説明

有機薄膜太陽電池

【課題】高効率な光電変換特性を示す有機薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】一対の電極と、前記一対の電極間に挟持された2種以上の有機化合物からなる1以上の有機層を有し、前記2種以上の有機化合物のうち、主たる2種類の有機化合物のアフィニティーレベルの差(ΔAf)が下記式(a)を満たす有機薄膜太陽電池。
0.5eV<ΔAf<2.0eV ・・・(a)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、光信号を電気信号に変換するフォトダイオードや撮像素子、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池に代表されるように、光入力に対して電気出力を示す装置であり、電気入力に対して光出力を示すエレクトロルミネッセンス(EL)素子とは逆の応答を示す装置である。中でも太陽電池は、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギー源として近年大変注目されてきており、研究開発が盛んに行なわれるようになってきた。
従来、実用化されてきたのは、単結晶Si、多結晶Si、アモルファスSi等に代表されるシリコン系太陽電池であるが、高価であることや原料Siの不足問題等が表面化するにつれて、次世代太陽電池への要求が高まりつつある。このような背景の中で、有機太陽電池は、安価で毒性が低く、原材料不足の懸念もないことから、シリコン系太陽電池に次ぐ次世代の太陽電池として大変注目を集めている。
【0003】
有機太陽電池は、基本的には電子を輸送するn層と正孔を輸送するp層からなっており、各層を構成する材料によって大きく2種類に分類される。
n層としてチタニア等の無機半導体表面にルテニウム色素等の増感色素を単分子吸着させ、p層として電解質溶液を用いたものは、色素増感太陽電池(所謂グレッツエルセル)と呼ばれ、変換効率の高さから、1991年以降精力的に研究されてきたが、溶液を用いるため、長時間の使用に際して液漏れする等の欠点を有していた。そこでこのような欠点を克服するため、電解質溶液を固体化して全固体型の色素増感太陽電池を模索する研究も最近なされているが、多孔質チタニアの細孔に有機物をしみ込ませる技術は難易度が高く、再現性よく高変換効率が発現できるセルは完成していないのが現状である。
一方、n層、p層ともに有機薄膜からなる有機薄膜太陽電池は、全固体型のため液漏れ等の欠点がなく、作製が容易であり、稀少金属であるルテニウム等を用いないこと等から最近注目を集め、精力的に研究がなされている。
【0004】
有機薄膜太陽電池は、最初メロシアニン色素等を用いた単層膜で研究が進められてきたが、p層/n層の多層膜にすることで変換効率が向上することが見出され、それ以降多層膜が主流になってきている。このとき用いられた材料はp層として銅フタロシアニン(CuPc)、n層としてペリレンイミド類(PTCBI)であった。
【0005】
その後、p層とn層の間にi層(p材料とn材料の混合層)を挿入して積層を増やすことにより、変換効率が向上することが見出された。しかしこのとき用いられた材料は、依然としてフタロシアニン類とペリレンイミド類であった。またその後、p/i/n層を何層も積層するというスタックセル構成によりさらに変換効率が向上することが見出されたが、このときの材料系はフタロシアニン類とC60であった。
【0006】
このように、有機薄膜太陽電池では、セル構成及びモルフォロジーの最適化により変換効率の向上がもたらされてきたが、そこで用いられる材料系は初期の頃からあまり進展がなく、依然としてフタロシアニン類、ペリレンイミド類、C60類が用いられてきた。従って、それらに代わる新たな材料系の開発が熱望されていた。
【0007】
一般に有機薄膜太陽電池の動作過程は、(1)光吸収及び励起子生成、(2)励起子拡散、(3)電荷分離、(4)キャリア移動、(5)起電力発生の素過程からなっている。有機物は概して太陽光スペクトルに合致する吸収特性を示すものが少ないうえ、キャリア移動度が低いものが多いため、高い変換効率は達成できないことが多かった。また、有機薄膜太陽電池は完全固体型素子であるため、有機薄膜の膜性の影響を受ける。更には、有機薄膜を形成する材料分子に影響される問題があった。
【0008】
特許文献1は、フタロシアニン類及びペリレンイミド類の有機共蒸着膜を開示しているが、フタロシアニン類及びペリレンイミド類はその昇華特性から真空蒸着成膜時の成膜速度制御が極めて困難であり、ショートが発生する確率が高い問題があった。また、高度な成膜制御性が必要となるほか、フタロシアニン類は蒸着温度が高く、素子作製に必要なエネルギーが大きい問題もあった。
【0009】
特許文献2は、活性層に含有される化合物半導体粒子のイオン化ポテンシャルより大きなイオン化ポテンシャルを有する正孔阻止層を具備する有機太陽電池を開示している。しかし、イオン化ポテンシャルは正孔のエネルギーレベルを反映した値であり、電子のエネルギーレベルや移動についての規定にはならない。
【特許文献1】特開2002−76027号公報
【特許文献2】特開2004−165516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高効率な光電変換特性を示す有機薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の有機薄膜太陽電池等が提供される。
