Ag;仕事関数 4.3eV)、銅(Cu;仕事関数 4.65eV)、亜鉛(Zn;仕事関数 4.3eV)、スズ(Sn;仕事関数 4.4eV)及び鉛(Pb;仕事関数 4.25eV)からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との合金であるのがよい。例えば、Liの合金化にはAl、Zn、Pb、およびSnを用いるのが好ましく、Na、K、Rb、およびCsの合金化にはAlを用いるのが好ましく、Mgの合金化にはAgを用いるのが好ましく、CaおよびSrの合金化にはAlを用いるのが好ましく、Baの合金にはAl、Sn、およびPbを用いるのが好ましい(特開平9−320763号公報参照。)。前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は酸化されやすいが、上記の仕事関数の大きい金属と合金化することによって耐酸化性を向上させることができる。このような合金化は、その変形として共蒸着の形態をとってもよいものとする。
【0038】
また、少なくとも前記第1電極及び前記第2電極への外部物質の侵入を阻止する保護膜によって、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層が被覆されているのがよい。この際、前記外部物質が酸素及び水分であるのがよい。本発明の有機発光素子において前記低電位側の電極の材料として用いる、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は、極めて酸素及び水によって酸化されやすい物質である。このような材料をあえて用いることによって、低電圧駆動、高効率発光を可能にするのが本発明の特徴であるが、長期間にわたって安定に動作する、信頼性の高い有機発光素子を形成するには、保護膜などによって前記第1電極及び前記第2電極を外部から完全に遮断し、外部から侵入してくる酸素及び水分を確実に阻止する構造とすることが必要不可欠である。
【0039】
前記有機半導体層もまた、酸素及び水分によって半導体性能が劣化する。また、前記外部物質が前記有機半導体層中を通って前記第1電極及び前記第2電極へ侵入する経路も考えられる。従って、前記保護膜は、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層の全体を被覆するように形成するのがよい。この際、前記保護膜のうち、少なくとも光取り出し口を形成する部分は、光透過性であるようにする。
【0040】
また、この際、前記保護膜が有機保護膜と無機保護膜との積層構造からなるのがよい。前記無機保護膜としては、例えば、プラズマCVD法によって形成される緻密な窒化シリコン膜や酸化シリコン膜、又はスパッタリング法によって形成される酸化アルミニウム(アルミナ)膜などがよい。これらの緻密な結晶性またはガラス状の無機保護膜は、酸素や水分の侵入を阻止する保護膜として好適である。しかし、前記有機半導体層に直接、前記無機保護膜を形成すると、前記無機保護膜を形成する際のプラズマや熱によるダメージが前記有機半導体層に生じやすい。また、有機材料と無機材料とが接触することによる機械的ストレスも発生しやすい。
【0041】
そこで、前記無機保護膜を形成する前に、前記有機半導体層を被覆する前記有機保護膜を形成しておくのがよい。前記有機保護膜としては、前記無機保護膜を形成する際のプラズマや熱によるダメージから前記有機半導体層を保護する性能が高く、かつ、自身を形成する際に前記有機半導体層へ与えるダメージが少ない膜がよい。具体的には、単量体の蒸着とその後の重合で形成されるパリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜、或いは溶液の塗布などで形成できるポリビニルアルコール(PVA)膜、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)膜、ポリイミド膜などがよい。
【0042】
なお、前記有機保護膜及び前記無機保護膜は、それぞれ、単一層からなるものであっても、複数層が積層されたものであってもよい。単一層からなるものであれば、形成工程が簡易になるメリットがあり、複数層からなるものであれば、形成に多少手間がかかるものの、複数層の組み合わせによって、単一層では実現できない性能を実現できるメリットがある。また、前記有機保護膜と前記無機保護膜とを交互に複数回積層するようにしてもよい。
【0043】
また、前記有機半導体層が、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性を合わせもつ有機半導体化合物からなるのがよい。例えば、ポリチオフェン系化合物、ポリフルオレン系化合物又はポリフェニレンビニレン系化合物は、ホール輸送性半導体であり、発光性をもつポリマーとして知られているが、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性を合わせもつ可能性がある(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005)、Table1参照。)。また、これらの化合物は、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属と組み合わせるのに適当なLUMOを有し、かつ、有機半導体化合物とオーミック接続を形成できる金などと組み合わせるのに適当なHOMOを有する。また、キャリア移動度が大きいなど、優れた半導体特性を示すことが知られている。なお、「・・・系化合物」とは、その化合物自体およびその誘導体を意味し、例えば、ポリチオフェン系化合物とは、ポリチオフェンおよびポリチオフェン誘導体を意味するものとする。
