説明

有機酸生成装置及び有機酸生成方法

【課題】有機酸の生成効率を向上する有機酸生成装置及び有機酸生成方法を提供すること。
【解決手段】酸発酵槽2を多段に構成して生汚泥を各槽2a,2bで順次酸発酵して有機酸を生成し、酸発酵槽2で生成した有機酸溶液と酸生成菌体含有汚泥とを有機酸分離装置3で分離し、酸発酵を行う酸生成菌体含有汚泥を、酸発酵槽2を構成する各槽2a,2bの何れかの槽に導入することで、当該酸生成菌体含有汚泥を導入する槽を含む下流側の各槽にあって、汚泥量/槽容積の関係から、槽を1槽として容積を同じ(多段槽の各槽の合計と同じ)とし生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥を同量導入する1槽の酸発酵槽に比して、生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥の高負荷状態を形成し、メタン発酵を抑制しつつ酸発酵を促進させて、有機酸を効率的に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生汚泥から有機酸を生成する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流入下水を最初沈殿池に導入し、この最初沈殿池に鉄又はアルミニウム系の無機凝集剤か有機高分子凝集剤を添加して固液分離し、沈降した汚泥を酸発酵槽に移送しpH調整して有機酸を生成する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−301500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記技術にあっては、有機酸の生成効率が十分では無い。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、有機酸の生成効率が向上される有機酸生成装置及び有機酸生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、有機酸の生成効率が不十分なのは、酸発酵槽へ導入される汚泥にはメタン菌が生息しているため、当該酸発酵槽でメタン菌が活性化し、有機酸が生成してもさらにメタン発酵も進行してしまうからであることを見出した。
【0006】
また、本発明者らは、このメタン発酵を抑止するには、酸発酵槽で汚泥の高負荷状態を形成する(汚泥量/槽容積を高める)ことが特に有効であることを見出した。
【0007】
そこで、本発明による有機酸生成装置は、生汚泥から有機酸を生成する有機酸生成装置において、多段に構成され各槽で生汚泥を順次酸発酵し有機酸を生成する酸発酵槽と、この酸発酵槽で生成した有機酸溶液と酸生成菌体を含有する酸生成菌体含有汚泥とを分離する有機酸分離装置と、有機酸分離装置で分離された有機酸溶液を回収する有機酸溶液回収ラインと、有機酸分離装置で分離された酸生成菌体含有汚泥を、酸発酵槽を構成する各槽の何れかの槽に導入する酸生成菌体含有汚泥導入ラインと、を具備した。
【0008】
また、本発明による有機酸生成方法は、生汚泥から有機酸を生成する有機酸生成方法において、生汚泥を、多段に構成された酸発酵槽の各槽で順次酸発酵して有機酸を生成し、この酸発酵槽で生成した有機酸溶液と酸生成菌体を含有する酸生成菌体含有汚泥とを分離して有機酸溶液を回収し、酸生成菌体含有汚泥を、酸発酵槽を構成する各槽の何れかの槽に導入することを特徴としている。
【0009】
このような有機酸生成装置及び有機酸生成方法によれば、酸発酵槽が多段に構成されて生汚泥が各槽で順次酸発酵して有機酸が生成され、酸発酵槽で生成された有機酸溶液と酸生成菌体含有汚泥とが分離され、酸発酵を行う酸生成菌体含有汚泥が、酸発酵槽を構成する各槽の何れかの槽に導入される。このため、酸生成菌体含有汚泥が導入される槽を含む下流側の各槽にあっては、汚泥量/槽容積の関係から、槽を1槽として容積を同じ(多段槽の各槽の合計と同じ)とし生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥を同量導入する1槽の酸発酵槽に比して、生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥の高負荷状態が形成され、メタン発酵が抑制されつつ酸発酵が促進されて、有機酸が効率的に生成され、有機酸が効率的に回収される。
【0010】
ここで、酸生成菌体含有汚泥導入ラインは、酸発酵槽を構成する最上流の槽に酸生成菌体含有汚泥を導入する構成であると、酸発酵槽を構成する各槽にあって、生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥の高負荷状態が形成されるため、有機酸が最も効率的に回収される。
【0011】
また、本発明者らは、メタン発酵を抑止するのは、汚泥を酸素に曝すことが有効であることを見出した。
【0012】
