説明

有機金属錯体及びこれを有する有機発光素子

【課題】青色燐光発光素子のゲスト材料として有用な有機金属錯体及び、発光効率が高い有機発光素子を提供する。
【解決手段】一般式[1]で示される有機金属錯体。一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。スルホン基とエーテル基とが結合し5員環又は6員環を形成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体及びこれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、一対の電極とそれらの間に配置される有機化合物層とを有する素子である。これら一対の電極から電子および正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態にもどる際に光を放出する。
【0003】
近年、有機発光素子の発光効率を向上させる試みとして、三重項励起子を経由した燐光発光を利用する有機発光素子の開発が盛んに行われている。燐光発光を用いた有機発光素子は、蛍光発光のものよりも約4倍の発光効率向上が期待される。
【0004】
このような燐光発光性化合物としては、例えば、特許文献1には、トリフルオロメチル基が置換されたフェニルピリジン配位子を有するイリジウム錯体が開示されている。
【0005】
更に、特許文献2には、フッ素置換された2つのフェニルピリジン配位子と単座配位子が2種類配位したイリジウム錯体が開示されている。
【0006】
発光波長の短波長化技術に関しては、上述した技術、即ちフェニルピリジン配位子に対するフッ素原子やトリフルオロメチル基の導入の他に、シアノ基、スルホン基等の電子吸引基を導入する技術も知られている。
【0007】
また、非特許文献1には、スルホン基を導入した有機金属錯体が開示されている。該有機金属錯体は、スルホン基がベンゼン環に置換したフェニルピリジンとアセチルアセトンが配位したイリジウム錯体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2004−503059号公報
【特許文献2】特開2005−139185号公報
【非特許文献1】Chemistry−A European Journal第15巻1号136−148頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているイリジウム錯体は、発光波長がやや長く、青色発光材料にはならない。
特許文献2に開示されているイリジウム錯体は、発光効率が十分ではない。
本発明は、青領域の発光を発し、かつ発光効率が高い有機金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
よって、本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体を提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アルキル基は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。
一般式[1]におけるスルホン基とエーテル基とが結合し5員環又は6員環を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発光効率の高い有機金属錯体を提供できる。そしてそれを有する発光効率が高い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有機発光素子と、この有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体である。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アルキル基は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。
炭素数1以上4以下のアルキル基とは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基である。
【0018】
一般式[1]におけるスルホン基と隣り合うエーテル基とが結合し5員環又は6員環を形成してもよい。
すなわち、R1とR2とが互いに結合し、5員環または6員環を形成する。5員環を形成することはR1とR2とで一つの炭素原子を表すことである。
【0019】
(本発明に関わる有機金属錯体の性質について)
本発明に係る有機金属錯体は、分子構造中のフェニル基がスルホン基およびアルコキシ基を有するため、発光波長が短く、発光効率が高い。
【0020】
本実施形態において、青領域とは450nm以上480nm以下の波長の光を示す。
【0021】
非特許文献1には、スルホン基が置換したフェニルピリジンとジケトンを配位子に用いた有機金属錯体が記載されている。
【0022】
下記の表1に、非特許文献1に記載の有機金属錯体の発光波長(実測値)を示す。
4−SO2Rと示すものが、非特許文献1に記載の有機金属錯体であり、aで表される化合物は、本発明との比較のための化合物である。
【0023】
【表1】

