説明

有機発光素子

【課題】連続駆動寿命の長い青色有機発光素子を得る。
【解決手段】ホスト材料と電子トラップ型あるいはホールトラップ型のドーパント材料を有する発光層と、ホールブロッキング層あるいは電子ブロッキング層を有する有機発光素子であって、ドーパントとホストのLUMO同士の差と、ホストとドーパントのHOMOの大小関係と、ホスト材料の励起最低三重項エネルギーT1と発光層に隣接するホールブロッキング層のT1あるいは電子ブロッキング層のT1との差を規定する。そしてホストとホールブロッキング層の材料と電子ブロッキング層の材料が、ビフェニル又は1−フェニルナフタレンの部分構造を有する炭化水素化合物のいずれかを有する有機発光素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を用いた有機発光素子に関するものであり、さらに詳しくは、有
機化合物からなる薄膜に電圧を印加することにより光を放出する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極間に発光性有機化合物を含む薄膜を配置させて、電極間に電圧を印加し、ホ−ル(正孔)およびエレクトロン(電子)を注入することにより駆動する。このホ−ルと電子が素子内で再結合し、発光性有機化合物の励起状態を生成させ、発光性化合物の励起状態が基底状態にもどる際に放射される光を利用する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら、フルカラ−ディスプレイ等への応用を考えた場合、現状の素子の安定性では実用上十分ではなく、特に、青色発光素子においては、連続駆動を行うと経時的に発光効率が低下する問題に対して、性能改善の必要があった。
【0005】
この発光効率劣化の原因として、発光層の励起状態経由の劣化、すなわち、発光層材料が、励起と緩和を繰り返す過程で除々に劣化することが考えられている。以下この劣化のことを励起状態経由劣化と記す。特許文献1には、励起状態経由劣化に関与が高いとされている発光層材料の三重項励起状態を低減するために、三重項捕捉剤を発光材料と共存させることにより、劣化改善を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−359080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、励起状態経由劣化のメカニズムの詳細は明らかにされておらず、励起状態経由劣化に強い材料を分子構造の立場から設計することができなかった。そのため、特許文献1のように三重項捕捉剤により発光層材料の三重項励起状態を低減しても、連続駆動耐久性を実用上十分とすることはできなかった。本発明は、かかる問題を解決し、連続駆動寿命の長い、青色発光素子を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、ホスト材料と電子トラップ性の青色蛍光ド−パント材料を有する発光層と、
前記発光層に隣接したホ−ルブロック層を少なくとも有する有機発光素子において、
前記ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Dopant)が、
|LUMO(Dopant)|−|LUMO(Host)|>0.15eV
であり、
前記ホスト材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Dopant)が、
|HOMO(Host)|<|HOMO(Dopant)|
であり、
前記ホスト材料の励起最低三重項エネルギ−T1(Host)と、前記ホ−ルブロック層の励起最低三重項エネルギ−T1(HBL)が
T1(Host)−T1(HBL)> 0.1eV
であり、
前記ホスト材料と前記ホ−ルブロック層の材料は互いに異なる炭化水素化合物であり、前記炭化水素化合物は無置換あるいはアルキル基で置換される一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物であり、
前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、下記一般式[1]又は[2]のみで表される
ことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
(ただし、式[1]及び[2]中の太線は前記単結合を示す。)
また、本発明は、
陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、ホスト材料とホ−ルトラップ性の青色蛍光ド−パント材料を有する発光層と、
前記発光層に隣接した電子ブロック層を少なくとも有する有機発光素子において、
前記ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Dopant)が、
|LUMO(Host)|>|LUMO(Dopant)|
であり、
前記ホスト材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Dopant)が、
|HOMO(Host)|−|HOMO(Dopant)|>0.15eV
であり、
前記ホスト材料の励起最低三重項エネルギ−T1(Host)と、前記電子ブロック層の励起最低三重項エネルギ−T1(EBL)が
T1(Host)−T1(EBL)> 0.1eV
であり、
前記ホスト材料と前記電子ブロック層の材料は互いに異なる炭化水素化合物であり、前記炭化水素化合物は無置換あるいはアルキル基で置換される一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物であり、
前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、下記一般式[1]又は[2]のみで表される
ことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】


(ただし、式[1]及び[2]中の太線は前記単結合を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連続駆動寿命の長い青色有機発光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的な露出表面積の計算方法の概念図である。
【図2】本発明の有機発光素子の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の有機発光素子の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の露出表面積の計算方法について、詳細を示す概念図である。
【図5】本発明の露出表面積の計算方法において、グリッド近似の概念図である。
【図6】化合物3及び化合物4の溶液状態における発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等はこれまでの技術とは異なるアプロ−チで連続駆動耐久性を向上させる青色有機発光素子の開発を試みた。より具体的には、励起状態経由劣化のメカニズムの詳細を明らかにし、励起状態経由劣化に強い材料を分子構造の立場から見出し、さらに、有機発光素子の劣化を引き起こす経路を改善する最適な素子構成を構築することを試みた。
【0017】
本発明者等は、まず、励起状態経由劣化のメカニズムの詳細を明らかにし、励起状態経由劣化に強い材料の分子構造上の特徴を見出すために、以下の検証実験を行った。
【0018】
(検証実験及び検証実験を通しての発見)
(1)検証実験
(1−1)検証実験用のサンプル作成
<サンプル1の作成>
基板としてのガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて130nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコ−ル(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。
【0019】
次にこの基板上に、化合物S1をボ−トから真空蒸着して有機物単層を成膜した。膜厚は50nmであった。
【0020】
【化5】

【0021】
更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け、サンプル1を作成した。
【0022】
得られたサンプルは、水分の吸着が起こらないように、露点−70度以下の窒素雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着剤で封止した。なお、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシ−ト(有機EL水分ゲッタ−シ−ト、ダイニック株式会社製)を封入した。
【0023】
<その他のサンプルの作成>
サンプル1の作成において化合物S1の代わりに、青色有機発光素子の発光層材料に使用可能な各化合物(40種)に変えて、その他の各サンプルを作成した。
【0024】
(1−2−A)検証実験Aの詳細
<サンプル1の検証実験A>
サンプル1に、ガラス基板側から波長365nmの光を照射した。照射強度は5.4W/cm2、両電極間は0Vが維持されており、通電されていない状態である。照射光は、有機物層にて吸収され、励起状態(一重項励起状態のみならず、項間交差により一部、三重項励起状態となる)が生成される。有機物層のフォトルミネッセンスの強度の経時変化を測定し、励起状態経由劣化曲線を以下の式1でフィッティングした時に得られたτを、化合物S1の励起状態経由劣化時間とした。サンプル1の励起状態経由劣化時間τは210hourであった。
【0025】
【化6】

【0026】
:初期のフォトルミネッセンス強度
L :時間t(hour)の時のフォトルミネッセンス強度
t :時間t(hour)
α :励起状態経由劣化曲線の形状因子
τ :フォトルミネッセンス強度が1/eになる寿命
【0027】
<その他のサンプルの検証実験A>
サンプル1の検証実験Aと同様にして、各化合物(40種)の励起状態経由劣化時間τをもとめた。その際、照射強度は、各サンプルの有機物層が時間あたりに吸収する光子数が同程度になるように設定した。両電極間は0Vが維持されており、通電されていない状態である。
【0028】
(1−2−B)検証実験Bの詳細
<サンプル1の検証実験B>
検証実験A(1−2−A)と同様に、サンプル1に対して114時間光照射を行い、照射強度が照射前に比べて50%になった。この照射後のサンプル1について、有機物層に含まれる有機物の同定を、順層LC−APPI−FTMS/DAD/FLDによって行った。装置はAgilent製AgilenT1100、thermofisher製LTQ Orbitrap XLを用いて測定した。この結果、化合物S1自体以外に、化合物S1のフェニル基欠損体、ナフチル基欠損体が検出された。これらの検出物は、化合物S1のアントラセン骨格と、フェニル基またはナフチル基をつなぐ結合が解離しなければ生じ得ないものである。また、さらに、化合物S1のフェニル基付加体、ナフチル基付加体、異性体が検出された。これらの検出物は、結合解離によって切り離されたフェニル基やナフチル基が、他の材料に再結合し、生じるものである。また、以上の検出物は、光未照射のサンプル1からは検出されなかった。
【0029】
<その他のサンプルの検証実験B>
サンプル1の検証実験Bと同様にして、その他の化合物についても光照射前後のサンプルに対して、有機層に含まれる有機物の同定を行った。その結果、サンプル1の検証実験Bと同様に、結合解離により生じた種々の劣化物を検出した。
【0030】
(2)検証実験からわかったこと
以下に、(1)で説明した検証実験AとBを通して、本発明者等が鋭意検討した結果、見出した発見を(2−1)乃至(2−3)に述べる。
【0031】
(2−1)励起状態経由劣化に強い材料の分子構造上の特徴
本発明者等は、まずはじめに、検証実験Aを通して、次の(i)及び(ii)で示される現象に気付いた。即ち、各材料における励起状態経由劣化の強弱が、分子構造上の特徴で決定されているという現象である。
【0032】
(i)励起状態経由劣化時間が長い(励起状態経由劣化に強い)材料は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから炭化水素化合物である。
一方で、アミノ基、複素環を含む材料等は、励起状態経由劣化時間が短い(励起状態経由劣化に弱い)。
【0033】
(ii)上記(2−1)の炭化水素化合物のうち、上記単結合及び上記単結合で結ばれる芳香族炭化水素の部分構造が、下記一般式[1]又は[2]のみで表される
材料は、励起状態経由劣化に強い。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
(ただし、式[1]及び[2]中の太線は前記単結合を示す。)
一方で、その他の結合タイプを含む材料は励起状態経由劣化に弱い。
【0037】
すなわち、その他の結合タイプの材料とは例えば、上記単結合及び上記単結合で結ばれる芳香族炭化水素の部分構造が一般式[3]乃至[5]で表される材料である。又、その他の結合タイプの材料とは例えば、上記2つの単結合同士及び上記単2つの単結合で結ばれる3つ芳香族炭化水素の部分構造が一般式[6]乃至[8]で表される材料である。
【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】