そこで、酸発酵槽の前段に、生汚泥を加圧浮上濃縮する又は固液分離してから酸素に曝す前処理装置と、この前処理装置で処理した分離汚泥を酸発酵槽に導入する分離汚泥導入ラインと、を備えていると、前処理装置で固液分離され酸素に曝されメタン菌の活性が抑制された分離汚泥が、酸発酵槽に導入される。このため、酸発酵槽ではメタン発酵が一層抑制されつつ酸発酵が行われ、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。
【0013】
また、酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽のpH値を検出し、このpH値に基づいて、導入槽のpH調整を行うpH調整装置を備えていると、当該pH調整装置により、メタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適なpH値に調整することで、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。なお、このpHの調整は付加的なものであるから、酸性剤やアルカリ剤の消費量は少なく済む。
【0014】
また、酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽を曝気する曝気装置を有すると共に、当該導入槽の酸化還元電位を検出し、この酸化還元電位に基づいて、曝気装置の曝気量を調整する曝気量調整装置を備えていると、汚泥を酸素に曝す曝気装置による曝気量を調整しメタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適な酸化還元電位に調整することで、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。
【0015】
また、酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽を曝気する曝気装置を有すると共に、当該導入槽の溶存酸素量を検出し、この溶存酸素量に基づいて、曝気装置の曝気量を調整する曝気量調整装置を備えていると、汚泥を酸素に曝す曝気装置による曝気量を調整しメタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適な溶存酸素量に調整することで、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。
【0016】
また、酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽の硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニアイオンの少なくとも一つのイオン濃度を検出し、このイオン濃度に基づいて、導入槽に、該当するイオンを含んだ薬品をその量を調整して供給する薬品供給装置を備えていると、硫酸イオン、硝酸イオンは酸生成菌を生息可能とし、アンモニアイオンはメタン発酵を抑制することから、その供給量を最適に調整することで、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、有機酸の生成効率を向上することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明による有機酸生成装置及び有機酸生成方法の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図1は、本発明の第1実施形態に係る有機酸生成装置を備えた排水処理設備を示す概略構成図であり、例えば下水処理場等に採用されるものである。
【0019】
図1に示すように、排水処理設備100は、下水に対して生物学的リン除去及び生物学的窒素除去を含む高度処理を行う設備である。この排水処理設備100は、最初沈殿池10、生物処理槽20、最終沈殿池30と共に有機酸生成装置50を備えている。
【0020】
排水処理設備100にあっては、下水処理場の粗目スクリーンにて粗大な木切れ等が除去され、沈砂池で比較的粒径が大きい固形物が沈降分離され、布、空き缶、ビニール類等の篩渣がスクリーンにて除去され、ポンプ井よりポンプアップされた流入下水が、ラインL1を通じて最初沈殿池10に導入される。ラインL1からの流入下水は、大部分が嫌気性の状態で導入されるため、メタン菌が生殖している。このため、酸発酵を行う際には、メタン菌の活性を抑制する必要が生じてくる。
【0021】
この流入下水は、ラインL1より最初沈殿池10に導入され、重力沈降により最初沈殿池10の底部に沈降する生汚泥とそれ以外の上澄み液とに分離される。この最初沈殿池10は、重力沈降分離が十分に行われる表面積負荷を要した容量に構成されている。ここで分離された生汚泥は図示しない汚泥掻寄機で汚泥溜まり部に掻き寄せられて、ラインL11を通じて有機酸生成装置50に送られ、一方、上澄み液は被処理水としてラインL2を通じて生物処理槽20に送られる。詳細は後述するが、有機酸生成装置50は、生汚泥を酸発酵し、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸を含んだ有機酸溶液をラインL20から排出する。
