説明

有機薄膜及びこれを発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】有機EL素子の発光層として用いられる有機薄膜において、複数の極大値を有する発光スペクトルを得られ、しかも簡易な方法で製造することができるものとする。
【解決手段】有機EL素子1の有機薄膜(発光層43)は、有機高分子の主骨格に、この主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大値となる波長とは異なる波長において極大値を持つ光を発光する分子鎖を重合させて成る発光材料40と、発光材料40に混合されたナノ粒子6と、を有する有機薄膜を発光層43として用いる。この構成によれば、ナノ粒子6によって、発光材料40の分子鎖及び主骨格が発光する光の発光スペクトルの極大値を増大させることができる。また、複数の発光材料によらず、複数の極大値を有する発光スペクトルを持る光を生成できるので、発光層43の製造を簡易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明器具、液晶バックライト、各種ディスプレイ、表示装置等に用いられる有機薄膜及びこれを発光層に含む有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、陽極及び陰極で挟持させた発光層が透明基板上に形成されたものであり、電極間に電圧印加されたとき、発光層にキャリアとして注入された電子及びホールの再結合により生成された励起子によって発光する。EL素子は、発光層の発光材料に有機物を用いた有機EL素子と、無機物を用いた無機EL素子に大別される。特に、有機EL素子は、低電圧で高輝度の発光が可能であり、発光材料の種類によって様々な発光色が得られ、また、平面状の発光パネルとしての製造が容易であることから、各種表示装置やバックライトとして用いられる。更に、近年では、高輝度に対応したものが実現され、これを照明器具に用いることが注目されている。
【0003】
図4は、一般的な有機EL素子の断面構成を示す。有機EL素子101は、透光性を有する基板102上に、透光性を有する陽極層103が設けられ、この陽極層103の上に、ホール注入層141、ホール輸送層142及び発光層143から成る有機層104が設けられている。また、有機層104上に、光反射性を有する陰極層105が設けられる。そして、陽極層103と陰極層105との間に電圧が印加されることによって、有機層104の発光層143で発光した光は、陽極層103及び基板102を透過して素子外に取り出される。
【0004】
このような有機EL素子101においては、発光層143に用いられる発光材料が1種類であれば、基本的には、出射光の発光スペクトルは極大値が1つとなる。しかしながら、照明器具等に用いられる白色光を出射させるには、複数の極大値を有する発光スペクトルを得る必要がある。そこで、1つの発光層に夫々異なる発光スペクトルを有する複数の発光材料がドーピングされた有機EL素子が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、夫々異なる発光スペクトルを有する複数の発光層を備えた有機EL素子が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】有機EL技術開発の最前線,p24−25/技術情報協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に示される有機EL素子においては、発光材料が、その種類や使用条件等によって各々寿命が異なっているので、所定波長の光を発光する発光材料の発光が、寿命によって弱くなると、他の発光材料の発光が相対的に強くなる。白色光は、各発光材料から放出された光を所定のバランスで混光することにより生成されるので、いずれかの発光材料の発光が弱く又は強くなると、そのバランスが崩れ、所望の白色光が得られない。つまり、上記非特許文献1に示される有機EL素子においては、白色光を得られる期間が、寿命の短い発光材料に依存してしまうことになる。また、複数の発光層を形成する場合も、上記と同様に、白色光を得られる期間が、寿命の短い発光材料を用いた発光層に依存することになる。また、各発光層の膜厚を夫々厳密にコントロールすることが容易でなく、しかも複数の成膜工程が必要となるので、素子の製造効率が悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、複数の極大値を有する発光スペクトルを得られ、しかも簡易な方法で製造することができる有機薄膜及びこの有機薄膜を用いた有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る有機薄膜は、有機高分子の主骨格に、この主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大値となる波長とは異なる波長において極大値を持つ光を発光する分子鎖を重合させて成る発光材料と、前記発光材料に混合されたナノ粒子と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記有機薄膜において、前記発光材料が、塗布型材料であることが好ましい。
【0010】
上記有機薄膜において、前記発光材料の主骨格が、フルオレン骨格であることが好ましい。
【0011】
上記有機薄膜において、前記ナノ粒子の粒径が、10〜100nmであることが好ましい。
