説明

有機繊維コードの改質方法

【課題】 高速度で均一に物性の改質を行うことができ、従って処理時における繊維の劣化を最小限に抑制することが可能であって、所望のコード特性を有する改質コードを確実にかつ効率良く得ることができる有機繊維コードの改質方法を提供する。
【解決手段】 有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法である。有機繊維コード10を接着剤にディップするディップ工程(A)と、ディップされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程(B)と、乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程(C)と、を含む。熱処理工程を、熱風発生機とセラミック板とを具備する遠赤外線処理炉を用いて、乾燥された有機繊維コードに対し遠赤外線を照射することにより行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードの改質方法(以下、単に「コード」および「改質方法」とも称する)に関し、詳しくは、有機繊維を撚糸してコードとなした有機繊維コードであって、タイヤ補強用等に用いられる有機繊維コードに対し、適切な物性およびゴムに対する接着性を付与するための改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを始めとするゴム物品補強用として用いられるポリエステルやポリアミド(ナイロン)等の有機繊維コードは、通常、ゴムとの接着を確保するためにレゾルシン・ホルマリン/ゴムラテックス(RFL)液等の接着剤液にディップした後、乾燥、熱処理を施すことにより改質されて、補強用コードとしての所望のコード性能を付与される。
【0003】
このコード改質のための乾燥、熱処理工程においては、従来、処理する繊維ごとに所望する物性に合うよう、適切な張力下で、熱風による高温下に有機繊維コードを一定時間暴露する方法が用いられていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱風を用いて改質を行う従来の方法では、熱媒体として熱伝導率の悪い空気を使用しており、また、繊維の改質加工、接着加工のために高温での熱処理加工が必要となっていた。そのため、(1)効率面から処理速度を上げることができず、生産性に制約を受け、また、これに伴い、処理時間の増大により繊維が劣化してしまう場合があること、(2)生産性を高めようとすると装置の巨大化を招き、スペース、コスト(設備投資・加工費・ディップコード)、切替え時のスクラップ(炉内滞留部分)量が増大すること等、種々の問題があった。従って、このような問題がなく、短時間で効率良くコードの改質を行うことができ、これにより、所望の性能を備えるコードを得ることができる改質技術が求められていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、高速度で均一に物性の改質を行うことができ、従って処理時における繊維の劣化を最小限に抑制することが可能であって、所望のコード特性を有する改質コードを確実にかつ効率良く得ることができる有機繊維コードの改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、このような高温下での熱処理加工の効率をより向上するためには、熱風に代えて、遠赤外線を利用する方法が有効であることを見出した。しかし、遠赤外線による加熱は、通常、セラミック板内に埋設された二クロム線等を供給電圧により加熱して、その伝熱により行うため、エネルギーコストが増大してしまうという問題がある。
【0007】
上記の観点から、本発明者はさらに検討した結果、熱処理炉内のコードの両側にセラミック板を配置して、さらに、従来手法である熱風を循環させる方法を適用することにより、セラミック板に直接電圧供給をしなくても、所定温度に加熱された熱風によりセラミック板が加熱されることで発生する遠赤外線を利用することができ、これにより、高速かつ高効率にて改質加工を行うことができ、熱処理時間の短縮により処理時における繊維の劣化を抑制することが可能となり、かつ、遠赤外線使用に伴うエネルギーコストの増大を抑制することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の有機繊維コードの改質方法は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、
前記有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを改質する熱処理工程と、を含み、前記熱処理工程を、熱風発生機とセラミック板とを具備する遠赤外線処理炉を用いて、乾燥された該有機繊維コードに対し遠赤外線を照射することにより行うことを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記ディップ工程において、ディップにより前記有機繊維コードに付着した接着剤を吸引して、該接着剤の付着量を一定量に調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の改質方法によれば、上記構成としたことにより、高速度でかつ均一にコードの改質および接着加工を行うことができ、所望のコード特性を有する改質コードを効率良く得ることが可能となった。また、繊維劣化の抑制によりコードの強力低下を極力抑えて、タイヤ等の補強材として使用するために適当な物性と接着性とを短時間で得ることができる。具体的には、熱処理時間を従来の1/8〜3/4に短縮しつつ、所望のコード基本物性、接着性および耐久性を得ることができる。さらに、本発明は、省エネルギー化の要請をも満足するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について、詳細に説明する。