【0044】
また、前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子の注入を補助する電子注入層が設けられているのがよい。電子注入層としては、膜厚の薄い酸化リチウム、酸化セシウム、フッ化リチウムなどのアルカリ金属元素の酸化物やフッ化物、或いはアルカリ土類金属元素の酸化物やフッ化物などからなる層がよい(Appl. Phys. Lett., 70, 152, (1997))。
【0045】
また、前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子輸送層が設けられているのがよい。電子輸送層としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(III)(Alq3 )などからなる層がよい。
【0046】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0047】
本実施の形態では、本発明に基づく有機発光素子の基本的構成例として、ボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(FET)と同様の構造に形成された有機発光FETについて説明する。
【0048】
図1(a)は、本実施の形態に基づく有機発光FET10の構造を示す断面図である。図1(a)に示すように、有機発光FET10では、例えばn型のシリコン基板などの、高濃度にドープされた半導体基板1がゲート電極を兼ねており、その一方の主面に酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2が形成されている。このゲート絶縁膜2の上に、例えば金(Au)からなるソース電極3、および、例えばカルシウム(Ca)からなるドレイン電極4が形成され、ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆する、例えばポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)からなる有機半導体層5が設けられている。ソース電極3およびドレイン電極4は、前記第1の電極および前記第2の電極であり、ドレイン電極4が前記低電位側の電極に相当する。有機半導体層5の上には、ソース電極3、ドレイン電極4および有機半導体層5を被覆するように、前記外部物質である酸素および水分の侵入を阻止する保護膜6が設けられている。
【0049】
上記のように、有機発光FET10は、図8に示した有機発光FET100と同じく、ボトムゲート型の絶縁ゲート型電界効果トランジスタと同様に構成され、有機半導体層5における電荷キャリアである正孔(ホール)の移動がゲート電極を兼ねた基板1に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって制御されるように構成されている。従って、有機発光FET10を通常のFETとして動作させることもできる。なお、ここではボトムゲート型FETの例を示したが、本発明に基づく有機発光素子はこれに限られるものではなく、トップゲート型のFETや、縦型のFETであってもよい。とくに、縦型のFETには、ドレイン電極近傍に形成される広い発光領域を効率よく利用できるメリットがある。
【0050】
図2は、有機発光FET10の発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図の一例である。
【0051】
図2にステップ(1)として示すように、ソース側の金電極3と有機半導体層5との界面では、P3HTの最高占有軌道(HOMO)からソース側金電極3へ電子が取り出され、有機半導体層5へ正孔(ホール)が注入される。一方、図2にステップ(2)として示すように、ドレイン側のカルシウム電極4と有機半導体層5との界面では、カルシウム電極4からP3HTの最低非占有軌道(LUMO)へ電子が送り込まれ、有機半導体層5へ電子が注入される。このようにして有機半導体層5に形成された正孔(ホール)と電子は、ゲート電圧の作用下で形成された前記導電領域を移動し、図2にステップ(3)として示すように、両者が出会ったところで再結合し、エキシトン状態が生成し、光を放出しながら基底状態へもどる。
【0052】
図2に示すように、金の仕事関数φは5.1eVであり、P3HTのHOMOのエネルギー準位は真空準位より4.9eV低い位置にあるので、ソース側金電極3から有機半導体層5へのホールの注入は、ほぼエネルギー障壁なしに行われ、通常の熱運動で無理なく起こる。一方、カルシウムの仕事関数φは2.8eVであり、P3HTのLUMOのエネルギー準位も真空準位より2.7eV低い位置にあるので、ドレイン側カルシウム電極4から有機半導体層5への電子の注入は、0.1eV程度のわずかなエネルギー障壁をこえればよく、ほぼエネルギー障壁なしに行われ、通常の熱運動で無理なく起こる。
【0053】
以上のように、本実施の形態では、有機半導体層5の材料として優れたFET特性を有するP3HTを用い、そのLUMOにあわせて仕事関数が2.8eVのカルシウムをドレイン電極4の材料として用いることによって、ドレイン電極4における電子注入に対するエネルギー障壁をほぼなくし、熱運動で容易に乗りこえられるようにする。この結果、電子の注入効率がよくなり、低い駆動電圧(ドレイン−ソース電圧VDSおよびゲート−ソース電圧VGS)で十分な発光量を得ることができる。また、正孔(ホール)の注入量と電子の注入量とのバランスが良くなり、発光量が増加して、無駄に流れる正孔(ホール)電流が減少するので、発光効率の高い有機発光素子を実現することができる。
