説明

有機発光装置

【課題】中間電極層と有機化合物層との間の界面の密着性が良好な有機発光装置を提供する。
【解決手段】下部電極層11と上部電極層17と、下部電極層11と上部電極層17とに挟持され少なくとも第1有機化合物層12と、中間電極層(第1中間電極層13a)と、第2有機化合物層14と、よりなる積層体と、から構成され、第1有機化合物層12が少なくとも第1発光層を含み、該中間電極層が有機導電体を含み、第2有機化合物層14が少なくとも第2発光層を含むことを特徴とする、有機発光装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という場合がある。)の発光を利用した有機発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットディスプレイパネルの一つとして有機EL素子が搭載された有機ELディスプレイがあり、研究開発が盛んに進められている。特許文献1には、有機EL素子を縦方向に積層した有機発光装置として、無機化合物からなる透明導電層と複数の有機化合物層とを交互に積層して配置する構造が提案されている。また、特許文献2には、金属からなる内部電極と複数の有機化合物層とを交互に積層して配置する構造が提案されている。
【0003】
【特許文献1】米国特許5707745号明細書
【特許文献2】特表2007−533073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで無機導電体材料からなる無機導電層と有機化合物層とを交互に積層させる構成において、特に、有機化合物層と有機化合物層との間に設けられる無機導電層(以下、中間電極層という。)では、当該無機導電層とこの無機導電層に隣接する有機化合物層とでは、線膨張係数が概ね1〜2桁異なることが知られている。このように線膨張係数の異なる層を積層した場合、所定の層の成膜工程、成膜した層を部分除去するパターニング工程、又は成膜工程あるいはパターニング工程後の加熱工程において、中間電極層と有機化合物層との界面における密着性の経時変化が生じる。この経時変化は中間電極層と有機化合物層との線膨張係数の違いにより生じるものであるが、この経時変化により、かかる界面で剥がれが生じたり、発光装置の発光特性に影響を及ぼしたりする場合があった。
【0005】
本発明の目的は、中間電極層と有機化合物層との間の界面の密着性が良好な有機発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機発光装置は、下部電極層と上部電極層と、
該下部電極層と該上部電極層とに挟持され少なくとも第1有機化合物層と、中間電極層と、第2有機化合物層と、よりなる積層体と、から構成され、
該第1有機化合物層が少なくとも第1発光層を含み、
該中間電極層が有機導電体を含み、
該第2有機化合物層が少なくとも第2発光層を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中間電極層の熱膨張係数が有機化合物層と大きく変わらないため、中間電極層と有機化合物層との間の界面の密着性が良好な有機発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の有機発光装置は、下部電極層と上部電極層と、該下部電極層と該上部電極層とに挟持され少なくとも第1有機化合物層と、中間電極層と、第2有機化合物層と、よりなる積層体と、から構成される。
【0009】
ただし中間電極層は一層のみに限定されず複数層設けても構わない。中間電極層が複数層設けられる場合、中間電極層と中間電極層との間には別個の有機化合物層が設けられる。例えば、中間電極層が2層設けられる場合、下部電極層と上部電極層との間に挟持される積層体は、第1有機化合物層と、第1中間電極層と、第2有機化合物層と、第2中間電極層と、第3有機化合物層と、よりなる。
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。ただし本発明は後述する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の有機発光装置における第一の実施形態を示す断面図である。図1の有機発光装置1は、基板10上に、下部電極層11と、第1有機化合物層12と、第1中間電極層13aと、第2有機化合物層14と、第2中間電極層15aと、第3有機化合物層16と、上部電極層17と、よりなる積層体が形成されている。そして基板10上に形成される積層体の上面及び側面を覆うように保護層18が形成されている。図1の有機発光素子1は、下部電極層11と第1中間電極層13aとの間、第1中間電極層13aと第2中間電極層15aとの間、第2中間電極層15aと上部電極層17との間、のいずれかに電圧を印加する。こうすることで、一方の電極から注入されるホールと、もう一方の電極から注入される電子とが、有機化合物層(12,14,16)に含まれる発光層において再結合することにより光を発する。
【0012】
図1の有機発光装置1において、有機化合物層には発光層が含まれる。即ち、第1有機化合物層12には第1発光層が、第2有機化合物層14には第2発光層が、第3有機化合物層16には第3発光層が、それぞれ含まれる。ただし、有機化合物層の層構成は、発光層のみに限定されるものではない。発光層の他に必要に応じてホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等を設けてもよい。
【0013】