(ただし、式[3]から[8]中の太線は前記単結合を示す。)
【0044】
(2−2)励起状態経由劣化のメカニズム
各材料における励起状態経由劣化の強弱が、分子構造上の特徴で決定されているという現象(2−1)から、本発明者等は更に励起状態経由劣化のメカニズムを解明した。即ち、青発光層材料に使用できる化合物から構成された単膜においての励起状態経由劣化は、結合開裂によって発生したラジカル対が一部再結合せずに散逸してしまい、その残存ラジカルが発光をクエンチ(消光)することによって起こると考えた。
【0045】
以下、その考えに至った理由について述べる。
検証実験Bでは、光照射後のサンプルから、単結合の解離により生じた種々の劣化物を検出した。この結果は、励起状態経由劣化が、単結合の解離を主体とすることを示唆している。
【0046】
そもそも、
芳香族炭化水素同士のC原子−C原子の単結合(C−C単結合)や芳香族炭化水素とアルキル基のC−C単結合の解離エネルギ−はおよそ4〜5eVである。反対に、例えば、アミノ基と芳香族炭化水素のC原子−N原子の単結合(C−N単結合)や複素環と芳香族炭化水素のようなC−N単結合の解離エネルギ−は3〜4eV程度である。C−N単結合は、C−C単結合と比較して解離エネルギ−が小さいため、励起状態を経由して結合が解離しやすい。したがって、(2−1)で挙げた条件(i)が励起状態経由劣化に強い青発光層材料の要件として重要であることがわかる。アルキル基で置換されてもよい芳香族炭化水素同士のC−C単結合で構成されるような青発光層材料は、励起最低一重項状態S1や励起最低三重項状態T1になっただけでは結合開裂は起こりにくい。
【0047】
このような、芳香族炭化水素同士のC−C単結合で構成されるような青発光層材料は、C−C単結合の解離エネルギ−よりも高エネルギ−の高次の励起状態から、結合開裂すると考えられる。本発明者らは、この高エネルギ−状態は、この高次の励起三重項状態Tnであると推察している。
【0048】
励起最低三重項状態T1である分子に対し、励起最低一重項状態S1である他の分子からエネルギ−移動が起こり、高次の励起三重項状態Tnが生じる。この場合、生じたTnのエネルギ−は、T1のエネルギ−とS1のエネルギ−の和となる。
【0049】
最低三重項状態T1は励起寿命が長いため膜中での密度も高く、上記のようなエネルギ−移動過程は比較的高い頻度で起こると推察される。
【0050】
検証実験サンプルのように青発光層に使用可能な材料のように励起最低一重項状態S1が3.0eV前後と大きい場合、エネルギ−移動により生じたTn状態のエネルギ−は、C−C単結合の解離エネルギ−と同等以上になる可能性が十分ある。したがって、アルキル基で置換されてもよい芳香族炭化水素同士のC−C単結合で構成されるような青発光層材料は、エネルギ−移動により高次の励起三重項状態Tnになったことで、C−C単結合のほとんどが結合開裂を引き起こす可能性がある。
【0051】
一般的に、結合開裂して生じたラジカル対は、再結合して単結合に戻る場合と、散逸してフリ−ラジカルとして残存する過程の2通りの過程があることが知られている。この2過程のうちどちらが支配的になるかは、主に2つの要因があることがわかっている。1つ目、ラジカル対の置かれた環境(気相・凝集相)に影響する。気相の場合、ラジカル対は、他分子にあまり影響を受けずに拡散してフリ−ラジカルになりやすい。反対に、凝集相の場合、2つのラジカルが対となって他分子に囲まれていて、あたかも「かご」の中に閉じ込められた状態である。このような状態の時、ラジカル対は、周囲の他分子のために拡散が困難になり、再結合して単結合に戻る方が支配的になる。実際に、溶媒の粘度が大きい場合、この効果が大きくなることが明らかにされている。この現象をかご効果(ケ−ジ効果)という。2つ目は、ラジカル対が再結合する際にどれだけ立体障害があるかに影響する。ラジカル対の再結合は、2つのラジカルの反応点同士が衝突することによって起きる。もし、2つのラジカルの反応点周辺に空間的に大きな原子や置換基等があると、これに邪魔されて2つのラジカルが近づきにくくなり、再結合が進行しにくくなるためである。ここで、ラジカル転位がほとんど無視できるならば、2つのラジカル反応点は、結合開裂が起きた結合で結ばれる2つの原子ということになる。また、拡散していく前のラジカル対は、結合開裂前の分子構造とそれほど変わらないと推測される。したがって、ラジカル対の再結合は、結合開裂が起きる前の結合周辺における立体障害の度合(嵩高さ)に影響を受けると言える。これを応用にして、実際に、ポリマ−の塗膜等の分野では、光重合開始剤としてフリ−ラジカルを効率よく生成するために再結合の立体障害が大きな分子構造を有した材料が用いている。
【0052】
さて、検証実験サンプルや有機EL素子では、膜状態であるため、ラジカル対は他分子に取り囲まれていて拡散が非常に困難であり、再結合して単結合に戻りやすいと考えられる。つまり、かご効果が特に強い環境下にあるといえる。この場合、本発明者は次のことを考えた。結合開裂で生じたラジカルが再結合するか、あるいは拡散してフリ−ラジカルになるか(すなわち、クエンチャ−が生成し、劣化するか否か)は、残る2つ目の要因である単結合における立体障害の度合(嵩高さ)によって支配的に左右されるのではないかと考えた。
【0053】
励起状態経由劣化に強い材料の要件(2−1)の(ii)で述べた芳香族炭化水素単同士の単結合周辺の部分構造において、一般式[1]及び[2]で表されるものは、一般式[3]乃至[8]で表されるものと比較して、概して単結合周辺における立体障害が小さい。これは、前述の推測通り、励起状態経由劣化の強弱は、(2−1)の(i)で挙げた炭化水素化合物の場合は芳香族炭化水素同士の単結合周辺における嵩高さ(立体障害度合)によって決まっていることを示している。高次の励起三重項状態Tnになればほとんどの芳香族炭化水素単同士の単結合が開裂してしまう。その場合、励起状態経由劣化の強弱は、発生したラジカル対が効率よく再結合して単結合に戻る度合(フリ−ラジカルの発生を抑制する度合)で決定されてしまうと考えられる。また、芳香族炭化水素とアルキル基のC−C単結合の有無は、励起状態経由劣化の強弱に一定の関係を示さない。これは、芳香族炭化水素とアルキル基のC−C単結合も、同様に高次の励起三重項状態Tnで結合開裂を起こすが、芳香族炭化水素同士の単結合の場合と比較してラジカル対の再結合の度合が大きいためと推測される。
【0054】
また、複素環を含むような材料は、ヘテロ原子が活性サイトとなり劣化反応が起こりやすいため、隣接するC原子に対して芳香族炭化水素等で置換する必要が生じる。この時、複素環内のヘテロ原子に隣接するC原子と置換した芳香族炭化水素同士のC−C単結合は、二面角が0°に近くなるため、立体障害が大きくなりやすい。そのため、複素環を含むような材料が、芳香族環同士の単結合がたとえ全てC−C結合であっても検証実験において励起状態経由劣化に弱かったのは、立体障害により再結合が起きにくいためと推測される。
【0055】
(2−3)励起状態経由劣化と露出表面積の関係
次に、本発明者等は、励起状態経由劣化の強弱が芳香族炭化水素同士の単結合周辺における立体障害の度合で決まっているという発見に対して、さらに詳しく解析した。即ち、C−C単結合周辺の立体障害度合を、露出表面積を算出することで数値化し、励起状態経由劣化寿命との関係を見出すことを試みた。
【0056】
露出表面積とは、一般的に、原子または分子に見立てたプロ−ブ球を分子表面に沿って転がした時に、プロ−ブ球の中心が通ってできる表面の面積(accessible surface area)のことである。図1に露出表面積の概念図を示す。図中のSは露出表面積、MLがファンデルワ−ルス半径を考慮した分子、PBはプロ−ブ球を示している。なお、図1は簡単のため二次元で書かれているが、実際は三次元の概念である。
【0057】
今回、露出表面積の計算を特定の領域、即ち、芳香族炭化水素同士の単結合の中心付近、に絞って行うことで、芳香族炭化水素同士の単結合周辺において分子の嵩高さ(立体障害度合)を評価した。なぜならば、単結合周辺が嵩高さによって、露出している部分(露出表面積)が変化するからである。具体的には、芳香族炭化水素同士の単結合から3.0Åに存在する原子を選択し、それらの原子に属する露出表面積の和について、プロ−ブ球半径を1.7Åとして計算した。分子の構造は、分子軌道計算より求めた最低励起三重項状態T1の安定構造を用いた。結合開裂とラジカル対の発生及び再結合は非常に短時間に起こるとし、再結合時にも最低励起三重項状態T1の安定構造を維持している可能性が高いと考えたためである。
【0058】
このようにして、各炭化水素化合物材料の芳香族炭化水素同士の各単結合について露出表面積を算出し、(1−2−A)の検証実験Aで求めた励起状態経由劣化寿命時間τとの関係について検討した。その結果、芳香族炭化水素同士の各単結合の露出表面積の最小値(すべての単結合の露出表面積値の中で、最小の物)が、励起状態経由劣化寿命時間τの対数と非常によい相関を示すことがわかった。これは、複数のC−Cの単結合で形成される材料では、結合開裂によって生じたラジカル対の再結合が最もしにくい(立体障害度合が最も大きい)C−C単結合が、励起状態経由劣化の強弱の支配因子と考えられるということである。
【0059】
この立体障害度合が最も大きいC−C単結合とは各C−C単結合の露出表面積の中で最小値を与えるC−C単結合である。
【0060】
なお、芳香族炭化水素同士の単結合についての露出表面積の上限値は、露出表面積が最も大きくなると推測されるp−ビフェニルに対して二面角の推移と露出表面積の関係を調べるとわかるように、140前後である。これに対し、アルキル基と芳香族炭化水素のC−C単結合は、露出表面積はおよそ200以上の値を与えることもわかった。アルキル基と芳香族炭化水素のC−C単結合は、芳香族炭化水素同士の単結合に比較して、ラジカル対が格段に再結合しやすいと前述の(2−2)で行った推測と同じ結果を得た。
【0061】
以上、一連の実験から、本発明者らは、初めて、励起状態経由劣化のメカニズムを解明し、励起状態経由劣化に強い材料を分子構造上の特徴から設計することが可能にした。
【0062】
次に、本発明者等は、鋭意検討した結果、本発明の動作機構、即ち、有機発光素子の劣化を引き起こす経路を改善する最適な素子構成を発明した。
【0063】
(本発明の動作機構)
本発明は、以下の要件(1)乃至(4)全てを満たすことで互いの要件が機能的に関連し、初めて、励起状態経由劣化を最大限に抑制することが可能となる。そして、それによって、連続駆動寿命の長い有機発光素子を得ることができる。
(1)本発明は、陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、発光層と前記発光層に隣接するホ−ルブロック層を少なくとも有し、前記発光層にホスト材料と電子トラップ性ド−パント材料を少なくとも有する有機発光素子である。
(2)本発明は、ホ−ルブロック層の励起最低三重項エネルギ−がホスト材料と比較して0.1eVより低くなければならない。
(3)本発明のホスト材料とホ−ルブロック層の材料はアルキル基で置換されてもよい、即ち無置換あるいはアルキル基で置換される一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。そしてこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、上記一般式[1]又は[2]のみで表されなければならない。
(4)本発明におけるド−パント材料は、青色蛍光ド−パント材料である。
【0064】
要件(1)において、本発明における電子トラップ性ド−パントとは、発光層中で電子を効果的にトラップし、逆にホ−ルトラップとしては積極的に機能しないド−パントである。この結果、電子トラップ性ド−パント材料は、発光層中のホ−ルと電子の再結合領域を陰極側へ偏らせる効果がある。このように再結合領域を発光層中の陰極側に偏らせると、ホ−ルが陰極側の発光層隣接層に漏れる現象を懸念する必要が顕著になる。そこで、発光層から陰極側へのホ−ル漏れを防止し、両電極から注入されたホ−ルと電子の再結合領域を発光層内に留める必要があるため、陰極側の発光層隣接層はホ−ルブロック層でなくてはならない。
【0065】
発光層では、ホ−ルと電子が発光層中で再結合することで励起状態(一重項状態と三重項状態)が生成される。励起状態が生成されることによるエネルギ−移動により、各有機層の材料が高次の励起三重項状態Tnになり、結合開裂とラジカル対の再結合を繰り返す過程で、各有機層の材料が劣化すると考えられる。要件(1)において、励起状態経由劣化が起きる前記各有機層の材料とは、主に2つが挙げられる。1つは、ホ−ルと電子の再結合が起こる発光層の材料、とりわけ、濃度比の大きい発光層ホスト材料である。2つ目は、ホ−ルと電子の再結合領域との距離が近くなった発光層隣接層のホ−ルブロック層(ただし、要件(2)を満たした場合)である。要件(1)において、ホ−ルと電子の再結合領域は、発光層中の陰極側に偏っているため、陽極側の発光層隣接層は、エネルギ−移動による高次の励起三重項状態Tnは生成しずらく、励起状態経由劣化が起こる程度が小さくなると考えられる。
【0066】
要件(2)は、要件(1)を満たした場合、発光層ホスト材料からホ−ルブロック層へ励起最低三重項状態T1を確実にエネルギ−移動させる働きがある。これによって、発光層ホスト材料の励起最低三重項状態T1の密度を減らし、発光層ホスト材料が、高次の励起三重項状態Tnになって結合開裂する割合を減らすことが可能となる。要件(2)に反して、ホ−ルブロック層の励起最低三重項エネルギ−がホスト材料と比較して高い場合は、発光層ホスト材料からホ−ルブロック層へ励起三重項状態かエネルギ−移動しないため、発光層ホスト材料の励起状態経由劣化が顕著になってしまう。また、そもそも、有機薄膜の励起最低三重項状態T1のエネルギ−は、中心値の周りにある幅をもってばらつきが存在すると考えられる。そのため、発光層ホスト材料から発光層隣接層へ励起最低三重項状態T1を確実にエネルギ−移動させるには、発光層隣接層の励起最低三重項状態T1エネルギ−が、発光層ホスト材料の励起最低三重項状態T1エネルギ−よりも単に低いだけでは不十分である。したがって、要件(2)のように、ホ−ルブロック層の励起最低三重項エネルギ−は、発光層ホスト材料と比較して0.1eVより低い必要がある。
【0067】
要件(3)は、発光層ホスト材料とホ−ルブロック層の材料自体の励起状態経由劣化に対して強くする効果がある。要件(1)及(2)により、発光層ホスト材料と発光層隣接層であるホ−ルブロック層に励起最低三重項状態T1を分散させることできた。しかし、要件(3)を満たさなければ、結合開裂時に発生したラジカル対が再結合しずらくなり、結局、発光層ホスト材料とホ−ルブロック層の材料は、励起状態経由劣化が起こる程度が大きくなり、かえって逆効果になってしまう。
【0068】
要件(4)は、要件(1)乃至(3)によって励起状態経由劣化を抑制する効果が特に大きくなるための条件である。励起状態のエネルギ−が高いと、結合開裂が起こりやすくなり、励起状態経由劣化がより顕著になると考えられる。青色発光ド−パント材料を用いた場合は、最低一重項状態S1状態が高く、エネルギ−移動により生成する高次の励起三重項状態Tnも高くなるため、特にこの励起状態経由劣化が問題になる。そのため、励起状態経由劣化を起因とした劣化改善を目的とした本発明は、特に発光層に青色発光ド−パント材料を用いた素子の場合に効果がある。また、発光ド−パント材料は、燐光ド−パントの場合、励起最低三重項状態T1の励起寿命が速いため、励起最低三重項状態T1発光層ホスト材料から燐光ド−パントへすぐにエネルギ−移動すると推測される。このため、発光ド−パント材料が燐光ド−パントの場合は、発光層ホスト材料の励起状態経由劣化改善を軸とした本発明には、効果が少ないと考えられる。一方で、本発明は特に発光層に青色蛍光ド−パント材料を用いた素子に効果がある。
【0069】
以上のように、本発明は、要件(1)乃至(4)の全てを満たすことで、初めて、励起状態経由劣化を最大限に抑制することが可能となる。