【0012】
基板、第1の電極層、発光層を含む有機層、及び第2の電極層を順に積層して成る有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層として、上記有機薄膜を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ナノ粒子によって、発光材料の分子鎖及び主骨格が発光する光の発光スペクトルの極大値を増大させることができる。また、複数の発光材料によらず、複数の極大値を有する発光スペクトルを持つ光を生成できるので、有機薄膜及びこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造を簡易にすることができる。
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機薄膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の側断面図。
【図2】上記有機薄膜の実施例1、及び比較例1におけるフォトルミネッセンススペクトルを示す図。
【図3】(a)(b)は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子の実施例、及び比較例における発光スペクトルを示す図。
【図4】(a)(b)は、上記有機エレクトロルミネッセンス素子の実施例、及び比較例において、発光面に半球レンズを設けた場合における発光スペクトルを示す図。
【図5】従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る有機薄膜について、これを発光層として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)に基き、図1を参照して説明する。本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、透光性を有する第1の電極層3と、ホール注入層41、ホール輸送層42及び発光層43(有機薄膜)から成る有機層4と、光反射性を有する第2の電極層5が順次積層されたものである。この構成において、第1の電極層3は、ホール注入層41に正孔を供給する陽極として機能し、第2の電極層5は、発光層43に電子を注入する陰極として機能する。
【0016】
基板2には、例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラス等の透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板等が用いられる。また、基板2は、鉛等の重金属を混合したガラスであってもよく、任意のものを用いることができる。
【0017】
第1の電極層3は、有機層4に対して効率的に正孔を注入できるように、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物から成る電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が4eV以上のものを用いることが特に好ましい。このような第1の電極層3の材料としては、例えば、金等の金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム−亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブ等の導電性透光性材料を挙げることができる。第1の電極層3は、上述した電極材料を、例えば、基板2の表面に真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。第1の電極層3の透過率は、70%以上であることが好ましい。また、第1の電極層3のシート抵抗は、数百Ω/□以下であることが好ましく、100Ω/□以下であることがより好ましい。第1の電極層3の膜厚は、材料の導電性等の特性により異なるが、第1の電極層3の光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するためには、500nm以下であることが好ましくは、10〜200nmの範囲に設定されることがより好ましい。
【0018】
有機層4は、上述したホール注入層41、ホール輸送層42及び発光層43が積層されたものであり、発光層43上に、適宜に電子輸送層、ホールブロック層又は電子注入層等(不図示)の適宜の有機層が積層されてもよい。また、発光層43は、複数層形成されていてもよい。このように、発光層43を複数層設ける場合には、その積層数は、多くなるに従って光学的及び電気的な素子設計の難易度が増すので、5層以内が好ましく、3層以内がより好ましい。また、この場合、複数の有機層4間に、電荷供給層(不図示)を介在させることが好ましい。この電荷供給層としては、例えば、Ag、Au、Al等の金属薄膜、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物、ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO等の透明導電膜、いわゆるn型半導体とp型半導体の積層体、金属薄膜又は透明導電膜とn型半導体及び/又はp型半導体との積層体、n型半導体とp型半導体の混合物、n型半導体又はp型半導体と金属との混合物等が挙げられる。n型半導体やp型半導体としては、無機材料であっても、有機材料であってもよい。更に、有機材料と金属との混合物、有機材料と金属酸化物、有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料、無機系アクセプタ/ドナー材料等の組合わせによって得られるものであってもよく、これらが適宜に選定して使用される。
