説明

有機発光素子

【課題】より長寿命の有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極2と陰極4との間に挟持された発光層3を含む有機化合物層と、から構成され、発光層3が、ホストと、下記一般式[1]及び[2]で示される第1ドーパントと、第2ドーパントと、を有し、該ホストと、該各ドーパントとの間に特定されたエネルギー関係が満たされることを特徴とする、有機発光素子11。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極との間に、発光性の有機化合物を含む薄膜を配置させてなる電子素子である。ここで各電極から正孔及び電子を注入することにより、発光性の有機化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放射する。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることが挙げられる。このことから、有機発光素子は、広汎な用途への可能性が示唆されている。
【0004】
しかしながら、現状ではさらなる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等の耐久性の面で未だ多くの問題がある。
【0005】
これらを踏まえて、主にホストからなる発光層に蛍光分子(ドーパント)を微量添加する技術が従来から知られている。このように、発光層内にドーパントを添加する技術は有機発光素子の発光効率の改善や、発光寿命の改善において極めて重要であり、様々な改良・提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、発光層に少なくとも2種類のドーパント(発光材料)を含み、少なくとも1つがホストよりもLUMOエネルギーが低いドーパントを有する有機発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−171828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発光素子を連続駆動する際に問題になる発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光材料そのもの又はその周辺材料の環境変化に関連したものと想定される。
【0009】
ところで、特許文献1に開示されている有機発光素子において、2種類の発光材料のHOMOは、いずれもホストのHOMOの絶対値より小さい、つまりイオン化ポテンシャルが小さい。このため、2種類の発光材料は、ホストよりもホールを補足しやすくなる。このようにホストよりもホールを捕捉しやすい発光材料は、イオン化しやすく周辺の材料と反応する可能性がある。このため、ホールを捕捉しやすい発光材料がホストよりも早く劣化する可能性がある。そして発光材料が1つでも劣化すると、それだけで発光色が変化してしまい、さらにキャリアバランスが変化してしまうという問題が生じる。従って、有機発光素子において、寿命の観点から更なる特性の向上が必要となる。
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、より長寿命の有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
該発光層が、ホストと、第1ドーパントと、第2ドーパントと、を有し、
該ホストと、該第1ドーパントと、該第2ドーパントとの間に下記(1)乃至(7)の関係が全て満たされることを特徴とする。
(1)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのエネルギーギャップ(EgH、EgD1、EgD2)において、EgH>EgD1かつEgH>EgD2であること
(2)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのLUMOエネルギー(ELUMO-H、ELUMO-D1及びELUMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|ELUMO-H|<|ELUMO-D1|<|ELUMO-D2
(3)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのHOMOエネルギー(EHOMO-H、EHOMO-D1及びEHOMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|EHOMO-H|<|EHOMO-D1|≦|EHOMO-D2
(4)ホストが炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物であること
(5)第1ドーパントが下記一般式[1]で示される化合物であること
【0012】
【化1】


(式[1]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R1は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R1及びR2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(6)第2ドーパントが下記一般式[2]で示される化合物であること
【0013】
【化2】


