説明

有機薄膜太陽電池の製造方法

【課題】溶剤を用いたウェットプロセスによることなく、発電特性に優れた有機薄膜太陽電池を得ることができる有機薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電極1,2間に有機光電変換層3を備えて形成される有機薄膜太陽電池を製造する方法に関する。表面に電極1,2を設けた2枚の基板4,5間に、有機光電変換層3となる有機材料6を配置する工程と、有機材料6を加熱して融解させる工程と、2枚の基板4,5の電極1,2間で融解した有機材料6を大気圧よりも大きな圧力で加圧する工程と、加圧状態を保ったまま有機材料6を加熱温度よりも低い温度に冷却する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光電変換層を備えて形成される有機薄膜太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機材料によって薄膜を作製した有機素子には、有機半導体材料を用いて作製した有機トランジスタ素子、有機電界発光素子、有機薄膜太陽電池などの有機半導体素子があり、これらは近年、素子の軽量化やフレキシブル化を目標として開発が盛んに行なわれている。そしてこれらの有機素子を製造するにあたって、薄膜の形成方法には、大きく分けて、蒸着法を中心とするドライプロセスと、塗布法を中心とするウェットプロセスがある。
【0003】
ここで、有機薄膜太陽電池のように、大面積、低コスト化が要求される有機素子では、有機半導体材料を溶媒に溶解あるいは分散させた塗布液を用い、この塗布液をコーティングするウェットプロセスで薄膜形成する方法が有利であるとされている。このウェットプロセスには、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法などのウェットコーティング法がある。
【0004】
しかしウェットプロセスによって有機素子の薄膜を作製する場合、素子自体には不要な溶媒を用いる必要があり、溶媒を用いることによる環境負荷が問題となる。現在のところ、有機半導体を溶かす溶媒としては、クロロベンゼン等の塩素系溶剤が用いられることが多く、この塩素系溶剤は溶液管理や廃液処理などの際に環境負荷が生じることになるものである。しかも、製造された有機素子の薄膜には僅かながらも溶媒を含むために、この溶媒を除去するための乾燥工程が必要になり、この乾燥方法として加熱乾燥法、減圧乾燥法、加圧加熱乾燥法があるが、いずれも製造工程が複雑になるという問題がある。
【0005】
そこでこのようなウェットプロセスではなく、有機溶媒を用いる必要なく薄膜を形成する方法として、例えば特許文献1では、電極を設けた2枚の基板の間に有機材料のフィルムを配置し、これを加熱下で加圧することによって、薄膜を基板間にサンドイッチした電子光学部品を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−211175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1の方法では、電極を設けた2枚の基板の間に有機材料を配置し、有機材料を加熱しながら加圧することによって、2枚の基板の間に薄膜を形成するため、溶剤を用いる必要なく、有機素子の製造を行なうことができる。
【0008】
しかし、特許文献1においては、有機素子としてメタル−セミコンダクタ電界効果型トランジスタ、メタル−アイソレータ−セミコンダクタ電界効果型トランジスタ、メタル−アイソレータ−セミコンダクタキャパシタを製造することが開示されているが、この特許文献1の方法を有機薄膜太陽電池の製造に適用することを検討したところ、有効な発電特性を有する有機薄膜太陽電池を得ることができないものであった。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、溶剤を用いたウェットプロセスによることなく、発電特性に優れた有機薄膜太陽電池を得ることができる有機薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る有機薄膜太陽電池の製造方法は、電極1,2間に少なくとも一層の有機光電変換層3を備えて形成される有機薄膜太陽電池を製造する方法であって、表面に電極1,2を設けた2枚の基板4,5間に、有機光電変換層3となる有機材料6を配置する工程と、有機材料6を加熱して融解させる工程と、2枚の基板4,5の電極1,2間で融解した有機材料6を大気圧よりも大きな圧力で加圧する工程と、加圧状態を保ったまま有機材料6を加熱温度よりも低い温度に冷却する工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