【0070】
さて、本発明は、上述のように、青蛍光ド−パント材料によって発光層中のホ−ルと電子の再結合領域を片側に偏らせている。その上で本発明はホスト材料と再結合領域に近い側の発光層隣接層に対して、励起最低三重項エネルギ−T1に関する条件と、励起状態経由劣化に強い分子構造上の条件を青蛍光ド−パントに課している。それによって、励起状態経由劣化を引き起こす要因である、励起最低三重項状態を効果的にかつ確実に分散させ、かつ、分散させた材料自体が励起状態経由劣化に強いために、全体として励起状態経由劣化を最大限に抑制することが可能となった。ここで、励起最低三重項状態を効果的に確実に分散させる層は、上述のホスト材料と陰極側の発光層隣接層の代わりに、ホスト材料と陽極側の発光層隣接層であっても、同様にして励起状態経由劣化を最大限に抑制することができる。
【0071】
したがって、本発明は、上記の要件(1)乃至(3)の代わりに、以下の要件(1a)乃至(3a)と、上記要件(4)の全てを満たすことで、上述と同様にして互いの要件が機能的に関連し、初めて、励起状態経由劣化を最大限に抑制することが可能となる。そして、それによって、連続駆動寿命の長い有機発光素子を得ることができる。
(1a)本発明は、陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、発光層と前記発光層に隣接する電子ブロック層を少なくとも有し、前記発光層にホスト材料とホ−ルトラップ性ド−パント材料を少なくとも有する有機発光素子である。
(2a)本発明は、電子ブロック層の励起最低三重項エネルギ−がホスト材料と比較して0.1eVより低くなければならない。
(3a)本発明のホスト材料と電子ブロック層の材料は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。この炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、上記一般式[1]又は[2]のみで表されなければならない。
(4)本発明におけるド−パント材料は、青色蛍光ド−パント材料である。
【0072】
要件(1a)において、ホ−ルトラップ性ド−パントとは、発光層中でホ−ルを効果的にトラップし、逆に電子トラップとしては積極的に機能しないド−パントである。ホ−ルトラップ性ド−パント材料は、発光層中のホ−ルと電子の再結合領域を陽極側へ偏らせる効果がある。このように再結合領域を発光層中の陽極側に偏らせると、電子が陽極側の発光層隣接層に漏れる現象を懸念する必要が顕著になる。そこで、発光層から陽極側への電子の漏れを防止し、両電極から注入されたホ−ルと電子の再結合領域を発光層内に留める必要があるため、陽極側の発光層隣接層は電子ブロック層でなくてはならない。要件(1a)において、励起状態経由劣化が起きる各有機層の材料は、ホスト材料と、ホ−ルと電子の再結合領域との距離が近くなった発光層隣接層の電子ブロック層(ただし、要件(2a)を満たした場合)である。要件(1a)において、ホ−ルと電子の再結合領域は、発光層中の陽極側に偏っているため、陰極側の発光層隣接層は、励起状態経由劣化が起こる程度が小さくなると考えられる。
【0073】
要件(2a)は、要件(1a)を満たした場合、要件(2)と同様な理由で、発光層ホスト材料から電子ブロック層へ励起最低三重項状態T1を確実にエネルギ−移動させる働きがある。
【0074】
要件(3a)は、発光層ホスト材料と電子ブロック層の材料自体の励起状態経由劣化に対して強くする効果がある。要件(1a)及(2a)により、発光層ホスト材料と発光層隣接層である電子ブロック層に励起最低三重項状態T1を分散させることできた。しかし、要件(3a)を満たさなければ、発光層ホスト材料と電子ブロック層の材料は、励起状態経由劣化が起こる程度が大きくなり、かえって逆効果になってしまう。
【0075】
本発明は、上記要件(1)乃至(4)に加えて、以下の要件(5)を満たすと、さらに励起状態経由劣化を抑制することが可能になり、有機発光素子の劣化をさらに改善できる。
【0076】
(5)発光層ホスト材料及びホ−ルブロック層の材料が、芳香族炭化水素同士の単結合の露出表面積における最小値を87より大きい
また、本発明は、上記要件(1a)乃至(3a)、及(4)に加えて、以下の要件(5a)を満たすと、さらに励起状態経由劣化を抑制することが可能になり、有機発光素子の劣化をさらに改善できる。
【0077】
(5a)発光層ホスト材料及び電子ブロック層の材料が、芳香族炭化水素同士の単結合の露出表面積における最小値を87より大きい
本発明において、青色蛍光ド−パント材料にフルオランテン骨格を部分構造に有する材料を用いると、効果的に電子トラップ性青色発光ド−パント材料が容易に得られる。フルオランテン骨格を部分構造に有する場合、六員環の縮合多環芳香族炭化水素と比較して概して最低空軌道エネルギ−LUMOを低いためである。本発明において、青色蛍光ド−パント材料の部分構造にフルオランテン骨格の数が多数含まれると、LUMOはさらに低く設定できるため、より好ましい。
【0078】
また、本発明において、青色蛍光ド−パント材料は、アミノ基や芳香族炭化水素と複素環同士のC−N単結合を分子中に含まない炭化水素化合物であることがより好ましい。青色蛍光ド−パント材料は、ホスト材料と比較して光励起劣化の寄与は小さいと考えられるが、C−N単結合を含むと、励起最低一重項状態S1になっただけで結合開裂してしまう恐れがあるためである。ただし、ホ−ルトラップ性青色蛍光ド−パント材料によってホ−ルのみを効果的にトラップする青色発光層を構成するには、青色蛍光ド−パント材料にアリ−ルアミノ基を部分構造に有すると得やすいことも考慮する必要がある。
【0079】
本発明において、発光層ホスト材料は、励起最低三重項状態エネルギ−T1が2.5eV以下であることがより望ましい。励起最低三重項状態T1の励起寿命を極力抑え、高次の励起三重項状態Tnになることをできるだけ抑制するためである。また、本発明は青蛍光ド−パント材料を有する発光素子のため、高次の励起三重項状態Tn状態エネルギ−の高さをできるだけ抑え、C−C単結合の結合解離を極力抑える効果もある。
【0080】
本発明において、発光層隣接層の励起最低三重項状態T1エネルギ−を、発光層ホスト材料の励起最低三重項状態T1と比較して0.1eVより低くするには、以下のように材料を設計する際に工夫すると達成されやすい。
【0081】
即ち、発光層隣接層と発光層ホスト材料の両者でHOMO軌道分布とLUMO軌道分布が同じになるような同一芳香族炭化水素骨格を含まないようにして、それぞれ材料を分子構築するとよい。
【0082】
分子軌道計算によると、一般に、ある分子の励起最低三重項状態エネルギ−T1の高さは、分子のHOMO軌道分布とLUMO軌道分布がドラスティックに変化しない場合、励起最低一項状態エネルギ−S1の高さに付随して変化する。そのため、2種類の分子で、HOMO軌道分布とLUMO軌道分布が両者であまり差がないような場合、励起最低一項状態エネルギ−S1だけではなく、励起最低三重項状態エネルギ−T1もほとんど変わらない傾向があるためである。
【0083】
本発明において、青色蛍光ド−パントの濃度は、トラップ機構や、ホスト材料から青色発光ド−パント材料へのエネルギ−移動を考慮すると、ホスト材料と青色蛍光ド−パント材料との総重量に対して0.1重量%以上35重量%以下が好ましい。1重量%以上15重量%以下がより好ましい。
【0084】
本発明における有機発光素子において、発光層ホスト材料から片側のみならず両側の発光層隣接層へ励起最低三重項状態T1をエネルギ−移動させることで、さらに劣化改善が期待できる。
【0085】
そのためには、上記の要件(1)乃至(4)に加えて、以下の要件(6)及及び(7)を満たす必要がある。又は、上記(1a)乃至(3a)、及び上記(4)に加えて、以下の要件(6a)及び(7a)を満たす必要がある。
(6)陽極側の発光層隣接層の励起最低三重項エネルギ−がホスト材料と比較して0.1eVより低くなければならない。
(7)陽極側の発光層隣接層の材料は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。この材料は前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、上記一般式[1]又は[2]のみで表されなければならない。
(6a)陰極側の発光層隣接層の励起最低三重項エネルギ−がホスト材料と比較して0.1eVより低くなければならない。
(7a)陰極側の発光層隣接層の材料は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。この材料は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、上記一般式[1]又は[2]のみで表されなければならない。
【0086】
本発明における有機発光素子において、上記の要件(1)乃至(7)を満たし、加えて(8)を満たすと、よりいっそうの劣化改善が期待できる。
(8)陽極側の発光層隣接層の材料が、芳香族炭化水素同士の単結合の露出表面積における最小値を87より大きい
また、同様に、本発明における有機発光素子において、上記(1a)乃至(3a)、及び上記(4)及び、上記(5a)乃至(7a)を満たし、加えて(8a)を満たすと、よりいっそうの劣化改善が期待できる。
(8a)陰極側の発光層隣接層の材料が、芳香族炭化水素同士の単結合の露出表面積における最小値を87より大きい。
【0087】
本発明における青色発光とは、xy色度座標上で、Kellyが示したBlue、Purplish Blue、Greenish Blue、Bluish Purple、Blue Greenの範囲の発光色をいう。(Kelly、K.L.、Color Designations for Lights、J.Opt.Soc.AM.33、627−632(1943))
なお、本発明においてド−パント材料の発光スペクトルは、後述するように、濃度1x10−5mol/l程度の溶液状態で希薄したサンプルについて、フォトルミネッセンスを測定することによって得る。
【0088】
本発明において、青色蛍光ド−パント材料が電子トラップ性を持つとは、発光層ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)、最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)と、青色蛍光ド−パント材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Dopant)、最高被占軌道エネルギ−HOMO(Dopant)が、
|LUMO(Dopant)|−|LUMO(Host)|>0.15eV
|HOMO(Host)|<|HOMO(Dopant)|
の関係を満たすことである。この条件によって、発光層中の青色蛍光ド−パント材料は電子を効果的にトラップし、かつ、ホ−ルは積極的にトラップしない。つまり、電子のみをトラップする発光層を実現できる。
【0089】
本発明において、発光層に隣接するホ−ルブロック層は、発光層ホスト材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)とホ−ルブロック層の最高被占軌道エネルギ−HOMO(HBL)が、
|HOMO(Host)|<|HOMO(HBL)|
を満たさなくてはならない。
【0090】
本発明において、青色蛍光ド−パント材料がホ−ルトラップ性を持つとは、
|LUMO(Host)|>|LUMO(Dopant)|
|HOMO(Host)|−|HOMO(Dopant)|>0.15eV
の関係を満たすことである。この条件によって、発光層中の青色蛍光ド−パント材料はホ−ルを効果的にトラップし、かつ、電子は積極的にトラップしない。つまり、電子のみをトラップする発光層を実現できる。
【0091】
本発明において、発光層に隣接する電子ブロック層は、発光層ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)と電子ブロック層の最低空軌道エネルギ−LUMO(EBL)が、
|LUMO(Host)|>|LUMO(EBL)|
を満たさなくてはならない。
【0092】
本発明におけるホスト材料、ホ−ルブロック材料、電子ブロック材料に係るアルキル基としては、メチル基、メチル−d基、メチル−d基、エチル基、エチル−d基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、iso−プロピル基、iso−プロピル−d基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−ブチル−d基、iso−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−オクチル基が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0093】
本発明におけるホスト材料、ホ−ルブロック材料、電子ブロック材料に係る芳香族炭化炭化水素としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、トリフェニレン、フェナンスレン、ピレン、ジベンゾ[f、j]ピセン、クリセン、ベンゾ[e]ピレン、ベンゾ[g]クリセン、ベンゾ[c]フェナンスレン、ジベンゾ[fgop]ナンタセン、ジベンゾ[a,c]アントラセン、ピセン、ジベンゾ[g、p]クリセン、ジベンゾ[hi,uv]ヘキサセン、ベンゾ[a]アントラセン、ベンゾ[ghi]ペリレン、ベンゾ[c]クリセン、トリベンゾ[a,c,h]アントラセン、ナフト[2,3−h]ペンタフェン、ベンゾ[b]クリセン、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ジベンゾ[c,g]クリセン、ジベンゾ[a,i]アントラセン、ジベンゾ[c,g]フェナンスレン、ジベンゾ[ij、no]テトラフェン、ベンゾ[s]ピセン、9,9−ジメチル−9H−フルオレン、13,13−ジメチル−13H−ジベンゾ[a,g]フルオレン、7,7−ジメチル−7H−ジベンゾ[b,g]フルオレン、7,7−ジメチル−7H−ジベンゾ[c,g]フルオレン、フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンゾ[e]アセフェナントリレン、ナフト[2,3−e]フェナントリレンが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0094】
本発明において、部分構造とは、明記されたH原子以外で、一般式[1]又は[2]で表される構造にさらにアルキル基や芳香族環が置換された構造を含む。さらに一般式[1]又は[2]で表される構造にさらに環が縮合された構造、及び、環が縮合された構造にさらにアルキル基や芳香族環が置換された構造も含む。ただし、芳香族環が置換される場合に発生する新たな単結合と単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造は、一般式[1]又は[2]のみで表される。
【0095】
本発明において、ホスト材料、ホ−ルブロック材料、電子ブロック材料を構成する部分構造は、一般式[1]または[2]で示される構造である。一般式[1]または[2]において、明示されたH原子以外の位置は、さらにアルキル基や芳香族環が置換されていてもよい。一般式[1]または[2]において、明示されたH原子以外の位置は、さらに環が縮合されていてもよい。また、環が縮合された構造に、さらにアルキル基や芳香族環が置換されてもよい。ただし、芳香族環が置換される場合に発生する新たな単結合と単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造は、一般式[1]又は[2]のみで表されなければならない。
【0096】
本発明において、部分構造が一般式[1]で表される単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0097】
【化15】