(式[2]において、R3及びR4は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R3は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R3及びR4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(7)第1ドーパントの発光層内の含有率(CD1(重量%))が第2ドーパントの発光層内の含有率(CD2(重量%))よりも大きい(CD1>CD2)こと
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連続駆動耐久性が良好な有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機発光素子を構成する発光層のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【図3】化合物B及び化合物Cのトルエン溶液中の発光スペクトルを示す図である。
【図4】実施例(実施例1)及び比較例(比較例1、比較例2)においてそれぞれ作製した有機発光素子の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成される。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の有機発光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。尚、図1において、(a)乃至(e)は、それぞれ第1乃至第5の実施形態に該当する。
【0019】
図1(a)の有機発光素子11は、基板1上に、陽極2、発光層3及び陰極4が順次設けられている。図1(a)の有機発光素子11は、発光層3が、ホール輸送能、電子輸送能及び発光性の性能を全て有する有機化合物で構成されている場合に有用である。また発光層3が、ホール輸送能、電子輸送能及び発光性の性能のいずれかの特性を有する有機化合物を混合して構成される場合においても有用である。
【0020】
図1(b)の有機発光素子12は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4が順次設けられている。図1(b)の有機発光素子12は、キャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、ホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した有機化合物を適宜組み合わせて用いることができる。このため、極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の有機化合物が使用できるので、発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3にキャリアあるいは励起子を有効に閉じこめて有機発光素子12の発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0021】
図1(c)の有機発光素子13は、図1(b)の有機発光素子12において、陽極2とホール注入層5との間にホール注入層7を挿入したものである。この有機発光素子13は、ホール注入層7を設けることにより、陽極2とホール輸送層5との間の密着性又はホールの注入性が改善されるので低電圧化に効果的である。
【0022】
図1(d)の有機発光素子14は、図1(c)の有機発光素子13において、ホール又は励起子(エキシトン)を陰極4側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層8)を、発光層3と電子輸送層6との間に挿入したものである。イオン化ポテンシャルやHOMOが非常に高い有機化合物をホール/エキシトンブロッキング層8の構成材料として用いることにより、有機発光素子14の発光効率が向上する。
【0023】
図1(e)の有機発光素子15は、図1(d)の有機発光素子14において、電子輸送層6と陰極4との間に電子注入層9を挿入したものである。この有機発光素子15は、電子注入層9を設けることにより、陰極4と電子輸送層6の密着性改善あるいは電子の注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0024】
ただし、図1の(a)乃至(e)はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層の界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、ホール輸送層5をHOMOが異なる2層から構成する等多様な層構成をとることができる。
【0025】
本発明の有機発光素子は、上述したように、様々な素子構成を採用することができるが、その構成の中には、発光層又は発光層として機能する層が含まれる。
【0026】
本発明の有機発光素子において、発光層とは電極間に配置される有機化合物層のうち発光機能を有する層をいう。ここで発光層は、発光機能を有する化合物のみで構成されていてもよいし、ホストとドーパント(ゲスト)とで構成されていてもよい。ここでホストとは、発光層に含まれる構成材料のうちの主成分、より具体的には、発光層内の含有量が50重量%以上である構成材料をいう。また本発明の有機発光素子には、発光層に2種類のドーパント(第1ドーパント、第2ドーパント)が含まれている。本発明において、2種対のドーパントの発光層内の総含有量は、50重量%以下である。また、濃度が高すぎると濃度消光による効率低下を引き起こす可能性があるため、2種対のドーパントの発光層内の総含有量は、より好ましくは20重量%以下である。
【0027】
図2は、本発明の有機発光素子を構成する発光層のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【0028】
図2のエネルギーダイアグラムには、下記(I)乃至(III)が示されている。
(I)ホストのLUMO(ELUMO-H)、HOMO(EHOMO-H)及びエネルギーギャップ(EgH
(II)第1ドーパントのLUMO(ELUMO-D1)、HOMO(EHOMO-D1)及びエネルギーギャップ(EgD1
(III)第2ドーパントのLUMO(ELUMO-D2)、HOMO(EHOMO-D2)及びエネルギーギャップ(EgD2
【0029】
ここで通常の分子の場合、HOMO及びLUMOは、負の値をとる。また本発明の有機発光素子において、ホスト及び2種類のドーパントのLUMO、HOMO、並びにエネルギーギャップについては、特定の関係を有していることを要する。この特定の関係については後述する。
【0030】
HOMOを測定する場合、具体的な測定方法としては、UPS(紫外光電子分光法)や大気下光電子分光法、ケルビン法、サイクリックボルタンメトリーによる酸化電位測定等が挙げられる。好ましくは、大気下光電子分光法である。
【0031】
LUMOは、予めエネルギーギャップを測定し、その測定値と上記HOMOとから算出する方法又はサイクリックボルタンメトリーによる還元電位の測定から求めることができる。ここで、HOMOとエネルギーギャップ(の測定値)から算出する方法とは、下記に示される数式からLUMOを算出する方法である。
[LUMO]=[HOMO]+[エネルギーギャップ]
【0032】
ここで、有機発光素子内に注入された正孔や電子がホッピング又はトラップされる準位は、有機発光素子の構成材料である有機化合物のHOMOやLUMOから形成される。つまり、HOMOは正孔が伝わる価電子準位を形成し、LUMOは電子が伝わる伝導準位を形成する。有機発光素子を構成する有機化合物層が単一分子から成る層においては、価電子準位や伝導準位はその単一分子のHOMO及びLUMOによって形成される。ただし、分子間の相互作用を受けてそのエネルギー準位が変動することがある。一方、有機発光素子を構成する有機化合物層が2つ以上の成分から成る層においては、価電子準位や伝導準位は、同一の分子間や異種の分子間の相互作用を受け、それぞれの分子の価電子準位や伝導準位を形成する。
【0033】
本発明の有機発光素子において、発光層は、上述したように、ホストと、第1ドーパントと、第2ドーパントと、を有する。尚、ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントの詳細や具体例については、後述する。
【0034】
本発明において、ホストと、第1ドーパントと、第2ドーパントとの間に下記(1)乃至(7)の関係が全て満たされている。
(1)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのエネルギーギャップ(EgH、EgD1、EgD2)において、EgH>EgD1かつEgH>EgD2であること
(2)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのLUMOエネルギー(ELUMO-H、ELUMO-D1及びELUMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|ELUMO-H|<|ELUMO-D1|<|ELUMO-D2
(3)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのHOMOエネルギー(EHOMO-H、EHOMO-D1及びEHOMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|EHOMO-H|<|EHOMO-D1|≦|EHOMO-D2
(4)ホストが炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物であること
(5)第1ドーパントが下記一般式[1]で示される化合物であること
【0035】
【化3】