【0024】
非特許文献1に記載された化合物は、分子構造中のフェニル基がスルホン基を有しているが、アルコキシ基を有していない。
【0025】
それに対して、aで示される有機金属錯体は、スルホン基とアルコキシ基との両方を有している。
【0026】
表1において、4−SO2Rの発光波長は498nmである。
【0027】
aで示される有機金属錯体は、スルホン基の隣の5位にメトキシ基を設けることで、発光波長が短波化している。
【0028】
aで示される有機金属錯体の発光波長は、480nmであり、4−SO2Rよりも18nm短波長化している。
【0029】
これは、4位のスルホン基の電子吸引効果に加え、5位に電子吸引性を持つメトキシ基を設けたことによる効果である。
【0030】
本発明に係る化合物は、aで示される有機金属錯体が2つ有する配位子を3つ有する有機金属錯体である。
【0031】
すなわち、本発明に係る化合物は、aで示される化合物よりもスルホン基およびメトキシ基が多いので、発光波長は短波になる。
【0032】
本発明に係る有機金属錯体は、3つ有するフェニルピリジン配位子のうちすべてにスルホン基とアルコキシ基の両方を有するので、発光効率の高い青発光を得ることができる。
【0033】
本発明の有機金属錯体は、溶液中における発光の量子収率が高いので、本発明の有機金属錯体を有機発光素子の構成材料として使用すると、その有機発光素子は高い発光効率となることが期待できる。
【0034】
従って、本発明に係る有機金属錯体を発光材料として用いた場合、高色純度で、且つ高効率の青色有機発光素子を得ることができる。
【0035】
(本発明に関わる有機化合物の例示)
本発明に係る有機金属錯体の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
(合成ルートの説明)
本発明に係る化合物の合成ルートの一例を説明する。一般式[1]で示される有機金属錯体は、特表2008−543971号公報、Journal of Medicinal Chemistry,第24巻、11号、1348〜1353項(1981年)、Inorganic Chemistry,第40巻、第7号、1704〜1711頁(2001年)、Journal of Heterocyclic Chemistry,第19巻、1号、135〜139項(1982年)等を参照しながら合成することができる。具体的には、以下の工程を経て合成することができる。
(i)配位子となる有機化合物の合成
(ii)有機金属錯体の合成。
【0039】
ここで、配位子となる有機化合物は、例えば、以下のように合成することが出来る。
【0040】
【化5】

【0041】
配位子は、化合物A−1を塩基性条件下、ジメチル硫酸で処理することで得られる。化合物A−3は、例えばPd触媒存在下、A−2とビスピナコールボランを反応させる事で得られる。化合物A−5は、トルエンとエタノールと蒸留水の混合溶媒中、炭酸ナトリウムおよび触媒としてPd(PPh存在下、ピナコールボラン体A−3とA−4を反応させることにより得ることができる。
【0042】
また、A−4を換えることで種々の有機化合物を合成することができる。
【0043】
上記合成ルート等で合成された配位子を用いて、以下に示す合成法により本発明に係る有機金属錯体を合成することができる。
【0044】
イリジウム錯体は、以下のように3段階で合成することが出来る。
【0045】
【化6】