このように、基板4,5の電極1,2間に有機材料6を配置して、有機材料6を加熱して融解させると共に加圧することによって、有機材料6を薄膜化した状態で基板4,5間に積層することができ、ウェットプロセスのように溶剤を用いるような必要なく薄膜を形成することができるものであり、しかも加圧状態を保ったまま有機材料6を融解温度から固化温度にまで冷却することによって、発電特性に優れた有機光電変換層3を形成することができ、優れた発電特性を有する有機薄膜太陽電池を得ることができるものである。
【0012】
また本発明は、2枚の基板4,5の電極1,2間に配置される有機材料6が、電子供与性有機材料の粉末と、電子受容性有機材料の粉末の混合粉末であることを特徴とするものである。
【0013】
このように電子供与性有機材料と電子受容性有機材料を混合して用いることによって、高い発電特性を得ることができるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板4,5の電極1,2間に有機材料6を配置して、有機材料6を加熱して融解させると共に加圧することによって、有機材料6を薄膜化した状態で基板4,5間に積層することができ、ウェットプロセスのように溶剤を用いるような必要なく薄膜を形成することができるものである。しかも加圧状態を保ったまま有機材料6を融解温度から固化温度にまで冷却することによって、発電特性に優れた有機光電変換層3を形成することができ、優れた発電特性を有する有機薄膜太陽電池を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)(b)は概略図である。
【図2】有機薄膜太陽電池を示す断面図である。
【図3】有機薄膜太陽電池の電流密度−電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
図1は本発明に用いる加熱機構付き加圧装置10を示すものであり、支柱11に上部ブロック12と下部ブロック13が上下に対向して取り付けてある。上部ブロック12と下部ブロック13は少なくとも一方が支柱11に沿って上下駆動するようにしてあり、図の実施の形態では、下部ブロック13を油圧機構等によって上下駆動させるようにしてある。また上部ブロック12や下部ブロック13にはヒータ等で形成される加熱機構が内蔵してあり、上部ブロック12や下部ブロック13の加熱機構にはそれぞれ温度コントロール装置14,15を接続して、加熱温度を独立して制御することができるようにしてある。
【0018】
次にこの加熱機構付き加圧装置10を用いて有機薄膜太陽電池を製造する方法を説明する。本発明において基板4,5としては、特に限定されるものではないが、透光性を有するガラス板などを用いることができる。また基板4,5の片側表面には電極1,2が設けてある。この電極1,2についても特に限定されるものではないが、光を導入する側の基板4の表面にITOなどの透光性の電極1を形成し、他方の基板5の表面にAlなどの光反射性の電極2を形成することができる。
【0019】
そしてまず図1(a)のように、電極1を設けた面が上になるように基板4を下ブロック13の上に載置し、この基板4の電極1の上に有機材料6を供給して載せる。
【0020】
この有機材料6は、有機光電変換層3を形成するためのものであり、電子供与性有機材料や、電子受容性有機材料を用いることができる。電子供与性有機材料としては、例えばポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレンなどのp型有機半導体を用いることができ、また電子受容性有機材料としては、例えばフラーレン、ペリレン、ナフタレンジアミン、(その他複数の材料を列挙して下さい)などのn型有機半導体を用いることができる。また有機材料6は粉末の状態で用いるのが好ましい。この粉末の粒径は、100nm〜100μmの範囲が好ましい。粒径がこの範囲であると、より高い特性が得られるが、勿論この範囲に限定されるものではない。
【0021】
次に、上記のように基板4の電極1の上に有機材料6を載せた後、下部ブロック13の加熱機構を発熱させ、有機材料6を加熱して融解させる。加熱温度は特に限定されるものではないが、有機材料6の融解温度をT℃とすると、T℃+10〜T℃+90℃の範囲が好ましい。有機材料6として2種類以上のものを混合して用いる場合には、融解温度が最も低い有機材料の融解温度をT℃、高い有機材料の融解温度をT℃とすると、T℃+(T−T)℃〜T℃+90℃とするのが好ましいが、この限りではない。というのも、融点の低い方の有機材料が溶解すれば、融点の高い方の有機材料の粉末が溶融した有機材料の中へ分散してブレンド膜が形成されるからである。