(式[1]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R1は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R1及びR2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(6)第2ドーパントが下記一般式[2]で示される化合物であること
【0036】
【化4】


(式[2]において、R3及びR4は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R3は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R3及びR4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(7)第1ドーパントの発光層内の含有率(CD1(重量%))が第2ドーパントの発光層内の含有率(CD2(重量%))よりも大きい(CD1>CD2)こと
【0037】
以下、上記要件(1)乃至(7)について、詳細に説明する。まず要件(1)について説明する。有機発光素子の通電による発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのものの劣化に関連したものも原因の一つである。発光材料は励起と失活とを繰り返すことにより劣化すると考えられる。本発明の有機発光素子では、要件(1)を満たしていることでホストが有する励起エネルギーを2種類のドーパント(第1ドーパント、第2ドーパント)へエネルギー移動することができる。また本発明の有機発光素子では、第1及び第2ドーパントの両方が発光する場合、第1ドーパント及び第2ドーパントの吸収スペクトルの吸収端は近い方が好ましい。さらに、色純度の高い発光を得るという観点から、第1ドーパント及び第2ドーパントの発光スペクトル波長の差が30NM以下であることが好ましい。
【0038】
次に、要件(2)について説明する。本発明の有機発光素子において、要件(2)を満たすことにより、発光層に注入された電子は、第1ドーパント及び第2ドーパントに捕捉されるので発光しやすくなる。
【0039】
次に、要件(3)について説明する。本発明の有機発光素子において、要件(3)を満たすことにより、陽極又はホール輸送層より発光層に注入されたホールは、第1ドーパント及び第2ドーパントに捕捉されにくくなる。これにより、発光層に注入された正孔は、ホストの価電子準位を伝わることになる。よって、第1ドーパント及び第2ドーパントの濃度によって発光層内の正孔移動度や発光層への正孔注入性が変化しにくくなる。ところで、ドーパントに正孔が捕捉されるとドーパント自体はカチオンラジカル状態になる。一般にカチオンラジカルは不安定であるため、ドーパントに正孔を捕捉させないことは発光材料劣化の抑制につながる。このようにドーパントの正孔捕捉の阻止という観点でも要件(3)は必須の要件であるといえる。
【0040】
次に、要件(4)について説明する。本発明の有機発光素子では、上記要件(1)を満たすために、ホストとして、エネルギーギャップの大きい化合物、具体的には、炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物を用いる必要がある。より具体的には、ピレン骨格、フルオレン骨格、フルオランテン骨格、ベンゾフルオランテン骨格、テトラセン骨格、トリフェニレン骨格、クリセン骨格等から構成される縮合多環芳香族化合物であることが好ましい。
【0041】
尚、上述した縮合多環芳香族化合物においては、基本骨格(縮合多環芳香族骨格)に、置換あるいは無置換の炭化水素式芳香環基及びアルキル基を有していてもよい。
【0042】
炭化水素式芳香環基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、アセナフチレニル基、インダセニル基、ビフェニレル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ベンゾフルオレニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基、トリフェニレニル基、フルオランテニル基、ピセニル基、ペンタセニル基、ペリレニル基、ベンゾフルオランテニル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0043】
アルキル基の具体例としては、メチル基、ターシャリーブチル基等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0044】
上記炭化水素式芳香環基がさらに有してもよい置換基として、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、アセナフチレニル基、インダセニル基、ビフェニレル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ベンゾフルオレニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基、トリフェニレニル基、フルオランテニル基、ピセニル基、ペンタセニル基、ペリレニル基、ベンゾフルオランテニル基等の炭化水素式芳香環基、メチル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0045】
ホストの具体例を以下に示す。但し、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0046】
【化5】