1.一対の電極と、
前記一対の電極間に挟持された2種以上の有機化合物からなる1以上の有機層を有し、
前記2種以上の有機化合物のうち、主たる2種類の有機化合物のアフィニティーレベルの差(ΔAf)が下記式(a)を満たす有機薄膜太陽電池。
0.5eV<ΔAf<2.0eV ・・・(a)
2.前記1以上の有機層のうち、少なくとも1つの有機層が2種以上の有機化合物が混合してなる混合層である1に記載の有機薄膜太陽電池。
3.前記1以上の有機層が2以上の有機層であり、
前記2以上の有機層のそれぞれが、前記2種以上の有機化合物のいずれか1つからなる1に記載の有機薄膜太陽電池。
4.前記1以上の有機層がp層を含み、
前記主たる2種類の有機化合物の少なくとも1つが、p層を形成する主たる有機化合物である1〜3のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。
5.前記p層を形成する主たる有機化合物のエネルギーギャップEgがEg≦3eVである4に記載の有機薄膜太陽電池。
6.前記p層を形成する主たる有機化合物が、アミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物である4又は5に記載の有機薄膜太陽電池。
7.前記2種以上の有機化合物が金属錯体ではない1〜6のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高効率な光電変換特性を示す有機薄膜太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の有機薄膜太陽電池は、一対の電極と、一対の電極間に挟持された2種以上の有機化合物からなる1以上の有機層(例えばp層、n層、i層及びp材料とn材料の混合層)を有し、上記2種以上の有機化合物のうち、主たる2種類の有機化合物のアフィニティーレベルの差(ΔAf)が下記式(a)を満たす。
0.5eV<ΔAf<2.0eV ・・・(a)
【0014】
有機薄膜太陽電池では外部からの電圧印加が行われないので、発生した電荷は必ずしも各電極へ移動しない場合がある。このため、電荷の逆方向への移動を防止するため、有機層を形成する材料のエネルギーレベルが重要となる。材料間でのエネルギーレベルが大きくなれば、その障壁を越えて電荷移動することが困難になり、正常な方向への電荷移動が促進される。
上記式(a)は、正常に電荷が移動するための条件である。
【0015】
本発明において、「主たる2種類の有機化合物」とは、有機層を形成する全ての有機化合物のうち、1番高い組成比(モル比)を有する有機化合物及び2番目に高い組成比(モル比)を有する有機化合物をいう。
例えば、下部電極/p層/n層/上部電極の構成を有する有機薄膜太陽電池において、有機層であるp層及びn層が有機化合物X、有機化合物Y及び有機化合物Zで形成され、有機化合物X、有機化合物Y及び有機化合物Zの組成比が、それぞれ50%、30%及び20%である場合、主たる2種類の有機化合物は有機化合物X及び有機化合物Yとなる。
上記組成比の精度は0.1%とすることができる。
【0016】
尚、1以上の有機層が3種類の有機化合物で形成され、3種類の有機化合物の組成比がそれぞれ34%、33%及び33%である場合、組成比が33%である2つの有機化合物のいずれか一方と組成比が34%である有機化合物とが式(a)を満たせばよい。
【0017】
同様に、1以上の有機層が4種類の有機化合物で形成され、4種類の有機化合物の組成比がいずれも25%である場合(均等比率の場合)、4種類の有機化合物のいずれか2つの有機化合物の組合せが式(a)を満たせばよい。
【0018】
上記2種以上の有機化合物は、好ましくは金属錯体ではない。この金属錯体としては、例えばフタロシアニン類が挙げられる。
【0019】
本発明の有機薄膜太陽電池のセル構造は、一対の電極間に1以上の有機層を有する構造であれば特に限定されない。具体的なセル構造としては、安定な絶縁性基板上に下記の構成を有する構造が挙げられる。
(1)下部電極/p層/n層/上部電極
(2)下部電極/p層/i層(又はp材料とn材料の混合層)/n層/上部電極
(3)下部電極/p材料とn材料の混合層/上部電極
及び上記(1)及び(2)の構成のp層とn層を逆にした構造が挙げられる。
また、必要に応じて、電極と有機層の間にバッファー層を設けてもよい。例えば、上記構成(1)にバッファー層を設けた場合、下記構成を有する構造が挙げられる。
(4)下部電極/バッファー層/p層/n層/上部電極
(5)下部電極/p層/n層/バッファー層/上部電極
(6)下部電極/バッファー層/p層/n層/バッファー層/上部電極
【0020】
本発明の有機薄膜太陽電池は、好ましくは1以上の有機層のいずれか1つが、2種以上の有機化合物が混合してなる混合層である。
【0021】
本発明の有機薄膜太陽電池は、好ましくは有機層が2以上の有機層であり、2以上の有機層のそれぞれが、主たる2種類の有機化合物のいずれか1つからなる。2以上の有機層を形成することで、逆方向への電荷パスの形成を抑制でき、より正常な電極方向への電荷移動を生じさせることができる。
【0022】
