説明

有機電界発光素子、表示装置、および電子機器

【課題】寿命特性が良好でダークスポットや輝点の発生のない信頼性に優れた有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】複素環化合物を用いて構成された電子輸送層7cと、金属材料を用いて構成された陰極11と、電子輸送層7cと陰極11との間に挟持された遷移金属錯体層9とを備えた有機電界発光素子1である。遷移金属錯体層9を構成する遷移金属錯体の中心金属は、配位数2以上である。遷移金属錯体層9は、膜厚10nm以下が好ましく、さらに好ましくは膜厚2nm以下である。電子輸送層7cを構成する複素環化合物は含窒素環化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、表示装置、および電子機器に関し、特には陰極側から光取り出しを行なう構成に好適な有機電界発光素子、これを用いた表示装置および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence)を利用した有機電界発光素子(いわゆる有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層を備えた有機発光機能層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。このような有機電界発光素子においては、発光特性の向上と寿命特性の向上とを図るために、様々な層構造が検討されている。
【0003】
例えば、陰極における有機発光機能層側の界面には、電子注入層を設けることにより陰極から発光層への電子の注入効率を向上させることが提案されている。このような電子注入層としては、フッ化リチウム(LiF)のような無機材料の他、リチウムキノリノール錯体(Liq)等を用いることが提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−173779号公報(段落0048参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで有機電界発光素子は、有機発光機能層を構成する有機材料が、水分や酸素との反応によって劣化し易いため、有機電界発光素子全体を窒化シリコン等の無機材料からなる保護膜で覆うことで水分や酸素の浸入を防止している。しかしながら、このような構成においては、保護膜−有機電界発光素子間に応力が発生し易く、有機発光機能層と陰極との間の剥がれによる寿命特性の劣化、ダークスポットや輝点等の不具合の発生を招く要因となっている。
【0006】
そこで本発明は、寿命特性が良好でダークスポットや輝点の発生のない信頼性に優れた有機電界発光素子を提供すること、さらにはこれを用いた表示装置および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の有機電界発光素子は、複素環化合物を用いて構成された電子輸送層と、金属材料を用いて構成された陰極との間に、遷移金属錯体層を挟持させた構成である。
【0008】
このような構成の有機電界発光素子では、電子移動度が低い遷移金属錯体層を電子輸送層−陰極間に設けたにもかかわらず、これを設けていない素子と比較して、寿命特性が良好でダークスポットや輝点の発生が抑制されていることが確認された。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、寿命特性が良好でダークスポットや輝点の発生が防止され、信頼性に優れた有機電界発光素子を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態の有機電界発光素子の断面図である。
【図2】実施形態の表示装置の回路構成の一例を示す図である。
【図3】実施形態の表示装置における主要部の断面構成の一例を示す図である。
【図4】本発明が適用される封止された構成のモジュール形状の表示装置を示す構成図である。
【図5】本発明が適用されるテレビを示す斜視図である。
【図6】本発明が適用されるデジタルカメラを示す図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。
【図7】本発明が適用されるノート型パーソナルコンピュータを示す斜視図である。
【図8】本発明が適用されるビデオカメラを示す斜視図である。
【図9】本発明が適用される携帯端末装置、例えば携帯電話機を示す図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図10】遷移金属錯体層の膜厚に対する電流効率および寿命のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の各実施の形態を以下の順序で説明する。
1.有機電界発光素子の構成
2.表示装置の構成
3.電子機器の構成
【0012】
≪1.有機電界発光素子の構成≫
図1は、本発明の有機電界発光素子を模式的に示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子1は、基板3上に、陽極5および有機発光機能層7がこの順に積層され、さらに遷移金属錯体層9を介して陰極11が積層された構成となっている。このうち有機発光機能層7は、陽極5側から順に、例えば正孔注入/輸送層7a、発光層7b、および電子輸送層7cを積層してなるものである。また陰極11上は、無機材料からなる保護膜(図示省略)で覆われている。