【0047】
【化6】

【0048】
ホストは、発光層内においてキャリアを輸送する役割を有しているが、その際、ホストは酸化還元を繰り返している。ここで炭化水素のみから構成される化合物は、酸化還元反応を繰り返しても材料自体が劣化しにくい傾向にあるある。このため、ホストを炭化水素のみからなる化合物、具体的には、炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物にすることで、連続駆動における素子の寿命が改善することができる。本発明者らの検討によれば、ホストとして使用される炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物のうち、ピレン骨格を有する化合物は、特に、電子輸送性に優れている。つまり電子移動度が大きくホール移動度はそれに比べて低いことがわかっている。一方、通電による発光劣化の原因のもう1つとして、発光層内においてホール電流と電子電流の均衡(キャリアバランス)が取れていないことが考えられる。発光層へ注入されるキャリアの量及び発光層内で輸送されるキャリアの量において、両キャリア間で差が大きいと、キャリアが再結合する領域は、発光層とキャリア輸送層との界面近傍に偏り、発光領域が局所的になる可能性がある。その場合、長時間の通電により、発光層とキャリア輸送層との界面付近にキャリア溜まりを生じ、発光中心材料又はその周辺分子の分子構造的な材料劣化等が起こりやすくなり、発光劣化につながる可能性が高い。このため発光層内の電子をドーパントに捕捉させて電子移動度を低下させる必要がある。こうすることで発光層内の電子と正孔とのキャリアバランスの偏りが解消され、キャリア再結合領域を拡大することができる。
【0049】
次に、要件(5)について説明する。まず一般式[1]中に示されている置換基について説明する。
【0050】
1及びR2で表されるアルキル基として、メチル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
1及びR2で表されるアラルキル基として、ベンジル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
1及びR2で表されるアリール基として、フェニル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
上記アルキル基、アラルキル基又及びアリール基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
一般式[1]のような炭化水素のみから構成される有機化合物は、π軌道が分子の外側に大きく広がっており、発光層内の相互作用によってできる伝導準位や価電子準位を制御しやすい。また一般式[1]の化合物は5員環構造による電子吸引性により電子トラップ性を保有する。
【0055】
第1ドーパントの具体例を以下に示す。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
【化7】

【0057】
次に、要件(6)について説明する。まず一般式[2]中に示されている置換基について説明する。
【0058】
3及びR4で表されるアルキル基として、メチル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
3及びR4で表されるアラルキル基として、ベンジル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
3及びR4で表されるアリール基として、フェニル基等があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】
上記アルキル基、アラルキル基又及びアリール基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
一般式[2]のような炭化水素のみから構成される有機化合物は、π軌道が分子の外側に大きく広がっており、発光層内の相互作用によってできる伝導準位や価電子準位を制御しやすい。また一般式[2]の化合物は5員環構造による電子吸引性により電子トラップ性を保有する。
【0063】
第2ドーパントの具体例を以下に示す。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
【化8】

