説明

有機酸及び/又はその塩類を含有する油脂の製造方法

【課題】油脂の安定性の向上、あるいは油脂の加熱による熱酸化の抑制、加熱臭の改善といった課題を解決するために、油脂難溶性の、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化効果、着色抑制効果を発揮する有機酸やその塩類を、効率よく油脂中に含有させることができる油脂の製造方法を提供する。
【解決手段】有機酸及び/又はその塩類を粉末の状態で油脂中に添加し、100〜190℃、0.5〜100Torrの条件下で攪拌後、ろ過して有機酸及び/又はその塩類を含有する油脂を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂難溶性の、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化効果、着色抑制効果を発揮する有機酸やその塩類を、効率よく油脂中に含有させることができる、油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境問題に対する社会的関心の高まりにより、持続可能な社会の構築に向けて、廃棄物の削減や環境負荷の低減といった観点から、環境に配慮した製品の提供が求められている。
食品の調理に欠かすことができない油脂についても、例えば、風味や色調などの品質の劣化が進みにくく、長期間安定して使用することができ、廃油を低減することで環境への負荷を低減できるような製品が望ましい。
【0003】
そこで、油脂の安定性の向上、あるいは油脂の加熱による熱酸化の抑制、加熱臭の改善といった課題を解決するために、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化剤、着色抑制剤を油脂に添加する検討が行われている。
【0004】
例えば、引用文献1には、酸化安定性に優れ、長期間保存しても風味や味の劣化が少なく、食品素材や健康食品などとして有用な油脂組成物、及びそれを含む食品を提供することを目的として、アスコルビン酸類とクエン酸類やリンゴ酸類とを組み合わせ、特に油中水型に乳化した状態にて、油脂に添加して得られる油脂組成物が提案されている。
しかしながらこの方法では、アスコルビン酸類の水溶液と乳化剤や糖液などを用いて、調製した油中水型乳化物を油脂中に添加する必要があり、製造工程が複雑であり、得られる油脂組成物には水分が多量に含まれることになるため、用途が制限されるという問題がある。
【0005】
また、引用文献2には、フライ品の加熱劣化臭を改善したフライ用油脂、並びに焦げつきがなく離型性に優れた風味の良好な炒め用油脂を提供することを目的に、油脂難溶性の有機酸を水溶液の状態で油脂中に添加し、減圧条件下で、脱水処理する油脂の製造方法が提案されているが、この方法も予め有機酸の水溶液を調製する必要があり、脱水処理を行う必要があるため、製造工程が煩雑となり、また油脂中の有機酸含有量を高くすることが困難であるという問題がある。
【0006】
このように、これまで油脂に難溶性の物質を油脂中に含有させるには、煩雑な工程が必要であり、含有量を高くする効率が良くないといった問題あり、簡便で効率よく含有量を高くすることができる製造方法への改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−235584号公報
【特許文献2】国際公開第01/096506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、油脂難溶性の、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化効果、着色抑制効果を発揮する有機酸やその塩類を、効率よく油脂中に含有させることができる油脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、有機酸及び/又はその塩類を、意外にも粉末の状態で油脂中に添加し、高温、減圧下で攪拌後、ろ過することにより、乳化物や、水溶液の状態で添加せずとも、効率よく油脂中に含有させることができるという知見を見出し、本発明の油脂の製造方法を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)有機酸及び/又はその塩類を粉末の状態で油脂中に添加し、100〜190℃、0.5〜100Torrの条件下で攪拌した後、ろ過して清澄な油脂を得ることを特徴とする、有機酸及び/又はその塩類を含有する油脂の製造方法、
(2)有機酸及び/又はその塩類がアスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である(1)記載の製造方法、
(3)100〜190℃、0.5〜100Torrの条件下で30〜120分攪拌する(1)記載の製造方法、
(4)有機酸及び/又はその塩類の粉末の平均粒子径が1000μm以下である(1)記載の製造方法
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、油脂の劣化抑制効果が期待できる有機酸及び/又はその塩のような油脂難溶性の物質を簡便な方法で、効率よく油脂中に含有させることが可能となり、安定性を向上させた油脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明で使用する油脂としては、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまわり油、こめ油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂並びに牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの組み合わせでも良いが、中鎖脂肪酸を多く含有するMCTやラウリン酸を構成脂肪酸として多く含有するヤシ油などが、本発明の製造方法において、効率よく油脂難溶性物質を油脂中に含有させることができる。
【0014】
本発明の製造方法は、油脂難溶性の、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化効果、着色抑制効果を発揮する有機酸及び/又はその塩類を油脂中に含有させることができ、さまざまな油脂難溶性の物質を油脂中に含有させることが可能となる。
【0015】
本発明の製造方法に使用することのできる有機酸及び/又はその塩類としては、特に制限なく使用することができ、例えば、アスコルビン酸、クエン酸、エリソルビン酸、リンゴ酸、及びその塩類などを挙げることができるが、これらの中でも、アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸ナトリウムを油脂中に含有させる場合に、好ましく適用できる。
これら有機酸及び/又はその塩類の油脂中への添加量としては、油脂中5〜50ppm含有されるように添加することが好ましい。
【0016】
さらに本発明の製造方法に使用することにできる有機酸及び/又はその塩類は、粉末の状態で油脂に添加することを特徴とするが、粉末の平均粒子径が1000μm以下であることが好ましい。
平均粒子径の測定には、コールターカウンター法により、測定値の体積粒子径を算出し、その50%平均粒子径を平均粒子径とする。
【0017】
本発明の製造方法により、油脂に有機酸及び/又はその塩類を油脂中に含有させる方法として、例えば油脂中にアスコルビン酸を含有させる場合、油脂の精製工程において、脱水工程の終了後に、アスコルビン酸を粉末の状態で添加し、その後、100〜190℃、0.5〜100Torrの減圧条件下で15分間〜1時間攪拌後、ろ過することにより、アスコルビン酸を含有する清澄な油脂を得ることができる。
【0018】
本発明の製造方法における、攪拌処理中の温度は、100〜190℃で行うことを特徴とするが、100℃未満では、有機酸及び/又はその塩類は油脂中に含有されず、190℃を越えると有機酸及び/又はその塩類が酸化、分解されてしまうおそれがあり、攪拌処理中の温度として、より好ましい温度は130〜150℃である。