【0054】
また、電子注入量と正孔(ホール)注入量とのバランスが良くなるので、有機発光FET100ではドレイン電極近傍のみに制限されていた発光領域が拡大する。また、本実施の形態では有機半導体化合物として、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性とを合わせもつことが示唆されているP3HTを用いているので、この点からも発光領域がドレイン電極4の近傍のみに制限されるという問題が緩和される。この結果、有機半導体層5の導電領域のうち、より広い領域に発光領域が形成され、発光素子として利用しやすくなる。
【0055】
図1(b)は、ドレイン電極4を、金からなる下部層の上にカルシウムからなる上部層を積層したAu/Caの2層構造とした例である。ドレイン電極4をこのような2層構造にすると、金ソース電極と金ドレイン電極による良好なp型のFET動作と、カルシウムからの良好な電子注入とが並行して起こり、同時両極性動作が効率よく行われるメリットがある。
【0056】
ドレイン電極4の構成材料としてカルシウムを用いる場合、カルシウムの仕事関数に適合し、電子注入のエネルギー障壁が熱運動で乗りこえ可能な0.3〜0.5eV以下になるためには、有機半導体化合物のLUMOのエネルギー準位が真空準位より2.4eV以上低い位置にあることが望ましい。図3は、このような条件を満たす有機半導体化合物の例の構造式、およびHOMOとLUMOのエネルギー準位を示している(ただし、表中の数値は、各軌道のエネルギー準位が真空準位に比べてどれだけ低下しているかを示し、数値が大きいほどエネルギー準位は低い。)。
【0057】
これらの化合物のうち、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)はポリチオフェン系化合物であり、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)(F8)とポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)とポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-ビチオフェン)(F8T2)はポリフルオレン系化合物であり、ポリ(2-メトキシ-5-(3,7-ジメチルオクトキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(OC1C10−PPV)とポリ(2-メトキシ-5-(2-エチルヘキソキシ)-1,4-フェニレンビニレン)(MEH−PPV)はポリフェニレンビニレン系化合物であり、F8BT以外は、正孔(ホール)輸送性と電子輸送性とを合わせもつことが示唆されている(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005)、Table1)。
【0058】
ドレイン電極4を構成する金属として、リチウム(仕事関数 2.7eV)などは、仕事関数の値がカルシウムとほぼ同じであるため、カルシウムとほぼ同様の有機半導体化合物にして用いることができる。マグネシウム(仕事関数 3.4eV)は、仕事関数の値がやや大きいため、適用できる有機半導体化合物は限られるが、例えばLUMOのエネルギー準位が、それぞれ、3.3eVおよび3.1eV程度であるF8BTおよびF8T2に対して良好に用いることができる。
【0059】
一方、ソース電極3の構成材料として金を用いる場合、金の仕事関数に適合し、正孔(ホール)注入のエネルギー障壁が0.3〜0.5eV以下になるためには、有機半導体化合物のHOMOのエネルギー準位が5.6eVより高いことが望ましい。図3に挙げた化合物の多くはこの条件を満たしているが、F8とF8BTはこの条件から少しはずれている。
【0060】
本発明の有機発光素子の前記有機半導体層は、良好な正孔(ホール)注入層であること、良好な電子注入層であること、良好なFET特性を示す導電領域を形成できることなど、多くの条件を満たさなければならない。これらの条件を1つの有機半導体化合物で満たすことが難しい場合には、例えば、正孔(ホール)の注入や輸送に適した有機半導体化合物層と、電子の注入や輸送に適した有機半導体化合物層とを積層するなど、複数種の有機半導体化合物層によって前記有機半導体層を構成するようにしてもよい。
【0061】
既述したように、本発明の有機発光素子において前記低電位側の電極の材料として用いる、前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属は、極めて酸素及び水によって酸化されやすい物質である。このような材料をあえて用いることによって、有機発光素子の低電圧駆動、高効率発光を可能にするのが本発明の特徴である。しかし、長期間にわたって安定に動作する、信頼性の高い有機発光素子を形成するには、保護膜6によってソース電極3、ドレイン電極4、および有機半導体層5を外部から完全に遮断し、外部から侵入してくる酸素及び水分を確実に阻止する構造とすることが必要不可欠である。
【0062】