【0019】
ホール注入層41には、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)等の低分子量の有機化合物や、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等の高分子材料が用いられる。なお、上述したものに限られず、一般に知られる任意のホール注入材料を用いることができる。
【0020】
ホール輸送層42は、ホール輸送性を有する化合物の群から適宜に選定された材料から形成される。この種の化合物としては、例えば、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNB等に代表されるトリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物等が挙げられる。なお、上述したものに限られず、一般に知られる任意のホール輸送材料を用いることができる。
【0021】
発光層43は、後述する発光材料40と、ナノ粒子6とがホスト材料中に混合された組成物により形成される。発光材料40としては、有機高分子の主骨格に、この主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大値となる波長とは異なる波長において極大値を持つ光を発光する分子鎖を重合させて成る化合物が用いられる。
【0022】
このような化合物としては、下記化学式1に示されるようなフルオレンを主骨格とし、分子鎖としてアセン系分子(アントラセン、ナフタセン、ペンタセン等)、BT(ベンゾチアジアゾール)、イリジウム錯体等を重合させた材料を用いることができる。フルオレンはそれ自身で青色発光し、π共役系高分子であることから分子鎖を重合させ易く、また、光励起や電界励起されたエネルギーが分子鎖へ遷移しやすい特性を有する。なお、主骨格はフルオレンに限られず、主骨格がそれ自身で発光するπ共役系高分子材料であってもよい。また、分子鎖も上記材料に限定されるものではなく、主骨格自身が発光する材料の発光スペクトルが極大値となる波長とは異なる波長で極大値を持つ発光をする材料であればよい。
【0023】
【化1】

【0024】
上述したフルオレン骨格から成る化合物を主骨格とし、この主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大値となる波長とは異なる波長において極大値を持つ光を発光する分子鎖を重合させた発光材料として、例えば、下記化学式(2)に示されるPoly[(9,9-dioctyl-2,7-divinylenefluorenylene)-alt-co-(9,10-anthracene)](ADS106RE;アメリカンダイソース社製)が挙げられる。この化合物は、主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大波長が430〜450nmの範囲にあり、分子鎖が発光する発光スペクトルの極大波長が530〜550nmの範囲にある。
【0025】
【化2】

【0026】
また、例えば、下記化学式(3)に示されるF8BT(Poly[(9,9-di-n-octylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(benzo[2,1,3]thiadiazol-4,8-diyl)])が挙げられる。この化合物は、主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大波長が430〜450nmの範囲にあり、分子鎖が発光する発光スペクトルの極大波長が635〜655nmの範囲にある。
【0027】
【化3】

【0028】
更に、例えば、下記化学式(4)に示されるF6BT(Poly[(9,9-di-n-hexylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(benzo[2,1,3]thiadiazol-4,8-diyl)])が挙げられる。この化合物は、主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大波長が390〜420nmの範囲にあり、分子鎖が発光する発光スペクトルの極大波長が635〜655nmの範囲にある。
【0029】
【化4】

【0030】
ナノ粒子6としては、ITOやATO等の金属酸化物微粒子や、ジルコニア等が用いられ、上述の発光材料40の屈折率より低い材料が好ましい。一般的な発光材料の屈折率は、1.7〜1.8程度であり、基板2として汎用されるガラス基板や大気の屈折率より高いので、発光層43で発光した光がこれらの界面で全反射され、基板2や大気へ到達しないことがある。そこで、発光層43を低屈折率化することにより、これらの界面における臨界角を大きくし、全反射を生じ難くすることができる。
【0031】