【0022】
生物処理槽20は、例えば、A2O法と呼ばれる活性汚泥法による生物処理を行う槽であり、嫌気槽20a、無酸素槽20b、好気槽20cをこの順に備えている。ラインL2から嫌気槽20aに導入された上澄み液である被処理水は、嫌気槽20a、無酸素槽20b、好気槽20cの順に送られながら、それぞれの槽で嫌気性処理、無酸素処理、好気性処理が行われ、この嫌気槽20aに、有機酸生成装置50からラインL20を通じて有機酸溶液が供給されることで脱リンが促進され、好気槽20cの滞留液が無酸素槽20bに導入されることで生物学的脱窒が促進される。
【0023】
ラインL3を介して最終沈殿池30に送られた生物処理水は、浮遊する活性汚泥を沈降分離させた後、ラインL5を通じて排出され、図示しない設備において三次処理や滅菌処理が行われた後、河川等に放流される。沈降した活性汚泥の一部はラインL4を通じて嫌気槽20aに導入され、残りは、図示しない汚泥処理槽に送られて処理される。
【0024】
上記有機酸生成装置50は、酸発酵槽2、有機酸分離槽3をこの順にラインL8を介して備えると共に、この有機酸分離槽3の分離液側にラインL9を介して有機酸貯槽4を備えている。この有機酸貯槽4には、上記ラインL20を介して嫌気槽20aが接続されている。また、有機酸分離槽3の分離汚泥側にはラインL10を介して酸発酵槽2が接続され、さらに、酸発酵槽2及び有機酸分離槽3の排出側にはラインL13が接続されている。
【0025】
酸発酵槽2は、特に本実施形態の特徴を成すもので、多段(本実施形態では2段)に構成され前段槽2a及び後段槽2bを備える構成とされている。この酸発酵槽2は、ラインL11から前段槽2a、後段槽2bに順次導入される生汚泥を、各々の槽2a,2bに設けられている撹拌機2c,2dにより撹拌しながら、汚泥中の有機物を酸生成菌により酸発酵させて有機酸を生成するものである。
【0026】
有機酸分離槽(有機酸分離装置)3は、ここでは沈殿槽であり、酸発酵槽2で生成した有機酸溶液と酸生成菌体を含有する酸生成菌体含有汚泥とを分離するものである。なお、この沈殿槽に代えて例えば膜分離槽(膜分離装置)等の固液分離装置を用いることができる。
【0027】
有機酸貯槽4は、有機酸分離槽3で分離された有機酸溶液を回収し一旦貯留するためのものであり、上流の有機酸分離槽3と有機酸貯槽4とを接続するラインL9が、有機酸溶液を回収する有機酸溶液回収ラインに相当する。
【0028】
また、有機酸分離槽3の分離汚泥側と酸発酵槽2とを接続するラインL10は、酸生成菌体含有汚泥導入ラインであり、有機酸分離槽3で分離した酸生成菌体含有汚泥を酸発酵槽2に導入するためのものである。
【0029】
また、酸発酵槽2及び有機酸分離槽3に接続されるラインL13は、酸発酵槽2及び有機酸分離槽3の残渣を系外へ排出するためのものである。この残渣は、例えば脱水―焼却等の処理に供される。
【0030】
このように構成された有機酸生成装置50にあっては、ラインL11を介して酸発酵槽2に生汚泥が導入される。この生汚泥には、前述したように、メタン菌が生息している。この生汚泥は、酸発酵槽2の前段槽2a、後段槽2bで順次酸発酵され有機酸が生成される。
【0031】
この酸発酵槽2で生成された有機酸溶液は、ラインL8を介して有機酸分離槽3に導入され、当該有機酸分離槽3で、有機酸溶液と酸生成菌体含有汚泥とに分離され、分離液である有機酸溶液はラインL9を介して回収され、ラインL20を介して嫌気槽20aに供給されて脱リンに利用される。
【0032】
一方、有機酸分離槽3での分離汚泥である酸生成菌体含有汚泥は、酸生成菌体含有汚泥導入ラインL10を介して酸発酵槽2の前段槽2aに導入される。従って、前段槽2aは、酸生成菌体含有汚泥導入ラインL10により酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽に相当し、前段槽2aには、上記生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥が導入される。そして、各槽(酸生成菌体含有汚泥が導入される槽を含む下流側の各槽)2a,2bにあっては、汚泥量/槽容積の関係から、槽を1槽として容積を同じ(前段槽2a、後段槽2bの合計と同じ)とし生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥を同量導入する1槽の酸発酵槽に比して、生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥の高負荷状態が形成される。
【0033】