【0098】
本発明において、部分構造が一般式[2]で表される単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0099】
【化16】

【0100】
したがって、本発明において、発光層ホスト材料及び発光層ホスト材料の励起最低三重項状態T1をエネルギ−移動させた発光層隣接層(ホ−ルブロック層、又は、電子ブロック層)の材料は、例えば、以下のような分子的特徴を有するとも言える。
【0101】
即ち、このような材料はアルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。
【0102】
加えて前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[3]乃至[5]で表されない材料である。又は、上記2つの単結合同士及び上記単2つの単結合で結ばれる3つ芳香族炭化水素の部分構造が一般式[6]乃至[8]で表されない材料である。
【0103】
ここで、本発明から除外される部分構造とは、明記されたH原子以外で、一般式[3]乃至[8]で表される構造にさらにアルキル基や芳香族環が置換された構造である。加えて一般式[3]乃至[8]で表される構造にさらに環が縮合された構造、及び、環が縮合された構造にさらにアルキル基や芳香族環が置換された構造を含む。
【0104】
ここで、本発明から除外される部分構造とは、一般式[3]から[8]で表される構造である。一般式[3]から[8]において、明記されたH原子以外の位置は、アルキル基や芳香族環が置換されてもよい。また、一般式[3]から[8]において、明記されたH原子以外の位置は、さらに環が縮合されていてもよい。また、環が縮合された構造に、さらにアルキル基や芳香族環が置換されてもよい。
【0105】
本発明から除外される部分構造が一般式[3]で表される単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0106】
【化17】

【0107】
本発明から除外される部分構造が一般式[4]で表される単結合としては、例えば、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0108】
【化18】

【0109】
本発明から除外される部分構造が一般式[5]で表される単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0110】
【化19】

【0111】
本発明から除外される部分構造が一般式[6]で表される2つの単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0112】
【化20】

【0113】
本発明から除外される部分構造が一般式[7]で表される2つの単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0114】
【化21】

【0115】
本発明から除外される部分構造が一般式[8]で表される2つの単結合としては、例えば、より具体的な構造式で示すと、以下の単結合が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0116】
【化22】