発光材料40より屈折率の低いナノ粒子6としては、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ、ナノポーラスシリカ、メソポーラスシリカに代表される多孔質シリカ等が挙げられる。特に、メソポーラスシリカは、ナノ粒子6として好適に用いられる。すなわち、メソポーラスシリカは、中空シリカよりも空隙率が高くできるので、中空シリカよりも低屈折率化に有効であり、また、空隙率を保ったまま粒径を制御することができる。しかも、表面に官能基があるので、各種の表面処理が容易であり、他の材料への分散性を向上しやすいという特性を持っている。より好ましくは、このメソポーラスシリカを、400℃の高温で熱処理したものが用いられる。
【0032】
ナノ粒子6の粒径は、10〜100nmであることが好ましい。有機層4の各層の膜厚は、可視光の波長オーダーである。特に、発光層43の膜厚は、干渉効果が得られ、最適な干渉条件で設計されており、通常、50〜200nmである。しかも、発光層43と他の有機層4との界面は、均一な成膜を可能とすると共に、面抵抗を均等にするため、平坦であることが望まれる。つまり、ナノ粒子の粒子径が、上記10〜100nmの範囲で適宜に設定されることにより、ナノ粒子が発光層43の膜厚に影響することなく、また、発光層43の表面粗さを少なくすることができる。
【0033】
発光層43の構築方法としては、発光材料40に予めナノ粒子6を混合した組成物を、発光層43の下地層(図1に示すホール輸送層42)上に塗布により積層する方法が挙げられる。つまり、塗布型の発光材料を用いれば、複雑な製造工程や、大掛かりな製造装置等によらず、発光層43を作製することができる。また、ホール輸送層42の上に予めメソポーラスシリカ膜を形成した上で、発光材料40を積層して発光層43を構築してもよい。また、ホール輸送層42上に、発光層43をある膜厚で積層した上にメソポーラスシリカ膜を形成し、この上から更に発光材料40を積層して発光層43を構築してもよい。この場合、ホール輸送層42の上に積層される発光材料40は、20nm以下であることが好ましい。
【0034】
なお、発光層43と第2の電極層5との間には、電子輸送層(不図示)が形成されていてもよい。電子輸送層の形成に用いられる材料としては、汎用の電子輸送性を有する化合物の群から適宜選定することができる。この種の化合物としては、例えば、Alq等の電子輸送性材料として知られる金属錯体や、フェナントロリン誘導体、ピリジン誘導体、テトラジン誘導体、オキサジアゾール誘導体等のヘテロ環を有する化合物等が挙げられるが、この限りではない。また、電子輸送層と第2の電極層5との間に、電子注入層(不図示)が形成されていてもよい。
【0035】
第2の電極層5は、発光層43に対して効率的に電子を注入できるように、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物から成る電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが特に好ましい。第2の電極層5を構成する材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、及びこれらと他の金属との合金等が用いられる。具体的には、アルミニウム(Al)や銀(Ag)、又はこれら金属を含む化合物を用いることができる。また、Alと他の電極材料を組み合わせて積層構造等として構成するものであってもよい。このような電極材料の組み合わせとしては、アルカリ金属とAlとの積層体、アルカリ金属と銀との積層体、アルカリ金属のハロゲン化物とAlとの積層体、アルカリ金属の酸化物とAlとの積層体、アルカリ土類金属や希土類金属とAlとの積層体、これらの金属種と他の金属との合金等が挙げられる。具体的には、例えば、ナトリウム(Na)、Na−カリウム(K)合金、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)等とAlとの積層体、Mg−Ag混合物、Mg−インジウム混合物、Al−Li合金、LiF/Al混合物/積層体、Al/Al混合物等が挙げられる。更に、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、又は金属酸化物を第2の電極層5の下地として用い、更に金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。これらの例として、例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層等が挙げられる。また、上記に列挙したもの以外についても、第2の電極層5(陰極)から発光層43への電子注入を促進させる層、すなわち、電子注入層(不図示)を陰極と発光層の間に挿入させることが好ましい。電子注入層を構成する材料としては、上記第2の電極層5を構成する材料と共通のもの、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、上記材料を含めて、電子注入を促進させるドーパントを混合した有機半導体材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また、第2の電極層5は、透明電極と光反射性の層との組み合わせによって構成されてもよい。第2の電極層5を透光性の電極として形成する場合には、ITO、IZO等に代表される透明電極にて形成してもよい。また、第2の電極層5の界面の有機物層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしても良い。
【0037】