図1の有機発光装置1において、各電極層(11,13a,15a,17)は、1層で構成されていても複数の層で構成されていてもよい。ここで中間電極層(13a,15a)が1層で構成される場合、その中間電極層は上下に隣接する有機化合物層の共通電極となる。一方、中間電極層が複数の層で構成される場合は、例えば、導電性膜/絶縁性膜/導電性膜といったように多層構成とし、各有機化合物層を個別に駆動できるようにしてもよい。
【0014】
図1の有機発光装置1において、保護膜18は、外気にふくまれる水分、酸素等が各電極層(11,13a,15a,17)や各有機化合物層(12,14,16)へ進入するのを遮断するために設けられている。
【0015】
次に、本発明の有機発光装置を構成する構成部材について説明する。
【0016】
基板10は、基本的には、後述する基材からなるものである。ただし必要に応じてこの基材と、基材上に設けられるTFT回路と、このTFT回路の上方を覆い基板を平坦にする平坦化層と、からなるものを基板10として使用してもよい。ここで基材として、ガラス基板、Si基板等を使用することができる。
【0017】
下部電極層2及び上部電極層8の構成材料として、公知の電極材料を使用することができる。具体的には、Al、Ag等の金属導電膜、ITO、IZO等の透明導電膜、及び、それらを積層した積層膜を使用することができる。
【0018】
有機化合物層(12,14,16)の構成材料として、公知の電荷輸送材料(ホール注入・輸送材料、電子注入・輸送材料)及び発光材料を使用することができる。
【0019】
ホール注入・輸送材料として、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリフィリン誘導体及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子を使用することができる。
【0020】
電子注入・輸送材料として、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体を使用することができる。
【0021】
発光材料として、蛍光材料や燐光材料を使用することができる。アルミキノリノール錯体、ベリリウムキノリノール錯体、ヒドロキシフェニルオキサゾール、ヒドロキシフェニルチアゾール、アゾメチン金属錯体を使用することができる。
【0022】
中間電極層(13a,15a)は、有機導電体を含む層である。中間電極層に含まれる有機導電体として、導電性ポリマー、導電性オリゴマー、導電性モノマー、導電性コポリマーが挙げられる。中間電極層に含まれる有機導電体として、好ましくは、p型の導電体にもn型の導電体にもなり得る導電体である。このような導電体では、アニオンをドーピングすればp型導電体になり、カチオンをドーピングすればn型導電体になる。
【0023】
p型の導電体にもn型の導電体にもなり得る導電体の具体例として、例えば、チオフェンとキノキサリンとの交互共重合体が挙げられる。この交互共重合体は、過塩素酸イオン等のアニオンと反応させることによりp型導電体に変換できる。尚、この場合、アニオンはチオフェン部位と反応する。一方、テトラエチルアンモニウムイオン等のカチオンと反応させることによりn型導電体に変換できる。尚、この場合、カチオンはキノキサリン部位(特に、ピリジン環部位)と反応する。
【0024】
ところで有機導電体は溶媒に溶かした状態で使用することもできる。このときに使用される溶媒は、好ましくは、中間電極層に接触する有機化合物層に影響を与えない溶媒である。具体的には、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系であって、沸点が低い溶媒にする方が、中間電極層を成膜する時にこの中間電極層に接触する有機化合物層への影響が少ないので好ましい。また、炭化水素系溶媒に対する溶解性をよくするために、有機導電体に置換基を導入してもよい。例えば、チオフェン部位にヘキシル基等の炭化水素基を導入するのは効果的である。
【0025】
また、中間電極層(13a,15a)には、有機導電体の他に金属を含ませてもよい。この金属の具体例として、セシウム、リチウム、アルミニウム、銀、金等が挙げられる。
【0026】
保護膜9の構成材料として、外気からの水分、酸素等を遮断する材料が好ましい。具体的には、窒化酸化シリコン等が使用される。
【0027】
次に、本実施形態の有機発光装置の作製手順を説明する。
【0028】
下部電極層11及び上部電極層17は、スパッタリング法等の公知の方法にて形成することができる。尚、下部電極層11及び上部電極層17は、層を形成した後、公知の方法により所望の形状になるようにパターニングを行ってもよい。
【0029】
有機化合物層(12,14,16)は、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。
【0030】
中間電極層(13a,15a)は、塗布法等の湿式法、真空蒸着法等の乾式法のいずれかの方法で形成することができる。ここで中間電極層の形成方法は、中間導電層の構成材料である有機導電体の分子量によって適宜選択することができる。具体的には、分子量が数千以下なら真空蒸着法により成膜することができ、分子量が1万より高い場合は塗布法により成膜することができる。尚、成膜される中間電極層において、陽極側の界面は陰極として機能し、陰極側の界面は陽極として機能する。
【0031】
保護層18は、CVD法等の公知の方法により形成することができる。
【0032】