ここで、本発明者らの実験によると、酸発酵槽で汚泥の高負荷状態を形成する(汚泥量/槽容積を高める)と、メタン発酵が抑制されつつ酸発酵が促進されることが確認されている。従って、この多段に構成した酸発酵槽2では、有機酸が効率的に生成され、この効率的に生成された有機酸がラインL9を通して回収される。
【0034】
このように、本実施形態においては、酸発酵槽2が多段に構成されて、酸発酵槽2で生成され有機酸分離槽3で分離された酸生成菌体含有汚泥が、酸発酵槽2の前段槽2aに導入されるため、各槽2a,2bでは生汚泥及び酸生成菌体含有汚泥の高負荷状態が形成され、メタン発酵が抑制されつつ酸発酵が促進され、有機酸が効率的に生成される。
【0035】
図2は、本発明の第2実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。この第2実施形態の有機酸生成装置60が、第1実施形態の有機酸生成装置50と違う点は、酸発酵槽2の前段に、ラインL11からの生汚泥を固液分離し酸素に曝す前処理装置1を設け、この前処理装置1で分離した分離汚泥を酸発酵槽2に導入する分離汚泥導入ラインL7を設けた点である。
【0036】
ここで、本実施形態にあっては、前処理装置1として加圧浮上濃縮槽が用いられている。この加圧浮上濃縮槽1は、導入される生汚泥を空気中の酸素に曝しながら固液分離するもので、大別して全量加圧法、部分加圧法、循環加圧法によるものがある。
【0037】
全量加圧法によるものは、生汚泥を加圧ポンプで加圧して圧縮空気と混合し、浮上槽1に導入して浮上濃縮するものであり、部分加圧法によるものは、生汚泥の一部を加圧ポンプで加圧して圧縮空気と混合した後、生汚泥の残量と共に、浮上槽1に導入して浮上濃縮するものであり、循環加圧法によるものは、浮上槽1で分離された分離液を加圧ポンプで加圧して圧縮空気と混合した後、例えばエジェクター等により生汚泥と混合して浮上槽1に導入して浮上濃縮するものであり、生汚泥の採取量等によりランニングコストを低減する方法が適宜採用される。
【0038】
このように構成された有機酸生成装置60にあっては、ラインL11からの生汚泥が、空気中の酸素に曝されながら固液分離される。この導入される生汚泥には、前述したようにメタン菌が生息しているが、加圧浮上濃縮槽1での固液分離時に酸素に曝されるため、メタン菌の活性が抑制される。その理由について以下に説明する。
【0039】
図3は、本発明者らによる実験結果であって、曝気した生汚泥の酸化還元電位の差によるメタンガス発生状況を経時的に示す線図である。横軸は時間(h)を表し、縦軸はメタンガス発生量(ml)を表している。この図中にあって、×印は、曝気をせずに酸化還元電位が−400mVの場合を、黒三角印は、酸化還元電位を−70mVに保持して曝気した場合を、三角印は、酸化還元電位を−50mVに保持して曝気した場合を、四角印は酸化還元電位を−23mVに保持して曝気した場合を各々示している。
【0040】
図3より明らかなように、汚泥を曝気しない×印の場合には、メタン菌が直ぐ増殖し始め、約15時間後には殆どがメタンガス化する。一方、酸化還元電位を−70mVに保持した黒三角印の場合には、徐々にメタン菌が増殖し、約15時間後には、曝気しない場合の約1/6までメタンガスの発生が抑制され、約45時間後においても、曝気しない場合の約1/3のメタンガスの発生となる。また、酸化還元電位を−50mVに保持した三角印、酸化還元電位を−23mVに保持した四角印の場合には、メタンガスの発生が極端に少なく、曝気しない場合の約1/10までメタンガスの発生が抑制される。
【0041】
このように、酸素雰囲気下では、汚泥中のメタン菌の活性が抑制されているのが分かる。そして、加圧浮上濃縮槽1は、汚泥の分離回収とメタン菌の活性の抑制を一度に両方できるため好適である。なお、前処理装置1として、汚泥の分離回収とメタン菌の活性の抑制を一度に両方でき特に好適であるとして加圧浮上濃縮槽を用いているが、この加圧浮上濃縮槽に代えて、生汚泥を固液分離する固液分離手段と、この固液分離手段で分離された分離汚泥を酸素に曝す曝露手段とを有する前処理装置を用いることも可能である。また、例えば冬季等にあっては、前処理装置1で分離された分離液を酸発酵槽2に導入するようにしても良い。
【0042】
そして、加圧浮上濃縮槽1からのメタン菌の活性が抑制された分離汚泥は、図2に示すように、ラインL7を介して、多段に構成された酸発酵槽2に導入される。
【0043】
従って、多段槽2a,2bとすることよりメタン菌の活性が抑制される効果に加えて、最初沈殿池10からの生汚泥が、酸発酵槽2の導入前に酸素に曝されてメタン菌の活性が抑制されるため、酸発酵槽2では、メタン発酵が一層抑制されつつ酸発酵が行われ、有機酸が一層効率的に生成される。
【0044】