例えば、カルシウム電極は、酸素および水分と接することにより劣化することが報告されており(N. C. Greenham et al., Nature, 365, 628-630 (1993))、文献:J. H. Lee et al., Curr. Appl. Phys., 5, 348-350 (2005)に記載されている保護膜などによって封止することが必要となる。
【0063】
有機系の封止膜としてはPVAやパリレンがよく使われており、無機系の封止膜としては酸化アルミニウム、酸化シリコン、窒化シリコンなどがよく使われている。L.-L. Chuaらはカルシウム電極の保護のため、厚さ30nmの酸化シリコンでデバイスの封止を行った例を報告している(L.-L. Chua et al., Nature, 434, 194-199 (2005))。また、Chwangらは酸化アルミニウム膜とポリアクリル酸エステル膜を多重に積層した封止膜を報告している(A. B. Chwang et al., Appl.Phy. Lett., 83, 413 (2003))。
【0064】
本実施の形態では、保護膜6を、有機保護膜6aの上に無機保護膜6bを形成する積層膜とする。無機保護膜6bは、酸素及び水分などの前記外部物質が侵入するのを阻止する作用を有する保護膜である。無機保護膜6bの膜厚は、酸素および水分の透過を阻止する性能などに応じて適宜選択されるが、酸化アルミニウム(アルミナ)膜や窒化シリコン膜では100nm程度である。また、有機保護膜6aは、少なくとも、無機保護膜6bを形成する際のダメ−ジから有機半導体層5を保護する作用を有する保護膜である。有機保護膜6aの材質や膜厚は、無機保護膜6bの形成方法などに応じて適宜選択する。例えば、プラズマによるダメージから有機半導体層5を保護するためにPMMA膜やポリイミド膜を形成する場合には、100nm程度の膜厚とする。
【0065】
このようにすると、無機保護膜6bを形成する際には、その際の損傷から有機半導体層5を保護する作用を有する有機保護膜6aが既に形成されているので、有機半導体層5へのダメージを心配することなく、前記外部物質の侵入を阻止する作用に最も優れた膜を必要な厚さだけ形成することができる。また、前記外部物質の侵入は無機保護膜6bによって阻止されるので、有機保護膜6aが前記外部物質の侵入を阻止する性能をもつ必要はない。有機保護膜6aは、無機保護膜6bを形成する際のプラズマや熱によるダメージから有機半導体層5を保護する性能が高く、かつ、自身を形成する際に有機半導体層5へ与えるダメージが少ない膜がよい。
【0066】
具体的には、無機保護膜6bは、酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化シリコン、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化チタン、酸化タリウム、および酸化ハフニウムなどからなる膜がよい。有機保護膜6aは、単量体の蒸着とその後の重合で形成されるパリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜、或いは溶液の塗布などで形成できるPVA膜、PVP膜、PMMA膜、ポリイミド膜、およびフッ素ポリマー膜などがよい。
【0067】
以上のように、保護膜6を有機保護膜6aと無機保護膜6bとの積層構造で構成し、保護機能を2つの保護膜で段階的に分担することにより、各保護膜に要求される性能は限定される。従って、各保護膜に対してより広い選択肢の中からそれぞれに最適の材料および製造方法を選択することができる。なお、有機保護膜6aは、有機半導体層5と無機保護膜6bとが直接接すると生じる機械的なストレスを緩和する緩衝層としての効果も有する。
【0068】
図4および図5は、本実施の形態に基づく有機FET10の作製工程のフローを示す断面図である。
【0069】
初めに、例えばn型のシリコン基板などの、高濃度にドープされた半導体基板1を用意し、図4(a)に示すように、その一方の主面に熱酸化などの方法で酸化シリコンなどからなるゲート絶縁膜2を形成する。
【0070】
次に、図4(b)〜図4(d)に示すように、その上にリフトオフ法によって金(Au)などの仕事関数の大きい金属からなるソース電極3をパターニングして形成する。
【0071】
すなわち、まず、図4(b)に示すように、半導体基板1上のゲート絶縁膜2の全面に塗布法などによってフォトレジスト層を形成した後、フォトリソグラフィによってパターニングして、ソース電極3を形成する領域に開口部52を有するマスク51を形成する。
【0072】
次に、図4(c)に示すように、蒸着法などによって全面にAuなどの電極材料層53を形成する。次に、マスク51を溶解除去することにより、その上に堆積した電極材料層53を除去して、図4(d)に示すように、ソース電極3となる電極材料層53のみを残す。
【0073】
以上、リフトオフ法による電極形成方法を説明したが、他の方法として、全面に金属薄膜を蒸着などによって形成した後、この金属薄膜をリソグラフィとエッチングとによってパターニングして、ソース電極3を形成してもよい。また、インクジェット印刷法、マイクロコンタクト印刷法、およびスクリーン印刷法などの印刷法によって、Auなどの金属微粒子を半導体基板1の上にパターニングして被着させ、金属微粒子からなるソース電極3を形成することもできる。
【0074】
次に、図5(e)に示すように、ゲート絶縁膜2の上に、ソース電極3と同様の方法によって、カルシウム(Ca)などの仕事関数の小さい金属からなるドレイン電極4を形成する。
【0075】