図2は、本発明の有機発光装置における第二の実施形態を示す断面図である。尚、以下の説明において、第一の実施形態と同じ事項については説明を省略することがある。
【0033】
図2の有機発光装置2は、基板10上に、下部電極層11と、第1有機化合物層12と、第1中間電極層13bと、第2有機化合物層14と、第2中間電極層15bと、第3有機化合物層16と、上部電極層17と、よりなる積層体が形成されている。そして基板10上に形成される積層体の上面及び側面を覆うように保護層18が形成されている。図2の有機発光素子2は、下部電極層11と第1中間電極層13bとの間、第1中間電極層13bと第2中間電極層15bとの間、第2中間電極層15bと上部電極層17との間、のいずれかに電圧を印加する。こうすることで、一方の電極から注入されるホールと、もう一方の電極から注入される電子とが、有機化合物層(12,14,16)に含まれる発光層において再結合することにより光を発する。
【0034】
図2の有機発光装置2は、中間電極層の上部電極側の界面の仕事関数と、中間電極層の下部電極側の界面の仕事関数と、がそれぞれ異なっている。具体的には、図2の有機発光装置2を構成する中間電極層(13b,15b)は、層を構成する有機導電体に無機化合物がドーピングされているため、上部電極側界面の仕事関数と、下部電極側界面の仕事関数と、をそれぞれ異なる値になるように調整されている。好ましくは、各界面の仕事関数が陽極又は陰極として望ましい仕事関数となるように調整する。これにより、有機化合物層(12,14,16)を形成する際に、ホール注入層や電子注入層の形成を省略することができる。
【0035】
図2の有機発光装置2において、中間電極層(13b,15b)の両界面の仕事関数を調整する方法として、好ましくは、中間電極層に金属を含ませる方法が挙げられる。この場合、中間電極層(13b,15b)に含まれる有機導電体は、好ましくは、中間電極層に含まれる金属に対して配位結合を形成する有機化合物である。具体的には、バソフェナントロリン(Bphen)、アセン類に窒素を導入した芳香族アミンが挙げられる。また、中間電極層に含まれる金属は、好ましくは、典型金属であり、具体的には、セシウム、リチウム、アルミニウム、銀、金等が挙げられる。
【0036】
図2の有機発光装置2において、中間電極層(13b,15b)の形成方法として、好ましくは、有機導電体と金属とを所定の重量比にて共蒸着する方法が挙げられる。ここで共蒸着により中間電極層となる薄膜を成膜する際は、有機導電体と金属との重量混合比を途中で変更する必要がある。重量混合比を途中で変更すれば、中間電極層の両界面の仕事関数を変えることができる。中間電極層の両界面の仕事関数は、陽極側界面においては5〜5.5の範囲で調整するのが好ましい。一方、陰極界面においては4〜4.5の範囲で調整するのが好ましい。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
図1に示される有機発光装置1を、以下の方法により作製した。
【0038】
支持体であるガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成することにより基板10を作製した。
【0039】
次に、基板10上に、スパッタリング法により、銀合金(AgPdCu)を成膜し銀合金膜を形成した。このとき銀合金膜の膜厚を100nmとした。次に、銀合金膜上に、スパッタリング法によりIZOを成膜してIZO膜を形成した。このときIZO膜の膜厚を30nmとした。尚、形成した銀合金膜及びIZO膜は陽極(下部電極層11)として機能する。次に、レーザー加工により不要な電極部分を除去し所定のパターニングを行った。
【0040】
次に、陽極上に、真空蒸着法により、第1有機化合物層12を形成した。具体的には、まず陽極上に下記に示される化合物Iを成膜し第1ホール輸送層を形成した。このとき第1ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、ホストである下記に示す化合物IIと、青色発光性化合物である下記に示す化合物IIIとを、重量混合比が80:20となるように共蒸着し第1発光層を形成した。このとき第1発光層の膜厚を35nmとした。次に、第1発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第1電子輸送層を形成した。このとき第1電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第1電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第1電子注入層を形成した。このとき第1電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第1有機化合物層12を形成した。
【0041】
【化1】

【0042】
次に、第1電子注入層上に、蒸着により、チオフェンとキノキサリンとの交互共重合体(n=5)を成膜し第1中間電極層13aを形成した。このとき第1中間電極層13aの膜厚を800nmとした。
【0043】