【0117】
図2及び図3に本発明の有機発光素子の構成例を示す。
【0118】
図2は、基板1上に、陽極2、ホ−ル輸送層5、発光層3,ホ−ルブロック層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものであり、ホ−ルと電子の再結合領域は発光層内にある。陽極2と陰極4が1対の電極として対向して配置されている。ホ−ル輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した材料と適時組み合わせて用いられ、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の材料が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、発光層3に各キャリアまたは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。発光層3は、ホスト材料と電子トラップ性青蛍光ド−パント材料を少なくとも有する。これによって、ホ−ルと電子の再結合領域は発光層内の陰極側に偏る。ホ−ルブロック層6は、HOMOエネルギ−の低い(イオン化ポテンシャルの絶対値が小さい)材料を用いることにより、発光層から陰極側へのホ−ル漏れを改善し、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0119】
また、図2に対して、ホ−ル輸送層の一種であるホ−ル注入層を、陽極2側に挿入しても良い。陽極2とホ−ル輸送層5の密着性改善あるいはホ−ルの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0120】
また、図2に対して、電子輸送層をホ−ルブロック層6と陰極側4の間に挿入しても良い。図2に対して、電子輸送層の一種である電子注入層を、陰極4側に挿入しても良い。陰極4と電子ブロック層6の密着性改善あるいは電子の注入性改善に効果があり、低電圧化に効効果的である。
【0121】
図3は、基板1上に、陽極2、電子ブロック層7、発光層3,ホ−ル輸送層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。これは、キャリヤ輸送と発光の機能を分離したものであり、ホ−ルと電子の再結合領域は発光層内にある。ホ−ル輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した材料と適時組み合わせて用いられ、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の材料が使用できるため、発光色相の多様化が可能になる。さらに、発光層3に各キャリアまたは励起子を有効に閉じこめて、発光効率の向上を図ることも可能になる。発光層3は、ホスト材料とホ−ルトラップ性青蛍光ド−パント材料を少なくとも有する。これによって、ホ−ルと電子の再結合領域は発光層内の陽極側に偏る。電子ブロック層6は、LUMOエネルギ−の高い(電子親和力の絶対値が小さい)材料を用いる事により、発光層から陽極側への電子の漏れを改善し、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0122】
また、図3に対して、ホ−ル輸送層を電子ブロック層7と陽極側2の間に挿入しても良い。図2に対して、ホ−ル輸送層の一種であるホ−ル注入層を、陽極2側に挿入しても良い。陰極2と電子ブロック層7の密着性改善あるいはホ−ルの注入性改善に効果があり、低電圧化に効効果的である
また、図2に対して、電子輸送層の一種である電子注入層を、陰極4側に挿入しても良い。陰極4と電子輸送層8の密着性改善あるいはホ−ルの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0123】
最低一重項励起エネルギ−(エネルギ−ギャップ)の測定は、可視光−紫外吸収スペクトルから求めることができる。本発明においては、ガラス基板上に成膜した薄膜の吸収端から求めた。装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。
【0124】
最高被占軌道(HOMO)エネルギ−は、大気下光電子分光法(測定器名AC−1 理研機器製)を用いてイオン化ポテンシャルを測定した。
【0125】
最低空軌道(LUMO)エネルギ−はエネルギ−ギャップ測定値と上記イオン化ポテンシャルから算出することができる。すなわち、電子親和力=イオン化ポテンシャル−エネルギ−ギャップ、である。
【0126】
発光材料の発光スペクトルは、日立製蛍光光度計F4500にてフォトルミネッセンスを測定することで得た。本発明における測定は、濃度1x10−5mol/l程度の溶液状態のものを用いた。溶媒には、トルエン、又は、シクロヘキサンを使用した。
【0127】
励起最低三重項エネルギ−は、対象となる有機材料の燐光スペクトルから求めることが可能である。具体的には、液体窒素温度(77K)等の低温下において燐光スペクトルの測定を行い、測定された燐光スペクトルの第一の発光ピ−ク(最も短波長のピ−ク)から、T1エネルギ−を得られる。
【0128】
尚、燐光発光が得られないものは(燐光が弱く測れない)ものは、三重項増感剤からのエネルギ−移動を用いる。
【0129】
また、燐光の発光効率が非常に低いために、上記の方法で燐光が測れない場合には、アクセプタ−への三重項−三重項エネルギ−移動を用いて励起最低三重項エネルギ−が得られる方法がある。
【0130】
以上の測定を行っても燐光発光が得られない場合は、Turbomole等の計算化学ソフトウェアにより、以下の計算手法によって、励起最低三重項エネルギ−を得ることができる。まず、基底状態の構造最適化を密度汎関数法(DFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数にdef2−SV(P)を用いて計算する。次に、最適化された構造において、時間依存密度汎関数法(TDDFT)により、汎関数にB3LYP、基底関数にdef2−SV(P)を用いて励起最低三重項(吸収)エネルギ−を計算する。なお、DFT及びTDDFTの計算には、代わりに同様の機能を持つ計算化学ソフトウェアを用いてもよい。以上のようにして計算した励起最低三重項(吸収)エネルギ−T1(calc.)[eV]から、以下の相関式2を用いて、膜状態にて上記測定した励起三重項エネルギ−T1(exp.film)[eV]測定値に対する推定値を得ることができる。
T1(exp./exp)=0.4518×T1(calc.)+1.3248 式2
本発明において、露出表面積とは以下の計算手法で一意的に定まる。
【0131】
まず初めに、多配座の中で最低励起状三重項状態T1の安定構造を求める。より具体的には、Cache等の計算化学ソフトウェアを用いて、分子力場計算法(MM3)により、
配座異性体の最適化構造の中で最安定構造について探索を行った。このMM3による多配座の中での最安定構造を初期構造とし、Turbomole等の計算化学ソフトウェアを用いて、密度汎関数法(DFT)により最低励起状三重項状態T1の安定構造を求めた。DFTには、汎関数にB3LYP、基底関数にdef2−SV(P)を用いればよい。なお、MM3計算及びDFTの計算には、代わりに同様の機能を持つ計算化学ソフトウェアを用いてもよい。
【0132】
次に、芳香族炭化水素同士の各単結合の露出表面積を求める。芳香族炭化水素同士の単結合の露出表面積は、芳香族炭化水素同士の単結合の中点から一定距離以内(proximity=3.0Å)に存在する原子を選択し、それら原子に属する露出表面積の和を計算した(図4)。図4中、BCは芳香族炭化水素同士の単結合の中点である。Rは、各原子の中心からvan der Waals半径(Bondiによる値)にプロ−ブ半径を足した値を半径に持つ球の表面を示す。Cは炭素原子、Hは水素原子である。PXはBCから3.0単位以内の領域を示す。SAはPXに含まれる原子、USAはPXに含まれない原子を示す。Sは注目した単結合の露出表面積である。なお、図4は簡単のため二次元で書かれているが、実際は三次元で計算する。
【0133】
露出表面積は、プロ−ブ半径(probe radius)を1.7Åとしてブロ−プ球の中心が通ってできる表面の面積を考えればよい。より具体的には、分子のvan der Waals半径(Bondiによる値)+プロ−ブ半径の表面上にグリッド点を発生させ、他の原子内に入り込んでいるものを除き、残ったグリッド点の数を数えることで近似計算することが可能である(図5)。図5中、Aはvan der Waals半径を考慮した原子、PBはプロ−ブ球、GRはグリッド点を示す。Rはvan der Waals半径にプロ−ブ半径を足した値である。なお、図5は簡単のため二次元で書かれているが、実際は三次元で計算する。
【0134】
グリッド点の発生には、各原子のvan der Waals半径+プロ−ブ半径の球に内接する正20面体を元に、各面を25の正三角形に分割し、各正三角形の頂点を外接球に射影して得られる立体(geodesic dome)の頂点を用いた。これにより252点のグリッドが生成される。本発明における露出表面積の計算は、もちろんこの近似に限ったものではないが、近似する場合、少なくとも、252点以上のグリッド生成をすることが望ましい。
各単結合の露出表面積を計算したら、そのうち最小の値を選択する。
【0135】
本発明において、ホ−ル(正孔)輸送性材料としては、陽極からのホ−ルの注入を容易にし、また注入されたホ−ルを発光層に輸送する優れたモビリティを有するることが好ましい。ホ−ル注入輸送性能を有するる低分子および高分子系材料としては、トリアリ−ルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾ−ル誘導体、オキサジアゾ−ル誘導体、イミダゾ−ル誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾ−ル誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、およびポリ(ビニルカルバゾ−ル)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、電子親和力の小さい材料は、電子ブロック材料としても使用できる。
【0136】
本発明において、電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入を容易にし、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するるものから任意に選ぶことができ、ホ−ル輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入輸送性能を有するる材料としては、オキサジアゾ−ル誘導体、オキサゾ−ル誘導体、チアゾ−ル誘導体、チアジアゾ−ル誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾ−ル誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。また、イオン化ポテンシャルの大きい材料は、ホ−ルブロック材料としても使用できる。
【0137】
本発明の有機発光素子の有機材料からなる層は、発光層やその他有機層において種々の方法により得られる。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマCVDにより薄膜を形成する。あるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコ−ティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0138】
上記結着樹脂としては、広範囲な結着性樹脂より選択でき、例えば、ポリビニルカルバゾ−ル樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ−ト樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラ−ル樹脂、ポリビニルアセタ−ル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエ−テルスルホン樹脂、ジアリルフタレ−ト樹脂、フェノ−ル樹脂、エポキシ樹脂、シリコ−ン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独または共重合体ポリマ−として1種または2種以上混合してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0139】
本発明において、陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよく、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO),酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロ−ル、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマ−も使用できる。これらの電極物質は単独で用いるか、あるいは複数併用することもできる。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
【0140】
本発明において、一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよく、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体あるいはリチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等、複数の合金として用いることができる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で用いるか、あるいは複数併用することもできる。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
また陽極および陰極は、少なくともいずれか一方が透明または半透明であることが望ましい。
【0141】
本発明で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシ−ト等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラ−フィルタ−膜、蛍光色変換フィルタ−膜、誘電体反射膜などを用いて発色光をコントロ−ルする事も可能である。
【0142】
また、素子の光取り出し方向に関しては、ボトムエミッション構成(基板側から光を取り出す構成)および、トップエミッション(基板の反対側から光を取り出す構成)のいずれも可能である。
【0143】
なお、作成した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコ−ン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバ−し、適当な封止樹脂により素子自体をパッケ−ジングすることもできる。
【0144】
本発明に係る有機発光素子は画像表示装置の画素として用いられても良いし、あるいは照明光源として用いられても良い。画像表示装置は本発明に係る有機発光素子である画素とその発光強度を制御するために有機発光素子と接続するトランジスタとを有しても良い。
【0145】
画像表示装置はこのような画素を複数有しても良い。照明光源は白色発光する光源でも単色(例えば赤、青、緑のいずれかの色)を発光する光源でも良い。照明光源は複数の異なる色を混色させて白色を発光する光源でも良い。その場合本発明に係る有機発光素子はそのうちの一色を発光するものであってもよい。
【実施例】
【0146】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0147】
(合成例)
実施例1乃至6で使用する化合物1乃至13の合成例を以下に示す。
【0148】
【化23】

【0149】
<化合物1の合成例>
100mlナスフラスコにN,N’−ジフェニルベンジジン4.88g(14.5mmol)、2−ヨ−ド−9,9−ジメチルフルオレン6.40g(20mmol)、炭酸カリウム4.00g、銅粉3.0g、オルトジクロロベンゼン30mlを仕込み、冷却管をつけて、20時間還流撹拌を続けた。反応液を冷却後、濾過し、減圧化でオルトジクロロベンゼンを濃縮除去した後、メタノ−ルを加えて粗製結晶を析出させて濾取した。
【0150】
得られた粗製結晶をシリカゲルカラムを用いてトルエン/ヘキサン混合溶液で精製することにより、化合物1の白色結晶7.32g(収率70%)が得られた。
【0151】
<化合物2の合成例>
【0152】
【化24】

【0153】
1)中間体化合物2−1の合成
(3−Bromo−phenyl)−(9,9−dimethyl−fluoren−2−yl)−phenyl−amine(化合物2−1)は、
(9,9−Dimethyl−fluoren−2−yl)−phenyl−amineと3−Bromoiodobenzeneを原料として用いUllmann反応により製造できる。
【0154】
2)化合物2の合成
300ml三ツ口フラスコを用意した。その中にジボレ−トビフェニレン中間体2−21.8g(4.4mmol)を入れた。更に(3−Bromo−phenyl)−(9,9−dimethyl−fluoren−2−yl)−phenyl−amine[1−1]4.3g(9.7mmol)を入れた。更にトルエン100mlおよびエタノ−ル50mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸カルシウム12g/水50mlの水溶液を滴下した。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.25g(0.22mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後70度に昇温し9時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘキサン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、化合物2(白色結晶)1.4g(収率74%)を得た。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である872.4を確認した。
【0155】
<化合物3の合成例>
【0156】
【化25】

【0157】
(1)中間体3−1の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
5−ブロモアセナフチレン:14.5g(62.8mmol)
ジフェニルイソベンゾフラン:17.1g(63.3mmol)
キシレン:200ml
次に、反応溶液を溶媒であるキシレンが還流する温度で加熱しながら5時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去した。次に、無水トリフルオロ酢酸26mlとクロロホルム260mlとを加えた後、反応溶液を還流させながら1時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却した後、溶媒を減圧留去することで残渣を得た。次に、この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(展開溶媒:トルエン/ヘプタン=1/3)で精製することにより、中間体3−1である4−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテンを黄色固体として16g得た。
【0158】
(2)化合物3の合成
反応容器を窒素雰囲気にしてから、以下の試薬、溶媒を仕込んだ。
4−ブロモ−7,12−ジフェニルベンゾ[k]フルオランテン:0.7g(1.45mmol)
2−(フルオランテン−3−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボロラン:0.48g(1.45mmol)
トルエン:100ml
エタノ−ル:50ml)
次に、炭酸セシウム0.95g(2.90mmol)を蒸留水15mlに溶解させた水溶液を反応溶液中に加えた後、反応溶液を50℃に加熱し30分攪拌した。
【0159】
さらにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.17g(0.145mmol)を加えた後、反応溶液を90℃に加熱したシリコ−ンオイルバス上で加熱しながら5時間攪拌した。次に、反応溶液を室温まで冷却した後、水、トルエン、酢酸エチルを加え、有機層を分離した。また水層についてさらにトルエン、酢酸エチルの混合溶媒で2回溶媒抽出を行い、有機層をはじめに分離した有機層に追加した。次に、集めた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層の溶媒を減圧留去することで残渣を得た。次に、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ−(展開溶媒:トルエン/ヘプタン=1/3)で精製することで結晶を得た。次に、得られた結晶を120℃で真空乾燥し、さらに昇華精製を行うことによって、化合物3を淡黄色固体として0.6g得た。
【0160】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のMである604.7を確認した。
【0161】
化合物3を含む濃度1x10−5mol/lのトルエン溶液のPLスペクトルを、日立製F−4500を用いて励起波長350nmで測定したところ、451nm強度を有する青色発光スペクトルを観測した。(図6のL3)
<化合物4の合成例>
【0162】
【化26】

【0163】
(1)中間体4−3の合成
200ml三ツ口フラスコに、中間体4−1、1.0g(2.51mmol)、中間体4−2、1.0g(2.51mmol)、炭酸ナトリウム、5.0g、トルエン50ml、エタノ−ル10ml及び水50mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、57.8mgを添加した。80度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、中間体4−3(黄白色結晶)0.927g(収率68%)を得た。
【0164】
(2)化合物4の合成
200ml三ツ口フラスコに、中間体4−3、0.924g(1.70mmol)、中間体4−4、0.957g(3.40mmol)、ナトリウムtertブトキシド0.65g(6.80mmol)、及びキシレン100mlを入れた。そして、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、トリtertブチルフォスフィン34.4mg(0.17mmol)、次いでパラジウムジベンジリデンアセトン48.9mg(0.085mmol)を添加した。125度に昇温し3時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(ヘプタン+トルエン混合展開溶媒)で精製し、化合物4(黄白色結晶)0.920g(収率72.7%)を得た。
質量分析法により、この化合物のMである743.5を確認した。また、DSC示差走査熱量分析法により、融点323℃を確認した。
化合物4を含む濃度1x10−5mol/lのトルエン溶液のPLスペクトルを、日立製F−4500を用いて励起波長350nmで測定したところ、443nmに最大強度を有する青色発光スペクトルを観測した。(図6のL4)
<化合物5の合成例>
【0165】
【化27】