第2の電極層5の作製方法としては、例えば、上述した電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法、塗布等の方法により、薄膜に形成すること等が挙げられる。第2の電極層5が、光反射性電極である場合には、その反射率は80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0038】
また、第2の電極層5が透光性電極である場合には、第2の電極層5の光透過率が70%以上であることが好ましい。この場合の第2の電極層5の膜厚は、第2の電極層5の光透過率等の特性を制御するために、材料により異なるが、500nm以下であることが好ましく、100〜200nmの範囲であることが特に好ましい。
【実施例】
【0039】
次に、上述した実施形態の実施例について、比較例と対比しながら具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
基板2として、厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737;コーニング製)を用い、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting Polymer ADS106RE」)を、テトラヒドロフタン(THF)溶媒に溶解した溶液を、基板2の上に、膜厚が20nmになるようにスピンコータで塗布し、100℃で10分間焼成した。その上に、ブタノール分散した粒子径50nmのメソポーラスシリカ(ナノ粒子6)を塗布し、100℃で10分間焼成した。更に、赤色高分子ADS106REをTHF溶媒に溶解した溶液を、メソポーラスシリカ膜の上に、総膜厚が100nmになるようにスピンコータで塗布し、100℃で10分間焼成して発光層43(有機薄膜)を作製し、これを実施例1とした。
【0041】
(比較例1)
発光層43にナノ粒子を混合しなかった以外は実施例1と同様のサンプルを作製し、これを比較例1とした。
【0042】
(実施例2)
基板2として、厚み0.7mmの無アルカリガラス板(No.1737;コーニング製)を用い、ITO(スズドープ酸化インジウム)ターゲット(東ソー製)を用いて、基板2の上にスパッタを行い、膜厚150nmのITO層を形成した。得られたITO層付ガラス基板を、アルゴン(Ar)ガス雰囲気下200℃で1時間アニール処理を行い、シート抵抗18Ω/□の、透光性を有する陽極として機能する第1の電極層3を形成した。次に、第1の電極層3上に、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS:スタルクヴィテック社製「Baytron P AI4083」、PEDOT:PSS=1:6)を膜厚30nmになるようにスピンコータで塗布し、150℃で10分間焼成することにより、ホール注入層41を得た。
【0043】
次に、TFB(Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(4,4’-(N-(4-sec-butylph
enyl))diphenylamine)];アメリカンダイソース社製「Hole Transport Polymer ADS259BE」)を、THF溶媒に溶解した溶液を、ホール注入層41の上に膜厚12nmになるように、スピンコータで塗布してTFB被膜を作製し、これを200℃で10分間焼成することによって、ホール輸送層42を得た。更に、赤色高分子(アメリカンダイソース社製「Light Emitting Polymer ADS106RE」)をTHF溶媒に溶解した溶液を、ホール輸送層42の上に膜厚が20nmになるようにスピンコータで塗布し、100℃で10分間焼成した。その上に、ブタノール分散した粒子径30nmのメソポーラスシリカ(ナノ粒子6)を塗布し、100℃で10分間焼成した。更に、赤色高分子ADS106REをTHF溶媒に溶解した溶液を、メソポーラスシリカ膜上に、ホール輸送層42上の発光層43全体の膜厚が100nmになるようにスピンコータで塗布し、100℃で10分間焼成した。最後に、真空蒸着法により、発光層43の上に、バリウムを5nm、アルミニウムを80nmの厚みで成膜することにより光反射性の陰極である第2の電極層5を形成し、有機EL素子1を作製し、これを比較例2とした。
【0044】
(比較例2)
発光層43にナノ粒子6を混合しなかった以外、実施例2と同様の方法で有機EL素子を作製し、これを比較例2とした。
【0045】
(評価試験)
実施例1及び比較例1に対して、波長300nmに極大値を有する紫外光を照射し、この紫外光により励起して放出された光をのスペクトル、すなわちフォトルミネッセンススペクトル(以下、PLスペクトル)を輝度計により計測した。その結果を図2に示す。なお、同図においては、比較例1の最大強度を1としたときの強度比で示している。
【0046】
図2に示されるように、発光層43にナノ粒子6を混合していない比較例1において、500〜600nmの波長領域に、ほぼ単一の極大値を持つPLスペクトルが計測された。これに対して、発光層43にナノ粒子6を混合させた実施例1においては、500〜600nmの波長領域の極大値が、比較例1よりも増大した。また、実施例1では、350〜450nmの波長領域における極大値が顕著となったPLスペクトルが計測された。
【0047】