次に、第1中間電極層13a上に、真空蒸着法により、第2有機化合物層14を形成した。具体的には、まず第1中間電極層13a上に化合物Iを成膜し第2ホール輸送層を形成した。このとき第2ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、ホストであるアルミキノリノールと、緑色発光性化合物であるクマリンとを、重量混合比が99:1となるように共蒸着し第2発光層を形成した。このとき第2発光層の膜厚を40nmとした。次に、第2発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第2電子輸送層を形成した。このとき第2電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第2電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第2電子注入層を形成した。このとき第2電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第2有機化合物層14を形成した。
【0044】
次に、第2電子注入層上に、蒸着により、チオフェンとキノキサリンとの交互共重合体(n=5)を成膜し第2中間電極層15aを形成した。このとき第2中間電極層15aの膜厚を1000nmとした。
【0045】
次に、第2中間電極層15a上に、真空蒸着法により、第3有機化合物層16を形成した。具体的には、まず第2中間電極層15a上に化合物Iを成膜し第3ホール輸送層を形成した。このとき第3ホール輸送層の膜厚を100nmとした。次に、ホストであるアルミキノリノールと、赤色発光性化合物であるDCM[4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran]とを、共蒸着して第3発光層を形成した。このときアルミキノリノールとDCMとの重量混合比を99:1となるようにし、第3発光層の膜厚を30nmとした。次に、第3発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第3電子輸送層を形成した。このとき第3電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第3電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第3電子注入層を形成した。このとき第3電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第3有機化合物層16を形成した。
【0046】
次に、第3有機化合物層16上に、スパッタ法により、Agを成膜し上部電極層17を形成した。このとき上部電極層17の膜厚を10nmとした。次に、CVD法により、窒化酸化シリコンを上部電極層17上及び下部電極層11から上部電極層17まで形成されている積層体の側面を覆うように成膜し保護層18を形成した。このとき保護層18の膜厚を1000nmとした。以上により有機発光装置を得た。
【0047】
得られた有機発光装置について、以下の評価を行った。
【0048】
(1)初期評価
初期評価として、12Vの電圧を印加したときに点灯するかどうかを確認した。
【0049】
(2)耐久試験
上記初期評価を行った後、下記に示す耐久試験を行った。即ち、有機発光装置を下記(i)〜(iii)の環境下に順次さらした。
(i)−30℃(30分)
(ii)室温(5分)
(iii)80℃(30分)
上記(i)〜(iii)を1サイクルとし、これを100サイクル行った後、密着性の確認としてひねり試験を行った。
【0050】
具体的には、14.9mm径のプッシュブルゲージで49Nの力で有機発光装置を押圧してから5秒間押圧状態を保持した後、光学顕微鏡により有機発光装置の状態を観察した。観察の結果、有機発光装置に歪みや剥れは見られず、各層間の密着性が確認された。
【0051】
(3)線膨張係数の評価
また、各有機化合物層(12,14,16)、及び各中間電極層(13a,15a)に相当する薄膜を個別に成膜し各層の線膨張係数を評価した。具体的には、各層に相当する薄膜について干渉計を用いて線膨張係数を計測した。その結果、各層について線膨張係数が300〜700×10-7cm/cm・℃の範囲内にあることがわかった。このため中間電極層の線膨張係数が有機化合物層と大きく変わらないことがわかった。
【0052】
[実施例2]
図2に示される有機発光装置2を、以下の方法により作製した。
【0053】
支持体であるガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成することにより基板10を作製した。
【0054】
次に、基板10上に、スパッタリング法により、銀合金(AgPdCu)を成膜し銀合金膜を形成した。このとき銀合金膜の膜厚を100nmとした。次に、銀合金膜上に、スパッタリング法によりIZOを成膜してIZO膜を形成した。このときIZO膜の膜厚を30nmとした。尚、形成した銀合金膜及びIZO膜は陽極(下部電極層11)として機能する。次に、レーザー加工により不要な電極部分を除去し所定のパターニングを行った。
【0055】
次に、下部電極層11上に、真空蒸着法により、第1有機化合物層を形成した。具体的には、まず下部電極層11上に、化合物Iを成膜し第1ホール輸送層を形成した。このとき第1ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、第1ホール輸送層上に、ホストである化合物IIと青色発光性化合物である化合物IIIとを、重量混合比が80:20となるように共蒸着して第1発光層を形成した。このとき第1発光層の膜厚を35nmとした。以上により第1有機化合物層12を形成した。
【0056】