【0166】
300ml三ツ口フラスコに、2−ヨ−ド−9,9−ジメチルフルオレン[中間体5−1]5.8g(18.1mmol)およびジエチルエ−テル80mlを入れ、窒素雰囲気中、−78度で撹拌下、n−ブチルリチウム(15%ヘキサン溶液)11.7ml(18.1mmol)を滴下した。室温まで昇温し1時間撹拌した後、−20度に冷却しフェナントロリン[8B]0.81g(4.51mmol)のトルエン100ml分散液を滴下した。室温で12時間撹拌後、水を加え有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(ヘキサン+クロロホルム混合展開溶媒)で精製し、化合物5(白色結晶)2.04g(収率80%)を得た。
【0167】
<化合物6の合成例>
(1)中間体6−1の合成
【0168】
【化28】

【0169】
8−ブロモ−3−クロロベンゼン[c]フェナンスレン 260mg(0.76mmol)、フェニルボロン酸 97mg(0.80mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) 53mg(0.046mmol)をトルエン4ml、エタノ−ル1ml、炭酸ナトリウム水溶液(20w%溶液)2ml中に入れ、90℃で4時間攪拌した。冷却後、水100mlを加えトルエンで抽出を行い、水100mlx2回で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶液をろ過し、ろ液を濃縮したものを、カラムクロマトグラフィ−(クロロホルム:ヘプタン=1:9)にて精製後、メタノ−ルで洗浄を行い白色固体中間体6−1を180mg(収率:69%)得た。
【0170】
(2)中間体6−2の合成
【0171】
【化29】

【0172】
次に、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0) 48mg(0.053mmol)、トリシクロへキシルホスフィン 37mg(0.13mmol)を1,4−ジオキサン5ml中に入れ、室温で15分攪拌した後、中間体6−1 180mg(0.53mmol)、ビスピナコラトジボロン 0.20g(0.79mmol)、酢酸カリウム 77mg(0.79mmol)、を加え95℃で3時間攪拌した。冷却後、水100mlを加えトルエンで抽出を行い、水100mlx2回で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、この溶液をろ過し、ろ液を濃縮した。これを、カラムクロマトグラフィ−(クロロホルム:ヘプタン=1:1)にて精製後、メタノ−ルで洗浄し、白色固体中間体6−2を68mg(収率:30%)得た。
【0173】
(3)中間体6−3の合成
【0174】
【化30】

【0175】
次に、中間体6−ブロモナフタレン−2−オ−ル 3.0g(13mmol)、(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)ボロン酸 3.3g(14mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) 0.31g(0.27mmol)をトルエン100ml、エタノ−ル50ml、炭酸ナトリウム水溶液(20w%溶液)50ml中に入れ、76℃で24時間攪拌した。冷却後、クロロホルムで抽出を行った。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶液をカラムクロマトグラフィ−(クロロホルム)にて粗精製を行った。これを、ヘプタンで洗浄を行い薄い茶色固体中間体6−3を2.7g(収率:60%)得た。
【0176】
(4)中間体6−4の合成
【0177】
【化31】

【0178】
次に、中間体6−3 0.30g(0.89mmol)をピリジン3mlに溶解させ0℃にした後、無水トリフルオロメタンスルホン酸0.36ml(2.1mmol)をゆっくり滴下した。反応溶液の温度を徐々に室温に上げながら2時間攪拌した。水、トルエンを加え、トルエンで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(トルエン:ヘプタン=1:2)で精製し、中間体6−4を0.23g(収率56%)得た。
【0179】
(5)化合物6の合成
【0180】
【化32】

【0181】
次に、中間体6−2 68mg(0.16mmol)、中間体6−4 70mg(0.15mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) 17mg(0.015mmol)をトルエン2ml、エタノ−ル1ml、炭酸ナトリウム水溶液(20w%溶液)1ml中に入れ、90℃で2時間攪拌した。冷却後、トルエンで抽出を行い、水100mlx2回で洗浄した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶液をろ過し、ろ液を濃縮したものを、カラムクロマトグラフィ−(クロロホルム:ヘプタン=1:4)にて精製後、メタノ−ルで洗浄を行い白色固体 化合物6を68mg(収率:69%)得た。
【0182】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
H NMR(CDCl,500MHz) σ(ppm):9.26(t,2H,J=9.5Hz),8.41(S1H),8.33(S1H),8.19(S1H),8.14(d,1H,J=8.5Hz),8.04−8.11(m,5H),7.90(d,2H,J=8.5Hz),7.86(d,1H,J=8.0Hz),7.83(s,2H),7.72−7.80(m,3H),7.64(d,2H,J=8.0Hz),7.55−7.61(m,3H),7.47−7.51(m,2H),7.34−7.40(m,2H),1.60(s,6H).
【0183】
<化合物7の合成例>
以下に示すスキ−ムに従い、合成した。
【0184】
【化33】

【0185】
(1)中間体7−2の合成
100ml三ツ口フラスコに、中間体7−1、0.900g(3.57mmol)、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、1.389g(3.56mmol)、塩化亜鉛、0.486(3.57mmol)及びクロロホルム60mlを入れ、室温下、3時間攪拌した。反応後、水100mlを加え、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、中間体7−2(白色結晶)0.963g(収率96%)を得た。
【0186】
(2)中間体7−3の合成
100ml三ツ口フラスコに、中間体7−2、0.900g(3.43mmol)、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル、188mg(0.343mmol)、4,4,5,5,−テトラメチル−1,3,2,−ジオキサボロラン、0.99ml(6.85mmol)、トルエン、30mlおよびトリエチルアミン、5mlを入れ、窒素雰囲気中、90度に昇温し、6時間攪拌した。反応後、水50mlを加え、反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、中間体7−3(白色結晶)1.10g(収率84.7%)を得た。
【0187】
(3)中間体7−5の合成
100ml三ツ口フラスコに、a−4、0.624g(2.80mmol)、中間体7−5、1.10g(2.91mmol)、トルエン20mlおよびエタノ−ル10mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸ナトリウム10g/水20mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.161mgを添加した。77度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、中間体7−5(白色結晶)0.94g(収率85%)を得た。
【0188】
(4)中間体7−6の合成
200ml三ツ口フラスコに、中間体7−5、0.94g(2.38mmol)及び無水ピリジン50mlを入れ、窒素雰囲気中、氷冷で攪拌下、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(TfO)、0.56ml(4.47mmol)をゆっくり滴下し、1時間攪拌後、反応溶液を室温で2時間攪拌した。反応後、反応溶液に水50ml加え、有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、中間体7−6(白色結晶)1.09g(収率87%)を得た。
【0189】
(5)化合物7の合成
100ml三ツ口フラスコに、中間体7−6、0.50g(0.95mmol)、中間体7−7、0.180g(1.04mmol)、炭酸ナトリウム、1.06g(10.0mmol)、トルエン30ml、エタノ−ル10ml及び水20mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、57.8mgを添加した。80度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物7(黄白色結晶)0.360g(収率75%)を得た。
質量分析法により、例化合物7のM+である504を確認した。
また、HNMR測定により、化合物7の構造を確認した。
H NMR(CDCl,400MHz) σ(ppm):9.01(d,1H),8.95(d,1H),8.93−8.87(m,1H),8.24−7.92(m,12H),7.84(d,1H),7.79−7.77(m,2H), 7.74(d,2H),7.62−7.59(m,2H),7.55−7.48(m,4H)
【0190】
<化合物8の合成例>
以下に示すスキ−ムに従い、合成した。
【0191】
【化34】

【0192】
100ml三ツ口フラスコに、中間体7−6、0.50g(0.95mmol)、中間体8−1、0.248g(1.04mmol)、炭酸ナトリウム、1.06g(10.0mmol)、トルエン30ml、エタノ−ル10ml及び水20mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、57.8mgを添加した。80度に昇温し、5時間攪拌した。反応後有機層をトルエンで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(トルエン、ヘプタン混合、展開溶媒)で精製し、化合物8(白黄色結晶)0.423g(収率78%)を得た。
【0193】
質量分析法により、化合物8のM+である570を確認した。
【0194】
また、HNMR測定により、化合物8の構造を確認した。
H NMR(CDCl,600MHz) σ(ppm):9.01(d,1H),8.96(d,1H),8.88−8.94(m,2H),8.25(S1H),8.23(d,1H),8.19(d,1H),8.15(s,2H),8.12(d,1H),8.07(T1H),8.06(d,1H),8.02(d,1H),7.93(dd,1H),7.87(T1H),7.85(S1H),7.83(dd,1H),7.78−7.81(m,4H),7.50(d,1H),7.35−7.40(m,2H),1.61(s,6H).
【0195】
<化合物9の合成例>
以下に説明する方法により例示化合物1−1を製造した。なお、2,7−(Bpin)ピレンはChemical Communication、2005年、2172−2174ペ−ジに記載の方法に従って合成した。
【0196】
【化35】

【0197】
窒素雰囲気下、以下の化合物をトルエン(50ml)、エタノ−ル(10ml)の混合溶媒に溶解させ、さらに炭酸ナトリウム 1.45g(13.7mmol)を蒸留水7mlに溶解させた水溶液を加え、90℃に加熱したシリコ−ンオイルバス上で5時間加熱攪拌した。
7−tert−ブチル−1−ブロモピレン 2.03g(6.02mmol)
2,7−(Bpin)ピレン 1.24g(2.74mmol)
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPhCl) 0.192g(0.274mmol)
室温まで冷却後、析出した固体をろ過し、さらに水、メタノ−ルで洗浄した。得られた固体を真空乾燥した後、クロロベンゼンに加熱溶解させて熱ろ過を行い、不溶物を取り除いた。さらに、得られたろ液から再結晶を行い、白色結晶である化合物9を1.13g(収率58%)得た。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである714.3を確認した。
【0198】
<化合物10の合成例>
【0199】
【化36】

【0200】
窒素雰囲気下、以下の化合物をトルエン(80ml)、エタノ−ル(40ml)の混合溶媒に溶解させ、さらに10wt%炭酸ナトリウム水溶液(40ml)を加え、系中に酸素を除くためにアルゴンでバブリングをおこなったのち、20時間還流させた。
2−(7−tert−ブチルピレン−1−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボラン 1.70g(4.40mmol)
2,7−ジブロフェナンスレン 724mg(2.16mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 80.8mg(0.070mmol)
室温に戻したのち、クロロホルムで抽出をおこない、硫酸マグネシウムで乾燥させた。残留するパラジウムを除くために、富士シリシア製重金属除去用シリカ(SH type)を加え、しばらく撹拌したのち、硫酸マグネシウムと一緒にろ別した。有機層を濃縮して、クル−ド 1.65gを得た後、クロロベンゼンで再結晶をおこない、白色の粉末である化合物10を0.94g(収率63%)を得た。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである690.2を確認した。
【0201】
<化合物11の合成例>
【0202】
【化37】

【0203】
窒素雰囲気下、以下の化合物をトルエン(80ml)、エタノ−ル(40ml)の混合溶媒に溶解させ、さらに10wt%炭酸ナトリウム水溶液(40ml)を加え、系中に酸素を除くためにアルゴンでバブリングをおこなったのち、20時間還流させた。
2−(7−tert−ブチルピレン−1−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボラン 1.41g(3.67mmol)
2,6−ジブロモナフタレン 508mg(1.78mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 85mg(0.081mmol)
室温に戻したのち、クロロホルムで抽出をおこない、硫酸マグネシウムで乾燥させた。残留するパラジウムを除くために、富士シリシア製重金属除去用シリカ(SH type)を加え、しばらく撹拌したのち、硫酸マグネシウムと一緒にろ別した。有機層を濃縮して、クル−ド 0.90gを得た後、クロロベンゼンで再結晶をおこない、白色の粉末である化合物11を0.88g(収率63%)を得た。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである639.9を確認した。
【0204】
<化合物12の合成例>
【0205】
【化38】