【0065】
次に、要件(7)について説明する。要件(7)を満たすことにより、第2ドーパントのLUMOにより形成される伝導準位は、第1ドーパントのLUMOにより形成される伝導準位よりも分子間相互作用の影響が大きくなる。よって第1ドーパントの伝導準位は、自身のLUMOよりも下がりやすくなり、第1ドーパントと第2ドーパントとの伝導準位を近くすることができる。仮に、発光層内の第1ドーパント及び第2ドーパントの伝導準位が異なると、発光層中に注入された電子をトラップする準位が異なり、どちらか一方の準位に電子がトラップされやすくなる。これにより第1ドーパント又は第2ドーパントのどちらかにキャリア溜まりが局在しやすくなる。局在したキャリア溜まりは発光には関与しないばかりか、その分子や周辺材料の分子構造的な材料劣化を引き起こす可能性がある。ここで発光層に含まれる第1ドーパント又は第2ドーパントのいずれかが先に劣化すると、劣化した材料が劣化する前に形成していた伝導準位が変化し、キャリアバランスが悪化する。これは連続駆動時の発光効率の低下につながる。よって、第1ドーパントの添加量を第2ドーパントの添加量よりも多くすることで二つの伝導準位の差を小さくしておいて、キャリア注入による負荷をなるべく均等にする必要がある。こうすることでキャリアバランスの悪化を抑制することができる。また、第1ドーパント及び第2ドーパントの価電子準位が分子間相互作用によりそれぞれのHOMOよりも大きくなりホストの価電子準位よりも高くなると発光層中の正孔がドーパント材料に捕捉されるやすくなる。よって、EHOMO-HとEHOMO-D1との差、及びEHOMO-HとEHOMO-D2との差は大きい方が好ましい。
【0066】
以上を考慮すると、第1ドーパントは、第2ドーパントの伝導準位に近くなるように濃度を調整する必要があるが、発光層内にホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントが存在しているので、膜の特性が改善され濃度消光による効率の低下を防ぐことができる。このためドーパントを高濃度で使用する際に生じ得る発光効率の低下を抑制することができる。
【0067】
さらに、第1ドーパントの発光波長が第2ドーパントの発光波長よりも短かい場合は、CD1>CD2とすることにより両ドーパントの発光色を近づけることができる。このため、有機発光素子の色度の改善が可能である。
【0068】
上記のような効果を得るためには、発光層内に含まれる第1ドーパント及び第2ドーパントの添加量をそれぞれ20重量%以下にすることが好ましい。加えて発光効率の点から濃度消光が起こりにくい濃度範囲、具体的には、0.5重量%及至10重量%にすることが特に好ましい。一方、20重量%を超えると、ドーパントの濃度が高すぎるためドーパントに捕捉された電子が発光層内に存在するホストを介することなく発光層内を移動してしまい、本発明の効果を奏しない恐れがある。
【0069】
本発明の有機発光素子を構成する発光層3は、電子トラップ性のドーパントを含むことより、各ドーパントのLUMOをホストのLUMOよりも低くすることができる。また発光層中に注入される電子は、ドーパント材にトラップされるため、ドーパントに捕捉された電子を消費できるように発光層中に注入されるホールの量を増やす方が好ましい。一方、隣接する有機化合物層のエネルギー障壁を小さくするために、HOMOが高いホストを用いる必要がある。しかし、LUMOが低いドーパントではHOMOが高いホストと電荷移動錯体又は励起錯体を形成しやすい。特に、窒素原子や酸素原子のように不対電子対を持つ化合物をホストとして用いると、電子トラップ性のドーパントと電荷移動錯体又は励起錯体を形成しやすい。よって、本発明の有機発光素子において、窒素原子や酸素原子のような不対電子対を持たない炭化水素のみからなる芳香族環化合物を使用する。これにより、優れた電荷輸送性が得られるとともに、発光層内や隣接する構成材料と電荷移動錯体又は励起錯体を形成することを抑制することができる。即ち、発光層に含まれるホストは、炭素及び水素からなる芳香族環化合物から構成され、窒素含有複素環芳香族や窒素含有の電子吸引基(例えば−CN基、−NO2基、アミド基、イミド基)を含まない化合物であるのが望ましい。これにより、ホストと、ホストよりもLUMOが小さく、かつ電子トラップ性を有する第1ドーパント及び第2ドーパントとの間に発光効率の低い電荷移動錯体又は励起錯体が発生することを抑制することができる。
【0070】
本発明の有機発光素子を構成する層のうち、発光層以外の層の構成材料として、公知の電荷注入・輸送性材料(ホール注入・輸送性材料、電子注入・輸送性材料)を使用することができる。
【0071】
本発明の有機発光素子で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。
【0072】
また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を用いて発色光をコントロールする事も可能である。また、基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を作成し、それに接続して素子を作成することも可能である。
【0073】
本発明の有機発光素子は、単数で用いてもよく、あるいは複数で用いてもよい。有機発光素子が複数の場合、例えば、パッシブ駆動あるいはアクティブマトリクス駆動で発光させても良い。また有機発光素子が複数の場合、それぞれの発光色は単色あるいは異色でもよい。有機発光素子の発光色がそれぞれ異なる場合、フルカラー発光が可能である。また本発明の有機発光素子は基板側から光を取り出すことができるいわゆるボトムエミッション構造の素子でもよく、あるいは基板側とは反対の側から光を取り出すいわゆるトップエミッション構造の素子でもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(ホスト、ドーパント)
後述する実施例、比較例において、使用したホスト及びドーパントを以下に示す。
【0076】
【化9】