【0013】
本発明においては、複素環化合物を用いて構成された電子輸送層7cと、金属材料を用いて構成された陰極11との間に、遷移金属錯体層9を挟持させたところに特徴がある。以下においては、このような積層構成の有機電界発光素子1が、基板3と反対側の金属材料を用いて構成された陰極11側から光を取り出す上面発光型の素子として構成されていることとし、この場合の各層の詳細を基板3側から順に説明する。
【0014】
<基板>
基板3は、その一主面側に有機電界発光素子1が配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられるこの中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。また、上部から光を取り出すトップエミッションの構造では、基板そのものに光透過性は必要なく、例えばSi基板を用いても良く、アクティブ素子の場合には、Si基板上に直接アクティブ素子を作り込み使用することも可能である。
【0015】
<陽極>
陽極5には、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブテン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)の金属及びその合金さらにはこれらの金属や合金の酸化物等、または、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、ITO(インジウムチンオキシド)、InZnO(インジウ亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等が、単独または混在させた状態で用いられる。
【0016】
また、陽極5は、光反射性に優れた第1層と、この上部に設けられた光透過性を有すると共に仕事関数の大きい第2層との積層構造であっても良い。
【0017】
ここで、第1層は、主にアルミニウムを主成分とする合金を用いることが好ましい。その副成分は、主成分であるアルミニウムよりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含むものでも良い。このような副成分としては、ランタノイド系列元素が好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は、大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、かつ陽極のホール注入性も満足する。また副成分として、ランタノイド系列元素の他に、シリコン(Si)、銅(Cu)などの元素を含んでも良い。
【0018】
第1層を構成するアルミニウム合金層における副成分の含有量は、例えば、アルミニウムを安定化させるNdやNi、Ti等であれば、合計で約10wt%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム合金層においての反射率を維持しつつ、有機電界発光素子の製造プロセスにおいてアルミニウム合金層を安定的に保ち、さらに加工精度および化学的安定性も得ることができる。また、陽極5の導電性および基板3との密着性も改善することが出来る。
【0019】
また第2層は、アルミニウム合金の酸化物、モリブデンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、クロムの酸化物、およびタンタルの酸化物の少なくとも一つからなる層を例示できる。ここで、例えば、第2層が副成分としてランタノイド系元素を含むアルミニウム合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)である場合、ランタノイド系元素の酸化物の透過率が高いため、これを含む第2層の透過率が良好となる。このため、第1層の表面において、高反射率を維持することが可能である。さらに、第2層は、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電層であっても良い。これらの導電層は、陽極5の電子注入特性を改善することができる。
【0020】
また陽極5は、基板11と接する側に、陽極5と基板3との間の密着性を向上させるための導電層を設けて良い。このような導電層としては、ITOやIZOなどの透明導電層が挙げられる。
【0021】
そして、この有機電界発光素子1を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極5は画素毎にパターニングされ、基板3に設けられた駆動用の薄膜トランジスタに接続された状態で設けられている。またこの場合、陽極5の上には、ここでの図示を省略したが絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から各画素の陽極5の表面が露出されるように構成されていることとする。
【0022】
<正孔注入/輸送層>
正孔注入/輸送層7aは、発光層7bへの正孔注入効率を高めるためのものである。このような正孔注入/輸送層7aは、正孔注入層上に正孔輸送層を積層した構成であっても良く、それぞれの層がさらに積層構造であっても良い。これらの層を構成する材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