本発明の有機薄膜太陽電池は、好ましくは1以上の有機層がp層を含み、上記主たる2種類の有機化合物の少なくとも1つは、p層を形成する主たる有機化合物である。p層を形成する主たる有機化合物のエネルギーギャップEgは、好ましくはEg≦3eVであり、より好ましくはEg≦2.5eVである。p層を形成する有機化合物のエネルギーギャップEgがEg≦3eVを満たすことにより、動作過程における光吸収をより増加させることができる。
例えば太陽光は、紫外から可視域、さらには赤外以上の長波長域にわたる広波長域スペクトルであって、特に500〜700nm域の強度が強いので、有機薄膜太陽電池が上記要件を満たすことにより、太陽光をより効率的に吸収できる。
尚、本発明において、「p層を形成する主たる有機化合物」とは、p層を形成する全ての有機化合物のうち、1番高い組成比(モル比)を有する有機化合物をいう。
【0023】
本発明において、有機化合物のアフィニティーレベル及びエネルギーギャップは以下の方法により測定することができる。
測定対象の有機化合物を真空蒸着して膜厚50nmの有機化合物層を形成し、大気下光電子分光装置(例えば理研計器製AC−1又はAC−3)を用いることで、例えば図1の測定結果が得られ、有機化合物のイオン化ポテンシャル(Ip)を決定できる。
また、上記有機化合物層について分光装置(例えば島津製作所製UV−3100)を用いることで、例えば図2の吸収特性が得られ、吸収端波長(λedge)から有機化合物のエネルギーギャップ(Eg)を決定することができる。このようにして得られたIp及びEgから、有機化合物のアフィニティーレベル(Af=Ip−Eg)を算出することができる。
但し、本発明では、上記測定法に限定されない。用いる有機化合物が上記測定装置の範囲外の場合は、別途、上記測定法に準じた分析方法により、各パラメータを決定できる。
【0024】
本発明の有機薄膜太陽電池は、有機薄膜太陽電池で使用される公知の部材や材料を使用することができる。以下、各構成部材について説明する。
【0025】
[有機化合物層]
有機化合物層は、p層、i層、p材料とn材料の混合層及びn層を含む。p層には電子供与体として機能する有機化合物を用い、n層には電子受容体として機能する有機化合物を用いることが好ましい。
本発明では、主たる2種類の有機化合物が、電子供与体として機能する有機化合物と電子受容体として機能する有機化合物の組み合わせであると好ましい。
【0026】
電子供与体として機能する有機化合物としては、アミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物、例えば、特願2006−355358、特願2007−283102、特願2008−112795、特開2008−34764等に記載されている化合物が挙げられる。
p層に上記アミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物を用いることにより、動作過程のキャリア輸送過程における正孔輸送に好ましい。
【0027】
上記アミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物の具体例を以下に示す。
【化1】

【0028】
電子受容体として機能する有機化合物としては、C60等のフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体、多環キノン、キナクリドン等、高分子系ではCN−ポリ(フェニレン−ビニレン)、MEH−CN−PPV、−CN基又はCF基含有ポリマー、それらの−CF置換ポリマー、ポリ(フルオレン)誘導体等を挙げることができる。
上記受容体のうち、好ましくは、C60、C70等のフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ペリレン誘導体を用いる。
【0029】
電子受容体として機能する有機化合物は、好ましくは電子の移動度が高い材料又は電子親和力が小さい材料である。電子親和力の小さい材料をn層に用いることで充分な開放端電圧を実現することができる。
【0030】
上記の電子供与体として機能する有機化合物及び電子受容体として機能する有機化合物のほかに、n層にはn型特性無機半導体化合物を用いることができ、p層には正孔受容体として機能する化合物を用いることができる。
【0031】
n型特性無機半導体化合物としては、n−Si、GaAs、CdS、PbS、CdSe、InP、Nb,WO,Fe等のドーピング半導体及び化合物半導体;二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)等の酸化チタン;及び酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)等の導電性酸化物が挙げられる。
上記n型特性無機半導体化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、好ましくは酸化チタンを用い、特に好ましくは二酸化チタンを用いる。
【0032】