【0046】
(本実施形態に係る有機発光素子の説明)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0047】
本実施形態に係る有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極である陽極と陰極とそれらの間に配置されている有機化合物層とを少なくとも有する有機発光素子である。
【0048】
前記有機化合物層のうち燐光発光材料を有する層が発光層である。そして本発明に係る有機発光素子は、前記有機化合物層が一般式[1]で示される有機金属錯体を含有する。
【0049】
本実施形態に係る有機発光素子が有する有機化合物層は単層であっても複数層であってもよい。複数層とは、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層、励起子拡散阻止層等から適宜選択される層である。
【0050】
もちろん、上記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。例えば、一対の電極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を有する有機発光素子が挙げられる。
【0051】
また、発光層を複数有し、それぞれの素子が異なる発光色を有していてもよい。
【0052】
複数の発光層を有する発光素子は、一対の電極の間に複数の発光層を有してもよい。例えば、陽極と陰極との間に赤色緑色青色をそれぞれ発する発光層を積層する構成が挙げられる。
【0053】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0054】
その場合の素子形態は、基板とは逆側から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0055】
本実施形態に係る有機発光素子は、有機化合物層が複数である場合、有機化合物層のいかなる層が有していてもよい。例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層及び電子輸送層のいずれかである。好ましくは、発光層である。
【0056】
本実施形態に係る有機発光素子において、発光層は本発明に係る有機金属錯体のみで構成されていてもよいが、好ましくは、ホスト材料とゲスト材料とを有することが好ましい。さらに、アシスト材料を有していてもよい。
【0057】
ここでホスト材料とは、発光層の中で最も重量比が大きい化合物であり、マトリックスとして存在する化合物であって、主としてキャリアの輸送及びゲストへの励起エネルギー供与の機能を担う化合物である。
【0058】
ゲスト材料とは、発光層の中で重量比がホスト材料よりも小さく、主たる発光を担う化合物である。
【0059】
アシスト材料とは、発光層の中で重量比がホスト材料よりも小さく、ゲスト材料の発光を助けるものである。アシスト材料は第二ホスト材料やホスト材料2とも呼ばれる。
【0060】
なお、本実施形態に係る有機金属錯体をゲスト材料として用いる場合、発光層全体に対するゲスト材料の濃度は0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0061】
本実施形態に係る有機発光素子は本発明に関わる有機金属錯体以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系または高分子系の化合物と一緒に使用することができる。
【0062】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0063】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0064】
ホスト材料としては、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばフルオレン誘導体、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体など)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)およびポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。ホスト材料は、トリフェニレン誘導体を有する化合物とすることが特に好ましい。
【0065】
ここでトリフェニレン誘導体とは、分子構造中にトリフェニレン骨格を有する化合物である。
【0066】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピリジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。さらに、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、またはそれらの塩をドープして用いてもよい。
【0067】
陽極材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0068】
一方、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0069】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に関わる有機金属錯体を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。
【0070】
一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。
【0071】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0072】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0074】
(本実施形態に係る有機発光素子の用途)
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどに用いることができる。
【0075】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子を有する。
【0076】
ここで、スイッチング素子は、この有機発光素子の陽極または陰極と薄膜トランジスタのドレイン電極またはソース電極とが接続されている。
【0077】
表示装置はPC、ヘッドマウントディスプレイ、携帯電話等の画像表示装置として用いることができる。表示される画像は、二次元画像、三次元画像を問わない。
【0078】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。
【0079】
画像出力装置は、画像入力部をCCDセンサ等の撮像素子とし、撮像光学系を有するデジタルカメラであってもよい。
【0080】
表示装置は、出力されている画像に触れることで入力できる入力機能を有していてもよい。例えば、タッチパネル機能等が挙げられる。
【0081】
また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0082】
本実施形態に係る有機発光素子は照明装置に用いられてもよい。この照明装置は、本実施形態に係る有機発光素子と有機発光素子に接続されたインバータ回路とを有する。
【0083】
本実施形態に係る照明装置の照明光の色は、白色でも、昼白色でも、その他の色でもよい。
【0084】
白色、昼白色の場合、照明装置は本実施形態に係る化合物以外の化合物を有してもよい。
すなわち、白色や昼白色は、本実施形態に係る化合物とは異なる発光色を発する化合物との混色により得られる色でもよい。
【0085】
次に、本実施形態に係る有機発光素子を有する表示装置について図1を用いて説明する。
【0086】
図1は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0087】
図1の表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極である。符号4はゲート絶縁膜であり、符号5は半導体層である。
【0088】
薄膜トランジスタ8は、半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。薄膜トランジスタ8の上部には絶縁膜9が設けられ、コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。
【0089】
表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方と薄膜トランジスタソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0090】
有機化合物層12は本図では簡略化して1つの層として図示しているが、実際には多層の有機化合物層からなってもよい。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0091】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、トランジスタやMIM素子を用いてよい。トランジスタは単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、アモルファスシリコン型のトランジスタ素子等を用いてもよい。薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0092】
有機発光素子はスイッチング素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0093】
また、Si基板上にアクティブマトリクスドライバーを作製し、その上に有機発光素子を設けて制御することも可能である。
【0094】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設ける方が好ましい。
【0095】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、安定な長時間表示が可能になる。
【実施例】
【0096】
(実施例1)
[例示化合物(2)の合成]
【0097】
【化7】