【0023】
また、正孔注入/輸送層7aのさらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−-テトラシアノ - 2,3,5,6- テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
<発光層>
発光層7bは、陽極5と陰極11とに対する電圧印加時に、陽極5側から注入された正孔と、陰極11側から注入された電子とが再結合する領域である。本実施形態においては、従来公知のものから任意のものを選択して用いることができる。このような発光材料としては、例えば、多環縮合芳香族化合物、ベンゾオキサゾール系、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキサノイド化合物、ジスチリルベンゼン系化合物などの薄膜形成性の良い化合物を用いることができる。ここで、上記多環縮合芳香族化合物としては、例えば、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン骨格を含む縮合環発光物質や、約8個の縮合環を含む他の縮合環発光物質などを挙げることができる。具体的には、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン、4,4’−(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニルなどを用いることができる。この発光層は、これらの発光材料の1種又は2種以上からなる1層で構成されてもよいし、あるいは該発光層とは別種の化合物からなる発光層を積層したものであってもよい。
【0025】
<電子輸送層>
電子輸送層7cは、電子を発光層7bに輸送するためのものである。特に本発明においては、電子輸送層7cが複素環化合物を用いて構成され、複素環を構成するヘテロ原子として窒素を用いた含窒素環化合物であることとする。このような含窒素複素環化合物としては、例えば、キノリン、フェナントロリン、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ベンゾイミダゾ−ルまたはこれらの誘導体や金属錯体が挙げられる。
【0026】
具体的には、下記化合物(N-1)〜(N-13)に示すベンゾイミダゾール誘導体、下記化合物(N-14)に示すトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3 )、下記化合物(N-15)〜(N-22)に示す1,10−フェナントロリン誘導体などが例示される。この他にも、アクリジン誘導体、スチルベン誘導体などが例示される。
【0027】
【化1−1】

【0028】
【化1−2】

【0029】
<遷移金属錯体層>
遷移金属錯体層9は、中心金属として遷移金属を用いた金属錯体からなる層であって、薄膜状として設けられている。中心金属は配位数2以上であることとし、このような中心金属として用いられる遷移金属としては、第一遷移金属(3d遷移元素)、第二遷移金属(4d遷移元素)、第三遷移元素(4f遷移元素)が挙げられる。このような遷移金属錯体層9の膜厚は、10nm以下であることが好ましく、さらには2nm以下であることが好ましい。このような薄膜として遷移金属錯体層9を配置することにより、陰極11から有機電界発光機能層7側への電子注入量を維持することが重要である。
【0030】
このような遷移金属錯体層9を構成する遷移金属錯体の具体例としては、下記化合物(A-1)〜(A-19)が例示される。
【0031】
【化2−1】

【0032】
【化2−2】

【0033】
<陰極>
陰極11は、金属材料を用いて構成されたもので、光透過性を有していることとする。またこの有機電界発光素子1が共振器構造で構成されている場合であれば、陰極11は半透過半反射性を有する構成であることとする。これにより発光層7bで発生した光を色純度良好に有効に取りだすことが可能になる。
【0034】
このような陰極11は、有機発光機能層7側から順に、電子注入層としての第1層と、金属陰極層としての第2層とを積層させた2層構造であっても良く、金属陰極層のみの単層構造であってもよい。長寿命化の観点からは、金属陰極層のみの単層で構成することが好ましい。
【0035】
電子注入層を設ける場合、この電子注入層は、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(Li2O)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2CO3)、さらにはこれらの酸化物及び複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層は、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。さらに電子注入層は、以上のような無機材料に限定されることはなく、リチウムキノリノール錯体(Liq)等の有機材料を用いて構成されても良い。
【0036】
金属陰極層は、例えば、MgAgなどの光透過性を有する層を用いた薄膜により構成されている。この金属陰極層は、さらにアルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層であっても良い。この場合には、さらに第3の層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。