正孔受容体として機能する化合物としては、有機化合物であれば、N,N’−ビス(3−トリル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニルベンジジン(NPD)、4,4’,4’’−トリス(フェニル−3−トリルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等に代表されるアミン化合物;及びオクタエチルポルフィリン(OEP)、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)、亜鉛テトラフェニルポルフィリン(ZnTPP)等に代表されるポルフィリン類が挙げられる。高分子化合物であれば、ポリヘキシルチオフェン(P3HT)、メトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)等の主鎖型共役高分子類、ポリビニルカルバゾール等に代表される側鎖型高分子類等が挙げられる。
【0033】
i層は、上記p層の材料及びn層の材料をと混合して形成することができる。
【0034】
[電極]
本発明の有機薄膜太陽電池の一対の電極(上部電極及び下部電極)は、いずれか一方が光を透過する電極であればよく、例えば一対の電極の少なくとも一方が波長300〜800nmの光に対する透過率が10%以上である。尚、電極の透過率は透過率測定装置(例えば分光装置(島津製作所製UV−3100))により測定することができる。
【0035】
上部電極及び下部電極は、公知の導電性材料からなる電極を用いることができる。
p層と接続する電極としては、例えば錫ドープ酸化インジウム(ITO)、金(Au)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)等の金属からなる電極が使用できる。
n層と接続する電極としては、例えば銀(Ag)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、白金(Pt)、リチウム(Li)等の金属からなる電極、Mg:Ag、Mg:In、Al:Li等の二成分金属系からなる電極、及び上述のP層と接続する電極が使用できる。
【0036】
高効率の光電変換特性を得るためには、太陽電池の少なくとも一方の電極は、太陽光スペクトルに対して充分透明にすることが望ましい。上記透明電極は、公知の導電性材料を使用して、蒸着やスパッタリング等の方法で所定の透光性が確保するようすることで形成できる。
一対の電極は、電極の一方が仕事関数の大きな金属を含み、他方が仕事関数の小さな金属を含むと好ましい。
【0037】
[バッファー層]
有機薄膜太陽電池は、一般に総膜厚が薄い場合が多いため、上部電極及び下部電極が短絡して、セル作製の歩留まりが低下するおそれがある。当該短絡は、バッファー層を積層することで防止することができる。
【0038】
バッファー層の形成に用いる材料としては、膜厚を厚くしても短絡電流が低下しないようにキャリア移動度が充分に高い化合物が好ましい。例えば、低分子化合物であれば下記に示すNTCDAに代表される芳香族環状酸無水物等が挙げられ、高分子化合物であればポリ(3,4−エチレンジオキシ)チオフェン:ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)、ポリアニリン:カンファースルホン酸(PANI:CSA)等に代表される公知の導電性高分子等が挙げられる。
【化2】

【0039】
バッファー層は、励起子が電極まで拡散して失活してしまうのを防止する役割を持たせることも可能である。このように励起子阻止層としてバッファー層を挿入することは、高効率化のために有効である。励起子阻止層は陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。
【0040】
励起子阻止層の好ましい材料としては、例えば有機EL素子用途で公知な正孔障壁層用材料又は電子障壁層用材料等が挙げられる。正孔障壁層として好ましい材料は、イオン化ポテンシャルが充分に大きい化合物であり、電子障壁層として好ましい材料は、電子親和力が充分に小さい化合物である。
具体的には、有機EL素子用途で公知な材料であるバソクプロイン(BCP)、バソフェナントロリン(BPhen)等が陰極側の正孔障壁層材料として挙げられる。
【化3】

【0041】
上記化合物のほか、バッファー層の材料として、上記n層材料として例示した無機半導体化合物を用いてもよく、また、p型無機半導体化合物であるCdTe、p−Si、SiC、GaAs、WO等も用いることができる。
【0042】
[基板]
基板は、機械的、熱的強度を有し、透明性を有する基板が好ましく、例えばガラス基板及び透明性樹脂フィルムが挙げられる。
上記透明性樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0043】
[形成方法]
本発明の有機薄膜太陽電池の各層の形成方法は、特に限定ない。具体的には、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング、ディップコート、キャスティング、ロールコート、フローコーティング、インクジェット等の湿式成膜法を適用することができる。好ましい形成方法は、真空蒸着法である。
【0044】
乾式成膜法の場合、公知の抵抗加熱法が好ましく、混合層の形成には、例えば、複数の蒸発源からの同時蒸着による成膜方法が好ましい。さらに好ましくは、成膜時に基板温度を制御する。
【0045】
湿式成膜法の場合、各層を形成する材料を、適切な溶媒に溶解又は分散させて発光性有機溶液を調製し、薄膜を形成するが、任意の溶媒を使用できる。