図4は、本発明の第3実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。この第3実施形態の有機酸生成装置70が、第2実施形態の有機酸生成装置60と違う点は、酸発酵槽2の前段槽2a(酸生成菌体含有汚泥導入ラインL10により酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽)のpH値を検出し、このpH値に基づいて、前段槽2aのpH調整を行うpH調整装置75を設けた点である。
【0045】
このpH調整装置75は、前段槽2aのpH値を検出するpHセンサ75aと、例えば塩酸等の酸性剤75b、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリ剤75cを前段槽2aに供給する酸性剤/アルカリ剤供給部75dと、pHセンサ75aで検出したpH値に基づいて、酸性剤/アルカリ剤供給部75dの供給を制御しpHを調整する制御手段75eと、を備えている。
【0046】
このようなpH調整装置75によれば、pHセンサ75aにより前段槽2aのpH値が検出され、このpH値に基づいて、メタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適なpH値となるように、制御手段75eにより酸性剤/アルカリ剤供給部75dの供給が制御されて酸性剤75b/アルカリ剤75cが前段槽2aに供給される。
【0047】
ここで、pH値は液温にもよるが、pH4.5〜5.5とするのが好ましく、pH4.5〜4.8とするのがより好ましい。
【0048】
そして、酸発酵槽2にあっては、多段槽2a,2bとすることによりメタン菌の活性が抑制される効果に加えて、最初沈殿池10側の汚泥中のメタン菌、及び、嫌気性状況にある酸発酵槽2、有機酸分離槽3を経る間にメタン菌が増殖している虞があるラインL10からの酸生成菌体含有汚泥中のメタン菌の活性が、pH調整により抑制されるため、酸発酵槽2では、メタン発酵が一層抑制されつつ酸発酵が行われ、有機酸が一層効率的に生成される。なお、このpHの調整は付加的なものであるから、酸性剤やアルカリ剤の消費量は少なく済む。
【0049】
図5は、本発明の第4実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。この第4実施形態の有機酸生成装置80が、第3実施形態の有機酸生成装置70と違う点は、前段槽2aのpH値を調整するpH調整装置75に代えて、前段槽2aを曝気すると共にその曝気量を調整する曝気量調整装置85を用いた点である。
【0050】
この曝気量調整装置85は、前段槽2aの酸化還元電位を検出するORP計(酸化還元電位検出計)85aと、前段槽2aに設けられる散気管85bにブロア85cを接続して成る曝気装置85dと、ORP計85aで検出した酸化還元電位に基づいて、曝気装置85dのブロア85cの駆動を制御し曝気量を調整する制御手段85eと、を備えている。
【0051】
このような曝気量調整装置85によれば、ORP計85aにより前段槽2aの酸化還元電位が検出され、この酸化還元電位に基づいて、メタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適な酸化還元電位となるように、制御手段85eによりブロア85cの駆動が制御されて前段槽2aが曝気される。
【0052】
ここで、先に図3を用いて説明したように、酸化還元電位が約−50mV(三角印)〜約−23mV(四角印)となるように曝気量を調整し酸素に曝すのが好ましい。
【0053】
そして、酸発酵槽2にあっては、多段槽2a,2bとすることによりメタン菌の活性が抑制される効果に加えて、最初沈殿池10側の汚泥中のメタン菌、及び、嫌気性状況にある酸発酵槽2、有機酸分離槽3を経る間にメタン菌が増殖している虞があるラインL10からの酸生成菌体含有汚泥中のメタン菌の活性が、曝気量の調整により抑制されるため、酸発酵槽2では、メタン発酵が一層抑制されつつ酸発酵が行われ、有機酸が一層効率的に生成される。
【0054】
なお、ORP計85aに代えて、溶存酸素量を検出するDO計(溶存酸素量検出計)を用いると共に、制御手段85eに代えて、DO計で検出した溶存酸素量に基づいて、曝気装置85dのブロア85cの駆動を制御し曝気量を調整する制御手段を用いるようにしても良い。
【0055】
このような構成によれば、DO計により前段槽2aの溶存酸素量が検出され、この溶存酸素量に基づいて、メタン発酵を抑制しつつ酸発酵を行う最適な溶存酸素量となるように、制御手段によりブロア85cの駆動が制御されて前段槽2aが曝気される。
【0056】
ここで、溶存酸素量が+0.0となるように曝気量を調整し酸素に曝すのが好ましい。
【0057】
そして、このような構成であっても、前述した酸化還元電位に基づく曝気の場合と同様な作用・効果を奏するというのはいうまでもない。
【0058】
図6は、本発明の第5実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。この第5実施形態の有機酸生成装置90が、第3実施形態の有機酸生成装置70と違う点は、前段槽2aのpH値を調整するpH調整装置75に代えて、前段槽2aに所定の薬品をその量を調整して供給する薬品供給装置95を用いた点である。