次に、図5(f)に示すように、ソース電極3およびドレイン電極4に接し、少なくともこれらの電極上および電極間を連続的に被覆するように、有機半導体材料からなる有機半導体層5を形成する。具体的には、有機半導体材料が、例えばP3HTなどの高分子量化合物である場合には、まず、適当な溶媒に溶かし、0.1〜1質量%程度の濃度の溶液を調製する。次に、スピンコート法、ディップコート法、およびダイコート法などの塗布法や、インクジェット印刷法などの印刷法によって、窒素雰囲気中でその溶液をゲート絶縁層2の全面に被着させる。この後、窒素雰囲気中もしくは真空中で100〜160℃の温度において30分程度の間、加熱処理して残留溶媒を蒸発させる。このようにして、有機半導体層5を形成する。ここで用いる溶媒は、とくに限定されるものではないが、クロロホルム、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)などがよい。
【0076】
なお、有機半導体材料がペンタセンやオリゴチオフェンなどの低分子量化合物であれば、抵抗加熱式の蒸着源を用いた蒸着法により有機半導体層5を形成する。
【0077】
次に、図5(g)に示すように、有機半導体層5を被覆する有機保護膜6aを形成する。具体的には、有機保護膜6aの材料であるPVA、PVP、PMMA、ポリイミド、およびフッ素ポリマーなどの有機高分子材料の溶液を、スピンコート法、ディップコート法、およびダイコート法などの塗布法や、インクジェット印刷法などの印刷法によって、有機半導体層5に被着させた後、溶媒を蒸発させて有機保護膜6aを形成する。この後、窒素雰囲気中もしくは真空中で120〜160℃の温度において1時間程度の間、加熱処理して残留溶媒を蒸発させる。材質や膜厚などは、次に説明する保護膜8の形成方法などに応じて適宜選択するが、プラズマ損傷から有機半導体層5を保護するためにPMMAやポリイミドを形成する場合には、100nm程度の膜厚とする。
【0078】
この際、有機半導体層5を構成する有機半導体材料を溶解させる性質が乏しい溶媒を用いて、有機保護膜6aの材料を溶解させ、その溶液を形成するのがよい。具体的には、溶媒として、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、アニソール、およびポリエチレングリコール(PEG)などを用いる。
【0079】
このように、本実施の形態では、適切な溶媒を選択して、有機保護膜6aが溶液の塗布または印刷によって形成されるので、有機半導体層5に対するダメージを最小限に抑えて有機保護膜6aを形成することができる。また、パリレン膜やアクリル酸エステル樹脂膜であれば、単量体を有機半導体層5表面に蒸着し、表面上で重合させて高分子膜を形成するのがよい。
【0080】
次に、図5(h)に示すように、有機保護膜6aを被覆するように、有機保護膜6aに積層して酸化アルミニウム(アルミナ)、窒化シリコン、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、酸化チタン、酸化タリウム、および酸化ハフニウムなどの無機材料からなる無機保護膜6bを形成する。膜厚は、酸素および水分の透過を阻止する性能などに応じて適宜選択するが、酸化アルミニウム(アルミナ)や窒化シリコンでは100nm程度がよい。
【0081】
無機保護膜6bを形成する際には、その際の損傷から有機半導体層5を保護する作用を有する有機保護膜6aが既に形成されているので、有機半導体層5への損傷などを心配することなく、前記外部物質の侵入を阻止する作用に最も優れた膜を必要十分な厚さで形成することができる。
【0082】
なお、有機半導体層5の形成、有機保護膜6aの形成、および無機保護膜6bの形成は、酸素や水分の影響を避けるために、外気に曝されることなく、一連の処理が行えるように、グローブボックスと連結されたクラスターツールのように構成された処理システム下で行なわれることが望ましい。
【0083】
上述したように、本実施の形態に基づく有機半導体装置の製造方法は、個々の工程では既に確立され普及している技術と設備とのみを用いているので、有機発光FET10を効率よく確実に製造することができる。
【0084】
図6は、本実施の形態の変形例に基づく有機発光FET20による表示装置のレイアウトを示す平面図である。有機発光FET20のソース電極3およびドレイン電極4は、図8(b)に示したのと同様に、くし形電極の形状にパターニングされている。有機半導体層5はくし形電極の全体を包み込むように形成される。ソース電極3およびドレイン電極4をくし形電極にすることで、有機半導体層5が形成するチャネル部の実質的な断面積が増加し、移動度の小さい有機半導体層5であっても、十分な量の電流量を得ることができる。
【0085】
図6に示すように、この表示装置では多数の有機発光FET20がマトリックス状に配置され、各有機発光FET20が1画素を形成するように構成されている。そして、ソース配線13とドレイン配線14の間に印加されるドレイン−ソース電圧VDS、およびゲート配線12に印加されるゲート−ソース電圧VGSによって各画素が選択され、その画素の有機発光FET20が所望の発光強度で発光するように構成されている。
【0086】
この例のように、本発明に基づく有機発光素子は、自身で発光強度を制御する機能を有するので、多数の有機発光素子を配置して表示装置などを構成した場合、ドライバ回路を著しく簡易化できるメリットがある。
【0087】