【0077】
上記化合物A、化合物B及び化合物CのHOMO、LUMO及びエネルギーギャップ(Eg)を下記に示す方法で評価した。評価結果を表1に示す。
(1)HOMO
真空蒸着法により形成した薄膜について、大気下光電子分光装置(理研計器(株)社製 AC−2)を用いて測定した。
(2)エネルギーギャップ
化合物A(ホスト)については、薄膜状のサンプルについて、紫外−可視光吸収スペクトルを測定し、このスペクトルが立ち上がり始める波長から算出した。
【0078】
化合物B(第2ドーパント)及び化合物C(第1ドーパント)については、トルエン希薄溶液中の吸収スペクトルを測定し、このスペクトルの吸収端から求めた。
(3)LUMO
上記HOMO及びエネルギーギャップの測定結果に基づいて、以下に示す式より求めた。
[LUMO]=[HOMO]+[エネルギーギャップ]
【0079】
【表1】

【0080】
また、ドーパントである化合物B及び化合物Cをそれぞれ薄膜状にしたサンプルの発光波長を測定した。結果を下記表2に示す。尚、図3は、化合物B及び化合物Cのトルエン溶液中の発光スペクトルを示す図である。
【0081】
【表2】

【0082】
(実施例1)
図1(C)に示される有機発光素子を、以下に示す方法で作製した。
【0083】
まずスパッタ法により、ガラス基板(基板1)上に、ITOを成膜し陽極2を形成した。このとき陽極2の膜厚を130nmとした。次に、陽極2が形成されている基板を、アセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄した。以上の方法で処理した基板を透明導電性支持基板として、以下の工程で使用した。
【0084】
次に、下記に示される化合物1(ホール注入性材料)と、クロロホルムとを混合して、濃度0.1重量%のクロロホルム溶液を調製した。
【0085】
【化10】

【0086】
次に、このクロロホルム溶液を陽極2上に滴下し、最初に、回転数500rpmで10秒間、次に、回転数1000rpmで1分間スピンコートを行い、薄膜を形成した。次に、80℃の真空オーブンで10分間乾燥させて薄膜中の溶剤を完全に除去することでホール注入層7を形成した。ここでホール注入層7の膜厚は15nmであった。
【0087】
次に、真空蒸着法により、ホール注入層7上に下記に示される化合物2(ホール輸送性材料)を成膜しホール輸送層5を形成した。このときホール輸送層5の膜厚を15nmとした。
【0088】
【化11】