【0037】
このような陰極11は、この有機電界発光素子1を用いて構成される表示装置がアクティブマトリックス方式である場合、有機発光機能層7等によって陽極5に対して絶縁された状態で基板3に形成され、各画素の共通電極として用いられる。
【0038】
以上のように構成された有機電界発光素子1に印加する電流は、通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子が破壊されない範囲内であれば特に制限はないが、有機電界発光素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
【0039】
また、この有機電界発光素子1が、共振器構造となっている場合、上述のように半透過半反射性を有して構成された陰極11の光反射面と、陽極5側の光反射面との間で多重干渉させた発光光が陰極11側から取り出される。この場合、陽極5側の光反射面と陰極11側の光反射面との間の光学的距離は、取り出したい光の波長によって規定され、この光学的距離を満たすように各層の膜厚が設定されていることとする。そして、このような上面発光型の有機電界発光素子においては、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
【0040】
<保護膜>
さらに、ここでの図示を省略した保護膜は、大気中の水分や酸素等による有機材料の劣化を防止するためパッシベーション層として設けられている。保護膜には、窒化珪素(代表的には、Si34)、酸化珪素(代表的には、SiO2)、窒化酸化珪素(SiNxy:組成比X>Y)、酸化窒化珪素(SiOxy:組成比X>Y)、またはDLC(Diamond like Carbon)のような炭素を主成分とする無機材料膜や、CN(Carbon Nanotube)膜が用いられる。これらの膜は、単層または積層させた構成とすることが好ましい。なかでも、窒化物からなる保護膜は膜質が緻密であり、有機電界発光素子1に悪影響を及ぼす水分、酸素、その他不純物に対して極めて高いブロッキング効果を有するため好ましく用いられる。
【0041】
以上のように構成された本発明の有機電界発光素子1は、電子輸送層7cと陰極11との間に遷移金属錯体層9を挟持させた構成を特徴としている。このような構成の有機電界発光素子1によれば、以下の実施例で示すように、寿命特性の向上を図ると共にダークスポットや輝点の発生を抑制可能であることが確認された。
【0042】
通常、遷移金属錯体は、正孔輸送材料または発光性のドーパントして用いられることが多く電子移動度が低い材料である。しかしながら遷移金属錯体層9は、有機材料からなる電子輸送層7cと、陰極11との間の密着性を改善する層として機能する。このため、無機材料からなる保護膜で覆うことによって有機電界発光素子1内に内部応力が発生した場合であっても、遷移金属錯体層9によってこの内部応力を緩和することができる。これにより、有機発光機能層7−金属を用いた陰極11間の剥がれや、陰極11を構成する金属層内出の凝集などの発生を防止することができ、素子の長期駆動安定性が改善されるのである。
【0043】
またこのような遷移金属錯体層9は、10nm以下、好ましくは2nm以下の薄膜とし、電子輸送層7cに隣接して設けているため、有機電界発光素子1のキャリアバランスを崩し短寿命化原因となっていた過剰電子注入を防止することが可能になる。これと同時に、遷移金属錯体層9を設けたことによる電子輸送能の低下が防止されるため、同等の効率を維持しながら長寿命化することが可能となるのである。
【0044】
また遷移金属錯体層9は、配位数が2以上であってある程度の大きさの分子量が確保される。このため、駆動中に分子の拡散が起こることがなく、駆動時の状態変化が押さえられて長寿命化が達成されるのである。これに対して、陰極−電子輸送層界面にアルカリ金属・アルカリ土類金属のハロゲン化物・酸化物等の層を設けた従来構成では、アルカリ金属のような分子量が小さくい金属が駆動中に拡散しやすく、駆動時の状態変化による長寿劣化が生じていたのである。
【0045】
尚、以上の実施形態においては、有機電界発光素子が上面発光型である場合を例示して本発明を詳細に説明した。しかしながら、本発明の有機電界発光素子は、上面発光型への適用に限定されるものではなく、陽極5と陰極11との間に少なくとも発光層7bを有する有機発光機能層7を狭持してなる構成に広く適用可能である。したがって、基板3側から順に、陰極11、遷移金属錯体層9、有機発光機能層7、陽極5を順次積層した構成のものや、基板3側に位置する電極(陰極または陽極としての下部電極)を透明材料で構成し、基板と反対側に位置する電極(陰極または陽極としての上部電極)を反射材料で構成することによって、下部電極側からのみ光を取り出すようにした、下面発光型(いわゆる透過型)の有機電界発光素子にも適用可能である。
【0046】
≪2.表示装置の構成≫
<回路構成>
図2は、上述した有機電界発光素子1を用いて構成される表示装置の一例を示す回路構成図である。ここでは、有機電界発光素子1を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置21に本発明を適用した実施形態を説明する。
【0047】