なお、有機発光FET20では、各画素を分離する必要から、ゲート電極11は基板とは別に設けられ、各画素ごとに分離してパターニングされ、ゲート配線12に接続されている。この場合、基板の材料は、一般に基板材料として用いられるものであれば何でもよいが、フレキシブルな画面が形成できることや、安価で軽量であることなどから、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)などの有機高分子からなるプラスチック基板が好ましい。また、ゲート電極11の材料としては、アルミニウムAlや金Auなど、一般に配線材料として用いられるものを用い、ゲート絶縁膜としては、酸化シリコンSiO2や窒化シリコンSiNなどの無機材料や、PVP、PMMA、ポリイミド、およびパリレンなどの有機高分子材料を用いることができる。
【0088】
図7は、本実施の形態の別の変形例に基づく有機FET30の構造を示す断面図である。有機FET30は請求項3に対応しており、図7に示すように、前記第1電極および前記第2電極である電極33と電極34のいずれもが、Caなどの仕事関数の小さい金属と、Auなどの仕事関数の大きい金属との積層構造になっている点が、有機FET10と異なっている。この結果、電極33と電極34との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、電極33と電極34とのいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されている。
【0089】
このようにすれば、例えば、電極33と電極34との間に印加される前記電圧を交流電圧とし、正孔(ホール)が注入される領域と電子が注入される領域とを交互に交代させ、電極33の近傍と電極34の近傍とに交互に発光領域を形成することによって、発光効率を高めることができる。
【0090】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の有機発光素子は、自発光型のカラ−ディスプレイなどに好適に用いられ、その小型化や薄型化や低コスト化に寄与できる。また、有機電界発光素子が照明装置などとして用いられる分野に新たな応用を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態に基づく有機発光FETの構造を示す断面図である。
【図2】同、有機発光FETの発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【図3】同、有機発光FETに好適な有機半導体化合物の構造式、およびHOMOとLUMOのエネルギー準位である。
【図4】同、有機発光FETの作製工程のフローを示す断面図である。
【図5】同、有機発光FETの作製工程のフローを示す断面図である。
【図6】同、変形例に基づく有機発光FETによる表示装置のレイアウトを示す平面図である。
【図7】同、別の変形例に基づく有機発光FETの構造を示す断面図である。
【図8】非特許文献1に示されている有機発光FETの構造を示す断面図(a)および電極形状を示す平面図(b)である。
【図9】同、有機発光FETの、FET素子としての特性を示すドレイン電流IDとドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフ(a)と、ドレイン電流IDとゲート−ソース電圧VGSとの関係を示すグラフ(b)とである。
【図10】同、有機発光FETの発光光のスペクトル、および発光強度とドレイン−ソース電圧VDSとの関係を示すグラフである。
【図11】同、有機発光FETの発光素子としての動作メカニズムを模式的に説明するエネルギー準位図である。
【符号の説明】
【0093】
1…高濃度にドープされた半導体基板(例えばn型のシリコン基板で、ゲート電極を兼ねる。)、2…ゲート絶縁膜(例えば、酸化シリコン)、
3…ソース電極(例えば、金)、4…ドレイン電極(例えば、カルシウム)、
5…有機半導体層、6…保護膜、10…有機発光FET、11…ゲート電極、
12…ゲート電極選択線、13…ソース電極選択線、14…ドレイン電極選択線、
20、30…有機発光FET、33、34…電極、51…マスク、52…開口部、
53…電極材料層、100…有機発光FET、
101…高濃度にドープされた半導体基板(ゲート電極を兼ねる、n型シリコン基板)、
102…ゲート絶縁膜(酸化シリコン)、103…ソース電極(金)、
104…ドレイン電極(金)、105…有機半導体層(テトラセン)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される有機発光素子であって、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる、
有機発光素子。
【請求項2】
前記発光領域が前記低電位側の電極の近傍に存在している、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、前記第1電極及び前記第2電極のいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項4】
前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属の仕事関数が、3.7eV以下である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項5】
前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項6】