【0098】
【化8】

【0099】
(1)化合物A−2の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
亜硫酸ナトリウム:4.14g(32.8mmol)
炭酸水素ナトリウム:2.90g(34.5mmol)
水:18ml
この懸濁液を80℃で撹拌し、A−1(スルホニルクロライド、5.0g、17.5mmol)を少しずつ20分間にわたって加えた。80℃で6時間撹拌した後、室温で16時間撹拌した。析出した固体を、濾過により採取し、高真空化で乾燥した。乾燥した固体(4.8g)を炭酸水素ナトリウム(2.90g、33.3mmol)、ジメチル硫酸(2.5ml、26.3mmol)及び水(6.5ml)の混合液に加えた。この懸濁液を120℃で8時間加熱した後、室温まで冷却し、分液ロートに移し水を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮し、目的物であるA−2(3.21g、69%)を得た。
【0100】
(2)化合物A−3の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
化合物A−2:2.50g(9.43mmol)
ビスピナコールジボラン:3.59g(14.1mmol)
PdCl2(dppf)・CH2Cl2:385mg(0.47mmol)
酢酸カリウム:2.78g(28.3mmol)
ジオキサン:40ml
窒素気流下、この懸濁液を90℃で8時間撹拌した後、室温まで冷却した。無機物をセライト濾過により除去し、酢酸エチルで洗浄した。濾液を減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;へプタン:酢酸エチル=2:1)で精製し、A−3を1.94g(収率66%)得た。
【0101】
(3)化合物A−5の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
化合物A−3:1.60g(5.13mmol)
化合物A−4:654mg(5.13mmol)
トルエン:30ml
エタノール:10ml
10重量%炭酸セシウム水溶液:20ml
この反応液に、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)(296mg、0.26mmol)を加え、90℃に加熱して7時間攪拌を行った。冷却後、水を加え、分液抽出を行った。有機層を減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;へプタン:トルエン=20:1)で精製し、A−5を1.20g(収率85%)得た。
【0102】
(4)化合物A−6の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
イリジウム(III)・3水和物:(850mg、2.40mmol)
化合物A−5:1.50g(5.41mmol)
エトキシエタノール:20ml
水:10ml
反応溶液を窒素気流下、室温で10分間撹拌した後、90℃に加熱し、6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、水を加え析出した沈殿物を濾取し、水で洗浄した。この固体を100℃で真空乾燥することでA−6を淡黄色粉末として870mg(47%)得た。
【0103】
(5)化合物A−7の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
化合物A−6:870mg(1.16mmol)
アセチルアセトン:0.21ml(2.02mmol)
炭酸ナトリウム:800mg(7.54mmol)
エトキシエタノール:25ml
反応溶液を窒素気流下、室温で20分間撹拌した後、100℃に加熱し、7時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、水を加え析出した沈殿物を濾取し、水で洗浄した。この固体を100℃で真空乾燥することでA−7を黄色粉末として640mg(65%)得た。
【0104】
(6)例示化合物(2)の合成
下記に示される試薬、溶媒を反応容器内に投入した。
化合物A−7:640mg(0.76mmol)
化合物A−5:527mg(1.90mmol)
グリセノール:15ml
反応溶液を窒素気流下、190℃に加熱し、6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後、水を加え析出した沈殿物を濾取し、水で洗浄した。この固体を100℃で真空乾燥することで例示化合物(2)を黄色粉末として715mg(93%)得た。
【0105】
質量分析法により、例示化合物(2)のM+である1021を確認した。
【0106】
また、H−NMR測定により、例示化合物(2)の構造を確認した。
H−NMR(CDCl,400MHz) σ(ppm):2.47(s、9H)、3.13(s、9H)、3.57(s、9H)、6.45(s、3H)、6.80(d、J=5.0Hz、3H)、7.31(d、J=5.0Hz、3H)、7.75(s、3H)、8.17(s、3H)
例示化合物(2)についてトルエン希薄溶液中での発光スペクトルを測定したところ、発光極大波長は467nmであった。
【0107】
尚、Tの測定はトルエン溶液(1×10−4 mol/L)を、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、スペクトルの立ち上がりの波長を示した。装置は日立製分光光度計F−4500を用いた。
【0108】
一方、例示化合物(2)について、化合物自体の吸光度及び発光面積から量子収率を算
出したところ0.71であった。尚、吸光度は、日本分光製、紫外可視分光光度計V−5
60を用いて測定した(1×10−4 mol/L)トルエン溶液における吸光スペクトルから評価した。
【0109】
(実施例2)
[例示化合物(10)の合成]
化合物A−3を以下の化合物A−8に変えて、実施例1と同様にして、例示化合物(10)を合成した。
【0110】
【化9】