【0019】
本発明の製造方法における、攪拌処理の時間は、30〜120分であることが好ましく、より好ましくは90分以上攪拌処理を行うのがよいが、120分を大幅に越えて攪拌処理を続けると、有機酸及び/又はその塩類の酸化、分解が起こりやすくなるおそれがある。また、攪拌後のろ過はろ布やメンブランフィルターなどの適当なろ材を用いてろ過し、外観上清澄な油脂とするのが望ましい。ろ過時の油脂温度は、油脂の酸化防止のため40〜100℃、好ましくは50〜80℃であるのが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法で得られた油脂は、従来の油脂と変わりなく様々な用途に用いることができるが、高温下で酸素と接触する機会の高いフライ用に適しており、さまざまな酸化防止効果のある物質や、抗酸化剤、着色抑制剤を含有するフライ油を得ることが可能となる。
【0021】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明する。なお、例中の%及び部はいずれも重量基準を意味する。
【実施例1】
【0022】
70℃に加温したヤシ油500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、180℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、40分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、32.8ppmであった。
【0023】
(比較例1)
70℃に加温したヤシ油500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、70℃の品温を保ったまま、真空度10Torrの減圧下で、40分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定したところ、検出限界以下であった。
【実施例2】
【0024】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、180℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、15.5ppmであった。
【0025】
(比較例2)
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、210℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定したところ、検出限界以下であった。。
【0026】
(比較例3)
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、0.2%L−アスコルビン酸水溶液を26ml添加し、70℃の品温を保ったまま、真空度10Torrの減圧下で、20分間脱水処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、11.4ppmであった。
【実施例3】
【0027】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、17.6ppmであった。
【実施例4】
【0028】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、130℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、9.6ppmであった。
【実施例5】
【0029】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、110℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、3.7ppmであった。
【実施例6】
【0030】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、5分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、3.4ppmであった。
【実施例7】
【0031】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、20分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、12.2ppmであった。
【実施例8】
【0032】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、90分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、19.5ppmであった。
【実施例9】
【0033】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、130分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、15.7ppmであった。
【実施例10】
【0034】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、180分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、10.1ppmであった。
【実施例11】
【0035】
70℃に加温した食用パームオレイン(ヨウ素価67)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、230分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、8.5ppmであった。
【実施例12】
【0036】
70℃に加温した中鎖脂肪酸トリグリセライド(ココナードMT、花王株式会社製)500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、50分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、34.7ppmであった。
【実施例13】
【0037】
70℃に加温した精製菜種油500gに対し、L−アスコルビン酸粉末(平均粒子径19.2μm)を26mg添加し、150℃まで昇温し、真空度10Torrの減圧下で、90分間攪拌処理を行った。
処理後、TOYONo.5Cろ紙(1μm相当)でろ過し、アスコルビン酸含有油脂を得た。
得られた油脂中のアスコルビン酸含量をアスコルビン酸定量法により測定すると、8.1ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸及び/又はその塩類を粉末の状態で油脂中に添加し、100〜190℃、0.5〜100Torrの条件下で攪拌した後、ろ過して清澄な油脂を得ることを特徴とする、有機酸及び/又はその塩類を含有する油脂の製造方法。
【請求項2】
有機酸及び/又はその塩類がアスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
100〜190℃、0.5〜100Torrの条件下で30〜120分攪拌する請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
有機酸及び/又はその塩類の粉末の平均粒子径が1000μm以下である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−201771(P2012−201771A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66860(P2011−66860)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】