【0206】
窒素雰囲気下、以下の化合物をトルエン(80ml)、エタノ−ル(40ml)の混合溶媒に溶解させ、さらに10wt%炭酸ナトリウム水溶液(40ml)を加え、系中に酸素を除くためにアルゴンでバブリングをおこなったのち、16.5時間還流させた。
中間体12−1 1.00g(2.15mmol)
中間体12−2 0.89g(2.11mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 296.9mg(0.257mmol)
室温に戻したのち、クロロホルムで抽出をおこない、硫酸マグネシウムで乾燥させた。残留するパラジウムを除くために、富士シリシア製重金属除去用シリカ(SH type)を加え、しばらく撹拌したのち、硫酸マグネシウムと一緒にろ別した。有機層を濃縮して、クル−度1.46gを得た後、アセトンで分散し、極性の高い不純物を除いた。トルエンで再結晶し、メタノ−ルに分散して白色の粉末である化合物12を0.83g(収率66%)を得た。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである586.3を確認した。
【0207】
<化合物13の合成例>
【0208】
【化39】

【0209】
窒素雰囲気下、以下の化合物をトルエン(80ml)、エタノ−ル(40ml)の混合溶媒に溶解させ、さらに10wt%炭酸ナトリウム水溶液(40ml)を加え、系中に酸素を除くためにアルゴンでバブリングをおこなったのち、15時間還流させた。
2−(7−tert−ブチルピレン−1−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]ジオキサボラン 3.2g(8.33mmol)
中間体12−2 3.2g(7.95mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム 189mg(0.154mmol)
室温に戻したのち、クロロホルムで抽出をおこない、硫酸マグネシウムで乾燥させた。残留するパラジウムを除くために、富士シリシア製重金属除去用シリカ(SH type)を加え、しばらく撹拌したのち、硫酸マグネシウムと一緒にろ別した。有機層を濃縮して、アセトン、メタノ−ルの順に分散し、極性の高い不純物を除いた。トルエンで再結晶し、シクロヘキサンに分散して白色の粉末である化合物13を2.49g(収率66%)を得た。
MALDI−TOF MSによりこの化合物のMである510.2を確認した。
【0210】
また、以下に示す比較例で使用した化合物の化学式を示す。
【0211】
【化40】

【0212】
次に、これらの実施例及び比較例で使用した化合物のうち、化合物3、化合物4、化合物6乃至17について、HOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−を表1に示す。各化合物について、薄膜を各々真空蒸着によりスライドガラス上へ薄膜を作成し、それぞれを大気下光電子分光装置(装置名AC−1)でHOMOエネルギ−を測定した。またさらに、可視光吸収スペクトルの測定(装置名U−3010)から、エネルギ−ギャップを測定し、LUMOエネルギ−を算出した。
【0213】
【表1】

【0214】
また、これらの実施例及び比較例で使用した化合物のうち、化合物6乃至17について、励起最低三重項エネルギ−と芳香族炭化水素同士の単結合における露出表面積の最小値を表2に示す。化合物6と化合物13は、各化合物について、薄膜を各々真空蒸着によりスライドガラス上へ薄膜を作成し、励起最低三重項エネルギ−を測定した。化合物7乃至12、化合物15乃至17は、各化合物と三重項増感剤である化合物18を同時蒸着して、スライドガラス上へ薄膜を作成し、励起最低三重項エネルギ−を測定した。三重項増感剤の濃度は10wt%で、膜厚は100nmであった。各励起最低三重項エネルギ−は、蛍光光度計(装置名F4500)にて測定を行った。
【0215】
【化41】

【0216】
化合物14についての励起最低三重項エネルギ−は、以下の計算方法を用いて励起最低三重項(吸収)励起エネルギ−の計算値を求め、式2から、薄膜状態の励起最低三重項エネルギ−の測定値を推定した値である。
【0217】
1)構造最適化
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3LYP
基底関数:def2−SV(P)
ソフトウェア:TURBOMOLE
2)励起最低三重項(吸収)励起エネルギ−
時間依存密度汎関数法(TDDFT)
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3LYP
基底関数:def2−SV(P)
ソフトウェア:TURBOMOLE
ソフトウェア:TURBOMOLE:
TURBOMOLE:
R.Ahlrichs,M.Baer,M.Haeser,H.Horn,and C.Koelmel
Electronic structure calculations on workstation computers:the program system TURBOMOLE Chem.Phys.LetT162:165(1989)
【0218】
化合物3乃至17について、芳香族炭化水素同士の単結合における露出表面積の最小値は、以下の計算方法を用いて計算した。
【0219】
1)初期構造(配座異性体の最適化構造の中で最安定構造探索)
分子力場計算法(MM3)
ソフトウェア:Cache
2)励起最低三重項状態の構造最適化
密度汎関数法(DFT)
汎関数:B3LYP
基底関数:def2−SV(P)
ソフトウェア:TURBOMOLE
3)各芳香族炭化水素同士の単結合における露出表面積及びその最小値
proximity=3.0Å
probe radius=1.7Å
近似法:geodesic dome近似法
【0220】
【表2】