次に、第1発光層上に、真空蒸着法により、BphenとCs2CO3とを重量混合比が90:10となるように共蒸着して第1電極層を形成した。このとき第1電極層の膜厚を100nmとした。次に、第1電極層上に、真空蒸着法により、BphenとCs2CO3とを重量混合比が98:2となるように共蒸着して第2電極層を形成した。このとき第2電極層の膜厚を100nmとした。尚、第1電極層及び第2電極層は第1中間電極層13bとして機能する。また第1電極層と第1発光層との間の界面の仕事関数は4.5であり、第2電極層と後述する第2ホール輸送層との間の界面の仕事関数は5.5である。さらに第1電極層は陰極として機能し、第2電極層は陽極として機能する。
【0057】
次に、第1中間電極層13b上に、真空蒸着法により、第2有機化合物層を形成した。具体的には、まず第1中間電極層13b上に、化合物Iを成膜し第2ホール輸送層を形成した。このとき第2ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、第2ホール輸送層上に、ホストであるアルミキノリノールと緑色発光性化合物であるクマリンとを、重量混合比が99:1となるように共蒸着して第2発光層を形成した。このとき第2発光層の膜厚を40nmとした。以上により第2有機化合物層14を形成した。
【0058】
次に、第2発光層上に、真空蒸着法により、BphenとCs2CO3とを重量混合比が90:10となるように共蒸着して第3電極層を形成した。このとき第3電極層の膜厚を100nmとした。次に、第3電極層上に、真空蒸着法により、BphenとCs2CO3とを重量混合比が98:2となるように共蒸着して第4電極層を形成した。このとき第4電極層の膜厚を100nmとした。尚、第3電極層及び第4電極層は第2中間電極層15bとして機能する。また第3電極層と第2発光層との間の界面の仕事関数は4.5であり、第4電極層と後述する第3ホール輸送層との間の界面の仕事関数は5.5である。さらに第3電極層は陰極として機能し、第4電極層は陽極として機能する。
【0059】
次に、第2中間電極層15b上に、真空蒸着法により、第3有機化合物層を形成した。具体的には、まず第2中間電極層15b上に、化合物Iを成膜し第3ホール輸送層を形成した。このとき第3ホール輸送層の膜厚を100nmとした。次に、第3ホール輸送層上に、ホストであるアルミキノリノールと赤色発光性化合物であるDCMとを、重量混合比が99:1となるように共蒸着して第3発光層を形成した。このとき第3発光層の膜厚を30nmとした。次に、第3発光層上に、真空蒸着法により、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し電子輸送層を形成した。このとき電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、電子輸送層上に、真空蒸着法により、BphenとCs2CO3とを重量混合比が90:10となるように共蒸着して電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第3有機化合物層16を形成した。
【0060】
次に、電子注入層上に、スパッタ法により、Agを成膜して上部電極17を形成した。このとき上部電極層17の膜厚を10nmとした。次に、CVD法により、窒化酸化シリコンを上部電極層17上及び下部電極層11から上部電極層17まで形成されている積層体の側面を覆うように成膜し保護層18を形成した。このとき保護層18の膜厚を1000nmとした。以上により有機発光装置を得た。
【0061】
得られた有機発光装置について、実施例1と同様の方法で評価した。その結果、耐久試験において、有機発光装置に歪みや剥れは見られず、層間の密着性が確認された。また各層の線膨張係数は300〜700×10-7cm/cm・℃の範囲内にあるため、中間電極層の線膨張係数が有機化合物層と大きく変わらないことがわかった。
【0062】
[比較例1]
図3で示される有機発光装置3を、以下に示す方法で作製した。
【0063】
支持体であるガラス基板上に、低温ポリシリコンからなるTFT駆動回路を形成し、その上にアクリル樹脂からなる平坦化膜を形成することにより基板10を作製した。
【0064】
次に、基板10上に、スパッタリング法により、銀合金(AgPdCu)を成膜し銀合金膜を形成した。このとき銀合金膜の膜厚を100nmとした。次に、銀合金膜上に、スパッタリング法によりIZOを成膜してIZO膜を形成した。このときIZO膜の膜厚を30nmとした。尚、形成した銀合金膜及びIZO膜は陽極(下部電極層11)として機能する。次に、レーザー加工により不要な電極部分を除去し所定のパターニングを行った。
【0065】
次に、陽極上に、真空蒸着法により、第1有機化合物層12を形成した。具体的には、まず陽極上に下記に示される化合物Iを成膜し第1ホール輸送層を形成した。このとき第1ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、ホストである下記に示す化合物IIと、青色発光性化合物である化合物IIIとを、重量混合比が80:20となるように共蒸着し第1発光層を形成した。このとき第1発光層の膜厚を35nmとした。次に、第1発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第1電子輸送層を形成した。このとき第1電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第1電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第1電子注入層を形成した。このとき第1電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第1有機化合物層12を形成した。