上記溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン系炭化水素系溶媒や、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、メタノールやエタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、オクタン、デカン、テトラリン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒等が挙げられる。なかでも、炭化水素系溶媒又はエーテル系溶媒が好ましい。また、これらの溶媒は単独で使用しても複数混合して用いてもよい。尚、使用可能な溶媒は、これらに限定されるものではない。
【0046】
各層の膜厚は特に限定されないが、適切な膜厚に設定できる。
一般に有機薄膜の励起子拡散長は短いことが知られており、膜厚が厚すぎると励起子がヘテロ界面に到達する前に失活してしまうため、光電変換効率が低くなるおそれがある。一方、膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生して充分なダイオード特性が得られないため、変換効率が低下するおそれがある。通常の各層の膜厚は、それぞれ1nmから10μmの範囲が適しているが、5nmから0.2μmの範囲がさらに好ましい。
【0047】
本発明においては、有機薄膜太陽電池の有機層に成膜性向上、膜のピンホール防止等のため適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。
使用の可能な樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース等の絶縁性樹脂及びそれらの共重合体、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の光導電性樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂を挙げられる。
また、添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
【0049】
実施例1
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板(波長300〜800nmの光に対して透過率60%以上)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に化合物1を抵抗加熱蒸着し、透明電極を覆うようにして0.5Å/sで成膜して、膜厚30nmのp層を形成した。次に、フラーレン(C60)を抵抗加熱蒸着し、0.5Å/sで成膜してp層上に膜厚60nmのn層を形成した。BCPを抵抗加熱蒸着し、n層上に膜厚10nmのバッファー層を形成し、さらに上部電極として金属Alをバッファー層上に膜厚100nmで蒸着し、有機薄膜太陽電池を作製した。面積は0.05cmであった。
尚、有機層(p層、n層及びバッファー層)の形成に用いた有機化合物の組成比(モル比)を表1に示す。
【化4】

【0050】
作製した有機薄膜太陽電池をAM1.5条件下(入射強度(Pin)100mW/cm)でI−V特性を測定した。得られた結果である開放端電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF値)及び有機薄膜太陽電池の光電変換効率(η)を表1に示す。
尚、光電変換効率は下記式によって導出した。
【数1】

【0051】
化合物1からなる膜厚50nmの薄膜を成膜し、この膜について大気下光電子分光装置(例えば理研計器製AC−3)を用いてイオン化ポテンシャル(Ip)を測定した。また、上記化合物1からなる膜厚50nmの薄膜について、分光装置(島津製作所製UV−3100)を用いて吸収特性の吸収端波長からエネルギーギャップ(Eg)を決定した。得られたIp及びEgから、化合物1の電子親和力Af(Af=Ip−Eg)を算出した。
化合物Bについても同様にして電子親和力Afを算出し、ΔAfを算出した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例2〜7及び比較例1〜3
化合物1の代わりに表1に示す有機化合物を用いてp層を形成し、表1に示す組成比で有機層を形成した他は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【化5】

【0053】
【表1】

【0054】
表1から分かるように、ΔAfが0.5eV及び2eVを境界にして変換効率が大きく変化し、0.5<ΔAf<2.0eVの領域において、有機薄膜太陽電池は高い変換効率を有することが分かる。
【0055】
実施例8〜14及び比較例4
化合物1の代わりに表2に示す化合物を用いて、表2に示す蒸着温度でp層を形成し、面積を0.5cmとした他は実施例1と同様にして、有機薄膜太陽電池をそれぞれ10個作製した。
作製した10個の有機薄膜太陽電池をAM1.5条件下(入射強度(Pin)100mW/cm)でI−V特性を測定した。その結果、得られた有機薄膜太陽電池のI−V特性曲線が、例えば図3に示すように原点を通る線形特性を有する場合を、有機薄膜太陽電池がショートしたと定義した。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2から分かるように、p層を構成する有機化合物が金属錯体である銅フタロシアニンである場合(比較例4)と比較して、p層を構成する有機化合物が金属錯体でない場合(実施例8〜14)には、有機薄膜太陽電池がショートする数がより少なくなることが分かる。即ち、p層を構成する有機化合物として金属錯体を除くことで、歩留まりの高い有機太陽電池を作製することができる。