この図に示すように、この表示装置21の基板3上には、表示領域3aとその周辺領域3bとが設定されている。表示領域3aは、複数の走査線23と複数の信号線24とが縦横に配線されており、それぞれの交差部に対応して1つの画素が設けられた画素アレイ部として構成されている。また周辺領域3bには、走査線23を走査駆動する走査線駆動回路25と、輝度情報に応じた映像信号(すなわち入力信号)を信号線24に供給する信号線駆動回路26とが配置されている。
【0048】
走査線23と信号線24との各交差部に設けられる画素回路は、例えばスイッチング用の薄膜トランジスタTr1、駆動用の薄膜トランジスタTr2、保持容量Cs、および図1を用いて説明した構成の有機電界発光素子1で構成されている。そして、走査線駆動回路25による駆動により、スイッチング用の薄膜トランジスタTr1を介して信号線24から書き込まれた映像信号が保持容量Csに保持され、保持された信号量に応じた電流が駆動用の薄膜トランジスタTr2から有機電界発光素子ELに供給され、この電流値に応じた輝度で有機電界発光素子1が発光する。尚、駆動用の薄膜トランジスタTr2と保持容量Csとは、共通の電源供給線(Vcc)27に接続されている。
【0049】
尚、以上のような画素回路の構成は、あくまでも一例であり、必要に応じて画素回路内に容量素子を設けたり、さらに複数のトランジスタを設けて画素回路を構成しても良い。また、周辺領域3bには、画素回路の変更に応じて必要な駆動回路が追加される。
【0050】
<断面構成>
図3には、上記表示装置21の表示領域における主要部の断面構成の第1の例を示す。
【0051】
有機電界発光素子1が設けられる基板3の表示領域には、ここでの図示を省略したが、上述した画素回路を構成するように駆動トランジスタ、書き込みトランジスタ、走査線、および信号線が設けられ(図2参照)、これらを覆う状態で絶縁膜が設けられている。
【0052】
この絶縁膜で覆われた基板3上に、有機電界発光素子1として、赤色発光素子1R、緑色発光素子1G、および青色発光素子1Bが配列形成されている。各有機電界発光素子1R、1G、1Bは、基板3と反対側から光を取り出す上面発光型の素子として構成される。
【0053】
各有機電界発光素子1R,1G,1Bの陽極5は、素子毎にパターン形成されている。各陽極5は、基板3の表面を覆う絶縁膜に形成された接続孔を介して画素回路の駆動トランジスタに接続されている。
【0054】
各陽極5は、その周縁部が絶縁膜13で覆われており、絶縁膜13に設けた開口部分に陽極5の中央部が露出された状態となっている。そして、陽極5の露出部分を覆う状態で、有機発光機能層7がパターン形成され、各有機発光機能層7を覆う共通層として遷移金属錯体層9および陰極11が設けられた構成となっている。また、この陰極11上を覆う状態で、上述したパッシベーション層としての保護膜15が設けられている。尚、遷移金属錯体層9は、有機発光機能層7と同様にパターン形成されていても良い。さらに有機発光機能層7は、少なくとも発光層7bが各有機電界発光素子1R,1G,1B毎にパターン形成されており、他の層は共通層として形成されていても良い。
【0055】
ここで、赤色発光素子1R、緑色発光素子1G、および青色発光素子1Bを構成する陽極5〜陰極11までの各層は、真空蒸着法、イオンビーム法(EB法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタ法、Organic Vapor Phase Deposition(OVPD)法などのドライプロセスによって形成できる。
【0056】
また、有機層であれば、以上の方法に加えてレーザー転写法、スピンコート法、ディッピング法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法などの塗布法、インクジェット法、オフセット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法などの印刷法などのウエットプロセスによる形成も可能であり、各有機層や各部材の性質に応じて、ドライプロセスとウエットプロセスを併用しても構わない。
【0057】
このうち特に、各有機電界発光素子1R,1G,1B毎にパターン形成された有機発光機能層7(さらには遷移金属錯体層9)は、例えばマスクを用いた蒸着法や転写法によって形成される。
【0058】
また、以上例においては、アクティブマトリックス型の表示装置に本発明を適用した実施形態を説明した。しかしながら、本発明の表示装置は、パッシブマトリックス型の表示装置への適用も可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0059】
以上説明した本発明に係る表示装置は、図4に開示したような、封止された構成のモジュール形状のものをも含む。例えば、画素アレイ部である表示領域3aを囲むようにシーリング部31が設けられ、このシーリング部31を接着剤として、透明なガラス等の対向部(封止基板33)に貼り付けられ形成された表示モジュールが該当する。この透明な封止基板33には、カラーフィルタ、保護膜、遮光膜等が設けられてもよい。尚、表示領域3aが形成された表示モジュールとしての基板3には、外部から表示領域3a(画素アレイ部)への信号等を入出力するためのフレキシブルプリント基板35が設けられていても良い。
【0060】