【0059】
この薬品供給装置95は、前段槽2aの硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニアイオンの少なくとも一つのイオン濃度を検出するイオン分析計95aと、該当するイオンを含む薬品を前段槽2aに供給する薬品供給部95bと、イオン分析計95aで検出したイオン濃度に基づいて、薬品供給部95bの供給を制御しその供給量を調整する制御手段95cと、を備えている。
【0060】
このような薬品供給装置95によれば、イオン分析計95aにより前段槽2aの硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニアイオンの少なくとも一つのイオン濃度が検出され、このイオン濃度に基づいて、制御手段95cにより薬品供給部95bの供給が制御されて該当するイオンを含む薬品が前段槽2aに供給される。
【0061】
ここで、硫酸イオン、硝酸イオンは酸生成菌を生息可能とし、アンモニアイオンはメタン発酵を抑制する。これらのイオン濃度としては、硫酸イオンでは約1%以上、硝酸イオンでは約0.5%以上、アンモニアイオンでは約0.5%以上とするのが好ましい。
【0062】
そして、酸発酵槽2にあっては、多段槽2a,2bによるメタン菌の活性の抑制効果に加えて、薬品の供給量を最適に調整することで、有機酸が一層効率的に生成され、有機酸が一層効率的に回収される。
【0063】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、酸生成菌体含有汚泥を、酸発酵槽2への汚泥導入ラインL11又は分離汚泥導入ラインL7に導入するようにしているが、酸発酵槽2の前段槽2aに直接導入するようにしても良い。
【0064】
また、上記第3〜第5実施形態においては、最初沈殿池10からの生汚泥のメタン菌の活性を抑制し特に好ましいとして、酸発酵槽2の前段に前処理装置1を設けているが、第1実施形態のように前処理装置1が無くても本発明効果が妨げられるものでは無い。
【0065】
また、上記実施形態においては、2段の酸発酵槽2に対する適用を述べているが、3段以上の酸発酵槽に対しても適用可能である。
【0066】
また、上記実施形態においては、特に効果が顕著にあるとして、酸生成菌体含有汚泥を酸発酵槽を構成する最上流の槽に導入するようにしているが、酸発酵槽を構成する他の槽に導入するようにしても良い。しかしながら、上流側の槽に導入するのがより好ましい。この場合には、上記pH調整装置75、曝気量調整装置85、薬品供給装置95を、酸生成菌体含有汚泥導入ラインL10により酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽に対して設けることが好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、上記効果を確認すべく本発明者が実施した実施例1及び比較例1について述べる。結果は表1に示す。
【0068】
(実施例1)
図7に示すように、上記第1実施形態の基本型の有機酸生成装置を採用すると共に酸発酵槽を3段の槽12とし、酸生成菌体含有汚泥導入ラインL10により酸生成菌体含有汚泥を最上流である1段目の槽12aに導入するようにした。各槽12a,12b,12cの容量を各々Q/3とし酸発酵槽全体の容量をQとした。酸発酵槽12の滞留時間を4.5日、液温度を30°C、pHを5.5とし、テストは3回行いテスト1〜3とした。
【0069】
(比較例1)
図8に示すように、実施例1の酸発酵槽12を1槽の酸発酵槽112とした点以外は実施例1と同様とし、酸発酵槽112の容量をQとした。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より明らかなように、実施例1は、1段目の槽12aのメタンガス発生量が極端に少なく、3槽12a,12b,12cより発生するメタンガスのトータル量が、比較例1に比して大幅に少ないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機酸生成装置を備えた排水処理設備を示す概略構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。
【図3】曝気した生汚泥の酸化還元電位の差によるメタンガス発生状況を経時的に示す線図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る有機酸生成装置を示す概略構成図である。
【図7】実施例1の構成を示す概略図である。
【図8】比較例1の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0073】