【0089】
次に、真空蒸着法により、ホール輸送層5上に、化合物A(ホスト)と、化合物C(第1ドーパント)と、化合物B(第2ドーパント)とを、重量比で89:6:5となるように共蒸着して発光層3を形成した。このとき発光層3の膜厚を30nmとした。また成膜の際には、所望の組成の発光層3を得るため、各成分の蒸着速度を蒸着速度モニターで独立制御を行った。
【0090】
次に、真空蒸着法により、発光層3上に、2,9−ビス[2−(9,9’−ジメチルフルオレニル)]−1,10−フェナントロリンを成膜して電子輸送層6を形成した。このとき電子輸送層6の膜厚を30nmとした。
【0091】
次に、真空蒸着法により、電子輸送層6上に、フッ化リチウム(LiF)を成膜し、LiF膜を形成した。このときLiF膜の膜厚を0.5nmとした。次に、真空蒸着法により、LiF膜上に、アルミニウムを成膜しAl膜を形成した。このときAl膜の膜厚を100nmとした。尚、LiF膜及びAl膜は、電子注入電極(陰極)として機能する。
【0092】
次に、水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着剤で封止した。以上により、有機発光素子を得た。
【0093】
得られた素子について、輝度が2000cd/m2付近における発光効率を評価した。また電流密度を100mA/cm2に保ち電圧を印加した時の輝度半減時間を評価した。結果を表3に示す。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、発光層3を形成する際に、化合物A(ホスト)と、化合物C(第1ドーパント)とを、重量比で94:6となるように共蒸着したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で発光効率及び輝度半減時間を評価した。結果を表3に示す。
【0095】
(比較例2)
実施例1において、発光層3を形成する際に、化合物A(ホスト)と、化合物B(第2ドーパント)とを、重量比で95:5となるように共蒸着したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で発光効率及び輝度半減時間を評価した。結果を表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
表3より、実施例(実施例1)と比較例(比較例1、比較例2)とを比較すると、第1ドーパントである化合物Cと、第2ドーパントである化合物Bとがともに発光層3に含まれる有機発光素子(実施例1)は、他の有機発光素子と比べて寿命が改善された。図4は、実施例(実施例1)及び比較例(比較例1、比較例2)においてそれぞれ作製した有機発光素子の発光スペクトルを示す図である。尚、このスペクトルは、輝度2000cd/m2における発光スペクトルを示している。図4より、発光層内に第1ドーパントと第2ドーパントとを両方含有する実施例1の有機発光素子は、2種類のドーパント(化合物B、化合物C)がいずれも発光していることがわかる。
【0098】
以上のことから本発明の有機発光素子は、従来よりも長寿命である有機発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0099】
1:基板、2:陽極、3:発光層、4:陰極、5:ホール輸送層、6:電子輸送層、7:ホール注入層、8:ホール/エキシトンブロッキング層、9:電子注入層、11(12,13,14,15):有機発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
該発光層が、ホストと、第1ドーパントと、第2ドーパントと、を有し、
該ホストと、該第1ドーパントと、該第2ドーパントとの間に下記(1)乃至(7)の関係が全て満たされることを特徴とする、有機発光素子。
(1)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのエネルギーギャップ(EgH、EgD1、EgD2)において、EgH>EgD1かつEgH>EgD2であること
(2)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのLUMOエネルギー(ELUMO-H、ELUMO-D1及びELUMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|ELUMO-H|<|ELUMO-D1|<|ELUMO-D2
(3)ホスト、第1ドーパント及び第2ドーパントのHOMOエネルギー(EHOMO-H、EHOMO-D1及びEHOMO-D2)において、下記に示される関係を満たすこと
|EHOMO-H|<|EHOMO-D1|≦|EHOMO-D2
(4)ホストが炭化水素のみからなる縮合多環芳香族化合物であること
(5)第1ドーパントが下記一般式[1]で示される化合物であること
【化1】


(式[1]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R1は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R1及びR2は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(6)第2ドーパントが下記一般式[2]で示される化合物であること
【化2】


(式[2]において、R3及びR4は、それぞれ水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基又は置換あるいは無置換のアリール基である。各R3は、同じであってもよいし異なっていてもよい。各R4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。R3及びR4は、同じであってもよいし異なっていてもよい。)
(7)第1ドーパントの発光層内の含有率(CD1(重量%))が第2ドーパントの発光層内の含有率(CD2(重量%))よりも大きい(CD1>CD2)こと

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−238816(P2011−238816A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109854(P2010−109854)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】