図1(a)に、本発明の好適実施形態に係る有機繊維コードの改質処理設備を示す。本発明は、有機繊維が撚糸されてなる有機繊維コードであって、タイヤ補強用等に用いられる有機繊維コードの改質方法であり、図示するように、有機繊維コード10を接着剤にディップするディップ工程(A)と、ディップされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程(B)と、乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程(C)と、を含むものである。
【0012】
本発明においては、熱処理工程(C)を、熱風発生機とセラミック板とを具備する遠赤外線処理炉を用いて、乾燥された有機繊維コードに対し遠赤外線を照射することにより行う点が重要である。遠赤外線を用いて熱処理を行うことで、熱処理工程の律速となる接着反応速度を向上することができるため、処理に要する時間を従来対比1/2〜1/8程度にまで短縮することができ、処理時における繊維の劣化に起因するコード物性の低下を抑制することができると同時に、タイヤ補強用として適切な所望の接着性を確実に確保することができる。また、遠赤外線処理炉として熱風発生機とセラミック板とを具備するものを用いたことにより、エネルギーコストの増大の問題も解消することができる。
【0013】
本発明に用いる遠赤外線処理炉3の概要を、図1(b)に示す。図示するように、本発明に係る遠赤外線処理炉3においては、処理すべき有機繊維コード10に沿ってセラミック板30が配置されるとともに、熱風発生機40が設置されており、熱風発生機40内で、例えばガスの燃焼により加熱空気を発生させ、遠赤外線処理炉3内に熱風を送風循環させることで、本発明における熱処理工程(C)が行われる。なお、図中の符号41は熱風循環用の配管を示す。
【0014】
本発明に使用する遠赤外線処理炉としては、熱風発生機およびセラミック板を具備させる以外の仕様については特に制限されるものではなく、市販の装置を適宜使用することが可能である。セラミック板の材質としては、市販の遠赤外線放射セラミックスが使用できるが、アルミナ、ベリリア、ジルコニア、マグネシア、ムライト、フォルステライト等の酸化系セラミックスが好適である。
【0015】
遠赤外線の照射条件については、改質処理を適切に行うことができるものであれば特に制限されるものではなく、所望に応じ設定することができる。また、処理時には、処理炉内を所定温度に加温し、かつ温度分布を均一化して熱効率を高めるために、ファンを併用して空気を循環させることが好ましい。
【0016】
本発明においては、熱処理工程(C)について上記条件を満足するものであれば、所定の効果を得ることができるものであるが、例えば、ディップ工程(A)においては、ディップにより有機繊維コードに付着した接着剤を吸引して、接着剤の付着量を一定量に調整することが好ましい。具体的には、ディップ設備にバキューム装置を設置して、ディップ後の有機繊維コード表面を吸引し、過剰に付着した接着剤を除去することにより、付着量のコントロールを行う。これにより、ディップ工程(A)において有機繊維コードに常に一定量の接着剤を付着させることで、その後の乾燥工程(B)における局所的な乾燥不良や、熱乾燥によるコードの融解に起因するコード切れ、熱処理工程(C)における処理むらの発生などを防止することが可能となる。特に、単線コードのディップ処理の場合、付着量が過多となる傾向があるため、バキューム装置を用いたコントロールを行うことがより有効である。なお、乾燥工程(B)については、特に制限はなく、従来用いられている乾燥装置を適宜用いて行えばよい。
【0017】
本発明の改質方法は、特に、有機繊維コードとして、簾状の反物よりも、緯糸を有しない単線コードの改質を行う際に有効であり、本発明によれば、例えば、1〜250本程度の単線コードを同時に改質することが可能である。
【0018】
本発明の改質方法は、特に制限されるものではないが、例えば、図1(a)に示すような構成の改質処理設備を用いて行うことができる。図示する改質処理設備においては、巻き出し装置11から巻き出した有機繊維コード10に対し、プルロール12を介してディップ槽1内にディップすることにより接着剤を塗布して(ディップ工程(A))、絞りロール13および所望に応じバキューム装置(図示せず)を用いて接着剤付着量を調整した後、乾燥装置2により乾燥を行う(乾燥工程(B))。次いで、乾燥後の有機繊維コード10を、パスロール14およびプルロール12を介して循環させながら遠赤外線処理炉3内で熱処理改質し(熱処理工程(C))、これをプルロール12を介して巻き取り装置15により巻き取っている。このようにプルロールを用いて適度な張力をかけながら改質処理を行うことで、所望のコード物性を有する改質コードを得ることができる。
【0019】
なお、本発明において処理対象となる有機繊維コードとしては、特に制限されず、種々のものを適用することができる。その繊維材料としては、例えば、ナイロン、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等、タイヤ補強用やベルトコンベア用等に使用できる撚コードは全て適用可能である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例)