また、実施例2及び比較例2については得られた有機EL素子において、電極間に電流密度が10mA/cm2となるように電流を流し、輝度計により発光スペクトル(以下、ELスペクトル)を計測した。計測は、出射角度が0deg及び60degであるときのELスペクトルに対して行った。その結果を夫々図3(a)(b)に示す。なお、同図においては、出射角度0degにおける比較例2の強度を1としたときの強度比で示している。
【0048】
次に、材質がガラスの半球レンズを、ガラスと同じ屈折率のマッチングオイルを介して、実施例2及び比較例2の有機EL素子の発光面上に夫々配置して、上記と同じ計測を行うことにより、基板まで到達する光を計測した。この半球レンズは、基板2から大気への光取出し効率を向上させるものである。計測は、上記と同様に、出射角度が0deg及び60degであるときの発光スペクトルに対して行った。その結果を図4(a)(b)に示す。また、ここでも出射角度が0degであるときの比較例2の強度を1としたときの強度比で示している。
【0049】
図3(a)(b)及び図4(a)(b)に示されるように、発光層43にナノ粒子6を混合していない比較例2において、500〜600nmの波長領域に、ほぼ単一の極大値を持つELスペクトルが計測された。これに対して、発光層43にナノ粒子6を混合させた実施例1においては、500〜600nmの波長領域の極大値が、比較例1よりも増大した。特に、図3(b)、図4(b)に示されるように、出射角度60degである場合に、350〜450nmの波長領域における極大値がより顕著となったELスペクトルが計測された。また、この450〜450nmの波長領域における極大値は、発光面に半球レンズを設けた場合により顕著となった。
【0050】
これらの結果において、500〜600nmの波長領域に見られる極大値は、発光層43に用いられた発光材料ADS106REの分子鎖の発光に起因するものである。一方、350〜450nmの波長領域における極大値は、発光材料ADS106REの主骨格の発光に起因するものである。しかしながら、発光層43にナノ粒子6を混合していない比較例1,2のPLスペクトル及びELスペクトルにおいては、分子鎖の発光に起因する極大値は見られるものの、主骨格の発光に起因する極大値は殆ど見られなかった。
【0051】
これに対して、発光層43にナノ粒子6を混合させた実施例1,2のPLスペクトル及びELスペクトルにおいては、分子鎖の発光に起因する極大値が、比較例1,2よりも増大し、しかも、主骨格の発光に起因する極大値が顕著となった。すなわち、発光層43にナノ粒子6を混合させることにより、分子鎖の発光による光の利用効率を向上させるだけでなく、主骨格の発光による光を有効光として利用できることが分かった。
【0052】
本実施形態の発光層43(有機薄膜)及びこれを用いた有機EL素子1によれば、ナノ粒子6によって、発光材料40の分子鎖及び主骨格が発光する光の発光スペクトルの極大値を増大させることができる。また、複数の発光材料によらず、複数の極大値を有する発光スペクトルを持る光を生成できるので、有機層4及びこれを用いた有機EL素子1の製造を簡易にすることができる。
【0053】
なお、本発明は、発光層において、有機高分子の主骨格が発光する発光スペクトルの極大値と、異なる波長において極大値を有する光を発光する分子鎖から成る発光材料に、ナノ粒子を混合させたものであれば、上述した構成に限らずに種々の変形が可能である。例えば、発光材料は、主骨格に極大値が異なる複数種の分子鎖が重合されたものでもよいし、このような発光材料を複数混在させてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 有機EL素子
2 基板
3 第1の電極層
4 有機層
40 発光材料
41 ホール注入層
42 ホール輸送層
43 発光層(有機薄膜)
5 第2の電極層
6 ナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子の主骨格に、この主骨格自身が発光する発光スペクトルの極大値となる波長とは異なる波長において極大値を持つ光を発光する分子鎖を重合させて成る発光材料と、
前記発光材料に混合されたナノ粒子と、を有することを特徴とする有機薄膜。
【請求項2】
前記発光材料が、塗布型材料であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜。
【請求項3】
前記発光材料の主骨格が、フルオレン骨格であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜。
【請求項4】
前記ナノ粒子の粒径が、10〜100nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の有機薄膜。
【請求項5】
基板、第1の電極層、発光層を含む有機層、及び第2の電極層を順に積層して成る有機有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層として、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の有機薄膜を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−222013(P2012−222013A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83314(P2011−83314)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】