【0221】
(実施例1)
基板としてのガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて130nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコ−ル(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。
ホ−ル注入層材料として前記化合物1を用いて、濃度が0.1wt%となるようにクロロホルム溶液を調整した。
この溶液を上記のITO電極上に滴下し、最初に500RPMの回転で10秒、次に1000RPMの回転で1分間スピンコ−トを行い膜形成した。この後10分間、80℃の真空オ−ブンで乾燥し、薄膜中の溶剤を完全に除去した。形成されたホ−ル注入層の厚みは11nmであった。
【0222】
次にホ−ル輸送層として前記化合物2を、真空蒸着法を用いて15nmの膜厚で成膜した。
【0223】
次に発光層として、ホスト材料として前記化合物6と、電子とラップ性青蛍光材料として前記化合物3を、それぞれ別のボ−トから同時蒸着して形成した。発光材料の濃度は5wt%で、膜厚は30nmであった。
【0224】
次にホ−ルブロック層として前記化合物7を、真空蒸着法を用いて10nmの膜厚で成膜した。
更に電子輸送層として、前記化合物5を真空蒸着した。電子輸送層の膜厚は30nmであった。
【0225】
上記有機物層の蒸着時の真空度は7.0×10−5Pa以下、成膜速度は0.08nm/sec以上0.10nm/sec以下の条件であった。ただし、発光層はホスト材料およびド−パント材料の両者を合わせた蒸着速度である。
【0226】
次に、フッ化リチウム(LiF)を先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ0.5nm形成し、更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け電子注入電極(陰極)とする有機発光素子を作成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は、フッ化リチウムは0.05nm/sec、アルミニウムは1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下の条件で成膜した。
得られた有機発光素子は、水分の吸着が起こらないように、露点−70度以下の窒素雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着材で封止した。なお、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシ−ト(有機EL用水分ゲッタ−シ−ト、ダイニック株式会社製)を封入した。
【0227】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5.6Vの電圧を印加した。その結果発光輝度3508cd/m2、発光効率7.89cd/A、CIExy色度(0.17、0.29)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0228】
さらに、この素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは143時間であり、耐久性能は良好であった。
【0229】
表1より、化合物3と化合物6のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物3)|−|LUMO(化合物6)|>0.15eV
|HOMO(化合物6)|<|HOMO(化合物3)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物3によって電子のみをトラップしている。
【0230】
また、表1より、化合物6と化合物7のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物6)|<|HOMO(化合物7)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0231】
また、表2より、化合物6と化合物7の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物6)−T1(化合物7)>0.1eV
を満たしている。
【0232】
さらに、化合物6と化合物7は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこの炭化水素化合物は前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。
【0233】
また、
表2より、化合物6と化合物7は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0234】
(実施例2)
実施例1において、ホ−ルブロック層として、化合物7の代わりに化合物9を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0235】
本実施例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度2151cd/m2、発光効率6.69cd/A、CIExy色度(0.20、0.33)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0236】
さらに、本実施例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは237時間であり、耐久性能は良好であった。
【0237】
表1より、化合物6と化合物9のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物6)|<|HOMO(化合物9)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0238】
また、表2より、化合物6と化合物9の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物6)−T1(化合物9)> 0.1eV
を満たしている。
【0239】
さらに、化合物6と化合物9は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。
【0240】
また、
表2より、化合物6と化合物9は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0241】
(実施例3)
実施例1において、発光層ホスト材料として、化合物6の代わりに化合物8を使用し、
ホ−ルブロック層として、化合物7の代わりに化合物10を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0242】
本実施例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度5176cd/m2、発光効率7.89cd/A、CIExy色度(0.15、0.16)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0243】
さらに、本実施例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは378時間であり、耐久性能は良好であった。
【0244】
表1より、化合物3と化合物8のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物3)|−|LUMO(化合物8)|>0.15eV
|HOMO(化合物8)|<|HOMO(化合物3)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物3によって電子のみをトラップしている。
【0245】
表1より、化合物8と化合物10のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物8)|<|HOMO(化合物10)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0246】
また、表2より、化合物8と化合物10の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物8)−T1(化合物10)> 0.1eV
を満たしている。
【0247】
さらに、化合物8と化合物10は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。
【0248】
また、
表2より、化合物8と化合物10は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0249】
(実施例4)
実施例3において、ホ−ルブロック層として、化合物10の代わりに化合物11を使用した以外は、実施例3と同様の方法により素子を作製した。
【0250】
本実施例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度4468cd/m2、発光効率7.75cd/A、CIExy色度(0.15、0.26)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0251】
さらに、本実施例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは411時間であり、耐久性能は良好であった。
【0252】
表1より、化合物8と化合物11のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物8)|<|HOMO(化合物11)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0253】
また、表2より、化合物8と化合物11の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物8)−T1(化合物11)> 0.1eV
を満たしている。
【0254】
さらに、化合物8と化合物11は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。
【0255】
また、
表2より、化合物8と化合物11は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0256】
(比較例1)
実施例1において、発光層ホスト材料として、化合物6の代わりに化合物14を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0257】
本比較例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度3293cd/m2、発光効率6.13cd/A、CIExy色度(0.16、0.27)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0258】
さらに、本比較例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは23時間であり、実施例1乃至4と比較して耐久性能は劣った。
【0259】
表1より、化合物3と化合物14のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物3)|−|LUMO(化合物14)|>0.15eV
|HOMO(化合物14)|<|HOMO(化合物3)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物3によって電子のみをトラップしている。
【0260】
表1より、化合物14と化合物7のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物14)|<|HOMO(化合物7)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0261】
また、表2より、化合物14と化合物7の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(Host)−T1(HBL)>0.1eV
を満たしていない。
【0262】
さらに、化合物14は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながら前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されてはいない。また、
表2より、化合物14は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【0263】
(比較例2)
実施例1において、発光層ホスト材料として、化合物6の代わりに化合物15を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0264】
本比較例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度200cd/m2、発光効率6.37cd/A、CIExy色度(0.16、0.20)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0265】
さらに、本比較例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは39時間であり、実施例1乃至4と比較して耐久性能は劣った。
【0266】
表1より、化合物3と化合物15のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物3)|−|LUMO(化合物15)|<0.15eV
|HOMO(化合物15)|=|HOMO(化合物3)|
となっており、発光層は、青蛍光材料 化合物3によって電子のみを効果的にトラップした素子構成になっていない。
【0267】
表1より、化合物15と化合物7のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物15)|<|HOMO(化合物7)|
を満たし、電子をわずかながらトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0268】
また、表2より、化合物15と化合物7の励起最低三重項エネルギ−は、
T1(化合物15)−T1(化合物7)>0.1eV
を満たしている。
【0269】
化合物15は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながら前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されてはいない。また、
表2より、化合物15は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【0270】
(比較例3)
実施例1において、ホ−ルブロック材料として、化合物7の代わりに化合物16を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0271】
本比較例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度3056cd/m2、発光効率8.52cd/A、CIExy色度(0.16、0.28)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0272】
さらに、本比較例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは69時間であり、実施例1乃至4と比較して耐久性能は劣った。
【0273】
表1より、化合物6と化合物16のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物6)|<|HOMO(化合物16)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0274】
また、表2より、化合物16と化合物6の励起最低三重項エネルギ−は、
T1(化合物6)−T1(化合物16)>0.1eV
を満たしている。
【0275】
化合物16は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながら前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されてはいない。また、
表2より、化合物16は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【0276】
(比較例4)
実施例1において、ホ−ルブロック材料として、化合物7の代わりに化合物17を使用した以外は、実施例1と同様の方法により素子を作製した。
【0277】
本比較例の素子は、5.6Vの印加電圧をかけた時に、発光輝度1109cd/m2、発光効率5.46cd/A、CIExy色度(0.16、0.22)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0278】
さらに、本比較例の素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは70時間であり、実施例1乃至4と比較して耐久性能は劣った。
【0279】
表1より、化合物6と化合物17のHOMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物6)|<|HOMO(化合物17)|
を満たし、電子のみをトラップする発光層の陰極側の隣接層は、ホ−ルをブロックしている。
【0280】
また、表2より、化合物6と化合物17の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(Host)−T1(HBL)>0.1eV
を満たしていない。
【0281】
化合物17は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながら前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されてはいない。ただし、
表2より、化合物17は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【0282】
(実施例5)
基板としてのガラス基板上に、陽極としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて130nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコ−ル(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。
【0283】
ホ−ル注入層材料として前記化合物1を用いて、濃度が0.1wt%となるようにクロロホルム溶液を調整した。
【0284】
この溶液を上記のITO電極上に滴下し、最初に500RPMの回転で10秒、次に1000RPMの回転で1分間スピンコ−トを行い膜形成した。この後10分間、80℃の真空オ−ブンで乾燥し、薄膜中の溶剤を完全に除去した。形成されたホ−ル注入層の厚みは11nmであった。
【0285】
次に電子ブロック層として前記化合物12を、真空蒸着法を用いて15nmの膜厚で成膜した。
【0286】
次に発光層として、ホスト材料として前記化合物7と、ホ−ルのみをトラップする青蛍光材料として前記化合物4をそれぞれ別のボ−トから同時蒸着して形成した。発光材料の濃度は10wt%で、膜厚は30nmであった。
【0287】
更に電子輸送層として、前記化合物5を真空蒸着した。電子輸送層の膜厚は30nmであった。
【0288】
上記有機物層の蒸着時の真空度は7.0×10−5Pa以下、成膜速度は0.08nm/sec以上0.10nm/sec以下の条件であった。ただし、発光層はホスト材料およびド−パント材料の両者を合わせた蒸着速度である。
【0289】
次に、フッ化リチウム(LiF)を先ほどの有機層の上に、真空蒸着法により厚さ0.5nm形成し、更に真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム膜を設け電子注入電極(陰極)とする有機発光素子を作成した。蒸着時の真空度は1.0×10−4Pa、成膜速度は、フッ化リチウムは0.05nm/sec、アルミニウムは1.0nm/sec以上1.2nm/sec以下の条件で成膜した。
【0290】
得られた有機発光素子は、水分の吸着が起こらないように、露点−70度以下の窒素雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、エポキシ系接着材で封止した。なお、保護ガラスの接着面側には掘り込みを入れ、水分吸着用のシ−ト(有機EL用水分ゲッタ−シ−ト、ダイニック株式会社製)を封入した。
【0291】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5Vの電圧を印加した。その結果発光輝度2110cd/m2、発光効率2.40cd/A、CIExy色度(0.15、0.20)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0292】
さらに、この素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは11時間であり、耐久性能は良好であった。
【0293】
表1より、化合物4と化合物7のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物7)|−|HOMO(化合物4)|>0.15eV
|LUMO(化合物4)|<|LUMO(化合物7)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物4によってホ−ルのみをトラップしている。
【0294】
また、表1より、化合物7と化合物12のLUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物12)|<|LUMO(化合物7)|
を満たし、ホ−ルのみをトラップする発光層の陽極側の隣接層は、電子をブロックしている。
【0295】
また、表2より、化合物7と化合物12の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物7)−T1(化合物12)>0.1eV
を満たしている。
【0296】
さらに、化合物7と化合物12は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこれら炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。また、
表2より、化合物7と化合物12は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0297】
(実施例6)
実施例5において、電子ブロック層として、化合物12の代わりに化合物13を使用した以外は、実施例5と同様の方法により素子を作製した。
【0298】
本実施例の素子に、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、5Vの電圧を印加した。その結果発光輝度1472cd/m2、発光効率1.77cd/A、CIExy色度(0.15、0.23)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0299】
さらに、この素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは17時間であり、耐久性能は良好であった。
【0300】
表1より、化合物7と化合物13のLUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物13)|<|LUMO(化合物7)|
を満たし、ホ−ルのみをトラップする発光層の陽極側の隣接層は、電子をブロックしている。
【0301】
また、表2より、化合物7と化合物12の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(化合物7)−T1(化合物13)>0.1eV
を満たしている。
【0302】
さらに、化合物7と化合物13は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。加えてこれら炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されている。また、
表2より、化合物7と化合物13は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87より大きい。
【0303】
(比較例5)
実施例5において、発光層ホスト材料として、化合物7の代わりに化合物15を使用した以外は、実施例5と同様の方法により素子を作製した。
【0304】
本実施例の素子に、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、8Vの電圧を印加した。その結果発光輝度545cd/m2、発光効率1.89cd/A、CIExy色度(0.15、0.19)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0305】
さらに、この素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは6時間であり、実施例5及び実施例6と比較して耐久性能は劣った。
【0306】
表1より、化合物4と化合物15のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物15)|−|HOMO(化合物4)|>0.15eV
|LUMO(化合物4)|<|LUMO(化合物15)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物4によってホ−ルのみをトラップしている。
【0307】
また、表1より、化合物15と化合物12のLUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物12)|<|LUMO(化合物15)|
を満たし、ホ−ルのみをトラップする発光層の陽極側の隣接層は、電子をブロックしている。
【0308】
また、表2より、化合物15と化合物12の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(Host)−T1(EBL)>0.1eV
を満たしていない。
【0309】
さらに、化合物15は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながらこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されていない。また、
表2より、化合物15は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【0310】
(比較例6)
実施例6において、発光層ホスト材料として、化合物7の代わりに化合物15を使用した以外は、実施例6と同様の方法により素子を作製した。
【0311】
本実施例の素子に、ITO電極(陽極)を正極、アルミニウム電極(陰極)を負極にして、8Vの電圧を印加した。その結果発光輝度565cd/m2、発光効率2.37cd/A、CIExy色度(0.15、0.19)の、青蛍光ド−パント材料に由来する青色の発光が観測された。
【0312】
さらに、この素子に電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加したところ、初期の50%の発光輝度になるのは7時間であり、実施例5及び実施例6と比較して耐久性能はは劣った。
【0313】
表1より、化合物4と化合物15のHOMOエネルギ−、LUMOエネルギ−は、
|HOMO(化合物15)|−|HOMO(化合物4)|>0.15eV
|LUMO(化合物4)|<|LUMO(化合物15)|
を満たし、発光層は、青蛍光材料 化合物4によってホ−ルのみをトラップしている。
【0314】
また、表1より、化合物15と化合物12のLUMOエネルギ−は、
|LUMO(化合物13)|<|LUMO(化合物15)|
を満たし、ホ−ルのみをトラップする発光層の陽極側の隣接層は、電子をブロックしている。
【0315】
また、表2より、化合物15と化合物13の励起最低三重項エネルギ−T1は、
T1(Host)−T1(EBL)>0.1eV
を満たしていない。
【0316】
さらに、化合物15は、アルキル基で置換されてもよい一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物である。しかしながらこの炭化水素化合物は、前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、一般式[1]又は[2]のみで表されていない。また、
表2より、化合物15は、前記芳香族炭化水素同士の前記単結合における露出表面積の最小値が87以下である。
【符号の説明】
【0317】
1 基板
2 陽極
3 発光層
4 陰極
5 ホ−ル輸送層
6 ホ−ルブロック層
7 電子ブロック層
8 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、ホスト材料と電子トラップ性の青色蛍光ド−パント材料を有する発光層と、
前記発光層に隣接したホ−ルブロック層を少なくとも有する有機発光素子において、
前記ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Dopant)が、
|LUMO(Dopant)|−|LUMO(Host)|>0.15eV
であり、
前記ホスト材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Dopant)が、
|HOMO(Host)|<|HOMO(Dopant)|
であり、
前記ホスト材料の励起最低三重項エネルギ−T1(Host)と、前記ホ−ルブロック層の励起最低三重項エネルギ−T1(HBL)が
T1(Host)−T1(HBL)>0.1eV
であり、
前記ホスト材料と前記ホ−ルブロック層の材料は互いに異なる炭化水素化合物であり、前記炭化水素化合物は無置換あるいはアルキル基で置換される一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物であり、
前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、下記一般式[1]又は[2]のみで表される
ことを特徴とする有機発光素子。
【化1】


【化2】


(ただし、式[1]及び[2]中の太線は前記単結合を示す。)
【請求項2】
請求項1における前記ホスト材料及び前記ホ−ルブロック層の材料が、前記各単結合の露出表面積の最小値が87より大きいことを特徴とする請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記電子トラップ性の青色蛍光ド−パント材料が、フルオランテン骨格を部分構造に有する炭化水素化合物であることを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
陽極および陰極からなる1対の電極と、該1対の電極間に配置された、ホスト材料とホ−ルトラップ性の青色蛍光ド−パント材料を有する発光層と、
前記発光層に隣接した電子ブロック層を少なくとも有する有機発光素子において、
前記ホスト材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最低空軌道エネルギ−LUMO(Dopant)が、
|LUMO(Host)|>|LUMO(Dopant)|
であり、
前記ホスト材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Host)と、前記青色蛍光ド−パント材料の最高被占軌道エネルギ−HOMO(Dopant)が、
|HOMO(Host)|−|HOMO(Dopant)|>0.15eV
であり、
前記ホスト材料の励起最低三重項エネルギ−T1(Host)と、前記電子ブロック層の励起最低三重項エネルギ−T1(EBL)が
T1(Host)−T1(EBL)> 0.1eV
であり、
前記ホスト材料と前記電子ブロック層の材料は互いに異なる炭化水素化合物であり、前記炭化水素化合物は無置換あるいはアルキル基で置換される一価以上の芳香族炭化水素を複数個有し、前記芳香族炭化水素同士の単結合のみから構成される炭化水素化合物であり、
前記単結合及び前記単結合で結ばれる前記芳香族炭化水素の部分構造が、下記一般式[1]又は[2]のみで表される
ことを特徴とする有機発光素子。
【化3】


【化4】


(ただし、式[1]及び[2]中の太線は前記単結合を示す。)
【請求項5】
請求項2における前記ホスト材料及び前記電子ブロック層の材料が、前記各単結合の露出表面積の最小値が87より大きいことを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記ホスト材料の励起最低三重項エネルギ−T1(Host)が2.5eV以下であることを特徴とする請求項1及至5に記載の有機発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−216640(P2011−216640A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82817(P2010−82817)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【特許番号】特許第4781474号(P4781474)
【特許公報発行日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】