以上のような表示装置21は、上述した本発明構成としたことにより寿命特性の向上が図られると共にダークスポットや輝点の発生が抑制された有機電界発光素子1を用いて構成されたものであり、長期信頼性の向上や表示特性の向上が期待される。
【0061】
≪3.電子機器の構成≫
また以上説明した本発明に係る表示装置は、図5〜図9に示す様々な電子機器における表示部として設けられる。例えば、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラなど、電子機器に入力された映像信号、若しくは、電子機器内で生成した映像信号を表示するあらゆる分野の電子機器における表示部に適用することが可能である。以下に、本発明が適用される電子機器の一例について説明する。
【0062】
図5は、本発明が適用されるテレビを示す斜視図である。本適用例に係るテレビは、フロントパネル102やフィルターガラス103等から構成される映像表示画面部101を含み、その映像表示画面部101として本発明に係る表示装置を用いることにより作成される。
【0063】
図6は、本発明が適用されるデジタルカメラを示す図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。本適用例に係るデジタルカメラは、フラッシュ用の発光部111、表示部112、メニュースイッチ113、シャッターボタン114等を含み、その表示部112として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0064】
図7は、本発明が適用されるノート型パーソナルコンピュータを示す斜視図である。本適用例に係るノート型パーソナルコンピュータは、本体121に、文字等を入力するとき操作されるキーボード122、画像を表示する表示部123等を含み、その表示部123として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0065】
図8は、本発明が適用されるビデオカメラを示す斜視図である。本適用例に係るビデオカメラは、本体部131、前方を向いた側面に被写体撮影用のレンズ132、撮影時のスタート/ストップスイッチ133、表示部134等を含み、その表示部134として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0066】
図9は、本発明が適用される携帯端末装置、例えば携帯電話機を示す図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。本適用例に係る携帯電話機は、上側筐体141、下側筐体142、連結部(ここではヒンジ部)143、ディスプレイ144、サブディスプレイ145、ピクチャーライト146、カメラ147等を含み、そのディスプレイ144やサブディスプレイ145として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【実施例1】
【0067】
本発明の具体的な実施例および比較例の有機電界発光素子の製造手順を、図1を参照して説明し、次にこれらの評価結果を説明する。
【0068】
<実施例1〜7および比較例1〜9>
【0069】
先ず、30mm×30mmのガラス板からなる基板3上に、陽極5として膜厚が190nmのAg合金(反射層)上に12.5nmのITO透明電極を積層した上面発光用の有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0070】
次に、真空蒸着法により、有機発光機能層7の正孔注入層7aとして、m−MTDATAよりなる膜を12nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、m−MTDATAは、4、4'、4”−トリス(フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミンである。
【0071】
次いで、正孔輸送層7aとして、α−NPDよりなる膜を12nmの膜厚(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)で形成した。ただし、α−NPDは、N、N’−ビス(1−ナフチル)−N、N’−ジフェニル[1、1’-ビフェニル]−4、4’―ジアミンである。
【0072】
次いで、発光層7bとして、9-(2-ナフチル)-10-[4-(1-ナフチル)フェニル]アントラセンをホストにし、ドーパントとして青の発光ドーパント化合物であるN,N,N',N'−テトラ(2-ナフチル)−4,4'‐ジアミノスチルベンを5%ドープした膜を30nmの膜厚で成膜した。
【0073】
次に、下記表1に示すように、実施例1〜7および比較例1〜9において、各電子輸送層7cを各化合物(N-1),…を用いて形成し、各遷移金属錯体層9を各化合物(A-1),…を用いて形成し、さらに各陰極11をそれぞれの材料を用いて形成した。尚、比較例9の電子注入層を構成するLiqは、下記に示すリチウム錯体である。
【0074】
【表1】

【0075】
【化3】

【0076】
また、陰極11上には窒化シリコンからなる保護膜を、原料ガスとしてアンモニア(NH3)ガスとシラン(SiH4)ガスとを用いたプラズマCVD法によって2μmの膜厚で成膜した。またさらに、UV硬化樹脂を介して保護膜上にガラス基板を接着し、上面発光の各有機電界発光素子1を得た。
【0077】
<評価結果>