【0111】
質量分析法により、例示化合物(10)のM+である973を確認した。
【0112】
また、H−NMR測定により、例示化合物(10)の構造を確認した。
H−NMR(CDCl,400MHz) σ(ppm):2.48(s、9H)、6.45(s、3H)、6.83(d、J=5.0Hz、3H)、7.27(d、J=5.0Hz、3H)、7.70(s、3H)、7.89(s、3H)
また実施例1と同様にして、例示化合物(10)についてトルエン希薄溶液中での発光スペクトルを測定したところ発光極大波長は、468nmであった。
【0113】
(実施例3)
[例示化合物(18)の合成]
化合物A−3を以下の化合物A−9に変えて、実施例1と同様にして、例示化合物(18)を合成した。
【0114】
【化10】

【0115】
質量分析法により、例示化合物(18)のM+である1057を確認した。
【0116】
また実施例1と同様にして、例示化合物(18)についてトルエン希薄溶液中での発光スペクトルを測定したところ発光極大波長は469nmであった。
【0117】
(実施例4)
本実施例では、基板上に順次陽極/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0118】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。
【0119】
このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
正孔輸送層(40nm) A−10
電子阻止層(10nm) A−11
発光層(30nm) ホスト材料1:A−12、ゲスト材料:例示化合物(2)(10wt%)
正孔阻止層(10nm) A−13
電子輸送層(30nm) A−14
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0120】
【化11】

【0121】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0122】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、発光輝度500cd/m時の印加電圧を測定したところ、4.0Vであった。発光効率は12.2lm/Wであり、青色の発光が観測された。
【0123】
(実施例5)
ゲスト材料を例示化合物(10)に換えた以外は実施例4と同様にして有機発光素子を作成した。
【0124】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、発光輝度500cd/m時の印加電圧を測定したところ、4.1Vであった。発光効率は12.0lm/Wであり、青色の発光が観測された。
【0125】
以上のように本発明に係る有機金属錯体は、青領域の光を発し、発光効率が高い。そのため、有機発光素子に用いた場合、発光効率が高い有機発光素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0126】
8 TFT素子
11 陽極
12 有機化合物層
13 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とする有機金属錯体。
【化1】


一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはアルキル基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記アルキル基は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。
一般式[1]におけるスルホン基とエーテル基とが結合し5員環又は6員環を形成してもよい。
【請求項2】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置される有機化合物層とを有し、前記有機化合物層は請求項1に記載の有機金属錯体を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層は発光層を有し、前記発光層はホスト材料とゲスト材料とを有し、
前記ゲスト材料は前記有機金属錯体であることを特徴とする請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
複数の画素を有し、前記画素は請求項2または3に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項5】
画像情報を入力するための入力部と画像を出力するための表示部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項2または3に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする画像出力装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたインバータ回路とを有することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−28757(P2013−28757A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166968(P2011−166968)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】