【0022】
上記のように有機材料6を融解させる加熱条件を維持しながら、基板5をその電極2を下向きにして有機材料6の上に重ねる。このとき、基板5は有機材料6の加熱温度と同じ温度に予め加熱して暖めておくのが好ましい。このように2枚の基板4,5の電極1,2間に有機材料6を配置した後、上部ブロック12の加熱機構を下部ブロック13の加熱温度と同じ温度で発熱させながら、下部ブロック13を上動させて、図1(b)のように上部ブロック13と下部ブロック12の間で挟圧し、2枚の基板4,5の電極1,2間に融解した有機材料6を大気圧よりも大きな圧力で加圧する。この加圧の圧力は融解した有機材料6を基板4,5間で薄膜化することができるものであればよく、特に限定されるものではないが、10〜100MPa程度が好ましい。またこのように有機材料6を融解させる温度で加熱しながら加圧する時間も特に限定されるものではないが、5分〜30分程度が好ましい。
【0023】
このように融解した有機材料6を基板4,5の間で加圧して薄膜化した後、上部ブロック12や下部ブロック13による加熱温度を低下させ、有機材料6を冷却し、有機材料6を融解温度より低い温度まで下げて固化させ、有機材料6からなる有機光電変換層3を基板4,5の電極1,2の間に形成することができるものである。このとき、有機材料6の冷却は上記の加圧の圧力を維持して行なうものであり、このように加圧状態を保ったまま有機材料6を冷却して固化させることによって、電極1,2に密着させた状態で有機光電変換層3を形成することができるものである。加圧状態を維持したまま有機材料6の温度を融解温度T℃−30〜T℃−100℃にまで低下させるのが好ましく、また温度の低下速度は緩やかであることが好ましいものであって、例えば3〜30分間をかけて温度低下させるようにするものである。
【0024】
上記のように冷却を行なった後に、上部ブロック13と下部ブロック12による加圧を停止し、加熱機構付き加圧装置10から取り出すことによって、有機材料6からなる有機光電変換層3を基板4,5の電極1,2の間に積層した図2のような有機薄膜太陽電池を得ることができるものである。
【0025】
本発明ではこのように、基板4,5の電極1,2間に有機材料6を配置して、有機材料6を加熱して融解させると共に加圧することによって、有機材料6を薄膜化した状態で基板4,5の電極1,2間に積層することができるものであり、ウェットプロセスのように溶剤を用いるような必要なく、有機材料を薄膜化して有機光電変換層3を形成することができるものである。しかも加圧状態を保ったまま融解した有機材料6を固化温度に冷却することによって、発電特性に優れた有機光電変換層3を形成することができるものであり、優れた発電特性を有する有機薄膜太陽電池を得ることができるものである。
【0026】
ここで、有機光電変換層3を形成する上記の有機材料6として、電子供与性有機材料(n型有機半導体)と電子受容性有機材料(p型有機半導体)のうちいずれか一つの材料を用いることによって、電極1,2の特定材料との間で形成されるショットキー接合を活用するショットキー接合型太陽電池を形成することができる。また有機材料6として電子供与性有機材料(n型有機半導体)と電子受容性有機材料(p型有機半導体)の二つの材料を混合して用いることによって、材料の界面で形成されるpn接合を活用するpn接合型太陽電池を得ることができる。電子供与性有機材料(n型有機半導体)と電子受容性有機材料(p型有機半導体)の混合比率は、特に限定されるものではないが、前者対後者の質量比率0.25:0.75〜0.25:1.0の範囲が好ましい。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
基板4,5としてガラス板を用い、基板4の表面には透明電極としてITOの電極1を、基板5の表面には金属電極としてAlの電極2を形成した。また有機材料6としてp型有機半導体の高分子ポリ−3−ドデシルチオフェノン(融解温度160℃)を、乳鉢で約1μm以下の粒径に粉砕して用いた。
【0029】
そして図1の加熱機構付き加圧装置10において、下部ブロック13の上に基板4を載置し、基板4の電極1の上に有機材料6を7mg載せた。続いて下部ブロック13を発熱させて基板4を160℃に加熱し、有機材料6を融解させた。次に、予め160℃に加熱しておいた基板5を電極2の側で融解した有機材料6の上に重ね、上部ブロック12と下部ブロック13の間で加圧することによって50MPaの圧力を加えた。この160℃、50MPaの加熱加圧を3分間保持した後、上部ブロック12と下部ブロック13の温度を低下させ、この50MPaの圧力をかけたままの状態で130℃にまで20分をかけて冷却して固化させた。