前記合金が、アルミニウム、マグネシウム、銀、銅、亜鉛、スズ及び鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との合金である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項7】
少なくとも前記第1電極及び前記第2電極への外部物質の侵入を阻止する保護膜によって、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層が被覆されている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項8】
前記保護膜が有機保護膜と無機保護膜との積層構造からなる、請求項7に記載した有機発光素子。
【請求項9】
前記有機半導体層が、正孔輸送性と電子輸送性を合わせもつ有機半導体化合物からなる、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項10】
前記有機半導体化合物が、ポリチオフェン系化合物、ポリフルオレン系化合物又はポリフェニレンビニレン系化合物である、請求項9に記載した有機発光素子。
【請求項11】
前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子の注入を補助する電子注入層が設けられている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項12】
前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子輸送層が設けられている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項1】
ゲート電極とゲート絶縁膜とが設けられ、前記第1電極及び前記第2電極に接して少 なくともこれらの電極間に有機半導体層が設けられており、
前記第1電極と前記第2電極との間の前記有機半導体層に、導電領域と、この導電領 域の少なくとも一部からなる発光領域とが形成され、前記導電領域を流れる電流量及び 前記発光領域からの発光量が、前記第1電極と前記第2電極との間の電圧、並びに前記 ゲート電極の電位によって制御される有機発光素子であって、
前記第1電極及び前記第2電極のうち、低電位側の電極となる電極の、少なくとも前 記導電領域側の部分が、アルミニウムよりも仕事関数の小さい金属の単体、又はこの金 属の合金を含んでいる、
有機発光素子。
【請求項2】
前記発光領域が前記低電位側の電極の近傍に存在している、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極との間に印加される前記電圧の極性の切り換えによって、前記第1電極及び前記第2電極のいずれもが、前記低電位側の電極になり得るように構成されている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項4】
前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属の仕事関数が、3.7eV以下である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項5】
前記アルミニウムより仕事関数の小さい金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項6】
前記合金が、アルミニウム、マグネシウム、銀、銅、亜鉛、スズ及び鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との合金である、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項7】
少なくとも前記第1電極及び前記第2電極への外部物質の侵入を阻止する保護膜によって、前記第1電極、前記第2電極及び前記有機半導体層が被覆されている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項8】
前記保護膜が有機保護膜と無機保護膜との積層構造からなる、請求項7に記載した有機発光素子。
【請求項9】
前記有機半導体層が、正孔輸送性と電子輸送性を合わせもつ有機半導体化合物からなる、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項10】
前記有機半導体化合物が、ポリチオフェン系化合物、ポリフルオレン系化合物又はポリフェニレンビニレン系化合物である、請求項9に記載した有機発光素子。
【請求項11】
前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子の注入を補助する電子注入層が設けられている、請求項1に記載した有機発光素子。
【請求項12】
前記低電位側電極と前記有機半導体層との間に電子輸送層が設けられている、請求項1に記載した有機発光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−53041(P2007−53041A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238311(P2005−238311)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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