図1(a),(b)に示す構成の改質処理設備において、以下の装置および下記の表1、2に示す熱処理の処理条件(露出時間)を夫々適用して、有機繊維コードの改質処理を行った。
ディップ工程(A):ディップ槽1
乾燥工程(B): スチーム加熱装置2
熱処理工程(C):熱風発生機、循環ファンおよびセラミック板を備えた遠赤外線処理炉3(図1(b)参照、循環ファンは図示せず)
【0021】
(比較例)
図1(a)に示すのと同様の構成の改質処理設備において、乾燥工程(B)および熱処理工程(C)にガス加熱炉を用いて、有機繊維コードの改質処理を行った。各処理条件(コードにかける温度×露出時間(処理時間)×張力)は、以下に示すように、各コード材質、乾燥工程(B)および2つの熱処理工程(C)ごとに変化させた。また、熱処理工程(C)の露出時間については、夫々、下記の表1、2に示す条件に従った。
PETの場合:(乾燥工程(B))160℃×40秒×0.227g/dtex、(熱処理工程(C))240℃×0.227g/dtex
ナイロン66の場合:(乾燥工程(B))140℃×60秒×0.727g/dtex、(熱処理工程(C))235℃×0.727g/dtex
【0022】
各実施例および比較例で得られた改質コードにつき、下記に従い物性の評価を行った。これらの結果を、下記の表1、2中に併せて示す。
1)一定荷重時の伸度、破断強力(ディップコード中間伸度、ディップコード強力)
JIS L1017に従い、島津製作所製 オートグラフにてディップコードを引っ張りテストして、一定荷重2.02g/dtexでの伸び(%)および破断強力を求めた。このときの用いるコードのデニールは、原糸についてはJIS L1017の正量繊度を用いた。
2)熱収縮率
50gの初期荷重をディップコードに加えて、177℃のオーブン中に30分間放置し、縮んだ長さを元の長さで割り、百分率で表した。
3)接着力
得られたディップコートをゴム中に埋没させ、所定の温度、圧力下で加硫し、その後、ゴムから引き抜く時の力を接着力とした。結果は、各コード材質につき、PETは比較例1、ナイロン66は比較例3を100として指数で表した。数値が大なるほど結果が良好である。
【0023】
各実施例および比較例においては、以下の2種の材質の撚コードを用いた。なお、各撚りコードの中間伸度、強力および熱収縮率については、上記ディップコードと同様にして測定した。また、接着剤液としては、通常タイヤ補強用コードに使用されているRFL接着液を使用した。
実施例1,2および比較例1,2
PET:1670dtex、(撚り構造(上下共))1670dtex/2で撚数39回/10cm、(撚コード強力)238N、(撚コード66N荷重時の中間伸度)11.8%、(熱収縮率)7.0%(なお、結果を明確に得るために、予め前処理としてエポキシ化合物を用いて表面改質された前処理PET糸を用いた。)
実施例3,4および比較例3,4
ナイロン66:1400dtex、(撚り構造(上下共))1400dtex/2で撚数39回/10cm、(撚コード強力)235N、(撚コード66N荷重時の中間伸度)12.1%、(熱収縮率)8.0%
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
上記表1,2の結果からわかるように、熱風発生機とセラミック板とを具備する遠赤外線照射装置を用いて熱処理工程を行った各実施例の改質コードにおいては、いずれも比較例に比し優れた接着力が得られていることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は本発明の一好適実施形態に係る有機繊維コードの改質処理設備の構成を示す概略図であり、(b)は本発明に係る遠赤外線処理炉の概要を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ディップ槽
2 乾燥装置
3 遠赤外線処理炉
11 巻き出し装置
10 有機繊維コード
12 プルロール
13 絞りロール
14 パスロール
15 巻き取り装置
30 セラミック板
40 熱風発生機
41 熱風循環用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、
前記有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを改質する熱処理工程と、を含み、前記熱処理工程を、熱風発生機とセラミック板とを具備する遠赤外線処理炉を用いて、乾燥された該有機繊維コードに対し遠赤外線を照射することにより行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法。
【請求項2】
前記ディップ工程において、ディップにより前記有機繊維コードに付着した接着剤を吸引して、該接着剤の付着量を一定量に調整する請求項1記載の有機繊維コードの改質方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−316389(P2006−316389A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141593(P2005−141593)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】