【0030】
この後、加圧を終了して有機薄膜太陽電池を加熱機構付き加圧装置10から取り出した。この有機薄膜太陽電池は、p型有機半導体の高分子ポリ−3−ドデシルチオフェノンと電極2のAlとのショットキー接合を利用するショットキー接合型太陽電池である。
【0031】
このようにして作製した有機薄膜太陽電池について太陽電池特性を、擬似太陽光(Air Mass 1.5 Global 100mW/cm)の照射下で、電流電圧特性を測定することによって評価し、短絡光電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、形状因子(FF)、エネルギー変換効率(PCE)の太陽電池パラメータを導出した。図3に有機薄膜太陽電池の擬似太陽光照射下の電流密度−電圧特性を示し、また表1に電流密度−電圧特性から導出した太陽電池パラメータを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
図3や表1にみられるように、有機薄膜太陽電池に光を照射することによって、光発電特性を示すことが確認された。
【0034】
(比較例1)
実施例1と同様にして、下部ブロック13の上に載置した基板4の電極1の上に有機材料6を載せ、基板4を160℃に加熱して有機材料6を融解させ後、基板5を電極2の側で有機材料6の上に重ね、50MPaの圧力を加えて3分間保持した。この後、上部ブロック12と下部ブロック13の加熱を停止すると共に上部ブロック12と下部ブロック13による加圧を解除し、圧力をかけない状態で自然冷却して固化させた。
【0035】
この後に有機薄膜太陽電池を加熱機構付き加圧装置10から取り出して、上記と同様に太陽電池特性を評価したところ、光を照射しても全く発電特性を示さないものであった。従って発電特性を得るには、実施例1のように加圧を保持しながら冷却を行なうことが必要であることが判明した。
【0036】
(実施例2)
有機材料6として、p型有機半導体の高分子ポリ−3−ドデシルチオフェノンと、n型有機半導体のC60フラーレン(融解温度200℃以上)とを、乳鉢で約1μm以下の粒径に粉砕しながら混合した混合物を用いた。そして有機材料6としてこの混合物を用いるようにした他は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を得た。
【0037】
この有機薄膜太陽電池は、p型有機半導体の高分子ポリ−3−ドデシルチオフェノンとn型有機半導体のC60フラーレンのpn接合を利用するpn接合型太陽電池である。
【0038】
このように作製した有機薄膜太陽電池の擬似太陽光照射下の電流密度−電圧特性を図3に示し、また表2に電流密度−電圧特性から導出した太陽電池パラメータを示す。
【0039】
【表2】

【0040】
図3や表2にみられるように、pn接合型(ブレンド型)においても光発電特性を示し、本発明が有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 電極
2 電極
3 有機光電変換層
4 基板
5 基板
6 有機材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に少なくとも一層の有機光電変換層を備えて形成される有機薄膜太陽電池を製造する方法であって、表面に電極を設けた2枚の基板間に、有機光電変換層となる有機材料を配置する工程と、有機材料を加熱して融解させる工程と、2枚の基板の電極間で融解した有機材料を大気圧よりも大きな圧力で加圧する工程と、加圧状態を保ったまま有機材料を加熱温度よりも低い温度に冷却する工程と、を備えることを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
2枚の基板の電極間に配置される有機材料が、電子供与性有機材料の粉末と、電子受容性有機材料の粉末の混合粉末であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−66265(P2011−66265A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216533(P2009−216533)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 タンデム型高効率・高耐久性有機薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】