1…加圧浮上濃縮装置(前処理装置)、2,12…酸発酵槽、2a,2b,12a,12b,12c…酸発酵槽の各槽、3…有機酸分離装置、50,60,70,80,90…有機酸生成装置、75…pH調整装置、75a…pHセンサ、75d…酸性剤/アルカリ剤供給部、75e…pH調整装置の制御手段、85…曝気量調整装置、85a…ORP計(DO計)、85b…散気管(曝気装置)、85c…ブロア(曝気装置)、85d…曝気装置、85e…曝気量調整装置の制御手段、95…薬品供給装置、95a…イオン分析計、95b…薬品供給部、95c…薬品供給装置の制御手段、100…排水処理設備、L7…分離汚泥導入ライン、L9…有機酸溶液回収ライン、L10…酸生成菌体含有汚泥導入ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生汚泥から有機酸を生成する有機酸生成装置において、
多段に構成され各槽で前記生汚泥を順次酸発酵し有機酸を生成する酸発酵槽と、
この酸発酵槽で生成した有機酸溶液と酸生成菌体を含有する酸生成菌体含有汚泥とを分離する有機酸分離装置と、
前記有機酸分離装置で分離された有機酸溶液を回収する有機酸溶液回収ラインと、
前記有機酸分離装置で分離された酸生成菌体含有汚泥を、前記酸発酵槽を構成する各槽の何れかの槽に導入する酸生成菌体含有汚泥導入ラインと、を具備した有機酸生成装置。
【請求項2】
前記酸生成菌体含有汚泥導入ラインは、前記酸発酵槽を構成する最上流の槽に前記酸生成菌体含有汚泥を導入することを特徴とする請求項1記載の有機酸生成装置。
【請求項3】
前記酸発酵槽の前段に、前記生汚泥を加圧浮上濃縮する又は固液分離してから酸素に曝す前処理装置と、
この前処理装置で処理した分離汚泥を前記酸発酵槽に導入する分離汚泥導入ラインと、を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の有機酸生成装置。
【請求項4】
前記酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより前記酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽のpH値を検出し、このpH値に基づいて、前記導入槽のpH調整を行うpH調整装置を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機酸生成装置。
【請求項5】
前記酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより前記酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽を曝気する曝気装置を有すると共に、当該導入槽の酸化還元電位を検出し、この酸化還元電位に基づいて、前記曝気装置の曝気量を調整する曝気量調整装置を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機酸生成装置。
【請求項6】
前記酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより前記酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽を曝気する曝気装置を有すると共に、当該導入槽の溶存酸素量を検出し、この溶存酸素量に基づいて、前記曝気装置の曝気量を調整する曝気量調整装置を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機酸生成装置。
【請求項7】
前記酸生成菌体含有汚泥導入ラインにより前記酸生成菌体含有汚泥が導入される導入槽の硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニアイオンの少なくとも一つのイオン濃度を検出し、このイオン濃度に基づいて、前記導入槽に、該当するイオンを含んだ薬品をその量を調整して供給する薬品供給装置を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機酸生成装置。
【請求項8】
生汚泥から有機酸を生成する有機酸生成方法において、
前記生汚泥を、多段に構成された酸発酵槽の各槽で順次酸発酵して有機酸を生成し、
この酸発酵槽で生成した有機酸溶液と酸生成菌体を含有する酸生成菌体含有汚泥とを分離して有機酸溶液を回収し、
前記酸生成菌体含有汚泥を、前記酸発酵槽を構成する各槽の何れかの槽に導入することを特徴とする有機酸生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−98275(P2007−98275A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291272(P2005−291272)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】