【0058】
実施例15
化合物1の代わりに化合物11を用いてp層を形成した他は実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、評価した。
尚、化合物11、フラーレン及びBCPの組成比(モル比)は、6:8:3であった。
その結果、Voc=0.33V、Jsc=3.6mA/cm、FF=0.44、η=0.52%及びΔAf=1.2eVであった。
【化6】

【0059】
以上の結果から分かるように、実施例15の光電変換効率と実施例1〜7の光電変換効率とを比較すると、p層を形成する主たる有機化合物は、好ましくはアミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物であるということが分かる。
【0060】
実施例16
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極付きガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間実施した。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、下部電極である透明電極ラインが形成されている側の面上に化合物4を抵抗加熱蒸着し、透明電極を覆うようにして1Å/sで成膜して、膜厚5nmのp層を形成した。次に、化合物4を0.2Å/sで及びフラーレンを0.2Å/sで共蒸着し、p層上に膜厚15nmのi層を形成した(混合比:化合物4:フラーレン=2:3(モル比))。フラーレンを抵抗加熱蒸着し、1Å/sで成膜してi層上に膜厚45nmのn層を形成した。BCPを抵抗加熱蒸着し、n層上に膜厚10nmのバッファー層を形成し、さらに上部電極として金属Alをバッファー層上に膜厚80nmで蒸着し、有機薄膜太陽電池を作製した。面積は0.5cmであった。
尚、有機層の形成に用いた化合物4、フラーレン及びBCPの組成比(モル比)は、2:3:1であった。
【0061】
作製した有機薄膜太陽電池を実施例1と同様にして評価した。その結果、Voc=0.91V、Jsc=4.2mA/cm、FF=0.451、η=1.72%及びΔAf=1.5eVであった。
【0062】
以上の結果から分かるように、実施例16の光電変換効率と実施例4の光電変換効率とを比較すると、好ましくは、少なくとも1つの有機層が2種以上の有機化合物を有する混合層であるということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の有機薄膜太陽電池は、時計、携帯電話、モバイルパソコン等の電源として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】大気下光電子分光装置を用いて得られる有機化合物層の測定結果の一例を示す図である。
【図2】分光装置を用いて得られる有機化合物の吸収特性の一例を示す図である。
【図3】ショートした有機薄膜太陽電池のI−V特性曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極間に挟持された2種以上の有機化合物からなる1以上の有機層を有し、
前記2種以上の有機化合物のうち、主たる2種類の有機化合物のアフィニティーレベルの差(ΔAf)が下記式(a)を満たす有機薄膜太陽電池。
0.5eV<ΔAf<2.0eV ・・・(a)
【請求項2】
前記1以上の有機層のうち、少なくとも1つの有機層が2種以上の有機化合物が混合してなる混合層である請求項1に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記1以上の有機層が2以上の有機層であり、
前記2以上の有機層のそれぞれが、前記2種以上の有機化合物のいずれか1つからなる請求項1に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記1以上の有機層がp層を含み、
前記主たる2種類の有機化合物の少なくとも1つが、p層を形成する主たる有機化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記p層を形成する主たる有機化合物のエネルギーギャップEgがEg≦3eVである請求項4に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項6】
前記p層を形成する主たる有機化合物が、アミノ基、カルバゾリル基又は縮合芳香族多環部位を有する有機化合物である請求項4又は5に記載の有機薄膜太陽電池。
【請求項7】
前記2種以上の有機化合物が金属錯体ではない請求項1〜6のいずれかに記載の有機薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−109161(P2010−109161A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279880(P2008−279880)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】