以上の実施例1〜7および比較例1〜9で作製した各有機電界発光素子について、電流密度10mA/cm2での駆動時における駆動電圧(V)および電流効率(cd/A)を測定した。また、50℃、duty25%で50mA/cm2の負荷の定電流駆動を行い、初期輝度1が0.5にまで半減する時間を寿命(hr)として測定した。さらに、50℃、湿度80%の環境下において、有機電界発光素子を200時間保存した場合の発光面を観察し、発生したダークスポット数および発生した輝点(電流集中点)数を測定した。以上の測定結果を上記表1に合わせて示す。
【0078】
上記表1に示すように、実施例1〜7の有機電界発光素子は、本発明を適用した有機電界発光素子であり、複素環化合物を用いて構成された電子輸送層7cと、金属材料を用いて構成された陰極11との間に、遷移金属錯体層9を設けた構成となっている。これに対して、比較例1〜9の有機電界発光素子は本発明の適用がない。
【0079】
この表1から明らかなように、本発明が適用された実施例1〜7の全ての有機電界発光素子は、本発明の適用がない比較例1〜9のうち駆動電圧が低く電流効率が高い比較例1,2と同程度に駆動電圧および電流効率が保たれている。しかも、実施例1〜7の全ての有機電界発光素子は、比較例1〜9の有機電界発光素子と比較して長寿命であり、かつダークスポットや輝点の発生も抑えられていることが確認された。
【0080】
<実施例8〜14>
先の実施例1〜7と同様にして発光層7bまでを形成した。その後、電子輸送層7cを下記化合物(N-10)を用いて膜厚15nmで形成し、遷移金属錯体層9を下記化合物(A-3)を用いて各0.1nm〜25nmの各膜厚で形成した。次に、膜厚1nmのフッ化リチウム(LiF)上に膜厚12nmのMgAgを積層成膜した陰極11を形成した。
【0081】
【化4】

【0082】
その後は実施例1〜7と同様に、保護膜を形成し、さらにガラス基板を接着して上面発光の各有機電界発光素子1を得た。
【0083】
以上の実施例8〜14で形成した各有機電界発光素子について、電流密度10mA/cm2での駆動時における電流効率(cd/A)を測定した。また、50℃、duty25%で50mA/cm2の負荷の定電流駆動を行い、初期輝度1が0.5にまで半減する時間を寿命(hr)として測定した。
【0084】
以上の結果を、下記表2に示す。また図10には、遷移金属錯体層の膜厚に対する電流効率および寿命の測定結果のグラフを示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2および図10のグラフに示すように、電子輸送層と陰極との間に挟持される遷移金属錯体層の膜厚を10nm以下とすることにより、1500時間以上の半減寿命と7.0cd/A以上の電流効率を達成可能で有ることが確認された。また、遷移金属錯体層の膜厚を2nm以下とすることにより、1700時間以上の半減寿命と8.5cd/A以上の電流効率を達成可能で有ることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
1…有機電界発光素子、3…基板、7c…電子輸送層、9…遷移金属錯体層、11…陰極、15…保護膜、21…表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素環化合物を用いて構成された電子輸送層と、
金属材料を用いて構成された陰極と、
前記電子輸送層と前記陰極との間に挟持された遷移金属錯体層とを備えた
有機電界発光素子。
【請求項2】
前記遷移金属錯体層を構成する遷移金属錯体の中心金属は、配位数2以上である
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記遷移金属錯体層は、膜厚10nm以下である
請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記遷移金属錯体層は、膜厚2nm以下である
請求項1〜3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記電子輸送層を構成する複素環化合物は含窒素環化合物である
請求項1〜4の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記陰極は、半透過半反射性を有している
請求項1〜5の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記陰極上に無機材料からなる保護膜が設けられた
請求項1〜6の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
複素環化合物を用いて構成された電子輸送層と金属材料を用いて構成された陰極との間に遷移金属錯体層が設けられた有機電界発光素子を、基板上に配列形成してなる
表示装置。
【請求項9】
複素環化合物を用いて構成された電子輸送層と金属材料を用いて構成された陰極との間に遷移金属錯体層が設けられて有機電界発光素子を、基板上に配列形成してなる
電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−165977(P2010−165977A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8708(P2009−8708)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】