【0066】
次に、第1電子注入層上に、スパッタ法により、IZOを成膜し第1中間電極層13cを形成した。このとき第1中間電極層13cの膜厚を70nmとした。
【0067】
次に、第1中間電極層13c上に、真空蒸着法により、第2有機化合物層14を形成した。具体的には、まず第1中間電極層13c上に化合物Iを成膜し第2ホール輸送層を形成した。このとき第2ホール輸送層の膜厚を50nmとした。次に、ホストであるアルミキノリノールと、緑色発光性化合物であるクマリンとを、重量混合比が99:1となるように共蒸着し第2発光層を形成した。このとき第2発光層の膜厚を40nmとした。次に、第2発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第2電子輸送層を形成した。このとき第2電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第2電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第2電子注入層を形成した。このとき第2電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第2有機化合物層14を形成した。
【0068】
次に、第2電子注入層上に、スパッタ法により、IZOを成膜し第2中間電極層15cを形成した。このとき第2中間電極層15cの膜厚を70nmとした。
【0069】
次に、第2中間電極層15c上に、真空蒸着法により、第3有機化合物層16を形成した。具体的には、まず第2中間電極層15c上に化合物Iを成膜し第3ホール輸送層を形成した。このとき第3ホール輸送層の膜厚を100nmとした。次に、ホストであるアルミキノリノールと、赤色発光性化合物であるDCMとを、重量混合比が99:1となるように共蒸着して第3発光層を形成した。このとき第3発光層の膜厚を30nmとした。次に、第3発光層上に、バソフェナントロリン(Bphen)を成膜し第3電子輸送層を形成した。このとき第3電子輸送層の膜厚を20nmとした。次に、第3電子輸送層上に、BphenとCs2CO3とを、重量混合比が90:10となるように共蒸着して第3電子注入層を形成した。このとき第3電子注入層の膜厚を20nmとした。以上により第3有機化合物層16を形成した。
【0070】
次に、第3有機化合物層16上に、スパッタ法により、Agを成膜し上部電極層17を形成した。このとき上部電極層17の膜厚を10nmとした。次に、CVD法により、窒化酸化シリコンを上部電極層17上及び下部電極層11から上部電極層17まで形成されている積層体の側面を覆うように成膜し保護層18を形成した。このとき保護層18の膜厚を1000nmとした。以上により有機発光装置を得た。
【0071】
得られた有機発光装置について、実施例1と同様の方法で評価した。その結果、耐久試験において、有機化合物層と中間電極層との間に剥れ箇所が数箇所発見された。また各層の線膨張係数は、各有機化合物層が300〜700×10-7cm/cm・℃の範囲内にあるのに対して、中間電極層(IZO電極層)が40〜50×10-7cm/cm・℃であることがわかった。この結果、有機化合物層に対して線膨張係数が一桁違う中間電極層が形成されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の有機発光装置における第一の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の有機発光装置における第二の実施形態を示す断面図である。
【図3】比較例1で作製した有機発光装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3 有機発光装置
10 基板
11 下部電極層(陽極)
12 第1有機化合物層
13a,13b,13c 第1中間電極層
14 第2有機化合物層
15a,15b,15c 第2中間電極層
16 第3有機化合物層
17 上部電極層
18 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層と上部電極層と、
該下部電極層と該上部電極層とに挟持され少なくとも第1有機化合物層と、中間電極層と、第2有機化合物層と、よりなる積層体と、から構成され、
該第1有機化合物層が少なくとも第1発光層を含み、
該中間電極層が有機導電体を含み、
該第2有機化合物層が少なくとも第2発光層を含むことを特徴とする、有機発光装置。
【請求項2】
前記中間電極層の上部電極側の界面の仕事関数と、前記中間電極層の下部電極側の界面の仕事関数と、がそれぞれ異なることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光装置。
【請求項3】
前記中間電極層がさらに金属を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−33984(P2010−33984A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197192(P2008−197192)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】